2025年05月25日
パフィンの小さな島(原題:Puffin Rock and the New Friends)
監督:ジェレミー・パーセル
助監督:ロレイン・ローダン
脚本:サラ・ダディ
声の出演:新田恵海(ウーナ)、田所あずさ(イザベル)、上野樹里(ママ)、西垣俊作(パパ)、高野麻里佳(ババ)
パフィン(ニシツメドリ)の女の子ウーナと弟のババは、アイルランドの西にある小さな”トンガリ島”に住んでいる。ある日嵐が吹き荒れ、故郷を失った動物たちが島に逃れてきました。パフィンの仲間のエトピリカのイザベルもその一人です。ウーナは何かと声をかけますが、イザベルはなかなかうちとけることができません。けれどもみんなの仲間に入りたいのです。ある日、イサベルが誰にも相談せず自分一人でしたことが、思いがけないことになってしまいました。
『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』『ウルフウォーカー』を送り出したアニメ・スタジオ カートゥーン・サルーンの最新作がやってきました。監督はジェレミー・パーセル。ヒロインのウーナは絶滅危惧種に指定されているパフィンという海鳥。ペンギンのように白と黒の羽色、黄色とオレンジの嘴が大きくて目立ちます。足も嘴とお揃いのオレンジ。
あとからやってくるエトピリカのイザベルも同じ仲間で、やはり絶滅危惧種だそうです。そんな珍しい鳥が生息しているアイルランドにちょっと行って見たくなります。
映画は絵本のように、美しい色使いとやさしい言葉で島の動物たちや植物たちを見せていきます。人間界でこのごろ問題になっている「多様性を認めて、仲良く暮らしている」姿がありました。新しい暮らしに飛び込み、居場所を探すイザベルの寂しさは、故郷を離れて生きねばならない人たちと同じでしょう。
声高に何かを訴えるわけではありませんが、あとからじんわりとしみてくる映画でした。小さなお子様もぜひご一緒に。(白)
2023年/アイルランド、イギリス/カラー/80分
配給:チャイルド・フィルム
© 2023 Puffin Rock and The New Friends
提供:チャイルド・フィルム/代々木アニメーション学院/チャンス イン/ミッドシップ
後援:アイルランド大使館
https://child-film.com/puffin/
X:@cartoonsaloonjp
★2025年5月30日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー
犬の裁判 原題:LE PROCES DU CHIEN

(C)BANDE A PART – ATELIER DE PRODUCTION – FRANCE 2 CINEMA – RTS RADIO TELEVISION SUISSE – SRG SSR – 2024
監督:レティシア・ドッシュ
出演:レティシア・ドッシュ、フランソワ・ダミアン、ジャン=パスカル・ザディ、アンヌ・ドルヴァル、コディ(犬)、マチュー・ドゥミ、アナベラ・モレイラ、ピエール・ドラドンシャン
スイスの小さな町。40歳になる弁護士アヴリルは、負け裁判ばかりで事務所から解雇寸前。次の事件では必ず勝利を勝ち取ろうと決意していた。そんな折、ある男から、かけがえのない伴侶の犬コスモスの弁護を依頼される。3度、人に噛みついた犬は安楽死させるという法律があって、コスモスは安楽死、飼い主には罰金1万フランを課せられるというのだ。またしても勝ち目がない弁護なのに、アヴリルはどうしても見過ごせず引き受けてしまう。「犬は“物”ではない」と主張するアヴリル。前代未聞の犬が被告となった「犬の裁判」が始まる・・・
主演・監督:レティシア・ドッシュ
1980年9月1日フランス、パリ生まれ。
2010年、フレデリック・メルムー監督“Complices”で長編映画デビュー。
2012年、短編映画“Vilaine fille, mauvais garcon”に出演し、フランス国内の映画祭で多くの賞を受賞。
2017年には、カンヌ国際映画祭カメラ・ドール受賞のレオノール・セライユ監督『若い女』で主人公を演じ、2018年のリュミエール賞最有望女優賞を受賞。
主な出演作に、ジュスティーヌ・トリエ監督『ソルフェリーノの戦い』(2012)、ギヨーム・セネズ監督『パパは奮闘中!』(2014)、マイウェン監督『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』(2014)、クリストフ・オノレ監督“Les Malheures de Sophie(原題)”(2015)、カトリーヌ・コルシニ監督『美しい季節』(2015)、アントニー・コルディエ監督『ギャスパール、結婚式へ行く』(2017)など。ダニエル・アービッド監督『シンプルな情熱』(2020)では主人公のエレーヌ役を好演。最近作は、ジュスト・フィリッポ監督『ACIDE/アシッド』(2024)、ティエリー・クリファ監督“Les Rois de la Piste”(2024)、アルノー&ジャン=マリー・ラリュー監督“Le Roman de Jim”(2024)など。(公式サイトより)
女優レティシア・ドッシュの初監督作品。彼女の馬を題材にした舞台「HATE」を見たスイス人プロデューサーのリオネル・バイエルから持ち込まれた企画。犬が被告となった実話を聞かされ、コメディで描きたいと直感。弁護士アヴリルを自身で演じています。
コミカルでありながら、人間と動物との関係や、40歳という女性という立場で感じている思いも描かれています。また、コスモスの飼い主ダリウシュが視覚障がい者という社会的弱者であったり、アヴリルの臨家に住む少年が虐待を受けているといったことも織り込まれています。
法廷には、ユダヤ、イスラーム、仏教、キリスト教の聖職者や、精神科医も臨席し、いかに公平かつ丁寧に裁判官が犬のことを裁こうとしているかが伺えます。人間さまの裁判にも同様であってほしいと思ってしまう顔ぶれ。でも、思わず笑ってしまいましたが。
コスモスを演じたコティが、カンヌ国際映画祭で、パルム・ドッグ賞を受賞した名演技。
さて、裁判の行方は? (咲)
第77回カンヌ国際映画祭パルム・ドッグ賞(最優秀犬賞)受賞
第77回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門正式出品作
2025横浜フランス映画祭出品作
2024年/スイス・フランス/フランス語/81分/1.85:1)
配給:オンリー・ハーツ
公式サイト:http://kodi.onlyhearts.co.jp/
★2025年5月30日(金)よりシネスイッチ銀座・UPLINK吉祥寺ほか全国順次公開
2025年05月24日
秋が来るとき 原題:Quand vient l'automne
監督・脚本:フランソワ・オゾン(『8 人の女たち』、『ふたりの 5 つの分かれ路』、『苦い涙』)
共同脚本:フィリップ・ピアッツォ
出演:エレーヌ・ヴァンサン、ジョジアーヌ・バラスコ、リュディヴィーヌ・サニエ、ピエール・ロタン
80歳のミシェル。パリのアパートを娘に譲り、今は、自然豊かなブルゴーニュの田舎で一人暮らしをしている。家庭菜園で採れた野菜で料理を作り、日曜日には教会へ。近くに住む親友のマリー=クロードとは姉妹のように仲がよく、収監されている彼女の息子ヴァンサンとの面会の為に、車で送っていくのもミシェルの役目だ。
パリに住む娘ヴァレリーから、秋の休暇を利用して孫ルカを連れていくと連絡をもらい、マリー=クロードと森にキノコを採りにいく。キノコ料理を振舞うが、唯一それを口にしたヴァレリーが食中毒を起こし、ヴァレリーはルカを連れてパリに帰ってしまう。孫ルカと過ごすのを楽しみにしていたミシェルは、パリに行くが・・・
母親がキノコで毒殺しようとしたと言うほど、ヴァレリーはミシェルのことを信用せず嫌っている理由が明かされた時、はっとさせられます。一方、マリー=クロードは息子が道をはずしたのは、自分のせいと悔やみ、それが身体にも出てしまいます。成人したら、もう本人の責任と思いますが、母親にとっては、いつまでも子どもなのですね。
登場人物のそれぞれが秘密を抱え、自分の人生のため、そして近しい人たちの幸せのため、秘密を封印します。これもまた処世術。
美しい撮影地は、ブルゴーニュ地方コーヌ=シュル=ロワール近郊のドンジー。監督が子供の頃、毎年休暇を過ごした場所だそうです。
そして、キノコ料理で中毒を起こしたエピソードは、子供の頃、叔母が自ら摘んできたキノコを料理して振る舞った時に、叔母以外の家族全員が中毒を起こしたという経験から着想。叔母だけがキノコ料理を口にしなかったのだとか。
1943年生まれのエレーヌ・ヴァンサンが、これまでの人生への複雑な思いを抱えたミシェルを気丈に演じて、素敵です。(咲)
第72回サン・セバスティアン映画祭 脚本賞&助演俳優賞受賞!
2024年/フランス/フランス語/103分/ビスタ/カラー/5.1ch
日本語字幕:丸山垂穂
配給:ロングライド、マーチ
公式サイト:https://longride.jp/lineup/akikuru/
★2025年5月30日(金)新宿ピカデリー、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
デリカド 原題:DELIKADO
監督:カール・マルクーナス
製作総指揮:ジョディ・アレン、ビーディー・フィンジー、サパナ・バシン、アレクサンドラ・ジョーンズ、ジム・バターワース、 他
プロデューサー:マーティ・シジュコ、マイケル・コリンズ、カラ・マグサノック・アリッパラ、カール・マルクーナス
撮影監督:トム・バニガン 編集:マイケル・コリンズ、エリック・ダニエル・メッツガー
音楽:ナイニータ・デサイ
登場人物:ロバート・チャン、ニエヴェス・ロセント、エフレン・バラダレス、ルベン・アルザガ、ロドリゴ・ドゥテルテ
命懸けで森を守る。これはもはや戦争だ。
気候変動の最前線でフィリピン“最後の秘境”を決死で守る環境活動家たちを追うドキュメンタリー
フィリピンのパラワン島は“最後の秘境”、“最後の生態系フロンティア”として名高く、アジア屈指のリゾートとなった「世界で最も美しい島」。ここには
世界中から観光客やダイバーが訪れる。しかし、この一見のどかな熱帯の島では、違法伐採や違法漁業が横行している。この雄大な生態系を守るため、地元の環境保護団体を束ねるパラワンNGOネットワーク(PNNI)が立ち上がった。
環境警備隊である彼らの闘いは戦争に近い。違法伐採者はライフルで武装しており、命を落とすメンバーが後を絶たない。PNNIの代表ボビーは環境弁護士として仲間と共に、パラワン島の生態系を“経済発展”のために破壊しようとする腐敗した政治家や実業家を相手に命がけの闘いを挑む。
パラワン島を守るためエコツーリズムの推進を掲げる候補者の町長再選にも協力するが、時のドゥテルテ大統領に殺害予告を受ける。
果たして彼らは“最後の秘境”を守ることができるのだろうか──。
響いてくるチェーンソーの音を頼りに森を進み、違法伐採者を捕まえるPNNIのメンバーたち。押収したチェーンソーを事務所の前に積み上げた姿が圧巻。その数700台以上。違法に伐採した木材を運んだ船やトラックも事務所の敷地内に展示されています。
モラルのない違法伐採者が、あまりにも多いことに驚きますが、環境を命がけで守ろうとする活動家がわずかでもいることに救われます。けれども、権力を握る政治家たちの意識を変えない限り、違法伐採を根絶できないであろうことも、本作は示唆しています。フィリピンだけでない、世界の問題。悲しい現実を突きつけられた思いです。(咲)
本作の主人公 PNNI代表、ロバート・“ボビー”・チャン 弁護士来日 緊急決定!
シアター・イメージフォーラムでアフタートークが行われます。
●5/31(土)11:00の回上映後
●6/01(日)11:00の回上映後
2022年/98分/米国・フィリピン・英国・オーストラリア・香港/ドキュメンタリー
配給:ユナイテッドピープル
公式サイト:https://unitedpeople.jp/delikado/
★2025年5月31日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー
劇場が終わるとき
製作、監督、撮影、編集:真喜屋力
ナレーション:木村あさぎ
音楽監督:上地 gacha 一也
演奏:kgk 川崎巽也(guitar)、上地 gacha 一也(bass)、城間和広(drum)
音楽録音(kgk):森脇将太
劇中歌:『祝日』タテタカコ、『夢のなかでないた』とんちピクルス
エンディング曲:『ダニーボーイ』 真喜屋志保(トランペット)& kgk
出演:石川真生、金城政則、牧瀬茜、ほたる、とんちピクルス、平良竜次、佐久田立々夏、金城裕太、仲田幸子(特別出演)、仲田まさえ
1950年に建てられた首里劇場は、沖縄最古の映画館。映画上映、沖縄芝居の上演など地域文化の中心だったが、やがて映画産業斜陽の時代を迎える。多くの映画館が閉館していく中、金城政則は赤字経営の劇場を父親から引継ぎ、三代目館長となった。80年代中頃から成人映画専門館に変えて、映画館を閉じずに守り続けてきた。2021年名画座へと転身を図るも、翌年4月癌のために急逝した。劇場も72年の歴史の幕を閉じる。
真喜屋力監督は、旧知の館長が亡くなった後「首里劇場調査団」のメンバーとして活動しながら、本作の制作を開始。沖縄を代表する写真家石川真生(いしかわ まお)さんに声をかける。石川さんは「私は写真を撮るから映像を」と提案。ひっそりと朽ちて消えゆく劇場、劇場と共に生きた金城親子、病を抱えながら写真を撮り続ける石川さんの人生が重なってゆく。1992年の『パイナップル・ツアーズ』の監督の一人でもあり、長く映画に関わって来た真喜屋力監督の初長編監督作品。
首里劇場を一人で支えてきた三代目館長は、不調でも病院に行かずに仕事に打ち込み、入院したときにはすでに手遅れで数日後亡くなられます。ようやく名画座にしたばかりで、これから!と思うところあったはず。壁に残された写真や手書きのタイトル、甥御さんが語るエピソードに切なくなりました。来る人がいなくなって風化していく劇場は、人の想いやかつての喧騒もしみこんでいるような気がしました。大きな屋根は重機であっという間に落ち、世の儚さも感じます。
昨年夏に公開された石川真生さんのドキュメンタリー『オキナワより愛を込めて』でこれまでの人生や数々の写真を見て、圧倒されました。すごくパワフルな方と思っていましたが、今回印象が違うのはずっと闘病中だったのですね。痛みに耐えてカメラを構える石川さんが、「それでも写真が好き」と笑顔で言うのに、へたれな私は逆にエールをもらいました。(白)
沖縄を描いた映画をたくさん観ていたので、その中に「首里劇場」は出ていたのかもしれませんが、「首里劇場」のことを認識したのは、渡辺紘文監督主演、リム・カーワイ監督の『あなたの微笑み』(2022年11月12日公開)でした。渡辺監督が自分の作った映画を上映してもらうため全国各地のミニシアターを訪ね歩くという作品だったが、その中に首里劇場も出てきて金城政則館長も出演していた。そして、館長がこの年(2022)亡くなったということを知った。その後、首里劇場が出てくる映画を観るたびに、首里劇場は今、どうなっているのだろうと思っていた。リム・カーワイ監督は、その後、日本中のミニシアターを訪ね歩くドキュメンタリー『ディス・マジック・モーメント』も作り2023年11月25日公開しているが、ここにももちろん首里劇場は出てきた。
そして、奈須重樹さんの音楽活動30周年を記念して作られた『一生売れない心の準備はできてるか』(映画公開2024年4月26日)の中では、奈須さんが所属するグループ「やちむん刺激茄子」の25周年首里劇場ライブ(2016年)が出てきたし、今回出演している石川真生さんを撮ったドキュメンタリー『オキナワより愛を込めて』の中では、仲田幸子さんたちの舞台を首里劇場で撮った場面も出てきた。という具合に、映画だけでなく、数々の沖縄の芸能を支えた劇場だった(暁)。
2024年/日本/カラー/90分/PG12
配給協力:MAP
https://gekiowa.com/
★2025年5月24日(土)ユーロスペースほか全国ロードショー