2021年05月16日

ペトルーニャに祝福を 原題: Gospod postoi, imeto i’ e Petrunija 英題:God exists,her neme is Petrunya

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監督:テオナ・ストゥルガル・ミテフスカ
脚本:エルマ・タタラギッチ、テオナ・ストゥルガル・ミテフスカ
出演:ゾリツァ・ヌシェヴァ、ラビナ・ミテフスカ

北マケドニアの小さな街シュティプ。32歳のペトルーニャは大学を出たのに仕事に就けず、ウェイトレスのバイトでしのいでいる。母がお膳立てした縫製工場の面接に渋々行くが、男性の担当者から身体を触られた上に、容姿をけなされる。散々な面接の帰り道、ぺトルーニャはキリストの受洗を祝う「神現祭」の群衆に巻き込まれる。寒い中、上半身裸の男たち。司祭が川に十字架を投げ込み、それを手に入れた男は、1年間幸福に過ごせると信じられている祭。ぺトルーニャの目の前で十字架が投げ込まれ、思わず川に飛び込み十字架を手に入れる。「女が取るのは禁止だ!」と男たちから猛反発を受け、教会や警察を巻き込んでの大騒動になる・・・

日本でも神事や相撲の土俵など、女人禁制とされてきたものが多々あります。本作では、神現祭の取材に来ていたテレビ局の女性ジャーナリスト、スラビツァ(演じているのは、監督の妹ラビナ・ミテフスカ)が、女性に十字架を取られたことは、なぜ問題なのかと皆に問います。司祭は「子供に男だけがとれると教えている」と答えます。要は、慣例。納得できる答えではありません。ぺトルーニャは、十字架が欲しかったわけではなく、女に禁じられていることに挑戦したかったのだと感じます。何をしようと娘のことを信じている父親の存在も、ぺトルーニャの勇気の源泉だと思いました。
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Photo (c) Ivan Blazhev
テオナ・ストゥルガル・ミテフスカ監督は、1974年旧ユーゴスラビア(現北マケドニア)スコピエ生まれ。芸術一家に生まれ、子役としてキャリアをスタート。絵画とグラフィックデザインを学んだ後、ニューヨーク大学のティッシュ芸術学部で映画の修士号を取得。本作は、2014年に、北マケドニアのシュティプで十字架を掴み取った若い女性が住民から「狂っている」「問題を抱えている」という烙印を押された事件をもとに完成させました。伝統儀式「神現祭」は、東欧の東方正教を信仰する国々で毎年1月19日に行われていて、男性だけが参加を許されてきました。2018年には、騒動のあったシュティプの町で女性も参加するようになったとのこと。
「幸せになる権利は私にもあるはず。なのに、なぜ?」というぺトルーニャの思いは、女性だけでなく、男女問わず、すべての人のもの。大学で学んだ知識を生かす仕事に就けない人がいるのも、多くの国の現実でしょう。そして、仕事についていたとしても、本作に登場するテレビ局のカメラマンは安月給故に、賭けサッカーに夢中です。同じ安月給のスラビツァは、上司からほかの話題に注力しろと言われても、ぺトルーニャのことを通じて、人権について報道しようと頑張ります。
さて、最終的に十字架はぺトルーニャのものになったのかどうか・・・ 結末はぜひ劇場で!(咲)



2019年 第69回ベルリン国際映画祭 エキュメニカル審査員賞&ギルド映画賞W受賞

2019年/北マケドニア・フランス・ベルギー・クロアチア・スロヴェニア合作/マケドニア語/シネスコ/5.1ch/100分
日本語字幕:岩辺いずみ 
後援:駐日北マケドニア共和国大使館 
提供:ニューセレクト 
配給:アルバトロス・フィルム
© Pyramide International
公式サイト:https://petrunya-movie.com/
★2021年5月22日(土)より岩波ホールほか全国順次公開

*当初、2020年4月25日(土)公開予定でした。緊急事態宣言で延期され、やっと公開です。  


posted by sakiko at 04:06| Comment(0) | 北マケドニア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年06月20日

ハニーランド 永遠の谷   原題:Honeyland

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監督:リューボ・ステファノフ、タマラ・コテフスカ
プロデューサー/編集:アナタス・ゲオルギエフ
撮影:フェルミ・ダウト、サミル・リュマ
サウンドデザイナー:ラナ・エイド
字幕:林かんな

バルカン半島、北マケドニアの首都スコピエから20キロほど離れた、道路も電気も水道も通じていない山間の村。ハティツェ・ムラトヴァは、盲目で麻痺のある年老いた母親と暮らしている。彼女はヨーロッパ最後の自然養蜂家。時折、20キロ離れた町の市場に蜂蜜を売りにいくのが、唯一他者と接する機会だ。
静寂な暮らしは、ある日突然壊される。音を立てトレーラーでやって来たのはトルコ人一家。7人の子供に牛や羊たち。やがて蜜蜂が全滅してしまう・・・
 
北マケドニアから届いた珠玉のドキュメンタリー。タマラ・コテフスカ(左)がリューボ・ステファノフと共に作った長編デビュー作。
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ギリシャの北に位置するこの国は、かつてはユーゴスラビア、その前にはオスマン帝国に属し、多様な民族が共に暮らしてきたところ。ハティツェの住む村にも、かつてアルバニア人やトルコ人が住んでいたことが語られていました。
ハティツェは古代トルコ語を話しています。越して来たムスリムのトルコ人一家の言葉とはちょっと違うようです。
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隣人となったトルコ人の少年を眺めながら、自分にも子供がいたならとつぶやくハティツェ。母親に「求婚に来た人を父はなぜ断ったの?」と尋ねる場面には、じ~んとさせられました。決して、結婚が幸せだとは思わないけれど!

「半分はわたしに、半分はあなたに」という信条が、持続可能な生活と自然を守ってきたことに、私たちも学びたいと思いました。(咲)


この作品はハティツェが自然養蜂家として生活している様子を映し出したドキュメンタリー作品です。しかし、隣にトルコ人一家が引っ越してきて、ハティツェの真似をして蜂蜜の販売を始め、欲をかいたばかりに蜜蜂を全滅させてしまう展開は起承転結が見事で、しっかり練られた脚本があるよう。いえ、見ているうちにドキュメンタリー作品であることをすっかり忘れていました。まさに「事実は小説より奇なり」です。
蜜蜂は全滅してしまいましたが、ハティツェはまだまだそこで生きていかねばなりません。ラストに希望が見えたような気がしましたが、果たして今、ハティツェはどこでどんな生活をしているのでしょうか。幸せであってほしいです。(堀)


自然と共存しながら生きていくこと。そこに住んでいる人にとっては昔から引き継いできた人たちからの知恵であり教え。あとに続く人たちへの贈り物でもある。この蜂蜜もそれで保たれてきたのに、一時の自分たちの欲のために採りきってしまったら後が続かない。それは動物でも植物でも、全部採りきらず、後の人のために残しておくということがそこで生きていく人たちの暗黙のルールで人々の営みは続いてきた。
それなのにあとから引っ越してきた一家は、そのルールを無視して、そこの地の蜂蜜を根こそぎ採ってしまって、蜜蜂がいなくなったら別の地を目指して出ていった。そういうことの繰り返しで生きていくのだろうか。撮っていた監督たちもこういう展開になるとは思わず3年近くカメラをまわしていたのでしょうけど、これがドキュメンタリーであるというのがすごい。それにしても、こんなに周りに住む人がいない緑が少ない土地でハティツェは生きていけるのか。これまでは母がいたからここにいたけど、一人になってしまってここでは一人でやってはいけないだろうな(暁)。


2019年/北マケドニア/トルコ語・マケドニア語・セルビアクロアチア語/86分/1.85:1
配給:オンリー・ハーツ
(C)2019, Trice Films & Apollo Media
公式サイト:http://honeyland.onlyhearts.co.jp/
★2020年6月26 日(金)よりアップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開




posted by sakiko at 21:37| Comment(0) | 北マケドニア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする