2025年04月13日

104歳、哲代さんのひとり暮らし

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監督:山本和宏
撮影:的場泰平 筒井俊行
ナレーション:リリー・フランキー

尾道市の山間の村に住む石井哲代さんは104歳。元小学校の教師だった。同僚の良英さんと結婚。退職してからは畑仕事を楽しみ、民生委員を続けて地域に貢献した。近所の人たちは今も「先生」と呼ぶ。子どもはいないが、すぐそばに姪っ子が住んでいる。2003年に夫を見送ってからは、近所の人や親類に助けられ、一人暮らしを続けている。自分でできることは自分でする。できなくなったことを悲観したりしない。工夫すればいい。まだまだできることがある、と感謝し、自分を励ましながら上手に年を取っていく。

よく食べ、良く寝て、よくしゃべる哲代さん。福々しい丸顔の可愛いおばあちゃんです。誰とでも仲良く、明るく、大きな声で歌い、よく笑います。毎日ごきげんで暮らしていくことのヒント、上手に老いるコツが哲代さんの言葉のはしばしから見つかります。無理せず、調子が悪ければ病院に行き、必要なら入院もして家に戻ってきます。そしてまた元気な一日が始まります。こんな風に年を取れたらどんなにいいでしょう。良いお手本です。
1月31日より広島先行公開、次々と哲代さんファンが増えて行きそうです。(白)


家の前の坂道を後ろ向きにくだりながら、草を抜く哲代さん。本家の嫁として、「子どもが出来なかったのは今でも申し訳ない」という哲代さんですが、草のない綺麗な状態を保つことも本家の嫁の務めと心しているのです。
小学校の先生をしていた哲代さんは、しゃべり方もしっかりしています。初めて教えた子どもたちが米寿を迎えた同窓会で、80年ぶりの再会。受け持ったのは、1941年のことで、12月8日に戦争が始まったと言われた時にはピンとこなかったそうです。その後、「この子らを戦争に参加させちゃいけん。早く戦争を終わらせないと、と思った」という哲代さんの言葉にじ~んとさせられました。
この小学校のある広島県上下町にユースホステルがあって、20代の頃に2回泊まりに行ったことがあります。山あいの静かな町を懐かしく思い出しました。やはり20代の時に父と一緒に、上下町を通る鉄路で三次に行き、さらに山を越えて島根県の祖父の故郷を訪れたことがあります。父は、90代後半になっても、哲代さんと同じく、すこぶる元気で、百歳は間違いなく迎えられると思っていたのですが、あと1か月で百歳という時に、あっけなく逝ってしまいました。母が亡くなってからは私が同居していましたが、朝食の準備も自分でして、毎朝、家回りを綺麗に掃いていました。
「自分のことはできるだけ自分でしたい」というのも長生きの秘訣かなと哲代さんや父をみて、つくづく思います。(咲)


広島県尾道の自然豊かな山あいの町で100歳を超えてひとり暮らしを続けている石井哲代さん。83歳で夫が亡くなってからは、姪や近所の人たちの助けを借りながら一人暮らしを続け、年をとってできないことが増えても、友達と話ができるし、花も摘めるし、生きとるからこそできることがいっぱいですよと哲代さんは自分を励まし、ユーモアあふれる自由な心で笑いの多い暮らしをしています。
いりこ入りの味噌汁を作り、食事もしっかり食べ、誰とでも楽しくご機嫌に。ありがたい人生です。「でした」言うたらいけん。「ING」でいきましょう。そして、家の周りの草も抜き、農業まで続け、自分でできることは自分でやっています。
体調を崩した時には病院に入院、一人暮らしに不安があれば施設へ入所など、臨機応変に様々な支援を活用しています。老後の不安が希望に変わる! 人生100年時代の手引きになるような生き方です。かつて哲代さんが地域の女性たちのために始めた活動「仲よしクラブ」では、「発足当時にいた人が誰もいなくなったのに、自分だけが残っている」といいつつ、しっかり大正琴を弾いているシーンも出てきます。
家の入口にはかなり急な坂があり、足元が弱くなった哲代さんの、下る時に後ろ向きに歩いていく姿が何度も映し出されます。これは一つの知恵。車いすも急坂では後ろ向きに降ります。そのほうが危険が少ないのです。健康長寿の秘訣がちりばめられている映画です。(暁)

☆シネスイッチ銀座の予定 他劇場はHPでお確かめください
●【来場者プレゼント】4/18(金)ご来場の方に「桐葉菓(とうようか)」プレゼント(先着順/なくなり次第終了)[提供:やまだ屋]
●【イベント①】4月19日(土)山本和宏監督、岡本幸統括プロデューサーによる舞台挨拶
●【イベント②】4月20日(日)おばあちゃんさん(芸人)と新井康通さん(慶應義塾大学看護医療学部教授 兼担 医学部百寿総合研究センター 教授)によるトークイベント 「人生 100 年時代を笑って生きるコツ」開催

☆書籍もあります
「102歳、一人暮らし。哲代おばあちゃんの心も体もさびない生き方」
 石井 哲代、 中国新聞社 1540円
「103歳、名言だらけ。なーんちゃって 哲代おばあちゃんの長う生きてきたからわかること」
 石井 哲代、 中国新聞社 1430円

2024年/日本/カラー/94分
配給:リガード
(C)「104歳、哲代さんのひとり暮らし」製作委員会
https://rcc.jp/104-hitori/
★2025年4月18日(金)シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー

posted by shiraishi at 11:35| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年04月06日

ベテラン 凶悪犯罪捜査班  原題:베테랑2(ベテラン2) 英題:I,THE EXECUTIONER

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(C)2024 CJ ENM Co., Ltd., Filmmakers R&K ALL RIGHTS RESERVED

監督:リュ・スンワン(『ベルリンファイル』『ベテラン』『モガディシュ 脱出までの14日間』『密輸 1970 』
脚本:リュ・スンワン、イ・ウォンジェ、カン・ヘジョン
出演:ファン・ジョンミン、チョン・へイン、アン・ボヒョン、オ・ダルス、チャン・ユンジュ、オ・デファン、キム・シフ、シン・スンファン

家族のことを気遣う暇もなく昼夜を問わず犯罪と戦うベテラン刑事ソ・ドチョル(ファン・ジョンミン) と強力犯罪捜査隊の刑事たち。
ある日、ある教授が殺される。以前に起こった殺人事件と同様、法では裁かれなかった悪人。不条理な司法制度に憤っていた世論は、私刑を下す犯人を善と悪を裁く伝説上の生き物“ヘチ”と呼び、正義のヒーローともてはやすようになる。
新人刑事パク・ソヌが加わり、追跡を始める捜査陣。だが、殺人犯は、あざわらうように次の殺人対象を指定する予告をインターネットに公開する・・・

スピード感溢れる映像と、あっと驚く物語の展開にくらくら。最後の最後まで、え~ どういうこと?と、頭の中が整理つかないほどでした。
「徹子の部屋」に登場したチョン・ヘインが、これまでに観たドラマ「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」や「スノードロップ」と違って、前髪をおろしていて、実に可愛かったのですが、その前髪をおろした姿で登場しているのが本作『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』。
前髪をあげたチョン・ヘインには惹かれなかったのですが、前髪おろした可愛い彼が、末っ子刑事ながら沈着冷静で、知性も感じさせてくれて、こんなに魅力的だったの?と驚きました。そして、こんな展開の物語を描いたリュ・スンワン監督の手腕、凄いです。
ファン・ジョンミンはじめ、オ・ダルス、オ・デファン等々、それこそベテラン俳優の活躍にも目を惹かれました。ホ・ジュノの友情出演も嬉しかったです。 (咲)


法では裁かれなかった悪人を標的にした連続殺人事件が発生。そんな司法制度に不満がある人々は、犯人のことを善と悪を裁く「正義のヒーロー」ともてはやす。それにしても目まぐるしく事件や犯罪が起こり、激しいアクションシーンが続く。ファン・ジョンミン演じる熱血ベテラン刑事ソ・ドチョルと凶悪犯罪捜査班に、さらにチョン・ヘイン演じるドチョルに心酔する新人刑事パク・ソヌも捜査に加わり、強力な体制ができ、事件は解決に近づくように見えたんだけど、あっという展開に。リュ・スンワン監督は興味深い物語を作るストーリーテラーだ!(暁)。

2024年/韓国/韓国語/118分/カラー/シネマスコープ/5.1ch
字幕翻訳 根本理恵
提供:KADOKAWA Kプラス MOVIE WALKER PRESS KOREA 
配給:KADOKAWA、KADOKAWA Kプラス 
公式サイト:https://veteran-movie.com/
★2025年4月11日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー

posted by sakiko at 21:05| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ゲッベルス ヒトラーをプロデュースした男 原題:Führer und Verführer  英題:Goebbels and the Führer

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© 2023 Zeitsprung Pictures GmbH

監督・脚本:ヨアヒム・A・ラング
撮影:クラウス・フックスイェーガー
出演:ロベルト・シュタットローバー、フリッツ・カール、フランツィスカ・ワイズ

なぜ多くのドイツ人が犯罪的な 政権に従って戦争と大量殺戮に走ったのか

1945年4月、ソ連軍がベルリンに迫る中、写真や資料を暖炉の火で燃やすゲッベルス。「 私は民衆の扇動方法を公表してこなかった」「 私が総統を伝説にした」と豪語する。
4月30日、ヒトラーの自殺を見届け、遺言で新首相に任命されるも、翌5月1日、ゲッベルス夫妻は6人の子供たちとともに 自殺した。

1933年のヒトラー首相就任から1945年にヒトラーが亡くなるまでの間、プロパガンダを主導する宣伝大臣として、国民を扇動してきたヨーゼフ・ゲッベルス。
本作は、ゲッベルスが、いかにユダヤ人の一掃と侵略戦争へと突き進むヒトラーの先鋒を担ぐようになったかを、加害者からの目線で時系列で追った物語。

1938年、戦争を更に拡大しようとするヒトラーに、平和的な併合を主張するゲッ ベルス。ライバルたちは、宣伝大臣は宣伝より女に夢中だとヒトラーに告げ口する。ヒトラーの信頼を失ったゲッベルスは、愛人との関係も断ち切られ、自身の地位を回復させるため、ヒトラーが望む反ユダヤ映画を製作し、大衆を扇動する演説や戦勝パレードを次々と企画する・・・。

絶大的な権力を握った人物が、その取り巻きによって、さらに権力を行使していく様を見せつけてくれました。彼らの行ったようなフェイクニュースやプロパガンダが、今も繰り返されて世界にはびこっていることを憂います。それでも、ヒトラーやゲッベルスの末路が自死という悲劇であったように、握った権力は永遠ではないことを、世の独裁者は思い知ってほしいと思います。本作が反面教師になることを願ってやみません。でも、肝心の権力者が本作を観てくれるでしょうか・・・ (咲)

2024年/128分/ドイツ・スロバキア/ドイツ語
日本語字幕:廣川芙由美
配給:アットエンタテインメント
公式サイト:https://www.goebbelsmovie.com/
★2025年4月11日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開


posted by sakiko at 19:52| Comment(0) | ドイツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

プロフェッショナル(原題:In the Land of Saints and Sinners)

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監督:ロバート・ロレンツ
脚本:テリー・ロー、マーク・マイケル・マクナリー
撮影:トム・スターン
出演:リーアム・ニーソン(フィンバー・マーフィー)、ケリー・コンドン(デラン・マッキャン)、ジャック・グリーソン(ケビン)、キアランハインズ(ビンセント)、コルム・ミーニイ(ロバート・マキュー)

1970年代の北アイルランド。長年裏稼業として殺し屋を続けて来たフィンバー・マーフィは、引退すると決めた。静かに暮らしていたところへ、首都で爆破事件を起こしたアイルランド共和軍(IRA)の過激派テログループが村に逃げてくる。そのうちの一人が、隠れ家にしていた遠戚の少女を虐待していたのを知った。怒りにかられて制裁したフィンバーを、今度はテロ仲間(男の姉)が狙う。

物書きと称してひっそりと暮らしているフィンバーは、その村の人々と顔見知り。現職警官の友人までいます。正義と信じて爆破テロを実行するデランは、紛争で親を亡くし、姉弟2人で活動に身を投じているうちに冷酷になっていったようです。ケリー・コンドン迫力倍増していて怖い。フィンバーは、依頼された殺しからは手を引きましたが、幼い少女はじめコミュニティの人々を傷つけたくありません。静かな老後は遠ざかりました。
クリント・イーストウッドと長年仕事をしてきたロバート・ロレンツ監督、『マークスマン』に続いて2度目のリーアム・ニーソンとのタッグです。前作はメキシコ人の少年、今回は近所の少女、命がけで弱者を守る渋い役が似合います。パターンといえばそうですが、期待どおりにアクションを展開してくれるリーアム・ニーソン。出身地アイルランドを舞台に、テロも辞さない過激派グループと、殺し屋稼業の男の「正義」がぶつかりました。まだまだ活躍してくれそうです。(白)


2024年製作/アイルランド/106分/G
原題または英題:In the Land of Saints and Sinners
配給:AMGエンタテインメント
(C)FEGLOBAL LLC ALL RIGHTS RESERVED劇場公開日:2025年4月11日
https://professional-movie.jp
strong>★2025年4月11日(金)より全国ロードショー

posted by shiraishi at 18:30| Comment(0) | アイルランド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

バーラ先生の特別授業  原題:Vaathi

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©Fortune Four Cinemas ©Sithara Entertainments ©Srikara Studios

監督・脚本:ヴェンキー・アトゥルーリ
製作:スーリヤデーヴァラ・ナーガほか
撮影:J・ユヴァラージ
音楽:G・V・プラカーシュ・クマール
出演:ダヌシュ(『クローゼットに閉じ込められた僕の奇想天外な旅』『グレイ・マン』『無職の大卒』)、サムユクタ、サムドラカニ(『RRR』)、タニケッラ・バラニ(『バーフバリ』シリーズ)、サーイ・クマール(『リシの旅路』)、ラージェーンドラン、ハリーシュ・ペーラディ(『囚人ディリ』)、スマント、(特別出演)バーラティラージャー

南インド、テルグ語とタミル語の両方を話す州境の村。
高校生のアビラームは、祖父が開いた村で最初で最後のビデオ店を父が学習塾代の為に売るというので、友人たちと片づけに行く。棚の奥に木箱に大事に収められたビデオを見つけ、もしかしたらポルノ?と観てみると、そこに映っていたのは、一人の青年が数学の授業をしている姿だった。一緒に収められていた貸出票の名前と住所を頼りに、40キロ離れた町にA.M.クマールを訪ねると、今は、県の行政長官だと聞かされる。県庁に訪ねていくと、A.M.クマールは部屋に掲げた写真を眺めながら、「ビデオの授業は私の恩師バーラ先生」と話し始める。
1993年、チョーラワラム村の公立校に赴任した数学のバーラ先生。美人のミーナクシ先生の存在に、一緒に赴任した二人の男性教師と共に心浮きたつが、生徒たちがいたのは初日だけ。皆、家計のため日銭を稼いでいるのがわかり、バーラ先生は学校に来られるように働きかける。生徒たちは戻ったものの、新任の男性教師二人が去り、バーラ先生は2クラス一緒に教えようとするが、カーストが違うから一緒に授業を受けられないという。必要であればカーストが違うことは問題にならないことを教えるが、さらに、大手私立教育機関の経営者ティルパティが妨害してくる。バーラ先生は受け持ちの生徒全員が共通試験で上位成績を上げることを目指す・・・

1990年代の経済自由化と1993年の教育制度の改革によって、インドに多くの私立教育機関や予備校が生まれ、高い授業料に応じた質の高い授業が提供されるようになったことが背景になっています。私学経営者ティルパティが、公立学校での授業を妨害し、さらに共通試験に向かう生徒たちも足止めさせてしまうという、これでもかという悪どさ。今は行政長官となったA.M.クマールが明かすバーラ先生の奮闘する姿に拍手喝采です。
バーラ先生の恩師も素晴らしくて、新任教師となったバーラ先生に「教師は仕事じゃない。使命」「自分の給料より、生徒の将来」とアドバイスしています。
さて、ビデオに映っていたバーラ先生の授業風景、どこで授業していたのかは、ぜひ劇場でご確認ください。(咲)


憎まれ役のティルパティが滔々と「教育は金になる」論をぶちあげます。庶民が食うや食わずで子供の幸せを願って工面したお金を吸い上げ、自分は高級車を乗り回しさらに儲けようとしています。そのわかりやすさったらないのですが、日本だとて似たようなものではありませんか。良い学校に入るため良い仕事につくため、子どものうちから塾通い、子どもらしく遊ぶ時間もないほど忙しい。授業料の安い国立大学に入れるのは、そうやって教育費をつぎ込んでこられた富裕層。奨学金という名前の借金を背負うのは、庶民です。
汚職にまみれた警察やパルパティの追従者に苦い思いを抱いて観ていました。救われるのは、バーラ先生の教えを素直に吸収して生徒たちが成長していく姿です。親のいうまま結婚するのではなく、学び続けて外国へ行くという女子、カーストに縛られずに生きる道を求める男子、そんな生徒たちが大人になって世界を変えていくはず。大人になってしまっても遅くはないですよ。目をつぶらないようにしましょう。(白)


2023年/インド/タミル語/134分
字幕:中島可愛・字幕監修:小尾淳
配給:SPACEBOX
公式サイト:https://spaceboxjapan.jp/balasensei/
★2025年4月11日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開.

posted by sakiko at 16:33| Comment(0) | インド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする