2020年12月18日

この世界に残されて(原題:Akik maradtak) 

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監督・脚本:バルナバーシュ・トート
脚本: クララ・ムヒ
原作: ジュジャ・F・ヴァールコニ
撮影: マロシ・ガーボル
出演:カーロイ・ハイデュク、アビゲール・セーケ、マリ・ナジ、カタリン・シムコー、バルナバーシュ・ホルカイ

終戦後の1948年、ホロコーストを生き延びたものの、家族を喪い孤独の身となった16歳の少女クララ(アビゲール・セーケ)は、両親の代わりに保護者となった大叔母にも心を開かず、同級生にも馴染めずにいた。そんなある日、クララは寡黙な医師アルド(カーロイ・ハイデュク)に出会う。言葉をかわすうちに、彼の心に自分と同じ孤独を感じ取ったクララは父を慕うように懐き、アルドはクララを保護することで人生を再び取り戻そうとする。彼もまた、ホロコーストの犠牲者だったのだ。だが、スターリン率いるソ連がハンガリーで権力を掌握すると、再び世の中は不穏な空気に包まれ、二人の関係は、スキャンダラスな誤解を孕んでゆく。

ハンガリーはナチスドイツによって約56万人ものユダヤ人が虐殺されたと言われています。生き延びた人も家族を喪い、喪失感を抱えて生きていました。
クララもその1人。ホロコーストを生き延びたものの家族を喪い、大叔母と暮らしていました。精神的はショックが大きかったからでしょう、16歳になっても生理がこないため、産婦人科医のアルドの診察を受けます。悲しみで傷ついている心を守るために反抗という防護壁を張り巡らせるクララがアルドにだけは心を開くようになったのは女性同士でも話しにくい、センシティブな身体的問題を知られてしまったからかもしれません。原作の設定の巧みさに唸ります。互いの悲しみに共鳴するかのように結びついていく2人をカーロイ・ハイデュクとアビゲール・セーケが見る者も共感させるように演じました。
ところで、アルドの友人夫妻は子どもを喪いましたが、孤児を引き取り、前を向いて生きていこうとしていました。クララを育てる大叔母も親戚の子を引き取ろうと孤児院に行って、クララと出会ったのです。当時のハンガリーでは家族を喪った人たちが寄り添って家族になっていったのでしょう。支え合ってこそ、人は生きていける。このことを改めて感じさせてくれる作品です。
クララを演じたアビゲール・セーケは映画初主演となる本作で2020年ハンガリー映画批評家賞最優秀主演女優賞を受賞。また、2020年ベルリン国際映画祭開幕中にバラエティ誌が選ぶ「ヨーロッパの注目映画人10人」に選出されました。アルドを演じたのはハンガリーを代表する名優カーロイ・ハイデュク。寡黙ながらふとした仕草やまなざしに深い思いやりを感じさせる繊細な演技で、2020年ハンガリーアカデミー賞最優秀男優賞、2020年ハンガリー映画批評家賞最優秀主演男優賞を受賞しました。(堀)


プレス資料の監督インタビューによれば、心理学者である女性ジュジャ・F・ヴァールコニによる原作小説「Férfiidők lányregénye」は、ハンガリー語で「ある男の時間についての少女の小説」という意味とのこと。10代の女性の視点で語られる「ある男の時間」は、ホロコーストや、1940年後半から1950年前半のハンガリーの暗い時代を指しているそうです。
ホロコーストを生き延びたものの、東の国々にいた人たちは、さらに試練の日々を過ごしていたことが推し量れます。スターリンが亡くなったとの報に、「やった~! これですべて変わる!」と叫ぶ場面がありました。一人の支配者が、これほどまでに多くの人の暮らしに影を落としていたとは・・・
10代半ばで両親を失ったクララ。叔母に引き取られたものの、本も読まない叔母のことは、マッシュポテトにバターを入れないといった小さなことまで気に入らないのです。そんな中で医師アルドに父のような安らぎを感じるクララ。
ホロコ―ストを生き延びた人たちが、お互い、家族を失った心の穴を埋めるように寄りそう姿が静かに描かれた素敵な作品です。(咲)


2019年/88分/G/ハンガリー
配給:シンカ
©Inforg-M&M Film 2019
公式サイト:https://synca.jp/konosekai/
★2020年12月18日(金)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開
posted by ほりきみき at 12:22| Comment(0) | ハンガリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする