2023年05月28日

海を待ちながら  原題:V ozhidanii morya  英題:Waiting for the Sea

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監督:バフティヤル・フドイナザーロフ
脚本:セルゲイ・アシケナージ
出演:エゴール・ベロエフ、アナスタシア・ミクリチナ、デトレフ・ブック

アラル海の畔。
魚が獲れますように!と、願掛けしながら踊る人々。
今日は獲れないという船長マラット。妻のダリが一緒に行くと乗り込む。妹のタマラも乗りたいというのを言い聞かせて、港を後にする。船は大嵐に襲われ、マラットは助かるが、妻や仲間を失ってしまう。
数年後、列車に乗っているマラット。食堂車で働いていた妻の妹タマラがマラットに気がつき、思わぬ形で再会を果たす。
マラットは、久しぶりにアラル海のアバスタ港を訪れるが、アラル海は5年前にほとんど干上がってしまい、錆びた船がいくつも放置されている。マラットは自分の船を見つけ、なんとか水のあるところまで引っ張っていこうとする・・・

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カザフスタンとウズベキスタンにまたがって広がるアラル海。今や、干上がって、かつての10分の1になってしまったと聞きます。マラットは、ラクダを何頭か連ねて、船を引っ張るのですが、もちろん無理。
本作に出てきたラクダは、ひとコブでした。もう少し東で撮影した『ルナ・パパ』では、ふたコブや、ひとコブ半のラクダでした。中央アジアが、ひとコブとふたコブの境目なのだと実感させられました。
音楽を担当したのは、日本人のかみむら周平さん。
本作がフドイナザーロフ監督最後の作品になってしまいました。変わりゆく中央アジアに、どんな思いを抱えながら、本作を撮ったのでしょう・・・ (咲)


2012年/ロシア、ベルギー、フランス、カザフスタン、ドイツ、タジキスタン/110分/カラー/1:1.85/ドルビー5.1

再発見!フドイナザーロフ ゆかいで切ない夢の旅
公式サイト https://khudojnazarov.com/
主催・配給:ユーロスペース、トレノバ
★2023年6月3日(土)よりユーロスペースほか全国順次開催




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ルナ・パパ 4Kレストア版  原題:Luna Papa

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監督:バフティヤル・フドイナザーロフ
出演:チュルパン・ハマートヴァ、モーリッツ・ブライプトロイ、アト・ムハメドシャノフ

湖の畔にあるファル・ホール。
母のお墓に祈る女優志望の17歳の娘マムラカット。
ある月夜、暗闇の草むらで、27歳の役者と名乗る男と坂を転げ落ち、はずみで犯され、子を宿してしまう。
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2ヵ月後、中絶しようと町の病院に行くが、手術直前に医師が流れ弾に当たって死んでしまう。父に妊娠したことを打ち明け、兄ナスレディンと3人で相手の男を探す旅に出る。わかっているのは役者ということと声だけ、各地の劇場を回るが見つからない。兄と父が、有名な歌手を相手の男だと捕まえてくる始末。やがて、アリクというブハラ出身の医師と恋に落ち、パパになってくれるという。マムラカットとアリクは、湖に浮かんだ船の上で結婚式を挙げる・・・

「声」だけを頼りに、お腹の子の父親を捜す旅。思いもかけない結末に、あんぐり~  物語は、お腹の中の子が語る形で進みます。 冒頭に掲げられた「母たちに捧ぐ」の言葉がずっしり響きます。
兄ナスレディンは、飛行機や車の真似をして、少し頭がおかしいのですが、アフガニスタンでの戦争に行った後遺症。 アリクがプロポーズのために薔薇の花を取ろうとして感電する場面や、空から牛が落ちてくるなど、笑うに笑えない事故もあるのですが、それもファンタジーになっています。
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ファル・ホールを地図で調べてみました。首都ドゥシャンベの南東、アフガニスタンの国境になっている湖の畔にある町。 映画の最後に撮影地として出てきた地名は、kairakum。 ドゥシャンベの北東にある湖の畔の町。ファル・ホールと湖の畔という点で同じです。
マムラカットたちは、相手の男を探して、サマルカンド、ブハラ、タシケントなどを回ったとありました。いずれもタジキスタンのお隣り、ウズベキスタンの町です。まだソ連だった時に、サマルカンドから、タジキスタンのペンジケントに行ったことがあります。ソ連崩壊後、中央アジア5か国は、それぞれ独立。タジキスタンの内戦時代(1992年~1997年)には、国境が閉鎖されたこともあると聞きます。本作が作られたのは内戦終了後。自由に行き来できるようになったのがわかります。
本作の中で、マムラカットがスイカの格好で踊る場面がキュートでした。タジキスタンもウズベキスタンも、スイカやメロンが美味しいところ。冒頭、空から映した山、川、町に旅心もそそられました。
本作も、ほかの3作品と同様、日本初公開時に観ているのですが、なんだか不思議な映画だったという印象しか残っていませんでした。こんな話だったのか・・・!!! (咲)



◆バフティヤル・フドイナザーロフ監督インタビューが、こちらで読めます。
https://crisscross.jp/html/a20hu005.htm#a
2000年5月 渋谷 (劇場初公開時のもの)
主人公の名前を「国家」「大地」を意味するマムラカットとした理由も、こちらでわかります。


1999年/ドイツ・オーストリア・日本合作/110分/カラー/1:1.66/ドルビーSRD

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主催・配給:ユーロスペース、トレノバ
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コシュ・バ・コシュ 恋はロープウェイに乗って  4Kレストア版  原題:Kosh ba kosh

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監督:バフティヤル・フドイナザーロフ
出演:パウリ―ナ・ガルヴェス、ダレル・マジダフ

銃撃音のする中で賭け事をする男たち。
負けが続くドナイは、最後に借金までして、全財産を賭けてもう一勝負するが、イブラヒムに負けてしまう。
ドナイが家に帰ると、モスクワから娘のミラが帰ってきていた。「休暇?」と聞くと、「パパと暮らしてもいい」という。
イブラヒムがドナイの家にやってくる。全財産を取ろうとやってきたのだが、大したものがないと娘のミナを人質に取って帰る。
イブラヒムの息子ダレルが一緒に逃げようとミラを丘の上に連れていく。
ダレルはロープウェイ(ゴンドラ)の操縦士。
難民になって3か月という女性とゴンドラに乗る。
話しかけてくるが答えられない。「タジク語がわからないの?」と女性。

ゴンドラにザクロやお肉にチャイを持ち込み食事するダレルとミラ。
「君が僕に従うなら賭博はやめてもいい」というダレル。少し年上のミナにダレルはすっかり夢中だ。
ミラはダレルを振って家に帰るが、父から出て行ってくれと言われる。
ダレルの家を訪ねあてると、ダレルの母から、「あの子は父親と一緒で、ふらふらしてる」と言われる。

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ゴンドラの操縦室で、ダレルとザクロの実をむいているところに、ミラの父がやってくる。
金をダレルに渡して、「ここには何もない。二人で町を出ろ」という。
その後、ゴンドラの中で倒れるミナの父。
「私は父を看取るために、この街に来た」というミラに、「ある男に出会うために来たんだ」とダレルの父。
車で去るミラを、自転車で追うダレル・・・

「ドウシャンベ。気温14~18度。この日、戦闘なし」


「ミラは俺のもの。東洋では、女は男に従うもの」と、ダレルはいうのですが、どうみても、モスクワで教育を受けたらしいミラのほうが格が上。そんなことはお構いなしに、ミラに惚れ込むダレルの姿が純情で可笑しくも思えました。
撮影中に勃発した内戦も、しっかり背景に入れ込んだ作品。
1994年8月に日本で初公開された折に観ているのですが、覚えていたのは、ゴンドラが動く背景で流れた曲の歌詞が、タジク語の数字(ペルシア語とほぼ同じ)をずっと言っていたこと位でした。
冒頭に「愛する女性たちに捧ぐ」とあり、賭け事に明け暮れる男たちと違って、しっかりと生きる女性たちの姿が眩しいです。
なお、タイトルの「コシュ・バ・コシュ」は、タジク語の俗語で、ゲームをしたときの勝ち負けなしという意味とのことです。(咲)


1993年/タジキスタン/96分/カラー/1:1.66/モノラル

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少年、機関車に乗る 2K レストア版 原題:Bratan

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監督:バフティヤル・フドイナザーロフ
出演:チムール・トゥルスーノフ、フィルズ・サブザリエフ

フドイナザーロフ監督 26 歳のデビュー作。
セピア色で描かれた、歳の離れた兄弟のロードムービー。

祖母と暮らす17 歳 のファルーと 7 歳のアザマット兄弟。 ファルーは弟を連れて機関車の運転席に乗せてもらって、遠い街で暮らす父に会いにいく。途中、運転士ナビの家で止まって着替えや食べ物を受け取ったり、トラックと競争したりしながら、大平原をひたすら走って父のいる街に着く。父は医師だという女性と暮らしていた。二日後、弟を父たちに託し、ファルーは戻ってきた機関車に乗って、祖母のもとに帰る・・・

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(もう少し詳しく!)
17歳のファルーは、刑務所に酒やヤクを投げ込んで日銭を稼いでいるが、この仕事はもう無理だと感じている。
お祖母ちゃんに、7歳の弟アザマットを連れて父に会いに行くというと、「弟を預ける気ね」と見透かされる。
亡き母のイヤリングをシャツのポケットにつけるファルー。
植木鉢の土を食べる弟に、「土を食べるなとあれほど言ったのに」と呆れる。
いよいよ出発。
機関車の運転台に乗せてもらう。
大平原を行く機関車。
途中、線路の上に細い橋が渡された住宅のところで止まる。
運転士ナビの家。 我が子に声をかけ、着替えや食べ物を受け取る。
平行して走るトラックと速さを競う。
アラル駅。民族衣装の女性たちが糸を紡いでいる。
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ポットをたくさん持った男性が乗ってくる。
途中で絨毯とポットを交換する。
列車に石を投げてくる少年たち。
町の端っこの駅に着く。
綺麗な若い女性が二人乗ってくる。
次の駅で、ナンと葡萄を食べる運転士。
連結の具合を直すのに1時間かかると、休憩。
アザマットは、女性が貨車の中で服を脱いでいるのを覗き見てしまう。
運転士が戻らないのに、機関車を動かすアザマット。
運転士があわてて追いかけてくる。
父の住む街に着く、
二日後に戻ってくる機関車に乗せてもらう約束をする。

街では、外で映画を観ている人たちや、通りで絨毯を洗う人たちを見かける。
父と会う。
一緒に暮らしている女性は医師だという。

父が聖者の墓に連れていってくれる。
石を山のように積んだ墓の周囲をぐるぐる回りながら石にキスする人たち。

父に弟の面倒を見てほしいと頼むが、うんと言わない。
ボート遊びする弟とネリー(父の彼女)に近づこうとした父が湖に落ちるが、ファルーは助けない。
ここは嫌だという弟。

馬や自転車に乗って、競技する青年たち。
歌う青年がいたり、映画の真似をして演技したりする青年。

友達と殴り合いになって、母のイヤリングが付いたポケットがちぎれて落ちてしまう。
拾って、綺麗にして、一つを弟に渡し別れを告げる。
戻ってきた機関車に乗せてもらい、祖母のいる町に帰る・・・・


映画が作られたのは、ソ連が崩壊して、タジキスタンとして独立したばかりのころ。
公開当時に観て、わくわくしたことだけは覚えているのですが、物語はすっかり忘れていました。
ほとんどの場面がロシア語ですが、聖者の墓を守る導師に父が話しかけた時はタジク語でした。
ラストの場面に、ほっこりさせられました。
30年の時を経て、また観ることのできた幸せ♪ (咲)



1991 年マンハイム国際映画祭グランプリ、カトリック批評家賞、FIPRESCI賞
1992 年トリノ国際映画祭グランプリ
2022 年ヴェネツィア国際映画祭ヴェネツィア・クラシックス正式出品 他


1991 年/タジキスタン・旧ソ連合作/98 分/モノクロ/ 1:1.33/モノラル

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再発見!フドイナザーロフ ゆかいで切ない夢の旅 『少年、機関車に乗る』『コシュ・バ・コシュ 恋はロープウェイに乗って』『ルナ・パパ』『海を待ちながら』

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中央アジアが生んだ早世の天才バフティヤル・フドイナザーロフ。
今世界が再注目する、やさしさとユーモアにあふれたファンタジックな作品群を一挙公開!
2015年の急逝以来、久しくその名を聞く機会がなかった、中央アジア・タジキスタンが生んだ早世の天才バフティヤル・フドイナザーロフ。
日常の小さな冒険やちょっとした驚きをユーモアですくいとり、中央アジアのおおらかな大地にファンタジックな世界を生みだしたバフティヤル・フドイナザーロフ監督。
1991年、ソビエト連邦の解体により母国タジキスタンが独立したその年に、弱冠26歳で軽やかにデビュー。
のちに勃発した内戦中も映画を撮り続け、6本の長編映画を遺し49歳の若さで急逝した。フドイナザーロフ作品の人々は、たとえ内戦下にあっても笑い、怒り、恋をし、そして旅に出る。
ひたむきで逞しい彼らがおりなす、ゆかいで切ない夢のような物語は、普遍的なきらめきを放ち世界中のファンに愛された。
2022年ヴェネチア国際映画祭で“機関車映画の金字塔”と言われる『少年、機関車に乗る』レストア版がプレミア上映されたのを機に、欧州有数の映画会社が世界配給権を獲得。世界的にフドイナザーロフの再評価が始まっている。

この度、珠玉の4作品が一挙公開されます。

『少年、機関車に乗る』(1991)2Kレストア版 98分
『コシュ・バ・コシュ 恋はロープウェイに乗って』(1993)4Kレストア版 96分
『ルナ・パパ』(1999)4Kレストア版 110分
『海を待ちながら』(2012) 110分
※『コシュ・バ・コシュ』『ルナ・パパ』は4Kレストアの2K上映です。

主催・配給:ユーロスペース、トレノバ
公式サイト https://khudojnazarov.com/
★2023年6月3日(土)よりユーロスペースほか全国順次開催


バフティヤル・フドイナザーロフ Bakhtiyar Khudoinazarov
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1965 年 6 月 29 日タジキスタン共和国ドゥシャンベ生まれ。
ドゥシャンベの国立ラジオ・テレビ委員会でのジャーナリストや、子供向けテレビ番組の脚本や助監督を務めた後、20 歳でモスクワの全ロシア国立映画学校(VGIK)の監督科に入学。在学中にいくつかの短編を制作する。卒業後ドゥシャンベに戻り 26 歳の時に撮った初長編作品『少年、機関車に乗る』がトリノ国際映画祭、マンハイム国際映画祭、ナント国際映画祭でグランプリを受賞、 またベルリン国際映画祭や香港国際映画祭へも出品され世界の映画シーンに軽やかにデビューした。
1993 年、長編2作目の『コシュ・バ・コシュ 恋はロープウェイに乗って』で見事ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞を受賞。同年にドイツのベルリンに移住するがその後も中央アジアでの映画制作を続ける。
1999 年の『ルナ・パパ』もヴェネツィア国際映画祭に出品されたほか、東京国際映画祭優秀芸術貢献賞など数々の映画祭で受賞し、世界的にヒットを記録した。
2002 年の『スーツ』(劇場未公開)では東京国際映画祭審査員特別賞、優秀芸術貢献賞をダブル受賞。
2015 年 4 月 21 日にベルリンで死去。享年 49 歳。


■公開記念トークショー
6月3日(土) 14:00『少年、機関車に乗る』上映後
ゲスト:篠崎誠さん(映画監督・立教大学新理学部映像身体学科教授)

6月4日(日) 14:00『ルナ・パパ』上映後
ゲスト:奈倉有里さん(ロシア文学翻訳者)

6月10日(土) 14:00『海を待ちながら』上映後
ゲスト:坂井弘紀さん(和光大学教授 中央ユーラシア文化史・テュルク叙事詩研究)

6月11日(日) 14:00『コシュ・バ・コシュ』上映後
ゲスト:沼田元氣さん(写真家詩人)


posted by sakiko at 17:59| Comment(0) | タジキスタン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする