2024年10月13日
ジョイランド わたしの願い 原題:Joyland
監督・脚本:サーイム・サーディク
製作総指揮:マララ・ユスフザイ、リズ・アーメッド(『サウンド・オブ・メタル 〜聞こえるということ〜』) ほか
出演:アリ・ジュネージョー、ラスティ・ファルーク、アリーナ・ハーン
伝統的な家父長制社会で、トランスジェンダーのダンサーとの出会いが、若い夫婦の人生を大きく変える
パキスタンで2番目の大都市、古都ラホール。
保守的な中流家庭ラナ家は3世代で暮らす9人家族。 家長のアマン、長男サリームと妻ヌナ。その3人の娘たち。次男ハイダルと妻ムムターズ。ハイダルは失業中だが、ムムターズはメイクアップアーティストの仕事にやりがいを感じ、家計を支えていた。ハイダルは姪っ子たちの遊び相手や妻のお弁当作りをそれなりに楽しんでいるが、家父長制の伝統を重んじる厳格な父からは「早く仕事を見つけて男児をもうけなさい」とプレッシャーをかけられている。
ある日、臨月を迎えた義姉ヌナが破水し、家にいたハイダルが病院に連れていく。男児と診断されていた新生児は女児で、父も兄も落胆する。ハイダルは病院で血まみれの服を着た美しい女性に目を奪われる。
その後、ハイダルは劇場で働く友人からバックダンサーの仕事を紹介される。メインダンサーのビバは、病院で見かけた女性で、トランスジェンダーだった。男が人前で踊ることはもとより、劇場で働くことすら恥と考える保守的な父に、ハイダルは咄嗟に「支配人として雇われた」と嘘をつく。
2週間後の本番に向けて猛特訓が始まる。ハイダルは、ビバが世間の偏見にさらされながらも、ありのままの自分を貫く姿に魅了されていく。その恋心が、やがて、夫婦とラナ家の穏やかに見えた日常に波紋を広げていく・・・
男児を産むことが義務でもあるかのような社会で、また女児を産んでしまったヌナ。 ハイダルが就職したことで、義父から仕事を辞めるよう言い渡されたムムターズ。好きな仕事を辞めた上に、彼女にも男児を産めというプレッシャーがかかります。 ハイダルもまた、男としてすべきことを父から期待され、自分の思いとの違いに葛藤します。
本作を観て、同じパキスタンのラホールを舞台に、伝統的な価値観に縛られる中で、自由に生きることに挑む人たちを描いたパキスタン映画『BOL ~声をあげる~』を思い出しました。
本作の背景を知る一助に、監督インタビューをぜひお読みください。
2012年福岡でのショエーブ・マンスール監督インタビュー
ビバを演じたアリーナ・ハーンは、実際にトランスジェンダーで、トランスジェンダーの権利擁護者。
インド文化圏(インド・パキスタン・バングラデシュ)には、「ヒジュラ」と呼ばれる第三の性の人たちが存在します。トランスジェンダーや半陰陽者など男性でも女性でもない人たち。パキスタン社会では、結婚式や子供の誕生祝いなどで歌い踊る役目を担っています。それでも長い間差別されてきた人たち。2009年、パキスタン最高裁はヒジュラを第三の性として認める初めての判決をくだしています。
パキスタン映画として初出品となったカンヌ国際映画祭で「ある視点」審査員賞とクィア・パルム賞を受賞するなど、世界の映画祭で高く評価されましたが、パキスタン本国では少数の保守系団体から反発を受け、上映禁止となる事態に。しかしノーベル平和賞受賞者マララ・ユスフザイや俳優リズ・アーメッドらからの支援もあり、上映が実現しています。残念ながら、監督の地元であり本作の舞台である、ラホールの属するパンジャーブ州においてのみ、いまだに上映が禁止されています。 美しい古都ラホールの情緒も存分に味わえる本作を、いつかラホールの人たちにも大きなスクリーンで観ていただける日が来ることを願うばかりです。(咲)
監督の言葉より
本作は、家父長制の犠牲の上に生きるすべての女性、男性、トランスジェンダーへオマージュを捧げたものです。それはまた絆を生み出す欲望と、それを不滅にする愛を称えるものでもあります。私の祖国への悲痛なラブレターなのです。
第95回 米アカデミー賞国際長編映画賞 パキスタン代表 ショートリスト選出作品
第75回 カンヌ国際映画祭 「ある視点」部門審査員賞受賞 & クィア・パルム賞受賞
2023年 インディペンデント・スピリット賞 外国映画賞受賞
2022年/パキスタン/パンジャーブ語、ウルドゥー語/127分/1.33:1/5.1ch
日本語字幕::藤井美佳
配給:セテラ・インターナショナル
公式サイト:https://www.joyland-jp.com/
★2024年10月18日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開.