2023年06月04日
コロニアの子供たち 原題: Un Lugar Llamado Dignidad 英題:A Place Called Dignity
監督・脚本:マティアス・ロハス・バレンシア
出演:サルヴァドール・インスンザ、ハンス・ジシュラー、
アマリア・カッシャイ、ノア・ヴェスターマイヤー、ダヴィド・ガエテほか
1989年、チリ。12歳の少年・パブロは、母が季節労働者として山に行く為、司祭より薦められ、ドイツ人の作った学校「コロニア・ディグニダ」に奨学生として入校する。ここでは「労働は神への奉仕」とされ、集団を統治するパウル様のもと、大人も子供も秩序・清廉を規範に集団生活をおくっている。ほどなく、パブロはスプリンターと呼ばれるパウル様のお気に入りに選ばれ、「自由の家」で暮らすことを許される。テレビも見れると憧れていたが、それは地獄の日々の始まりだった・・・
入校し、2段ベッドの並ぶ部屋に案内されたパブロ。同室の少年に声をかけると、「しゃべっちゃいけない」と言われます。二人で過ごす男女も怯えた様子。ここでは、「神様とピウス様がどこかで見ている」という教えが皆を支配しているのです。やがて、密通した男女が皆の目の前で制裁されます。
1960年代初頭、ナチス残党であるパウル・シェーファーが反共的なホルヘ・アレッサンドリ政権の許可を得て、チリ南部に設立した「コロニア・ディグニダ(尊厳のコロニー)」。地域から隔離されたこの施設は、悪名高きピノチェト政権下では拷問を行う場としても使われ、反政府運動をしていた人物が、ここに送られ行方不明になっていることも映画の中で描かれています。
ピノチェト政権崩壊後も、「コロニア・ディグニダ」はパウル・シェーファーの独裁的な指導のもと継続。シェーファーの性的虐待と暴行はピノチェト政権下では不問にされていましたが、その後起訴され、本人不在のまま2004年に懲役20年の有罪判決。過去の児童虐待疑惑についてもドイツやフランスから指名手配を受けていたとのこと。
数年前には、ヨーロッパでの神父たちによる少年への性的虐待があばかれ、日本でもジャニーズに所属していた人たちが、今になって少年時代に受けた性的被害を明かしています。本作でも、パブロの前にパウルのお気に入りだったルドルフが、性的虐待を受けていたことについて一言も明かしません。大人による立場を利用しての性的虐待が後を絶たないのは、被害者が声を出せないから。
2010年にパウル・シェーファーが88歳で亡くなり、「コロニア・ディグニダ」の悲劇に終止符が打たれ、その後、「ビシャ・バビエラ(バイエルン風ビラ)」と改称。ホテルを備えた観光施設になり、ドイツ人などの入植者の子孫たちは、記憶の継承と償いに務めていると最後に示されていました。「アヴェ・マリア」の歌が美しくも悲しく響きました。(咲)
2021年/チリ・フランス・ドイツ・アルゼンチン・コロンビア/99分/カラー
配給:シノニム、エクストリーム
公式サイト: https://colonia-movie.com/
★2023年6月9日(金) ヒューマントラストシネマ渋谷、シネマート新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町、池袋シネマ・ロサ、他 全国ロードショー!
2021年10月05日
夢のアンデス 原題:The Cordillera of Dreams
監督・脚本:パトリシオ・グスマン
撮影:サミュエル・ラフ
編集:エマニュエル・ジョリー、パブロ・サラス
録音:アルバロ・シルヴァ・ウス、アイメリク・デュパス、クレア・カフ
音楽:ミランダ・イ・トバー/
出演:フランシスコ・ガシトゥア、ビセンテ・ガハルド、パブロ・サラス、ホルヘ・バラディットほか
チリでは、1970年の大統領選挙でサルバドール・アジェンデが当選。世界史上初めて、選挙によって社会主義政権が成立する。アジェンデ大統領は、銅産業の国有化など様々な改革政策を実施するが、保守派は反発。銅企業を無償接収された米国の後押しもあって、1973年9月11日、軍事クーデターでピノチェト政権が成立し、アジェンデ派は徹底的に弾圧された。その過程を追ったドキュメンタリー『チリの闘い』を撮影後、パリに亡命したパトリシオ・グスマン監督。
『夢のアンデス』は、『光のノスタルジア』『真珠のボタン』に続き、チリの歴史的記憶、政治的トラウマ、地理の関係を探る三部作最終章。
インタビューに登場するのは、アンデスの原材料を使って作品を制作する彫刻家のビセンテ・ガハルドとフランシスコ・ガシトゥア。歴史や小説の作家であるホルヘ・バラディッドは、現代のチリの社会・経済構造におけるピノチェトのプロジェクトの継続について語り、音楽家のハビエラ・パラは、子供の頃に目撃した暴力を思い出す。1980年代以降、政治的抵抗や国家による暴力行為を記録するために活動してきた映像作家であり、アーキビストでもあるパブロ・サラスはこう語る。「記録し、どんな時代だったのか次の世代に伝えたい。二度と過ちを繰り返さないために」
チリの国境に沿って、高くそびえたつ世界最長の山脈アンデス。
「2度と祖国で暮らすことはない」と話すグスマン監督にとって、忘れ得ぬ故郷の象徴。麓で起きる痛ましいできごとを、アンデスは静かに見つめ続けてきました。
『光のノスタルジア』『真珠のボタン』で、虐げられ悲惨な国民の姿とは裏腹に。えもいえない美しい映像に溜息をつきました。『夢のアンデス』でも、気高くそびえたつ山々に、目を奪われました。アンデスが見守る人たちが、心安らかに暮らすことができますように・・・ (咲)
2019年/チリ、フランス/85分/16:9/スペイン語
日本語字幕:原田りえ
配給・宣伝:アップリンク
公式サイト:https://www.uplink.co.jp/andes/
★2021年10月9日(土)より岩波ホールほか全国順次公開