2023年09月10日

沈黙の自叙伝   原題:Autobiography

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(C)2022. Kawan Kawan Media, In Vivo Films, Pōtocol, Staron Film, Cinematografica, NiKo Film


監督:マクバル・ムバラク
出演:ケビン・アルディロワ、アースウェンディ・ベニング・サワラ、スワラ・ユスフ・マハルディカ、ルクマン・サルディ

インドネシアの田舎町。18歳の青年ラキブは、刑務所に入っている父に代わって、大邸宅の管理をしている。主の元将軍プルナが突然帰ってくる。プルナは地元の首長選挙に立候補し、ラキブは選挙運動を手伝うことになる。プルナの忠実なアシスタントとして働くラキブ。いつしかプルナはラキブに対して親身に接し、父親代わりの存在になっていく・・・

軍事独裁体制下を思わせる張り詰めた緊張感がありますが、実は、設定は2017年。
1990年に生まれたマクバル・ムバラク監督。軍事独裁政権下で公務員として働く父の、国家に対する忠誠心を見て育ち、「忠誠を尽くすことが人を立派にすることだ」と思っていたが、大人になるにつれ疑問がわいてきたという。父のように接してくるプルナをラキブは受け入れることができるのか・・・ ねっとりとしたインドネシアの田舎町の空気管の中で繰り広げられる物語にぞくぞく。
自叙伝とは、抑圧されてきたインドネシア社会の歴史。権利を持つ者と、権利を奪われている者。父なる独裁者に忠誠心を持つ者と、持てない者・・・ いつ立場が変わるかもしれない危うい社会で、人はどう立ち回ればいいのか・・・ (咲)


東京フィルメックス『自叙伝』アクバル・ムバラク監督Q&A
https://filmex.jp/2022/news/daily-news/11-01autobiography_qa

沈黙の自叙伝 アクバル・ムバラク監督_R.jpg
アクバル・ムバラク監督(東京フィルメックス2022にて)撮影:宮崎暁美


ヴェネチア映画祭オリゾンティ部門で上映。国際映画批評家連盟賞受賞。
第 23 回東京フィルメックス コンペティション部門最優秀作品賞(上映時タイトル『自叙伝』)

2022年/インドネシア、ポーランド、ドイツ、シンガポール、フランス、フィリピン、カタール/インドネシア語/115分
配給:ムーリンプロダクション
公式サイト:https://jijoden-film.com/
★2023年9月16日(土)より東京 シアター・イメージフォーラムを皮切りに全国順次公開



posted by sakiko at 01:50| Comment(0) | インドネシア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年02月12日

呪餐 悪魔の奴隷 原題:Pengabdi Setan 2: Communion 英題:Satan's Slaves:Communion

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Copyright (C) 2022 Rapi Films

監督・脚本:ジョコ・アンワル
出演:タラ・バスロ、エンディ・アルフィアン、ネイサー・アヌズ、ブロント・パララエ

1955年4月17日。西ジャワ州レンバン。
車で連行される記者証を持つ男。着いた先には知人の少佐。建物の中をみてほしいという。墓から出された無数の遺体が並んでいる。誰の仕業かわからない。明日はアジアアフリカ会議が開かれる大事な日。警察は呼べない。都市伝説として世に伝えてくれと頼まれる。

1984年4月15日。ジャカルタ。
大学を中退し働くリニは、再び翌日から大学に通えることになる。一緒に暮らしている父や弟二人とは離れて暮らすことになる。
バスに乗り、町はずれの国営アパートに帰る。バスの中で見かけた新聞には「連続殺人鬼に注意」の大きな見出し。数年にわたり2000人も殺している殺人犯が捕まっていないのだ。

4月16日。大嵐到来の予報。
14階建てのアパートのエレベーターで落下事故が起こり、10人が犠牲になる。リニの父は重傷を負うが助かる。嵐が上陸し、アパートの1階が浸水してしまう。孤立してしまい、遺体の埋葬もできない。停電で暗い中、アパートの中を見回るリニたち。事務所で、毎年4月17日に撮影された写真を見つける・・・・

冒頭、建物の中に整然と並べられたたくさんの遺体に、まず度肝を抜かれました。いったい誰の仕業だったのか謎のまま、時は流れます。
本作は、1980 年代にイスラーム圏で最も恐いホラー映画として話題を集めたインドネシア映画『夜霧のジョギジョギモンスター』をリメイクし、2017 年インドネシア映画の観客動員数1位を記録(420 万人)した『悪魔の奴隷』の4 年後が舞台。母と祖母を亡くし、末弟のイアンも行方不明のままジャカルタの北部にある高層アパートに越してきたリ二とその家族の物語。『悪魔の奴隷』を観ていないのですが、本作だけでも充分理解できました。

「ラーイラーハイッラーッラー(アッラーの他に神はなし)」と唱えながら、白い布で亡くなった男性を包む光景に興味津々。暗い中、電灯を持って見回ると、クルアーンの一節を唱えながらご遺体のそばで悼む姿も。これは不気味といっては失礼になりますが、ちょっとぞくっとしてしまいます。

西ジャワ州レンバンってどこ?と地図で検索してみました。
1955年4月18日に第一回アジアアフリカ会議(通称バンドン会議)が開催されたバンドンのすぐ近くの高地でした。
冒頭で連れていかれた建物に見覚えがある・・・と思ったのですが、レンバンのボスカ天文台のようです。2018年のイスラーム映画祭3で上映された『イクロ クルアーンと星空』に出てきたものでした。バンドン工科大学のサルマン・モスクが作った映画です。
イスラーム映画祭『イクロ クルアーンと星空』突然の主演女優登壇にびっくりの巻(咲)

さて、おぞましい連続殺人事件は、どうやらラミノムというカルト教団と関係があることが明かされていきます。目に見える怖さよりも、人の心をあやつる教団の恐ろしさにぞくっとさせられました。インドネシアらしいムーディな音楽も心に沁みました。ホラー映画と怖がらずに、ぜひご覧ください。(咲)


2022年/インドネシア/インドネシア語/119分/シネスコ/5.1ch
字幕:藤本聡
配給:アルバトロス・フィルム
公式サイト:http://jusan-movie.jp/
★2023年2月17日(金)より、全国ロードショー





posted by sakiko at 18:19| Comment(0) | インドネシア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年08月18日

復讐は私にまかせて   原題:Seperti Dendam Rindu Harus Dibayar Tuntas 英題:Vengeance is Mine, All Others Pay Cash

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Ⓒ 2021 PALARI FILMS. PHOENIX FILMS. NATASHA SIDHARTA. KANINGA PICTURES. MATCH FACTORY PRODUCTIONS GMBH. BOMBERO INTERNATIONAL GMBH. ALL RIGHTS RESERVED


監督&脚本:エドウィン(『動物園からのポストカード』)
撮影:芦澤明子(わが母の記』『トウキョウソナタ』『海を駆ける』)
出演: マルティーノ・リオ ラディア・シェリル ラトゥ・フェリーシャほか

1989年、インドネシアのボジョンソアン地区。無鉄砲な若者アジョ・カウィル(マル ティーノ・リオ)はケンカとバイクレースに明け暮れている。そんな彼は勃起不全という悩みを抱えていて、苛立ちのはけ口として、悪名高き実業家のレベを叩きのめして やろうと思い立つ。採石場に乗り込むと、レベに雇われた女ボディガードのイトゥン(ラディア・シェ リル)が立ちはだかる。華奢ながら、伝統武術シラットの使い手であるイトゥンは、アジョと互角に闘う。最後には両者共にノックダウン。それがふたりの運命的な恋の始まりだった。
不能だから結婚できないというアジョに、だからこそ結婚するのよと積極的なイトゥン。盛大な結婚披露パーティーを開き、慎ましくも幸福な新婚生活が始まる。アジョは、ずっと心のうちに隠していた1983年6月の日食の日の出来事をイトゥンに打ち明ける。まだ少年だったアジョは友人と二人で、ロナ・メラーという未亡人がふたり組の男に襲われているのを家の外から覗き込む。それが暴行犯に見つかり、自分たちも性的虐待を受けてしまったのだ。この話を聞いたイトゥンは、この時のことがトラウマになってアジョは不能なのだと、暴行魔たちへの復讐を決意する。幼なじみのブディ(レザ・ラハディアン)に協力を求めるが、イ トゥンに横恋慕していたブディは、彼女の弱みにつけ込んで誘惑し、イトゥンは、ブディとの子を身ごもってしまう。「尻軽女!」と叫んで家を飛び出すアジョ。裏社会の実力者ゲンブル(ピエト・パガオ)から殺しの仕事を請け負い、刑務所送りとなる。イトゥンもブディを殺害した罪で投獄される。
3年後、刑期を終えたアジョとイトゥン。再会を果たした二人の前に、ジェリタ(ラトゥ・フェリーシャ)という謎めいた女が現れる…

主人公のアジョが勃起不全に悩んでいるという設定には、インドネシア社会に今も根強く残っているというマチズモ(男性優位主義、女性蔑視)への批判がこめられているとのこと。いじいじしたアジョに対し、武術にたけたイトゥンは言うこともカラッとして、実にカッコいいです。 
冒頭、「天国は母の足元にある」という標語が書かれた看板が映し出されます。その後も、看板や、トラックの後ろなどに、大胆な絵に言葉が添えられたものが、効果的に出てきて、物語の流れの中で、この言葉の意味するところは?と、つい考えてしまいました。
ねっとりとしたインドネシアの地で繰り広げられる愛と復讐の物語にくらくら。(咲)



デジタルカメラが主流の時代に、あえてアナログなフィルムでの撮影を切望したエドウィン監督。撮影を黒沢清監督、深田晃司監督など数々の映画監督とタッグを組んできたカメラマンの第一人者芦澤明子さんに依頼し、コダックの16ミリフィルムで撮影。ざらついた独特の質感が、愛と復讐のドラマをきわだたせています。
☆ご参考
『ここに、幸あり』撮影監督 芦澤明子さんインタビュー
http://www.cinemajournal.net/special/2003/sachiari/index.html


第74回ロカルノ国際映画祭金豹賞受賞

2021年/インドネシア、シンガポール、ドイツ/インドネシア語/ビスタ/5.1ch/カラー/PG-12
配給:JAIHO
公式サイト:https://fukushunomegami.com/
★2022年8月20日(土) シアター・イメージフォーラム他にて全国順次ロードショー


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2015年9月、『動物園からのポストカード』がアジアフォーカス福岡国際映画祭で上映された折に来日したエドウィン監督とニコラス・サプトラ 

ニコラス・サプトラに会えた! 今年も充実のアジアフォーカスの旅でした (咲)
http://cinemajournal.seesaa.net/article/427092716.html

posted by sakiko at 14:44| Comment(0) | インドネシア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年05月19日

マルリナの明日 原題 Marlina the Murderer in Four Acts

2019年5月18日(金)渋谷ユーロスペースにて公開!
その後の公開情報

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(C)2017 CINESURYA - KANINGA PICTURES - SHASHA & CO PRODUCTION – ASTRO SHAW ALL RIGHTS RESERVED

「闘うヒロイン」に喝采!!!
インドネシアの荒野から放つ 超痛快“ナシゴレン・ウェスタン”!
監督:モーリー・スリヤ
製作:ラマ・アディファウザン・ジドニ
原案:ガリン・ヌグロホ
脚本:モーリー・スリヤ
キャスト
マーシャ・ティモシー:マルリナ
パネンドラ・ララサティ:ノヴィ
エギ・フェドリー:マルクス
ヨガ・プラタマ:フランツ

インドネシア離島の僻村。夫と子どもを亡くし、夫のミイラとともに荒野の一軒家で暮らすマルリナが7人の強盗団に襲われた。料理を作るように命令されたマルリナは、毒入りのスープを作り、それを飲んだ男たちは次々と倒れるが、盗賊の首領マルクスは別の部屋で寝ていて助かる。マルクスにもスープを勧めるが、襲われてしまう。マルリナは脇にあった剣を取りマルクスの首めがけて振りおろした。
マルリナは自らの正当防衛を証明するため、マルクスの首を持って警察署へと向かう。しかし、強盗団の残党達はマルクスの復讐を誓って、彼女の後を追うが、マルリナは自らの正義と明日をかけ、颯爽と馬に跨がり警察署に向う。鈍く光る剣とマルクスの首を持ち、灼けつく太陽と果てしない荒野をゆく。
哀愁漂うマカロニ・ウェスタン調の音楽がバックに流れる。
インドネシアの若き女性監督モーリー・スリヤが、前代未聞の新しい“闘うヒロイン”を生み出した。このひとりの女性の闘いの物語は、さりげないユーモアも織り交ぜたインドネシアの流の異色エンターテイメント。
インドネシア流西部劇“ナシゴレン・ウェスタン”が誕生した!

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(C)2017 CINESURYA - KANINGA PICTURES - SHASHA & CO PRODUCTION – ASTRO SHAW ALL RIGHTS RESERVED

2017年の第18回東京フィルメックスで最優秀賞を受賞した作品だったけど、この時の原一男審査委員長のコメントが素晴らしかった。

授賞理由:原一男審査員長コメント
マカロニウエスタンの音楽に乗ってヒロインは戦う
敵は男
そして男性社会
今こそ復讐せよ
破壊せよ
強姦などに打ちひしがれる哀れな女を演じるのはもうやめよう
女性自らが新しい女性像を作ること
肉体的にも精神的にもタフな女性像を
エンターテイメント型アクション映画に込められたメッセージ
闘うヒロイン像を作り出した、イキのいい痛快な傑作の誕生です

この時に見逃してしまった私は、去年のあいち国際女性映画祭で上映されることを知り、この原委員長の言葉に導かれて名古屋に出かけてしまった。まさか日本で公開されるとは思ってもみなかったけど、こういうインドネシア映画が公開されるというのは、嬉しい(暁)。


あまり説明がなく始まって、この招かれざる客は強盗らしいとか、あのミイラは何なんだ?とか、一人で考えさせられました。ちょっとこれまでとは違うテンポと雰囲気の映画で、若い女性監督作と聞いて驚いた次第。そういえば男性なら、女性に寝首を搔かれる反撃シーンは描かないでしょうね。それも鉈(なた)でバッサリですから。あたふたするお腹の大きな若妻や、遠巻きにする一般住民の中、少しも動じない強いヒロインの姿がくっきりと浮かび上がりました。(白)
シネマジャーナルHP 第18回東京フィルメックス授賞式レポート

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モーリー・スリヤ監督(2017年東京フィルメックスにて)

製作年 2017年
製作国 インドネシア・フランス・マレーシア・タイ合作
配給 パンドラ
posted by akemi at 19:48| Comment(0) | インドネシア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする