2025年09月07日

テイク・ミー・サムウェア・ナイス  原題:TAKE ME SOMEWHERE NICE 

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(C)2019(PUPKIN)

監督・脚本:エナ・センディヤレヴィッチ
撮影:エモ・ウィームホフ
編集:ロット・ロスマーク
衣装:ネダ・ナゲル
音響:ヴィンセント・シンセレッティ
音楽:エラ・ファン・デル・ワウデ
出演:サラ・ルナ・ゾリッチ、エルナド・プルニャヴォラツ、ラザ・ドラゴイェヴィッチ

オランダからボスニアへ
少女でも大人でもないアルマの”自分探し”の旅
誰か連れ出して…この退屈な世界から


大人への入り口に立つアルマは、オランダ育ちのボスニア人。母と自分を置いて母国に帰った父が入院し、死にかけているという知らせを受け、父に会うため一人ボスニアへ向かう。冷たい態度で彼女を迎える従兄弟のエミルと、下心いっぱいで近づくその親友デニス。エミルのアパートに着いたものの、キャリーケースの鍵が壊れ、母に買ってもらったぺらぺらのベロアのワンピース一枚の着たきり雀となったアルマ。
ひとり夜の街をさまよい、まるで大人ぶるように髪をブロンドに染める。父の病院に車で送ってほしいと頼むが、忙しいからとエミルたちに相手にされず、アルマは仕方なく長距離バスに乗り込む…。

両親が戦火を逃れてあとにした故国に初めて降り立ったアルマ。 
祈りの時を告げるアザーンが聴こえてきて、モスクがみえるサラエボの町。オランダ育ちのアルマにとって、自分のルーツの国でありながら、どことなく自分の居場所ではない不安定な感じ。居心地が悪いというわけでもない、不思議な感覚が映画の最後まで漂いました。
ボスニア・ヘルツェゴビナ出身、オランダ育ちというエナ・センディヤレヴィッチ監督自身のルーツを色濃く投影した半自伝的作品。監督が心酔するジム・ジャームッシュの代表作『ストレンジャー・ザン・パラダイス』から多大なインスピレーションを受けているとのこと。
また、『テイク・ミー・サムウェア・ナイス』というタイトルは、エナ・センディヤレヴィッチ監督が愛するスコットランド出身のポストロックバンド「モグワイ」の楽曲名に由来。大人になりかけて、自分探ししながら、これからの人生に何が起こるかの期待を密かに抱いていることも感じさせてくれました。(咲)


監督・脚本:エナ・センディヤレヴィッチ
Ena Sendijarević
1987年ボスニア・ヘルツェゴビナ生まれ。モドリチャにて幼少期を過ごすも、ボスニア紛争の勃発により家族と共に避難。ベルリンを含む約20回の転居生活を経て、2002年にオランダ・アムステルダムに移住した。アムステルダム大学およびベルリン自由大学でメディアと文化を学び、2014年にオランダ映画アカデミーで脚本と演出を専攻、卒業。難民としてオランダに渡った自身の背景や、複雑なアイデンティティの問題は、彼女の作品全体に深く息づいている。2013年、初の短編映画『Reizigers in de Nacht(夜の旅人)』を発表。2016年には、オランダに逃れたボスニア難民家族の移住をテーマにした短編映画『Import』が、カンヌ国際映画祭監督週間で上映され、大きな注目を集めた。2019年、『テイク・ミー・サムウェア・ナイス』で長編デビュー。ミニマリズム、東欧的ロードムービー、 キッチュな美術センスを融合させ、主人公アルマの内面と不安定な旅を詩的かつユーモラスに描いた。(公式サイトより)



第48回ロッテルダム国際映画祭タイガーアワード特別賞
第92回アカデミー賞最優秀国際長編映画部門オランダ代表
2019サラエボ映画祭ハートオブサラエボ賞
第21回ソウル国際女性映画祭最優秀映画賞


2019年/オランダ・ボスニア/オランダ語・ボスニア語/カラー/4:3/91分
日本語字幕:上條葉月
提供:クレプスキュール フィルム、シネマ サクセション 
配給:クレプスキュール フィルム
公式サイト:https://take-me.crepuscule-films.com/
★2025年9月13日よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開




posted by sakiko at 17:23| Comment(0) | ボスニア・ヘルツェゴヴィナ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年09月11日

アイダよ、何処へ?  原題:Quo Vadis, Aida?

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(C)2020 Deblokada / coop99 filmproduktion / Digital Cube / N279 / Razor Film / ExtremeEmotions / Indie Prod / Tordenfilm / TRT / ZDF arte

監督・脚本:ヤスミラ・ジュバニッチ(『サラエボの花』『サラエボ、希望の街角』)
出演:ヤスナ・ジュリチッチ、イズディン・バイロヴィッチ

ボスニア「スレブレニツァの虐殺」を忘れないで!

ボスニア・ヘルツェゴヴィナ紛争末期の1995年7月11日。ボスニア東部、イスラーム教徒であるボシュニャク人の街スレブレニツァがセルビア人勢力の侵攻によって陥落する。スレブレニツァは国連によって攻撃してはならない安全地帯に指定されており、国連保護軍のオランダ部隊によって防護されていた。国連保護軍の通訳として働くボシュニャク人の元教師アイダは、国連施設の周囲を埋め尽くす避難民を見て驚く。なんとか施設内に入れて貰おうと押し寄せる人々。アイダは、夫と二人の息子を探し出し、強引に施設内に招き入れる。町を支配したムラディッチ将軍率いるセルビア人勢力は、避難民を男女に分け、移送した男たちの処刑を開始する・・・

多民族国家ユーゴスラビアが、絶大なカリスマ性のあったチトー大統領亡きあと、民族主義の台頭により1991年ついに紛争勃発。スロベニア、マケドニア、クロアチアと次々に独立していき、ボスニア・ヘルツェゴヴィナも1992年に独立しましたが、内戦は1995年末まで続きました。
本作は、内戦末期に起こったおぞましい「スレブレニツァの虐殺」を描いた物語。
ボスニア紛争当時、モスタールの石橋が破壊されたのに続き、ショックを受けたのが、この「スレブレニツァの虐殺」でした。
2020年1月12-13日に立教大学で開催されたシンポジウム「25年目のスレブレニツァ - ジェノサイド後の社会の相克と余波、集合的記憶」に参加させていただき、事件の凄まじさをあらためて知りました。
事件の概要を、シンポジウムの成果をもとに編んだ論文集『スレブレニツァ・ジェノサイド:25年目の教訓と課題』のはしがきより抜粋します。

ボスニア・ヘルツェゴヴィナ紛争末期の1995年7月、国際連合の安全地帯に指定され、国連防護軍(UNPROFOR)のオランダ部隊によって防御されていた、ボスニア東部の人口4万あまりのムスリム人の飛び地スレブレニツァは、ボスニアのセルビア軍の攻撃により陥落した。続く約10日間で、自力でスレブレニツァを脱出し、ムスリム政府軍支配地を目指した総勢約15,000人のムスリム男性の内、7,000~8,000人が行方不明となった。このスレブレニツァ事件は、「第二次世界大戦以来の欧州で最悪の虐殺」と称され、旧ユーゴスラヴィア国際刑事裁判所(ICTY)で唯一「ジェノサイド(集団殺害)」と認定された象徴的な事件である。
https://osayukie.com/archives/4512


戦争が終わって、アイダがある家を訪れます。靴を脱ごうとして、十字架を胸にぶらさげた女性に「靴のままどうぞ」と通されたところで、かつてアイダたちが家族と共に暮らしていた家だと気づきました。土足であがることのなかった家・・・ 写真など、わずかな家族の私物は保存されていたものの、この地を占領した異教徒の家族が勝手に住みついているのです。それは、かつて、ヨーロッパではユダヤ人を追い出したあとの家、イスラエルとなったパレスチナでは、パレスチナ人を追い出したあとの家が辿った運命と同じ。人間は、なんと無神経で残酷なのでしょう。
アイダは、自分の家に住み着いている女性を追い出すこともできるのに、ただただ微笑むだけ。赦すことが平穏をもたらすこともちゃんと心得ているのです。

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© 2020 Deblokada / coop99 filmproduktion /Digital Cube / N279 / Razor Film / Extreme Emotions / Indie Prod / Tordenfilm / TRT / ZDF arte
ヤスミラ・ジュバニッチ監督(写真上)は、長編デビュー作『サラエボの花』(2006年)で、民族浄化の名のもとに、セルビア人がモスレム人女性に無理矢理子供を生ませたことを背景に母と娘の物語を紡ぎました。
また、『サラエボ、希望の街角』(2010年)では、結婚を前提に同棲中の恋人が過激な解釈をするイスラーム組織に傾倒してしまい戸惑うモスレム女性を描いています。
いずれも、普通の人々が、歴史のうねりの中で翻弄される姿を丁寧に語っています。
『アイダよ、何処へ?』公式サイトの監督インタビューを是非お読みください。
原題『Quo Vadis, Aida?』に込めた思いも語っています。
悲劇が繰り返されないことを願って映画を作った監督の気持ちが、世の権力者に伝わることを祈るばかりです。(咲)


第93回アカデミー賞 国際長編映画賞 ノミネート
第77回ヴェネチア国際映画祭 コンペティション部門 正式出品
第45回トロント国際映画祭 正式出品
第50回ロッテルダム国際映画祭 観客賞受賞

2020年/ボスニア・ヘルツェゴヴィナ・オーストリア・ルーマニア・オランダ・ドイツ・ポーランド・フランス・ノルウェー・トルコ合作映画/ボスニア語・セルビア語・英語他/101分
配給:アルバトロス・フィルム
公式サイト:https://aida-movie.com/
★2021年9月17日(金)Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館他にて全国順次公開




posted by sakiko at 02:30| Comment(0) | ボスニア・ヘルツェゴヴィナ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする