2020年10月18日

アリ地獄天国

arijigoku.jpg

監督・撮影:土屋トカチ
構成:土屋トカチ、飯田基晴
主題歌:マーガレットズロース「コントローラー」
ナレーション:可野浩太郎
出演:西村有(仮名)

とある引越会社。社員は自分たちの状況を「アリ地獄」と自嘲する。長時間労働を強いられ、事故や破損は自己責任で、会社への弁済で借金漬けになるからだ。本作の主人公、西村有さん(仮名)は34歳の営業職。もとは営業職でトップの成績をあげていた。しかし、会社の方針に異議を唱え、個人加盟の労働組合(ユニオン)に加入した。するとシュレッダー係へ配転、給与は半減し、さらに懲戒解雇にまで追い込まれた。
ユニオンの抗議により解雇は撤回させたが、復職先はシュレッダー係のまま。会社に反省の色は見られない。西村さんは「まともな会社になってほしい」と闘いを続けてゆく。

土屋監督が作中で声を詰まらせる場面がありました。仕事で悩んでいた親友やまちゃんの自死を防げなかったことを後悔し、その思いとともに西村さんの3年にわたる闘いに密着しました。西村さんは、自分もかつて理不尽な規則を後輩に強いてきたと打ち明けます。ブラック企業からなぜ出てしまわないのかと思ってしまいますが、自分も含めた社員たちが働きやすい、まともな職場になってほしいと諦めません。労働組合がないため、一人で入ったユニオンの担当者がなんとも頼もしく、西村さんをしっかりサポートします。
最初は大丈夫かなぁと心配しながら観ていましたが、だんだんたくましくなっていく西村さんにホッとしました。顔つきも変わっていきます。諦めずに戦い続ければ、志を同じくする人も集まり、小さなアリが大きな巣を作るように何かを成しえることができます。会社の上層部は儲け主義でなく、顧客と働く人間のための会社を心がけてほしいものです。その人たちがいなければ、立ち行きません。
これは、労働者が「生き残るためのロードームービー(労働映画)」。第16回山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映。同年、貧困ジャーナリズム賞を受賞。20年、第20回ニッポン・コネクションにて第1回ニッポン・オンライン賞受賞。第2回米国ピッツバーグ大学日本ドキュメンタリー映画賞グランプリ受賞。(白)


どちらかというと、草食系と呼ばれるだろう。まじめで、誠実で、穏やかに話す人だ。
こんな青年が引越しの見積りに来たら、みんな頼みたくなってしまうに違いない。
だから営業成績が良かったというのも首肯ける。家庭を持ったのをキッカケに、仕事を頑張ろうとした、しごく普通の、真っ当な人という印象。しかし、彼を受け入れた会社が普通でも真っ当でもなかった。こんな会社は大小問わずたくさんあるのだろう。コンプライアンスが表面的にはしっかりしているところでも、通常はもっと上手くやるのだ。しかし、この映画で露わになった、根底にある「思想」は、この社会に広く蔓延し、浸透しているのだろうと思う。真っ当であることを貫こうとして、どこかでこの「思想」と衝突し、力尽きてしまう人も多いんだと思う。まじめで誠実であればあるほど、わけがわからぬまま置き去りになり、心を病んでしまうかもしれない。体や心の実感よりもこの思想が優先されるため、いろんなレベルで、みんなが少しずつ狂っている。もはや右とか左とか言っている場合ではない。使えるものは何でも使って、この思想から脱却しないと、またまた大きな破綻が目前に迫っているような…。 (千)


40人を超える集団訴訟の原告のうち、唯一顔出し取材に応じた西村さん。⚫入社時の保証人は土地権利書を持つ人←何のために? ⚫社員同士の会食・飲み会・マージャン禁止、違反通報者には報奨金←モラハラ極まれり!密告制度まで! ⚫70時間残業、1日19時間労働←完全なる労基法違反! ⚫組合に相談したら営業成績トップにも関わらず不当な配置異動、更に減給。⚫会社を訴訟したとの理由で懲戒解雇。”罪状”と書かれた氏名顔写真入り通知を全店配布・掲示←人権侵害! ⚫母の葬儀中に「イメージダウンで会社が被害」と怪文書、妻の実家にも届く← 嫌がらせ極まれり!⚫都労働委員会の和解案提示も拒否。 ⚫団体交渉10回 とも決裂。 ⚫組合脱会工作、抜けたら30万円←不当労働行為救済で都に申立てするも副社長は知らぬ存ぜぬ(!) ⚫組合の尽力でシュレッダー係に復職するもボーナス20円(!)←合理的根拠なし。
⬆どうです?怒りがふつふつと湧いてきませんか?出来事を時系列に整理立てて構成したことからも、撮影・編集・構成・企画を担った土屋トカチ監督の技量は明らかだ。人間が尊厳と矜恃、自負をを保ち、ギリギリに立っていける様を本作は目を背けず忖度なしで観客へ突き付ける。監督自身も映画製作中に当該社から仮処分申請の裁判を申立てられ、心労が多かった筈だ。過去、友人を救えなかった悔恨も孕む。西村さんに体験を話しながら言葉に詰まる監督、シュレッダーの粉塵で鼻腔が詰まりストレスで食事すら摂れない西村さん。胸を突かれる場面が連続する本作の鑑賞体験は、きっと変革と勇気を齎せてくれる98分になるだろう。(幸)


2019年/日本/カラー/98分
配給:映像グループローポジション

https://www.ari2591059.com/
★2020年10月24日(土)より渋谷・ユーロスペース、11月1日(日)より東京田端 シネマ・チュプキ・タバタほか公開

☆『アリ地獄天国』スペシャルトーク付きオンライン上映会開催。

劇場まで出かけられない方もこの機会に本編とトークショーをご覧ください。
チケット購入は ZAIKO 専用ページより https://streaming.zaiko.io/_item/332163
映画「アリ地獄天国」公式サイト https://www.ari2591059.com/
【配信日時】2020 年 11 月 1 日(日)
12:50 本編オンライン上映開始
14:30 本編終了、トーク開始(安田菜津紀、土屋トカチ監督)
15:00 トーク終了予定
※アーカイブは 11/4(水)の 15:00 まで視聴することができます。
posted by shiraishi at 18:38
"アリ地獄天国"へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: