2021年06月20日

ジャーニー 太古アラビア半島での奇跡と戦いの物語   原題:The Journey

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監督:静野孔文 
脚本:冨岡淳広 
音楽:和田 薫 
キャラクター原案:岩元辰郎
エグゼクティブプロデューサー:イサム・ブカーリ 清水慎治 
プロダクションスーパーバイザー:サラ・モハンマド 
声の出演:古谷 徹 神谷浩史 中村悠一 中井和哉 三石琴乃 黒田崇矢

6世紀のアラビア半島。
商業で栄えるメッカの町を攻略しようと、エチオピア出身のアブラハが象の軍団を先頭に進軍してきた。メッカを治める長老ムッタリブは平和裏に解決しようと望むが、アブラハは「カアバの神殿と聖なる石の破壊」「信仰を捨てること」「奴隷になること」を要求。メッカの民は怒りに震え、戦うことを決意する。防衛隊に志願した青年アウスは、幼い頃、盗賊に両親を殺され自らは盗賊の手先となった過去があった。陶工ジュバイルに救われ養子となり、今はジュバイルの娘ヒンドと結婚し、息子ワハブにも恵まれている。この幸せを守ろうと剣を取る決意をしたのだ。小隊長ニザールのもとで、アウスはかつて同じ盗賊団にいたズララと再会する。メッカの軍隊のリーダー、ムサブは先手を打つため、アブラハの軍隊に代表戦を申し込む。アウスたちはメッカの町を守ることが出来るのか・・・


東映アニメーションの全面サポートで作られたサウジアラビア初のアニメーション映画。

本作の始まりは、2011年。東映アニメーションの清水慎治氏が、サウジアラビアに招かれ、ムハンマド・ビン・サルマーン皇太子(当時は皇子)と謁見した際、日本のゲームやアニメが好きな皇子より、いつかアニメを作ってほしいとの話が出たとのこと。
皇太子となった2017年、サウジアラビアに「マンガプロダクションズ」を設立し、東映アニメ―ションと共同制作協定を締結。本格的にプロジェクトが始動しました。
なお、サルマーン皇太子は、経済・ 社会改革の一環で、女性の自動車運転を認めるなど画期的な政策を打ち出していますが、35年ぶりに映画館も解禁しています。

サウジ側から日本側に寄せられたラフな脚本は3部作にするほどの壮大なもの。監督はアイディアをすべて入れ込みたいと、アブラハの進軍に対峙する中で、アウスたちが説話を思い出して勇気を奮い立たせるという形を取っています。
本筋のアブラハ軍との戦いは、いわゆる日本のアニメのスタイル。挿入される3つの説話は、絵のトーンを変え、音楽もアラブの伝統楽器を使うという工夫がされています。
本作を形成している4つの話について簡単に記しておきたいと思います。

アブラハと象の軍隊
「象章」と呼ばれるクルアーン105章に、「6世紀半ば、当時アラビア半島南部を支配していたキリスト教を奉ずるアビシニアの総督アブラハがカアバ神殿を破壊するために巨象を含む軍勢で来襲した」とあります。

ヌーフ(ノア)の方舟
有名な「ノアの方舟」は旧約聖書の創世記に登場する物語。アラビア語でノアはヌーフ。

ムーサ(モーゼ)の出エジプト記
こちらも有名な海が割れるモーゼの奇跡。
エジプトの王ファラオの弾圧からユダヤの民を救ったモーゼは、アラビア語でムーサ。

円柱のイラム
アラビア半島南部にあった伝説の都市イラム。巨人のアード族の王により建設された金銀宝石で飾りたてた天に伸びる宮殿があったとされます。強い権力・繁栄と共に堕落・傲慢さが表れ、神(アッラー)は預言者フードを遣わせ、信仰の大切さを説きますが、聞き入れなかった為、神により都市イラムは破壊されたと伝えられています。

本作はイスラーム創設前が舞台ですが、旧約聖書は、啓典の民(ユダヤ、キリスト教、イスラーム)にとって共通のもの。当時のアラビア半島で、ノアの方舟もモーゼの奇跡も、流布していたと思われます。イスラームができる前のメッカでは多神教を信じる者が多かったと聞きます。アウスやほかのメッカの人たちの信仰について言及されていませんが、彼らの神様は? 
なお、アラビア語で神はアッラー。キリスト教徒でアラビア語が話者の者にとっても、神はアッラーです。
本作は、「勇気を持ち闘い続けた者たちに新しい時代はすぐそこに」と結ばれます。預言者ムハンマドがイスラームを興すことを暗示していて、サルマーン皇太子が本作を教育用に作った思いを感じました。
共同製作により、サウジアラビアの人たちが観て、違和感を覚えないよう、アラブ人らしいしぐさで描くことにも注意を払ったそうです。サウジアラビアの子どもたちは、この映画をどんな風に受けとめたのでしょうか? 願わくば、アラビア語音声、日本語字幕で本作を観てみたいです。(咲)


サウジアラビア初のアニメーション映画とのこと。サウジアラビアの成り立ちや歴史を知らない日本の人たちにも、それが伝わる物語だったと思います。思い起こせば、私が聖書物語や旧約聖書を読んだのは50年以上前の小学生高学年の頃。宗教というのも良く知らない時に読んだので、この中に記された「モーゼの出エジプト記」にしても「ノアの方舟」にしてもキリスト教の中のことだと思っていたのだけど、この映画でキリスト教、イスラーム教、ユダヤ教にとって共通のものだったということを知った。今、旧約聖書を読んだら、きっと違う解釈ができるのかもしれない。
それにしてもアニメという形で、サウジアラビアの壮大な歴史を描くということを日本のアニメが担うという形を選んだというのがすごい。将来的には自国でそういう技術や知識を担う人材を育てたいという思いがあるのでしょう。濃い茶色を基本にした鮮やかな色の数々。その中でも赤茶色、アラブブルーとも言えそうな緑色と水色、灰色を混ぜたような、アラブらしい色使いが印象的でした(暁)。


2021年/サウジアラビア・日本/110分/5.1ch/ビスタサイズ/日本語吹き替え・英語字幕
製作:マンガプロダクションズ 東映アニメーション 
制作:マンガプロダクションズ 東映アニメーション 横浜アニメーションラボ アーチ  配給:東映アニメーション 配給協力:東映 宣伝:東映エージエンシー ©2021 マンガプロダクションズ
公式サイト:http://www.journey.toeiad.co.jp/
★2021年6月25日(金)より、東京・新宿バルト9、大阪・梅田ブルク7にて限定ロードショー
posted by sakiko at 02:02| Comment(0) | サウジアラビア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする