2025年04月06日
プロフェッショナル(原題:In the Land of Saints and Sinners)
監督:ロバート・ロレンツ
脚本:テリー・ロー、マーク・マイケル・マクナリー
撮影:トム・スターン
出演:リーアム・ニーソン(フィンバー・マーフィー)、ケリー・コンドン(デラン・マッキャン)、ジャック・グリーソン(ケビン)、キアランハインズ(ビンセント)、コルム・ミーニイ(ロバート・マキュー)
1970年代の北アイルランド。長年裏稼業として殺し屋を続けて来たフィンバー・マーフィは、引退すると決めた。静かに暮らしていたところへ、首都で爆破事件を起こしたアイルランド共和軍(IRA)の過激派テログループが村に逃げてくる。そのうちの一人が、隠れ家にしていた遠戚の少女を虐待していたのを知った。怒りにかられて制裁したフィンバーを、今度はテロ仲間(男の姉)が狙う。
物書きと称してひっそりと暮らしているフィンバーは、その村の人々と顔見知り。現職警官の友人までいます。正義と信じて爆破テロを実行するデランは、紛争で親を亡くし、姉弟2人で活動に身を投じているうちに冷酷になっていったようです。ケリー・コンドン迫力倍増していて怖い。フィンバーは、依頼された殺しからは手を引きましたが、幼い少女はじめコミュニティの人々を傷つけたくありません。静かな老後は遠ざかりました。
クリント・イーストウッドと長年仕事をしてきたロバート・ロレンツ監督、『マークスマン』に続いて2度目のリーアム・ニーソンとのタッグです。前作はメキシコ人の少年、今回は近所の少女、命がけで弱者を守る渋い役が似合います。パターンといえばそうですが、期待どおりにアクションを展開してくれるリーアム・ニーソン。出身地アイルランドを舞台に、テロも辞さない過激派グループと、殺し屋稼業の男の「正義」がぶつかりました。まだまだ活躍してくれそうです。(白)
2024年製作/アイルランド/106分/G
原題または英題:In the Land of Saints and Sinners
配給:AMGエンタテインメント
(C)FEGLOBAL LLC ALL RIGHTS RESERVED劇場公開日:2025年4月11日
https://professional-movie.jp
strong>★2025年4月11日(金)より全国ロードショー
バーラ先生の特別授業 原題:Vaathi
監督・脚本:ヴェンキー・アトゥルーリ
製作:スーリヤデーヴァラ・ナーガほか
撮影:J・ユヴァラージ
音楽:G・V・プラカーシュ・クマール
出演:ダヌシュ(『クローゼットに閉じ込められた僕の奇想天外な旅』『グレイ・マン』『無職の大卒』)、サムユクタ、サムドラカニ(『RRR』)、タニケッラ・バラニ(『バーフバリ』シリーズ)、サーイ・クマール(『リシの旅路』)、ラージェーンドラン、ハリーシュ・ペーラディ(『囚人ディリ』)、スマント、(特別出演)バーラティラージャー
南インド、テルグ語とタミル語の両方を話す州境の村。
高校生のアビラームは、祖父が開いた村で最初で最後のビデオ店を父が学習塾代の為に売るというので、友人たちと片づけに行く。棚の奥に木箱に大事に収められたビデオを見つけ、もしかしたらポルノ?と観てみると、そこに映っていたのは、一人の青年が数学の授業をしている姿だった。一緒に収められていた貸出票の名前と住所を頼りに、40キロ離れた町にA.M.クマールを訪ねると、今は、県の行政長官だと聞かされる。県庁に訪ねていくと、A.M.クマールは部屋に掲げた写真を眺めながら、「ビデオの授業は私の恩師バーラ先生」と話し始める。
1993年、チョーラワラム村の公立校に赴任した数学のバーラ先生。美人のミーナクシ先生の存在に、一緒に赴任した二人の男性教師と共に心浮きたつが、生徒たちがいたのは初日だけ。皆、家計のため日銭を稼いでいるのがわかり、バーラ先生は学校に来られるように働きかける。生徒たちは戻ったものの、新任の男性教師二人が去り、バーラ先生は2クラス一緒に教えようとするが、カーストが違うから一緒に授業を受けられないという。必要であればカーストが違うことは問題にならないことを教えるが、さらに、大手私立教育機関の経営者ティルパティが妨害してくる。バーラ先生は受け持ちの生徒全員が共通試験で上位成績を上げることを目指す・・・
1990年代の経済自由化と1993年の教育制度の改革によって、インドに多くの私立教育機関や予備校が生まれ、高い授業料に応じた質の高い授業が提供されるようになったことが背景になっています。私学経営者ティルパティが、公立学校での授業を妨害し、さらに共通試験に向かう生徒たちも足止めさせてしまうという、これでもかという悪どさ。今は行政長官となったA.M.クマールが明かすバーラ先生の奮闘する姿に拍手喝采です。
バーラ先生の恩師も素晴らしくて、新任教師となったバーラ先生に「教師は仕事じゃない。使命」「自分の給料より、生徒の将来」とアドバイスしています。
さて、ビデオに映っていたバーラ先生の授業風景、どこで授業していたのかは、ぜひ劇場でご確認ください。(咲)
憎まれ役のティルパティが滔々と「教育は金になる」論をぶちあげます。庶民が食うや食わずで子供の幸せを願って工面したお金を吸い上げ、自分は高級車を乗り回しさらに儲けようとしています。そのわかりやすさったらないのですが、日本だとて似たようなものではありませんか。良い学校に入るため良い仕事につくため、子どものうちから塾通い、子どもらしく遊ぶ時間もないほど忙しい。授業料の安い国立大学に入れるのは、そうやって教育費をつぎ込んでこられた富裕層。奨学金という名前の借金を背負うのは、庶民です。
汚職にまみれた警察やパルパティの追従者に苦い思いを抱いて観ていました。救われるのは、バーラ先生の教えを素直に吸収して生徒たちが成長していく姿です。親のいうまま結婚するのではなく、学び続けて外国へ行くという女子、カーストに縛られずに生きる道を求める男子、そんな生徒たちが大人になって世界を変えていくはず。大人になってしまっても遅くはないですよ。目をつぶらないようにしましょう。(白)
2023年/インド/タミル語/134分
字幕:中島可愛・字幕監修:小尾淳
配給:SPACEBOX
公式サイト:https://spaceboxjapan.jp/balasensei/
★2025年4月11日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開.
ファレル・ウィリアムス:ピース・バイ・ピース(原題:Piece by Piece)
監督・脚本・編集:モーガン・ネヴィル
出演:ファレル・ウィリアムス、スヌープ・ドッグ、ケンドリック・ラマー、ジャスティン・ティンバーレイク、グウェン・ステファニー
ファレル・ウィリアムスは73年にヴァージニアビーチに生まれ、一歩ずつ音楽の道に進んで行く。10代から音楽プロデューサーとして活動開始、シンガーソングライター、デザイナーなどマルチに活躍する彼の半生をレゴブロックアニメーションで作成した。家族や音楽業界の友人知人たちが彼の人となりや業績について語る。
そんなに活躍していた人だったとは、守備範囲外でまったく知りませんでした。全てがレゴでできているのですが、体型も顔(表情も豊か)も作りこまれています。ファレルは音が色で見えるのだそうで、とてもカラフル。背景の海もグラデーションのレゴで、寄せてくる波もちゃんと動いています。レゴのピースの情報をインプットし、実写で撮影してからレゴアニメーションとしてコンピューターが計算して作りだすのでしょうか?詳しいことを説明されてもきっと意味不明。ただただ、すごーい!と見とれてしまいました。レゴ好きな方必見。
モーガン・ネヴィル監督はカルチャー系のドキュメンタリーを作ってきていて『ヨーヨー・マと旅するシルクロード』も監督しています。ファレル本人のノリノリの歌もたくさん流れます。試写では思わず身体を揺らしてしまう方もいました。HPトップでは挿入歌が試聴できます。(白)
2023年/アメリカ/カラー/93分
配給:パルコ
(C)2024 FOCUS FEATURES LLC
https://pharrell-piecebypiece.jp/
★2025年4月4日(金)より全国ロードショー
シンシン/SING SING 原題:SING SING
監督:グレッグ・クウェダー
出演:コールマン・ドミンゴ、クラレンス・マクリン、ショーン・サン・ホセ、ポール・レイシー
ニューヨークにある最重警備のセキュリティを誇る「シンシン刑務所」。
ディヴァインGは、無実の罪で収監されたことを訴え続けている。刑務所内の収監者更生プログラムである<舞台演劇>グループに所属して、仲間たちと積極的に演劇に取り組み、自分を励ましている。ある日、刑務所いちの悪として知られるクラレンス・マクリン、通称“ディヴァイン・アイ“が演劇グループに参加することになる。新たな演目に向けての準備が始まるが、ディヴァイン・アイは何かと突っかかってくる・・・
収監されている男たちが、舞台演劇を通じて知り合い、胸の内を語り合い、友情をはぐくんでいく姿に、彼らが「そこ」にいる様々な事情を思いました。数人の俳優以外は、かつて収監中に舞台演劇グループに所属していた男たちが本人役を演じています。
ディヴァインGは、減刑聴聞の時に、積極的に構成プログラムとしての舞台演劇の取り組んだことを語るのですが、最後に、「今日のも演技?」と言われてしまいます。さて、ディヴァインGは減刑になるのでしょうか?
舞台の始まる前に、皆で手を高くあげて「RTA」と叫びますが、これは「Rehabilitation Through the Arts(芸術を通した更生プログラム)」の略。
演劇を通じた収監者たちのセラピーを描いた映画として、イスラーム映画祭6で上映された『シェヘラザードの日記』(監督:ゼイナ・ダッカーシュ、2013年、レバノン)を思い出しました。レバノンのバアブダ女性刑務所で演劇を通じたドラマセラピーに参加する女性囚たちを描いたドキュメンタリーでした。出所した女性がかつて演劇を通じて友情をはぐくんだ仲間たちに会いに来る場面もありました。
『シンシン/SING SING』も、収監された人たちの更正に、集団で行う演劇が効果あるプログラムであることを見せてくれました。(咲)
2023年/アメリカ/カラー/ビスタ/5.1ch/107分
字幕翻訳:風間綾平
配給:ギャガ
公式サイト:https://gaga.ne.jp/singsing/
★2025年4月11日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開
2025年03月30日
1980 僕たちの光州事件 原題:1980
監督・脚本:カン・スンヨン
出演:カン・シニル、キム・ギュリ、ペク・ソンヒョン、ハン・スヨン、ソン・ミンジェ
『ソウルの春』から5ヶ月、 小さな幸せを夢見た家族をのみ込んだ大きな悲劇
1980年5月17日。少年チョルスの祖父は念願だった中国料理の店「和平飯店」をオープンさせ、家族は幸せに包まれていた。開店を祝って盛大に踊りが繰り広げられ、チョルスの大好きな幼馴染のヨンヒや優しい町の人たちも祝福してくれる。なせか、父親はそこにいない。そんな最中、母の妹が髪を振り乱して帰ってきて、駅前で警察が催涙弾を発砲しているという。店の前を、「金大中を解放しろ」と叫びながら、デモ隊が通っていく。
平穏に暮らす人々だったが、後に「光州事件」と呼ばれる歴史的悲劇が待ち受けていた・・・
少年チョルスの目線で描かれる物語。お祖母さんの姿が見えませんが、叔父サンドゥを産んだ時に亡くなったことが語られます。そのサンドゥは、一週間後に結婚式を控えているのですが、警察に連行されてしまいます。婚約者が一人で実家に挨拶に行きます。
大好きな幼馴染のヨンヒの父親は軍人で、サンドゥがどこにいるのか聞いてみたいのですが、それも憚れます。チョルスの父はソウル大学を出たあとも、実は学生運動に身をやつしていて、市役所に立てこもっています。そんな中でも、チョルスの一番の気がかりは、大好きなヨンヒがこの町から引っ越してしまうらしいこと。
市役所立てこもりが続き、チョルスの祖父はたくさんのジャージャー麵を作って差し入れます。祖父を演じたカン・シニルさん、テレビドラマでよく笑わせてくれる方。映画にも名脇役としてたくさん出演していますが、今回は主役。チョルスの母親役のキム・ギュリさんも好演。
映画の最後に、実際の当時の光州の人たちの姿が映し出されます。亡くなった家族の遺体のそばで嘆く人たち・・・ 「国民を殺せと命令した元凶は誰なのか・・・」と語るキム・ソンヨン神父の肉声が、胸にぐさりと響きました。
数多くの美術監督を務めてきたカン・スンヨン監督の長編第一作。忘れられない映画となりました。(咲)
★光州事件、そして光州事件に至る関連作品★
『光州5・18』(2007)
『タクシー運転手〜約束は海を越えて〜』(2018)
『KCIA 南山の部長たち』(2019)
『ソウルの春』(2023)
2024年/韓国/99分/G/5.1ch/シネマスコープ
配給:クロックワークス
公式サイト;https://klockworx.com/movies/1980/
★2025年4月4日(金)よりシネマート新宿ほか全国公開