2025年03月09日

Four Daughtersフォー・ドーターズ   原題:Les Filles d'Olfa

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(C)2023, TANIT FILMS, CINETELEFILMS, TWENTY TWENTY VISION, RED SEA FILM FESTIVAL FOUNDATION, ZDF, JOUR2FETE

監督・脚本:カウテール・ベン・ハニア (『皮膚を売った男』
撮影:ファルーク・ラリード 
美術:ベッサム・マルズーク 
編集:ジャン=クリストフ・ハイム、クタイバ・バルハムジ、カウテール・ベン・ハニア 
音楽:アミン・ブハファ 
出演:ヘンド・サブリ(『ヤコビアン・ビルディング』『ある歌い女(うたいめ)の思い出』『ヌーラの夢』)、オルファ・ハムルーニ、エヤ・シカウイ、テイシール・シカウ
イ、ヌール・カルイ、イシュラク・マタル、マージ・マストゥーラ

4姉妹の長女と次女は、なぜ15歳と16歳という若さで過激派組織IS(イスラム国)に参加する決断をしたのか?

チュニジアに住む母オルファと4人の娘たちの衝撃的な実話。
かつて仲の良かった家族は、長女ゴフランと次女ラフマがリビアでイスラム過激派組織に加わり、突如として引き裂かれてしまう。
監督のカウテール・ベン・ハニアは、行方知れずとなった2人の娘たちの姿を、プロの女優たちを起用して再現。彼女たちが過激思想に傾倒していった経緯を、丁寧に掘り下げていく。母オルファも撮影に参加するが、あまりにも辛い場面では、代わりにベテラン女優のヘンド・サブリが演じている。現在も母と暮らす3女エヤと4女テイシールは、自ら撮影に参加。カメラの前で家族の重要な出来事を再現することで、自分たちの物語を自分たちの言葉で語り直していく・・・。

いなくなった娘二人を演じる女優たちを前に涙するオルファ。そのオルファの初夜が再現されるのですが、夫を寄せつけず、夫を殴って出した血をシーツにつけて、それを処女の印としてオルファの姉が皆に見せたというのです。その後も夫と寝たのはお金が欲しい時と、子を授かりたい時だけ。そうして4人の娘を産み、さらにベン・アリ大統領が去って、自分も革命を起こし夫に別れを告げたというのですから、実にあっぱれ。そんな豪傑なオルファも、やはり母親。娘たちがイスラム過激派組織の男と結婚し、一緒にテロを起こしたことで、リビアで禁固16年の刑を受けていることに対し、チュニジアへの送還を求め続けています。

それにしても、ラフマとゴフランは、なぜイスラム過激派組織に惹かれたのでしょう?
ラフマは高校生の時、悪魔崇拝をしていて、日記には男子とキスしたことも書かれていました。ゴフランは男の子のバイクに乗る為に髪の毛を短くしていたのです。オルファがリビアに出稼ぎに行って留守の時のことでした。
そして、2013年、説教師たちが女性にヒジャーブを薦めるのを聞いて、二人はヒジャーブを気に入って、顔も隠すようになりました。
実は、ベン・アリ大統領の時代は、顔を隠すニカブどころか、スカーフも禁じられていて、スカーフを被ることが反体制の印だったと、本作を見て知りました。イラン・イスラム共和国政府が、ヘジャーブ(ペルシア語発音)を強制しているのと逆。何事も強制するのでなく、スカーフを被るのも被らないのも、個人の自由意志に任せてほしいというのが、皆の思いでしょう。
と言ってしまえば、自らヒジャーブ姿になり、イスラム過激派組織に参加した女性のことをとやかく言うことはできませんが、ヨーロッパ各国にもイスラム過激派組織の妻となった女性は多くいて、帰国したくても帰れない状況もあると思うと複雑です。親の気持ちを考えると悲しくもなります。

カウテール・ベン・ハニア監督が、再現も交えて作り上げたドキュメンタリーから、思春期の繊細な感情を持つ娘たちが、親からの軋轢や、社会の影響を受けながら、自分なりに大人になっていく姿を感じました。それが残念な結果を招いているとしても。

2023年のイスラーム映画祭8で上映されたハニア監督の『マリアムと犬ども』は、“アラブの春”と呼ばれたチュニジア革命後の2012年に実際に起きた警察官による性暴行事件をモチーフにした作品でした。イスラム主義政党はじめ様々な政治勢力が乱立する民衆革命後の混乱期に起きた事件ですが、監督は日本を含む世界に共通の問題として描いたとのこと。それは、『Four Daughtersフォー・ドーターズ』も同様だと感じます。(咲)


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東京国際映画祭『皮膚を売った男』TIFFトークサロン カウテール・ベン・ハニア監督Q&A



第76回カンヌ国際映画祭 最優秀ドキュメンタリー賞 受賞
第96回アカデミー賞 最優秀ドキュメンタリー賞 ノミネート
第39回インディペンデント・スピリット賞 最優秀ドキュメンタリー賞 受賞
第49回 セザール賞 最優秀ドキュメンタリー賞 受賞

2023年/フランス、チュニジア、ドイツ、サウジアラビア /アラビア語/ 107分/1.85 : 1 /カラー
日本語字幕:橋本裕充 字幕監修:鷹木恵子 
配給:イーニッド・フィルム
公式サイト:https://enidfilms.jp/fourdaughters
★2025年3月14日(金) 新宿シネマカリテ 他 全国順次公開





posted by sakiko at 03:19| Comment(0) | チュニジア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ドマーニ! 愛のことづて   原題:C'è ancora domani

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©2023 WILDSIDE S.r.l - VISION DISTRIBUTION S.p.A

監督:パオラ・コルテッレージ
出演:パオラ・コルテッレージ、ヴァレリオ・マスタンドレア、ジョルジョ・コランジェリ、ヴィニーチオ・マルキオーニ

戦後で荒廃したローマで逞しく生きる市民たちと権利を渇望する女性たち

1946年5月、戦後まもないローマ。デリア(パオラ・コルテッレージ)は家族と一緒に半地下の家で暮らしている。夫イヴァーノはことあるごとにデリアに手を上げ、意地悪な義父オットリーノは寝たきりで介護しなければならない。夫の暴力に悩みながらも家事をこなし、いくつもの仕事を掛け持ちして家計を助けている。多忙で過酷な生活ではあるが、市場で青果店を営む友人のマリーザや、デリアに好意を寄せる自動車工のニーノと過ごす時間が唯一の心休まるとき。母の生き方に不満を感じている長女マルチェッラは裕福な家の息子ジュリオからプロポーズされ、彼の家族を貧しい我が家に招いて昼食会を開くことになる。そんなデリアのもとに1通の謎めいた手紙が届き、彼女は「まだ明日がある」と新たな旅立ちを決意する・・・

『ジョルダーニ家の人々』 (10)や『これが私の人生設計』 (14)などシリアスドラマから大衆的なコメディまで幅広いジャンルの映画に出演し、イタリアの国民的コメディエンヌ兼女優として活躍するパオラ・コルテッレージが、本作でついに映画監督デビュー。 愛する娘の将来と夫の暴力に悩む主婦・デリアをパオラ・コルテッレージ自身が演じています。

夫イヴァーノが朝起きるなり妻デリアを殴る姿に、まずびっくり。美しい長女のマルチェッラは、中学に行きたかったのに、「専門学校で手に職つけさせた」と父親。裕福な家の息子ジュリオからプロポーズされ、幸せいっぱいだったのですが、結婚したら働くのを許さないという本音を聞いて、ちょっとがっかりします。戦後間もない1946年といえば、日本も同じような家父長的な社会でしたね。
そして、敗戦したイタリアには、米軍が進駐しているのも日本と同じ。黒人兵の家族の写真をデリアが拾ってあげたお礼にチョコレートを2枚貰います。(私の母も、戦後、神戸の居留地近くで働いていて、お使いに行った先のアメリカ人からチョコレートを2枚貰ったと言っていたのを思い出しました)
デリアは、帰り道に自動車工のニーノのところに寄って、二人でチョコレートを食べます。「一瞬の隙にヤツに君を奪われた」とニノは語っていて、今もデリアに気がありそう。そんなニノも、もうすぐ町を離れると言います。そんな時に届いた1通の手紙・・・  いつもツギハギのブラウスを着ているデリアが、新しいブラウスを縫って、手紙と一緒にバッグにしまいます。そして、日曜日・・・  
このあと、驚きのラスト!
もう、ほんとに驚きました。 ぜひ劇場で確かめてください。
男性優位の社会の中で、女性たちが自分の権利を求めようとする姿をユーモアも交えて見事に描いた1作です。(咲)


2023年/イタリア/118分
日本語字幕:岡本太郎
特別協力:イタリア文化会館
配給:スモモ
公式サイト:https://www.sumomo-inc.com/domani/
★2025年3月14日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国順次公開



posted by sakiko at 00:36| Comment(0) | イタリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年03月08日

私たちは天国には行けないけど、愛することはできる  原題:우리는 천국에 갈 순 없지만 사랑은 할 수 있겠지  英題:NO HEAVEN, BUT LOVE

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(C)2024 SW Content, All Rights Reserved.

監督:ハン・ジェイ
出演:パク・スヨン(『はちどり』)、イ・ユミ(「イカゲーム」)、シン・ギファン、キム・ヒョンモク

1999年、世紀末の初恋。
何もかもが容易ではなかったあの時代、どんな夏より熱い少女たちの愛と友情の物語


高校のテコンドー部に所属する少女ジュヨンは、国家代表を目指して練習に励む日々。終わるのを待ち構えていた男友だちのミヌとハンバーガー屋へ。バイトの女の子イェジに告白のメモを渡してほしいと頼まれ、そっとメモを渡すジュヨン。ある日、家へ帰る途中、ジェヨンはテコンドー部の先輩たちから暴行を受ける。 そこへイェジが、店の景品のおもちゃのパトカーのサイレンを鳴らしながらやってきて助けてくれる。偶然か必然か、ジュヨンとイェジは、 ジュヨンの母親が担当する少年院の家庭体験プロジェクトで一緒に暮らすことになる。
国家代表をかけての試合で、コーチから負けろと言われ、ジェヨンはテコンドーをやめる。
母親の提案で、ジュヨンとイェジは、ミヌや友達のソンヒも交えて益山(イクサン)に遊びに行く。「あなたが好きみたい」と告白するジュヨンに、イェジはそっとキスをする。夢のような時間。しかし、ある夜、二人が抱き合って寝ているのを見たジェヨンの母は、体験プログラムから降り、二人を引き離そうとする。お互い好きだという気持ちを大事にしたいだけなのに・・・。一方、国家代表を目指して頑張っていたソンヒがコーチにいたずらされているのを目撃したジェヨンは、警察に通報する・・・

1999年は、ノストラダムスの予言した地球終末論があちこちで聞かれた不安の時代。
階級差別や性差別がまだまだ色濃く残り、男のコーチにもなかなか逆らえない時代でした。理不尽な思いを封印せずに、果敢に闘うジェヨンの姿が眩しいです。
イェジがなぜ少年院に入ることになったのか・・・ 旅に出た益山で、その秘密が少し明かされます。イェジの母親のことも。
ジェヨンは、いつも一緒にいる男友達のミヌには、全然ときめかないのに、ちょっとミステリアスなイェジに恋してしまいます。淡い初恋。紫雨林(ジャウリム)の「恋人発見!!!」、神話(SHINHWA)の「ウッシャ・ウッシャ」、コ・ホギョンの「初めてだったの」など、 映画に出てくる曲の歌詞が、ジェヨンとイェジの気持ちにぴったり。
監督は、1999年の雰囲気を出すのに、ジュヨンの家とソンヒの家の室内の木の装飾を赤茶色に塗り直したとのこと。入手するのに一番苦労した小道具は、テコンドー大会のシーンで使用したヘッドギア。競技用のマットも当時の物を探してきたそうです。こだわりをぜひご覧ください。(咲)


2024年/韓国/112分/ビスタ/DCP5.1ch
字幕翻訳:石井絹香
配給:クロックワークス
公式サイト https://klockworx.com/movies/heaven/
★2025年3月14日 (金.) シネマート新宿ほか全国ロードショー




posted by sakiko at 23:50| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

スイート・イースト 不思議の国のリリアン  原題: Sweet East

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(C)2023 THE SWEET EAST PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

監督・撮影:ショーン・プライス・ウィリアムズ
脚本:ニック・ピンカートン
製作:クレイグ・ブッタ、アレックス・ココ、アレックス・ロス・ペリー
編集:ステファン・グレヴィッツ
プロダクション・デザイン:マデリン・サドウスキー
オリジナル音楽:ポール・グリムスタッド
サウンドデザイン:ディーン・ハーリー
出演:タリア・ライダー、サイモン・レックス、ジェイコブ・エロルディ、アール・ケイヴ

サウスカロライナ州の高校3年生リリアンは、彼氏のトロイ、親友のテッサ、何かとトロイにちょっかいを出してくるアナベルたち同級生と、修学旅行でワシントンD.C.を訪れている。夜、皆で抜け出して行ったカラオケバーで、はしゃぐクラスメイトたち。リリアンは乗り切れず、トイレの鏡の前で、ひとり物憂げに歌う。そんな折、陰謀論に憑りつかれた若い男が銃を乱射。リリアンは、ド派手なパンク・ファッションのケイレブに導かれ、トイレの大きな鏡の裏にある“秘密の扉”から地下通路へ・・・。

ここから始まるリリアンのあてどもない危うい旅。
チャームシティ(ボルティモア)で出会った大学教授ローレンスに、アナベルと名乗るリリアン。ローレンスと出かけたニューヨークのホテルから抜け出したリリアンは、映画と作っているという黒人のマシューとモリーに主演に抜擢される。撮影現場に現れたローレンスの仲間。映画の衣装のまま抜け出したリリアンは、車で拾われてバーモント州へ。人里離れたところで聞こえてくるアザーン。イスラーム教徒の男たちだった。そこからも抜け出し、気がつくと、ベツレヘムのミルク・グロット教会に何年もいたという男に助けられていた・・・ 

リリアンが出会う不思議世界にくらくら。
数多くの作品の撮影監督を務めてきたショーン・プライス・ウィリアムズの長編監督デビュー作。経歴の中に、かつてニューヨークにあった韓国移民のキム・ヨンマンが経営するビデオ・レンタル店Kim’s Video の店員だったとあり、興味津々。
2023年の山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映された『キムズ・ビデオ』(監督:デイヴィッド・レッドモン、アシュレイ・セイビン、アメリカ/2022年)で、貴重な映画のビデオが揃っていたことが語られていて、そこで店員をしていたとなれば、かなりレアな作品にも接していたはず。「クビになっても出勤し続け、働くことをやめず、最終的には強制的につまみ出された」そうで、ウィリアムズ監督が、いかに変わった人物であるか想像してしまいます。
「不思議の国のリリアン」と邦題に付されている通り、まさに予測不能なワンダーランド。アメリカ人、もしくはアメリカに詳しい人であれば、映画に出てくる様々なアイテムの意味がわかるのではないでしょうか。映画鑑賞後に、ぜひ公式サイトの「ひみつのとびら」を開けてみてください。(咲)


2023年/アメリカ/英語/104分/16:9/ビスタ/5.1ch/R15+
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
公式サイト:https://sweet-east.jp/
★2025年3月14日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開




posted by sakiko at 20:16| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年03月06日

35年目のラブレター

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監督・脚本:塚本連平
撮影:清久素延
音楽:岩代太郎
出演:笑福亭鶴瓶(西畑保)、原田知世(西畑皎子)、重岡大毅(若き日の保)、上白石萌音(若き日の皎子)、安田剣顕(谷山学)、笹野高史(逸美)、徳永えり(浩美)、ぎぃ子(美紀)、辻本祐樹(信介)、本多力(一秀)、江口のりこ(佐和子)、くわばたりえ(光江)

西畑保は貧しい家に生まれて子供の頃から労働力を期待され、学校へ通えずに大人になった。辛い思いもしたが、皎子(きょうこ)と出会い、幸せな結婚生活を続けてきた。読み書きができないことを愛妻にはどうしても打ち明けられない。ついにばれてしまい身の縮む思いの保に、皎子は「私があなたの手になる」と言う。定年退職を機に保は夜間中学に通い始めた。一字ずつ文字を覚え、いつか必ず妻へラブレターを渡したい。その一心で通学して5年。手紙はあともうすこしというときに、皎子は病気になってしまった。

若き日、熟年、二組の夫婦のキャスティングがよくて、仲の良さ、どんなときも支えあう睦まじさに胸がじーんとしました。もっと早く打ち明ければいいのに、とか、勉強するならもっと早くに、とか思ってしまいますが、思い通りにならないのが人生。あれこれあったこその「今」なのです。熱心な先生たち、いろいろ事情をかかえた同級生に囲まれて、保は一歩一歩進むことができました。いくつになっても、学ぶことができる、新しいことに挑戦できる、となんだか元気になります。実話なので、本当にこういうご夫婦がいらしたんです。笑福亭鶴瓶さん、役柄にぴったりですが『あまろっく』では中条あやみさん、今作では原田知世さんが奥様役とは!

☆夜間中学には義務教育を終了できなかった方ーー戦後の混乱期に育った方、不登校や病気などで通学できなかった方、外国籍の方ーーなど年齢も理由も様々な方々が入学し、学んでいます(政府広報はこちら)。つい最近の夜ドラマ『宙わたる教室』もヒットでしたね。山田洋次監督『学校』も夜間中学が舞台で、西田敏行さんが教師役でした。1993年~2000年に4作作られています。(白)


2025年/日本/カラー/120分
配給:東映
(C)2025「35年目のラブレター」製作委員会
https://35th-loveletter.com/
★2025年3月7日(金)ほか全国ロードショー
posted by shiraishi at 21:50| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする