2021年09月11日

アイダよ、何処へ?  原題:Quo Vadis, Aida?

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(C)2020 Deblokada / coop99 filmproduktion / Digital Cube / N279 / Razor Film / ExtremeEmotions / Indie Prod / Tordenfilm / TRT / ZDF arte

監督・脚本:ヤスミラ・ジュバニッチ(『サラエボの花』『サラエボ、希望の街角』)
出演:ヤスナ・ジュリチッチ、イズディン・バイロヴィッチ

ボスニア「スレブレニツァの虐殺」を忘れないで!

ボスニア・ヘルツェゴヴィナ紛争末期の1995年7月11日。ボスニア東部、イスラーム教徒であるボシュニャク人の街スレブレニツァがセルビア人勢力の侵攻によって陥落する。スレブレニツァは国連によって攻撃してはならない安全地帯に指定されており、国連保護軍のオランダ部隊によって防護されていた。国連保護軍の通訳として働くボシュニャク人の元教師アイダは、国連施設の周囲を埋め尽くす避難民を見て驚く。なんとか施設内に入れて貰おうと押し寄せる人々。アイダは、夫と二人の息子を探し出し、強引に施設内に招き入れる。町を支配したムラディッチ将軍率いるセルビア人勢力は、避難民を男女に分け、移送した男たちの処刑を開始する・・・

多民族国家ユーゴスラビアが、絶大なカリスマ性のあったチトー大統領亡きあと、民族主義の台頭により1991年ついに紛争勃発。スロベニア、マケドニア、クロアチアと次々に独立していき、ボスニア・ヘルツェゴヴィナも1992年に独立しましたが、内戦は1995年末まで続きました。
本作は、内戦末期に起こったおぞましい「スレブレニツァの虐殺」を描いた物語。
ボスニア紛争当時、モスタールの石橋が破壊されたのに続き、ショックを受けたのが、この「スレブレニツァの虐殺」でした。
2020年1月12-13日に立教大学で開催されたシンポジウム「25年目のスレブレニツァ - ジェノサイド後の社会の相克と余波、集合的記憶」に参加させていただき、事件の凄まじさをあらためて知りました。
事件の概要を、シンポジウムの成果をもとに編んだ論文集『スレブレニツァ・ジェノサイド:25年目の教訓と課題』のはしがきより抜粋します。

ボスニア・ヘルツェゴヴィナ紛争末期の1995年7月、国際連合の安全地帯に指定され、国連防護軍(UNPROFOR)のオランダ部隊によって防御されていた、ボスニア東部の人口4万あまりのムスリム人の飛び地スレブレニツァは、ボスニアのセルビア軍の攻撃により陥落した。続く約10日間で、自力でスレブレニツァを脱出し、ムスリム政府軍支配地を目指した総勢約15,000人のムスリム男性の内、7,000~8,000人が行方不明となった。このスレブレニツァ事件は、「第二次世界大戦以来の欧州で最悪の虐殺」と称され、旧ユーゴスラヴィア国際刑事裁判所(ICTY)で唯一「ジェノサイド(集団殺害)」と認定された象徴的な事件である。
https://osayukie.com/archives/4512


戦争が終わって、アイダがある家を訪れます。靴を脱ごうとして、十字架を胸にぶらさげた女性に「靴のままどうぞ」と通されたところで、かつてアイダたちが家族と共に暮らしていた家だと気づきました。土足であがることのなかった家・・・ 写真など、わずかな家族の私物は保存されていたものの、この地を占領した異教徒の家族が勝手に住みついているのです。それは、かつて、ヨーロッパではユダヤ人を追い出したあとの家、イスラエルとなったパレスチナでは、パレスチナ人を追い出したあとの家が辿った運命と同じ。人間は、なんと無神経で残酷なのでしょう。
アイダは、自分の家に住み着いている女性を追い出すこともできるのに、ただただ微笑むだけ。赦すことが平穏をもたらすこともちゃんと心得ているのです。

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© 2020 Deblokada / coop99 filmproduktion /Digital Cube / N279 / Razor Film / Extreme Emotions / Indie Prod / Tordenfilm / TRT / ZDF arte
ヤスミラ・ジュバニッチ監督(写真上)は、長編デビュー作『サラエボの花』(2006年)で、民族浄化の名のもとに、セルビア人がモスレム人女性に無理矢理子供を生ませたことを背景に母と娘の物語を紡ぎました。
また、『サラエボ、希望の街角』(2010年)では、結婚を前提に同棲中の恋人が過激な解釈をするイスラーム組織に傾倒してしまい戸惑うモスレム女性を描いています。
いずれも、普通の人々が、歴史のうねりの中で翻弄される姿を丁寧に語っています。
『アイダよ、何処へ?』公式サイトの監督インタビューを是非お読みください。
原題『Quo Vadis, Aida?』に込めた思いも語っています。
悲劇が繰り返されないことを願って映画を作った監督の気持ちが、世の権力者に伝わることを祈るばかりです。(咲)


第93回アカデミー賞 国際長編映画賞 ノミネート
第77回ヴェネチア国際映画祭 コンペティション部門 正式出品
第45回トロント国際映画祭 正式出品
第50回ロッテルダム国際映画祭 観客賞受賞

2020年/ボスニア・ヘルツェゴヴィナ・オーストリア・ルーマニア・オランダ・ドイツ・ポーランド・フランス・ノルウェー・トルコ合作映画/ボスニア語・セルビア語・英語他/101分
配給:アルバトロス・フィルム
公式サイト:https://aida-movie.com/
★2021年9月17日(金)Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館他にて全国順次公開




posted by sakiko at 02:30| Comment(0) | ボスニア・ヘルツェゴヴィナ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年09月09日

君は永遠にそいつらより若い

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監督・脚本:吉野竜平
原作:津村記久子「君は永遠にそいつらより若い」
撮影:平井英二郎
音楽:加藤久貴
出演:佐久間由衣(ホリガイ/堀貝 佐世)、奈緒(イノギ/猪乃木 楠子)、小日向星一(ヨシザキ)、笠松将(ホミネ)、葵揚(ヤスダ)、森田想(オカノ)、宇野祥平(エトウ)、馬渕英里何(スギタ)、坂田聡(ヤギ)

ホリガイこと堀貝 佐世22歳。長身で処女、いや女の童貞といいたいホリガイ。変わった女の子と思われているが、それほど自覚はない。卒業が近づき就職先も決まって、バイトと学校に行くほかすることもなくぐだぐだ過ごしている。同じ大学なのにそれまで関わることのなかったイノギとひょんなことで話すようになった。一つ年下で一人住まいのイノギの家をときどき訪ねている。ある晩ゼミの友達と飲んだ後、ヨシザキ、ホミネと一緒に帰った。しばらくしてホミネが亡くなったことをヨシザキから知らされる。

器用に世の中を渡ったり、折り合いをつけたりするのが難しい…とほとんどの人がそう思っているかもしれません。時間は待ってくれないので、いやおうなく年だけ増えていってしまうんです。はあ。
福祉の仕事を選んだホリガイの動機にうっと胸をつかれました。世の中には大小の悪意が潜んでいます。そんなものに当たらずに人生歩き通せたら、よかったねと思います。残念なことに当たってしまうこともあります。自分は選んでいないのに。ホリガイは見なかったことにせず、自分がやれることをやります。なんだかあぶなっかしいし、自分も傷つきそうなのに。
原作の旧題は「マンイーター」でしたが、単行本化するときに変えたのだそうです。人を喰らおうと大口を開けている何かを連想するより「君は永遠にそいつらより若い」と言ってもらえるほうがいいよね。佐久間由衣さん、奈緒さん綺麗です。すれ違ったら絶対二度見しそう。(白)


2020年/日本/カラー/118分
配給:atemo
(C)「君は永遠にそいつらより若い」製作委員会
https://www.kimiwaka.com/
★2021年9月17日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 14:53| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

由宇子の天秤

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脚本・監督・編集:春本雄二郎
プロデューサー:春本雄二郎、松島哲也、片渕須直
撮影:野口健司 照明:根本伸一
出演:瀧内公美(木下由宇子)、河合優実(小畑萌)、梅田誠弘(小畑哲也)、松浦祐也(長谷部仁)、和田光沙(矢野志帆)、池田良(小林医師)、木村知貴(池田)、前原滉、永瀬未留、河野宏紀、根矢涼香、川瀬陽太(富山宏紀)、丘みつ子(矢野登志子)、光石研(木下政志)

ドキュメンタリーディレクターの由宇子は、3年前の女子高生いじめ自殺事件を追っていた。テレビ局と衝突を繰り返しながらも、真相に迫っている手ごたえを感じていた。その傍ら、父の経営している学習塾を手伝い、生徒の相談役としても信頼されている。
ある日父の隠された事実を知り、大きな衝撃を受ける。真実を追い続けてきた由宇子がその仕事と、一人の人間としての自分との間で揺れ、迷い苦しむことになった。

2018年『かぞくへ』の春本雄二郎監督、3年ぶりの新作です。前作の何倍ものキャストが登場、由宇子を中心にメディアと個人、先生と生徒、父と娘、母と息子など、何家族ものエピソードが展開していきます。複雑な人間関係が次々と影響を及ぼしていき、物語は思わぬ方向へ進んでいきます。緻密な構成の脚本を作りあげるのは、さぞ大変だったことでしょう。登場人物の謎も物語の余白、観た人が想像で膨らませることができます。
由宇子に限らず人生は選択の連続で、あれかこれか迷い、選び抜いたところで後々まで結果が出ないこともあります。正しかったのかどうかも、時と場合で違ってしまいます。それでも生きていかねばならず、せめて身軽でいたいと思うこのごろ。
コロナ禍で一般公開が遅れましたが、第71回ベルリン国際映画祭パノラマ部門出品ほか、国内外の映画祭ですでに上映&受賞多数。(白)


☆春本雄二郎監督にお話を伺いました。こちらです。

ドキュメンタリーディレクターとして女子高生いじめ自殺事件の真相を追う由宇子は、マスコミの役割など、世に問う問題に光を当てることに信念を持ち、テレビ局の方針と衝突することもいとわずに仕事をしている。一体何が真実なのか。正しさとは何なのか。情報化社会が抱える問題や矛盾を真正面からあぶり出そうとすればするほど、制作サイドとぶつかってしまう。
社会においての矛盾を解き明かすことが正義と思いつつ、自分の大切なものを守りぬくことで、自分の在り方の矛盾を生み、選択をせまられる。ラストの思わぬ展開に、観客は驚くだろう。正義感溢れる女性ディレクターが思わぬ窮地に追い込まれていく様子を見事に演じきったのは瀧内公美。圧倒的存在感を感じた(暁)。


第21回東京フィルメックス2020
学生審査員賞:『由宇子の天秤』春本雄二郎

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春本雄二郎監督 第21回東京フィルメックス授賞式にて 撮影:宮崎暁美


*シネマジャーナルHP 映画祭報告
第21回東京フィルメックス2020 授賞式
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/478502965.html

2020/日本/カラー/5.1ch/1:2.35/DCP/152分
配給:ビターズ・エンド
(c)2020 映画工房春組 合同会社
https://bitters.co.jp/tenbin/
★2021年9月17日(金)渋谷ユーロスペースほか全国順次ロードショー!
posted by shiraishi at 01:42| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年09月07日

偽りの隣人 ある諜報員の告白(英語題:BEST FRIEND)

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監督:イ・ファンギョン(『角砂糖』『7番房の奇跡』
出演:チョン・ウ(デグォン)、オ・ダルス(イ・ウィシク)、キム・ヒウォン(キム室長)、キム・ビョンチョル(ドンシク)、チョ・ヒョンチョル(ヨンチョル)、イ・ユビ(娘ウンジン)、チ・スンヒョン(ドンヒョク)、ヨム・ヘラン(家政婦)、キム・ソンギョン(ウィシク妻)

1985年8月 軍事独裁政権下の韓国。次期大統領選を控え、民主化運動が激しさを増す中、野党総裁イ・ウィシクが3年ぶりに帰国した。空港に到着した直後、国家安全政策部のキム室長の指示でウィシクが拉致される。キム室長はウィシクを共産主義者に仕立て、国外追放する計画だった。野党の面々と会えないまま、ウィシクは自宅に家族とともに軟禁、その動向は隣家の盗聴チームにより監視されている。愛国心の強いデグォンが新たにチーム長として送り込まれた。デグォンは愚直に盗聴に励んでいたが、屋上でウィシクと顔を合わせてしまう。取り繕うデグォンは、隣人として暮らしながら盗聴を続けるうちに、ウィシクの人となりに感銘を受けていく。

国民を第一に考えるウィシク総裁にオ・ダルス、良き家庭人でもあるトップを演じて適役です。3バカのような盗聴チームはコメディ寄りなので、韓国の政治モノにしては親しみやすくなっています。ほのぼのホームドラマ的な部分もあり、ヨム・ヘランの家政婦さん(『野球少女』でのきついお母さん)との攻防もおかしい。
それもキム・ヒウォン演じる室長がキレるまでですが、そこからは容赦ありません。韓国の俳優さん憎まれ役もうまいですよね。緊張が高まる後半のカーチェイスにドキドキ、韓国の歴史に寄せつつ(同じではありません)、喜怒哀楽全部盛りのエンタメに仕上げています。愛国心が人一倍強く、直情男だったデグォンがウィシクに良い影響を受けていきます。それがちょっとした台詞に現れて胸が温まりました。(白)


こんな国民思いの政治家がいたらいいなという言葉がいくつも出てきました。ほのぼのとしたオ・ダルスが演じてこそでしょうか。韓国で銭湯といえばバナナミルクですが、これも笑えて泣ける場面になっています。
そして、隣家に住み込む諜報員デグォン。チョン・ウが諜報員らしくない人情溢れる人物を体現しています。変態男を装っての活劇には大爆笑。主役を張れるようになったチョン・ウの姿を嬉しく拝見。
2013年の第26回東京国際映画祭で出演作の『レッド・ファミリー』が上映されて来日しました。幸せな家族を装って暮らす北朝鮮の工作員という役どころでした。これもコメディー仕立て。
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記者会見にて 右からキム・ギドク(脚本・製作)、イ・ジュヒョン監督、女優キム・ユミ、男優チョン・ウ、女優パク・ソヨン
この時の共演が縁でチョン・ウはキム・ユミとご結婚♪

ちょうどこの頃観ていたドラマ「最高です! スンシンちゃん」(2013年)で、ムショ帰りのパン屋さんを演じて好感度大だったチョン・ウ。記者会見から退場する時にそばを通られたので、思わず「イ・スンシン!」と声をかけたら、にっこり笑って握手してくださいました。懐かしい思い出です。(咲)



2020年/韓国/カラー/シネスコ/130分
配給:アルバトロス・フィルム
提供:ニューセレクト
c 2020 LittleBig Pictures All Rights Reserved.  
itsuwari-rinjin.com
★2021年9月17日(金)シネマート新宿ほか全国公開!
posted by shiraishi at 19:43| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年09月04日

浜の朝日の嘘つきどもと

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監督・脚本:タナダユキ
撮影:増田優治
音楽:加藤久貴
主題歌:Hakubi
出演:高畑充希(茂木莉子/浜野あさひ)、柳家喬太郎(森田保造)、大久保佳代子(田中茉莉子)、甲本雅裕(岡本貞雄)、佐野弘樹(チャン・グォッ・バオ)、神尾佑(市川和雄)、竹原ピストル(川島健二)、光石研(浜野巳喜男)、吉行和子(松山秀子)

福島県南相馬の古い映画館 朝日座。住民たちに長い間親しまれてきたが、経営が傾き閉館することになった。支配人の森田が解体前に残ったフィルムを焼却処分している。急に現れた女性は水をかけて火を消し、朝日座がなくなるのは困ると言う。女性は茂木莉子(もぎりこ)と名乗り、どうしても映画館を立て直したいと訴える。莉子はこの町に住み始め、住民を巻き込んで映画館の存続のために奔走し、森田も熱意に動かされていく。
莉子が朝日座にこだわるのにはわけがあった。高校生だった浜野あさひ(莉子)に映画の楽しさを教えてくれたのは、数学教師の田中茉莉子先生。居場所のなかったあさひを受け入れ、見守ってくれた大切な先生との約束を果たしにきたのだった。

福島中央テレビ開局50周年記念作品として、2020年10月に放映されたテレビドラマ版の前日譚。タナダユキ監督のオリジナル脚本。
実在の老舗の映画館を舞台に「映画愛」と「映画館愛」に人情をたっぷり盛り込んだ作品となりました。高畑充希さんが孤独な高校生役から、キャリアウーマンまで演じています。田中先生があさひに映画の蘊蓄を語り、いっしょに映画を観ては涙し、あさひは田中先生の想いを受け継ごうとします。コロナ禍で映画配給の仕事がなくなったという説明があり、映画館の窮状と同じくリアルな「今」を感じました。
朝日座の森田支配人を、監督がぜひにと口説き落とした柳家喬太郎師匠。震災、コロナと続く辛い状況の中でも生き抜く庶民代表のような人物です。あさひの恩師・惚れっぽくて涙もろい田中先生と外国人実習生のバオくん、不動産屋の岡本らとともに、人間味を加えて映画を温かくしています。古今東西の映画の名作も挿入されていますので、どの映画の1シーンか考えるのも一興。
2020年7~8月に南相馬で撮影され、ひとあし早くご当地で公開されています。(白)


2021年/日本/カラー/シネスコ/114分
配給:ポニーキャニオン
(C)2021「浜の朝日と嘘つきどもと」製作委員会
https://hamano-asahi.jp/
★2021年9月10日(金)ロードショー

posted by shiraishi at 00:45| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする