2024年04月24日

革命する大地   原題:La Revolución Y La Tierra

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(C)2019 Autocinema

監督:ゴンサロ・ベナべンテ・セコ
出演:フェデリコ・ガルシア(映画監督)、フランシスコ・モラレス・ベルムデス(元ペルー大統領)/ほか

1968年の「ペルー革命」を軸に、スペイン人による征服以来のペルーの歴史を記録したドキュメンタリー

1960年代の政治・経済・社会全般の危機を背景に、1968年10月3日、フアン・ベラスコ・アルバラード将軍率いる軍部がクーデターで実権を掌握。革命政府のベラスコ大統領は、米国資本の石油会社接収、農地改革による大土地所有の解体、重要産業の国有化、ケチュア語(先住民族の言語の一つ)の公用語化等、社会を一変させる施策を次々にとった。外交面では当時の社会主義諸国と国交を結び、非同盟運動に活発に加わった。しかし、農地改革後の農業生産性も期待されたほど向上しなかった。ベルムデスによる軍内部のクーデターでベラスコが失脚し、革命は道半ばで途絶えた・・・

「農民よ、もはや地主たちが諸君らの貧しさを食い物にすることはない」という言葉とともに農地改革を行ったベラスコ大統領。先住民や農民に寄り添った政策は、逆に既得権を持った人たちにとっては不都合なものでした。
立場によって、ベラスコ大統領を英雄とみる人と、独裁者とみる人と二分。半世紀以上経った今も、ペルー革命の功罪について議論が続いています。

『革命する大地』は、1982年生まれで、1968年のペルー革命の時代を知らないゴンサロ・ベナべンテ・セコ監督が、「歴史」を記録し検証するために製作したもの。
スペイン人がペルーを征服し、先住民支配を行った時代に遡り、農地改革の背景を丁寧に追います。数多くの映画の場面も取り入れて説明していて、ペルー映画史の一端を知ることもできました。

2019年にペルー本国で公開され、9万人以上を動員する大ヒット。2021年の大統領選挙の1週間前にテレビ放映が予定されていたところ、この映画が大衆に及ぼす影響を恐れた保守派の圧力で放送が中止されたとのこと。映画は放映されませんでしたが、無名の農民が初めて大統領選に勝利。結果を逆転させようとする寡頭支配層との戦いが始まりました。そんな社会だからこそ、志半ばでつぶされてしまった革命の時代を、ペルーの人たちは本作を通じて知ることが重要だと思いました。
私にとっても、ペルーでこんな革命があったことは知りませんでした。普遍的なこととして、知るべき歴史だと思いました。(咲)

2019年/ペルー/111分/スペイン語・英語
日本語字幕:比嘉世津子
後援:在日ペルー大使館 日本ペルー協会
配給:ブエナワイカ(『マタインディオス、聖なる村』、『アンデス、ふたりぼっち』、ペルー映画祭)
公式サイト:https://www.buenawayka.info/re-tierr
★2024年4月27日より新宿K's cinemaほか全国順次公開




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2022年07月24日

アンデス、ふたりぼっち   原題:WIÑAYPACHA  英題:ETERNITY

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©2017 CINE AYMARA STUDIOS.

監督・脚本・撮影:オスカル・カタコラ
編集:イレーネ・カヒアス
出演:ローサ・ニーナ、ビセンテ・カタコラ

ペルー、アンデスの標高5000mを超える高地で暮らす老夫婦パクシ(ローサ・ニーナ)とウィルカ(ビセンテ・カタコラ)。 二人は、都会に出た息子がいつか帰ってくることを待ち望みながら、リャマと羊と共に暮らしている。寒い夜を温めてくれるポンチョを織り、コカの葉を噛み、日々の糧を母なる大地のパチャママに祈る。ある日、飼っていた羊がキツネに襲われてしまう。さらに、火をつけるためのマッチが底をついてしまい、夫ウィルカは町にマッチを買いに行くが、その途中で倒れてしまう・・・

本作は、ペルー映画史上初の全編アイマラ語長編映画で、ペルーのシネ・レヒオナル(地域映画)の傑作。
アンデスの大自然を舞台に、伝統文化を守りながら暮らす夫婦の姿を映像に収めたオスカル・カタコラ監督。2021年、プーノ県エル・コジャオ、山頂コントゥリリ地区で待望の2作目の長編映画『Yana-wara』を撮影中に34歳で亡くなられました。
ウィルカ役は監督の実の祖父ビセンテ・カタコラが、パクシ役は友人から推薦されたローサ・ニーナが演じています。
原題の『WIÑAYPACHA』は、アイマラ語で「永遠」を意味し、時間の経過と終わることのなく何度も戻ってくる循環を表現しているとのことです。
太陽の動きに従った暦で、新年を迎え、作物の植え付けをする太古から続く暮らし。南半球なので、私たちとは逆なのが見てとれて、なるほど!と思いました。
人里離れたアンデスの高地で、お互いを敬いながら寄り添って暮らす老夫婦の物語に、ほっこりさせられるに違いないと見始めたら、思いもかけない展開! 自然の厳しさを突き付けられた思いです。長年培ってきた伝統的なアイマラ文化が消えゆく運命であることも感じさせられました。それは、この地だけでなく、地球全体が抱えている問題でもあると、考えさせられました。 (咲)


★ペルーのシネ・レヒオナル(地域映画)
ペルーの首都リマ以外の地域で、その地域を拠点とする映画作家やプロダクションによって制作される映画を指す。娯楽的なジャンル映画から作家性の強いアート映画までタイプは様々だが、いずれの作品もその地域独自の文化や習慣を織り込んでおり、都市圏一極集中ではない多元的なペルー映画を構成している。

『マタインディオス、聖なる村』(監督:オスカル・サンチェス・サルダニャ、ロベルト・フルカ・モッタ)が、ペルーのシネ・レヒオナルとして初めて、2022年6月18日に日本公開されています。

アンデスの山の上で暮らす高齢者夫婦。2人とも饒舌ではないが、やってほしいことはしっかり伝える。夫は新しいポンチョがほしいといい、機織りのために毛玉を糸に精製するところから始める妻を手伝う。互いに慣れた手つきに夫婦が過ごしてきた時間を感じる。
言葉通り、自給自足の日々に都会に暮らす私たちは心を洗われるようだが、作品は自然のいい面だけでなく、過酷さも見せつける。それも若いときには難なく乗り越えられただろう。しかし老いて体力が衰えた身には辛い。息子が戻ってこないことを妻が何度も嘆く。妻の気持ちはよくわかるが、都会の便利な生活に慣れてしまった者には戻れない。孤立無援の状況でも山を下りることを考えない2人を更なる危機が襲う。辛いラストの中に夫婦の純愛が見えた気がした。(堀)


ペルー、アンデスの高地で暮らす老夫婦の物語。後ろに見える高山には残雪が残り、老夫婦が暮らす場所では草木が生え、緑の絨毯が広がる。そんな自然ではあるけど、草木萌える春でも天気が崩れれば雪が降るような厳しい高地。そして、湿気があるような天気は、もしかしたら5000mを越えるような高地では、下からの蒸気が雲になり湿ったような空気なのだろうか。そんな中、二人は毎朝祈りをささげ、食べていくための生活を続ける。ジャガイモを干すというシーンがあり、春先でジャガイモ?と思ったけど、もしかして、前の年に収穫したものを保存しておいたものだろうか。こんな高地では作れる農作物も限られているだろうし、貴重な食べ物。狐が、飼っていた7,8頭くらいの羊たちや犬まで全頭殺してしまったというシーンにもまたびっくり。狼ならわかるけど、集団で住む狐たちなのだろうか。この羊たちは食料でもあったと思うのに土に埋めていた。殺された羊たちはそのように扱うのかとも思った。それなのに食べるものがないと言ってリャマを殺してしまう。思ってもいないような行動だった。マッチがなくなり、村まで買いに行くとお爺さんは出かけたけど、村までたどりつかずに倒れてしまった。帰らぬ息子のことを思いながら、厳しい自然の中で生きるインディオの姿が描かれる。お爺さんがふいていたケーナの響きが物悲しい(暁)。

2017年/ペルー/アイマラ語/86分
日本語字幕:新谷和輝
アイマラ語監修:藤田護 マリオ・ホセ・アタパウカル 矢島千恵子
後援:在日ペルー大使館    協力:日本ペルー協会
公式サイト:https://www.buenawayka.info/andes-futari
★2022年7月30日(土)より、新宿 K's cinema ほか全国順次公開



posted by sakiko at 16:54| Comment(0) | ペルー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年06月12日

マタインディオス、聖なる村  原題:Mataindios

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(C)LA TROPILLA DE OBRAJEROS EIRL

監督:オスカル・サンチェス・サルダニャ、ロベルト・フルカ・モッタ
出演:カルロス・ソラノ、ナタリー・アウレス、グリセリオ・レイノソ

ペルー、アンデスの山岳地帯にある集落。家族を失った悲しみから解き放たれようと、村の守護聖人サンティアゴを称える祭礼を行うことになる。教会の鍵を開け、祭礼の準備を始める村人たち。その祭礼は、守護聖人を満足させるために、完璧なものでなければならない。祭礼の準備は順調に進むのだが、予期せぬ出来事によって、自身の信仰と、守護聖人による庇護の力に疑問をいだいていく・・・

監督と脚本は、本作が初長編作品となるオスカル・サンチェス・サルダニャ監督とロベルト・フルカ・モッタ監督。2016年、ペルー文化庁が管轄するDAFO(Direcciíon Audiovisuali,la Fonografía y los Nuevos Medios)シネ・レヒオナル映画コンクールに入賞。第22回リマ映画祭に出品され、2018年のベストペルー映画に選ばれた。ペルーの映画界を牽引する映画運動の「シネ・レヒオナル(地域映画)★」が日本初公開。

★ペルーのシネ・レヒオナル(地域映画)
ペルーの首都リマ以外の地域で、その地域を拠点とする映画作家やプロダクションによって制作される映画を指す。娯楽的なジャンル映画から作家性の強いアート映画までタイプは様々だが、いずれの作品もその地域独自の文化や習慣を織り込んでおり、都市圏一極集中ではない多元的なペルー映画を構成している。

教会の鍵穴を覗く人々の顔、そして、鍵穴から見える村の風情。まるで彫刻のような人々の顔、顔、顔・・・ 独特の映像に、とにかく圧倒されました。
劇映画のはずなのに、アンデスの村のドキュメンタリーのように見えます。撮影が行われたのは、オスカル・サンチェス監督の故郷であるワンガスカル。司祭を俳優が演じている以外、出演者はワンガスカルに暮らす村人たち。演じているというより、それぞれの人物が、その人そのもののよう。

マタインディオスとは、村の守護聖人サンティアゴ(イエス・キリストの十二使徒の一人)の別名。サンティアゴは、スペインがイスラーム勢力に支配されていた時代、レコンキスタ(再征服運動)のためキリスト教徒の守護聖人として顕現したという伝説があります。1492年のレコンキスタ完了後、スペインによる新大陸征服が始まり、イスラーム教徒に代わって異教徒である先住民がサンティアゴに踏みつけられ殺されるという図像が描かれるようになったそうです。サンティアゴ・マタインディオスは、キリスト教徒(先住民も含む)の守護聖人であり、先住民を収奪する白人征服者の守護聖人であるという二つの面があります。
このことを念頭に置いて映画を観ると、500年も前に征服者から押し付けられた宗教(カトリック)が根付いている一方で、先住民たちが征服以前から培ってきた伝統が今なお根底にあることが、こうした葛藤をもたらすのだと感じました。
とにもかくにも、凄いものを観た!という興奮が冷めやりません。(咲)


(咲)さんが「劇映画のはずなのに、アンデスの村のドキュメンタリーのように見えます」と書いているのを読んで初めてこの作品が劇映画だと知りました。それほどリアリティに基づいた物語なのでしょう。
ペルー山岳部の慣習とカトリック信仰が入り混じった価値観が描き出されます。その土着感が隠れキリシタン信仰を思い出させました。隠れキリシタンは本来のカトリック信仰とは別物になってしまったと言われています。このアンデスの村はどうなんでしょうか。
そもそも信仰は昔のままということはないわけで、キリスト教からカトリックとギリシア正教という2つの宗派が生まれ、さらに16世紀には宗教改革が起こり、キリスト教はカトリック、プロテスタント、ギリシア正教の3つに分断されました。イギリスではヘンリー8世の離婚問題から何と国王主導でイングランド国教会が成立しています。時代とともに、結果として生活に合わせるように信仰の在り方は変わってきたわけで、そこには人々の心に溜まった澱のようなものがたくさんあったことと思います。そして、この作品からもそんな澱がそこかしこに感じられます。(堀)


ペルー、アンデスの山岳地帯にあるワンガスカルに暮らす村人たちの集落。家族を失った悲しみから解き放たれようと、村の守護聖人サンティアゴを称える祭礼を行う。聖人を称えるための歌を練習し、マントを作り、ミサの練習をする。そして当日、司祭が守護聖人を称える説教をする。歌を歌うのにハープが使われていたのが珍しいと思った。そして聖水は、なんとサボテンから取り出した水。水の乏しいこの山岳地帯ではサボテンから水を得ているのだった。モノクロ風の映像だけど、中に赤など少し色がついている。これはどのように撮るのだろうか。
スペインによるインカ帝国の征服から約500年。約300年のスペインの植民地時代が続き、独立をしたけど、スペインに押し付けられたキリスト教は残った。土着の生活、文化や伝統と折り合いながらキリスト教が根付いているのだと思った(暁)。


2018年/ペルー/ケチュア語・スペイン語/77分
配給:ブエナワイカ
公式サイト:https://www.buenawayka.info/mataindios
★2022年6月18日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開



posted by sakiko at 19:21| Comment(0) | ペルー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする