2023年12月08日

Winter boy(原題:Le lyceen)

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監督・脚本:クリストフ・オノレ
製作:フィリップ・マルタン ダビド・ティオン
出演:ポール・キルシェ(リュカ)、ヴァンサン・ラコスト(カンタン)、ジュリエット・ビノシュ(イザベル)、エルヴァン・ケポア・ファレ(リリオ)

リュカ17歳。大好きな父親が事故で亡くなり、高校の寄宿舎からアルプス山麓の実家に戻った。あまりに突然のことで、悲しいという感覚がマヒしてしまったようだ。葬儀の後、兄のカンタンは沈んでいる弟を自分の住むパリに連れていき、好きなように過ごさせる。リュカは初めてのパリで、カンタンの親友の青年リリオに強く惹かれていく。リリオには知られたくない秘密があった。

クリストフ・オノレ監督の十代の自分のセクシャリティや喪失感を描いた自伝的ストーリー。新星のポール・キルシェは『トリコロール/青の愛』(93)『トリコロール/赤の愛』(94)などの女優イレーヌ・ジャコブの実の息子。端正な容姿と繊細な演技で、衆目をひきつけます。傷つきやすい心を抱えて、パリをさまようリュカが光を見出せますようにと、つい見守ってしまいます。恵まれた環境に甘えることなく、探求心や努力を怠らない、先が楽しみな若手スターです。
母役にイレーヌ・ジャコブと共演していたジュリエット・ビノシュ。兄のカンタン役のヴァンサン・ラコストは口元が可愛いですよね。春に公開された『幻滅』で主人公の先輩編集者役を演じていました。リリオ役のエルヴァン・ケポア・ファレはまだ俳優歴は浅いようですが、リュカが目を止めるだけの存在感あり。
中身は全く違うけど、青春って痛かったと思い出しました。(白)


2022年/フランス/カラー/シネスコ/122分/R15+
配給:セテラ・インターナショナル
(C)2022 L.F.P・Les Films Pelleas・France 2 Cinema・Auvergne-Rhone-Alpes Cinema
https://www.winterboy-jp.com/
★2023年12月8日(金)よりシネスイッチ銀座、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
posted by shiraishi at 22:37| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年12月07日

彼方の閃光

12月8日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国順次公開

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©2022 彼方の閃光 製作パートナーズ


監督・原案・音楽:半野 喜弘
脚本:半野 喜弘/島尾 ナツヲ/岡田 亨
プロデューサー:木城 愼也/半野 喜弘/坂本 有紀/中村 悟/藤井 拓郎
アソシエイトプロデューサー:名取 哲/滝田 和人 
ラインプロデューサー:田中 深雪
撮影監督:池田 直矢 
編集:横山 昌吾(J.S.E)  
美術:山内 麻央/木下 沙和美 
スクリプター:奥井 富美子 
出演
光役:眞栄田 郷敦  
友部役:池内 博之
詠美役:Awich  
糸洲役:尚玄  
伊藤 正之  
71歳の光役:加藤 雅也

音だけの世界から「光」と「色彩」を取り戻していく
青年のまなざしが捉える戦争の記憶


幼い頃に視力を失った少年光(ヒカリ)。光にとっての世界は「音」。彼はカセットテープにまわりの音を録音している。母の説得に
よって10歳で手術を行い、目は見えるようになったものの色彩を感じられなかった。
20歳になった光(眞栄田郷敦)は、戦後日本を撮ってきた写真家・東松照明の写真に導かれるように長崎へ。そこで出会った自称革命家の友部(池内博之)にドキュメンタリー映画製作に誘われ、長崎・沖縄の戦争の痕跡を辿ることになる。
道中、祖母から戦争体験を聞いて育った詠美(Awich)や、沖縄と家族を愛する糸洲(尚玄)など、心に傷を抱えながらたくましく生きる人々と出会う。戦争の痛ましい記憶と彼ら3人の生き様は、光の人生を大きく揺さぶり、光の人生は大きく動き出す。

第35回東京国際映画祭(2022)Nippon Cinema Now部門に正式出品され、劇場公開が待たれていた。監督は半野喜弘。たくさんの映画音楽を作り、その後監督にも進出。『雨にゆれる女』『パラダイス・ネクスト』に続き、この作品は長編映画3作目になる。主演は眞栄田郷敦さん。21歳の時の初主演作である。
色彩、戦争、沖縄、原爆、環境破壊など多彩なテーマを描いている。東松照明の写真を切り口に、若者が戦争の跡を訪ね、長崎や沖縄の人たちの思いを知る。また、丸木位里・俊夫妻の「沖縄戦の図」や、それを展示している佐喜眞美術館にも足を運ぶ。

*東松照明は、戦後の日本、米軍基地、長崎、沖縄などのテーマに取り組み、時代と向き合い、人物や風景を捉えた写真家。さまざまな分野に挑戦し続けた東松の作品群は日本の社会、そして戦後の日本人が歩んできた姿そのものを描き出した。

*「沖縄戦の図」は、丸木位里・俊夫妻が沖縄戦を体験した人たちの証言に基づき、その人たちがモデルになって描かれた。全14図を6年がかりで完成させ、佐喜眞美術館に収納され、順次展示している。普段は全図がいっぺんに展示されていないが、現在、全14図が展示されている。今年(2023)、夏から秋にかけ、河邑厚徳監督の『丸木位里 丸木俊 沖縄戦の図 全14部』というドキュメンタリーが公開され、それを記念した展示。

丸木位里・丸木俊《沖縄戦の図》全14部 展
https://sakima.jp/exhibition/e2384744.html

東松照明の写真展に、過去何回か行ったことがある。そして中でも長崎で被爆した女性の横顔のアップの写真は強烈で忘れられない。この映画の主人公も、この写真に出合い、長崎にまで行ってしまった。その写真には、それだけの力がありということなのでしょう。
そして、丸木伊里・俊夫妻の「沖縄戦の図」全14部は、もっかのところ、私の中でどうしても見に行きたいと思っている絵です。それは、河邑厚徳監督の『丸木位里 丸木俊 沖縄戦の図 全14部』というドキュメンタリーを見たからです。
それを展示している佐喜眞美術館には、もう10年も前から行きたいと思っていました。ここの屋上からは普天間基地が見渡せるそうですが、それをぜひ見に行きたいと思っているのです。そのことを知ったのはリンダ・ホーグランド監督の『ANPO』安保をアートで語るというドキュメンタリーでした。この映画の中で、屋上から普天間基地が映し出されるのですが、リンダ監督にインタビューした時、その撮影時のエピソードを聞いてから、ぜひ行ってみたいと思っていました。全図が展示している間に行けたらと思います。
この映画は、そのように思っていた私にタイムリーな映画でした。
この作品の中では、光と友部、糸州の3人が白い壁の建物の階段のところで語るシーンがありましたが、そこが佐喜眞美術館です。あの階段を上っていった屋上から普天間基地が見渡せるので、この映画でも観渡したシーンがじっくりあるといいなあと思ったのですが、それはなくて残念。今、普天間基地はどうなっているのでしょう。眞栄田郷敦さんが、日本の戦争や戦後を語る場所を訪れるということで、若い人にもそのことを知ってほしい(暁)。

公式HP https://kanatanosenko.com/
配給:ギグリーボックス 
宣伝:平井 万里子/山口 慎平 フィクサー:長野 隆明
制作プロダクション:GunsRock

シネマジャーナル参照記事
*『丸木位里 丸木俊 沖縄戦の図 全14部』 
河邑厚徳監督インタビュー 2023年07月12日
http://cineja-film-report.seesaa.net/article/500009283.html

*『ANPO』安保をアートで語る 2010年8月20日 
リンダ・ホーグランド監督 インタビュー
http://www.cinemajournal.net/special/2010/anpo/index.html
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2023年12月03日

他人と一緒に住むという事

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監督・脚本・編集:八木橋努
撮影:石井康幸
出演:森田コウ(大槻)、芦那すみれ(リコ)、山下剛史(剛)、若松朋茂(信治)、裕紀yuki(舞子)、橋本利明(岩淵)

剛はいまだ目の出ない売れない役者。それでも妥協したくないという矜持は髪の長さに現れている。恋人のコウは美容師で、幼馴染の信治と同居しているのが、剛には面白くない。かくいう剛も中年の先輩の岩淵を断り切れず、居候させている。剛は意を決して二人を追い出し、コウと同棲しようとする。
大槻はソーラーパネルの事業であてて、裕福になった。26歳も年下の若い女性と再婚したが、仕事を理由に引っ越してこない。別荘を買って気を引いてみるが、帰宅時間は遅いわ、外泊をするわと大槻が夢見た生活とは程遠い。

「他人と一緒に住むこと」であぶり出されてくるのはお互いの欲望と本心。登場人物がまあ、一緒に住みたくない人ばかりで、中でも厚かましい先輩の岩淵が一番。人を頼って転々と住処を変えても、全く悪びれる様子がありません。舞子も同じくらい不思議な人なので、この二人の絡みには笑ってしまいました。住むところをめぐって何人もの人が、一緒になったり離れたりします。
人物やセリフが面白く最後までひきつけられました。観終わってあの人たちは今どうしているのだろう、とつい思ってしまいました。劇中の人たちなのに。
八木橋努監督が2015年に脚本を書き、演出した舞台劇を映画化したものと知って納得。(白)


2021年/日本/カラー/ビスタ/106分
配給:群像
https://livingwithothers.com/
★2023年12月2日(土)よりシアター・イメージフォーラムにてロードショー中
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2023年12月02日

香港怪奇物語 歪んだ三つの空間(原題:失衡凶間 Tales from the Occult)

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「暗い隙間」
監督:ホイ・イップサン
出演:チェリー・ガン(ヤウガー)、ン・ウィンシー(アリス)

女子中学生のヤウガーは、親友のアリスと別れて帰る道で猫に出会う。後を追っていくと暗い隙間に入ってしまった。のぞき込んでぞっとする。人間の形のものが倒れていて、ヤウガーは見開かれた”眼”を見てしまう。男性の遺体だった。
数年後、シンガーになったヤウガーは、不倫相手の音楽プロデューサーと過ごすために新居に引っ越した。直後からあの”眼”が自分を見ている気がしてならない。

「デッドモール」
監督:フルーツ・チャン
出演:ジェリー・ラム(ヨン・ワイ)、シシリア・ソー(ガルーダ)

ヨン・ワイはライブで投資情報を配信している人気ライバー。新装オープンした「リードモール」で、配信中にガスマスクをつけている女性を目にした。このモールは、14年前大火災で、多くの死傷者を出した「ラッキーモール」の跡地に建設されたため、幽霊が出るという噂がある。巷の噂の真相を暴く女性ライバーのガルーダは、その怪奇現象の調査にやって来た。

「アパート」
監督:フォン・チーチャン
出演:リッチー・レン(ホー)、ソフィー・ン(アチー)

ネット小説家のアチーは、アパートの1階で幽霊に遭遇する。全身ずぶ濡れで顔面蒼白、溺死した人間に違いない。ほかの階に住む住人たちも目撃していた。住人と交わろうとしない謎の男、ホーが怪しいと意見が一致する。伝説のヤクザで何人も殺していると専らの噂なのだ。思い切って訪ねていくと、ホーも幽霊退治の仲間に入るという。しかし、一人、二人と命を落としていく。

香港の気鋭の監督3人が競作したオムニバスホラー。ホイ・イップサン監督が書いていた脚本から生まれた短編3本です。映像業界で長く活躍してきたホイ監督ですが、劇場公開作品の監督はこれが初だそうです。
「暗い隙間」でヤウガーが頼りにしていた叔父さんは、ローレンス・チェン。長くテレビ番組の司会をしていたので「香港の久米宏」と勝手に呼んでいたのを思い出します。
「デッドモール」のフルーツ・チャン監督は”香港返還三部作『メイド・イン・ホンコン』(1997)『花火降る夏』(1998)『リトル・チュン』(1999)で知られています。近年はプロデューサー業でも活躍。本作主演のジェリー・ラムが2002年11月イベントで来日したときの記事がシネジャのウェブにあります。みんな若々しいです。
「アパート」で住人ホー役のリッチー・レンは台湾の歌手・俳優。『星願 あなたにもういちど』(1999)では、想いを伝えるために現生に蘇ったオニオン役の好演で泣かせました。その後ジョニー・トー監督映画の常連になってからは強面な役も多くなり、すっかりベテランの風格です。こちらに日中カラオケ大会のゲストで来日したときの記事あり。2006年には単独でコンサートも開いています。とってもフレンドリーでチャーミングな人でした。
冬にホラーなのはちょっと残念ですが、香港ホラーも健在ですという3本。(白)


2021年/香港/カラー/シネスコ/112分
配給:武蔵野エンタテイメント株式会社
(C)2021 Media Asia Film Production Limited, Movie Addict Productions Limited All Rights Reserved
https://hk-kaiki-movie.musashino-k.jp/
X:@hk_kaiki_movie
メイキング映像はこちら

★2023年12月1日(金)よりシネマカリテにて公開中。他全国順次ロードショー

posted by shiraishi at 22:37| Comment(0) | 香港 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ヤジと民主主義 劇場拡大版

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(C)HBC/TBS

制作・編集・監督 山崎裕侍 
語り:落合恵子 
取材:長沢祐 
プロデューサー:山岡英二 磯田雄大 鈴木和彦
撮影:大内孝哉 谷内翔哉 村田峰史
編集:四倉悠策
MA:西岡俊明
音楽:織田龍光

2019年7月15日、札幌駅前。安倍首相(当時)の演説中に、「安倍やめろ!」のヤジが飛んだ。声をあげた男性を、すぐさま数名の警察官が取り囲んだ。その場から連れ去られる男性。その様子を遠くから見ていた若い女性も、「増税反対」の声をあげた。彼女も、すぐに警察官に囲まれ引きずられるように移動させられた。女性が現場を離れた後も、女性警官二人がしつこくつきまとった。
街宣の場所から排除された2人は、原告として警察側を訴える。1審は勝訴したが高裁では判断が分かれ、双方が上告し裁判は続いている。
本作は、北海道放送報道部道警ヤジ排除問題取材班が追求し続ける4年間に渡る記録。そして、彼らはこの問題を追い続けている。

声をあげたとたん、数名の警察官に取り囲まれる様子に、街宣を聴く民衆の中に、どれだけの制服・私服の警察官がいるのかと怖くなりました。それでいて、奈良での安倍首相襲撃は防げなかった警察。
高齢の女性3人が、「老後の生活費 2000万円 貯金できません」のプラカードを胸元に掲げるのですが、すぐに注意されてしまいます。一方、自民党支持のプラカードが配られ、最前線にいる人たちが掲げているというダブルスタンダード。
政権に声をあげた人に対して、どういう法的根拠があって警察が排除しようとするのかを考えさせてくれるドキュメンタリー。何かしらの行動を起こさないと、政治が変わらないことも教えてくれます。(咲)


2023年/日本/100分/ステレオ/16:9  
製作:HBC北海道放送 
配給:KADOKAWA
宣伝:KICCORIT
公式サイト:https://yajimin.jp/
★2023年12月9日(土)より、ポレポレ東中野、シアターキノほか全国公開



posted by sakiko at 20:59| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする