2024年12月07日
お坊さまと鉄砲 英題:The Monk and the Gun
監督・脚本:パオ・チョニン・ドルジ(『ブータン 山の教室』)
出演:タンディン・ワンチュック、ケルサン・チョジェ、タンディン・ソナム
製作:ステファニー・ライ(頼梵耘)
撮影:ジグメ・テンジン
出演:タンディン・ワンチュック、ケルサン・チョジェ、タンディン・ソナム
ブータンで行われる初めての選挙。村の徳の高いお坊さまは言いました。
「次の満月までに銃を二丁用意せよ」
若いお坊さまは銃を探しに山を下りるのですが・・・。
2006年、ブータン。国民に愛されている国王陛下が退位を表明され、民主主義体制へと移行することになる。総選挙で新しいリーダーを選ばなければならないが、ブータンでは選挙を実施したことがない。政府は模擬選挙を実施して、国民の理解を深めてもらうことにする。
周囲を山に囲まれたウラ村。山で瞑想修行中の高僧は模擬選挙の報を聞き、若い僧侶のタシに「次の満月までに銃を二丁手に入れてほしい」と指示する。戸惑うタシに、高僧は「物事を正さねばならん」と話す。
時を同じくして、アメリカから銃コレクターのロンがブータンにやって来る。ウラ村に住むペンジョーのところに昔の貴重な銃があると知ってのことだった・・・
世界の多くの国では、国民が命をかけて闘って、民主化を勝ち取ってきたのに、ブータンでは国王陛下が自主的に国民に民主主義を与えました。ところが、それまで平穏に暮らしてきたのに、選挙のせいで争いが起こるという本末転倒。
時同じくして、2006年には、テレビとインターネットがようやく導入されました。国民の幸福度ランキングで上位を占め、「世界一幸せな国」と知られていたブータンですが、ネット等で入ってくる情報のせいで他国と比較するようになり、幸福度ランキングが下落したそうです。
それでも、本作には、ブータンの人たちがお金よりも心を大事にするエピソードが描かれていて、ほっとさせられます。
さて、高僧は、銃二丁をなぜ求めたのでしょうか・・・
模擬選挙の結果にも、国王陛下を愛するブータンの人たちの思いを知って、微笑ましく思いました。 雑多な外の世界の情報に惑わされずにいてほしいと願いますが、もう遅い?(咲)
バンクーバー国際映画祭 観客賞
ローマ国際映画祭 審査員特別賞
ムンバイ映画祭 観客賞
トロムソ国際映画祭 平和映画賞
フリブール国際映画祭 観客賞
イルミネート映画祭ディレクターズチョイス 他
2023年/ブータン・フランス・アメリカ・台湾/ゾンカ語、英語/112分/カラー/2.39:1/5.1ch
字幕翻訳:川喜多綾子、 字幕監修:西田文信
配給:ザジフィルムズ、マクザム
後援:在東京ブータン王国名誉総領事館
公式サイト:https://www.maxam.jp/obousama/
★2024年12月13日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、 シネ・リーブル池袋ほか全国順次公開
2021年03月26日
ブータン 山の教室 英題:Lunana A Yak in the Classroom
監督・脚本 : パオ・チョニン・ドルジ
出演:シェラップ・ドルジ、ウゲン・ノルブ・へンドゥップ、ケルドン・ハモ・グルン、ペム・ザム 他
ブータンの首都ティンプー。ウゲン(シェラップ・ドルジ)は、教師になって4年。卒業後の義務期間は5年。あと1年教師を務めたらオーストラリアに行って歌手として活動したいと画策している。そんなある日、上司から標高4,800メートルの辺境の地ルナナの学校に赴任するよう告げられる。ラバでまず6日。その後は険しい山道を数日歩いて、ようやくルナナにたどり着く。電気もなく、携帯電話も通じない。黒板もなくて手作りする。町にいた時には、やる気のない教師と呆れられていたウゲンが、辺鄙なルナナで、目を輝かせて授業に臨んでくれる生徒たちに接して、教師らしくなっていく。やがて、山に初雪が降り、村長から今出ないと町に降りられなくなると言われる・・・
哀愁ある「ヤクに捧げる歌」が抜けるような青空に響きます。ヤクはブータンの人たちにとって家族であり財産。歌詞にはヤクへの思い、さらに自然や大地への感謝や仏教の輪廻転生も込められているそうです。
ウゲンが村長に「前世はヤク飼いだったかも」というと、「いえ、ヤクですよ」と言われます。ヤクは乳や着火剤となる糞を提供してくれる宝。ウゲンも大事な先生という意味なのでしょう。
本作は、写真家として活動してきたパオ・チョニン・ドルジの初監督作品。1999年にインターネットとテレビが解禁されて以来、ブータンの独自性がだんだん失われていくのを肌で感じ、伝統を忘れないでほしいという思いでこの映画を作ったとのこと。
1971年まで長年鎖国政策を取っていたブータン。1980年以降、国語(ゾンカ語)以外のすべての教科を英語で教える一方、公の場での民族衣装着用を義務付けています。国際化と伝統を守ることを国として取り組んでいることに感心します。電気もないルナナの小学校でも、ちゃんと英語で教えていて、さすがだと思いました。
ウゲンは子どもたちの為に教科書を取り寄せるのですが、歩いて何日もかかるところにもちゃんと届きます。
2012年3月開催の「第20回アース・ビジョン 地球環境映像祭」で上映されたブータンの『思いを運ぶ手紙』という映画を思い出しました。首都ティンプーから険しい山道を歩いて5日かかる標高3500mの村リンシに、26年間にわたって手紙を運び続けている郵便局員を追ったドキュメンタリーです。国として、どんな僻地も見捨てない姿勢を感じます。(咲)
何日もかけてやっとたどり着くような山あいの学校に赴任がきまって、不満だらけのウゲン先生。それでも村人総出で出迎えられて、何もない教室で新しい先生を期待いっぱいで待ち構える子どもたちに心が動いていきます。「先生は未来に触れる人だから、将来は先生になりたい」と尊敬のまなざしで見つめられたら、すぐにでも帰りたいと思った自分を恥じるしかありません。まるでドキュメンタリーのように見えますが、監督がそれまでに取材したエピソードを入れ込んだシナリオのある劇映画です。3人のメインキャラクター以外は皆村の人たち。
キラキラの目が印象的なペム・ザムは、本当に家庭が壊れてしまっていておばあちゃんに育てられているそうです。村から出たこともない子どもたちは、先生を通じて未来や外の世界を知るわけですから先生の責任は大きい!今回たくさんの機材を持ち込んだ撮影隊、どんなに興味津々で子どもたちが見つめたことでしょう。メイキングが観たいです。
「国民総幸福量」第1位と言われるブータンですが、都会に憧れる若い人が増えているのは、ほかと同じ。ウゲン先生と一緒に「自分の幸せは何か、どこにあるのか」と考えさせられます。いろいろ疲れているこのごろです。雄大なヒマラヤの風景、響き渡る人生や暮らしの歌、純朴な村人や子どもたち…と美しいものがいっぱいのこの作品に、ただただ癒されるのもお薦め。(白)
☆トークイベント@岩波ホール☆
下記の日程15:30の回上映後
4/3(土):パオ・チョニン・ドルジ監督
4/10(土):磯真理子さん(元ブータン政府観光局・マーケティング担当)
5/8(土):パオ・チョニン・ドルジ監督
*当日に変更・中止になることもございますので予めご了承ください。
*パオ監督はインターネットを繋いで登場する予定。
2019年/ブータン/ゾンカ語、英語/110分/シネスコ
日本語字幕:横井和子 字幕監修:西田文信
配給:ドマ
後援:在東京ブータン王国名誉総領事館 協力:日本ブータン友好協会
(c)2019 ALL RIGHTS RESERVED
公式サイト:http://bhutanclassroom.com/
★2021年4月3日(土)より、岩波ホール他にて全国順次公開!