2023年11月27日

アダミアニ 祈りの谷

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(C)2021 ADAMIANI Film Partners

監督・撮影:竹阿寬俊
撮影:山内秦
編集:Herbert Hunger
音楽:Julien Marchal
出演:レイラ・アチシビリ、マリアム・ケバゼ、アボ・アチシビリ、バルバラ・コンコレフスカ

ジョージアの東、パンキシ渓谷。
ここは、チェチェン紛争で「テロリストの巣窟」と汚名を着せられるも、美しい山岳地帯。
本作は、パンキシ渓谷で暮らす、キスト(チェチェン系ジョージア人)と呼ばれるイスラーム教徒の人々を3 年間に渡り記録したドキュメンタリー。

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(C)2021 ADAMIANI Film Partners

レイラは、二人の息子をシリアでの戦いで失った悲しみを抱えながら、娘のマリアムと美しい庭が自慢のゲストハウスを営んでいる。レイラのいとこのアボは、旅行者をコーカサスの山々へ案内するガイド。戦士の一族に生まれたアボもまた、ロシアとの戦争で見たことが忘れられないでいる。レイラもアボも、つらい過去を封印し、異教徒の人たちとも融和をはかり、世界の人たちにパンキシ渓谷の美しさを知ってほしいと夢見ている。

“アダミアニ”とは、神が最初に創造したアダムを語源とするジョージア語で“人間”を意味する言葉。

ジョージア東部に位置するパンキシ渓谷には、19 世紀に現在のチェチェン、イングーシ地域から移住した「キスト」の末裔が暮らしています。国民の大多数が正教徒のジョージアで、キストは伝統的なイスラームの信仰を守り、牧畜や農業を営みながら、ジョージア人と共存してきました。
1994 年、ロシアからの独立を求めて始まった第二次チェチェン紛争で追い詰められたチェチェン難民や独立派ゲリラが、国境を越えパンキシ渓谷に押し寄せ、さらに、独立派勢力を支援するアラブからのムジャヒディンや、麻薬や武器密売を請け負うマフィアまでが潜伏。パンキシ渓谷には「テロリストの巣窟」というイメージが定着してしまいました。

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(C)2021 ADAMIANI Film Partners

パンキシ渓谷には、11軒のゲストハウスがあって、レイラをはじめオーナーはすべて女性。
ポーランドの女性バルバラがここを気に入って、女性たちを率いて訪ねてきます。アボは、バルバラの招きで、ポーランドにパンキシ渓谷のPRに行くのですが、なんとも前途多難。それでも、アボとバルバラは、2017年にツアー会社Caucasus X-Trek Pankisiを設立します。
(★その後、アボさんとバルバラさんは、ご結婚♪ レイラさんの娘のマリアムさんは、大学に進学。)

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(C)2021 ADAMIANI Film Partners

レイラたちは観光協会を設立し、バンキシ祭で、イメージ一新のための企画を立てます。そんな折、パンキシで強制捜査を行ったジョージアの特殊部隊が、テロリスト幇助の疑いでキストの19歳の青年を銃撃し、亡くなってしまいます。 青年のお墓は祭の開催場所のすぐ隣りにあり、父親は、証言の機会も与えられず、テロリストと汚名を着せられ殺された息子の墓のそばでの祭りに反対します。
美しい景色を見ながら、この地にいつ平和は訪れのだろう・・・と、暗澹たる思いにかられました。異教徒が共存できる日が早く来ることを願うばかりです。(咲)


パンキシ渓谷、素晴らしい景色が広がっている。そこに住むイスラム教徒のキスト人たち。国民の大多数がキリスト教徒であるジョージア人と共存してきましたが、チェチェン紛争、シリアでの戦いなどの混乱のなか、レイラさんは二人も息子を亡くしました。そんな悲しみを抱えながら、パンキシ渓谷の美しさを知ってほしいとゲストハウスを営む。同じようにゲストハウスを営む女性たちと、ここをもりたてようと活動をしています。
この女性たちの活動、行動は素晴らしい。そんな彼女たちの活動に、日本での地域おこし協力隊などの活動を思い起こしました。そして、私が5年間暮した長野県の白馬村でのことも思いだしました。ここも素晴らしい景観を元に観光地化され、日本でも有数の観光地になり、オリンピック開催地にまでになりました。私が50年くらい前に行った時はまだ素朴な山村の村だった白馬村をはじめとする長野の観光地は、スキーブームや観光地化によっておしゃれな場所に生まれ変わっていったけど、そのブームが去って、ペンション村などは少し寂しくなっています。このパンキシ渓谷の人たちが、同じ轍を踏まないでほしいと思う。それにしても素晴らしいところですね(暁)。



『アダミアニ 祈りの谷』劇場公開記念 舞台挨拶
2023年12⽉3⽇(日) 11:50の回上映後
<登壇予定> 加藤登紀子さん/竹岡寛俊監督

2023年12月10日(日) 15:20~の回上映後
はらだたけひでさん(絵本作家・ジョージア映画祭主宰)、竹岡寛俊監督による舞台挨拶



【映画祭記録】
ジョージア映画祭 2022 特別上映
第 62 回クラクフ映画祭正式出品 国際映画批評家連盟賞受賞
Kathmandu International Mountain Film Festival 2022 正式出品
東京ドキュメンタリー映画祭 2022 長編部門グランプリ
South East European Film Festival ドキュメンタリー部門最優秀撮影賞


2021年/日本・オランダ/カラー/120分/ビスタ/5.1ch/G
共同製作:MUYI FILM
配給:アークエンタテインメント
公式サイト:http://inorinotani.com/
★2023年12月1日(金)より YEBISU GARDEN CINEMA ほか全国ロードショー
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2023年11月26日

Maelstrom マエルストロム

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監督・撮影・編集・ナレーション:山岡瑞子
撮影:本田 広大 平野 浩一 高橋 朋
音楽:オシダアヤ

2002年6月のはじめ、NYにある美術大学を卒業し、あと一年間プラクティカル・トレーニングビザで滞在予定だった留学生が、アパートの契約金を下ろしに銀行に向かう途中、事故が起きた。こんな事故は日常に見聞きする、よくあること。殺人事件に巻き込まれなくて良かった。でも、その留学生は、その家族は帰国後、どうなったのだろうか。突然、それまでの日常を失い、それまでの時間が存在しない場に戻った時、何がその人らしさを繋ぎ止めるのか−−−。事故の当事者になった“私”は、大混乱の中、変わってしまった日常の記録を始めた。事故前の自分と繋がり直し、探している場所に辿り着けることを祈りながら−−−。

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山岡瑞子監督(オフィシャル画像)


留学した美大を卒業し、洋々と広がる前途に夢や不安を抱いていた時に遭遇してしまった交通事故。目が覚めたときの混乱はいかほどだったでしょう。淡々としたナレーションを耳にしながら映像を観続け、そのショックや現状を受け入れ、進むまでの毎日を思いました。
会見で山岡監督がおっしゃったように、事故は本当に身近にあります。それが一瞬にして人生を変えてしまうことも。大きな転換を体験した山岡監督のこれまでの日々が、編集するたびに蘇ったはず。5年かかったというのも無理のないことです。
事故に遭った方や家族がその後どんな風に暮らしていったのか、つぶさに見せていただきました。山岡監督はアートや家族の支えをよりどころにして、現在に至ります。

自分でも、大きなトラックとぶつかりそうになって、ひやりとしたことがあります。大きな事故にはならないで済んだものの、ほんの数秒違っていたら、今はありません。数年後自宅前で後ろから来た車のサイドミラーが接触して前に飛んだこともあります。立ち上がれずにいたら、接触した車から運転していた人が降りて来て、近所の人も近づいて声をかけてくれました。念のため外科に行きましたが打撲だけで済みました。しばらくの間、車が接近してくると身体が固まりました。自転車に乗っていて、人とぶつかったことも。自分が加害者になることだってあります。以来、自転車はやめて歩いています。(白)


私は定年退職するまでの約15年、障害者の人たちが作った、障害者、高齢者のためのリハビリ機器を販売する会社で働いていた。カタログの制作部門で働いていたが、そのカタログは商品の紹介だけではなく、この会社を立ち上げた社長の思いから、障害者福祉や介護保険制度などにも言及し、障害者の権利や利用の仕方なども紹介していた。
「障害者差別解消法」が平成25年(2013)6月に制定されたが、この法律の実現には「障害者差別禁止法を実現する全国ネットワーク」の働きかけがあった。社長はこのJDA(Japanese with Disabilities Act、「障害のある日本人のための法律」の略)を実現するための全国ネットワークを立ち上げ、介護保険の問題にとどまらず、障害者が一人の国民として当たり前の人生、生活を確保できる社会をつくることを目標に運動していた。
そんなこともあり、この会社では障害者も多数働いていた。障害があるからといって何もできないということはないと、自分に残された能力を使って働いていた。そのような会社だったので、障害者であろうと介護が必要な人であろうと「なんでもやってあげるのではなく、残っている能力をできるだけ生かし、できないことを援助する」という考え方が基本だった。
そして、私は現在障害者1級である。10年前、心臓弁膜症の手術をしたことで障害者になった。それ以来、私も「やれることは自分でやる」を忘れずに行動している。自分が障害者になるなんて考えてもいなかったけど、それはある日突然に降りかかった。

そして、山岡瑞子監督の作品。山岡監督は交通事故で大きな障害を負い下半身不随になった。突然、変わってしまった生活、ぞして人生。自身が巻き込まれ体験したmaelstrom(大渦巻き)、その日常生活を記録し、それを自身の作品としてまとめた。
車いすで行動しながら、その車いすの高さの視点で回りの景色を映し出していたのが新鮮だった。膝の上にカメラを載せて、その高さから見える世界は、これまで見たことのない、アングルからの映像である。
そして、交通事故の前に目指していたアートの世界にも挑戦していこうという思いを語る。この作品をきっかけに、新たな出会いもあるでしょう。それが新たな作品を作ることにつながるかもしれません。とにかく新たな一歩を踏み出しました。自信をもってください(暁)。

☆記者会見オフィシャルレポートはこちらです。

2022年/日本/カラー/HD/79分
配給・宣伝協力:ムービー・アクト・プロジェクト
公式Twitter @MizzyFilms
公式Facebook https://www.facebook.com/maelstormfilm
山岡瑞子HP https://mizuko-yamaoka.amebaownd.com
★2023年12月2日(土)~8日(金)横浜シネマリンにてロードショー

【トークイベント】13:50回上映後
★12/2(土) 矢田部吉彦さん(前東京国際映画祭ディレクター)
★12/3(日) 早川千絵さん(映画監督)
★12/4(月) 深田晃司さん(映画監督)
★12/5(火) 高橋慎一さん(映画監督)
★12/6(水)伊勢真一さん(映画監督)
★12/7(木) 諏訪敦彦さん(映画監督)
★12/8(金) 倉石信乃さん(明治大学教授・写真史)

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隣人X -疑惑の彼女-

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監督・脚本・編集:熊澤尚人
原作:パリュスあや子「隣人X」(講談社文庫)
音楽:成田 旬
主題歌:chilldspot「キラーワード」
出演:上野樹里(柏木良子)、林遣都(笹憲太郎)、ファン・ペイチャ(リン・イレン)、野村周平(仁村拓真)、川瀬陽太(内田瑛太)、嶋田久作(小池編集長)、原日出子(柏木麻美)、バカリズム(月村祐一 )、酒向芳(柏木紀彦)

ある日、日本政府は故郷の惑星から追われた難民Xの受け入れを発表した。人間の姿で日常に紛れ込んだXがどこで暮らしているのか、誰も知らない。彼らの目的は何なのか?何の情報もないため、疑心暗鬼にかられた人々は誰がXなのか、つきとめようとする。
週刊東部の編集部では調査会社にX疑惑のある人間を探させ、記者たちに二人ずつ割り振って証拠を見つけろとハッパをかける。契約社員の笹は台湾からの留学生リンと、コンビニと宝くじ売り場のWワークをしている柏木良子を監視することになった。この記事をものにしないと契約を切られてしまう笹は、スクープのため良子へ近づいていく。二人は少しずつ距離を縮め、やがて笹は良子に好意を持つが、Xかもしれないという疑惑をぬぐい切れない。

とっても久しぶりの上野樹里さん、7年ぶりの映画主演だそうです(いつのまにか結婚されていました)。10代から見ているのに、林遣都さんも家族を背負い無精ひげも似合う年代になりました。そのお二人が初共演、熊澤監督と上野さんとは『虹の女神 Rainbow Song』以来17年ぶり、林さんとは『ダイブ!!』以来15年ぶりのタッグです。
この作品では、Xは誰なのか、未知のものにどう対処していくのか、二転三転するストーリーを追いかけるうちに明らかになります。初めてのもの、わからないものに出会ったらどうしますか?興味を持って知ろうとするでしょうか?恐怖心が勝って逃げ出したり、ないものとしたりするかもしれません。恐怖が蔓延すると、往々にして対象の排除に向かいがち、前例がいっぱいありそうです。この3年ほど、世界中が新型ウイルスのコロナに翻弄されました。この物語での混乱ぶりもそれによく似ています。
(白)


2023年/日本/カラー/シネスコ/120分
配給:ハピネットファントム・スタジオ
(C)2023 映画「隣人X 疑惑の彼女」製作委員会 (C)パリュスあや子/講談社
公式サイト:https://happinet-phantom.com/rinjinX/
公式X:@rinjin_x
★2023年12月1日(金)新宿ピカデリー 他全国ロードショー

posted by shiraishi at 14:47| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ショータイム!(原題:Les Folies fermieres)

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監督・脚本:ジャン=ピエール・アメリス
撮影:ヴィルジニー・サン=マルタン
音楽:カンタン・サージャック
出演:アルバン・イワノフ(ダヴィッド)、サブリナ・ウアザニ(ボニー)、ベランジェール・クリエフ(レティシア)、ギイ・マルシャン(レオ)、ミシェル・ベルニエ(ミレーユ)

フランスの中南部、カンタル地方。経営危機に陥っている農場主のダヴィッドは地方裁判所の判事の元へ“出頭”する。祖父の代から続いた農場を差し押さえられないよう猶予をもらうつもりだ。なんとかあと2か月の猶予をもらえたが、何の打開策も浮かばない。傷心のまま歩くダヴィッドの目にキャバレーのネオンサインが飛び込んでくる。
初めて観るダンサーのパフォーマンスにくぎ付けになったダヴィッドは、自分の農場でこれと同じことができないかとひらめく。恐る恐るキャバレーに出向いてみると、ボニーがボスと喧嘩して出てくるところだった。この僥倖に遭遇して、普段は口下手なダビッドは勇気を振り絞って声をかける。思いがけないスカウトにボニーは警戒するが、誘いに乗ってみる。何しろクビになったばかりでほかに行く当てがなかった。

あれあれというようなストーリーですが、実際にあったことです。アメリス監督は2018年1月に主人公のモデルとなったダヴィッド・コーメット氏の記事を見つけ、その奇抜なアイディアに興味をひかれ、映画を作ろうと思ったそうです。酪農家や農場主の苦難は実際多く、自殺に追い込まれる人も出ていました。起死回生の勝負に出たダヴィッドは、ショウを盛り上げるパフォーマーを捜し歩きます。ボニーはコーチで演出家となり、寄せ集めのスタッフを特訓します。劇中でボニーが空中での布を使ったダンスを披露していて、これが目玉ですが、ほかの出し物も楽しいです。ここでのキャストたちの獅子奮迅ぶりが見ものです。
本当にショウは出来上がるのか?納屋のキャバレーにお客が来るのか?疑問や心配で頭がぐるぐるするダヴィッドの母と同じ心持ちで見守ってしまいました。二転三転する状況にちりばめられた笑いと人情をお楽しみください。(白)


2022年/フランス/カラー/シネスコ/109分
配給:彩プロ
(C)2021 - ESCAZAL FILMS - TF1 STUDIO - APOLLO FILMS DISTRIBUTION - FRANCE 3 CINEMA - AUVERGNE-RHONE-ALPES CINEMA
https://countrycabaret.ayapro.ne.jp/
★2023年12月1日(金)ロードショー

posted by shiraishi at 14:20| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

メンゲレと私   原題:A Boy's Life

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(C)2023 BLACKBOX FILM & MEDIENPRODUKTION GMBH

監督:クリスティアン・クレーネス、フロリアン・ヴァイゲンザマー

『ゲッベルスと私』 (2018年公開)、『ユダヤ人の私』 (2021年公開)に続く「ホロコースト証言シリーズ」3部作の最終作。

リトアニア出身のユダヤ人、ダニエル・ハノッホ(1932年生まれ)。9歳の時、カウナス郊外のゲットーに送られ、その後、12歳でアウシュヴィッツ強制収容所に連行された。多くの子供が到着後にガス室で殺されたが、金髪の美少年だったダニエルは、ヨーゼフ・メンゲレ医師の「選別」により奇跡的に生き延びた。非人道的な人体実験を繰り返したメンゲルは、神のように崇められ、すべての者の生存権は彼の手にあり、“死の天使”の異名を持っていた。だた、ダニエルが見た真の地獄は終戦末期に連合軍の攻勢から逃れるため強制的に連れていかれた「死の行進」であった。暴力、伝染病、カニバリズム・・・少年は人類史の最暗部を目撃する。

取材当時91歳のダニエルが、子供時代に味わった地獄を語る合間に、様々なアーカイブ映像が流れます。ロシアの風刺アニメーション『シネマ・サーカス』、ソ連のプロパガンダ映画『モスクワ攻防戦』、1961年にアイヒマンに見せたアウシュヴィッツ強制収容所でカートので死体やガス室に送られた人々の所持品を運ぶ姿、米兵を洗脳し国民を団結させるための映像等々・・・ 人はいかに映像で騙されてしまうのかを教えられます。起こった事実が後世の人の目に触れるという利点もありますが。
ホロコーストで犠牲となったユダヤ人の子供たちは約150万人。そのうち、アウシュヴィッツ強制収容所に連行されたユダヤ人の子供は推定21万6千人で、45年1月にソ連軍が収容所を解放した際、生存していた子供たちは、わずか451人。
奇跡的に生き延びたダニエルは、1945年5月にアメリカ軍によって解放され、兄のウリとイタリアで再会し、兄弟はその後パレスチナに入国しています。
映画の最後に、ダニエルは、「イスラエルでラヘルと出会い、幸せな家庭を築いた。“素晴らしき甘い人生”だ」と語ります。皮肉にも聞こえますが、生き抜いたお蔭で手に入れた人生には違いありません。
ダニエルの発言の中で気になったことがありました。
リトアニアがソ連に占領されたとき、ソ連の人たちも軍人も優しかったけれど、その後、ドイツに占領された時、町にドイツ人が来る前にリトアニア人がユダヤ人を殺したのだそうです。また、ホロコーストから解放された後に行ったオーストリアでも、オーストリア人はユダヤ人に冷たかったけれど、イタリアでは優しく迎えてくれたという発言がありました。
前作『ユダヤ人の私』の折に、「オーストリアの反ユダヤ主義はドイツ人が持ち込んだものではなく、オーストリアで何世紀にもわたって培われ、カトリック教会がそれを後押しした」と知りました。リトアニアの反ユダヤ主義はどこから生まれたものなのでしょう・・・

ヨーロッパ各地で嫌われ、ホロコーストを生き抜いた人たちが戦後作った国イスラエル。
暮らしていたパレスチナ人を追い出す形で国を作り、さらにまた、ガザ地区に閉じ込めたパレスチナ人を、ハマスがテロリストだからという理由をつけて攻撃する暴挙。
ホロコーストの加害者は別にいるのに、これでは弱い者いじめ。
お互いを認め合って共存できる世界は、どうして実現しないのでしょう・・・(咲)


ユダヤ人の大虐殺を描いた映画はこれまでも数多くあった。それでも、この大虐殺を生き抜いた人たちが生きている間にいろいろな証言を記録しておいてほしい。そして、その体験したことが二度とおこらないように公開していってほしい。ま、過去の過ちを繰り返さないということを学ばない人が多いから、今も戦争が続いているのだろうから、効果のほどはなんともいえないが…。
非人道的な人体実験を繰り返したメンゲレは死の決定権をもっていた。そんな中、ダニエル・ハノッホさんはメンゲレに気にいられ奇跡的に生き延びた。ダニエルさんが語ったリトアニアでの当時の話は貴重である。
彼が語ったことで印象に残っているのは下記の証言。
・「リトアニア人がユダヤ人を殺し、ドイツ人は見ていた」
ナチスがユダヤ人の大虐殺を行ったと言われているが、各国で、その国の人たちがユダヤ人に対しておこなってきたことはあまり問われていない。
・「人間を死に追いやるラインを見ていた」
生き延びた人たちは、こういう立場だった人が多いので、負い目をもっていることが多いのでしょう。
・「番号が私の名前。アイデンティティを無くした」
「番号が私の名前」というのはこれまでも何人もの証言者たちから出ているが、この言葉を聞いていたから、今、日本で進んでいるマイナンバー制度に対して番号で管理される社会への疑問がある。だからマイナンバーカードは作っていない。
・「解放されて食料も探したが、文房具(鉛筆と紙)を探した。」
鉛筆と紙を求めたのは、自分の体験を忘れないうちに記録するためだったのでしょう。ダニエルさん、あちこち連れまわされたのに、その地名などをちゃんと覚えていて証言していたのは、記憶が確かなうちに記録しておいたからかもしれないと思いました(暁)。


2021年/オーストリア/96分/モノクロ
日本語字幕:吉川美奈子
配給:サニーフィルム
後援:オーストリア大使館、オーストリア文化フォーラム東京、イスラエル大使館
公式サイト:https://www.sunny-film.com/shogen-series
★2023年12月3日(日)東京都写真美術館ホール
12月6日(水)大阪・第七芸術劇場、12月9日(土)沖縄・桜坂劇場にて公開



東京都写真美術館ホール
『メンゲレと私』
上映期間:2023年12月3日(日)~12月15日(金)
休映日:2023年12月4日(月)、11日(月)、13日(水)

『ゲッベルスと私』 ※12月9日(土)、10(日)のみ上映 12;30~

『ユダヤ人の私』 ※12月9日(土)、10(日)のみ上映 14:50

・参考資料 シネマジャーナルHP 特別記事
『北のともしび ノイエンガンメ強制収容所とブレンフーザー・ダムの子どもたち』
東志津監督インタビュー
posted by sakiko at 14:19| Comment(0) | オーストリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする