2024年08月16日

エターナルメモリー(原題:LA MEMORIA INFINITA)

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監督:マイテ・アルベルディ(『83歳のやさしいスパイ』)
プロデューサー:パブロ・ラライン(『スペンサー ダイアナの決意』)
出演:パウリナ・ウルティア、アウグスト・ゴンゴラ
 
夫のアウグスト・ゴンゴラは著名なジャーナリスト。妻のパウリナ・ウルティアは国民的女優であり、チリで最初の文化大臣をつとめた女性。2人は結婚して20年以上になった。古い家を自分たちでリフォームして心地よく蘇らせ、自然の中で日々を丁寧に幸せに過ごしてきた。ところが、アウグストがアルツハイマーを患い、少しずつ記憶を失っていく。最愛の妻パウリナとの思い出さえも消えはじめる――。

最愛の人から「あなたは誰?」と言われたときの衝撃。経験はないけれど、大きいでしょうね。長寿社会の今、アルツハイマーになる方、そう診断される方が増えていくでしょう。このドキュメンタリーでは、当事者と伴侶がそれに対処していくのかが見られます。本人は記憶が失われていくこと、できないことが増えているのに気がつくことがあります。そのときに優しく受け止めてもらえたらどんなにか安心できるでしょう。パウリナの葛藤や寂しさもあるはずですが、深い愛情で支え続けます。経済状態や気持ちの余裕のあるなしが影響しますので、同じにはできなくとも、とてもいいヒントになります。
マイテ・アルベルディ監督が4年間にわたって2人に同行して撮影したものに、2人が撮影していたプライベート映像を交えて心温まるドキュメンタリーに仕上げました。(白)


サンダンス映画祭ワールド・シネマ・ドキュメンタリー部門審査員大賞受賞
第73回ベルリン国際映画祭のパノラマ部門出品
アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞ノミネート


映画を観る前に、アウグスト・ゴンゴラが、1973年から1990年までのピノチェト独裁政権を生き抜いた人物であることに、まず興味を持ちました。ところが観終わってみると、優しく見つめあい微笑む二人のことしか記憶に残らなくて、そんなはずは・・・と、もう一度、見直してみました。ちゃんとピノチェト独裁政権に苦しい思いをしたことが描かれていました。それを吹き飛ばすくらい、二人の微笑みに癒されたのだと思いました。
アウグストが経験したピノチェト独裁政権時代のこと・・・
親友の大学教授が誘拐され銃殺されたことをアルゼンチンの新聞で知った時の心を引き裂かれる思い・・・  あの時代、姿を消した人たちは、その死さえ表に出されなかったのです。アウグスト・ゴンゴラは、独裁政権時代、主要メディアが事実を報じなかった中、国内の出来事を内密で扱うニュース報道「テレアナリシス(Teleanalisis)」の一員として、仲間のジャーナリストと街に出て、起きていることすべてを記録して、テープを秘密裏に全国に配布していたのです。
アウグストは記憶が薄れていく中で、「6年がかりで書いた大切な本」を大事に抱えています。1973年6月から1983年5月までに起こった出来事を記録した本。抵抗した市民たちの多くが殺され、子どもたちもが犠牲になった時代。「ピノチェト、軍部よ、覚えてるよ」とアウグスト。
1984年の若い時のアウグストの映像が出てきて、幼い子どもたちに「ピノチェトをどう思う?」と聞いていて、子どもたちはどう答えたのかしらと。
そして、妻のパウリナ・ウルティアは国民的女優ですが、チリ初の女性大統領を務めたミシェル・バチェレのもと、2006年から2010年にかけて、チリ人女性初となるチリ国家文化・芸術審議会議長に就任しています。1983年生まれの彼女は、ピノチェト独裁政権時代にはまだ幼かったので、それこそ、「ピノチェトをどう思う?」と聞かれたら、どう答えたでしょう・・・
1952年1月2日生まれのアウグスト・ゴンゴラは、2023年5月19日ご逝去。
私とあまり変わらない年代のアウグストがアルツハイマー型認知症になり、亡くなられてしまったことに、ちょっと複雑な思いです。(咲)



2023年/チリ/スペイン語/85分
後援:インスティトゥト・セルバンテス東京  
提供:シンカ、シャ・ラ・ラ・カンパニー  
配給:シンカ
©2023 Viacom International Inc. All Rights Reserved.
https://synca.jp/eternalmemory/
★2024年8月23日(金)新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開
posted by shiraishi at 01:10| Comment(0) | チリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

心平、

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監督:山城達郎
脚本:竹浪春花
撮影:藤田朋則
音楽:宇波拓
出演:奥野瑛太(大村心平)、芦原優愛(大村いちご)、下元史朗(大村一平)、河屋秀俊(田中春男)、小林リュージュ(田中満)、川瀬陽太(田口省吾)、影山祐子(渡辺由香)

2014年夏、福島県のとある村。心平は自転車でぐるぐる回っている。兼業農家だった父を手伝って暮らしていたが、2011年の東日本大震災で、農業ができなくなってしまい、ほかの仕事についても長続きしない。妹のいちごは子供の頃から兄と通っている天文台に勤め、兄の仕事を探している。父は軽度の知的障害のある心平は家にいればいいという。母が出て行って酒に逃げる父と、働かない兄のために家事を担うのにもううんざりしている。
そんなときに、近所の住民が避難中の空き家で頻発している空き巣は心平の仕業らしい、と聞いて驚く。

山城達郎監督がロケハンのために福島中を橋まわり、地元の協力を得て実在の空き家などでオールロケをしました。そんな背景でくりひろげられる原発事故を境に、いきづまってしまった一家族のお話です。もっと深刻にもなりそうですが、のほほんとしている心平の好きなものがちりばめられているせいか、息がつけます。
心平演じる奥野瑛太さんは『SR サイタマノラッパー』で映画デビューして以来、あちこちで見かけます。長身ではっきりした目鼻立ちのせいか、印象に残るんです。『死体の人』ではこだわりの役者役での主演。今回の何も考えていないような心平を、やはり慎重にこだわりぬいて演じたようです。2014年の設定ですが、10年たった今あの家族が福島で暮らしていそうな気がする作品。心平くんいちごさん、元気でしょうか。(白)


2023年/日本/カラー/シネスコ/105分
配給:インターフィルム
©冒険王/山城達郎
公式サイト:https://shinpei.jp/
X:@shinpei_movie
ハシュタグ:#心平
★2024年8月17日(土)新宿K’s cinemaほか全国順次ロードショー

posted by shiraishi at 00:57| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年08月15日

助産師たちの夜が明ける  原題:Sages-femmes 英題:MIDWIVES

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監督:レア・フェネール(『愛について、ある土曜日の面会室』)
出演:エロイーズ・ジャンジョー/ミリエム・アケディウ

あるフランスの産科病棟。
5年間の修学を終えたルイーズとソフィアは、念願の助産師として働き始める。
そこは想像を超える壮絶な仕事場だった。何人もの担当を抱え走り回る助産師たち。ケアされるための十分な時間がないなか運ばれてくる緊急の産婦たち。患者の前で感傷的になるな、とルイーズがベテラン助産師ベネに厳しく叱責される一方、ソフィアは無事に出産を介助し周囲の信頼を勝ち得ていく。
そんなある日、心拍数モニターの故障から、ソフィアが担当した産婦が緊急帝王切開となり、赤ん坊は命の危険にさらされる。さらには産後行くあてのない移民母、未成年の出産、死産したカップル…
生と死が隣り合わせの現場で、二人は一人前になれるのだろうか・・・

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SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2023の折に来日したレア・フェネール監督(撮影:景山咲子)

日々奔走する助産師たちの姿をフィクションで描きながら、実際の出産シーンを何人もの方から承諾いただいて入れ込み、ドキュメンタリーかと見まごう作品。
ぎりぎりの人数で、無事出産できるよう的確に対応する切迫感溢れる姿を映し出していました。最後に重労働に見合わない低賃金に抗議する助産師たちの姿が出てきて、人の命を預かる重要な仕事に、適切な賃金を支払ってほしいものだと思いました。
また、助産師にも出産する母親にも、肌の色の様々な人たちがいて、現代のフランス社会が描き出されていました。
思えば、監督の初監督作『愛について、ある土曜日の面会室』(2009年、日本公開2012年)も、刑務所の面会日に訪れる様々な人々を描いた群像劇で、やはり移民や移民をルーツに持つ人たちが普通にフランス社会に溶け込んで暮らしているのが見てとれました。(咲)



SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2023『助産師たち』レア・フェネール監督 Q&A


第73回ベルリン国際映画祭パノラマ部門 審査員特別賞
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2023 観客賞受賞


2023年/フランス/100分/カラー
日本版字幕:松岡葉子
医学用語字幕翻訳協力:田辺けい子
配給:パンドラ
公式サイト:https://pan-dora.co.jp/josanshitachi/
★2024年8月16日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開




posted by sakiko at 09:10| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年08月11日

侍タイムスリッパー

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(c)2024未来映画社

監督・脚本・撮影・編集:安田淳一 殺陣:清家一斗
出演:山口馬木也 冨家ノリマサ 沙倉ゆうの

幕末の侍が時代劇撮影所にタイムスリップして「斬られ役」に!?

時は幕末、京の夜。会津藩士・高坂新左衛門は、密命のターゲットである長州藩士と刃を交えた刹那、落雷により気を失う。眼を覚ますと、そこは現代の時代劇撮影所。行く先々で騒ぎを起こしながら、江戸幕府が140年前に滅んだと知り愕然となる新左衛門。一度は死を覚悟したものの、やがて「我が身を立てられるのはこれのみ」と、磨き上げた剣の腕だけを頼りに撮影所の門を叩く。「斬られ役」として生きていくために…。

本物の侍がタイムスリップした先は、よりによって時代劇の撮影現場。よもや劇であるとも最初は気が付かず、帰来の侍魂で自然に刀を抜く新左衛門。そこへ監督からNGの声がかかって、初めて、見慣れぬ服装の人たちに気付き、ここはどこ?とうろたえる姿が、とても自然。タイムスリップなんて有り得ないと思いながら、こんなことも有りかもと!
お寺に身を寄せ、気のいい住職夫婦と暮らし始める新左衛門。演じる山口馬木也さんが朴訥として和ませてくれます。何かと彼を気遣う助監督の山本優子役の沙倉ゆうのさんも素敵です。
今、ほんとに少なくなった時代劇。本作には昔ながらのチャンバラ場面も満載。
安田淳一監督の「自主映画で時代劇を撮る」という無謀な試みに「脚本がオモロいから」と東映京都撮影所が特別協力。コロナ禍に、わずか10名足らずのロケ隊で完成させた本作。いや~面白かったです。(咲)


2024年ファンタジア国際映画祭(カナダ・トロント)
オフィシャルセレクション選出 英題:『A SAMURAI IN TIME(時をかける侍)』

2023年/日本/131分/カラー/1.85:1/ステレオ/DCP
撮影協力:東映京都撮影所
製作・配給:未来映画社
宣伝協力:プレイタイム
公式サイト https://www.samutai.net/
★2024年8月17日(土)より池袋シネマ・ロサにて公開

posted by sakiko at 11:56| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ぼくの家族と祖国の戦争(原題:Befrielsen)

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監督・脚本:アンダース・ウォルター
撮影:ラスムス・ハイゼ
出演:ピルウ・アスベック(ヤコブ)、カトリーヌ・グライス=ローゼンタール(リス)、モルテン・ヒー・アンデルセン(ビルク)、ラッセ・ピーター・ラーセン​(セアン)、ペーター・クルト(ハインリヒ)、ウルリッヒ・トムセン

第二次世界大戦末期のデンマーク。北欧の小さな国に、敗色濃厚となった隣国ドイツから20万人以上の難民が押し寄せてきた。占領下にあったので、従うしかなかった。フュン島リュスリンゲ市民大学の学長ヤコブがドイツ司令官から200人の難民を受け入れるよう命令が下る。ところが到着したのは子どもを含む500人以上で体育館を開放してもすし詰め状態となった。そのうえ現地のドイツ兵はひきあげてしまい、食料や薬品の供給もなかった。劣悪な環境でジフテリアが発生、窮状を見かねたヤコブの妻のリスは、子どもたちに手を差しのべるが、ドイツ占領下の人々には自国民を裏切る行為と写った。12歳の息子セアンは、ドイツを敵と信じて疑わず、危険なレジスタンス運動に関わろうとする。

日本と似た島国のデンマーク。唯一陸上で国境を接しているのが、ドイツです。大戦末期にはドイツの敵国であるソ連軍が南下してきたため、多くの難民が国境を越えて逃げてきました。地続きのヨーロッパ各国の戦争中の混乱はどうにも想像がつきません(こんなことを言うと沖縄の人に申し訳ない思いでいっぱいになります)。
ここでは戦地の闘いではなく、戦時下の人々がどんな風に暮らしていたのか、そこでたち現れる対立を描いています。実際にあったことを調査、収集し、この作品がフィクションとして生まれました。体験した人がいまも残っていること、今も戦火に追われる国があることもあってか、本国で多くの観客を集めたそうです。
国同士、人と人との間だけでなく、一人の中でも葛藤があり、ヤコブやリス、少年のセアンの心も揺れ動きます。人間として正しいことの規範となるのは主に宗教なのでしょうが、その宗教でさえ愛や許しではなく対立の元となったり、さらに憎悪をあおったりします。戦争は博愛の精神も道徳も倫理も蹴散らし、敵を憎むあまり報復として同じ所業に及びます。白か黒かの間には限りなくグレーが続くのに、どちらか選べと強要されます。
人は反省したことを忘れて同じことを繰り返します。何度も間違えてはまた悔やみます。どうしたらいいのか、正しいとは何なのかそれぞれが考えるしかないのでしょう。多数が正しいとは限りません。この映画は、観た人の心に小さな石つぶてを投げ込み大きな波を起こすはずです。広島、長崎の原爆忌、終戦の日を思いつつ、観ていただきたい作品。(白)


2023年/デンマーク/カラー/101分
配給:スターキャット
(C)2023 NORDISK FILM PRODUCTION A/S
★2024年8月16日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBIS GARDEN CINEMAほか全国ロードショー
posted by shiraishi at 10:37| Comment(0) | 北欧 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする