2025年08月17日

私は異邦人  原題:Gunduz Apollon Gece Athena

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(C)Rosa Film, Ursula Film

監督・脚本:エミネ・ユルドゥルム
出演:エズキ・チェリキ、バルシュ・ギョネネン、セレン・ウチェル、ギセム・ウチェル、デニズ・テュルカリ

地中海に面したトルコの古代都市シデ
母親を探す旅の終着点で“自分”と出会う


孤児としてイスタンブルで育ったダフネ。今はストイックなプログラマーだ。
自分を捨てた母を探し求めて、地中海沿いにある古代都市シデの遺跡に赴く。唯一の手掛かりは、トルコのどこかの遺跡で撮影された母親のぼやけた写真だけ。道中のバスで声をかけてきたフセインとは、その後もあちこちで出会う。シデの遺跡で、彼女は不思議な人びとにめぐり合っていく。革命家、娼婦、口のきけない女性神官…不思議な人びとは、“母探し”への協力をお願いする度に引き受けてくれる。やがて、遺跡のガイドをしているサミヤという女性と出会い、個人的にガイドを頼む・・・

ダフネが遺跡で出会う不思議な人たちは、実は幽霊。ダフネには、姿が見えるのです。
2024年の東京国際映画祭で上映された折に、映画を観る前の日にQ&Aを取材して、「生きている人間と変わらない姿で、主人公の女性からは見える設定」と聞いていたので、すぐにピンときたのですが、知らずにみると、幽霊だとわかるまでにちょっと時間がかかりそうです。 幽霊として出てくる人物には、それぞれの事情があって、そうした人物を登場させた監督の思いを感じました。
登場人物で、もう一組注目したのが、シデのホテルの老夫婦。夫人はいつも働いているのに、夫は椅子に座ってふんぞり返っています。これ、トルコの典型的パターンかも。
宿帳に両親の名前を父はアダムで母はイブと書いたのを見て、笑う夫人。トルコの孤児院では、そう書くものと侮蔑的な夫。 この夫婦には子供がいないのですが、夫人が「夫に問題があって養子を欲しかったけど、夫が反対した」とダフネに打ち明けます。家父長制の権化のような男ですが、最後に夫人のしてやったり~の行動があって、すっきり!(咲)


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2024年東京国際映画祭でのQ&SA
左からバルシュ・ギョネネン、エミネ・ユルドゥルム監督、エズギ・チェリキ (撮影:景山咲子)

現題『Gunduz Apollon Gece Athena』(東京国際映画祭上映時の邦題は、『昼のアポロン 夜のアテネ』ですが、夜の「アテナ」が正しいです。)は、ギリシャ神話に登場する男女の神。理性をつかさどる太陽神のアポロンと知恵・学芸・戦争をつかさどる女神のアテナ。
ダフネは、月桂樹。こちらもギリシャ神話に由来。
シデは、古代の言葉でザクロ、豊穣の象徴です。


監督
エミネ・ユルドゥルム

Emine Yıldırım
トルコのMETU(中東工科大学)経営学部卒業後、ビルギ大学映画学修士課程で映画を学ぶ。EAVE(European Audiovisual Entrepreneurs)を2014年に修了。『シレンズ・コール』(2018年東京国際映画祭コンペティション出品)を始めプロデュース作も多数。
本作が初長編監督作品。

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2018年東京国際映画祭『シレンズ・コール』上映後のQ&Aにて
シレン役の女優エズギ・チェリキさん、プロデューサーのエミネ・ユルドゥルムさん(撮影:景山咲子)
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/463135621.html


2024年東京国際映画祭<アジアの未来>作品賞
2025年イスタンブール映画祭トルコ映画批評家連盟賞
2025年アンカラ・フライイング・ブルーム国際女性映画祭審査員特別賞

2024年/トルコ/トルコ語/112分/カラー
日本版字幕:森澤海郎
配給:パンドラ
公式サイト:http://www.pan-dora.co.jp/ihojin/
★2025年8月23日(土) 渋谷ユーロスペースにて公開



posted by sakiko at 14:32| Comment(0) | トルコ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年10月06日

二つの季節しかない村  原題:Kuru Otlar Ustune

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(C)2023 NBC FILM/ MEMENTO PRODUCTION/ KOMPLIZEN FILM/ SECOND LAND / FILM I VAST / ARTE FRANCE CINEMA/ BAYERISCHER RUNDFUNK / TRT SİNEMA / PLAYTIME

監督:ヌリ・ビルゲ・ジェイラン(『雪の轍』
脚本:アキン・アクシュ、エブル・ジェイラン、ヌリ・ビルゲ・ジェイラン
出演:デニズ・ジェリオウル、メルヴェ・ディズダル、ムサブ・エキチ、エジェ・バージ

トルコ東部、雪深いインジェス村の公立学校で美術を教えるサメット。教師というだけで村人から尊敬され、お気に入りの生徒セヴィムにも慕われているが、赴任して4年経ち、早くこの僻地から抜け出しイスタンブルに転任したいと画策している。
しかし、ある日、同居している同僚のケナンと共に、セヴィムから虚偽に“不適切な接触”を告発されてしまう。同じ頃、違う学校の美しい英語教師ヌライと知り合う。ヌライは理想を持って社会と戦う中で、テロに巻き込まれ片足を失い義足だ。同僚のケナンをヌライに引き合わせると、二人は意気投合していく。ある日、町でヌライに出会い、ケナンと二人で休日に家に来てと誘われるが、サメットは一人でヌライの家を訪ねる・・・

セヴィムから告発されたサメットはどうなるのか、ケナンを裏切りヌライに会いにいった顛末は? そして、サメットは希望通りこの僻地を抜け出せるのか・・・
これまでのジェイラン監督の作品同様、登場人物たちの会話で綴られる198分。早口の会話に息もつけず、見入りました。サメットが、実に自己中の嫌な男なのですが、語る言葉の中には、人間らしい本音も感じてしまいます。
最後の方で、サメットたちが山を上って遺跡に行く場面があって、そこは地震で石造の頭が地面に落ちて並んでいるネムルートダー(ダー:山)。雄大な世界遺産。コンマゲネ王国の王アンティオコス1世が紀元前62年に建てた、王自身の座像を含む8 - 9 m の巨大像が並びます。ギリシャ神話やペルシャ神話の神々の像があって、様々な文明が交差した地であることを物語っています。
東トルコでは、一年の半分は雪に埋もれ、旅に不向き。4月末~10月中旬が旅行シーズン。十数年前にやっと旅することができました。現代社会では僻地とされる東トルコですが、様々な文明の遺跡の宝庫。
さて、二つしか季節のない地で暮らす人たち。歴史が根差した地は、彼らにどんな思いを至らしているのでしょうか・・・ (咲)


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サメット役のデニズ・ジェリオウルさんは、2018年の東京国際映画祭で上映された『シレンズ・コール』で主演を務めておられ、来日されました。『シレンズ・コール』記者会見 Q&A

ヌライ役 メルヴェ・ディズダル カンヌ国際映画祭最優秀女優賞受賞(トルコ人初)

2023/トルコ・フランス・ドイツ/198分
配給:ビターズ・エンド 
公式サイト:https://www.bitters.co.jp/2kisetsu/
★2024年10月11日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー!




posted by sakiko at 11:14| Comment(0) | トルコ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年01月07日

葬送のカーネーション  原題:bir tutam karanfil 英題:Cloves & Carnations

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(C)FilmCode

監督:ベキル・ビュルビュル
脚本:ビュシュラ・ビュルビュル、ベキル・ビュルビュル
出演:シャム・シェリット・ゼイダン, デミル・パルスジャン

荒涼とした冬のトルコ南東部。
太鼓の音と銃の音。小雪の舞う中、白い馬に赤いベールの花嫁が乗っている。
踊る人たち。料理が振舞われる。ラジオからは、「今朝、難民が国境を越えようとして亡くなった」というニュースが流れている。
年老いた難民の老人ムサは孫娘ハリメを連れ、亡き妻の遺体の入った質素な棺桶を引きながら国境をめざしている。故郷の地に埋葬するという約束を守るためだ。
ハリメは紛争の続く場所へ帰りたくないが、親を亡くし、仕方なく祖父と一緒に歩いている。なかなか乗せてくれる車はない。言葉の通じない地で、手助けしてくれる人もいる。トラクターやトラックに乗せてもらって、アナトリアの荒れた大地をいく・・・

2022年東京国際映画祭 アジアの未来部門で『クローブとカーネーション』のタイトルで上映された珠玉の物語。
老人ムサが孫娘ハリメと二人で亡き妻の棺を引いて、ひたすら故郷への国境を目指すのですが、アラビア語しか出来ないムサと違って、孫娘ハリメはトルコ語が出来て、肝心な話の時には通訳してくれます。演じたシャム・セリフ・ゼイダンは、2010年シリア生まれ。戦争のため2017年にトルコに移住し、ネヴシェヒル・カッパドキア地域の学校で学んでいます。本作が初の演技経験で、将来はプロの女優になることを夢見ているそうです。
老人ムサを演じたデミル・パルスジャンは、1950年イスタンブル生まれの俳優。アラブ人ではなくトルコ人ですが、しっかり難民の老人に見えます。
道中、様々な人と出会いますが、印象に残っているのはハヴァという老婆。「人生は短いの。死は別世界に行くこと」とハリメに語り、グローブの絵が描かれた箱に入ったキャンディを差し出します。「グローブは歯の痛みを和らげるのよ」の言葉に、人生の痛みも?と感じさせられました。
故国を離れざるを得ない人たちが今も絶えません。死して、せめて故郷の地で眠らせてあげたいという思いに涙。(咲)


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東京国際映画祭 『クローブとカーネーション』 Q&A報告 (咲) 
左:ベキル・ビュルビュル(監督/脚本/編集)、右:ハリル・カルダス(プロデューサー)


2022年/トルコ・ベルギー/トルコ語・アラビア語/ 16:9 / 5.1ch / カラー/103分
配給:ラビットハウス
協賛:トルコ文化観光省/トルコ国営放送局
公式サイト:https://cloves-carnations.com/
★2024年1月12日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBIS GARDEN CINEMA ほか全国順次公開



posted by sakiko at 04:06| Comment(0) | トルコ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年11月24日

読まれなかった小説  原題:Ahlat Agaci

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監督:ヌリ・ビルゲ・ジェイラン
出演:アイドゥン・ドウ・デミルコル、ムラト・ジェムジル、ベンヌ・ユルドゥルムラー、ハザール・エルグクル

海辺のチャナカレの町の大学を卒業して、山あいの故郷の村に帰ってきたシナン。作家になるのが夢で、父と同じ教師なら仕事をしながら書けるのではと目論んでいる。もうすぐ教師を引退する父は競馬に夢中で家も売り借金を抱えている。それなのに、祖父の土地で、井戸を掘り当てようと必死で、周りに呆れられている。
シナンは書き上げた小説「野生の梨の木」を出版したいと町長や本屋に打診するが、反応は芳しくない。出版費用に貯めていた金も、父親に持ち出される始末。
それでも、ようやく自費出版し、母に捧げる。
やがて兵役につくシナン。5ヵ月後に帰宅し、本屋に行くが1冊も売れてないといわれる。家に保管してあった山積みの本も濡れてしまっていた・・・

競馬に明け暮れ、家族を省みない父親に閉口しながらも、井戸掘りを手伝う息子。なかなか折り合わない父と息子だけれど、そこはやはり血の繋がった親子。しみじみとさせられる物語。
夢を持ち続けることの大切さや、口に出さなくてもお互いを思いやる心を教えてくれました。

シナンが大学に行っていたチャナカレの町は、イスタンブルとはマルマラ海をはさんだ向こうにあるダーダネルス海峡に面した町。出版への支援を打診した時に、「ガリポリの戦いや、トロイの話など、観光が絡めば」と言われます。第一次世界大戦の折、ムスタファ・ケマル(後のトルコ共和国初代大統領)が英仏軍を撃退したことで有名なガリポリ半島の向かいにある町。実は、私が1983年に初めてトルコを旅した時に、最初に泊まったのがチャナカレなのですが、その時には、かつて近くでそんな凄惨な戦いがあった場所だとは知りませんでした。
シナンの実家のある村は、トロイ遺跡に近いところ。でも、本作に出てきたチャナカレの町の中にあるトロイの木馬は、遺跡のそばにある木馬とは違って、ブラット・ピット主演『トロイ』(2004)で使われた映画の大道具。
町で有名な作家スレイマンと橋の上で言い争う場面があるのですが、そこからはチャナカレの町が見渡せます。
これまでのジェイラン監督の映画と同様、会話の一つ一つを聞き漏らせませんでした。(咲)

2018年/189分/G/トルコ・フランス・ドイツ・ブルガリア・マケドニア・ボスニア・スウェーデン・カタール合作
配給:ビターズ・エンド
公式サイト:http://www.bitters.co.jp/shousetsu/
★2019年11月29日(金)新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー

posted by sakiko at 15:43| Comment(0) | トルコ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする