2025年02月16日
ノー・アザー・ランド 故郷は他にない 英題:No Other Land
監督:バゼル・エイドラ、ユーバール・アブラハム、ハムダーン・バラール、ラケル・ゾール
ヨルダン川西岸地区のマサーフェル・ヤッタで生まれ育ったパレスチナ人の青年バーセルは、イスラエル軍の占領が進み、村人たちの家々が壊されていく故郷の様子を幼い頃からカメラに記録し、世界に発信していた。そんな彼のもとにイスラエル人ジャーナリスト、ユヴァルが訪れる。非人道的で暴力的な自国政府の行いに心を痛めていた彼は、バーセルの活動に協力しようと、危険を冒してこの村にやってきたのだった。
同じ想いで行動を共にし、少しずつ互いの境遇や気持ちを語り合ううちに、同じ年齢である2人の間には思いがけず友情が芽生えていく。しかしその間にも、軍の破壊行為は過激さを増し、彼らがカメラに収める映像にも、徐々に痛ましい犠牲者の姿が増えていく・・・
容赦なくイスラエル軍に取り壊されるパレスチナ人の家や学校・・・ 先祖代々、農作業しながら暮らしてきた「故郷」が、奪われていくのをただただ見ているしかない虚しさが、ずっしりと伝わってきます。
ヨルダン川西岸地区で、パレスチナ人の土地を軍事的に占領するための手段として、約2割の土地を、イスラエルは「軍事射撃区域」として指定したとのこと。それは、イスラエル人入植者のために確保された土地でもあるという国家機密文書が暴露されているそうです。入植者によるパレスチナ人への暴力も後を絶ちません。パレスチナ人が告訴しても、大半が不起訴で処理される理不尽。
本作は、マサーフェル・ヤッタでの出来事を2023年10月までの4年間に渡り記録したドキュメンタリー。つまり、2023年10月7日に始まったガザでの大規模の武力衝突の前の出来事。あれ以降、ガザのことばかりが大きく報道されていますが、ヨルダン川西岸でも、ずっとイスラエルによるパレスチナ人の人権蹂躙が続いていることを忘れてはならないことを突き付けられます。
監督は、パレスチナ人二人(バゼルとハムダーン)と、ユダヤ人二人(ユーバールとラケル)。
私から見て、誰がパレスチナ人かユダヤ人か区別はつきません。
これまでにも、『プロミス』(2002年)、『壊された5つのカメラ-パレスチナ・ビリンの叫び』(2012年)で、パレスチナ人とユダヤ人が共同監督を務めた映画の監督を取材したことがあります。
国家が対立していても、民族や宗教の違いを越えて歩み寄ろうとする人たちがわずかでもいる限り、いつか分かち合える日が来ると信じたいです。(咲)
ベルリン映画祭最優秀ドキュメンタリー賞&観客賞W受賞
2024年/ノルウェー・パレスチナ/95分
配給:トランスフォーマー
公式サイト:https://transformer.co.jp/m/nootherland/
★2025年2月21日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、シネ・リーブル池袋ほか全国公開
2024年09月29日
私は憎まない 原題:I Shall Not Hate
監督:タル・バルダ
脚本:タル・バルダ、ジェフ・クライン、サスキア・デ・ボア
プロデューサー:ポール・カデュー、マリーズ・ルイヤー、イザベル・グリッポン、タル・バルダ
製作総指揮:マヤ・カデュー=ルイヤー、マルタン・カデュー=ルイヤー、マリーズ・ルイヤー
映画撮影:ハンナ・アブ・アサド
編集: ジェフ・クライン
音楽:ロベール・マルセル=ルパージュ
サウンドデザイン:マルタン・カデュー=ルイヤー
登場人物:イゼルディン・アブラエーシュ、クリスティアン・アマンプール、シュロミ・エルダー 他
医療でイスラエルとパレスチナの分断に橋を架ける
3人の愛娘を殺されてもなお共存の可能性を信じ、ヒューマニティに基づき行動するガザ地区出身の医師、アブラエーシュ博士に迫るドキュメンタリー
ガザ地区の貧困地域、ジャバリア難民キャンプ出身の医師で、パレスチナ人としてイスラエルの病院で働く初の医師となったイゼルディン・アブラエーシュ博士は産婦人科でイスラエル人とパレスチナ人両方の赤ちゃんの誕生に携わってきた。「ユダヤ教徒、イスラム教徒、キリスト教徒の赤ちゃんの違いは? みんな同じく生まれたての赤ちゃんだ」と、共存が可能であることを自らの医療で体現してきた。彼は、ガザからイスラエルの病院に通いながら、病院で命が平等なように、外の世界でも同じく人々は平等であるべきだと、分断に医療で橋を架けようとする。しかし、両者の共存を誰よりも望んできた彼の赦しと和解の精神が、究極の試練にさらされる。
「暴力に暴力で対処しても問題は解決しない」
2009年1月、アブラエーシュ博士の自宅がイスラエル軍の戦車の砲撃を受け、3人の娘と姪が殺害されてしまうという悲劇が彼を襲う。砲撃直後、博士の涙の叫びの肉声はイスラエルのテレビ局が生放送され、イスラエル中に衝撃と共に伝わった。翌日、テレビカメラの前で、博士は突然憎しみではなく、共存について語りだす。その後、正義を求めてイスラエル政府を訴え、娘の死の責任を追求するも、決して復讐心や憎しみを持たない彼の赦しと和解の精神は、世界中の人々に感動を与え、数え切れないほどの賞を受賞し、“中東のガンジー、マンデラ、キング牧師"とも呼ばれる存在となる。自伝『それでも、私は憎まない』は世界的ベストセラーとなった。しかし、2023年10月7日のハマスのイスラエルへの攻撃、それ以降のガザへの攻撃を経て、彼の信念は再び試されることになる。
今は、カナダのトロントで暮らすアブラエーシュ医師。娘に息子が生まれ、パレスチナのルーツは忘れさせないと語ります。両親は、南パレスチナのフージ村の名高い一族。すぐに戻るつもりで村を離れた後、村は破壊されてしまいました。家、土地、財産を奪われた両親の苦しみをアブラエーシュ医師は受け継ぎました。ジャバリア難民キャンプで生まれ、悲惨な生活から抜けるには教育しかないと悟ります。11歳の時に入院し、いつか医者になると決意し、意思を貫いたのです。検問所を行き来しイスラエル側の病院に通った彼は、ガザに住み続け、あげく、イスラエルの砲撃で多くの家族を失いました。謝罪を求めて訴訟を起こしますが、イスラエルは攻撃したのはハマスの兵器が置かれていたからなどとし、決して謝罪しません。昨年10月7日に始めたイスラエルのガザ攻撃も、ハマスのテロ行為への報復と正当化しています。ホロコーストの恨みを向ける矛先はパレスチナの人々ではないはず。そも、1948年のイスラエル建国時に、パレスチナの人たちを追い出したことに端を発するのに・・と部外者の私も憤るのに、当事者のアブラエーシュ医師は「私は憎まない」と冷静でいらっしゃることに頭がさがります。(咲)
10月7日のせいで今の状況があるのではない!

「私は憎まない」の公開(10月4日アップリンク吉祥寺)にあわせ、カナダからガザ地区の難民キャンプ出身のアブラエーシュ博士が来日。
10月4日(金)日本記者クラブ 10階ホールにて、記者会見が行われました。
昨年の10月7日、イスラム組織ハマスの急襲を機に、イスラエルの容赦ないガザ攻撃が始まって、ちょうど1年。
アブラエーシュ博士は、「昨年10月7日、なぜあのようなことが起こったのか。10月7日のせいで今の状況があるのではない。1948年イスラエル建国からの継続した問題。10月7日は、我々にとって人生の中の一日でしかない」と強調されました。
「私は医師として、患者の病歴を聞きます。今の事態がなぜあるのかを知るためです。それは戦争にもいえます。戦争は避けることができるもの。原因を解明しないと解決しません」
2024年/カナダ・フランス/92分/ドキュメンタリー
制作: Filmoption 配給:ユナイテッドピープル
公式サイト:http://www.unitedpeople.jp/ishall
★2024年10月4日(金)アップリンク吉祥寺 他にて全国順次ロードショー
忘れない、パレスチナの子どもたちを 原題:ELEVEN DAYS IN MAY
監督:ムハンマド・サウワーフ&マイケル・ウィンターボトム
撮影監督:サラ・アルハウ
音楽: マックス・リヒター(『戦場でワルツを』『サラの鍵』『少女は自転車にのって』『めぐり逢わせのお弁当』)
ナレーション:ゾーイ・ウェイツ(英語版)、坂本美雨(日本語版)
2021年5月の11日間。少なくとも67人のガザの子供たちがイスラエルの空爆により亡くなりました。
当時、ニュースを見たイギリス人映画監督のマイケル・ウィンターボトムは、パレスチナ人映画監督のムハンマド・サウワーフと協力し、若い犠牲者を追悼する映画を作ろうと決意しました。そしてその攻撃からわずか1か月後、撮影を開始しました。
サウワーフは約100時間分の映像をウィンターボトムに送り、ウィンターボトムはロンドンの編集室でマックス・リヒターの音楽、ゾーイ・ウェイツのナレーションを加え映画を完成させました。
冒頭、ラマダン月の最終金曜日にエルサレムの神殿の丘にある岩のドームとアル・アクサー・モスクに集まる数万人の人々をスマホで撮ったらしい映像。圧巻です。
続いて、モスクに落とされる爆弾。集団礼拝に集った人々を狙うイスラエル・・・
2021年5月の空爆はこうして始まったことを知りました。
亡くなった子どもたちの家族たちが悲しみをこらえながら語る子どもたちのこと・・・
薬学を目指していた少女
真実を伝えるためジャーナリストになりたかった少女
レアルマドリードが好きだった少年
それぞれに夢がありました。
ロケット弾が落ちてきて、兄弟や友だちが目の前で亡くなる姿を目撃した少年。
亡くなった子が夢に出てくるのを待つ母。
「安全なところに行きたい」という少女。
一人一人の言葉が胸にささります。
そして、昨年10月7日に、ハマスのテロ行為に対する報復という口実で始まったイスラエルの攻撃は激しさを増すばかりで停戦の兆しも見えません。壁で包囲されて逃げ場もないガザの人たち。犠牲者は増えるばかりです。その半数近くは、子どもたち。イスラエルは、パレスチナの人たちを根絶やしにしたいのだとしか思えません。
どうしたら、世界はイスラエル政府の暴挙を止めることができるのでしょウ・・・ (咲)
2022年/イギリス/英語・アラビア語/84分/DCP/カラー
日本語字幕翻訳:M.Nakamura 幕監修:師岡カリーマ・エルサムニー
配給・宣伝:アップリンク
公式サイト:https://www.uplink.co.jp/palestine/
★2024年10月4日(金)アップリンク吉祥寺・アップリンク京都ほか全国順次公開
☆映画料金のうち100円をガザの子どもたちに寄付されます。
2022年06月26日
ガザ 素顔の日常 原題:Gaza
監督:ガリー・キーン、アンドリュー・マコーネル
プロデューサー:ブレンダン・J・バーン、ガリー・キーン、アンドリュー・マコーネル、ポール・カデュー
エグゼクティブ・プロデューサー:トレバー・バーニー、クリスティアン・ベーツ、マリーズ・ルイヤー
撮影監督:アンドリュー・マコーネル
編集:ミック・マホン
音楽:レイ・ファビ
市場には色とりどりの野菜や果物が並び、モスクからはアザーン(お祈りの時間を告げる詠唱)が聞こえてきて、いかにも中東の町の風情。海辺にもモスクがある一方、老若男女がビーチに集い、サーフィンに興じる者や、ラップを口ずさむ若者たちもいる。
映し出されているのは、パレスチナ自治区のガザ地区。
2007年にイスラエルがガザを壁で囲み完全封鎖してからは、物資も不足し、移動の自由もなく、「天井のない監獄」の異名で呼ばれている。
紛争のことばかり報道されるガザだが、ガリー・キーンとアンドリュー・マコーネルの二人は、ドキュメンタリー監督としてガザで長年活動してきて、ここにも普通の人たちの暮らしがあることを伝えたいと本作に取り組んだ。
200万人が暮らすガザの中から、3人の人物をメインに取り上げて、ガザで暮らす人々の思いを垣間見せている。
マナル・カラファウィ:過去 25 年間国連開発計画(UNDP)でプロジェクト・マネージャーとして働いてきた。結婚し、4 人の娘と 1 人の息子がいる。彼女の家族のルーツはエルサレムにあるが、生まれ育ったのはガザ。ガザが生命と希望に満ちたコスモポリタンな場所だった頃を懐かしく思い出す。
カルマ・カイアル:マナルの一番下の娘で19 歳。ガザのアル・アズハル大学で法学を学んでいる。奨学金をもらって海外で国際法や政治学の修士課程を学びたいが、その夢は現状では叶いそうになく、ガザの人道支援団体で働きたいと考えている。厳しい現実から逃避しようと、幼い頃に熱中していたチェロを弾いてみる。
アフマド・アル=アクラー:ガザで最も小さな難民キャンプである海辺のディル・アル・バラハに住んでいる。アフマドの父親には3 人の妻がいて、アフマドと 13 人の兄弟、23 人の姉妹が住んでいる。ガザで一番大きな家族。
18 歳のアフマドは無学で、カルマと違って人生の目標をガザの向こう側には持っていない。漁師として暮らすアフマドは 3 マイルの封鎖された海を見つめ、家族の収入源の心配をしている。彼の夢は、大きな船を所有し、家族で大規模な漁業を営むことだが、ガザの厳しい現実を誰よりもよく知っている。
ガザには東京 23 区の 6 割ぐらいの場所に約 200 万人のパレスチナ人が暮らしていますが、人口密度が高いのは、人口の約7割が暮らす難民キャンプ。イスラエルに占領された地から追い出されて難民としてガザにいる人たちと、先祖代々がガザの人々では暮らしぶりも違います。それでも、「5分後には何が起こるかわからない」という共通の危険にさらされているのがガザの人たちでしょう。「家族と一緒にいられるだけで幸せ」という思いも砕かれてしまうかもしれないのがガザ。
そんなガザでも、確かにサーフィンをする人たちはいるのです。なんといっても、ガザは約40キロが地中海に面しているのですから!
2020年3月のイスラーム映画祭5で『ガザ・サーフ・クラブ』の上映後のトークで、アラブ文学研究者の岡真理さんの冒頭の言葉が印象的でした。
「ガザにサーフクラブ? 悪い冗談かと最初思いました。海に面しているのでサーフィンは出来るはずですが、「白い黒板」といったような相容れない組み合わせだと、ガザを知っていると思います」
下記に、ガザの辿った歴史も含めてトークの様子を掲載しています。
イスラーム映画祭5『ガザ・サーフ・クラブ』
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/474101448.html
2019年2月28日にガザから来日した画家3人の方にお会いしたことがあります。
ビザを取得するのも大変で、さらにビザを持っていても、2か所しかない検問所から出国するのも手続きがすんなりできないガザの事情を悲しげな面持ちで話してくださったのが、今も心に残っています。
天井のない監獄ガザから来日した3人の画家 (咲)
http://cinemajournal.seesaa.net/article/464639114.html
イスラエルは、2007年にガザを封鎖する前に、入植していたユダヤ人を全員、ガザから撤退させています。気にせず砲撃できるという次第。やりたい放題のイスラエル。なんとか止めることはできないのでしょうか・・・ (咲)
2019年/アイルランド・カナダ・ドイツ/92分/ドキュメンタリー
配給:ユナイテッドピープル
公式サイト:https://unitedpeople.jp/gaza/
★2022年7月2日(土)シアター・イメージフォーラム他全国順次ロードショー
上映予定:
イメージフォーラム上映中
第七藝術劇場 7/9~
京都みなみ会館 7/22~
横浜シネマリン 7/30~
名古屋シネマテーク 8/20~