2024年09月15日

SONG OF EARTH/ソング・オブ・アース(英題:Fedrelandet)

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監督:マルグレート・オリン
出演:ヨルゲン・ミクローエン、マグンヒルド・ミクローエン

ノルウェーの渓谷「オルデダーレン」にヨルゲン・ミクローエン、マグンヒルド・ミクローエンという老夫婦が静かに暮らしている。娘であるマルグレート・オリン監督は、どこへでもいく84歳の父の姿と言葉をカメラに留めていく。父は美しい渓谷を案内しながら、これまでの人生、最愛の妻、ここで生きて来た何世代もの人々について語る。

壮大なオルデダーレン渓谷の景観は一度実際に見てみたいと思わせます。迫力がありながら何もかも包み込むような懐の深さと優しさも感じます。こういうところで暮らすとこんなに穏やかな老夫婦になれるのかもしれない、とうらやましくなるようなお二人です。
監督は両親の越し方を聞きながら、行く末にも思いを馳せます。
太古からの氷河が近年急速に変化していることを様々な現象が知らせています。昆虫や鳥が減少し、森林火災・洪水が増えていること、気候変動はノルウェーに限らず世界中で起こっているのはご存じのとおり。日本も例外ではありません。「SONG OF EARTH/ソング・オブ・アース」=地球の歌(声)に耳を澄ませて、地球の自然=私たちの家を大切にしましょうーと、老夫婦の生き方を通して監督が語りかけます。
この素晴らしい景観をぜひぜひ大きなスクリーンでごらんください。
ヴィム・ヴェンダース 監督と女優、監督でもあるリヴ・ウルマンが制作総指揮にあたっています。(白)


2023年/ノルウェー/カラー/分
配給:トランスフォーマー
(C)Speranza Film AS 2023
https://www.transformer.co.jp/m/songofearth/
★2024年9月20日(金)TOHOシネマズシャンテ、シネマート新宿ほか全国ロードショー
posted by shiraishi at 11:39| Comment(0) | ノルウェー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年09月12日

ヒューマン・ポジション  原題:A Human Position

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©Vesterhavet 2022

監督・脚本・編集:アンダース・エンブレム
撮影:マイケル・マーク・ランハム 音楽:エイリク・スリニング
製作:スティアン・スキャルタッド、アンダース・エンブレム
出演:アマリエ・イプセン・ジェンセン、マリア・アグマロ、ラース・ハルヴォー・アンドレアセン

ノルウェー、フィヨルドに囲まれた港町オーレスン。パステルカラーのアールヌーボー建築の家並みが美しい静かな町。夏を迎え、今は白夜の季節。アスタは病気療養のため、しばらく地元新聞社の記者の仕事から離れていたが、臨時雇いながら復帰する。
アスタが一緒に暮らすのは、癒しをくれる小猫一匹と、自宅を職場に、古くなった椅子のリペアを手掛ける若い女性ライヴ。彼女との他愛のない会話は、病み上がりのアスタにとって、心安らぐものだ。
アスタは記者として、地元のホッケーチーム、アールヌーボー建築を保存するための小さなデモやクルーズ船の景気など地元の人々を取材する。
ある日、ライヴが新聞に掲載されていた『労働法違反で難民申請者が強制送還へ』という小さな記事に目を留める。気になったアスタは翌日、執筆した記者に連絡をとる。わかったのは強制送還された彼の名はアスラン、そして勤めていた水産加工工場の連絡先…。

ゆっくりと時が流れるノルウェーの静かな港町での物語。
そんなのどかな町にも、移民や難民の問題が潜んでいるのを、しっとりと教えてくれました。
アスタの心の支えになっているライヴも浅黒い肌ですが、彼女の出自については詳しく語られません。アスタが、ライヴに「ノルウェーの一番いい点は?」と問うと、「なんだろう、山?」と言いながら「不満を言う立場にない。批判を許されない」とつぶやきます。移民として認められたら、文句は言えないということでしょうか。
アスタはアスランのことを調べに市役所に行きますが、難民申請は移民局の担当と言われます。市は受け入れ後の定住支援。 移民局の受け入れセンターは、一人一部屋に冷蔵庫があって、共同スペースもとても綺麗。 アスランがどんな理由で強制送還されたのかは結局わからないのですが、受け入れられれば、それなりの快適な暮らしができるのが見て取れました。
興味深かったのは、監督の日本趣味。アスタが柔道着、ライヴが浴衣を着て、湯飲み茶碗でお茶を飲みながら囲碁をする場面がありました。テレビからは、♪スミレの花咲く頃~♪と宝塚の曲が流れていて、映画『お茶漬の味』(1952)とのこと。 
アスタとライヴがくつろぐ部屋の隅では、黒猫が一生懸命エサを食べていて、あ~ここには猫の居場所もしっかりあるなぁ~と、しみじみ。(咲)


2022年/ノルウェー/ノルウェー語/カラー/ヴィスタ/78分
日本語字幕:西村美須寿
提供:クレプスキュール フィルム、シネマ サクセション 配給:クレプスキュール フィルム
公式サイト:https://position.crepuscule-films.com/
★2024年9月14日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開






posted by sakiko at 11:06| Comment(0) | ノルウェー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年10月15日

シック・オブ・マイセルフ(原題:Sick of Myself)

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監督・脚本・編集:クリストファー・ボルグリ
撮影:ベンジャミン・ローブ
出演:クリスティン・クヤトゥ・ソープ(シグネ)、アイリク・サーテル(トーマス)

シグネとトーマスはオスロで同棲中。長年の恋人同士でライバルでもあった。トーマスはよくシグネに手伝わせて、これと思ったものを盗み出す。高価なワインをまんまとせしめて友人たちに自慢しているのを、シグネは冷ややかに見ていた。そうやって手に入れた家具を組み合わせたものが、現代アートとして注目され、家に取材陣がやってくる。雑誌に載ったトーマスの写真にシグネは強烈に焦りと嫉妬を感じていた。世間の注目をあびるために、シグネは違法と知ってある薬物を人づてに注文する。

「最凶の承認欲求モンスター誕生」「暴走する自己愛に嫌悪と共鳴が止まない”セルフラブ”メディケーション・ホラー」がポスターの惹句です。これでもう全部言っちゃってます。
きっかけが彼氏のトーマスが自分より注目されたから、というのですから始まりがもう。トーマスも変。自由だけど、知らんけど。
なんでそうなるの?まさかそこまで!と私など思ってしまうのですが、それは人生も黄昏時のおばちゃんだからで、今人生の真ん中をすごしている人には、程度の差こそあれ”共感”できるのかもしれません。綺麗になりたくて整形するのとは違って、ただただ人の目を引き、同情されたいがために、変わっていくシグネを警鐘としてくださいね。そっちへいかないこと。
新鋭クリストファー・ボルグリ監督はこれが2本目の長編。1作目は日本公開されていません。ほとんどホラーと言ってよさそうな作品ですが、画面が美しいのでベンジャミン・ローブ(撮影)の他の作品は?とググったら『アフター・ヤン』(2021)のカメラマンさんでした。(白)


2022年/ノルウェー・スウェーデン・デンマーク・フランス/カラー/シネスコ/97分
配給:クロックワークス
(C) Oslo Pictures / Garagefilm / Film I Vast 2022
https://klockworx-v.com/sickofmyself/
★2023年10月13日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 15:39| Comment(0) | ノルウェー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年05月15日

a-ha THE MOVIE    原題:A-HA: THE MOVIE

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© MOTLYS, FENRIS FILM, KINESCOPE FILM, NEUE IMPULS FILM 2021

監督:トマス・ロブサーム、アスラーグ・ホルム
製作:イングヴィ・セーテル、トマス・ロブサーム
脚本:トマス・ロブサーム
撮影:アスラーグ・ホルム
編集:ヒルデ・ビョルンスタット
出演:モートン・ハルケット、ポール・ワークター=サヴォイ、マグネ・フルホルメン

a-ha。
1982年にポール・ワークター=サヴォイ(ギター)、マグネ・フルホルメン(キーボード)、モートン・ハルケット(ボーカル)の3人によりノルウェー・オスロで結成されたシンセポップバンド。
1985年に革新的なMVが大きな話題を呼んだデビュー曲「テイク・オン・ミー」が米ビルボード1位を獲得。ノルウェーのアーティストとして初めての快挙。
ファーストアルバム「ハンティング・ハイ・アンド・ロウ」が全世界で1,100万枚以上のセールスを記録し、その後もヒット曲が次々に生み出されるが、栄光の影で次第にメンバーの間に溝が生まれていく。
本作は、3人の出会い、バンドの誕生、狂騒の80年代から90年代、解散、そして再結成を経て、いまも進化し続けるa-haの軌跡を追ったドキュメンタリー。

これほどの実績を持つのに、a-haの名前を知りませんでした。さすがに、「テイク・オン・ミー」の印象的な出だしは聴いたことがありました。「売れる曲には必ず耳に残る部分がある」と映画の中で語られていました。確かに! そんなa-haを知らなかった私にとっても、本作は興味深いドキュメンタリーでした。
アニメーションと写真で綴られる少年時代の3人のエピソード。ポールとマグネがボーカルを探していて、声がいい奴がいるとマグネがモートンに最初に会った時のこと。トランペット奏者だったマグネの父は飛行機事故で亡くなっているのですが、その飛行機が落ちるのをモートンが見ていたという偶然。でも、その時には、モートンはマグネとバンドを組むことになるとは思っていなかったそう。
その後、3人でバンドを結成するのですが、曲作りを巡っての意見の違いはしばしば。1985年以来のカメラマンも、3人一緒に撮るのを嫌がられることがあると証言しているほど。解散しても再結成という3人。「音楽を通した絆で一緒に入れた。友情じゃない」と言い切るところがまた凄い。
a-haに親しんできた方たちにとっても、素の彼らの姿をみることができて面白いこと間違いなし! (咲)


a-haの「テイク・オン・ミー」を聞くと今でも学生時代を思い出し、気持ちがアップテンポになってしまう。それなのに、実写とアニメーションが融合した斬新さが話題になったMVのこと、本作を観るまですっかり忘れていた。恥ずかしい… 
彼らがメジャーになるまでに経験した辛さ、「テイク・オン・ミー」で爆発的に売れたからこそ始まった苦労。インタビューを交えて丁寧に映し出します。“a-haのこと、実は何も知らなかったんだ”と気づかされつつ、彼らが過ごしてきた40年弱に自分もいろいろ経験してきたことを改めて振り返る。そうして、もう一度聴く「テイク・オン・ミー」は味わいが違っていました。(堀)


1960年代後半から1970年代中頃まではよくラジオを聴いていたのですが、「a-ha」の「テイク・オン・ミー」がヒットした1982年頃にはほとんど聴いていなかったせいなのか「a-ha」の名前は知っていたのに、曲はほとんど聴いたことがありませんでした。でもなんでだろう。「a-ha」という名前はよく聞いたのに。それでもルウェーからイギリスに行き、世界的なグループになったというところで、スージーQがやはり、アメリカからイギリスに行き世界的なロッカーになったというドキュメンタリーを観た後なので、1970年代から80年代に、世界の音楽を引っ張っていたのはイギリスの音楽シーンだったのかもしれないと思った。
それにしても、このところ1960年代から70年代、80年代の音楽シーンを描いたドキュメンタリーが次々と公開され、青春時代によく聴いた音楽の数々を懐かしく聴くことができ、また、当時は映像などほとんどなかったから、その頃の貴重な映像が残っていて、それを観ることができるのが嬉しい。そしてYouTubeでも観ることができるということを知った。40年も50年も前の映像が残っていて、今、観ることができるなんて嬉しすぎる(暁)。

2021 年/ノルウェー・ドイツ/112 分/16:9/ノルウェー語・英語・ドイツ語/5.1ch
日本語字幕:大嶋えいじ、幕監修:勝山かほる
配給:クロックワークス
公式サイト:https://klockworx-v.com/a-ha/
★2022年5月20日(金)新宿武蔵野館ほか全国ロードショー

posted by sakiko at 02:47| Comment(0) | ノルウェー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年10月10日

THE MOLE(ザ・モール) 原題:THE MOLE - UNDERCOVER IN NORTH KOREA

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(C)2020 Piraya Film I AS & Wingman Media ApS

監督:マッツ・ブリュガー(『誰がハマーショルドを殺したか』)
出演:ウルリク・ラーセン

10年前、ブリュガー監督のもとに、コペンハーゲン郊外在住の元料理人ウルリク・ラーセンからメールが届く。謎に満ちた独裁国家、北朝鮮の真実を暴くため、自ら潜入捜査するので、それを追ったドキュメンタリーを作ってほしいという。
コペンハーゲンの北朝鮮友好協会に入会したウルリクはたちまち信頼を得て、2012年に協会の一員として北朝鮮を初訪問。文化省の高官カンに迎えられ、北への貢献を称えるメダルを授与される。ウルリクは、現地でKFA(朝鮮親善協会)会長のスペイン人アレハンドロ・カオ・デ・ベノスと出会う。アレハンドロの信頼を得たウルリクは、翌年新設されたKFAデンマーク支部の代表に任命される。2015年、アレハンドロから、北朝鮮に関心がある投資家を探すよう命じられたことをウルリクから報告を受け、監督は、かつてフランス軍の外人部隊に所属していた“ジム”という男を、ミスター・ジェームズという偽の投資家役に起用する。ウルリクとジェームズは、北朝鮮が生産する武器や覚醒剤の違法取引に深く関わり、実態を暴き出していく・・・

マッツ・ブリュガー監督は、映画デビュー作『ザ・レッド・チャペル』(2009)で北朝鮮の怒りを買い、入国禁止になっていて、北朝鮮での撮影は、ウルリク自身の隠しカメラによるもの。よくぞ見つからずに撮影できたと驚きます。怪しまれたら、拘束されるのは必至の北朝鮮。
ウガンダに秘密工場を建設する話が進み、北朝鮮だけでなく、スペイン、ヨルダン、カンボジア・・・と、要人との打合せに飛ぶウルリクたち。2019年、これ以上の潜入は危険との監督の判断により二人は潜入から身を引きます。10年間のスパイ活動を妻に明かすウルリク。「存在が薄くなって、しっかりしてと言いたかった」と、夫がスパイだったとは全く気づいてなかった妻。
『クーリエ 最高機密の運び屋』(9月23日公開)でも、妻たちは夫のスパイ活動に気がついていませんでした。スパイたるもの、まずは家族を欺くことが肝心なのだと、長年、まったく家族に気づかれなかったことに感嘆するばかりです。それにしても、この映画を北朝鮮などの関係者が観て、ウルリクたちに危険が及ぶのではと心配になりました。(咲)



2020年/ノルウェー、デンマーク、イギリス、スウェーデン/135分/DCP/映倫区分G/
協力:NHKエンタープライズ 
配給:ツイン
(c)2020 Piraya Film I AS & Wingman Media ApS
公式サイト:https://themole-movie.com/
★2021年10月15日(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次公開

posted by sakiko at 18:53| Comment(0) | ノルウェー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする