2025年03月06日

いきもののきろく

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監督・脚本:井上淳一
原案:永瀬正敏
撮影:鍋島淳裕
美術:永澤こうじ
主題歌:PANTA「時代はサーカスの象にのって」
出演:永瀬正敏、ミズモトカナコ

人の気配のない工場の並ぶ運河。男がよどんだ水に浮かぶゴミを拾っている。いくらかたまると廃工場にひきずっていく。うずたかく積まれたがらくたで男は筏を作る。女が男の様子を見ていて寄ってくる。「あたしのも作って」男は取り合わない。隅っこにあるねぐらにもやってくる女を邪険に追い払うが、寄る辺ない女は少し離れたところに居ついてしまった。

日本中が一変してしまった東日本大震災。その影響がまだ色濃く残っていたころ、人の当たり前の暮らしがなくなってしまった街に男と女が一人。男は家族をなくし、看護士だった女は患者をなくしました。あったはずの欠片を探して男は筏を作り、女はすがるようについて行きます。これは創世記か、アダムとイブなのか?
水面を進む筏を、運河の堤から人々がじっと見つめています。いろいろな生活の道具といっしょに流されてしまった人たちかもしれません。理不尽にも彼岸へ送られる人が絶えない今、いつでも、どこに住む人が観ても無関係だとは思えないでしょう。
シネマスコーレ支配人の木全純治さんが名古屋の中川運河を舞台に企画、プロデュース。ちょうど井上監督とシネマスコーレを訪れていた永瀬正敏さんに監督を、と打診があったそうです。それはできないが出演はします、井上監督でとの回答。被災地を訪ねたことが深く刻まれていた永瀬さんが一気に書き上げたプロットからこの作品が生まれました。(白)


2014年/日本/カラー/47分
配給:ドッグシュガー
http://www.dogsugar.co.jp/ikimononokiroku/
★2025年3月7日(金)テアトル新宿ほか全国順次ロードショー

posted by shiraishi at 21:41| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年03月02日

ケナは韓国が嫌いで  原題:한국이 싫어서  英題:Because I Hate Korea

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(C)2024 NK CONTENTS AND MOCUSHURA INC. ALL RIGHTS RESERVED.

監督・脚本:チャン・ゴンジェ(『ひと夏のファンタジア』)
原作:「韓国が嫌いで」(チャン・ガンミョン著)
出演:コ・アソン(『グエムル-漢江の怪物-』)、チュ・ジョンヒョク(「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」)、キム・ウギョム、イ・サンヒ、オ・ミンエ、パク・スンヒョン

ソウル郊外の小さな団地で両親と妹と共に暮らす28歳のケナ。大学を卒業後、金融会社に就職したが、仕事には興味が持てず、毎日片道2時間かけての通勤にうんざりしている。大学時代から長く付き合っている恋人のジミョンは、外国に行きたいと口にするケナに「自分が就職したら支える」と言うが、ピントのずれた話をしがちなジミョンにケナは苛立つ。ケナの母は裕福な家庭で育ったジミョンとの結婚を待ち望み、さらに老朽化が進み再発が決まっている団地から引っ越すための部屋の購入費用もケナに出してほしいと迫る。
「自分には落ち度がないはずなのに、ここでは幸せになれない!」と、ケナは、韓国を抜け出しニュージーランドに移り住む決意をする・・・

今の暮らしにうんざりと思っても、会社を辞めて、外国に移住するという決意をするのは容易なことではありません。なおかつ、ケナには、一緒にいたい、支えてあげるというけなげな彼までいるのに・・・です。 それを振り切って、自分の夢を叶えようとするケナ。素敵です。 ニュージーランドで大学院に通い、会計士の資格を取得します。韓国に帰ると、恋人ジミョンは無事大学を卒業し、記者になる夢を叶えていました。さて、ケナはその後、どうする? ジミョンと結婚する選択肢もありますが、ニュージーランドの永住権を取得したいという夢もあるようです。
自分で未来を切り開いていくケナがとても素敵でしたが、本作には、韓国の男性たちの苦労するリアルな姿も描かれています。
ケナと同い年の男子で、公務員になるべく何年も勉強を続けてキョンユン。
ニュージーランドの大学院で出会った韓国から来ている男子ジェインは、一見、いい加減な雰囲気ですが、会計士には向かないと見切りをつけて料理人として自立を目指します。
自分の将来をどうすればいいのか迷っている若い人たちに、ぜひご覧いただきたい一作。(咲)


★原作「韓国が嫌いで」の著者チャン・ガンミョンは、元新聞記者で、社会批評からSFまで幅広い作品で知られています。国家情報院の世論操作事件を題材にした小説「コメント部隊」も映画化され、この2月14日より公開されています。映画『コメント部隊』


2024年/韓国/韓国語・英語/107分/カラー
日本語字幕:本田恵子
配給:アニモプロデュース
公式サイト:https://animoproduce.co.jp/bihk/
★2025年3月7日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、シネ・リーブル池袋ほか全国公開




posted by sakiko at 20:02| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

Playground/校庭   原題: Un Monde  英題:Playground

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(C)2021 Dragons Films/ Lunanime

監督・脚本:ローラ・ワンデル(長編デビュー) 
出演:マヤ・ヴァンダービーク、ガンター・デュレ、カリム・ルクルー(『またヴィンセントは襲われる』(24))、 ローラ・ファーリンデン(『ハッピーエンド』(18))

7歳の少女ノラ。小学校に入学する日、友だちがひとりもいないノラにとって、3つ年上の兄アベルが頼りだ。兄に抱きついて泣きじゃくるノラは、父にうながされてようやく学校に入る。昼休み、兄のもとに行くが、邪険にされる。ようやく同じクラスの女の子たちと仲良くなるが、ある日、兄が大柄なガキ大将にいじめられているのを見てショックを受ける。大好きな兄を助けたいと思うが、アベルは「誰にも言うな」「関わるな」という。それでも兄が心配なノラは父に告げる・・・。

校庭でくったくなく遊んでいる子どもたち・・・と思いきや、裏では陰湿ないじめが起こっているのは、どこの国でもあることなのでしょう。
お誕生日会に、全員を呼ぶといいながら、仲間外れにするということもありがち。
さらに、ノラの場合は、父親が学校に送り迎えしていることを、同級生たちに、「お父さんは失業者。働かないで家でお金を待ってる人」とまで言われてしまいます。
「サッカーをやる人は差別主義。自分のことしか考えない」とか、子どもたちは、大人たちが話している言葉から自然に偏見を身に着けてしまうものなのか・・・と、ちょっと悲しくなりました。
学校には、アイシャやスレイマンなどイスラーム系の名前の子どももいて、ベルギーにも移民が多いことを感じさせてくれました。学校は、どんな民族や宗教の子どもたちとも共生することを学ぶ場であってほしいと願います。(咲)



ローラ・ワンデル(監督・脚本)
1984 年ベルギー生まれ。ベルギーの視聴覚芸術院(IAD)で映画製作を学ぶ。在学中に短編映像『Murs (原題)』 (07) を制作。その後、初の短編映画 『O négati (原題)』(10)を製作した後、2014年に監督した短編映画『Les corps étrangers (原題)』ではカンヌ国際映画祭の短編コンペティション部門に選出された。本作で初の長編映画デビューを飾り、第74回 カンヌ国際映画祭ある視点部門に出品され、国際批評家連盟賞受賞。また、第94回アカデミー賞国際長編映画賞ショートリストにまで選出され、世界中の映画祭を席巻しセンセーショナルなデビューを飾った。最新作である『In Adam‘s Interest』(25年撮影開始予定)では、ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ製作のもと、レア・ドリュッケール(『CLOSE クロース』(23))、アナマリア・ヴァルトロメイ(『あのこと』(22))をキャストに迎え、小児科病棟で働く看護師と、ある母子が直面する困難を描くドラマ作品を手がける。(公式サイトより)


2021年/ベルギー/フランス語/72分/ビスタ/5.1ch
日本語字幕:岩辺いずみ
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
後援:駐日ベルギー大使館
公式サイト:https://playground-movie.com/
★2025年3月7日(金) 新宿シネマカリテ、シネスイッチ銀座ほか全国公開.




posted by sakiko at 18:48| Comment(0) | ベルギー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

白夜 4Kレストア版  原題:Quatre Nuits d'un rêveur

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© 1971 Robert Bresson

監督・脚本:ロベール・ブレッソン
原作:ドストエフスキー
撮影:ピエール・ロム
録音:ロジェ・ルテリエ
美術:ピエール・シャルボニエ
編集:レイモン・ラミ
出演:ギヨーム・デ・フォレ、イザベル・ヴェンガルテン、ジャン=モーリス・モノワイエ

ポンヌフの宵闇に心を通わせるジャックとマルト。恋と愛にうつろう四夜の物語。

画家のジャックは、ある夜、ポンヌフで思い詰めた表情をしている美しい女性マルトに出会う。翌晩、お互いの素性を語り合うジャックとマルト。ジャックは孤独な青年で、理想の女性との出会いを夢見ていた。一方のマルトは恋した相手に「結婚できる身分になったら一年後に会おう」と去られていた。そして今日がちょうどその一年後。マルトに熱い気持ちを抱きながらも、彼と出会えるよう献身するジャック。だが三夜目になっても男は現れず、マルトの心もジャックに惹かれ始めていた。そして運命の第四夜……。

★近年ではフランスでさえ上映不可能だった幻の逸品の4Kレストア版

原作はドストエフスキーの短篇。舞台をパリにして描いた恋の物語。
パリのセーヌ川に架かる橋、ポンヌフ(新しい橋)で飛び降り自殺しそうな女性マルトを引き留めたジャック。 思いつめて泣いていたのは、1年後にポンヌフで会おうと約束していた男性が現れないから。
母と二人暮らしのマルトは、厳しい母から逃げたくて、下宿人の男性に恋をしたのですが、彼は奨学金をもらって遠くの地の大学へ。(恋した理由が安易だ!)
出会ったジャックに、「下宿人になって」とまで言って、惚れた模様。
一方のジャックも女性に惚れやすくて、マルトに恋に落ちます。
恋は、タイミングだなぁ~とつくづく。 そして、まさかの第4夜・・・
あ~切ない。(咲)


1971年/フランス・イタリア合作/フランス語/カラー/83分/1.66:1 /モノラル/DCP
日本語字幕:寺尾次郎
配給:エタンチェ、ユーロスペース
公式サイト:https://www.motoei.com/post_future/
★2025年3月7日(金)ユーロスペース、角川シネマ有楽町ほか全国公開


posted by sakiko at 16:42| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

Underground アンダーグラウンド

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(C)2024 trixta


監督:小田香(『鉱 ARAGANE』『セノーテ』
出演:吉開菜央、松永光雄、松尾英雅

鬼才タル・ベーラの愛弟子、小田香が描き出す、
ドキュメンタリーを遥かに超えた異形の空間

地下の暗闇から、蠢く怪物のように「シャドウ(影)」が姿を現す。シャドウ(影)はある女の姿を借りて、時代も場所も超えて旅を始める。地下鉄が走る音を聞き、戦争で多くの人々が命を失ったほら穴の中で死者達の声に耳を澄ませる。そんな道行きの中、シャドウ(影)は、かつてそこで起きたことをトレースしていくようになり、湖の底に沈んだ街に向かう・・・

『鉱 ARAGANE』では、ボスニア・ヘルツェゴビナの炭鉱を、『セノーテ』では、メキシコ、ユカタン半島北部の洞窟内の泉と、異形の地下世界をとぎすまされたような映像で静かに映し出した小田香監督。
本作、『Underground アンダーグラウンド』では、日本の地下世界を題材にしているのですが、これまでと違って、地上世界にもカメラを向け、雄弁に語る人物も登場させています。それは、土地に宿る歴史と記憶を辿る試み。
中でも、沖縄の語り部、松永光雄さんの語る言葉が胸に迫ります。沖縄戦で亡くなられた方たちの遺骨収集もされている松永さん。二つのガマに潜んでいた人たちの運命が大きく違ったこと。集団自決で多くの人が亡くなったガマでは、泣く子を黙らせろと日本兵が銃を向けました。一方、ハワイ移民から帰り英語ができた人がいたガマでは、米軍と話すことができたお陰で全員が助かりました。これは、これまでにも聞いたことのある話ですが、あらためて記憶に留めておきたいことだと思いました。(咲)



2024年/日本/83分/カラー/5.1ch
製作:トリクスタ
共同製作:シネ・ヌーヴォ、ユーロスペース、ナゴヤキネマ・ノイ、札幌文化芸術交流センターSCARTS、豊中市立文化芸術センター
配給:ユーロスペース+スリーピン
公式サイト:https://underground-film.com/
★2025年3月1日(土)ユーロスペースほか全国順次公開
posted by sakiko at 15:31| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする