2022年05月02日

マイ・ニューヨーク・ダイアリー   原題:My Salinger Year

『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』ビジュアル.jpg
9232-2437 Québec Inc - Parallel Films (Salinger) Dac © 2020 All rights reserved.


監督・脚本:フィリップ・ファラルドー(『ぼくたちのムッシュ・ラザール』『グッド・ライ~いちばん優しい嘘~』)
原作:「サリンジャーと過ごした⽇々」(ジョアンナ・ラコフ 著/井上里 訳/柏書房)
出演:マーガレット・クアリー、シガニー・ウィーバー、ダグラス・ブース、サーナ・カーズレイク、ブライアン・ F ・オバーン、コルム・フィオールほか

1995年、秋、ニューヨーク。作家を夢見るジョアンナ。職探しに人材紹介会社を訪ねる。「作家志望は敬遠されるから出版社はダメね」と、老舗出版エージェンシーを薦められる。著者の代理人として出版社へ企画を持ち込んだり、著作物の権利管理を代行する仕事。ジョアンナは、J.D.サリンジャー担当のマーガレットの下で働き始める。
日々の仕事は、世界中から毎日大量に届くサリンジャーへの熱烈なファンレターに返事を出すこと。でも、ジョアンナは「ライ麦畑でつかまえて」どころか、サリンジャーの小説を一つも読んでなかった。
定型文で返事を出せと指示されていたが、戦争体験を打ち明ける退役軍人、作家志望の娘を亡くした母親、返事を貰えれば落第せずに済むという学生・・と、熱心に語り掛ける手紙に、ジョアンナは自分の署名入りで返事を書き始める。
そんなある日、ボスの不在時にサリンジャーからの電話を取る。「人嫌いという噂は嘘よ」とボスから聞いていた通り、「会えるのを楽しみにしてるよ」と気さくに話しかけてくれるサリンジャー。ジョアンナが詩を書くと知って、その後も電話で励ましてくれる。
 ようやくボスから数点の原稿を渡され、ふさわしい雑誌を選んで売り込むよう任される。担当した作品の出版が初めて決まり、上司から、「これで一人前ね」と言われる・・・

目をきらきらさせて、水を得た魚のようにはつらつと働くジョアンナが、とてもキュート。ジョアンナはいつか作家になりたいという目標に向かって、日々邁進しているのです。まだ若い時に、自分のやりたいことを見つけられるっていいなと思いました。
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フィリップ・ファラルドー監督には、『ぼくたちのムッシュ・ラザール』が公開された折にインタビューしたことがあって、こんな爽やかな作品を作ってくれた!と、懐かしく思い出しました。
サリンジャーは、なかなか姿を見せないのですが、映画のラスト、ジョアンナが外出先から帰ってくると、シガニー・ウィーバー演じる上司を訪ねてきていて歓談中。 ジョアンナがサリンジャーと直接会えたかどうかは、ぜひ劇場で!  ラストがとても爽やかで素敵です。(咲)


2020年/アイルランド・カナダ合作/101分/ビスタ
提供:カルチュア・パブリッシャーズ、ビターズ・エンド   
配給:ビターズ・エンド
公式サイト:https://bitters.co.jp/mynydiary/
★2022年5月6日(金)新宿ピカデリー、Bunkamura ル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー 
posted by sakiko at 18:11| Comment(0) | アイルランド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年10月29日

ウルフウォーカー(原題:Wolfwalkers)

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監督:トム・ムーア、 ロス・スチュアート
脚本:ウィル・コリンズ
音楽:キーラ、オーロラ
声の出演:オナー・ニーフシー(ロビン)、エバ・ウィッテカー(メーヴ)、ショーン・ビーン(ビル)
日本語吹き替え:新津ちせ(ロビン)、池下リリコ(メーヴ)、井浦新(ビル)

1650年、アイルランドの町キルケニー。ロビンは狼ハンターの父と一緒にイングランドからやってきた。父から「女の子は家事をしていなさい。森には危険なオオカミがいるので、家から出ないように」ときつく言われていたのに、こっそり出かけていく。
自由で不思議な力を持つメーヴという少女と出会い、友達になった。人間とオオカミが身体に共存する”ウルフウォーカー”のメーヴは、人間のために森がだんだん小さくなり、オオカミの住む場所がなくなっていること、オオカミの姿で出かけた母親が戻らなくて心配なことを打ち明ける。翌日、城の調理場で働くように送り出されたロビンは、メーヴの母親らしい大きな狼が檻に囚われているのを知った。なんとしても助け出して、オオカミ退治をやめさせなくては。

『ブレンダンとケルズの秘密』(2003)『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』(2014)に続くケルトの伝説三部作の最終作品。前作では美術監督だったロス・スチュアートが共同監督となっています。
東京アニメアワードで鑑賞して以来、その美しさ、質の高さに感嘆したカートゥーン・サルーン・スタジオの制作です。『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』のころに着想、『ブレッドウィナー』(2017)の後に本格的に制作が開始され、構想7年で完成となりました。監督が「大好き!これからも続ける!」という2D手描きアニメーションの世界観はそのまま、今回は3Dソフトウェアも使って森や狼のモブシーンなどが作られました。手描きの線の力を大切にして消さずに残し、ソフトウェアを使った絵も紙に出力して手を加えているそうです。街と城、森、そこに住む人々、動物をそれに合った手法・色味で描き分けているのにも注目を。

イングランドがアイルランドの支配権を手に入れようと画策していた時代、森のオオカミを悪者として退治することも人心の掌握手段であったのでしょう。そんな歴史を背景に、街と森、そこに住む人間とオオカミ、男と女と相反するものが、共存すること理解しあうことも物語の中に語られていました。
この作品を観て細田守監督の『おおかみこどもの雨と雪』(2012)を思い出しました。設定は異なるものの、通ずるものがありますね。(白)


2020年/アイルランド、ルクセンブルク/カラー/シネスコ/110分
配給:チャイルド・フィルム
(C)WolfWalkers 2020
https://child-film.com/wolfwalkers/
★2020年10月30日(金)YEBISU GARDEN CINEMA他ロードショー
posted by shiraishi at 13:25| Comment(0) | アイルランド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年03月14日

CURED キュアード(原題:The Cured)

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監督・脚本:デイヴィッド・フレイン
出演:エレン・ペイジ、サム・キーリー、トム・ヴォーン=ローラー

人間を凶暴化させる新種の病原体、メイズ・ウイルスのパンデミックによって大混乱に陥ったアイルランド。6年後、治療法が発見されたことで秩序を取り戻し、治療効果が見られない25%の感染者は隔離施設に監禁され、治癒した75%は“回復者”として社会復帰することになった。回復者のひとりである若者セナン(サム・キーリー)は、シングルマザーの義姉アビー(エレン・ペイジ)のもとに身を寄せるが、回復者を恐れる市民の抗議デモは激しさを増すばかり。やがて理不尽な差別に不満を募らせ、過激化した回復者のグループは社会への復讐テロを計画する。その怒りと憎しみの連鎖はセナンやアビー親子を巻き込み、新たな恐怖のパンデミックを招き寄せるのだった……。

あまたあるゾンビ映画でこれまで描かれなかった「その後」です。フィクションとはいえ、辛いのは元ゾンビだった治療済みの人たちの記憶が鮮明であり、PTSDに苦しんでいること。戦争中に命令のまま行ったことに苦しむ帰還兵士たちが重なります。記憶が日ごとに薄れても、あったことをなかったことにできないのは本人です。主演のエレン・ペイジが製作にあたっています。
つい先日、新型コロナウィルスのパンデミック宣言が出たばかりなので、なんだか身近な感じがしてしまいます。今、電車内や映画館で咳き込んだら…みんな離れていきそうです。マスクはもちろんお茶やのど飴必携な今日この頃。早く終息させるにはどうすれば?(白)


感染者のうち、75%は治癒したとされ、回復者として社会復帰するのだが、家族はそれをすんなり受け入れられるのだろうか。若者セナンはジャーナリストである義理の姉アビーが身元引受人になってくれたが、元弁護士のコナーは父親から拒否される。父親は妻を襲った息子が許せないのだ。しかし、義弟を受け入れたアビーも不安がないわけではない。当然である。彼女は感染パニックの中で夫を喪っており、セナンを受け入れたことで、自宅に差別的な落書きをされた。とはいえ、ジャーナリストとして、理性的な選択をしなくてはいけないという思いもある。その苦悩はいかばかりか。エレン・ペイジが揺れる心情を繊細に体現した。
本作はあくまでもゾンビ・ウィルスへの恐怖と不安を描いているが、これはさまざまな差別や対立に置き換えられる。立場の違いを乗り越え、みなが互いに受け入れて、手を取り合って生きていく社会の実現は難しい。しかし、本作のラストでアビーはセナンを信じ、未来を託す。どんな状況でも希望はあると信じたい。(堀)


2017年/95分/アイルランド・フランス合作
配給:キノフィルムズ
©Tilted Pictures Limited 2017
公式サイト:http://cured-movie.jp/
★2020年3月20日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国にて順次公開

posted by ほりきみき at 18:16| Comment(0) | アイルランド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年12月15日

ブレッドウィナー  原題:The Breadwinner

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監督:ノラ・トゥーミー
脚本:アニータ・ドロン
原作:デボラ・エリス 「生きのびるために」(さ・え・ら書房)
エグゼクティブ・プロデューサー:アンジェリーナ・ジョリー

2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件後のアフガニスタン、カーブル。11歳のパヴァーナは、教師だった父、作家の母、姉と幼い弟と、小さなアパートの一部屋で暮らしている。父が語る物語を聞きながら育ったパヴァーナは、ダリー語とパシュトゥー語の読み書きの出来る少女。路上で父と一緒に物を売りながら、人々に手紙を読み書きして生計を立てるのを手伝っている。ある日、父親が突然タリバンに連行されてしまう。タリバンは、女性が男性を伴わずに家を出ることを禁じていて、一家は水を汲みに行くことも、食料を買いに行くこともできなくなってしまう。家族を支えるため、パヴァーナは髪を切り“少年”として働き始める。やはり少年になりすました同級生に出会い、彼女に励まされながら父を刑務所から救い出そうと奔走する・・・

女性が外で働くことどころか、男性の同伴なしに外出することさえ禁じたタリバン。男手を失った家族は生きていくことができません。髪を切って男になりすまして一家の稼ぎ手(ブレッドウィナー)として健気に働くパヴァーナの姿に心が痛みます。アフガニスタンで、どれだけの女性が、こんな思いをしたのでしょう。
タリバン政権の時代が去っても、中村医師が狙い撃ちされて殺されてしまうようなアフガニスタン。男性とて、落ち着いた暮らしはできない社会です。
父親がパヴァーナに、かつてアフガニスタンにも平和な時代があったことを語ります。
11歳の少女がダリー語とパシュトゥー語の両方の読み書きが出来るのはすごい!と思ったのですが、かつて平和な時代には、二つの国語をそれぞれの民族が両方とも学校で習ったことを思い出しました。教育に力を入れ、女性も、もちろん学校に通っていた時代があるのです。
過酷な状況をアニメーションで描くことにより、目を背けさせることなく、人々の心に深く伝わってきます。過酷な運命の中でも、物語を語ることを忘れないパヴァーナの姿に涙が出ます。
パヴァーナは、はたして無事父に会えるのか・・・とハラハラしながら物語の行方を追いました。 (咲)


★注:ヒロインの名前は、「パヴァーナ」と片仮名表記されていますが、ダリ―語の発音では、パルヴァーナ もしくは パルワーナが近いです。英文字表記Parvanaをカタカナにする時に、rが長母音になったり、抜けてしまうのは、よくあることです。ちょっと気になりながら、この作品紹介の中では、公式サイトに従いました。ちなみに、Parvanaは、蝶のこと。蝶のように軽やかに飛び回ってほしいものだと願うばかりです。

12/22(日)サヘル・ローズさんトーク (映画上映13:00~14:50の上映終了後25分程度)

2017年/アイルランド・カナダ・ルクセンブルク合作/94分/G
配給:チャイルド・フィルム、ミラクルヴォイス
後援:アイルランド大使館 カナダ大使館
公式サイト:https://child-film.com/breadwinner/
★2019年12月20日(土)からYEBISU GARDEN CINEMAほか、全国順次公開




posted by sakiko at 20:25| Comment(0) | アイルランド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年11月02日

グレタ GRETA(原題:GRETA)

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監督・脚本:ニール・ジョーダン
出演:イザベル・ユペール、クロエ・グレース・モレッツ、マイカ・モンロー、コルム・フィオール、スティーヴン・レイ ほか

ニューヨークの高級レストランでウエートレスとして働くフランシス(クロエ・ グレース・モレッツ)は、帰宅中の地下鉄の座席に誰かが置き忘れたバッグを見つける。持ち主は、都会の片隅にひっそりと孤独に暮らす未亡 人グレタ(イザベル・ユペール)。彼女の家までバッグを届けたフランシス は、彼女に亡き母への愛情を重ね、年の離れた友人として親密に付き合うようになる。しかしその絆は、やがてストーカーのような付きまといへと発展し、フランシスは友人のエリカ(マイカ・モンロー)とともに恐ろしい出来事に巻き込まれていく。

地下鉄に忘れられていたバッグを届けただけなのに…。グレタがストーカーとなってフランシスに付きまとう。次第に明らかになるサイコパスぶり。よく考えると設定に現実味はないが、リアルに思えるのはユペールのなせる技。どきっとして、何度も飛び上がってしまった。
グレタがつま先立ちでダンスをするシーンがある。内心の喜びがあふれていて、とてもかわいいのだが、喜びの内容が恐ろしく、ホラー映画のよう。
リストの「愛の夢」が効果的に使われており、ピアノシーンはユペール本人が弾いているという。(堀)


2018年/ アイルランド・アメリカ/ 英語/ 98分/ カラー/ シネマスコープ/ 5.1ch
配給:東北新社 STAR CHANNEL MOVIES
© Widow Movie, LLC and Showbox 2018. All Rights Reserved.
公式サイト:http://greta.jp/
★2019年11月8日(金)、TOHOシネマズ シャンテ、TOHOシネマズ 新宿ほか全国ロードショー
posted by ほりきみき at 23:49| Comment(0) | アイルランド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする