2024年01月07日

葬送のカーネーション  原題:bir tutam karanfil 英題:Cloves & Carnations

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(C)FilmCode

監督:ベキル・ビュルビュル
脚本:ビュシュラ・ビュルビュル、ベキル・ビュルビュル
出演:シャム・シェリット・ゼイダン, デミル・パルスジャン

荒涼とした冬のトルコ南東部。
太鼓の音と銃の音。小雪の舞う中、白い馬に赤いベールの花嫁が乗っている。
踊る人たち。料理が振舞われる。ラジオからは、「今朝、難民が国境を越えようとして亡くなった」というニュースが流れている。
年老いた難民の老人ムサは孫娘ハリメを連れ、亡き妻の遺体の入った質素な棺桶を引きながら国境をめざしている。故郷の地に埋葬するという約束を守るためだ。
ハリメは紛争の続く場所へ帰りたくないが、親を亡くし、仕方なく祖父と一緒に歩いている。なかなか乗せてくれる車はない。言葉の通じない地で、手助けしてくれる人もいる。トラクターやトラックに乗せてもらって、アナトリアの荒れた大地をいく・・・

2022年東京国際映画祭 アジアの未来部門で『クローブとカーネーション』のタイトルで上映された珠玉の物語。
老人ムサが孫娘ハリメと二人で亡き妻の棺を引いて、ひたすら故郷への国境を目指すのですが、アラビア語しか出来ないムサと違って、孫娘ハリメはトルコ語が出来て、肝心な話の時には通訳してくれます。演じたシャム・セリフ・ゼイダンは、2010年シリア生まれ。戦争のため2017年にトルコに移住し、ネヴシェヒル・カッパドキア地域の学校で学んでいます。本作が初の演技経験で、将来はプロの女優になることを夢見ているそうです。
老人ムサを演じたデミル・パルスジャンは、1950年イスタンブル生まれの俳優。アラブ人ではなくトルコ人ですが、しっかり難民の老人に見えます。
道中、様々な人と出会いますが、印象に残っているのはハヴァという老婆。「人生は短いの。死は別世界に行くこと」とハリメに語り、グローブの絵が描かれた箱に入ったキャンディを差し出します。「グローブは歯の痛みを和らげるのよ」の言葉に、人生の痛みも?と感じさせられました。
故国を離れざるを得ない人たちが今も絶えません。死して、せめて故郷の地で眠らせてあげたいという思いに涙。(咲)


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東京国際映画祭 『クローブとカーネーション』 Q&A報告 (咲) 
左:ベキル・ビュルビュル(監督/脚本/編集)、右:ハリル・カルダス(プロデューサー)


2022年/トルコ・ベルギー/トルコ語・アラビア語/ 16:9 / 5.1ch / カラー/103分
配給:ラビットハウス
協賛:トルコ文化観光省/トルコ国営放送局
公式サイト:https://cloves-carnations.com/
★2024年1月12日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBIS GARDEN CINEMA ほか全国順次公開



posted by sakiko at 04:06| Comment(0) | トルコ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年11月24日

読まれなかった小説  原題:Ahlat Agaci

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監督:ヌリ・ビルゲ・ジェイラン
出演:アイドゥン・ドウ・デミルコル、ムラト・ジェムジル、ベンヌ・ユルドゥルムラー、ハザール・エルグクル

海辺のチャナカレの町の大学を卒業して、山あいの故郷の村に帰ってきたシナン。作家になるのが夢で、父と同じ教師なら仕事をしながら書けるのではと目論んでいる。もうすぐ教師を引退する父は競馬に夢中で家も売り借金を抱えている。それなのに、祖父の土地で、井戸を掘り当てようと必死で、周りに呆れられている。
シナンは書き上げた小説「野生の梨の木」を出版したいと町長や本屋に打診するが、反応は芳しくない。出版費用に貯めていた金も、父親に持ち出される始末。
それでも、ようやく自費出版し、母に捧げる。
やがて兵役につくシナン。5ヵ月後に帰宅し、本屋に行くが1冊も売れてないといわれる。家に保管してあった山積みの本も濡れてしまっていた・・・

競馬に明け暮れ、家族を省みない父親に閉口しながらも、井戸掘りを手伝う息子。なかなか折り合わない父と息子だけれど、そこはやはり血の繋がった親子。しみじみとさせられる物語。
夢を持ち続けることの大切さや、口に出さなくてもお互いを思いやる心を教えてくれました。

シナンが大学に行っていたチャナカレの町は、イスタンブルとはマルマラ海をはさんだ向こうにあるダーダネルス海峡に面した町。出版への支援を打診した時に、「ガリポリの戦いや、トロイの話など、観光が絡めば」と言われます。第一次世界大戦の折、ムスタファ・ケマル(後のトルコ共和国初代大統領)が英仏軍を撃退したことで有名なガリポリ半島の向かいにある町。実は、私が1983年に初めてトルコを旅した時に、最初に泊まったのがチャナカレなのですが、その時には、かつて近くでそんな凄惨な戦いがあった場所だとは知りませんでした。
シナンの実家のある村は、トロイ遺跡に近いところ。でも、本作に出てきたチャナカレの町の中にあるトロイの木馬は、遺跡のそばにある木馬とは違って、ブラット・ピット主演『トロイ』(2004)で使われた映画の大道具。
町で有名な作家スレイマンと橋の上で言い争う場面があるのですが、そこからはチャナカレの町が見渡せます。
これまでのジェイラン監督の映画と同様、会話の一つ一つを聞き漏らせませんでした。(咲)

2018年/189分/G/トルコ・フランス・ドイツ・ブルガリア・マケドニア・ボスニア・スウェーデン・カタール合作
配給:ビターズ・エンド
公式サイト:http://www.bitters.co.jp/shousetsu/
★2019年11月29日(金)新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー

posted by sakiko at 15:43| Comment(0) | トルコ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする