2021年02月14日

ある人質 生還までの398日   原題:Ser du manen, Daniel

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監督:ニールス・アルデン・オプレヴ( 『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』)、アナス・W・ベアテルセン
原作:プク・ダムスゴー「ISの人質 13カ月の拘束、そして生還」(光文社新書刊)
出演:エスベン・スメド、トビー・ケベル、アナス・W・ベアテルセン、ソフィー・トルプ

ダニエル・リューは、デンマーク代表体操選手として活躍していたが怪我で挫折。写真家への転身を決意し、コペンハーゲンで恋人シーネと暮らし始める。戦場カメラマンの助手としてソマリアを訪れ、サッカーをする子供たちの笑顔をカメラで捉えた時、戦争の中の日常を記録することこそ自分のやりたいことだと確信する。撮影先として選んだのは、内戦中のシリア。戦闘地域へは行かないと恋人や家族に約束して出かけるが、トルコとの国境付近の町アザズで撮影中、ダニエルは突然拉致されてしまう。アレッポから、さらにラッカへと移送される。そこには、様々な国のジャーナリストや支援活動家が拘束されていた。
一方、デンマークの家族たちは、ダニエルが予定の便で帰国しなかったため、彼から聞いていた人質救出の専門家アートゥアに連絡する。アートゥアは誘拐犯を突き止めるが、身代金70万ドルを要求されたという。テロリストと交渉しない方針のデンマーク政府からは支援を期待できない。家族は身代金集めに奔走する・・・

24歳だった2013年5月から翌2014年6月まで、398日間にわたってシリアで過激派組織IS(イスラム国)の人質となり、奇跡的に生還を果たしたデンマーク人の写真家ダニエル・リュー。ジャーナリストのプク・ダムスゴーがダニエル・リューと関係者に取材して書き上げた「ISの人質 13カ月の拘束、そして生還」(光文社新書刊)をもとに映画化したもの。
主演を演じたエスベン・スメドは、ダニエル・リュー本人と何度も会って話を聞いて役作りをしたそうです。拘束されていた398日間にダニエルが味わった壮絶な思いがずっしり伝わってきます。ダニエルを助けるために、マスコミに知られないよう、必死にお金を集めた家族の思いも胸に迫りました。

ISに拘束されている中には、フランス人やアメリカ人など様々な民族の人がいますが、ムスリムと思われるコソボ出身者もいます。方や、ISの監視役の中には、人質たちからビートルズと呼ばれていたイギリス人4人もいて、いかにISという組織が、本来のイスラームの教義とは離れた存在かを感じさせてくれます。
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公開にさきがけ2月7日(日)にユーロライブで行われた一般試写会上映後のトークイベントにジャーナリストの安田純平さんが登壇。2015 年から3年4カ月にわたってシリアで人質となり無事解放されたご経験から、本作を語ってくださいました。安田さんを拘束したのはシリアの反体制派の武装勢力で、ダニエルを拘束したIS(イスラム国)とは別物。有象無象の組織がありますが、人質を取るのは資金集めの為で、シリア人も人質になっているそうです。人質救出のエージェントから、身代金の見積書を提示されたこともあったと聞き、まさにビジネス。
戦争の真実を伝えたいジャーナリストや、戦禍の人々を救いたいと願う支援者たちを人質にするという卑怯な行為はいつまで横行するのでしょう・・・ (咲)



2019年/デンマーク・スウェーデン・ノルウェー/デンマーク語・英語・アラビア語/138分/カラー/シネマスコープ/5.1ch/日本語字幕:小路真由子
配給:ハピネット
後援:デンマーク王国大使館
公式サイト:https://398-movie.jp/
★2021年2月19日よりヒューマントラストシネマ渋谷、角川シネマ有楽町にて公開
posted by sakiko at 17:02| Comment(0) | デンマーク | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年12月10日

ニューヨーク 親切なロシア料理店  原題:The Kindness of Strangers

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監督・脚本:ロネ・シェルフィグ
出演:ゾーイ・カザン、アンドレア・ライズボロー、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、タハール・ラヒム、ジェイ・バルチェル、ビル・ナイ ほか

ニューヨーク、マンハッタンの片隅に佇むロシア料理店〈ウィンター・パレス〉。創業100年を超える伝統を誇るが、今や客足も遠のいていた。刑務所から出所したばかりのマーク(タハール・ラヒム)は、ひょんなことから、この店の経営立て直しの為に雇われる。
そんな矢先、幼い息子二人を連れて、夫から逃げてきたクララ(ゾーイ・カザン)が、食べ物を求めて店に忍び込んでくる。
経営がうまくいってないオーナーのティモフェイ(ビル・ナイ)も、雇われマネージャーのマークも、無一文のクララに優しく手を差し伸べる。
店の常連で、救急病棟の看護師アリス(アンドレア・ライズボロー)も、寝場所に困っているクララ母子を、懇意にしている教会に案内する。アリスは教会で「赦しの会」を開いていて、悩みを持つ者たちから慕われていた。不器用で次々と仕事をクビになるジェフ(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)も、そんな一人だった。
ある事がきっかけで、居場所を夫に知られるのも時間の問題と悟ったクララは、皆から受けた優しさを力に、現実に立ち向かう決意をする・・・

古びたロシア料理店を舞台に様々な人生が交錯する物語。

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©Desiree Navarr WireImage GettyImages

デンマーク出身のロネ・シェルフィグ監督(写真上)が自身で脚本もすべて担当したのは、2000年ベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞した『幸せになるためのイタリア語講座』以来のこと。一人で脚本を書くことによって、これまで描きたいと温めていた様々な物語を、一つの映画に入れ込むことができたと語っています。表立っては描いていないけれど、政治的な問題も盛り込まれています。
人生、どん底に落ちても、思わぬ出会いで希望に満ちたものになることを感じさせてくれる素敵な物語です。


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© 2019 CREATIVE ALLIANCE LIVS/RTR 2016 ONTARIO INC. All rights reserved

私にとっては、タハール・ラヒムの包み込むような優しさがたまりませんでした。『預言者』(ジャック・オーディアール監督、2009年)で見染めて以来、『パリ、ただよう花』(ロウ・イエ監督、2011年)、『ある過去の行方』(アスガル・ファルハディ監督、2013年)、『消えた声が、その名を呼ぶ』(ファティ・アキン監督、2014年)、『ダゲレオタイプの女』(黒沢清監督、2016年)等々、私の注目する諸外国の監督たちの作品に出演しているタハール・ラヒム。本作で、また違った姿を見せてくれました。(咲)

2019年/115分/英語/デンマーク、カナダ、スウェーデン、フランス、ドイツ、イギリス、アメリカ/日本語字幕:石田泰子
配給:セテラ・インターナショナル
© 2019 CREATIVE ALLIANCE LIVS/RTR 2016 ONTARIO INC. All rights reserved
公式サイト:http://www.cetera.co.jp/NY/
★2020年12月11日(金)よりシネスイッチ銀座、新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開

posted by sakiko at 09:22| Comment(0) | デンマーク | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年05月29日

罪と女王(原題:Dronningen、英題:Queen Of Hearts)

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監督・脚本:メイ・エル・トーキー
共同脚本:マレン・ルイーズ・ケーヌ
撮影:ヤスパー・J・スパンニング
音楽:ヨン・エクストランド
出演:トリーヌ・ディルホム、グスタフ・リン、マグヌス・クレッペル、スティーヌ・ジルデンケルニ、プレーベン・クレステン セン

児童保護を専門とする優秀な弁護士のアンネは、優しい医者の夫と幼い双子の娘たちと美しい邸宅で完璧な家庭を築いていたが、夫と前妻との息子である17歳の少年グスタフが問題を起こし退学になったため、スウェーデンからデンマークに引き取ることに。グスタフは衝動的な暴力性があり家族に馴染もうとしなかったが、そんな子供達と仕事で常に接しているアンネは根気よく彼を家族として迎え正しい方向へ導こうと努める。しかし、グスタフと少しずつ距離を縮めていくうちに、親密さが行き過ぎてしまい、アンネはグスタフと性的関係を持ってしまう。そして、そのことが大切な家庭とキャリアを脅かし始めた時、アンネは残酷な選択をする。

知的で美しい女性が義理の息子とただならぬ関係になってしまう。たびたび描かれてきたテーマですが、本作がこれまでの作品と大きく違うのは、展開が倫理観の範疇に収まり切れないところです。「一応、映画だし、そこはやっぱり、最後はねぇ」というラストを予想していたら、「え~、それでいいの?!」と驚くことでしょう。しかし、もし自分が主人公なら、心の奥底ではこの結末を願ってしまっていたに違いありません。決して口にはできないけれど。
人間の醜い欲望の本質をえぐり出したような脚本を北欧作品ならではのサスペンスタッチで仕上げてあります。どんなラストなのか、気になったら、ご覧になるのはぜひ1人で。もし、主人公に共感してしまったら、その思いは心に秘めておく方がいいかも。
本作は2月に開催された「トーキョーノーザンライツフェスティバル2020」で『クイーン・オブ・ハーツ』のタイトルで上映されました。
サンダンス映画祭で観客賞受賞し、圧倒的国内評価でアカデミー賞デンマーク代表作品に決定。そしてデンマークが誇る偉大な女性監督スサンネ・ビア、ロネ・シェルフィグですら成し得なかった女性初のデンマーク・アカデミー賞(ロバート賞)作品賞を含む主要9部門で受賞。さらに北欧最大の映画賞であるヨーテボリ国際映画祭で最優秀ノルディック賞・観客賞・最優秀俳 優賞の3冠受賞。北欧5カ国から選出されるノルディック映画賞ではグランプリに輝きました。(堀)


2019年/デンマーク=スウェーデン/デンマーク語・スウェーデン語/127分/シネスコR15
配給:アット エンタテインメント
©2019 Nordisk Film Production A/S. All rights reserved
公式サイト:http://www.at-e.co.jp/film/queen/
★2020年6月5日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク吉祥寺、シネ・リーブル梅田、他にて公開
posted by ほりきみき at 21:36| Comment(0) | デンマーク | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする