2022年11月27日
ミスター・ランズベルギス 原題:Mr. Landsbergis
監督:セルゲイ・ロズニツァ
ソ連崩壊に繋がったリトアニア独立運動を指導したミスター・ランズベルギスとは?
ヴィータウタス・ランズベルギス氏。
ピアニストであり、国立音楽院の教授である彼は、1989年から1991年にかけて起きたリトアニア独立運動の中心人物。
リトアニアの主権とソ連邦からの独立を訴える政治組織サユディス(=運動の意味)を創設し、独立運動を牽引。
1990年3月11日、第一回リトアニア最高会議で議⻑に選出され、同日、ソ連に対して独立を宣言。ゴルバチョフと対峙し、非暴力で勝利する。
ロズニツァ監督は、ヴィータウタス・ランズベルギス氏にインタビューを敢行。
彼が30年前の熾烈な文化的抵抗と政治的闘争を穏やかに語る姿を映し出すと共に、1980年代後半から1991年9月の独立まで各地で撮影されてきた断片的なアーカイヴ映像を用いて、リトアニア側からの視点でソ連からの独立とその先のソ連崩壊を描いた4時間8分の大長編ドキュメンタリー。
冒頭、1990年1月、ソ連の最高会議議長ゴルバチョフがリトアニアを訪れ、民衆から「ミスター、なぜリトアニアの独立を認めないのですか?」と問われ、「私は“ミスター”じゃない」と反論します。西側の権力者ではないという次第。続いて、出てくるのが、タイトル「ミスター・ランズベルギス」。見事な幕開けです。
これまでのロズニツァ監督作品と同じく、余計なナレーションや説明はありませんが、バルト海の小国リトアニアが、いかにして非暴力で独立を成し得たかが伝わってきます。ソ連が戦車で攻め込んできても屈しません。乗り込んできたソ連検察庁の官僚が、リトアニア検察庁の新検事による人事が無効だと威嚇しても、もうソ連検察庁の管轄ではないと堂々と対峙する姿には、なるほど!と感嘆しました。
バルト海3国のソ連からの独立で思い出すのは、「人間の鎖」です。独立を願って、リトアニア、ラトビア、エストニアの3国の人たち200万人が約600キロにわたって手をつなぎ、歌を歌った出来事。1989年8月23日のことでした。歌を通じて独立を願うという国民に支えられて、非暴力の独立が実現したのだと思いました。
かつて商社に勤めていた時に、モスクワに駐在していた方から聞いた話を思い出しました。まだソ連邦だったラトビアのリガに出張し、夜の9時過ぎにレストランに入り、ロシア語で「席はありますか?」と聞いたところ、「ない」と言われ、ほかの店を探すも、どこも開いてなくて、もう一度同じ店に入り、今度は英語で尋ねたところ、「さっきはなぜロシア語で聞いた?」と言いながら、席に案内してもらえたそうです。そこまでロシアを嫌うのかと思ったのでした。
今また、ウクライナに侵攻するロシア。実害にあわれているウクライナの人々はもとより、国境を接する元ソ連邦の一員だった国の人々も不安な気持ちでいることを思うといたたまれません。平和共存できる世界が、早く実現するよう祈るばかりです。(咲)
☆公開初日を記念して、配給を担当したサニーフィルムの有田氏が11月18日にヴィリニュスのヴィータウタス・ランズベルギス氏を訪ねた際撮影した、日本向けの特別コメントと氏によるチュルリョーニスのピアノ演奏の動画を公開初日12月3日・初回上映後に特別上映!
☆サニーフィルム 有田浩介様より
日本にとっては知られざる人ですが、現地のヴィリニュスでは本物の英雄でした。
先月、ヴィリニュスの氏を尋ねてきましたが、彼は映画は自分の話ではなく、
リトアニアの人々の話であり、そのことを日本の方に知ってもらいたいと言っていました。
大勢の人が集まってソ連軍から守ろうとした最高会議ビルの前には当時のブロックやバリケードが大切に保存されています。
そういうところからも国としてソ連からの独立を誇りに思ってることが伝わってきました。
写真は当時のバリケードです。ブロックには「ヴィータウタス、ありがとう」と書かれています。
撮影:サニー・フィルム
2021年/リトアニア=オランダ製作/リトアニア語、ロシア語、英語/248分/モノクロ・カラー
日本語字幕:守屋愛
配給:サニーフィルム
公式サイト:https://www.sunny-film.com/mrlandsbergis
★2022年12月3日(土)よりシアター・イメージフォーラムにて公開