2024年07月21日

お隣さんはヒトラー?  原題:My Neighbor Adolf

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(C)2022 All rights resrved to 2-Team Productions (2004) Ltd and Film Produkcja

監督:レオン・プルドフスキー
音楽:ウカシュ・タルゴシュ
出演:デヴィッド・ヘイマン、ウド・キア、オリヴィア・シルハヴィ

1960年、南米・コロンビア。人里離れた地に建つ2軒の古びた家。そのうちの1軒で暮らすポーランド系ユダヤ人のポルスキー。ホロコーストで家族を失い、ただ一人生き延びた彼にとって、妻が好きだった黒薔薇を育てるのが唯一の慰めだった。そんなある日、隣家にドイツ人のヘルツォークが越してくる。彼の飼い犬に黒薔薇をへし折られ、怒り心頭のポルスキーは文句を言いにいくが、間近で見た隣人は56歳で死んだはずのアドルフ・ヒトラーに酷似していた。ユダヤ人団体に出向いて隣人はヒトラーだと訴えるが信じてもらえない。カメラを購入し、証拠を掴もうと監視を始める。庭で絵を描く姿をみて、正体を暴こうと筆跡を手に入れようとしたことから、二人はチェスを指す仲になる。二人の距離が縮まったころ、ポルスキーはヘルツォークがヒトラーだと確信する場面を目撃してしまう…。

アルゼンチンで逃亡生活を続けていたアドルフ・アイヒマンが拘束されたという新聞記事が映し出されて、ヒトラーの南米逃亡説もほんとうかも?と思わせる導入部分が出色です。
敷地の境界線が間違っていて黒薔薇が植えてあるのは、隣家の敷地だといわれ、塀の位置が変えられてしまって、黒薔薇に水をやるには塀を越えなければならなくなるというあたりから、思わず笑わせられます。さらに、チェスを指したり、肖像画を描いてもらったりの仲になって、恨むべきヒトラーではと疑う人とそんな関係に?と。
ブラックユーモア満載ですが、戦争に翻弄された人たちの人生にほろりとさせられました。(咲)


2022年/イスラエル・ポーランド/英語・独語・スペイン語・ヘブライ語/96分/シネマスコープ/カラー/5.1ch
字幕翻訳:長澤達也.
配給:STAR CHANNEL MOVIES
公式サイト:https://hitler-movie.com/
★2024年7月26日(金)より新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国公開




posted by sakiko at 04:25| Comment(0) | イスラエル | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年09月03日

6月0日 アイヒマンが処刑された日    原題:JUNE ZERO

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(C)THE OVEN FILM PRODUCTION LIMITED PARTERNSHIP


監督:ジェイク・パルトロウ
脚本:トム・ショヴァル、ジェイク・パルトロウ
出演:ノアム・オヴァディア、 ツァヒ・グラッド 、ヨアブ・レビ、トム・ハジ、アミ・スモラチク、ジョイ・リーガー

第二次世界大戦下、ユダヤ人を強制収容所に送り込み抹殺する計画立案者だったナチス・ドイツのアドルフ・アイヒマン。戦争捕虜収容所から脱走しアルゼンチンに潜伏していたが、1960年にイスラエル秘密諜報機関(モサド)によりイスラエルに極秘連行された。裁判の末、61年12月に死刑判決が下り、翌年5月31日から6月1日の真夜中《イスラエル国家が死刑を行使する唯一の時間》の“6月0日”、絞首刑に処された。遺体は火葬され、遺灰はイスラエル海域外に撒かれた。
実は、人口の9割がユダヤ教徒とイスラム教徒であるイスラエルでは律法により火葬が禁止されており、火葬設備が存在しない。では、誰が、どうやってアイヒマンの遺体を火葬したのか? 本作は、遺体処理の極秘プロジェクトに巻き込まれた人々の物語。

リビアから一家で移民してきたダヴィッド少年。父に連れられて町はずれの鉄工所へ向かう。ゼブコ社長が炉の中に入って掃除ができる小柄な少年を探していたのだ。折しも、ゼブコの戦友で刑務官のハイムが、アウシュビッツで使われたトプフ商会の小型焼却炉の設計図片手に、極秘プロジェクトを持ち込んでくる。燃やすのはアイヒマンだという・・・

火葬を禁止された国で、火葬に処したという話にゾクゾク。そして、イスラエル国家が1948年に建国されてから、10年ちょっと過ぎた時代の状況に興味津々でした。
ダヴィッドの家族は、1年前にリビアから移民してきたユダヤ人。父親はアラビア語で息子たちに話しかけていて、ヘブライ語はたどたどしく、ダヴィッドが手助けしています。父親は戦争中、リビアでナチスの収容所に入れられています。
ダヴィッドがゼブコ社長に連れられてイエメン人の工場に行きますが、イスラエル建国後にイエメンから移民してきた人たちでしょう。
アイヒマンの看守は、モロッコ出身のユダヤ人。「ホロコーストを経験している東欧系のユダヤ人は、感情的になるからナチスの警備には当たらせない。中東と北アフリカ出身ならOK」と語っています。
イスラエル建国後、各地のユダヤ人が移民しましたが、その中には、「イスラエルはいいところだ」と先に移民した人から誘われて来たものの、中東・北アフリカ出身のユダヤ人は、ヨーロッパ系のユダヤ人から下に見られる傾向があって、騙されたと感じた人も多いようです。(北朝鮮への帰国事業に似ている??)
アイヒマンの髪を整えにきた床屋は、イスラエル中央部の町クファル・サバ生まれのトルコ人。3世代目なので、オスマン帝国時代から住むトルコ人。
アイヒマンの犯罪を立証するチームに参加していたポーランド出身のミハは、アイヒマンの裁判後、初めて自身が暮らしていたゲットーを訪れます。ゲットーツアーのトライアルで、参加者たちに聖書を燃やすことが仕事だったと苦し気に語ります。一方で、自分たちの苦しみを忘れないことを強制してほしくないという思いもよぎるのです。
アイヒマンの処刑を通じて、様々な立場の人たちの思いを考えさせられました。(咲)


2022年/イスラエル・アメリカ/ヘブライ語/105分/ヨーロピアン・ビスタ/カラー
日本語字幕:齋藤敦子
配給:東京テアトル
宣伝:ロングライド
公式サイト:http://rokugatsuzeronichi.com/
★2023年9月8日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開

posted by sakiko at 11:34| Comment(0) | イスラエル | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年06月26日

パレスチナのピアニスト   原題:The Pianist from Ramallah

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監督:アヴィダ・リヴニー
プロデューサー:エイタン・エヴァン、ウディ・ザンバーグ
撮影:ネイエフ・ハムド 
編集:ニリ・フェラー

2003 年ロシア、サラトフ生まれのモハメド・“ミシャ”・アーシェイクは才能ある10代のピアニスト。父はパレスチナ人、母はロシア人。パレスチナ西岸地区ラマッラで暮らしている。10 歳の頃、エルサレムのマニフィカト音楽院でエマ・スピトコフスキーに師事し、ピアノを始め、3 年後の 13 歳の頃、2016 年ビリャエルモサ国際ピアノコンクール(メキシコ)で優勝。将来はプロのピアニストとなることを夢見ている。
ピアノの先生は、ロシア出身のユダヤ系イスラエル人で、ピアノのレッスンを受けるため、通常車で 1 時間のところ、イスラエルが設けた検問所を通過しなければならないため 3 時間かけてエルサレムに通っている。映画はミシャの 13 歳から 17 歳の 4 年間を追う。

冒頭、母と検問所に並び、分離壁を眺めながらエルサレムに住むピアノ先生のところに向かいます。何か事が起きると検問所は閉鎖されてしまいます。「先生のいるエルサレムに引っ越せば」と簡単にいう人に、「国籍がないからダメ」とミシャ。
コロナ禍でリモートでレッスンを受けるのですが、検問所が閉鎖されたときにもリモートだったので手慣れたもの。先生は、ロシアでのオーケストラと共に演奏するときにもついてきてくれて、皆にアラブのお菓子を配った時には、いろんな種類があるのに、なぜだか皆、同じものしか取らないのを嘆く姿が可愛いです。背も高くなって声変わりもして、すっかり大人になったミシャに、先生はそろそろほかの先生にも習ったほうがいいと進言します。「彼ならどんな困難も乗り越えられる」と先生。
父親は「神経外科医もいいぞ」と息子が医者になってくれる夢も捨てきれないのですが、「お前の気持ちを尊重する」と諦めています。そんな父が、まだ少年だったミシャに、「結婚するならパレスチナ人とロシア人、どっちがいい?」と聞く場面がありました。「好きな人がいい」と答えるミシャ。確かに!
父親は「13年ロシアで暮らして、ママとも出会って美しい日々だったけど、やっぱり祖国がいい」とパレスチナに戻ってきたのです。パレスチナとロシア、二つの文化を背負って生きてきたミシャ。どんなピアニストになるでしょう・・・ (咲)


2020年/イスラエル/アラビア語、ロシア語、英語/61分/ドキュメンタリー
配給:ユナイテッドピープル
公式サイト:https://unitedpeople.jp/palestine
★2022年7月2日(土)シアター・イメージフォーラム他全国順次ロードショー

上映予定:
イメージフォーラム上映中
第七藝術劇場 7/16~
京都みなみ会館 7/22~
横浜シネマリン 8/6~
名古屋シネマテーク 8/20~
posted by sakiko at 19:21| Comment(0) | イスラエル | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年03月20日

旅立つ息子へ  原題:Hine Anachnu  英題:Here We Are

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監督:ニル・ベルグマン(『ブロークン・ウィング』『僕の心の奥の文法』)
脚本:ダナ・イディシス
出演:シャイ・アヴィヴィ(アハロン)、ノアム・インベル(ウリ)、スマダル・ヴォルフマン(タマラ)、エフラット・ベン・ツール(エフィ)、アミール・フェルドマン(アミール)、シャロン・ゼリコフスキー(シャローナ)

グラフィックデザイナーのアハロンは仕事をやめ、自閉症スペクトラムを抱える息子ウリと田舎町でのんびり暮らしている。星形のパスタが大好きで、金魚のヨニとヤロンとダニエルをかわいがり、ウンベルト・トッツィの「Gloria」を歌いながら髭を剃るウリ。身体は大人でも、中身は純粋無垢な子ども。世話は大変だけど、アハロンにとっては満ち足りた日々だ。
そんな折、別居中の妻タマラが、ウリの自立を促すため全寮制の特別支援施設に入所させるという。裁判所からも、定収入のないアハロンは養育不適合と判定を受ける。仕方なく、ウリを施設に連れていく途中、乗換駅でウリは父と別れたくないとパニックを起こしてしまう。アハロンは、施設に行くのをやめ、ベエルシェバの同級生宅から、さらに海辺のリゾート地エイラットへとあてのない旅に出る・・・

タブレットで常にチャップリンの映画『キッド』を見ては笑みを浮かべるウリ。そのモデルとなったのは、脚本を書いたダナ・イディシスの弟ガイ。子どもの頃、チャップリンの無声映画を繰り返し観ていた弟。その後、自閉症と診断され、父が弟と特別な関係を作り上げたのをそばで見ていたダナ。彼女がふと、父の死後、弟はどうなるのかと考えたことから、本作は生まれたそうです。
親にとって、我が子はいつまで経っても子ども。自閉症なら、さらに先行きが心配になって過保護になるのもわかります。本作は、いつかは子離れしなくてはいけないことを描いた普遍的な物語。それがお互いのためとわかっていても、離れがたいものですね。

イスラエルが舞台ですが、パレスチナのことはまったく出てこないのどかなイスラエル。
父子が暮らす海辺に近い北部の田舎町や、一番南の紅海に面したリゾート地エイラットの風景を楽しみました。エイラットを、すぐそばのヨルダンのアカバから眺めたことがありますが、質素なアカバと比べて、リゾートホテルの林立する華やかなところでした。
途中、ネゲヴ沙漠にある大都市ベエルシェバで鉄道を乗り換える場面があって、思わずイスラエルの鉄道路線地図を探してしまいました。30年前にイスラエルを旅したことがありますが、ツアーでバス移動だったので、いつかイスラエルを鉄道で旅したいとそそられました。(咲)


男の人は助けを求めるのが下手で、困ったことがあっても自分に抱え込んでしまいがちという。本作の主人公は売れっ子グラフィックデザイナーというキャリアを捨てて、自閉症スペクトラムの息子を育てることに専念した父親。仕事より育児を選んだのが男性ということから、世の中が随分、変わったと感じる。しかし、父親がキャリアを捨てたのは本当に息子のためだけだったのだろうか。2人を見ていると共依存に陥っているのが分かる。父親は仕事を続けていくことに不安を感じ、育児に逃げ込んだ部分もあったのではないだろうか。
親は子どもより先に逝く。その日のために、息子を自立させることが親としていちばん大事なはず。父親にはそれが見えていないが、2人で逃避行を続けるうちに、息子の成長に気づいていく。ラストに息子がトラブルを自分で解決して前に進んだ姿を見た父親の安堵と寂しさの入り混じった顔が忘れられない。(堀)


親の気持ちで観ていました。「子どもはいつまでも子ども」ですが、遺して先に逝くことを考えなくちゃ。やっぱり母親のほうが現実的です。父と息子二人暮らしのシーンがいつも綺麗なパステル調の色合いです。部屋も着ている服も。息子を施設に置いて初めて離れたときに、初めて父親が黒っぽい地のシャツを着ました。お父さんの心情が現れているのかしら?
何も仕事を捨てなくてもいいのに、家でできる仕事をやっていれば、息子が早くに絵に興味を持ったはず。子育てしていれば絵を描いてやる機会は何度もあります。蛙の子は蛙、きっと絵の才能が早くに花開いたんじゃないかな。それがもったいないなぁと思ったこと。(白)


2020年/イスラエル・イタリア/ヘブライ語/94分/1.85ビスタ/カラー/5.1ch/PG12
日本語字幕:原田りえ 
配給:ロングライド 
© 2020 Spiro Films LTD.
公式サイト: https://longride.jp/musukoe
★2021年3月26日(金) 、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
posted by sakiko at 15:46| Comment(0) | イスラエル | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年02月16日

愛と闇の物語   原題:A TALE OF LOVE AND DARKNESS

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監督・脚本:ナタリー・ポートマン
原作:アモス・オズ 「A Tale of Love and Darkness」
製作:ラム・バーグマン、 デヴィッド・マンディル、 ニコラス・シャルティエ、 アリソン・シェアマー
出演:ナタリー・ポートマン、ギラッド・カハナ、アミール・テスラー、ヨナタン・シライ

作家になったアモス・オズ(ヨナタン・シライ)は、少年時代を振り返る。今や、母が38歳で亡くなった時の父親の年代だ。1945年、 英国統治下のエルサレム。 幼少期のアモス(アミール・テスラー)は、 父アリー(ギラッド・カハナ)と、 母ファニア(ナタリー・ポートマン)と共に暮らしていた。
ヨーロッパに反ユダヤ主義が広がり、今はウクライナ領となったポーランドの町ロヴノから母は家族と逃れてきた。その後、ユダヤ人の大虐殺で故国の知人親戚のほとんどが殺されてしまった。眠れない夜には、子守歌を歌い、一緒に物語を作ってくれた母。インドの沙漠で無言の修行をする二人の話を思い出す。
1947年11月29日、国連でパレスチナ分譲案がアラブ諸国の反対する中、賛成多数で採択される。ユダヤの国ができることに父はもう差別されなくなると大喜びだ。混乱するだけと否定的だった母の予想通り、アラブとユダヤは衝突する。暴動の中で母の友人が犠牲になり、父の不貞も重なり母の気持ちはふさいでいき、物語も作らなくなる・・・

ナタリー・ポートマンがアモス・オズの自伝的著書『A Tale of Love and Darkness』を読んで映画化したいと思ってから約 7年。 ナタリー・ポートマン自身が監督・脚本を手掛け、アモスの母親ファニアも演じて2015年に完成させた映画『愛と闇の物語』が、ようやく日本で公開されます。
イスラエルの作家でジャーナリストであるアモス・オズ(1939-2018)。 第3次中東戦争(1967年)に従軍。イスラエルのヨルダン川西岸占領でパレスチナ人の受けた悲劇を目の当たりにし、イスラエルが占領地を返還し、パレスチナ独立国家と共存することを訴え平和運動を主唱しました。
印象的だったのが、アモスが子どものいないルドニツキ夫妻に連れられてパレスチナ人の家を訪ねる場面。音楽を聴き、お菓子を食べながら優雅な時を過ごしている人たち。あっちで遊んでなさいと言われ、同年代の少女にアラビア語で話しかけると、彼女はヘブライ語で返してくれます。アイシャと名乗り、ピアノを習い、兄はロンドンで弁護士になる勉強をしていると言います。お互い、アラビア語やヘブライ語の詩人の話で盛り上がります。「この国は広いから両方の民族が住める。仲良く共存できればいいね」と少女に語るアモス。
ロシアや東欧にルーツを持つユダヤ人の両親のもと、エルサレムで生まれたナタリー・ポートマン。3歳の時にアメリカに移住しましたが、心はエルサレムにあると語っています。昨今のパレスチナの状況には心を痛めているようで、本作からも和平への思いを感じます。
原作者のアモス・ボスは、2018年にご逝去。彼の和平への思いも噛みしめながら、本作を多くの方にご覧いただければと願います。(咲)

2015年/イスラエル・アメリカ/98分/ヘブライ語・英語・アラビア語・ロシア語/シネスコ
配給:イオンエンターテイメント
公式サイト:https://www.aitoyamimovie.com/
★2021年2月19日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、イオンシネマ 他 全国公開

posted by sakiko at 15:20| Comment(0) | イスラエル | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする