2021年09月03日

先生、私の隣に座っていただけませんか?

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監督・脚本:堀江貴大
撮影:平野礼
音楽:渡邊琢磨
劇中漫画:アラタアキ、鳥飼茜
主題歌:eill「プラスティック・ラブ」
出演:黒木華(早川佐和子)、柄本佑(早川俊夫)、金子大地(新谷歩)、奈緒(桜田千佳)、風吹ジュン(下條真由美)

漫画家夫婦の早川俊夫と佐和子。休筆して何年にもなる俊夫は、妻の佐和子の作品のペン入れを手伝っている。結婚5年目の夏、佐和子は担当編集者の桜田千佳と俊夫の不倫に気づいてしまった。
佐和子の母が交通事故で怪我をしたため、佐和子と俊夫はしばらく実家で暮らすことにした。俊夫に勧められて運転免許を取るために自動車教習所に通うことになった。送り迎えの車中で、佐和子の新作のテーマが「不倫」と聞いて慌てた俊夫は、佐和子が書き始めた漫画のネームを盗み見る。そこには自分たちそっくりの夫婦が登場し、俊夫と千佳の不倫シーンまである。そして佐和子と教習所の若い教官・新谷との出逢いも逐一描かれていた。この漫画は真実なのか?創作なのか?

実生活と佐和子の描く漫画のネーム(ざっと描かれた原稿)が交互に出てきます。それぞれの登場人物の虚々実々のかけひきが面白く、中でも原稿を盗み見する俊夫のあせりっぷりがなんともおかしい。自分の不倫はあまり自覚せず、佐和子への疑いは膨らんでうろたえるばかり。対する佐和子は視線の動きや表情で、強い意志を感じさせます。新谷に出逢って心惹かれていく佐和子が日に日にお洒落になっていくのにも注目を。演じる黒木華さん、柄本佑さんのこまやかな演技。見守る母の風吹ジュンさんの懐の深さ、奈緒さんの千佳はあっけらかんと面白がり、真面目な顔を崩さない金子大地さんの新谷、とそれぞれに振られたキャラクターが生き生きしています。ラストはそうきたか、と納得。笑えて、共感して、謎も楽しめる作品でした。
白い紙にサラサラと線が引かれ、漫画が生まれていくシーンがたくさん挟み込まれていて、釘付けになりました。今の子供たちがyoutuberに憧れるように、昔は漫画家になりたかったんです~。早々に諦めましたが。現役の漫画家のアラタアキさん、鳥飼茜さんが劇中の漫画を描いています。
オリジナル作品の企画コンテスト「TSUTAYACREATORS' PROGRAM FILM」2018年の準グランプリ作品。(白)


『先生、私の隣に座っていただけませんか?』というタイトルに、先生は、てっきり教習所の控え目で素敵な先生のことねと思って観ていたら、それだけではなかったことがわかって、そういうことだったのね!と、唸りました。そう来たか~というラストも素敵です♪ (咲)

2021年/日本/カラー/シネスコ/119分
配給:ハピネットファントム・スタジオ
(C)2021「先生、私の隣に座っていただけませんか?」製作委員会
https://www.phantom-film.com/watatona/
★2021年9月10日(金)ロードショー

posted by shiraishi at 23:18| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ミッドナイト・トラベラー  原題:Midnight Traveler

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監督:ハッサン・ファジリ
出演:ナルギス・ファジリ、ザフラ・ファジリ、ファティマ・フサイニ、ハッサン・ファジリ
プロデューサー:エムリー・マフダヴィアン、スー・キム
共同プロデューサー:ファティマ・フサイニ、アフマド・イマミ
脚本・編集:エムリー・マフダヴィアン
撮影:ナルギス・ファジリ、ザフラ・ファジリ、ファティマ・フサイニ、ハッサン・ファジリ
音楽:グレッチェン・ジュード

アフガニスタンから逃れて5600km
タリバンに死刑宣告を受けた監督一家の長い旅


ハサン・ファジリ監督は、2015年に国営放送のために元タリバンで武器を捨てた平和主義者の男のドキュメンタリー「Peace in Afghanistan」を制作。タリバンの怒りを買い、出演者が殺される。監督も命を狙われていると知り、亡命を決意。妻と二人の娘を連れ、国境を越え、イランへ。そこからトルコ、ブルガリア、セルビア、ハンガリーと、アフガニスタンを出て3年目、ようやくEUに入ることを認められる・・・

冒頭、本作は携帯電話3台で撮影したと掲げられます。国を出る決意をした時には、安住の地を見つけられるまで、どれ程の時間がかかるか全くの未知数。密航斡旋業者に騙されることは日常茶飯事。娘を見失って暗澹たる思いになった日々もあります。一家のリアルな記録からは、国や場所による難民への対応の違いも見て取れます。

映画のタイトル『ミッドナイト・トラベラー』は、映画の冒頭で長女のナルギスが読んでいる本「エゴ・モンスター」の巻の名前から取ったもの。著者サイード・バホダイン・マジローは、政治家、民族誌学者、作家であり、暗殺されるまでの晩年を難民として暮らしたアフガニスタンの知識人です。
監督一家は、ダリ語、それもペルシア語に近い訛りのない綺麗なダリ語を話していて、知識人だとわかります。パシュトゥン族が主のタリバンとは民族も言葉も違います。国境を越える時に、ほかの男たちの中に溶け込むようにシャルワール・カミーズを着た監督に、娘たちが「パパの服、タリバンみたいで嫌い」という場面があります。その娘たちもまた、目立たないようにブルカですっぽり全身を覆うことになるのですが。

本作の製作をプロデューサー・脚本・編集として支えたエムリー・マフダヴィアンは、ペルシア語話者で、中央アジアの映画とメディアに関する博士号を持つ方。パソコンを持ち出せなかったファジリ監督から、撮影映像を記録したSDカードを各国協力者経由、アメリカにいるエムリーに届いたのを確認し、メモリーを消去して撮影を続けるという綱渡りで本作は出来あがりました。

ジャパンプレミアとして上映されたSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019で、審査員特別賞を受賞しましたが、ハサン・ファジリ監督はドイツで難民申請が受理され手続き中で出国できず、来日が叶いませんでした。その後、ドイツの永住許可を得たとのこと。
一家そろってドイツに到達し、永住権まで得ることができたのは、ほんとうに幸運なケースだと思います。移動途中で命を落としたり、家族が離散したりすることも多々あるでしょう。危険を冒してまで、故国を離れなければいけない人たちが世界の各地で後を絶たないことに胸が痛みます。誰しも、難民などと呼ばれたくないはずです。日本での公開を前にハッサン・ファジリ監督から届いたメッセージが、心に響きます。

★ハッサン・ファジリ監督から届いたメッセージ★
「私たちも母国を出たいわけでも、捨てたいわけでもない。
私たち、難民はいつも厄介者のような目でみられてしまう。しかし、私たちも人間です。
悲しみも、喜びも、希望もある。
私たちは食事のため、水のために、難民になっているわけではない。
望んで今の状態にあるわけではなく、私たちは仕方がなく、難民になってしまった。
本来は私たちも、アナタたちと同じような普通の人間なんです。
難民もひとりの人間。私たちの痛みも苦しみも理解をしてほしい。」


本作の公開日は、2001年9月11日の同時多発テロから20年に当たる日であり、アメリカ軍完全撤退の期限である日と、かなり以前に決められたのですが、アメリカ軍撤退に伴うタリバン勢力の拡大は予想以上に早く、8月16日に首都カーブルを制圧してしまいました。武力で民主主義を植え付けようとしたアメリカが出ていくことは歓迎ですが、今回もまた、土足でよその国に上がり込んで、後のことを考えず撤退することに憤りを感じます。部族社会の根強いアフガニスタン。女性隔離の慣習を持つパシュトゥンが国家権力を握ると、女性にとって、また暗黒の時代が訪れるのではないかと懸念します。さらなる難民が増えないことを願うばかりです。(咲)


この作品を初めて観たのは2019年の山形国際ドキュメンタリー映画祭。そしてこの作品は「優秀賞」を受賞した。しかし、映画祭へのハッサン・ファジリ監督の参加はなかった。監督と家族はまだ、ドイツの永住許可を獲得できてなくて、海外への移動はまだできなかったのだ。
しかし、この映画を2年前に観た時と今はアフガニスタンの状況が変わってしまった。2年前はタリバンがまさか復権するとは思ってもみなかったのに、この8月にアフガニスタンはまたタリバンに支配されてしまった。この国はイスラムの教義とか聖戦とかいう前に、男たちの権力争い、勢力争いに振り回され、力による支配が続いている。これまでの政権はアメリカの傀儡政権だったのだろうし、世界からの支援も、結局利権を獲得した層だけが得をしていたのだろうけど、それでも女性にとっては、タリバンの時代より暮らしやすかっただろう。しかし、またタリバンが支配することになってどうなってしまうのだろう。以前のタリバンの時代よりは女性の人権を考えると言っているらしいが、それにしたってたかが知れていると思う。
監督の家族たちは、約3年の月日を経てドイツの永住権を得た。しかし、ハッサン監督が「母国を出たいわけでも、捨てたいわけでもない。望んで今の状態にあるわけではなく、私たちは仕方がなく難民になってしまった」というように好き好んで難民になったわけではない。いつか祖国に帰りたいという気持ちはあるのだろうけど、この状態ではさらに帰りにくくなってしまった。こういう作品を観ると、私たちにできることはと思ってしまう(暁)。


参照
山形国際ドキュメンタリー映画祭2019 授賞式レポート
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/470947183.html

2019 年/87 分/アメリカ・カタール・カナダ・イギリス/ドキュメンタリー
配給:ユナイテッドピープル
公式サイト:https://unitedpeople.jp/midnight/
★2021年9月11日(土)シアター・イメージフォーラム他全国順次ロードショー


◆【緊急開催】アフガニスタンの今とこれから。
REALs理事長 瀬谷ルミ子さんに聞く。
日時:2021年9月7日(火) 19時から20時
場所:オンライン(Zoomミーティング)
主催:ユナイテッドピープル
協力:認定NPO法人REALs
料金:1000円/人
▼詳細・チケット https://peatix.com/event/2894439/view


◆トークイベント
9月11日(土)13:00-上映後、安田純平さん/ジャーナリスト
9月12日(日)13:00-上映後、綿井健陽さん/ジャーナリスト・映画監督
※聞き手、ユナイテッドピープル代表関根健次


posted by sakiko at 03:49| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年08月29日

『MINAMATA-ミナマター』公開記念 土本典昭監督作品特別上映 『水俣─患者さんとその世界─〈完全版〉』『水俣一揆─一生を問う人びと─』

9.11(土) ─ 9.23(木) ユーロスペースにて2週間限定公開

★『水俣-患者さんとその世界-<完全版>』

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(c)塩田武史

★『水俣一揆ー一生を問う人びとー』


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●ユーロスペース上映時間割

9月11日(土)~9月17日(金)
11:00『水俣─患者さんとその世界─〈完全版〉』
14:15『水俣一揆─一生を問う人びと─』

9月18日(土)~9月23日(木)
11:00『水俣一揆─一生を問う人びと─』
13:15『水俣─患者さんとその世界─〈完全版〉』

●記録映画作家土本典昭がみつめた水俣病患者たちの闘いの記録

水俣病が公式に確認されてから65年目を迎える今年(2021年)、ジョニー・デップ製作・主演の映画『MINAMATA─ミナマタ─』が9月23日より公開される。この映画の公開を記念し、社会的な弱者に目を向けたドキュメンタリー映画を多数発表し、水俣病を長期にわたり記録した土本典昭監督の水俣を描いた代表作、水俣病を世界に知らしめた『水俣 ─患者さんとその世界─<完全版>』 、チッソ本社と水俣病患者の直接交渉を記録した『水俣一揆 ─一生を問う人びと─』の2本が特別上映される。「記録なくして事実なし」と語る土本監督がみつめた水俣病患者たちの人間としての尊厳をかけた闘いの記録。ぜひ、こちらを観てから『MINAMATA─ミナマタ─』を観てほしい。これらの記録に残された印象的なシーンが『MINAMATA─ミナマタ─』の中で甦る。(暁)

土本典昭(つちもと・のりあき)
1928年岐阜県生まれ。記録映画作家。
岩波映画製作所を経て、1963年『ある機関助士』でデビュー。『ドキュメント 路上』、『パルチザン前史』などを発表ののち、1970年代以降「水俣」シリーズ17本を連作。1965年、テレビドキュメンタリー「水俣の子は生きている」で初めて水俣を取材し、それ以来40年に渡って水俣病に関する問題を記録し続けた。
『よみがえれカレーズ』などアフガニスタン関連作も3本を数える。
2008年6月24日逝去。

以下公式HPより

『水俣-患者さんとその世界-<完全版>』

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© ︎塩田武史

監督:土本典昭
1971年/167分/16mm /モノクロ/東プロダクション
1973年モントリオール世界環境映画祭グランプリ/1972年ベルン映画祭銀賞/1972年マンハイム・ハイデルベルク国際映画祭フィルムデュキャット賞
「水俣病」を世界に知らしめた記録映画の記念碑的作品。1969年、チッソを相手に裁判を起こした29世帯を中心に、潜在患者の発掘の過程を描き、肉親の記憶にのみ残された事実から水俣病患者の実態が明らかにされる。
※Blu-ray上映

『水俣一揆 ─一生を問う人びと─』

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*編集部:「チッソ水俣病患者連盟」の川本輝夫委員長がチッソとの交渉中、机の上に乗って会社側に迫っているこの有名な場面、映画『MINAMATA─ミナマタ─』の中でも出てきます

監督:土本典昭
1973年/108分/16mm /モノクロ/青林舎
水俣第2作。水俣病裁判判決の後、チッソ本社を舞台に生涯の医療と生活の補償を求め、チッソ本社と水俣病患者との直接交渉を同時録音を駆使し生々しく記録した長編ドキュメンタリー。交渉にあたる患者の行動を追う中で語られる、水俣病患者達の闘いの記録。
※Blu-ray上映
posted by akemi at 21:33| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

テーラー 人生の仕立て屋   英題:Tailor 原題:Raftis

発想の転換が未来を開いてくれる!

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監督・脚本:ソニア・リザ・ケンターマン
出演:ディミトリス・イメロス、タミラ・クリエヴァ

アテネ中心部にある高級スーツの仕立て屋。50歳になるニコスは、父のもとで36年間、黙々とスーツを仕立ててきた。既製品が安価で手に入るようなり、数年前にギリシャを襲った経済危機も相まって、お得意様の型紙の出番もほとんどない。そんなある日、銀行から突然店の差し押さえの通知が届く。ショックで倒れる父。ニコスは病院で見たキャスター付きの台を見て、ミシンを乗せた屋台を思いつき、移動式の仕立て屋を始める。だが、高値のオーダースーツは露店では全く売れない。そんな彼に、結婚式を控えた娘のためにウェディングドレスを仕立ててほしいと声がかかる。バイクを走らせ、郊外のカミニアの町に赴くニコス。採寸するもののウェディングドレスを作るのは初めて。隣家の夫人オルガと娘のヴィクトリアに手伝ってもらってウェディングドレス作りに挑戦する・・・

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© 2020 Argonauts S.A. Elemag Pictures Made in Germany Iota Production ERT S.A.

胸元がちょっと寂しいと言われ、レースのテーブルクロスを切って、さっとあしらうニコス。頑なに高級紳士服にこだわってきた父も、息子の作った斬新なウェディングドレスに、「悪くないね」とまんざらでもない様子。内気で黙々と足踏みミシンで作業していたニコスに、こんな才能があったなんてと、観ている私たちも驚かされます。
50歳にして危機に面し、お陰で父親の呪縛からも解かれて、自分らしい生き方を見つけるニコスがとても素敵です。コロナ禍の今、発想の転換が未来を切り開いてくれることを教えてくれる本作を観て元気を貰っていただければと願ってやみません。

ところで隣家のオルガが娘のヴィクトリアにロシア語で話しかけていて、娘から「ギリシャ語で話して」と言われています。オルガを演じたタミラ・クリエヴァはアゼルバイジャン出身ですが、ギリシャでは東欧などからの移民の女性をギリシャ男性が娶ることも多いとか。この映画の中でオルガの夫は暴力的なのですが、実はギリシャ女性は強いので、外国人妻のほうが夫は威張れるらしいです。
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© 2020 Argonauts S.A. Elemag Pictures Made in Germany Iota Production ERT S.A.
経済危機や移民のことなどをさりげなく背景にいれながら、独特の哀愁漂うコメディタッチで描いた作品。丸い缶から小粒のドロップをつまんで、ひょいと口に入れ仕事を始めるニコスの姿が忘れられません。抜けるような青空やピレウス港から眺めたエーゲ海、陽気な人たちの集う市場や結婚式・・・と、ギリシャの魅力もたっぷり描いたソニア・リザ・ケンターマン監督は、ちょうど今日8月29日に39歳となりました。次回作も期待したいです。(咲)


監督・脚本
ソニア・リザ・ケンターマン
SONIA LIZA KENTERMAN
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1982年8月29日生まれ。ギリシャ出身。ドイツ人の父とギリシャ人の母を持つ。アテネで社会学の学士号を取得した後、ギリシャのスタヴラコス映画学校と、イギリスで最も古い映画学校であるロンドン・フィルム・スクールで映画製作を学ぶ。彼女の卒業制作である短編映画“Nicoleta”(12・原題)はギリシャ映画アカデミー賞で最優秀短編映画賞にノミネートされた。41の国際映画祭に出品し、合計15の賞に輝く快挙を成し遂げた。今までに8本の短編映画を手掛けており、長編映画は本作が初めてとなる。ギリシャを拠点に、2本目の長編映画を製作中。(公式サイトより)

2020年/ギリシャ・ドイツ・ベルギー/ギリシャ語・ロシア語/101分/スコープ/カラー/5.1ch
日本語字幕:星加久実 字幕監修:柳田富美子
後援:駐日ギリシャ大使館 
配給:松竹
© 2020 Argonauts S.A. Elemag Pictures Made in Germany Iota Production ERT S.A.
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/tailor/
★2021年9月3日(金) 新宿ピカデリー、角川シネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開





posted by sakiko at 18:57| Comment(0) | ギリシャ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ミス・マルクス(原題:Miss Marx)

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監督・脚本:スザンナ・ニッキャレッリ
撮影:クリステル・フルニエ
衣装デザイン:マッシモ・カンティーニ・パリーニ
音楽:ガット・チリエージャ・コントロ・イル・グランデ・フレッド
   ダウンタウン・ボーイズ
出演:ロモーラ・ガライ(エリノア・マルクス)、パトリック・ケネディ(エドワード・エイヴリング)、フィリップ・グレーニング(カール・マルクス)、ジョン・ゴードン・シンクレア(フリードリヒ・エンゲルス)、フェリシティ・モンタギュー(ヘレーネ・デムート)、カリーナ・フェルナンデス(オリーヴ・シュライナー)、オリバー・クリス(フレディ)

1883年、イギリス。最愛の父カールを失ったエリノア・マルクスは、劇作家で社会主義者のエドワード・エイヴリングと出会い恋に落ちた。ところがエイヴリングは金銭感覚が普通でなく、浪費家で誰彼問わず借金をしては放置する。中でもエリノアを苦しめたのは、エイヴリングの女性関係だった。不実な男と知りながら、助けずにいられない。エリノアを心配し何かと話相手になっていた親友が国を出て、心のうちを話す相手がいなくなってしまった。父親から受け継いだ社会主義とフェミニズムを結びつけた草分けの一人として時代を先駆けながら、自分の信念と彼への愛情に引き裂かれていく。

カール・マルクスの伝説の3姉妹の末娘であり、女性や子供たち、労働者の権利向上のため生涯を捧げ、43歳の若さでこの世を去った女性活動家エリノアの、知られざる激動の半生を初めて映画化したのが本作。監督・脚本を手掛けたスザンナ・ニッキャレッリは、イタリア出身。前作『Nico, 1988』(17)でヴェネツィア国際映画祭オリゾンティ部門作品賞を受賞しています(未見)。
新しい思想、社会の改革を進めてきた聡明な女性が、なぜこんなに甲斐性のない浪費家でうそつきな浮気男を愛してしまったんでしょうか?「可哀想たぁ惚れたってことよ」という芝居の台詞が浮かんできます(寅さんだったかも)。しっかり者の女にはダメ男が寄ってくる、ということ?
支えようと頑張るあまり、いっぱいいっぱいになってしまったエリノア。誰かに愚痴をこぼして肩の荷を降ろすことができたならと思わずにいられません。ロックに合わせて激しく踊るエリノアの姿は、スザンナ・ニッキャレッリ監督からエリノアへのプレゼントでしょう。こんなにたぎる想いがありながら、十分に発揮できず。こんな風に自分を解放できたら違う結末になったはず。
エリノアという保護者を失ったエイヴリンはどうしたかと思えば、4ヶ月後に亡くなっています。それまでの浪費癖からくる大小の負債、多くの女性との不貞などで嫌われていたそうなので、それなりの最期であったようです。

2020年ヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門でFEDIC賞、ベストサウンドトラックSTARS賞の2冠に輝き、2021年ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞11部門ノミネート、3冠受賞を果たしました。公式サイトのTOPで印象的なサウンドトラックのさわりが聞けます。(白)


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Photo by Emanuela Scarpa


マルクスの末娘で、父譲りの政治活動家として労働者や女性の権利向上のために貢献し、「資本論」の英語版の刊行を手掛け、イプセンなどの戯曲を翻訳した演劇人としても知られたエリノア・マルクス。本作では、浪費家で女たらしのエイヴリングに翻弄された負の部分が強調されて、脆い面ばかりが印象に残ってしまいました。エイヴリングは既婚者でしたが、エリノアは「結婚は時代遅れの制度」と公言し、事実上の妻として同棲していました。(それ自体は、私は賛成!) ところが、それをいいことに、エイヴリングは妻とこっそり離婚し、若い女性と再婚! どこまで不実な男なのでしょう。
ところで、父カール・マルクスもまた不実な男だったことが明かされます。冒頭、父カールの埋葬式で、エリノアは父が17歳の時に出会った母イェニーと翌年結婚し、いかに仲睦まじかったかを熱く語ります。その後、父の盟友エンゲルスが亡くなる直前にエリノアに、エンゲルスとマルクス家の使用人ヘレーネとの間に生まれた息子フレディが、実はカール・マルクスとヘレーネの息子だと明かします。父の不実を知った時のエリノアは、どんな思いだったでしょう。ま、世の中、男も女もお互いに騙しあって生きているのだと考えると、スザンナ・ニッキャレッリ監督は、一人の女性の生涯を描きながら、現代にも通じる人間の本質を暴き出しているのだと感じます。(咲)


マルクスとエンゲルス、名前は知っていても、資本論などにどんなことが書かれているのかは知らない。それでも、労働者や搾取されている人たちを擁護する本や活動をしていた思想家ということくらいは知っている。でも、マルクスに3人の娘がいたことや、エンゲルスがマルクス家を援助していたということはこの作品で知った。また、マルクスの3女エリノア・マルクスのことも、彼女の活動のこともこの作品で知った。1970年代から婦人運動やウーマンリブなどの運動に興味を持ち、この運動で知り合った人もたくさんいて、今も励ましあいながら生きている私なのに、あの時代に男性に交じって労働運動、政治活動、女性の地位向上のために戦っていた彼女のことを、これまで全然知らなかったのはなぜだろう。そして、この作品を観ながら、あまり共感できないという思いもあった。せっかく、エリノア・マルクスのことを知らしめる作品なのに、彼女の思いや描き方になんか納得がいかなかった。事実をもとに語っているのだろうけど、正しいこと、目標としていることは良くても、なんだか違うなという思いがあった。それはきっと、上記で(咲)さんが書いていることにつながることかもしれない。いくらりっぱなことを言っている人でも、最低な夫を突き放さず擁護しているところが、私が彼女の生き方に共感できなかった原因かも。それにしても、せっかくエリノア・マルクスのことを知らしめる良い機会なのに残念(暁)

2020年/イタリア・ベルギー/カラー/ビスタ/107分/英語・ドイツ語
配給:ミモザフィルムズ
(c)2020 Vivo film/Tarantula  
https://missmarx-movie.com/
★2021年9月4日(土)よりシアター・イメージフォーラム、新宿シネマカリテほか全国順次公開

posted by shiraishi at 01:15| Comment(0) | イタリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする