2025年12月08日

THE END(ジ・エンド)(原題:The End)

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監督:ジョシュア・オッペンハイマー
脚本:ラスムス・ハイスタバーグ、ジョシュア・オッペンハイマー
出演:ティルダ・スウィントン(母親)、ジョージ・マッケイ(息子)、マイケル・シャノン(父親)、モーゼス・イングラム(少女)

環境破壊により人類が地上に暮らせなくなってから25年が経った地球。ある日、豪華な地下シェルターで暮らす富裕層のアメリカ人家族のもとに、外の世界から若い女性が現れる。この出来事をきっかけに、これまで孤立しながらもルーティンを守って暮らしてきた家族の脆い日常が静かに崩れはじめ、やがて自らの過去と存在の真実に対峙することになる。

ティルダ・スウィントン、マイケル・シャノンが夫婦でジョージ・マッケイがその息子、限られた空間で暮らす家族のストーリーがミュージカルで語られます。歌うんですか?!と興味津々。始まりはごく普通の家族のだんらんにみえます。富裕層らしくお部屋はゴージャス、趣味に生きる母、これまでの仕事をふりかえり息子に自分史を語る父親。親しい友人も近くで暮らしているようです。「外」からの侵入者があって、その異様な生活がわかってきます。
人類の終末を描いた作品はいろいろとありました。どれとも違う世界でした。へたれな私には無理ですが、どんな状況でも人はなんとか生きようとするんですね。過酷な状況も歌にのせるとどこか甘くなります。タイトルがストレートですが、そこへ向かっていることに間違いありません。タル・ベーラ監督の『ニーチェの馬』(2012)の静かで孤独な日々を思い出しました。(白)


2024年製作/148分/G/デンマーク・ドイツ・アイルランド・イタリア・イギリス・スウェーデン・アメリカ合作
配給:スターキャットアルバトロス・フィルム
(C)Felix Dickinson courtesy NEON (C)courtesy NEON
https://cinema.starcat.co.jp/theend/
★2025年12月12日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国ロードショー

posted by shiraishi at 02:33| Comment(0) | デンマーク | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年05月16日

ガール・ウィズ・ニードル  原題:Pigen med nålen/英題:The Girl with the Needle

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(C)NORDISK FILM PRODUCTION / LAVA FILMS / NORDISK FILM PRODUCTION SVERIGE 2024

監督・脚本:マグヌス・フォン・ホーン『スウェット』 
脚本:マグヌス・フォン・ホーン、リーネ・ランゲベク
撮影:ミハウ・ディメク
音楽:フレゼレケ・ホフマイア(プース・マリー)
出演:ヴィクトーリア・カーメン・ソネ、トリーネ・デュアホルム、ベシーア・セシーリ、ヨアキム・フェルストロプ

第一次世界大戦後のコペンハーゲン。
お針子として働くカロリーネは、部屋の家賃が支払えずに追い出される。戦地に赴いた夫は行方不明だ。やがて勤め先の工場長と恋に落ち、妊娠。結婚すると言ってくれるも、男爵夫人の母親が息子との結婚はあり得ないとけんもほろろに仕事場も追い出される。公衆浴場で中絶を試みようとして倒れたのを見て、「生まれたら、ダウマの砂糖菓子店に来て。子供を欲しい人がいる」と中年の女性が声をかける。
そんな折、死んだと思っていた夫が変わり果てた姿で帰ってくる。やがて生まれてきた女の子を、自分の子でないとわかりながら「綺麗な子だ」と抱く夫。だが、カロリーヌは、ダウマの砂糖菓子店を訪ね、赤ちゃんを託す。さらに、ここに預けられた子の養父母が決まるまでお乳をあげると、住み込みで働かせてもらう。訳ありで生まれた子を預けにくる女性たち。ダウマには、イレーヌという美しく可憐な幼い娘がいて、彼女とも打ち解け、ダウマとの間に強い絆が育まれるが、やがてカロリーヌは悪夢のような真実を知ってしまう・・・

マグヌス・フォン・ホーン監督が、1910年代にデンマークで実際に起こった衝撃的な事件に触発されて描いた物語。モノクロの美しくもおぞましい映像に惹き込まれます。それは、100年以上も前の遠くデンマークでの話ですが、訳ありの子を身籠って、中絶することもできずに生まれてしまった子を抱えて、困り果てる女性は今の時代にも後を絶ちません。シングルマザーとして勇気を持って生きていく女性たちもいれば、「赤ちゃんポスト」や、養子縁組に助けられる女性もいます。軽はずみな行為の結末を女性だけが負わなければいけない不公平・・・ 本来なら、祝福されるべき新しい命の誕生なのに。本作では、社会の目も、そういう女性たちに厳しく冷たいことも描いています。
また、戦争に駆り出され、変わり果てた姿で、サーカスで見世物になるしかない男性を、国が保障していないらしいことも理不尽に思いました。
そんな冷たい社会を描いた物語ですが、人の良心を感じさせてくれる素敵なラストに、ほっとさせられました。(咲)


2024年・第77回カンヌ国際映画祭 コンペティション部門出品
第97回アカデミー賞 国際長編映画賞ノミネート

2024年/デンマーク、ポーランド、スウェーデン/デンマーク語/123分/ 1.44:1/モノクロ/5.1ch/PG12
日本語字幕:吉川美奈子、字幕監修:村井誠人
配給:トランフォーマー
公式サイト:https://transformer.co.jp/m/needlemovie/
★2025年5月16日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷ホワイト シネクイントほか全国公開
posted by sakiko at 15:26| Comment(0) | デンマーク | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年02月09日

愛を耕すひと  原題:Bastarden

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© 2023 ZENTROPA ENTERTAINMENTS4, ZENTROPA BERLIN GMBH and ZENTROPA SWEDEN AB

監督:ニコライ・アーセル 
脚本:アナス・トマス・イェンセン、ニコライ・アーセル
原作:イダ・ジェッセン「The Captain and Ann Barbara(英題)」
出演:マッツ・ミケルセン、アマンダ・コリン、シモン・ベンネビヤーグ

1755年、デンマーク。退役軍人のルドヴィ・ケーレン大尉は、長年不可能とされた荒野の開拓に、ひとり名乗りを上げる。国王に敬意を表し、貴族の称号を得たいという思いからだった。しかし、それを知った有力者フレデリック・デ・シンケルは、自らの勢力が衰退することを怖れ、ありとあらゆる手段でケーレンを阻止しようと立ちはだかる。フレデリックのもとから逃げ出した使用人の女性アン・バーバラが、ケーレンのもとにいることを知ると、さらに逆上して、迫害は残虐なものとなる。
ある日、両親に捨てられたタタール人の少女アンマイ・ムスがケーレンの家に泥棒に入る。ケーレンは彼女を保護し、ともに暮らすようになる。アン・バーバラやアンマイ・ムスと共に土地を耕していくうちに、頑なに心を閉ざしていたケーレンに変化が芽生えてゆく・・・

ユトランド半島が、開拓不可能なほど不毛な地だったとは知りませんでした。マッツ・ミケルセン演じるケーレンは、貧しい出で、ドイツで30年近く従軍して、努力して大尉になった人物。ドイツからじゃがいもを取り寄せ、植え付けようとするのですが、有力者からの横やりが半端じゃなく、大変な苦労をします。
そんな中でのタタールの少女アンマイ・ムスとの出会い。彼女は肌の色が黒いことから“不吉な子”と虐げられているのですが、タタール人は私のイメージでは肌の色は黒くないので、白人から見た偏見かなぁ~と。
それはともかく、アンマイ・ムスの存在はケーレン大尉にだけでなく、私にとっても清涼剤のようでした。(咲)



★“北欧の至宝”マッツ・ミケルセンからのメッセージ★
日本のみなさん、こんにちは。マッツ・ミケルセンです。
『愛を耕すひと』がいよいよ日本でバレンタインデーの2月14日から公開されます。
私が演じたケーレン大尉が、様々な苦難を乗り越え変化していく姿にぜひご注目ください。
これは〈愛についての物語〉です。観てね!


2023年/デンマーク・スウェーデン・ドイツ/127分/G
字幕翻訳:吉川美奈子
配給:スターキャット、ハピネットファントム・スタジオ 
後援:デンマーク王国大使館 
公式サイト:https://happinet-phantom.com/ai-tagayasu 
★2025年2月14日(金)新宿ピカデリーほか全国公開



posted by sakiko at 02:19| Comment(0) | デンマーク | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年04月09日

聖地には蜘蛛が巣を張る  原題:Ankabut-e moqaddas  英題:Holy Spider 

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©Profile Pictures / One Two Films

監督:アリ・アッバシ(『ボーダー 二つの世界』
出演:メフディ・バジェスタニ、ザーラ・アミール・エブラヒミ

2001年、イランの聖地マシュハド。
濃い化粧をほどこし、寝ている幼い娘に声をかけ夜の街に出ていく娼婦。金持ちの家で一仕事した後、バイクの男に誘われる。金を持っているのを確認し男の家にあがるが、「汚れた女は排除する」と殺されてしまう。町の灯りを見晴らす丘に女を埋める男。
街では、この半年の間に娼婦たちが同じ手口で何人も殺され、街の人々は殺人鬼を「スパイダー・キラー」と呼んで恐れているが、捕まっていない。
テヘランに住む女性ジャーナリストのラヒミは、この娼婦連続殺人事件を追うため、故郷でもあるマシュハドに向かう。警察の捜査責任者や、聖職者の判事のもとを訪ねるが、確かな情報は得られない。それどころか、ラヒミがかつてセクハラ被害にあって職を追われた過去を指摘される。
ラヒミを案内してくれている地元紙の記者のもとに、一人殺すたびに「犯罪人じゃない。腐敗に対する聖戦だ」と殺人鬼から電話がかかってくるという。新聞に記事を書いてほしいらしい。
ある夜、ラヒミはサンドウィッチ屋でトイレを貸してほしいという娼婦らしい若い女性に「怪しい男を知らない?」と声をかける。「皆、怪しい」と答えるソグラと名乗る女性。
警察から、また一人殺されたと遺体発見現場に案内される。被害者はソグラだった。ついにラヒミは自ら娼婦の振りをして殺人鬼に接触を図る・・・

本作は、現在、デンマークを拠点に活動するアリ・アッバシ監督が、2000年~2001年にイランの聖地マシュハドで16人の娼婦を殺害し、“スパイダー・キラー”と呼ばれたサイード・ハナイの実話をもとに描いた物語。当時学生だったアリ・アッバシ監督はイランにいて、16人も殺した男になかなか判決が下らず、それどころか一部の市民や保守派メディアがサイードを英雄として称え始め、汚れた女たちを排除するという宗教的な務めを果たしただけだと擁護したことを知り、いつか映画にしたいと決意。本事件を扱ったマジアール・バハリの2002年のドキュメンタリーに出てきた女性ジャーナリストに着想を得て、架空のラヒミという女性記者が事件を追う形で描いたことで、連続殺人事件を取り巻く社会も見ることのできる作品になっています。
時折映し出されるサイードは、信心深い家族思いの男。一方で、イラン・イラク戦争の前線で殉死出来なかった負い目を感じていて、神に生かされた使命として汚れた娼婦を殺すのです。判決の下ったサイードに退役軍人の会が、裏で何とかすると言ったのもあり得る話だと思いました。
けれども、娼婦としてしか生きていけない弱者こそ社会が救うべきで、本作の中で、アッバシ監督は、ラヒミが訪ねた聖職者である判事に「困窮しなければ、体を売ることもない。政府が市民を守るべきだ」と語らせています。
このような内容も盛り込まれているにも関わらず、イランでの撮影許可は下りず、ヨルダンのアンマンで撮影されています。(友人のイラン人から、「ちゃんとイランに見える」とお墨付き)

ラヒミを演じたザーラ・アミール・エブラヒミは、本作でカンヌ国際映画祭女優賞を受賞。
彼女自身、第三者による私的なセックステープ流出によりスキャンダルの被害者となり、2008年、国民的女優として成功を収めていたイランからフランスへの亡命を余儀なくされています。
ラヒミのような女性はイランでは特別ではなく、知的で打たれ強く、様々な分野で活躍する女性が数多くいることも知っていただければと思います。革命後、1990年頃には大学に占める女性の割合は、理科系の学科でも6~8割に達し、大卒の女性が圧倒的に増えているのです。アフマディーネジャードが大統領の時に、大学の定員を男女公平に半々にするべきだと提言しましたが却下されています。
ヘジャーブ(髪の毛や身体の線を隠すこと)を強制されていて、女性蔑視が根強いと思われる一面もありますが、家庭では何より母親が尊敬されるイラン社会です。

ところで、マシュハドには、革命前の1978年5月に一度だけ行ったことがあります。町に着いて、バスの前に男性、後ろに女性と分かれて乗っているのを見て、さすが聖地はテヘランとは違うと思ったものです。(革命後は、テヘランでも大型バスは男女別になりました)
借りたチャードルを被って入ったシーア派8代目イマーム・レザー廟では、棺の周りを皆、涙を流しながらお詣りしていて、私も神聖な気持ちになったものです。一神教のイスラームですが、イランでは各地にシーア派の祖であるアリーの血を引いた子孫の廟があって参詣する人が多く、聖者崇拝が根強いことを感じます。
イマーム・レザー廟のあるマシュハドは、イラン国内で最大の聖地で、革命後、政府は特に力を入れて街を整備。イマーム・レザー廟の周辺に密集していた店舗や家を一掃し、廟を中心に広がった街は上から見ると蜘蛛の巣にも見えるようです。サイードが殺害した女性を埋めた丘から見える街の全景にどうぞご注目を! (とはいえ、あれはどこで撮ったのでしょう?) (咲)



2022年/デンマーク・ドイツ・スウェーデン・フランス/ペルシャ語/シネスコ/5.1chデジタル/118分
字幕翻訳:石田泰子
配給:ギャガ
デンマーク王国大使館後援
公式サイト:https://gaga.ne.jp/seichikumo/
★2023年4月14日(金)新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、TOHOシネマズシャンテ他全国順次公開




posted by sakiko at 15:56| Comment(0) | デンマーク | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月08日

コペンハーゲンに山を  原題:Making a Mountain

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(C)2020 Good Company Pictures


監督:ライケ・セリン・フォクダル、キャスパー・アストラップ・シュローダー
出演:ビャルケ・インゲルス、ウラ・レトガー他

コペンヒル。世界初!スキーが楽しめるゴミ処理発電所の誕生を追ったドキュメンタリー。

2011年、デンマークの首都コペンハーゲンにある老朽化したゴミ処理施設建て替えのコンペ結果発表会が行われた。コンペを満場一致で勝ち抜いたのは、デンマークのスター建築家ビャルケ・インゲルス率いるBIG建築事務所。彼らのアイデアは飛び抜けて奇抜で、巨大なゴミ焼却発電所の屋根にスキー場を併設し、コペンハーゲンに新たなランドマークを作るというもの。しかし、カメラは完成までの過程で、苦難の連続を追うことになる。ゴミ焼却発電所とスキー場はどう建造物として共存出来るのか?次々と疑問や課題が山積みになっていくが、難題を乗り越え2019年10月、コペンハーゲンに新しい“山”が誕生。完成に9年。かかった費用は約5億ユーロ。デンマークの景色を楽しめるこの山「コペンヒル」の標高は85m、全長450mでゲレンデ幅は60m。4つのリフトでスキーが楽しめる。ゴミで再生可能エネルギーを作る最新鋭のゴミ焼却発電所で、年間3万世帯分の電力と7万2000世帯分の暖房用温水を供給する。屋上にはレストランやハイキング・ランニングコース、壁には世界一高い85mのクライミングウォールが設置されている夢のような施設だ。誰もが行きたがらないゴミ処理施設が、誰もが行きたがる夢の施設になったのだ。

ごみ処理施設というと、高い煙突を思い浮かべますが、高くしてもCO2をまき散らすことには変わりないとのこと。ごみ処理施設を覆うようにして、山を作って、その上を娯楽施設にしてしまうというアイディアに、これぞ発想の転換!と唸りました。
建築コンペの審査員たちが満場一致で決めたのも納得です。その建築コンペの発表自体、MCを務める女性CEOが楽しそうに歌って始まるという型破りなものでした。
コペンハーゲンの町というより、デンマーク自体、フラットで山のない国。「皆、同じ高さだと見通しが悪い、映画館などでも傾斜があるのは見やすくする為」と、ごみ処理施設を利用して小高い山を作った理由の一つを語る建築家のビャルケ・インゲルス。
山のなかった町で、ちょっとしたハイキングやスキーもできて、家族ぐるみで楽しめる観光名所にしてしまったのがすごいです。コペンヒルに昇るエレベーターはガラス張りになっていて、ゴミ処理施設の中が見えます。子どもたちは、ゴミがリサイクルされて燃料になる仕組みを目にすることができて社会勉強にもなります。
奇想天外で清掃がしにくそうな建物を設計する建築家もいますが、コペンヒルのような奇抜なアイディアを出せる建築家は歓迎です。(咲)


2020年/デンマーク/51分
制作会社:グッドカンパニーピクチャーズ
配給:ユナイテッドピープル
公式サイト:https://unitedpeople.jp/copenhill/
★2023年1月14日(土)シアター・イメージフォーラム他全国順次ロードショー




posted by sakiko at 14:28| Comment(0) | デンマーク | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする