2023年04月23日

私、オルガ・ヘプナロヴァー  原題:Já, Olga Hepnarová 

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監督・脚本: トマーシュ・ヴァインレプ、ペトル・カズダ  
原作:「Ja, Olga Hepnarová」ロマン・ツィーレク 
撮影:アダム・スィコラ
編集:ヴォイチェフ・フリッチ  
美術:アレクサンドル・コザーク 
衣装:アネタ・グルニャーコヴァー
出演者: ミハリナ・オルシャニスカ、マリカ・ソポスカー、クラーラ・メリーシコヴァー、マルチン・ペフラート、マルタ・マズレク

チェコスロバキア最後の女性死刑囚オルガ 
彼女はなぜ無差別大量殺人を犯したのか?


広い邸宅。ベッドに横たわるオルガ。起こしにきた母に「学校に行きたくない」と不機嫌そうにいう。自分の殻に閉じこもり、本を読み日記をつけて過ごす日々。
オルガは精神安定剤を過剰摂取し自殺を図り、精神科の病院に入れられる。同性同士で戯れる姿や未成年者の喫煙に直面する。孤立するオルガは集団リンチを受ける。退院後、母から「誕生日祝いに何がいい?」と聞かれ、「家を出たい」と願う。森の中の小屋で暮らし、トラック運転手として働き始める。職場で出会った美しいイトカと親密な仲になるが、彼女には別の恋人がいて破局を迎える。自暴自棄になり精神的にも不安定になったオルガは、医師である母に相談するが、処方箋を渡されるだけ。酒場でミラという母親を殺してムショにいたという中年男に声をかけられる。彼といるとなぜか心が安らぐオルガ。それでもオルガの内なる怒りは収まらない。「資料として手紙を書く」と前置きして、オルガは自身の生い立ちと、人間関係を築けないこと、自分を虐待した人々に報復することなどを書き綴る・・・

1973 年 7 月 10 日、チェコスロヴァキアの首都プラハで、路面電車を待つ群衆の中にトラックで突っ込み、8 人を死亡させ、12 人を負傷させるという重罪を犯したオルガ・ヘプナロヴァーの実話に基づく映画。犯行前、22 歳のオルガは新聞社に犯行声明文を送っています。人々から受けた虐待に対する復讐として、自殺では報復にならないので、社会に罰を与えると宣言。死刑判決が出た時にも、死刑を受け入れ控訴しません。
銀行員の父と歯科医の母という裕福な家に生まれたオルガが、なぜここまで思い詰めるほど、疎外感を抱えたのでしょう・・・ 両親はそこまで我が子に無関心だったのでしょうか・・・ 1975 年 3 月 12 日にオルガはチェコスロバキア最後の女性死刑囚として絞首刑に処されています。死刑を待つ間、誰も面接に来なかったとありました。そこまで彼女を見捨てた家族って??? と呆然です。モノクロームの美しい映像に空しさがさらに募ります。(咲)


2016年/チェコ・ポーランド・スロバキア・フランス/チェコ語/105分/B&W/5.1ch/1:1.85
日本語字幕:上條葉月  字幕監修:ペトル・ホリー
提供:クレプスキュール フィルム  シネマ サクセション 
配給:クレプスキュール フィルム
公式サイト:http://olga.crepuscule-films.com/
★2023年4月29日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか順次公開
posted by sakiko at 13:52| Comment(0) | チェコ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年06月25日

マルケータ・ラザロヴァー(原題:Marketa Lazarova)

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監督・脚本:フランチシェク・ヴラーチル
原作:ヴラジスラフ・ヴァンチュラ
撮影:ベドジフ・バチュカ
美術・衣装:テオドール・ピステック
音楽:ズデニェク・リシュカ
出演:マグダ・ヴァーシャーリオヴァー(マルケータ)、フランチシェク・ヴェレツキー(ミコラーシュ)、ヨゼフ・ケムル(コズリーク)、ミハル・コジュフ(ラザル)、イヴァン・パルーフ(アダム)、パヴラ・ポラーシュコヴァー(アレクサンドラ)、ヴラスチミル・ハラペス(クリスティアン)

13世紀半ば、動乱のボヘミア王国。ロハーチェクの領主コズリークは、勇猛な騎士であると同時に残虐な盗賊でもあった。ある凍てつく冬の日、コズリークの息子ミコラーシュとアダムは遠征中の伯爵一行を襲撃し、伯爵の息子クリスティアンを捕虜として捕らえる。王は捕虜奪還とロハーチェク討伐を試み、元商人のピヴォを指揮官とする精鋭部隊を送る。
一方オボジシュテェの領主ラザルは、時にコズリーク一門の獲物を横取りしながらも豊かに暮らしていた。彼にはマルケータという、将来修道女になることを約束されている娘がいた。
ミコラーシュは王に対抗すべく同盟を組むことをラザルに持ちかけるが、ラザルはそれを拒否し王に協力する。ラザル一門に袋叩きにされたミコラーシュは、報復のため娘のマルケータを誘拐し、陵辱する。部族間の争いに巻き込まれ、過酷な状況下におかれたマルケータは次第にミコラーシュを愛し始めるが…

チェコの大作が55年を経て上映されることになりました。原作小説はベストセラーになったそうで、日本に歴史小説ファンがいるように、ヨーロッパでも混沌の中世歴史小説ファンがいるのでしょう。フランチシェク・ヴラーチル監督は、当時の衣食住を同じ材料同じ作り方で再現し、極寒の⼭奥で当時と同じように⽣活しながら548⽇間に渡って撮影したというから驚きです。どれだけ凝り性なのでしょ。モノクロのシネマスコープ画面の中で、俳優たちが近代文明をそぎ落とした表情で生きています。二度とない経験をしたに違いない。マルケータ役のマグダ・ヴァーシャーリオヴァーは撮影開始時はまだ10代のはず。女優さんの露出が多いので気になりました。
13世紀中ごろと言えば日本では鎌倉時代です。「鎌倉殿の13人」放映中ですが、ほぼ同じころ。東ヨーロッパでは、地続きの諸国が領地を取ったり取られたり戦国時代の様相です。女性の人権などなかったでしょう。マルケータの強い視線と、背後に流れる音楽が記憶に刻まれました。蛇足:伯爵の息子クリスティアンが『ロード・オブ・ザ・リング』のレゴラスみたいな美青年でした。(白)


1967年/チェコ/166分/モノクロ/シネマスコープ/モノラル/DCP/
配給・宣伝:ON VACATION/後援:チェコセンター東京
© 1967 The Czech Film Fund and Národní filmový archiv, Prague

公式サイト   http://marketalazarovajp.com/
公式Twitter   https://twitter.com/m_lazarovajp
公式facebook  https://www.facebook.com/marketalazarovajp
公式Instagram https://www.instagram.com/marketalazarovajp/

★2022年7月2日(土)、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
posted by shiraishi at 22:21| Comment(0) | チェコ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年04月18日

SNS 少女たちの10日間  原題:V siti

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監督:バーラ・ハルポヴァー、ヴィート・クルサーク
原案: ヴィート・クルサーク
出演:テレザ・チェジュカー、アネジュカ・ピタルトヴァー、サビナ・ドロウハー

偽のSNSアカウントで暴き出す少女たちの性被害の実態

巨大な撮影スタジオに作られた3つの子ども部屋。幼い顔立ちをした18歳以上の3人の女優たちが、10日間、その部屋でパソコンに向かって12歳の少女を演じる。
ルールは、7つ。
1.自分からは連絡しない
2.12歳であることをハッキリ告げる
3.誘惑や挑発はしない
4.露骨な性的指示は断る
5.何度も頼まれた時のみ裸の写真を送る *偽の合成写真
6.こちらから会う約束を持ちかけない
7.撮影中は現場にいる精神科医や弁護士などに相談する

SNSに写真と共に偽アカウントで登録すると、またたく間に大勢の男たちが群がってくる・・・

あどけない少女たちに、露骨にビデオセックスを要求したり、自身の性器を見せつけたりする男たち。
チェコでドキュメンタリーとしては異例の大ヒット。警察からも犯罪の証拠として、映像を要求されたそうです。

パソコンに映し出される部屋には、少女を演じた女優たちの子ども時代の私物も持ち込まれて、窓の外も3つの部屋それぞれ違うので、まさか同じ撮影スタジオだとは誰も思わないでしょう。
やらせといえば、やらせ。手法はどうかと思う面もありますが、未成年が危険な世界に誘われていく実態を暴き出しています。今やインターネットで簡単に見知らぬ人と繋がりのできる時代。情報もたやすく手に入れることができます。こんな時代に、どうすれば親は我が子を守ることができるのか・・・ 映画は警鐘を鳴らしてはいますが、答えは教えてくれません。子どもだけでなく、大人もまた、ネット社会で危険と隣り合わせだということを心しないといけないと思わせてくれました。(咲)


10代の少女に群がってくる成人男性たち。おぞましくて固まりました。この人たちも母親から産まれています。姉や妹や娘がいたりしないのでしょうか?自分の行為で相手の女性が傷つくなど1ミリも想像できないのでしょう。
ほかのスタッフもいて後のケアもあるとはいえ、この女の子役の女性たちのトラウマにならないとは言えません。いったん出した映像はいくらでも広まっていってしまいます。つきとめた男性の家にスタッフだけ行くならまだしも、女性も一緒なのに驚きました。実際は大人でも、彼女たちがその後どうなったのかが心配です。あのひどい男たちは処罰されたんでしょうか?
この映画で自分の認識も新たにしました。なんにでも手軽にアクセスできてしまうこの頃、被害者になることもあります。利用者が知らなかったでは済まされません。周知と厳しい規制を望みます。(白)


この問題はチェコだけのことではなく、日本でも同じなのでしょう。子どもたちが通った学校では学校では警察庁サイバー犯罪対策課から専門家を講師に招き、SNS を通じた出会いの危険性、スマートフォンやタブレットなどの使いすぎなどを子どもたちに伝える情報モラル教育が行われていました。社会人の長女は高校生のとき、7歳離れた次女は中学生のときに受けたと記憶していますから、それを必要としている子たちがどんどん低年齢化して、今は小学生が受ける時代なんですね。
一方で自分の子どもがいけないことをしている場合もあります。知り合いの娘さんの母校(女子校)に若い男性の先生が赴任したとき、在校生がそれをTwitterでつぶやき、繋がっている先輩へと伝播し、その中の誰かがその先生のアカウントを特定して、そこからその先生の写真が流出したそう。若い男性に興味がある気持ちはわからなくもないですが、やっぱりそれはいけないこと。SNSは諸刃の剣。好奇心で軽はずみな行動を取ることがないよう伝えることも大事だと思いました。(堀)


2020年/チェコ/チェコ語/5.1ch/ビスタサイズ/104分/R-15
字幕翻訳:小山 美穂
字幕監修:牧野ズザナ
配給:ハーク
配給協力:EACH TIME
公式サイト:http://www.hark3.com/sns-10days/
★2021年4月23日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、 新宿武蔵野館、池袋シネマ・ロサほか全国順次公開
posted by sakiko at 05:10| Comment(0) | チェコ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする