2024年06月23日
ふたごのユーとミー 忘れられない夏(原題:You & Me & Me)
監督・脚本:ワンウェーウ & ウェーウワン・ホンウィワット
製作:バンジョン・ピサンタナクーン
出演:ティティヤー・ジラポーンシン (ユー/ミー) アンソニー・ブイサレー (マーク)
一卵性双子のユーとミーは生まれたときからずっと一緒、何でも分け合い育ってきた。中学生になった今は、レストランの食べ放題や観たい映画をちゃっかり一人分の料金で楽しんでいる。違いはミーの頬にあるホクロ。ユーが苦手な数学の追試は、得意なミーがホクロを消して受けてきた。ところがこの追試で、ハーフの素敵な男の子マークと知り合い仲良くなった。これまで隠しごとなく、どんなことも打ち明けてきた一番の仲良しの2人に、初めてシェアできない“感情”が芽生えてしまった。
1999年が舞台の物語。「ノストラダムスの大予言」や「Y2K問題」で揺れていたのを思い出します。いつも屈託ない姉妹ですが、不仲の両親や自分たちの将来も実は不安です。長編映画デビューの姉妹監督は一卵性双子。もしも見分けがつかないほどそっくりだったら「やってみたいこと」を、映画館やレストランで実践して見せてくれて大いに笑えます。しょっちゅうやったらばれますよね。監督姉妹も試したことがあったのでしょうか?
驚くのは、ユーとミーを演じたのが双子ではなく、ティティヤー・ジラポーンシンの「一人二役」だったことです。それまで演技経験がなかったのに大抜擢されて、この難役です。見た目そっくりでも積極的なミーと堅実なユーの性格も演じ分け、タイ映画監督協会賞の最優秀新人女優賞を受賞しています。ほのぼのしてちょっと胸キュンな青春ストーリー。(白)
2023年/タイ/カラー/122分
字幕翻訳 : 宮崎香奈子 字幕監修 : 高杉美和
配給・宣伝 : リアリーライクフィルムズ
後援 : タイ王国大使館・タイ国政府観光庁
(c)2023 GDH 559 Co., Ltd. All Rights Reserved / ReallyLikeFilms
www.reallylikefilms.com/futago
★2024年6月28日(金)よりより新宿ピカデリーほかにて全国ロードショー
2023年08月20日
卒業 Tell the World I Love You
監督:脚本:ポット・アーノン
撮影:ティワ・モエイサイソン
音楽:ジャイアント・ウェーブ
出演:スラデット・ピニワット(ケン)、タナポン・スクムパンタナーサーン(ボン)、シラホップ・マニティクン(タイ)、クナティップ・ピンプラダブ(ニック)
高校生のケンは母親と生き別れ、身寄りがなく同級生のタイの家に居候中。タイの兄は食堂を切り盛りして弟を養っている。成績優秀なケンは、奨学金で中国留学し、母親を探すつもりだ。たまたま数人に囲まれて袋叩きにあっている青年を助けた。薬の密売組織から足を洗いたいボンが制裁を受けていたところで、逃げるのに手を貸したケンも一緒に追われる羽目になってしまった。タイの家にも追手がやってきて、店をめちゃめちゃにしていった。タイに迷惑をかけたことを詫び、ケンはボンの元へいく。ボンとケンは、ボンの祖母の家に隠れ住むことにした。留学資格試験のために登校したケンは見張っていた密売組織に捕まり、大けがを負ってしまう。
タイの青春ものには欠かせない綺麗な男の子たちがたくさん登場します。ケンは顔も頭も良くて、モテモテ。しかし好いた好かれたの甘いBLものではなく、密売組織や貧困、学校でのいじめなど社会問題も盛りこまれています。高校生にこんなに問題が降りかかっていいのか、と思ってしまうのは、ぬるま湯の日本に慣れてしまっているせいかも。
ケンに頼ってほしいタイですが、自分も兄に養われている身。ケンがボンと親しくなって行くのを歯がみしつつ見守っています。ケンを目の敵にするニックもハンサムで、タイは美男美女率が高いのでしょうか??この長さに、都会や郊外の村の生活のようすに加えて、銃撃戦やカーチェイスまで入っています。3人それぞれの思いがどう帰結するのか、スクリーンでご覧ください。(白)
男の子たちも綺麗がいっぱいですが、監督がこだわったのが、バンコクの街の美しさ。チャオプラヤー川や、大きな仏像がさりげなく背景に映し出されています。追っ手が、ケンたちの潜むボンの祖母の家にもやってくるのですが、お祖母ちゃんは追っ手4人を家の中に招き入れた上に、お茶まで出すのです。狭いところに密着して隠れているケンとボン、ひそひそ話すのでハラハラ。 監督が2016年にメガホンをとったコメディ映画『Joking Jazz 4G(原題)』はその年のタイ国内興行収入1位の大ヒット。コメディ映画を期待していた観客へのサービス場面!? (咲)
2022年/タイ/カラー/シネスコ/107分
配給:ギャガ
(C)2021 FLIM GURU CO. LTD. ALL RIGHTS RESERVED.
https://gaga.ne.jp/telltheworldiloveyou/
★2023年8月25日(金)ロードショー
2022年07月31日
プアン/友だちと呼ばせて(原題:One For The Road)
監督:バズ・プーンピリヤ
脚本:バズ・プーンピリヤ、ノタポン・ブンプラコープ、ブァンソイ・アックソーンサワーン
出演:トー・タナポップ アイス・ナッタラット プローイ・ホーワン ヌン・シラパン ヴィオーレット・ウォーティア AND オークベープ・チュティモン
ニューヨークでバーを経営するボスのもとに、タイで暮らすウードから数年ぶりに電話が入る。 白血病で余命宣告を受けたので、最期の頼みを聞いてほしいというのだ。バンコクに駆けつけたボスが頼まれたのは、 元カノたちを訪ねる旅の運転手。カーステレオのカセットテープから流れる思い出の曲が、二人がまだ親友だった頃の記憶を呼びさます。 かつて輝いていた恋への心残りに決着をつけ、ボスのオリジナルカクテルで、この旅を仕上げるはずだった。 だが、ウードがボスの過去も未来も書き換える〈ある秘密〉を打ち明ける──。
死期が迫った男性が別れた元カノに返したいものを渡すために会いに行く。男性とのことはすでに過去で、自分の人生を生きている女性側からすればいい迷惑だろうなと思っていたら、案の定。男性は夢見がちで、女性は現実的といわれるが、その違いが明確に表現されていて、さすがにちょっと男性がかわいそうに思えてきたとき、この旅の本当の意味が見えてくる。過去の恋愛のお詫び行脚は彼の本当の思いを隠す言い訳に過ぎなかったとは!
人は死を目の前にすると人生で後悔していることをいろいろ思い出すものなのかもしれない。さて、私はどうなんだろう。何を後悔し、それをどうやり直したくなるのか。そして、それをすることは相手を傷つける自己満足に過ぎなかったりしないだろうか。
登場人物たちの倍くらい生きているから、人生でやり残したままのことをどう決着つけるのか、そろそろ考えておいたほうがいいかもとこの作品を見ていたら思えてきた。
ところで、この作品、いろいろなカクテルが登場する。どれも色合いが素敵で、アルコールが飲めない私でさえ、ちょっと飲んでみたくなる。ノスタルジックな風景とこのカクテルを見ているとタイに行きたくなってしまうかもしれません。(堀)
2021年/タイ/2021年/カラー/シネスコ/5.1chデジタル/129分
配給:ギャガ
(c)2021 Jet Tone Contents Inc. All Rights Reserved.
公式サイト:https://gaga.ne.jp/puan/
★2022年8月5日(金)新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、渋谷シネクイントほか全国順次公開
2020年12月08日
ハッピー・オールド・イヤー(原題:ฮาวทูทิ้ง..ทิ้งอย่างไรไม่ให้เหลือเธอ英題:Happy Old Year)
監督・脚本・プロデューサー:ナワポン・タムロンラタナリット
撮影監督:ニラモン・ロス
編集:チョンラシット・ウパニキット
ラインプロデューサー・衣装デザイン:パッチャリン・スラワッタナーポーン
音楽:ジャイテープ・ラールンジャイ
出演:チュティモン・ジョンジャルーンスックジン、サニー・スワンメーターノン、サリカー・サートシンスパー、ティラワット・ゴーサワン、パッチャー・キットチャイジャルーン、アパシリ・チャンタラッサミー
第15回大阪アジアン映画祭 グランプリ(最優秀作品賞)
第49回ロッテルダム国際映画祭 Voices Main Programme選出
第10回北京国際映画祭 パノラマ部門正式出品
第25回釜山国際映画祭 A Window on Asian Cinema正式出品
第14回アジア・フィルム・アワード 主演女優賞・衣装デザイン賞ノミネート
タイ・バンコク。スウェーデンに留学していたデザイナーのジーンは、帰国後、母と兄のジェーと3人で暮らす自宅のリフォームを思い立つ。かつて父が営んでいた音楽教室兼自宅の小さなビルを、北欧で出会った“ミニマルスタイル”なデザイン事務所にしようというのだ。しかし、ネットで自作の服を販売する兄は“ミニマルスタイル”をよく分かっておらず、母はリフォームそのものに大反対!内装屋の親友・ピンクには、年内中に家を空っぽにするよう諭されるが、残された時間は1ヶ月弱…。
家じゅうに溢れかえるモノを片っ端から捨てて “断捨離”をスタートさせるジーン。image雑誌や本、CDを捨て、友人から借りたままだったピアス、レコード、楽器を返して回る。しかし、元恋人エムのカメラ、そして、出て行った父が残したグランドピアノは捨てられず…。いよいよ年の瀬。果たしてジーンはすべてを断捨離し、新たな気持ちで新年を迎えることが出来るのか?
ジーンがイメージする空間は白が基調になっていて、物が極力排除されてとてもシンプル。確かにこんな部屋に暮らしてみたい。しかし、思い切った断捨離は家族や友人の反感を買うことも。すごく欲しがっていたからプレゼントしたものを、もういらないとあっさりゴミ箱行きにされたら、いい気持ちはしないだろう。また断捨離した人には思い入れがなくても、一緒に暮らす家族にとっては大切なものもある。
私ははっきりいって片づけが苦手。もしかしたら何かで使うかもしれないと、何でもかんでも取って置くところがある。作品を見ていると断捨離もほどほどが大事だと伝わってきて、物を処分できない私を肯定してくれたような気持ちになれた。もちろん物を溜めておくのもほどほどにしておくべきですけれど。。。(堀)
チュティモンはデビュー作『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』の天才女子高生が印象的でした。モデルから女優になった人なので、今度の作品のすっきりした立ち姿や着こなしに片鱗が見えます。日本のナチュラル系ファッション誌に出てきそう。
どんどん捨てるジーンでも、大事な人や思い出に繋がるものは捨てにくい。クールに見えた彼女にもそんな面があり、共感を呼びます。
転勤族だったころ2,3年に一度は引っ越し、そのたびに不用品を処分しました。動かなくなったら貯まるのは皮下脂肪と同じ。元々あまりない管理能力を越えると、どこに何があるか把握できず探し物が増える→見つからなくて買う→出てくる→モノが増える。さすがに反省して、自分でリミットを決めました。ほんとに実行できるかが問題。(白)
『ハッピー・オールド・イヤー』を3月の大阪アジアン映画祭で見逃し、グランプリを取ったと聞いて残念に思っていたけど、日本公開が決まって嬉しかった。ナワポン・タムロンラタナリット監督のことは2016年の大阪アジア映画祭『フリーランス』という作品で知った(シネマジャーナル97号で紹介)。これは4日間徹夜仕事をしていたフリーのグラフィックデザイナーの男が病を発症するというような物語だった。主人公を、この作品の主人公ジーンの元恋人役を演じていたサニー・スワンメーターノンが演じていた。
『ハッピー・オールド・イヤー』の主人公もデザイナーで、実家を理想的な事務所にするため、母親の反対を押し切って、モノにあふれた家の“断捨離”を進めてしまう。こだわりなく一度は全てを手放そうとした彼女だったけど、洋服やCD、楽器など捨ててさっぱりするつもりだったのに、友人から借りたままだったモノを返して廻ることになってしまった。友達の反応は千差万別。最初の友達は返してほしいといったけど、ほかの友達は「いまさら」というような反応。なんだかすっぱりと断ち切れなくなってしまった。かつての恋人エム(サニー・スワンメーターノン)から借りたカメラを見つけ、宅急便で送ったけど受け取り拒否で返ってきた。なかなか“断捨離”は進まない。それにしても、贈られたものを返すというようなことは日本では考えられないと思った。タイではそういうのは普通にあるのだろうか。これを観ながら、文化の違いというのも考えた。我が家も大掛かりな“断捨離が必要なんだけど、減るどころか増えるばかり。思い切った策が必要ですね(暁)。
2019年/タイ/1:1.5/113分
配給:ザジフィルムズ、マクザム
(c) 2019 GDH 559 Co., Ltd.
公式サイト:http://www.zaziefilms.com/happyoldyear/
★2020年12月11日(金)シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー
2020年11月12日
THE CAVE サッカー少年救出までの18日間 原題:นางนอน(ナンノン)英題:The Cave
監督・脚本・製作:トム・ウォーラー
出演:
ジム(本人):ジム・ウォーニー
コーチ:エクワット・ニラトウォラパンヤー
ボア:ジュンパー・センプロム
プーヤイ:ノパドン・ニヨムカ
エリック(本人):エリック・ブラウン
タン(本人):タン・シャオロン
救急看護師:マギー=アーパー・パーウィライ
2018年6月23日、タイ北部。
地元サッカーチームの少年たちは練習を終え、チームメイトの誕生日を祝うため、チェンライのタムルアン洞窟に遊びにいく。豪雨で洞窟内の水位が急に上がり、洞窟の奥深くに閉じ込められてしまう。そのニュースは瞬く間に世界に広がり、少年たちを救出しようとタイ警察、タイ海軍殊部隊(ネイビーシールズ)や米英豪などの軍隊、そして世界中から経験豊富なケイブ・ダイバーが集結する・・・
2年前のことですが、今も記憶に新しい救出劇。
洞窟入口から4キロも離れた地点でコーチと少年たちが発見されたのは、遭難から9日も経ってのことでした。そして、事故発生から18日目に奇跡的に全員救出! タイ人ダイバーが酸素不足で亡くなるという悲劇もあったことを映画を観て思い出しました。
タイらしいなと思ったのは、伝説の馬番をしていた少年の生まれ変わりという僧侶が駆けつけて、家族や地元の人たちと洞窟の入口で祈り続けた姿。ナンノンの女神を祈る優雅な踊りも登場します。
洞窟から大量の水を排出したために冠水してしまった田んぼの持ち主の女性が、「補償金はいらない、そのお金で少年たちを救って」と言うのも、信心深い仏教徒らしいと思いました。
冒頭、「数名は本人が演じている」と掲げられていて、この補償金を断ったのも本人。
一番印象深かったのが、自社で製造したPVCターボジェットポンプをトラックに積んで遠方から駆け付けたニヨムカ・マリンエンジニアリング社の創業者ノパドン・ニヨムカ。劇中ではプーヤイの名前になっています。在庫がないので、納品先に依頼してポンプをかき集めて持参したのに、洞窟に入る許可がなかなかおりなかった無念な思いを再現しています。
洞窟潜水の専門家で、アイルランドから駆け付け先頭を切って救出に活躍したジム・ウォーニーもご本人。
トム・ウォーラー監督は、タイ・バンコク出身ですが、父はカトリック教徒のアイルランド人で母は仏教徒のタイ人。アイルランドとの縁も、この映画を作る原動力だったのでしょうか。(咲)
ニュースでこの事件を知ったとき、18日ぶりに救出されたという日数に驚いたのですが、ダイバーが潜って助けに行く危険性についてはまったく思いが及びませんでした。この作品を見て、その救出活動がどれほど危険なものだったのか、改めて知ることができました。救出活動に従事した世界各地から集まったダイバーのみなさんに頭が下がる思いです。
その一方で、(咲)さんが書いているように、ターボジェットポンプをトラックに積んで遠方から駆け付けた人がいたのになかなか許可が下りなくて、使ってもらえなかった事実にお役所仕事の緩慢さはどこの国も同じなのかしらと思ってしまったり。でも田畑が冠水した補償金は救助が終わらぬうちに支給手配が始まったことには、日本とは違う迅速さを感じたり。映画は楽しむだけでなく、いろいろなことを知る機会なのですね。(堀)
実際起こった事件の救出劇をこのところ続けて観た。1本はチリ鉱山の落盤事故で地中深くに閉じ込められた33人の救出劇を描いた『チリ33人 希望の軌跡』(パトリシア・リゲン監督)。これは2010年に起きた「コピアポ鉱山落盤事故」を題材にしている。もう1本は2018年に中国で起きた飛行機事故を映画化した『フライト・キャプテン 高度1万メートル、奇跡の実話』(アンドリュー・ラウ監督)。これは高度1万メートルで飛行機前面の窓ガラスが割れた事故を元にしている。そして一番最近観たのがこの作品『THE CAVE サッカー少年救出までの18日間』。いずれも無事に救出されたから結果はわかって観ているのだけど、観ている最中はハラハラドキドキ。こういう映画が作られるというのは、人間ってハラハラドキドキが好きなのか。この1,2ヶ月の間に続けて観たのでそう思った。心臓に良くないと思いながらも観てしまう。助かってよかったねと思う。そしてニュースでは伝わってこなかったいろいろな事を知る。こんなにもたくさんの国の人たちが救出に加わっていたというのは知らなかった。それにタイの人たちの暖かさ、人情も伝わってきた(暁)。
2019年/タイ・アイルランド/英語・タイ語/104分
配給:コムストック・グループ+WOWOW
配給協力:REGENTS
公式サイト:http://cave18.jp/
★2020年11月13日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー