2025年07月07日

BAD GENIUS/バッド・ジーニアス

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監督:J・C・リー
脚本:J・C・リー、ジュリアス・オナー
出演:カリーナ・リャン(リン)、ジャバリ・バンクス(バンク)、テイラー・ヒックソン(グレース)、サミュエル・ブラウン(パット)、ベネディクト・ウォン(モウ/リンの父)

リンはアメリカに移民した両親の元に生まれ、父子家庭で育った。高校進学は経済的に苦しかったが、成績優秀のため名門高校に特待生として入学し授業料が免除になった。同級生は裕福な親のコネで入学した子が多い。女優志望の気のいいグレースと友達になるが、落第寸前で困っていた。テスト中、リンは彼女を助けようとカンニングさせてしまう。グレースの恋人のパットは、リンの才能を生かそうと劣等生たちへの裏ビジネス=カンニングを持ち掛ける。リンの収入は増えたが、父にも言えないこのバイトに、リンは呵責に心が痛む。リンと同じく特待生で入学した母子家庭のバンクは苦々しい思いで見ていた。

オリジナル版はタイのバズ・プーンピリヤ監督の『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017)。リメイク作品の登場人物の名前や性格などほぼそのままでした。オリジナルより30分短いのですが、父と娘の部分はより丁寧に、他はテンポよくスリリングにまとめています。
天才的な頭脳を持つリンがあれこれと考えるカンニング方法は、伝えられた方も結構な判断力、瞬発力が求められます。記憶に全く自信のない私など、絶対に無理!!普通に勉強した方がよほど楽に見えてしまいます。ヒロインに抜擢されたカリーナ・リャンは両親が中国からの移民2世。リン役にはおおいに共感したのではないでしょうか。これが初の主演作です。
父親モウ役のベネディクト・ウォンは『ドクター・ストレンジ』(2016)で主役のベネディクト・カンバーバッチの相棒、ウォンを演じていました。香港の俳優 林雪(ラム・シュ)を思い出す風貌で目に止まります。(白)


2024年/アメリカ/カラー/97分
配給:ギャガ
(C)Stewart Street LLC
https://gaga.ne.jp/badgenius/
★2025年7月11日(金)全国ロードショー

posted by shiraishi at 13:17| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『生きがい IKIGAI』『能登の声 The Voice of NOTO』

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(C)「生きがい/能登の声」フィルムパートナーズ

監督・脚本・企画:宮本亞門
撮影:松本典朗 
音楽:山下康介
音楽プロデューサー:田井モトヨシ 
音響効果:浦川みさき
特別協力:輪島市
出演:鹿賀丈史(山本信三/黒鬼)、常盤貴子(妻)、津田寛治、根岸季衣、小林虎之介、杉浦文紀

石川県能登の山奥。
土砂災害の被災現場で、崩壊した家の下から一人の男が救出された。見守る人々から歓声があがるが、「黒鬼」と呼ばれる山本信三は何も語らず去っていく。避難所になじむことができない黒鬼は、崩壊した自宅の一角で暮らし始める。ある日、被災地ボランティアたちが黒鬼の自宅の片づけの手伝いに訪れた。壊れたり汚れて使えなくなったものを処分していくボランティアたちが、あるものを捨てようとして、黒鬼の怒りをかい追い出されてしまう。ボランティアが知らずに捨てようとしたのは、今は亡き妻の形見の茶碗。黒鬼にとって、彼女が唯一の理解者で大切な遺品だったのだ。
後日、妻のことを知ったボランティアの青年が黒鬼の元を訪れ、大切な人を亡くした「自分と同じだ」と語りかける。青年の話を聞いた黒鬼は重い口を開き、倒壊した家に閉じ込められていた間のことを話し始めたー
(上映時間:38分)

同時上映 ドキュメンタリー
『能登の声 The Voice of NOTO』
監督・編集:手塚旬子
撮影:谷茂岡稔
音楽:溝口肇 
ナレーション:蒼あんな
(上映時間:28分)

2024年1月1日、新年を祝う能登の人々をマグニチュード7,6、最大震度7の地震が襲いました。そのうえ9月には豪雨に見舞われ、片付け始めた家屋を山から崩れ落ちた土砂が埋めてしまいます。二重の被災となった能登へボランティアに出かけた宮本亜門は、その惨状と生きる望みさえなくしかけた人々を目の当たりにします。宮本が被災地で出逢った人々や記録映像から、ショートフィルムが生まれました。
画面全体に気迫が漲る鹿賀丈史さんの存在感と、清冽な空気をまとった常盤貴子さんの透明感が、かけがえのない暮らしと人を失った悲しみを倍加させます。ボランティア青年役の小林虎之介さんは、NHKの夜ドラ「宙わたる教室」の金髪少年です。こちらでも黒鬼の心を開く重要なキャスト。宮本さんの元に集ったスタッフ・キャストの能登への想いが観客に届きますように。
生の声をおさめたドキュメンタリーと併映することで、能登の現状を伝え、住民の心に寄り添い復興の一助になればと公開が決まったものです。収益金の一部が被災地に送られます。(白)


配給:スールキートス
(C)「生きがい/能登の声」フィルムパートナーズ
https://ikigai-movie.com/index.html
★2025年7月11日(金)全国ロードショー

posted by shiraishi at 12:58| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年07月06日

黒川の女たち

2025年7月12日(土)からユーロスペース、新宿ピカデリー、池袋シネマ・ロサ、キノシネマ 立川髙島屋S.C.館、MOVIX昭島、CINEMA Chupki TABATAで公開 その他劇場公開情報 
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(c)テレビ朝日

なかったことにはできない
満州にいる時より帰国してからの方が悲しかった


監督:松原文枝
語り:大竹しのぶ
出演 黒川地区の皆さま

今から10年ほど前、敗戦直後の満洲で起きた性暴力の実態を佐藤ハルエ、安江善子が自ら告白した。
80年以上前の戦時下、国策の満蒙開拓により満州に渡った岐阜県白川の黒川開拓団員は650人余。5年満州で生活した。日本の敗戦が色濃くなる中、1945年8月9日ソ連軍が突然満洲に侵攻。守ってくれるはずの関東軍はすでに去り、満蒙開拓団は過酷な状況に。集団自決した開拓団や、避難する途中で亡くなった人も。
敗戦後はソ連兵や、抑圧してきた中国人から襲撃を受け、黒川開拓団は日本に帰るため敵であるソ連軍に助けを求めた。しかしその見返りは女性たちによる接待だった。差し出された女性は15人。数えで18歳以上の未婚女性が犠牲になり性の相手をさせられた。そして4人の乙女たちが亡くなった。
性接待の犠牲を払ったが、敗戦から1年、黒川開拓団の人々は451人が帰国できた。しかし、帰国した女性たちを待っていたのは労いではなく、差別と偏見の目、そして誹謗中傷。同情から口を塞ぐ人々。込み上げる怒りと恐怖を抑え、身をひそめる女性たち。身も心も傷を負った女性たちの声はかき消され、この事実は長年伏せられてきた。二重の苦しみに追い込まれ、故郷を離れ他の土地で酪農を始めたり、東京に行った人も。それぞれ思いを抱えていたが、その思いを口にすることなく、時に、犠牲にあった女性たちのみで集まり、涙をこぼした。
だが、黒川の女性たちは、犠牲の史実を封印させないため「なかったことにはできない」と手を携えた。2013年に満蒙開拓平和記念館で行われた「語り部の会」で、佐藤ハルエさんと安江善子さんが、満州で性暴力にあったことを公の場で語った。彼女たちの勇気ある告白に、今度は、世代を超えて女性たちが連帯した。
安江善子さんが中心になり募金を募り、1982年、黒川の鎮守の森に満州で亡くなった4人の女性を供養するため「乙女の碑」が建てられたが、お地蔵さんが鎮座するだけで説明はなかった。戦後70余年、2018年に、彼女たちの犠牲を史実として残す碑文が「乙女の碑」の脇に建てられ、その歴史が刻まれた。過去に向き合うこと、それは尊厳の回復にもつながった。

27万人も満州に渡った満蒙開拓団。1945年(昭和45年)8月9日にソ連は満州に侵攻したが、開拓団を守るはずの関東軍はすでに撤退していたという。『森川和代が生きた旧「満州」、その時代』という本の中にも「関東軍と共に行動した友人は、すぐに日本に帰っていたということを、後で知った」という文章があったが、関東軍だけでなく一緒に行動した人たちは難なく帰ってきていた。そんなことは知る由もない、ほとんどの満蒙開拓団の人たちの、その後の苦労、困難、災難は、いくつもの映画でも出てきたし、たくさんの本に残されている。この作品では、その困難の最中の、ソ連軍への性接待について描いているが、ドキュメンタリー映画で描かれたのは初めてのことだったのではないだろうか。性接待だけでなく、ソ連兵によるレイプの数々は、いろいろな話や映画、本で知っている。舞鶴の「引揚記念館」の展示の中にも、そういう展示や検疫所とともに堕胎の場所もあったことが示されていた。
世界のあちこちで戦争がおき、きな臭い世の中になっているので、また、世界大戦が始まってしまうのではないかという心配も出てきている。若者の中に寛容の心が少なくなっているように感じる。外国人に対して排他的な言動をよく聞く。2度と黒川の女性たちのようなことが起こらないよう、また、生存者が残り少なくなっているので、当時の話の伝承をしていくことが大事ですね(暁)。


開拓団の文集に、手記を寄稿した女性が、勇気をもって性接待についても記述したのに、肝心の部分をばっさり削除して掲載されたという話が出てきました。編集にあたった男性は、「性接待にかかわったことを隠して結婚している人たちのことを思うと公表しないほうがいいと思った」と弁明しています。確かにそれも一理ありますが、若い女性たちを性接待に差し出した男たちの後ろめたさも感じます。
性接待をさせられた過去を明かした女性の方の長男が、「戦時中のことを反省しないまま終わっているのが日本。黒川開拓団はその縮図」と語っていたのが印象に残りました。 開拓団を見捨てた関東軍だけでなく、日本軍の功罪はあちこちから聞こえてくるのに、その実態はきちんと明かされていません。もし私たちが戦争に巻き込まれても、国が守ってくれるなどということは考えないほうがいいと思ってしまいます。
災害は忘れたころにやってくる… 戦争もまた然り。 経験者の思いを語り継ぎ、二の舞を踏まないようにしたいものです。(咲)



『黒川の女たち』公式サイト 
製作:テレビ朝日
配給:太秦
2025/日本/99分/ドキュメンタリー

シネマジャーナル 松原文枝監督インタビュー記事はこちら
posted by akemi at 20:56| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ザ・ウォーク ~少女アマル、8000キロの旅~  原題:The Walk  

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(C)2023. Grain Media Ltd.

監督:タマラ・コテフスカ(『ハニーランド 永遠の谷』
出演:アシル・エルセプティ、ムアイアド・ルーミエ、フィダ・ジダン、マリア・アブドゥルカリム、ラナ・タハ、ローマ教皇フランシスコ

私は希望。新たな居場所を求めて、あなたと歩む。
戦争によって家や家族、日常生活のすべてを失った子どもたちの声を
伝えるため、3.5メートルの人形アマルがヨーロッパ横断の旅に出る─


現在、世界で1億人以上の人々が国内外に避難し、難民状態にある。
そして、その内の約4割が18歳未満の子どもである。戦争により子どもたちは住み慣れた家や大切な人、教育を受ける権利をも奪われ、貴重な子ども時代を失っている。そうした子どもたちの悲しみや願いを伝えるため、2021年、身長約3.5メートルの人形アマルの旅プロジェクトThe Walkが始まる。
アマルはアラビア語で「希望」を意味し、9歳のシリア難民の少女をかたどっている。本作はアマルがシリア国境からヨーロッパを横断する旅路を追いながら、アマルの眼差しから世界の実情を伝え、アマルとともに難民の人たちの声を聴いていく。

訪れた国々でアマルは世界のリアルと向き合うことに。トルコの難民キャンプでは、先行きが不透明なまま留まらざるをえない子どもたちや女性たちの想いに触れ、ギリシャでは難民受け入れに抗議する市民デモに遭遇し、憎悪がこもった言葉を浴びせられる。さらに、ローマ教皇やフランスの欧州議会なども訪ねていきながら、アマルは安心できる新たな居場所を探し続ける・・・

大きな人形のアマルに命を吹き込むのは、人形遣いのムアイアド(シリア出身の難民)とフィダ(パレスチナ人)。そして、アマルの声を表現するのはシリア難民の少女アシル。
ヨーロッパ各地で、大きなアマルは注目を集め、フランスではついにパスポートも貰うのですが、各地で目にするのは、残念ながら難民を受け入れたくない人たちの姿。アフリカなどからたどり着いた人たちからは、ひどい目にあった話を聞かされます。故国を離れたのには、皆、それなりの理由があるはず。強制送還という冷たい仕打ちでなく、難民も社会に一員として、なんらかの方法で共存できないものでしょうか。人形のアマルが、そのことを考えさせてくれる一助になることを願うばかりです。(咲)


タマラ・コテフスカ監督は、北マケドニア出身。長年、バルカン半島を通過する難民たちを目の当たりにしてきました。バルカン半島の人々自身、紛争を経験しているにもかかわらず、紛争を逃れてきた中東の難民たちに定住権を提供してこなかった事実を誇りに思えないと語っています。

★アップリンク吉祥寺でのトーク情報
7月11日(金) 上映終了後
登壇者:松永晴子(国境なき子どもたち)(オンライン登壇)

7月12日(土) 上映終了後
登壇者:瀬谷ルミ子(REALs理事長)

7月13日(日) 上映終了後
登壇者:村山祐介(ジャーナリスト)(オンライン登壇)


2023年/イギリス/80分/ドキュメンタリー
制作:Grain Media
配給:ユナイテッドピープル
公式サイト:https://unitedpeople.jp/walk/
★2025年7月11日(金)アップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショー




posted by sakiko at 20:26| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

逆火

「逆火」本ビジュアルfix.jpg

原案・監督:内田英治
脚本:まなべゆきこ
撮影:野口健司
音楽:小林洋平
出演:北村有起哉(野島)、円井わん(ARISA)、岩崎う大(かもめんたる)、大山真絵子、中心愛、片岡礼子、岡谷瞳、辻凪子、小松遼太、金野美穂、島田桃依

映画監督を夢見る助監督の野島の次の仕事は、貧困のヤングケアラーから成功した ARISA の自伝小説の映画化だった。高校生のときに体験作文を応募したことから、今につながったのだった。野島が撮影に入る前に自伝に書かれた事実関係を確かめるうち、疑問がわいてくる。ARISAは嘘をついていないか?真実の物語だからこそ、映画が感動作になるのにこのまま映画制作を進めていいのか?プロデューサーや監督に打ち明けて相談するが、いまさら中止にできないという反応ばかり。自伝小説の出版元はけんもほろろだった。ARISA本人や小説のゴーストライターに会ってみて、野島はさらに驚くことになった。

「逆火」とは聞きなれませんが、車を運転する人には身近でしょうか?燃焼室の燃焼が吸気側に逆流する現象でバックファイヤーのことだそうです。爆発してバンバンと音がするとか。映画では走り始めた制作が、野島助監督の調査でつまずきかけたことをいうのでしょうか、それとも家庭を全く顧みずに家のことは妻任せ、一人娘に拒絶されている野島のことをいうのでしょうか?
映画には理想を抱いて監督を夢見る野島が、家庭では頭の固い想像力のない男性です。
自分の「好き」にはこだわりながら、妻や娘の孤独には気づかず娘が何より大事にしていたものを踏みにじります。一方、悪びれることなく事実を話し、自分の生き方を貫くARISAはすっきり明快で、とにかくたくましい。
映画界を舞台にしているので、制作の内側が垣間見られるのは興味深いです。ただ長年助監督をやっているなら、あるあるな話じゃないの?そんなに狼狽えるの?(私がすれてきたのかも)(白)


2025年/日本/カラー/108分/シネスコ/5.1ch/PG12
配給:KADOKAWA
©2025「逆火」製作委員会
公式 HP:https://movies.kadokawa.co.jp/gyakka/
公式 X:@gyakka0711
★2025年7月11日(金)テアトル新宿ほか全国順次公開
posted by shiraishi at 18:02| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする