2024年03月22日
ゴッドランド 原題:Vanskabte Land
監督・脚本:フリーヌル・パルマソン
出演:エリオット・クロセット・ホーヴ、イングヴァール・E・シーグルズソン、ヴィクトリア・カルメン・ゾンネ
デンマークの統治下に置かれていた19世紀後半のアイスランド。
キリスト教ルーテル派の若きデンマーク人牧師ルーカスは、司教の命を受け、植民地アイスランドに布教の旅に出る。最も重要な任務は、冬が到来する前に赴任先の辺境の村に教会を建てることだ。
通訳と数人のアイスランド人労働者を伴って船に乗ったルーカスは、目的地から遠く離れた浜辺に上陸する。そこから、大きな十字架や書物などを10頭ほどの馬に乗せ辺地の村を目指す。アイスランド語しか話さない年老いたガイドのラグナルとはことごとく対立する。増水した川の急流に行く手を阻まれ、ラグナルから引き返すべきだと助言を受けるが、ルーカスは渡ることを強行する。馬がバランスを崩し、十字架は川に流され、通訳もおぼれ死んでしまう。
険しい火山地帯や氷河湖を越え、やがて瀕死の状態で村にたどり着く。デンマークからの入植者のカールと、その二人の娘アンナとイーダの手厚い看護で元気を取り戻したルーカスは教会建設に取り組む。ようやく教会が完成しようとしたとき、事あるごとに対立してきたラグナルとの間で思いがけない悲劇が起こる・・・
そもそも布教という行為自体、人の感情につけ込む余計なものと思うのですが、このルーカスという牧師の傲慢さが最初から際立ちます。現地ガイドのラグナルとの対立は、通訳が死んでしまって、意思疎通ができなくなり、さらにエスカレートします。
険しい道中、ルーカスはこれはという場所で三脚を立てて写真を撮るのですが、実は、海路で僻地の村の近くまで行けたのに、未知のアイスランドの写真を撮りたいばかりに、陸路を選んだことが明かされます。険しい自然を知っておくべきというのも、一理ありますが。
冒頭、「アイスランドで発見された木箱にデンマーク牧師が撮った7枚の写真が入っていた。本作はこれらの写真にインスパイアされて製作された」と掲げられていますが、パルマソン監督による架空の設定。
アイスランドの壮大な風景が繰り広げられ、息を呑みます。傲慢な人間の行為が、その大自然のもとでは、あまりに情けなく思えます。(咲)
2022年/デンマーク、アイスランド、フランス、スウェーデン/デンマーク語、アイスランド語/143分
日本語字幕:古田由紀子
後援:駐日アイスランド大使館
配給:セテラ・インターナショナル
公式サイト:https://www.godland-jp.com/
★2024年3月30日(土) シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
2021年07月17日
最後にして最初の人類 原題:Last and First Men
監督・脚本・音楽 ヨハン・ヨハンソン
原作:オラフ・ステープルドン
ナレーション:ティルダ・スウィントン
20億年先の未来に生きる人類第18世代のひとりが、20世紀に生きる第1世代の私たちにテレパシーで語りかけてくる。奇怪なモニュメントの数々を背景に語られる壮大な叙事詩。
ヨハン・ヨハンソン(1969~2018)。
アイスランド出身で、クラシックと電子音を融合させた音楽スタイルで知られ、映画をはじめ舞台・コンテンポラリーダンスなど幅広いジャンルで活躍した作曲家。映画音楽では、『博士と彼女のセオリー』(2014/ジェームズ・マーシュ監督)でゴールデングローブ賞作曲賞を受賞し、大ヒットした『メッセージ』(2016/ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督)でも同賞にノミネート。世界的な注目を集めるようになったが、キャリア絶頂期にあった2018年2月9日にわずか48歳で急死。
『最後にして最初の人類』は、ヨハン・ヨハンソンが生前、最後に取り組んだ最初で最後の長編映画。原作は、英国の哲学者で作家オラフ・ステープルドンの「最後にして最初の人類」(1930/邦訳は絶版)。20世紀を代表するSF作家の一人であるアーサー・C・クラーク(「2001年宇宙の旅」)にも大きな影響を与えたといわれるSF小説の金字塔。
もともとシネマ・コンサートの形式で生上演されていたものがベースになっており、ヨハンソンが監督した16mmフィルムの映像をスクリーンに投影し、女優のティルダ・スウィントンが朗読を加え、ヨハンソンによるスコアをオーケストラが生演奏するというスタイル。ヨハンソンが亡くなった後、16mmフィルムの撮影監督を務めたシュトゥルラ・ブラント・グロヴレンを中心とした参加スタッフが、1本の長編映画として構成。ヨハンソンの死後2年を経て、2020年2月のベルリン国際映画祭でワールドプレミア上映。
20億年後の人は、私たちに何を語りかけようとしているのか・・・
ヨハン・ヨハンソンが、それを映像で表す背景に選んだのが、旧ユーゴスラビアに点在する「スポメニック」と呼ばれる巨大な戦争記念碑。第二次世界大戦の対ドイツ戦で犠牲となった人々を追悼し、社会主義の勝利をアピールするべく建設された石碑。奇怪なモニュメントからは、戦争の虚しさが伝わってくるようです。
まだユーゴスラビアだった1987年に、ドゥブロヴニク(現クロアチア)からアドリア海沿いにイタリアのトリエステに抜ける旅をしたことがあります。どのあたりだったか覚えていないのですが、美しい公園の中に、勇ましい兵士を中心にした戦争記念碑があって、ドキッとしたのを思い出しました。のどかで、絵のような風景の続くユーゴスラビアとあまりにもかけ離れたものに思えたのですが、そのほんの数年後に、国がばらばらになる戦争が起こってしまいました。人類の歴史は戦争の繰り返し。本作を見終わって、いつか自滅することを警告されたような気がしました。(咲)
2020年/アイスランド/英語/71分/DCP/ヨーロッパビスタ1.66:1/5.1ch
字幕翻訳:安藤里絵、字幕監修:浜口稔
配給:シンカ
公式サイト:https://synca.jp/johannsson/
★2021年7月23日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、シネマカリテ他全国ロードショー.