2023年07月30日
ミャンマー・ダイアリーズ
監督:ミャンマー・フィルム・コレクティブ
A film by Myanmar Film Collective
匿名のミャンマー人監督たちによる制作
東南アジアの国、ミャンマー。民主化にむけて変革が続いたこの10年、市民は自由と発展への希望を抱き始めていた。2021年2月1日、軍が再び国の支配に乗り出し、反発した民衆による大規模な抗議デモが全国各地で勃発。人々は抵抗のシンボルとして三本指を掲げて軍政に反対する声をあげるも、一人の少女の死を皮切りに軍の弾圧行為は激化し、人々の自由と平穏な暮らしは崩れていく……。
ミャンマーに軍事政権復活!のニュースに驚いてからもう2年半になります。信心深く穏やかなミャンマーの方々の話を聞くにつけ、一度訪ねてみたい国でしたがすっかり様変わりしてしまいました。古くは中国の天安門事件、香港の雨傘運動を思い起こします。そうこうしているうちにソ連とウクライナの戦争突入で、ニュースは新しいことで上書きされ、アジアの政変はあまり報道されなくなってしまいました。けれども地元の人にとっては、戦々恐々の日々は変わらず続いています。監視の目をくぐりぬけて市民が撮影した映像は、SNSで拡散されました。シームレスにつながれて生々しく当時を伝えます。
戦争も、暮らしの激変も気づかないように静かにやってきて、いきなり違う明日になってしまうことを忘れてはいけません。離れていても何かできることはないか、この作品からヒントを見つけてください、(白)
●2022年第72回ベルリン国際映画祭パノラマ部門にてドキュメンタリー賞を受賞
2022年/オランダ・ミャンマー・ノルウェー合作/カラー/DCP/70分/ミャンマー語
配給:E.x.N
© The Myanmar Film Collective
https://www.myanmar-diaries.com/#modal
★2023年8月5日(土)ポレポレ東中野ほか全国順次公開
2023年06月29日
愛しのクノール(原題:Knor)
監督:マッシャ・ハルバースタッド
原作:トスカ・メンテン
日本語吹替え版:すぅ(バブス)、泉谷しげる(スパウトじいちゃん)、ゆかるん(母マルグリート)、あいにゃん(肉屋のお客さん)、ユージ(父ノール)、杉田智和(肉屋のスマック)、森本73子(クリスおばさん)、知念明希保(シーン)
まもなく9歳になる少女バブスは、誕生日プレゼントに欲しかった仔犬のかわりに、祖父から子豚をプレゼントされました。最初は不満だったバブスですが、子豚にクノールと名づけて一緒にすごすうち、かけがえのない存在になっていきます。しかし、おじいちゃんが子豚をプレゼントしたのには、とんでもない秘密が隠されていたのです。
オランダからやってきたパペット・アニメーション。個性的な登場人物と、作りこまれた背景をそばでじっくり見たくなります。
冒頭ではお爺ちゃんと肉屋のスマックとの確執が描かれます。遠くで暮らしていたお爺ちゃんが帰ってきて、騒動の種が蒔かれてしまいます。ただ可愛いだけのアニメではなく、実は…という真実も隠されていて大人にも見ごたえがあります。大切なものを守るために何ができるんでしょう?悩めるバブスや子豚を中心に笑いもたっぷり、パペットたちの大騒ぎに引き込まれます。
日本語吹き替えには、ガールズバンド”SILENT SIREN”のメンバーが声優初挑戦。一癖も二癖もあるスパウトお爺ちゃん役に泉谷しげるさん。なかなかの配役ですね。(白)
2022年/オランダ/カラー/73分
配給:リスキット
(C)2022 Viking Film,A Private View
https://knor.info/
★2023年7月7日(金)ロードショー
2022年03月06日
アンネ・フランクと旅する日記 原題:Where Is Anne Frank
監督・脚本:アリ・フォルマン(『戦場でワルツを』『コングレス未来学会議』)
アニメーション監督:ヨニ・グッドマン(『戦場でワルツを』『コングレス未来学会議』)
アートディレクター:レナ・グバーマン(『コングレス未来学会議』)
オリジナルスコア:カレン O(『かいじゅうたちのいるところ』)、ベン・ゴールドワッサー
原案:「アンネの日記」(ユネスコ「世界記憶遺産」2009 年登録)
協力:アンネ・フランク基金
声の出演:ルビー・ストークス、エミリー・キャリー
「アンネの日記」:第二次世界大戦下、ユダヤ人の少女アンネ・フランクが“空想の友達”キティー宛に綴っていた日記。1942年6月12日、13歳の誕生日に父・オットーから贈られたチェック柄の日記帳に、ナチスから身を潜めていた隠れ家での生活やペーターとの初恋などを書き連ねた。1947年、アウシュヴィッツを生き延びたオットーによって初出版。
現代のアムステルダム。「アンネの日記」オリジナル版を公開中の博物館<アンネ・フランクの家>の前には、早朝から大勢の人々が並んでいる。前夜、激しい嵐のせいで日記に異変が起き、アンネの“空想の友達”キティーが現れる。アンネと過ごした日から、既に75年経ったことを知らないキティーは、アンネを探し回る。日記を読み始めたキティーは時をさかのぼり、青春を謳歌していたアンネがナチスから身を潜めるため、家族と共に隠れ家に移る姿を見る。キティーが日記を手放すと、そこはまた現代。キティーは、アンネが恋をしていた少年と同じ名前のペーターと出会う。彼から、「キティーが日記を持って外に出ると姿が現れるが、日記を手放すとキティーは消えてしまう」という法則を発見したと聞かされる。日記を携えて街に出たキティーは、日記を盗んだ少女として警察に追われる。捕まる寸前、ペーターに助けられたキティーは、彼が仲間と運営する難民のためのシェルターに匿ってもらう。難民たちが強制送還させられそうなことを知り、世界的に貴重な財産である「アンネの日記」の力で、難民たちの命を救おうとする・・・
予備知識なしに観て、ホロコーストの犠牲になったアンネ・フランクと、現在の社会が抱える紛争による難民や人種差別の問題を無理なく自然に繋げる語り口に感心しました。
本作の企画は、アンネ・フランク基金(1963 年設立)がアンネの遺族とともに 2009 年、アニメーション映画制作を決定したことから始まりました。「アンネの日記」が1947年に出版されて 75 周年、最初の映画が作られてから 65 年後の完成を目指した、約 10 年がかりのプロジェクト。白羽の矢を立てられたのは、『戦場でワルツを』(08)で国際的な脚光を浴びたアリ・フォルマン監督。彼に託された条件は、「現在と過去をつなぐこと」、「アンネが最期を迎えるまでの7ヶ月間を描くこと」。アリ・フォルマン監督は、アンネが空想した親友キティーを現代によみがえらせる形で、キティーが日記に書かれていないアンネの最期の日々をたどり、さらには今の社会が抱える難民問題にも繋げて描いたのです。
監督は、アンネたちと同じ週にアウシュヴィッツに到着した両親から、ホロコーストの恐ろしい話を小さいときから聞かされてきて、逆に子どもたちには空想を膨らませる形で伝えるのがふさわしいと考えたそうです。思えば、私にとっては小中学生の時に、何度も読んだ「アンネの日記」を通じて、なぜユダヤ人が排斥されるのかに関心を持ち続けてきました。1冊の本が及ぼす影響の大きさを感じます。まだ本を読んでいない子どもたちには、この映画が原作を読むきっかけになればと願います。(咲)
アニメーションならではの表現が美しい作品。キティーが現れたり消えたりする場面も見入ってしまいます。アンネの”空想の友達キティ”はこんな姿なんですね。アンネに向かってキティーが「私を赤毛にするなんて!」と怒る場面があります。気のおけない女の子同士の口喧嘩のようで、思わず口元が緩みます。自分たちと同じように、血の通った女の子があの時代に生きていたのだ、と親近感がわくはず。
日記から現れたキティーは初めて外の世界に出て、様々な体験をします。ペーターと出逢うストーリーにしてくれた監督にお礼が言いたい気分になりました。(白)

『戦場でワルツを』アリ・フォルマン監督来日記者会見
http://www.cinemajournal.net/special/2009/bashir/index.html
★東京アニメアワードフェスティバル 2022の招待作品として上映決定!
3月13日(日)13:00~ 池袋HUMAXシネマズ
2021 年/ベルギー・フランス・ルクセンブルク・オランダ・イスラエル/英語/99 分/ビスタサイズ/5.1ch
日本語字幕:松浦美奈
後援:オランダ王国大使館/イスラエル大使館
配給・宣伝:ハピネットファントム・スタジオ
公式サイト:https://happinet-phantom.com/anne/
★2022年3月11日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
2020年11月08日
粛清裁判 原題:The Trial
(C)ATOMS & VOID
トラムや馬ぞりが行き交う雪のモスクワ。教会の鐘が響く。
ソ連最高裁の特別法廷に次々と集まる人。
反革命組織産業党裁判。被告人たちの名が読み上げられる。
被告人たちの供述を大勢が見守る。
街路では“破壊分子”に銃殺を要求するデモ。
「帝国主義に手を貸した者に容赦ない判定を!」
被告人の最終陳述。「私は仕事がしたかった。労働者階級に重い罪を犯した」
判決が下される。銃殺刑や10年の自由剥奪、全財産の没収・・・
拍手し歓声をあげる聴衆・・・
1930年、モスクワで行われた、いわゆる「産業党裁判」と呼ばれるスターリンによる見せしめ裁判。8名の有識者が西側諸国と結託しクーデターを企てた疑いで裁判にかけられたもの。90年前のソヴィエト最初期の発声映画『13日(「産業党」事件)』の発掘されたアーカイヴ・フィルムにより捏造と判明。スターリンは民衆を革命の原動力とするために、打倒すべき相手として、「産業党」の人々の罪をでっちあげたのです。
被告人は、30代後半から60代半ばまでの学者たち。国家の発展に寄与するであろう人たちを国家権力が抹殺してしまったことに驚愕しました。被告人にされた人たち、そしてそのご家族の無念を思い涙。スターリンの時代に、国家の知的財産の多くが粛清という形でないがしろにされたことを、ほんとうに残念におもいます。(咲)
セルゲイ・ロズニツァ「群衆」ドキュメンタリー3選 『国葬』『粛清裁判』『アウステルリッツ』
http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/478352334.html
2018年/オランダ、ロシア/ロシア語/モノクロ/123分
配給:サニーフィルム
公式サイト:https://www.sunny-film.com/sergeiloznitsa-films
★2020年11月14日(土)~12月11日(金)シアター・イメージフォーラムにて公開 全国順次ロードショー
国葬 原題:State Funeral
本作は、1953年に亡くなった独裁者スターリンの国葬の記録。
モスクワ郊外クラスノゴルスクでスターリンの国葬を捉えた大量のアーカイヴ・フィルムが発見される。当時、200名弱のカメラマンによりソ連全土で撮影された、幻の未公開映画『偉大なる別れ』のフッテージだった。セルゲイ・ロズニツァは、それを丁寧に紡ぎ、67年前に執り行われた国葬と、スターリンの訃報に触れたソ連各地の人々の姿を蘇らせている。
1953年3月5日、スターリンの死がソビエト全土に報じられる。ウクライナ、タジク、アゼルバイジャン、ハバロフスク・・・ 神妙な顔で訃報を聞く人々。
エストニア、ラトビア、モスクワ・・・ 長蛇の列を作って新聞を買い求める人々。
半旗が掲げられる町。
空港には、外国の要人が次々に到着する。チェコスロヴァキア、ポーランド、フィンランド、中国、ブルガリア、ルーマニア、ハンガリー、英国共産党・・・
モスクワの労働組合会館「柱の間」に安置されたスターリン。
地方の会場にも花輪が次々に届く。
葬儀が執り行われる。
レーニン=スターリン廟での追悼集会ではスターリン亡きあとのソ連を担う政治家たちの顔が並ぶ。
弔砲が打たれる。呼応するように汽笛が鳴り、蒸気機関⾞は動輪を停める・・・
(C)ATOMS & VOID
「この世にスターリンのいない最初の日。彼が我々のもとから去った。もう成す術はない」というアナウンスが響く。スターリンの強権で、様々な思いをしたであろう人々。内心、安堵の気持ちがよぎったのではないか。もちろん、そんなことはお首にも出せない。
弔問する国民の中には、大げさに泣く婦人も見受けられたが、多くは静かに神妙な顔で指導者を見送っている。
ソヴィエトの西から東まで、隅々のところで多くのカメラが捉えた国葬の日の人々の姿から、当時の暮らしを垣間見ることができ興味深かった。中でも、タジクのコルホーズの人々の衣服を観ることができ感無量。無理矢理ソ連だったことにも思いが至った。
貴重なアーカイヴ映像を、素晴らしい編集で壮大な絵巻物に仕上げてくれたセルゲイ・ロズニツァに感謝! (咲)
スターリンの死を悼む国民たちの姿を淡々と映し出す135分。棺に横たわるスターリンのそばを通ることができたのは、スクリーンに映し出された大勢の人たちのほんのわずかなはず。それでもみなが弔意を示して外に集う様子に驚きました。何が彼らをそこまでさせたのでしょうか。みながスターリンの死を悲しんでいるかのような仰々しい放送の音声が入っていますが、本心はどうだったんだろうという視点で見ていたら、いつの間にか135分が経ってしまいました。もしかすると、国葬に参列することで、それまで快く思っていなかった人々がスターリンは偉大な指導者だったと擦りこまれていったのかもしれません。(堀)
★11/14(土)公開初日、13時〜『国葬』上映後にロズニツァ監督のZoomセッション開催
第76回ベネチア国際映画祭 正式出品
【セルゲイ・ロズニツァ「群衆」ドキュメンタリー3選】として、『国葬』『粛清裁判』『アウステルリッツ』一挙3作同時公開
http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/478352334.html
2019年/オランダ、リトアニア/ロシア語/カラー・モノクロ/135
配給:サニーフィルム
公式サイト:https://www.sunny-film.com/sergeiloznitsa
★2020年11月14日(土)~12月11日(金)シアター・イメージフォーラムにて3作一挙公開 全国順次ロードショー