2022年12月3日(土) シアター・イメージフォーラムにて公開 上映情報
16年の長きに渡り国外輸出禁止となっていた幻の衝撃作が
30年の時を経て再びスクリーンに
スロヴァキアの山岳地帯に暮らす老人たちが醸し出す生き様、
それぞれの人生模様が描き出される
脚本・監督:ドゥシャン・ハナーク
撮影監督: アロイス・ハヌーセク
音楽:G・F・ヘンデル ヴァーツラフ・ハーレク ヨゼフ・マコヴェツ
撮影協力: ヤン・シュヴァンマイエル
スティル写真:マルティン・マルティンチェク/ウラジミール・ヴァヴレク
『百年の夢』は1972年に完成していながら、当局により16年間もの間、輸出を禁止され、禁止解除後の1988年、フランスのニヨン国際映画祭グランプリを始め、ドイツのライプツィヒ国際映画祭ではドン・キホーテ賞と批評家賞を授与されるなど、世界各地の国際映画祭で上映され高く評価された。日本では1989年、第一回山形国際ドキュメンタリー映画祭で『老人の世界』の題名で上映された後、1992年に『百年の夢』の邦題で劇場公開。今回は新たにデジタル・リマスター版による公開になる。
老人たちの人生の年輪が刻まれた顔、顔、顔。
東ヨーロッパ、カルパチア山脈の東側、スロヴァキアの山岳地帯ファトラ山地で厳しい自然や孤独と闘いながら暮らす70歳以上老人たちの日常とその人生哲学が描きだされる。
農作業や羊飼いをして暮らす老人たちの日常生活と語りを丹念に描いた本作は、生と死についての黙想とでもいうような、哲学的世界をつくりあげている。
からくり人形作りに熱中する男性。事故で立って歩けず25年間、膝と手を使い、はいずりながら暮らしてきた男性。めんどりに聖書を読み聞かせる男性。結核を患い、納屋で50年暮らす農婦の姿は、彼女自身の葬儀の写真に連なる。内なる自由をいきいきと生きる彼らにとっての愛や家族、夢、労働や人生の意義とは…。
「人生にとって大切なことは?」という問いに、なんて答えたらいいかとか、さあねわからんと答えたり、知らない、忘れたと答える人がいる一方で、健康や平穏と答える人も。
マルティン・マルティンチェクによる老いと死を飾ることなく捉えたスティル写真の数々と動画とのコラボレーションで、このドキュ麺たち―は成り立っている。
スティル写真を提供したマルティン・マルティンチェク(1913年~2004年)は、誤った告発のために公の生活から姿を消し、弁護士から写真家へと転身した後、写真に情熱を傾け続けたスロヴァキアの伝説の写真家である。映画には彼による40枚の写真が使用され、老人たちの“ありのまま”の姿を映し出す。(公式HPより)
古い映像やスチール写真の中に描かれる老人たちの姿。50年以上前に撮影されているのだけど、なんとも味わい深い。日本にも、かつてこういう生活が山村にあったなと思いながら観た。最近、50年くらい前の映像をよく観るような気がする。音楽ドキュメンタリーもそうだし、こういう山村映画でも観るし、そんな前の映像が残っていて、今の時代に観ることができ、その時代を振り返ることができるなんて、あの時代には考えもしなかったでしょうね。それにしてもあのお爺さん,お婆さんたちの表情がいい。苦労したであろう人生を物語っていた(暁)。
公式㏋
1972年製作/スロヴァキア/モノクロ/67分
配給:パンドラ
後援:スロヴァキア共和国大使館
日本初公開:1992年5月23日
2022年12月03日
2022年07月31日
ウクライナから平和を叫ぶ~Peace to you All~(原題:Mir Vam)
監督・脚本・撮影:ユライ・ムラヴェツJr
出演:ユライ・ムラヴェツJr
15年4月、スロバキアの写真家ユライ・ムラヴェツJrは、ユーロマイダンの中心地だったウクライナ・キーフを出発、分離主義勢力が支配する東部のドネツクに向かう。分離主義勢力が支配する村を取材する彼に、戦争の悲しみと平和への望みを語る住民たち。クリフリク村最後の住民となった老婆は「プーチンに助けてほしい」と訴える。16年2月、ドネツクの情報省により入国禁止ジャーナリストとして登録された監督は、ドネツクには入国できなくなった。以後ウクライナ支配下の村やウクライナ-ドネツク紛争の最前線マリウポリでウクライナ側の人々を取材を開始する。
(C)All4films, s.r.o, Punkchart films, s.r.o., RTVS Rozhlas a televizia Slovenska
ユライ・ムラヴェツJr監督は、ドネツク側とウクライナ側の両方の住民に平等に話を聞いて記録してきました。ロシアと西欧にはさまれたウクライナは、親ロシア派と親欧米派に分断されて行きます。どちらにも組するわけではなく、ただただ平和であってほしいと願う住民もいます。国が荒れ、支えるべき住民が死んでしまうのに、なぜ戦争が繰り返されるのでしょうか?
両陣営に住む多くの人々の姿が紹介されています。前線に一人残された老女、離れて暮らす子どもを案じる母、スパイと疑われて逮捕された息子と理不尽な仕打ちに怒る母…手足を失った軍人や壊れかけた家を補修する人、ホームレスで飲酒がやめられない男性など。本作は6年前に完成したものですが、今年始まってしまったロシアのウクライナ軍事侵攻で都市部はさらに破壊され、映像にあった村のいくつかは消えてしまいました。
コロナ禍が終息せず、感染者数は増えるばかりの不安定な日常です。戦争の報道に胸が痛むと同時に、何が真実か、日本にいて何ができるのか頭がぐるぐるしてしまいますね。遠い国の話と思わずに、この貴重な映像をご覧ください。
ユライ・ムラヴェツJr監督にリモート取材ができました。(白)
インタビューはこちらです。
2016年/スロバキア /カラー/67分
配給:NEGA/配給協力:ポニーキャニオン
(C)All4films, s.r.o, Punkchart films, s.r.o., RTVS Rozhlas a televizia Slovenska
https://peacetoyouall.com/
★2022年8月6日(土)より渋谷ユーロスペースにてほか全国順次公開
2021年07月25日
アウシュヴィッツ・レポート 原題:Správa 英題:The Auschwitz Report
監督・脚本 ペテル・ベブヤク
共同脚本:トマーシュ・ボンビク
製作:ラスト・シェスターク
出演:ノエル・ツツォル、ペテル・オンドレイチカ、ジョン・ハナーほか
1944年4月、二人のスロバキア系ユダヤ人、アルフレート・ヴェツラーとヴァルター・ローゼンベルク(後に、ルドルフ・ヴルバに改名)は、アウシュヴィッツのビルケナウ・ナチス絶滅収容所から決死の思いで脱出する。
1942年に強制収容され、遺体の記録係をさせられていた二人は、毎日のように列車で運ばれてくるユダヤ人の多くがガス室で殺害されている実態を、なんとか世に伝えなければと脱走を決意したのだ。脱走11日目、ようやく国境を越え、スロバキアにたどり着いた二人は赤十字職員に救出される。接見した弁護士に脱走した経緯や壮絶な収容所のことを話すと、言葉を失った弁護士は二人にタイプライターを差し出し、実態をレポートとしてまとめるように伝える。収容所の内部やガス室の詳細などをまとめた「ヴルバ=ヴェツラー・レポート(通称アウシュヴィッツ・レポート)」は赤十字に提出される。赤十字職員ウォレンは自分たちが調査し見聞きしていた実態とかけ離れた信じがたい内容に驚くが、二人の話にようやく耳を傾けていく。二人の脱走から22日目のことだった・・・
二人の勇気ある行動のお陰で、12万人以上のハンガリー系ユダヤ人がアウシュヴィッツに強制移送されるのを免れました。この史実を、壮絶な強制収容所から私たちは体感することになります。
脱走を決意した二人は、まず、積み上げられた木材の下に隠れます。点呼で二人がいないことが発覚すると、同じ9号棟の収容者たちは二人が見つかるまで外で立たされます。(3日間が期限らしい) 隙間から収容者仲間がひどい目にあっているのを息を殺してみるしかない二人。木材が積み上げられて、脱出することができなくなるのではとハラハラ。こちらも息苦しくなりました。やっとの思いで、国境を越えますが、強制収容所の壮絶な実態をにわかには信じてもらえません。実態を詳細に記載したアウシュヴィッツ・レポートは、連合軍に報告され、結果、ハンガリー系ユダヤ人12万人を救ったのですが、なぜ彼らの故国スロバキアのユダヤ人でなくハンガリーだったのか? そして、なぜ、ほかの国にいたユダヤ人を救えなかったのか?と、残念でなりません。
それどころか、国家権力がナチスに加担した例も!
2021年8月27日公開の『ホロコーストの罪人』では、ノルウェーの秘密国家警察がホロコーストに加担していた事実が語られています。フランスでナチス占領下のビシー政権がユダヤ人狩りに加担していたことを描いた映画では、『サラの鍵』や『ある秘密』が印象に残っています。
思えば、今も、パレスチナやシリアをはじめ、世界のあちこちで虐げられている人たちを私たちは見て見ぬふりをしていることに気づきます。
本作から、ホロコーストは決して過去の問題ではないことを学ばないといけないのですが、国家権力者の無謀な行いを制することもできないでいることが悲しいです。(咲)
アカデミー賞(R)国際長編映画賞 スロバキア代表
2020 年/スロバキア・チェコ・ドイツ/94 分//英語・チェコ語・ポーランド語・スロバキア語・ドイツ語/カラー/シネスコ/5.1ch /PG12
日本語字幕:川又勝利.
配給:STAR CHANNEL MOVIES
公式サイト:https://auschwitz-report.com/
★2021年7月30日から東京・新宿武蔵野館ほか全国順次公開