2020年07月09日

グレース・オブ・ゴッド 告発の時(原題:Grace a Dieu)

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監督・脚本:フランソワ・オゾン
出演:メルヴィル・プポー(アレクサンドル・ゲラン)、ドゥニ・メノーシェ(フランソワ・ドゥボール)、スワン・アルロー(エマニュエル・トマサン)、エリック・カラバカ(ジル・ペレ)、フランソワ・マルトゥーレ(バルバラン枢機卿)、フランソワ・マルトゥーレ

妻と子どもたちとの幸せな家庭を築いているアレクサンドルには、教会での忌まわしい思い出があった。子どもの頃人格者だと思われていたプレナ神父に性的虐待を受けていたのだ。教区を変えながら今も神父でいることを知って驚愕する。アレクサンドルは子どもたちが二度と同じ目に遭わないよう事件の告発を決意し、自分と同じ被害者を探し始める。同時に子どもを守り切れなかった親ともあらためて向き合うことになった。

フランソワ・オゾン監督が初めて実際にあった事件「プレナ神父事件」を映画化しました。一人が子どもの頃受けた性暴力を勇気を持って告発したのを契機に、次々と被害者が名乗りを上げ、結果的に80人以上になりました。裁判は現在も進行中です。
当時虐待を知りながら見ないふりを決め込んだ人たちがいて、被害者は増えていきました。大人になるまで声を上げられないほど、傷は深くトラウマは大きかったということでしょう。あらためて思い出し、言葉にすることでまた傷つく被害者たち。事件が明るみに出ると、家族を巻き込み、好奇の目にさらされます。
日本でも同じような問題があったことを知りました。幼い子どもに「人を信じるな」と教えなければならないとは。有形無形の様々な暴力に立ち向かうには、この映画のようにやはり声をあげること。たとえ小さな声でも、遅くなってもあきらめずに。
2019年の第69回 ベルリン国際映画祭審査員グランプリ(銀熊賞)受賞。2020年のリュミエール賞では最多の5部門にノミネート、セザール賞では7部門8ノミネートされ、今にも折れそうなエマニュエルを演じたスワン・アルローが助演男優賞に輝きました。(白)


本作は最初に声を上げたアレクサンドル、それを知って立ち上がったフランソワ、告発を躊躇うエマニュエルによって話が紡がれる。同じ神父による被害者でも、受け止め方やその後の人生によって苦しみ方が違うことがわかります。
また、苦しむのは本人だけではありません。家族にも大きな影響を及ぼしました。息子に告白されても認めない、重く受け止めて何とかしなければと奔走するなど親の受け止め方はさまざまで、その結果、兄弟間の関係性の亀裂が生じることもありました。フランソワ・オゾン監督は被害者やその家族の心情を丁寧に見つめて描いています。
さらに信仰の問題にも触れています。フランソワは無神論者になりましたが、アレクサンドルは被害を受けてもキリスト教信者として生きてきました。ラストにアレクサンドルは息子からまだ神を信じているかを問われます。フランソワ・オゾン監督がいちばん描きたかったのはこのことだったのではないでしょうか。(堀)


2019年/フランス/カラー/ビスタ/137分
配給:キノフィルムズ
(C)2018-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-MARS FILMS–France 2 CINÉMA–PLAYTIMEPRODUCTION-SCOPE
https://graceofgod-movie.com/
★2020年7月17日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷ほかロードショー
posted by shiraishi at 00:27| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年07月08日

ブリット=マリーの幸せなひとりだち ( 原題:Britt-Marie var her)

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監督:ツヴァ・ノヴォトニー
原作:フレドリック・バックマン
出演:ペルニラ・アウグスト、ランスロット・ヌベ、ヴェラ・ヴィタリ、ペーター・ハーバー、オッレ・サッリ、アンデシュ・モッスリング

スウェーデンに住む専業主婦ブリット=マリー(ペルニラ・アウグスト)は、40年にわたって夫を支えてきた。ある日、出張先で夫が倒れたという知らせを受けて病院に駆けつけると、長年の愛人が付き添っていた。家を出たブリット=マリーは、これまでほとんど働いたことがなかったが、小さな町でユースセンターの管理人兼子供たちのサッカーチームのコーチの仕事に就く。

2016年に公開されたスウェーデン映画『幸せなひとりぼっち』に魅了された映画ファンは多いだろう。同じ原作者による小説「ブリット=マリーはここにいた」(原題)の映画化である本作は、”おじいさん”を主役とした前作の女性版…ではない。ノスタルジックな場面に多く割かれていた前作と違い、63歳・専業主婦40年の主人公は未来に向かって歩み出す。強い意思を示した原題は、本作の内容を巧みに表現している。

税金の高いスウェーデンでは滅多に成立することがないという”専業主婦”。ブリット=マリーの40年間変わらないルーティンを示す冒頭場面の描写が圧倒的に面白い!朝6時に起床、朝食後に夫を送り出す。整然と並べられたカトラリー。「物は在ったところに仕舞うものよ。家は誰が見ても美しいものでなければ」と哲学を独白しながら家事をこなすブリット=マリーの動きには無駄がない。
夕食はきっかり6時、夫もそれに合わせて帰宅するが、彼が何より優先するのはサッカー。人生の一部といより”全て”なのだ。こうした極めてルーティン化した生活が、「誰かが家具を動かしたら何かが出てきちゃった」ように劇的な変化を迎える事態が起こる。

そんな時も、家事をこなす調子と同様に顔色一つ変えず、決然とした行動に出るブリット=マリー。観客は一気に主人公へ肩入れをしたくなる。ここまで約10分程の淡々とした流れを作り出す女優出身監督ツヴァ・ノヴォトニーの演出は抜群だ。冒頭の丁寧な描写を漏らさず観ていた観客は、中盤以降ブリット=マリーに押し寄せる怒涛の人生に俄然興味を引かれるに違いない。
主演のペルニラ・アウグストは、『愛の風景』や『スター・ウォーズ』のスカイウォーカー母で知られるスウェーデンの国民的女優。男優は英国、女優はスウェーデンに限る!という私見を持つ身としては、アウグストの非の打ち所がない名演を堪能できたことが幸せだった。
シンプルな北欧家具、街並みの整然さが、一気に混沌へと変わる様も興味深い秀作である。(幸)


(幸)さんがブリット=マリーが家を出るまでにスポットをあてているので、私はその先を。
ブリット=マリーはずっと専業主婦をしてきたので、家を出ると収入がありません。しかも63歳。しかし、夫の自宅での楽しみがサッカー観戦だったことをブリット=マリー「人生の大半をサッカーに費やした」と表現したのを職安の職員が勘違いをしてくれて、都会から離れた小さな村のユースセンターの管理人兼弱小サッカーチームのコーチになれました。苦痛だった夫のサッカー好きに助けられる。人生どこで何が幸いするかわかりません。
サッカーは素人ですが、持ち前の家事能力で荒れ放題だったユースセンターをきれいに片付け、子どもたちや村の人と馴染んでいきます。そこにちょっとしたラブロマンスも生まれ、ブリット=マリーは表情が和らぎ、きれいになっていきます。その辺りの微妙な変化をペルニラ・アウグストは繊細に表現しました。(幸)さんが「女優はスウェーデンに限る」というのも納得です。
そこに心を入れ直した夫が登場。帰ってきてほしいと訴えます。しかもユースセンターの取り壊しが決まり、サッカーチームも解散の危機に追い込まれます。果たしてブリット=マリーはどんな選択をするでしょうか。
本作はいくつになっても自分のために生きることができると背中を押してくれます。(堀)


2018年製作/97分/G/スウェーデン
配給:松竹
(C)AB Svensk Filmindustri, All rights reserved
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/bm/
★7月17日(金)より新宿ピカデリー、YEBISU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国で順次公開★
posted by yukie at 23:05| Comment(0) | スウェーデン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

悪人伝(原題:The Gangster, the Cop, the Devil)

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監督・脚本:イ・ウォンテ
撮影:パク・セスン
音楽:チョ・ヨンウク
出演:マ・ドンソク(チャン・ドンス)、キム・ムヨル(チョン刑事)、キム・ソンギュ、ユ・スンモク

ヤクザの組長チャン・ドンスが、ある夜何者かにめった刺しにされたが一命を取りとめた。逆らう者に容赦のないドンスは、対立組織の仕業に違いないと部下に探らせる。警察ではみ出し者ののチョン刑事は、まだ誰も結びつけていない連続無差別殺人の手口と似ているのに気づく。上司に無許可で、手がかりを求め執拗にドンスにつきまとうチョン刑事。双方譲らず、互いに競うように犯人捜しをするが、いったん手を組んで犯人を追うことになった。

韓国映画はいつも痛いシーンが多いのですが、この作品は輪をかけて痛い!!韓国初登場1位でバイオレンス・アクションとしては異例の大ヒットだったとか。『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016)で男気のある乗客を演じて人気が沸騰したマ・ドンソクが、貫禄たっぷりのヤクザの組長役。いかにもなダブルの背広を着こなして、身体も(たぶん心持も)なんだか一回り大きくなったように見えます。連続殺人犯にめった刺しにされる組長ですが、あの体格、筋肉がナイフを内臓まで届かせなかったに違いありません。この人は悪役をやってもどこか可愛いところがほの見えて、ファンが”マブリー(マ+ラブリー)”と”呼ぶのも納得です。マーベルの映画『エターナルズ』のヒーローの一人として出演(2021年公開予定)します。18歳でアメリカに移住した韓国系アメリカ人なので、言葉に不自由はないのでしょう。
マーク・ウォルバーグを若くしたようなキム・ムヨルも、ドンソク兄貴に負けずに身体を張ったアクションを見せました。目をひかれたのは不気味な殺人犯役のキム・ソンギュ。ほかの出演作も観たくなります。きっと別の表情を見せるはず。本作はアメリカでリメイクされるとか。スタローン制作ですが、誰が主演するのかな?(白)


厳つい風貌だけれど心根は優しい役どころが続いたマ・ドンソク。本作では久しぶりに本格的なワルを演じます。
自分を襲った相手を絶対に許さないとばかりに、自分の組の若い連中を使い、総力を挙げて犯人捜し。敵対するグループに対しては冷酷ともいえる仕打ちをします。しかし、一般人に対してはさりげない優しさを見せるあたりは『FLU 運命の36時間』とは違うかも。死んでも死なない?マ・ドンソクをたっぷり堪能できる作品です。(堀)


マブリー筆頭に男気たっぷりの『悪人伝』ですが、その中で、紅一点、私が注目したのが警察の鑑識係を演じているキム・ギュリさん。今、BSイレブンで放映中のドラマ「パーフェクトカップル」で、子育てそっちのけで金遣いが荒く、離婚をつきつけられた我がまま女を演じていて、それが地のようで絶品。『悪人伝』では出番は少しだけど、ちゃんとチャ・ソジンという名前もついてます。はつらつとした鑑識係。映画の最後に、主な出演者の写真と名前が出るのですが、女性はキム・ギュリさん一人です。(咲)

2019年/韓国/カラー/シネスコ/110分
配給:クロックワークス
(C)2019 KIWI MEDIA GROUP. ALL RIGHTS RESERVED
http://klockworx-asia.com/akuninden/
★2020年7月17日(金)ロードショー


posted by shiraishi at 22:59| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

リトル・ジョー ( 原題:Little Joe)

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監督:ジェシカ・ハウスナー(『ルルドの泉で』)
音楽:伊藤貞司
出演:エミリー・ビーチャム、ベン・ウィショー、ケリー・フォックス、キット・コナー

シングルマザーの研究者アリス(エミリー・ビーチャム)は、幸せになる香りのする新種の植物リトル・ジョーを開発するが、仕事にのめり込むあまり息子のジョーと向き合っていないことに後ろめたさを感じていた。ある日アリスは、リトル・ジョーを植えた鉢を持ち帰り息子にプレゼントする。しかし、花の香りをかいだジョーや、花粉を吸い込んだアリスの助手クリス(ベン・ウィショー)の様子が徐々におかしくなる。

冒頭から響き渡る尺八、箏、笙の音。真上から撮影される化学プラント。植物が居並ぶ無機的な空間。音響、カラフルな絵造りが映画に新鮮な調和を齎らす。"感染"が主題でもある本作は、今まさに鑑賞すべき作品と言える。母性ホルモンを誘発し、放つ香りは人々を幸せにする植物=リトルジョー。「幸せにする」プラントの意匠に温かみがなく、白ベースに青、赤の植物が整然と植えられたデザインはクールな印象である。日本人作曲家、故・伊藤貞司による楽曲は、寧ろ“怪談”を想起させ、時にケチャのようにも聴こえ、不穏な空気を醸し出す。

『ルルドの泉で』で宗教的奇跡と残酷さを演出したオーストリアの女性監督ジェシカ・ハウスナーが初のSFに挑んだ。種子を遺伝子を残せない、生殖させない改良を人工的にほどこした植物。花粉を吸った時に生じる反動を冷徹な話法で描き出す。

家族、同僚、知人、被験者といった集合体で登場する人物に扮する俳優たちは、いたって普通のドラマのように演じているため、事象の異様さが際立つ。エミリー・ビーチャム、ベン・ウィショー、子役のキット・コナーなど英国の演技巧者を集めた中、最も印象深い人物造形を残したのは、ジェーン・カンピオン作『エンジェル・アット・マイ・テーブル』(90)の主演が未だ忘れ難いケリー・フォックスだ。扮する同僚ベラの存在を契機として起こる事件がラストへと繋がる伏線となっており、本作に於ける重要なキーパーソンだろう。
”感染”と立ち向かう現在、多くの示唆を孕んだ問題作だ。(幸)


子どもを産むと女性は誰でも自分の子どもを最優先すると思われています。でも、中にはそれまで築いてきた仕事のキャリアの方が大事だと思ってしまう人もいるでしょう。ただ、それを表に出すと人間失格の烙印を押されてしまう気がして、隠しているのではないでしょうか。

この作品の主人公アリスもその1人、本心は研究に専念したい。正直、息子は研究の足枷。でも息子を見捨てられない。この葛藤を表に出さずに苛まれるアリスをエミリー・ビーチャムが好演。

母親らしさ、女性らしさにとらわれ過ぎず、生きたいように生きることも決して恥ずかしい選択ではないことを作品は伝えてくれます。(堀)


2019/オーストリア・イギリス・ドイツ/105分/カラー/ビスタ/5.1ch/英語
配給:ツイン
(c)COOP99 FILMPRODUKTION GMBH / LITTLE JOE PRODUCTIONS LTD / ESSENTIAL FILMPRODUKTION GMBH / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE 2019
公式サイト: http://littlejoe.jp
★7月17日(金) アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺他にて全国順次ロードショー★
posted by yukie at 22:58| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ライド・ライク・ア・ガール(原題:Ride Like a Girl)

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監督:レイチェル・グリフィス
脚本:アンドリュー・ナイト、エリース・マクレディ
撮影:マーティン・マクグラス
出演:テリーサ・パーマー(ミシェル・ペイン)、サム・ニール(父 パディ・ペイン)、スティービー・ペイン、サリバン・ステイプル

ミシェルは競馬一家のペイン家に10人兄弟の末娘として生まれた。母はミシェルが生後6か月のころに交通事故で亡くなり、以後は父親と兄姉に育てられた。調教師の父のもと、兄姉のほとんどが騎手として活躍している。ミシェルも騎手になることを目標に鍛錬を欠かさず、女性には不利な環境も乗り越えて念願のデビューを果たした。好成績をあげて期待された矢先、落馬で大けがを負ってしまった。復帰を危ぶまれながら、不屈の意思でリハビリに励む。

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オーストラリア競馬では最高賞金のメルボルンカップ。居並ぶ強豪が3200mをわずか数分で駆け抜けます。毎年11月に開かれるこの競馬の日は祝日で、みんなが手に汗を握って見つめるようです。2015年のレースで女性騎手で初めて栄冠を手にしたのが、このミシェル・ペイン。結果を先に言っちゃって申し訳ないのですが、これがわかっていても迫力のレース場面は固唾を飲んで見守ることになります。映画はミシェルがここに至るまでに、どんな挫折と努力があったのかをつぶさに見せてくれます。監督は女優としても活躍中で、これが初長編作品のレイチェル・グリフィス。
ミシェル・ペインを『明日、君がいない』(06)『ベッドタイム・ストーリー』(08)『ハクソー・リッジ』(16)などに出演のテリーサ・パーマー。『ウォーム・ボディーズ』(13)のゾンビのR(ニコラス・ホルト)に惚れられるジュリーも忘れられません。お兄さんスティービーの笑顔が目に留まりましたが、ミシェルの「実のお兄さん」本人でした。(白)


2019年/オーストラリア/カラー/ビスタ/98分/
配給:イオンエンターテイメント
(c)2019 100 to 1 Films Pty Ltd
公式HP  https://ride-like-a-girl.jp
公式Facebook @ridelike.jp  
公式Twitter @ride_like_jp
★2020年7月17日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ 他全国公開
posted by shiraishi at 22:57| Comment(0) | オーストラリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする