監督・脚本・撮影:ミスティラフ・チェルノフ
2022年2月、AP通信取材班は、東部のマリウポリが戦略的に重要な地点となると判断して車で向かう。到着1時間後に本当に戦争が始まった。民間人を攻撃しないとの期待はすぐに裏切られる。戒厳令がしかれ、戦場となったマリウポリに残った取材班は命がけで撮影を続けた。逃げ場もない市民は、少しでも安全に思える地下に駆け込む。住宅地にミサイルが撃ち込まれ、病院の産科も被害に遭う。何もかも足りない中、重傷者は増え続ける。病院の医師たちは休むまもなく救助活動にあたっているが、設備は破壊され、薬も人手もなくなるばかりだ。取材班は電波の良いところを探して、世界へ映像を送り続ける。
容赦ない砲撃を受ける住宅地、みるみるうちに崩れて街の姿はなくなっていきます。水や電気、通信網が破壊され、情報が遮断されます。逃げ場所もないと泣く女性、遺体が増えていく惨状も撮影します。霊安室もいっぱいになり、遺体は作業室にまで並べられます。細長く掘られた穴が仮の埋葬場所、係の男性は「戦争を始めたヤツらはみんなくたばれ!」と吐き捨てます。
ロシア側がマスコミの追及に「あのニュース映像は俳優が演じているフェイクだ!」と返す映像もあります。報道もまた戦争の最前線、重責を思います。周りの人たちも「真実を知らせて」「捕まったらフェイクニュースと言わされる」と口々に希望を託します。
Zマークの戦車が街に入ってきます。「映像を世界に送ってもらいたい」と軍人たちに支援され、取材班は赤十字の車列に追いつき脱出できました。しかし、街に残るしかない人たちを置いてきたことで自責の念にかられます。マリウポリは侵攻から86日目に陥落、死者は25000人以上にのぼりました。(白)
アカデミー賞(長編ドキュメンタリー賞)授賞式でのミスティラフ・チェルノフ監督挨拶(HPより)。
「この作品はウクライナ映画史上初めてアカデミー賞を受賞しました。
しかし、おそらく私はこの壇上で、こんな映画が作られなければよかった、などと言う最初の監督になるだろう。このオスカー像を、ロシアがウクライナを攻撃しない、私たちの街を占領しない姿と交換できれば、と願っています。ロシアは私の同胞であるウクライナ人を何万人も殺している。私は、彼らがすべての人質たち、国を守るために戦うすべての兵士たち、刑務所にいるすべての民間人たちを解放することを願っています。しかし、歴史を変えることはできません。過去を変えることもできません。私はあなた方に、世界で最も才能のあるあなた方に呼びかけます。私たちは、歴史を正しく記録し、真実を明らかにし、マリウポリの人々や、命を捧げた人々が決して忘れ去られないようにすることができます。なぜなら、映画は記憶を形成し、記憶は歴史を形成するからです」
2023年/ウクライナ・アメリカ合作/カラー/97分
配給:シンカ
https://synca.jp/20daysmariupol/
★2024年4月26日(木)TOHOシネマズ日比谷ほか全国緊急公開