2022年04月06日
潜水艦クルスクの生存者たち(原題:KURSK)
監督:トマス・ヴィンターベア
出演:マティアス・スーナールツ、レア・セドゥ、マックス・フォン・シドー、コリン・ファース
乗艦員118名を乗せた原子力潜水艦クルスクは軍事演習のため出航するのだが、艦内の魚雷が突然暴発、凄まじい炎が艦内を駆け巡る。次々と命を落とす惨状に直面したミハイル(マティアス・スーナールツ)は、爆発が起きた区画の封鎖を指示し、部下と安全な艦尾へ退避を始めるが、艦体は北極海の海底まで沈没し、わずか23名だけが生き残った。
海中の異変を察知した英国の海軍准将デイビッド(コリン・ファース)は救援を表明するが、ロシア政府は沈没事故の原因は他国船との衝突にあると主張し、軍事機密であるクルスクには近寄らせようとしない。乗組員の命よりも国家の威信を優先する政府の態度に、ターニャ(レア・セドゥ)たち家族は怒りを露わに抗議する。酸素が徐々に尽きていく中、果たして愛する家族のもとへ帰る事はできるのだろうか──
2000年にロシアで実際に起きた未曾有の原子力潜水艦事故の映画化です。当時、ニュースをご覧になっていて事故のことを覚えていらっしゃる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、もしご存じなければ調べないまま、ご覧ください。登場人物たちの喜びや希望、悲しみ、絶望、怒りがストレートに伝わってきます。
作品では事故そのものだけでなく、乗組員たちのそれまでの状況にも触れ、海軍でありながら陸での生活が長く、海上での経験が圧倒的に少なかったことが描かれていました。それでも海軍としての絆は強く、海底に沈んだ艦内で生き残った者たちが支え合う様子に胸が締め付けられます。
一方で機密にこだわる政府の対応は本当に腹立たしい。「国を守る」といったときの「国」とはいったい何を意味するのでしょうか。主人公の息子が海軍の高官に対して取った、胸をすくような行動がそれを代弁しています。プーチン大統領があのとき、どこで何をしていたのかにも触れた製作側に勇気に頭が下がります。
ところで、主人公の司令官ミハイルの妻をレア・セドゥが演じていますが、自身も出産を経験した直後に初めての母親役に挑みました。『アデル、ブルーは熱い色』でカンヌ映画祭史上初となる出演女優としてのパルム・ドール受賞を果たしたころに比べて、すっかりたくましくなっています。(堀)
救助がもう少し早かったら父親は助かったかもしれないのに、国の威信がそれを阻んだと知った時の、妻や子どもたちの思いに涙でした。
冒頭、水に潜る少年ミーシャ。腕時計をした父の腕が映ります。防水の腕時計。
「57秒潜れたよ!」と頭をあげるミーシャ。実は家のバスタブ。
父ミハイルは、潜水艦の乗艦員。
出航前に、乗艦員仲間の結婚式が行われます。披露宴のために、お酒を調達しにいくミハイルたち。ウォッカだけでなくシャンパンも揃えるためには、用意したお金では足りなくて、腕時計を差し出します。この腕時計の辿ったドラマにも涙です・・・ (咲)
2018年/ルクセンブルク/英語/117分/カラー/シネスコ/5.1ch
配給:キノシネマ
© 2018 EUROPACORP
公式サイト:https://movie.kinocinema.jp/works/kursk
★4月8日より kino cinéma横浜みなとみらい他にて全国順次公開
2019年11月17日
テルアビブ・オン・ファイア 原題:Tel Aviv on Fire
監督:サメフ・ゾアビ
脚本:サメフ・ゾアビ、ダン・クラインマン
出演:カイス・ナシェフ(『パラダイス・ナウ』『オオカミは嘘をつく』)、ルブナ・アザバル(『灼熱の魂』『パラダイス・ナウ』)、ヤニブ・ビトン、マイサ・アブドゥ・エルハディ(『ガザの美容室』)、ナディム・サワラ、ユーセフ・スウェイド
エルサレムに住むパレスチナ人の青年サラームは、人気メロドラマの制作インターン。ヘブライ語のチェック係だ。ヨルダン川西岸地区の撮影所に通うのに毎日イスラエルの検問所を通らなければならない。ある日、変な質問をしたため車から降ろされる。ドラマの脚本を持っていたことから、検問所の主任アッシは、サラームを脚本家と勘違い。アッシの妻が大好きなメロドラマだと知って、筋書きに介入したがり、毎日のようにサラームを検問所に招きいれる・・・
イスラエル国籍のパレスチナ人であるサメフ・ゾアビ監督が描いた、大笑いのブラックコメディー。映画内のメロドラマ「テルアビブ・オン・ファイア」は、1967年の第三次中東戦争前夜を舞台にしたパレスチナ女性とイスラエル将校の恋物語。恋の行方について、検問所の主任アッシはあれこれアイディアを出してきます。政治的背景も絡んでくるのでインターンのサラームも本気で対抗案を出します。やがて、本物の脚本家に格上げとなったサラームは、イスラエルのアッシにも、パレスチナ側にも納得のいく笑撃のラストを思いつきます。
ユダヤ人とパレスチナ人が互角に意見を交わすということは、現実では残念ながらありえないこと。こうあってほしいという監督の思いを強く感じました。
昨年の東京国際映画祭で「イスラエル映画の現在2018」の一環として、コンペティション部門で上映され、ぜひ公開してほしいと思っていた作品です。 (咲)
東京国際映画祭 イスラエル映画の現在2018『テルアビブ・オン・ファイア』舞台挨拶はこちらで!
★アカデミー国際長編映画賞ルクセンブルク代表に決定!!
イスラエルとルクセンブルグ合作で、劇中で展開するドラマ部分がルクセンブルグのスタジオで撮影され、プロデューサーをはじめ、多くのルクセンブルクのスタッフも参加しているということもあり、ルクセンブルグ代表となったとのことです。
監督の喜びのコメントは、こちらで!
☆公開を前に来日したサメフ・ゾアビ監督にインタビューの機会をいただきました。
インタビュー記事は、こちらで!
2018年/97分/ルクセンブルク・フランス・イスラエル・ベルギー/カラー/アラビア語・ヘブライ語
配給:アットエンタテインメント
公式サイト:http://www.at-e.co.jp/film/telavivonfire/
★2019年11月22日(金)新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開