2026年05月10日
ザ・コラール 希望を紡ぐ歌 原題:The Choral
監督:ニコラス・ハイトナー
脚本:アラン・ベネット
出演:レイフ・ファインズ、ロジャー・アラム、マーク・アディ、アラン・アームストロング、ロバート・エムズ、サイモン・ラッセル・ビール
1916年、第一次世界大戦下のイギリス北部ヨークシャー。徴兵で多くの団員を失ったアマチュア合唱団。指揮者も出征し、存続の危機に瀕していた。若者や町の人々を迎え入れ、“歌うこと”を通して再び心を結び直そうとする。新たな指揮者に選ばれたのは、敵国ドイツで活動していた医師ヘンリー・ガスリー。無神論者の彼への町の人たちに根強く残る偏見と不信を背負いながら、彼は合唱団の再建に取り組む。退役軍人、売春婦、敬虔なボランティア、徴兵を控えた少年たちなどの寄せ集めの団員たちと向き合い、熱心な指導のもとで、失われたつながりと希望を取り戻していく。やがて彼らは、前代未聞の“ある挑戦”へと踏み出す。しかし、再び徴兵通知が届き始め、ようやく芽生えた平穏は、戦争の影に呑み込まれていく…
曲をどうするかの相談で、これまで歌っていた「マタイ受難曲」のバッハは“汚いドイツ人”。ベートーベンもドイツ人、ヘンデルも英国で亡くなったけどドイツ人。メンデルスゾーンもドイツ人でしかもユダヤ人。ブラームスもドイツ人… そうして決まったのがイギリスの音楽家エルガーのオラトリオ「ゲロンティアスの夢」。「煉獄の魂たち」の混声合唱を、戦地の塹壕を煉獄に例えて、兵士が銃を携えて塹壕に潜んだ姿で歌うという大胆な演出。イギリス国教会は、16世紀の宗教改革で煉獄の教義を明確に否定しているのですが、エルガーは煉獄を認めるカトリック教徒。
片腕を無くして帰還した兵士が、「塹壕はまさに地獄」と語ります。
当時のイギリスは、階級の違いが色濃かった時代。青年たちが語る「工場で死ぬか、戦争で死ぬか」の言葉が胸に刺さりました。
戦況が激しくなり、ついに「すべての成人男性徴兵」に法改正。召集令状や戦死報告を各家に配達していた少年たちも、成人年齢に達して徴兵検査を受けることになります。戦地に赴く前にと、好きな女性に告白して迫る青年、憧れの年増の売春婦のところに行く青年… 未来ある若者たちを、こんな思いにさせてしまう戦争が、世界からなくなりますように! (咲)
2024年/イギリス・アメリカ/英語/カラー/ビスタ/5.1ch/113分
日本語字幕:斎藤敦子
配給:ロングライド
公式サイト:https://longride.jp/choral/
★2026年5月15日(金) TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
2026年04月19日
オールド・オーク 原題:The Old Oak
(C)Sixteen Oak Limited, Why Not Productions, Goodfellas, Les Films du Fleuve, British Broadcasting Corporation, France 2 Cinéma and The British Film Institute 2023
監督:ケン・ローチ
脚本:ポール・ラヴァティ
出演:
TJ ・バランタイン:デイヴ・ターナー
ヤラ:エブラ・マリ
ローラ:クレア・ロッジャーソン
チャーリー:トレヴァー・フォックス
2016年、イングランド北東部のとある町に、シリアからの難民家族を載せた車が着く。
車の中から町の人たちにカメラを向けていた若いシリア女性ヤラ。その姿を見た町の男がカメラを奪い壊してしまう。居合わせたパブ「オールド・オーク」の店主 TJ・ バランタインが助けの手を差し伸べてくれる。町で唯一のパブには、今は使っていない奥の部屋があって、そこにはかつて炭鉱で賑わった時代の写真が飾ってあった。事故があって炭鉱は閉じられてしまい町は活気を失っていた。TJの父は炭鉱事故で亡くなったという。
ヤラから、荒れ果てた奥の部屋を整備して、町の引き籠りの子どもたちやシリア難民のための無料食堂を開くことを提案され、町の人たちも協力して週に数回、美味しい料理振る舞う。だが、ある日、厨房が使えなくなる事故が起こる・・・
シリアからの難民受け入れを快く思わない人たちが、「アリババと40人の盗賊かよ」などと心無い言葉をあびせます。「国に帰れ!」と言われたヤラ。「帰れるものなら帰りたい」と返します。誰しも好んで難民になったわけではありません。ヤラやシリアの家族が語るシリアの実情に涙が出ます。映画のエンドロールには、匿名でシリアのことを語ってくださった方たちへの謝辞も述べられていました。これまで一貫して社会の弱者に寄り添う映画を作り続けてきたケン・ローチ監督。また一つ、心に沁みる作品を届けてくださいました。言葉や民族や宗教の違う人たちの共生についても考えさせてくれました。これを最後のメッセージと言わずに、まだまだ作り続けてほしいです。(咲)
オーク(oak)はドングリをつける木で、樹形や板に加工しても美しく、ワインの樽や家具、船の建造に使われます。TJが守ってきた店の名前が「オールド・オーク」。この映画では、町の人々のよりどころでもあります。
街がさびれつつあるところに、多くの難民が加わり、自分たちより優遇されているのではと疑心暗鬼にかられます。街の子どもが寄付の品々を欲しそうに眺めているのに胸をつかれました。家族をなくして心を閉じていたTJがヤラと交流することで、少しずつ変わっていきます。古くからの友人は、自分たちよりも難民を選んだ気がしてしまったのでしょう。生活が苦しく、気持ちに余裕がないことがこの諍いの底にあります。
2016年を舞台にした物語ですが、10年経った今状況は良くなっているでしょうか?(白)
2023/イギリス、フランス、ベルギー/英語・アラビア語/113分/カラー
配給:ファインフィルムズ
後援:ブリティッシュ・カウンシル
公式サイト:https://oldoak-movie.com/
★2026年4月24日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館他全国ロードショー
ツイッギー 原題:Twiggy
監督:サディ・フロスト(『マリー・クワント スウィンギング・ロンドンの伝説』)
出演:ツイッギー、ダスティン・ホフマン、ブルック・シールズ、ポール・マッカートニー、ステラ・マッカートニー、シエナ・ミラー
小柄で華奢、ツイッギー(小枝)の愛称で一世風靡した元祖スーパーモデル。マリー・クワントのミニスカートを着こなして「ミニの女王」と呼ばれ、世界中でミニスカートブームを巻き起こし、1967年10月に初来日した時はビートルズと並ぶほど日本を熱狂の渦に巻き込んだ。VOGUEはじめ数々のファッション誌の表紙も飾り、著名な写真家やデザイナーを魅了。デヴィッド・ボウイの歌詞にも登場し、アルバムのジャケットも飾った。女性のキャリアを切り拓き、結婚、出産、別れを経て、今もなお輝き続けている。
そんな1960年代を象徴する存在であるツイッギーの人生と魅力をひもとく、初の公認ドキュメンタリー。ブルック・シールズやダスティン・ホフマン、ポール・マッカートニーらツイッギーと親交のある各界のスターたちも出演。
私がツイッギーに持っていたイメージは、ボーイッシュなショートヘアに人形のようなアイメイクで、感情を表さない女性。どこかぶっ飛んだ雰囲気でした。1960年代当時のことは、よく覚えていますが、その後の彼女のことは全く知りませんでした。
サディ・フロスト監督がツイッギーのpodcast 番組「Tea with Twiggy」にゲスト出演した時に、「次の作品は?」と聞かれ、「あなたのドキュメンタリー」と冗談で答えたことから生まれた映画と、解説にあって、冠番組も持っているのだと驚いた次第。
16 歳の時に彗星のごとくデビューした彼女がモデルとして活動したのは、実はたった4年間。ケン・ラッセル監督に出会い、ミュージカル映画『ボーイフレンド』(71)に出演。第29回ゴールデングローブ賞 新人女優賞と映画部門主演女優賞を受賞しています。自分が本当にやりたかったのは演技だと気づかせてくれたとツィッギー。歌手としても活躍しています。2019年にはその功績が称えられ、大英帝国勲章も授与。
今年、デビュー60周年。76歳の今も現役! 自分らしく生きる彼女に元気を貰いました。(咲)
来日したときの大騒ぎは覚えていますが、(咲)さんと同じくその後女優として活躍していたとはこの作品で初めて知りました。そうそうたるスターたちとの交流にもへえ~と驚きましたが、世界でもトップクラスのモデルで屈託ない明るい性格、自分の意見もちゃんと持っているというのに印象が変わりました。
売れっ子のツィッギーを「コメディアン」の肩書のウディ・アレンがインタビューするシーンがありました。小馬鹿にしているのがまるわかりのアレンが「哲学者」について話を振ります。ツィッギーは正直に誰も知らない、と答え、「やっぱりな」という風のアレン。そこで「あなたは誰を知ってる?名前をあげて」と逆に質問されてアタフタするのがおかしいったら。ツィッギーの友人で美少女モデルから女優になったブルック・シールズの批判も痛快。(白)
2024年/97分/イギリス/英語/カラー/5.1ch/1.85:1
日本語字幕:クアーク亮子
配給:アンプラグド
公式サイト:https://unpfilm.com/twiggy/
★2026年4月24日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開
2026年04月09日
ハムネット 原題:Hamnet
監督・脚本:クロエ・ジャオ(『ノマドランド』)
出演:ジェシー・バックリー、ポール・メスカル、エミリー・ワトソン、ジョー・アルウィン
不朽の名戯曲「ハムレット」誕生に秘められた家族の物語
1580年イギリスの小さな村。貧しいラテン語教師ウィリアム・シェイクスピアは、森を愛する自由奔放なアグネスと出会う。2人は互いに惹かれ合い、情熱的な恋愛の末に結婚して3人の子供を授かるが、ウィリアムが遠く離れたロンドンで演劇のキャリアを模索する一方、アグネスは独りで子どもたちを守り家庭を支えていた。そんななか一家に大きな不幸が訪れ、かつて揺るぎなかった夫婦の絆が試されることになる――。
「ハムレット」といえば、「To be or not to be, that is the question」という台詞が、あまりにも有名ですが、思えば、「ハムレット」という戯曲の内容について、恥ずかしいことに、ほとんど知りません。
そして、シェイクスピアというと、よく見る肖像画のイメージしかありませんが、本作を観て、偉大な劇作家にも、愛する家族がいたのだと気づかせてくれました。離れて暮らしていても、深い絆で結ばれていたのだと。本作は、アイルランド出身の作家マギー・オファーレルが2020年に発表した同名の小説の映画化。手袋職人の息子で吟遊詩人のウィリアム・シェイクスピアが、鷹を扱うアグネスと出会い、恋をして結婚して、3人の子どもたち、スザンナと、双子のジュディスとハムネットに恵まれます。そのハムネットが11歳の時に亡くなったことが、戯曲「ハムレット」を作るきっかけになったというお話。実在の家族をフィクションを交えて描いた物語です。(咲)
◆第38回東京国際映画祭 クロージング作品として、2025年11月5日に上映された折の、クロエ・ジャオ監督舞台挨拶
クロエです。この映画を作りました! もうすぐ皆さんにご覧いただくことができます。
MC: これまでアメリカの大地や様々な土地で人々を撮ってこられました。今回は、16世紀のイギリスを舞台にされていますが、どんな人間の姿に惹かれて、この物語を撮られたのでしょうか?
監督:最初の4つの長編はなるべく遠くへ、広く世界のありとあらゆるところで水平線を追いかけてきました。『ハムネット』を作った私は、今までと違う40代の監督です。より内なる風景に目を向けました。一つのフレーム、一つのステージに制約し、自分の中に深く入り込むことをこの映画では目指しました。内なる風景のより深いところを探求しました。
MC: 『ハムネット』は、シェイクスピアという偉大な名前の陰にある家族の物語でもあります。400年以上前の出来事を描きながら、今を生きる私たちに通じるところがあると思います。監督ご自身はどのような普遍的な感情を描こうとされたのでしょうか?
監督:主に悲しみでしょうか。悲しみというのは人間の非常に自然な感情です。四季が移り変わり、人が生まれ、死ぬ。これは宇宙の自然な状態です。物事は永久に続かない。しかし我々は生と死のサイクルの一部であることを忘れてしまい、それに抵抗することで多くの苦しみが生まれます。悲しみにどう対峙するのか。悲しみが喜びと同様に私たちを結びつけます。
MC:ご覧になる観客には、どのように受け止めてもらいたいですか?
監督:わかりません。どんな感情を持たれてもかまいません。感じたいことを感じてほしいと思います。この映画は、ストーリーテリングの力を称えるものです。古くから、私たちの祖先は人間であるとう矛盾を語ってきました。愛をもって心を開く、しかしいつか愛を失って、死んでしまう。この人間であるということは、なんという矛盾でしょう。それをストーリーテリングで解決しています。私たちの仕事は聖なる仕事です。どうぞ楽しんでください。
2025年/イギリス/126分/G
字幕翻訳:風間綾、日本語字幕監修:河合祥一郎
配給:パルコ
公式サイト:https://hamnet-movie.jp/
★2026年4月10日(金)より全国公開
2026年01月15日
モディリアーニ! 原題:Modi:Three Days on the Wing of Madness
監督:ジョニー・デップ
脚本:ジャージー・クロモウロウスキ、マリー・オルソン・クロモロウスキ
原作:戯曲「モディリアーニ」(デニス・マッキンタイア)
出演:リッカルド・スカマルチョ、アントニア・デスプラ、ブリュノ・グエリ、ライアン・マクパーランド、スティーヴン・グレアム、ルイーザ・ラニエリ、アル・パチーノ
1916年、戦火のパリ。芸術家モディリアーニの人生を変えた激動の3日間。
カフェのガラス絵を派手な立ち回りで割ってしまったモディリアーニ。警察から逃げて、ミューズであり、裸体画のモデルでもある作家ベアトリス・ヘイスティングスのもとに帰る。絵がなかなか評価されず、3日後にはイタリアのリヴォルノに戻ると宣言するモディリアーニ。ベアトリスも、画家仲間のモーリス・ユトリロ、シャイム・スーティンも、引き留めるが決意は固い。友人であり画商のレオポルド・ズボロフスキに助言を求めると、コレクター、モーリス・ガニャに二日後に会わせるといわれる。ガニャから、絵は3枚で60フランしか出せないが、彫刻には5千フラン出すという・・・
細長い顔と首に細い目の女性は、見ればモディリアーニの絵とわかるものですが、モディリアーニがいつの時代にどんな人生を送った人物なのかは、恥ずかしながらまったく知りませんでした。
冒頭、「ユダヤ人で、名前を覚える価値もない男」と言われる場面がありました。ユダヤ系イタリア人と名乗るモディリアーニ。調べてみたら、両親はともにセファルディ・ユダヤ系のイタリア人とフランス人でした。先祖はイベリア半島にいたユダヤ人。
今でこそ、モディリアーニの絵は、美術史に残り、美術館にも飾られる価値あるものと認められていますが、存命中はほとんど評価されず、35歳という若さで亡くなったことを、本作をきっかけに知りました。
ところで、モディリアーニと親交のあったユトリロが、「入隊する」と発言している場面がありました。ユトリロは、1883年12月生まれ。30代半ばで兵役もありですが、実際には、招集されたものの、精神病によって兵役免除となったようです。
本作は、なんといってもジョニー・デップ監督作品ということで、どんな映画を作ったのかと興味を惹かれました。今、なぜモディリアーニ?と、聞いてみたいところです。(咲)
2024 年/イギリス・ハンガリー/英語・フランス語・イタリア語/108 分/ヨーロピアンビスタ/カラー/5.1ch
日本語字幕:岩辺いずみ
配給:ロングライド、ノッカ 協賛:LANDNEXT、セレモニー
公式サイト:https://longride.jp/lineup/modi/
★2026年1月16日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国公開


