2019年10月03日

ボーダー 二つの世界 原題:Gräns/英題:Border

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監督:アリ・アッバシ 
原作・脚本:ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト『ぼくのエリ 200歳の少女』
出演:エヴァ・メランデル、エーロ・ミロノフ、ヨルゲン・トーション、アン・ペトレン、ステーン・ユンググレーン

違法なものを持つ人をかぎ分けることができる税関職員のティーナ(エヴァ・メランデル)は、ある日、勤務中に風変わりな旅行者のヴォーレと出会う。彼を見て本能的に何かを感じたティーナは、彼を自宅に招き、離れを宿泊先として貸し出す。ティーナはヴォーレのことを徐々に好きになるが、彼はティーナの出生の秘密に関わっていた。

今年の洋画暫定1位に推したい作品をご紹介出来ることが嬉しくて仕方がない。冒頭から観客の眼を釘付けにする主人公の容姿。備わった能力が、違法な匂いだけでなく、”悪意”まで嗅ぎとる、と知った時から、本作のただならぬ様相に心がざわついてくる。
日本でも根強い人気を持つ『ぼくのエリ 200歳の少女』の原作者であるスウェーデン人作家ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストの小説は意外なほどの短編だ。イラン系デンマーク人のアリ・アッバシ監督は、よくぞあの原作から想像力を羽ばたかせ、登場人物たちのビジュアルを造形したものだと感心する。

北欧の湿原、深い森と湖を舞台に蒼白且つ怜悧な舞台設定は、湿った空気や粘菌の感触まで漂ってくるようだ。その背景の中に主要男女を配置した途端に生まれる圧倒的な映像のインパクト。本作の魅力は、あらゆる要素が観客を引き込む点だ。終始、静謐さを保ちながら展開する極めて普通の日常。主人公は社会生活に溶け込んでいる。それを打破る男の出現。観る者は主人公と同化し、男のフリーキッシュな風貌と行動に動揺を覚えて行く。

脚本も兼ねる原作者のヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストは、性別や種族の境界に興味があるらしい。その点は『ぼくのエリ〜』と似て非なるものがある。『エリ〜』に観られた切なさや詩情は本作にはない。獣的官能と自然世界が混在し、未だかつて観たことがなく生涯忘れ得ぬ映画体験を齎してくれるだろう。

北欧の民間伝承に基く甘美な世界にぜひ脚を踏み入れてほしい。衝撃的な場面も無修正での公開に踏み切った配給会社は大英断だ。絶対のお薦め作!(幸)


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私が本作に注目したのは、ほかでもない、監督がイラン人であるということからだ。アリ・アッバシは、1981年、イラン・テヘラン生まれ。テヘラン工科大学での研究を2002年で辞め、スウェーデン・ストックホルムに移住。建築学の学位を取得。その後、デンマーク国立映画学校に入学し演出を学ぶ。現在、コペンハーゲン在住。
プレス資料に掲載されているインタビューの中で、「この作品は自分自身のアイデンティティを選ぶことのできる人についての映画である」と語っている。
アリ・アッバシは「イランでもコペンハーゲンと同じくらい少数派だ」という。(宗教的、例えばゾロアスター教徒やバハーイー教徒、無神論者、それともジェンダー的なのか定かではない)それでも、イランの文化に育まれた背景があるという。
「見えないものに、より興味を持つ。死と死後の世界に夢中である。見えない何かが常に働いていると思っている。時にそれは少し妄想的かもしれないし、また詩的であるかもしれない」
イランには脈々と続く詩の文化がある。『ボーダー 二つの世界』の中で、表面的にイランが顔を出している場面はないが、まさしくアリ・アッバシ監督をイラン人たらしめている詩的な世界が広がっている。醜い容姿のティーナとヴォーレの異様な行動が不思議に官能的に思えるのも、その故か。衝撃の一作であることは間違いない。(咲)



2018年/スウェーデン・デンマーク/スウェーデン語/110分/シネスコ/DCP/カラー/5.1ch/R18+
配給:キノフィルムズ
©Meta_Spark&Kärnfilm_AB_2018
公式サイト:http://border-movie.jp/
★10月11日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにてロードショー★
posted by yukie at 11:55
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