2026年03月01日
ナースコール(原題:HERDN 英語題:
監督・脚本:ペトラ・フォルペ
出演:レオニー・ベネシュ(フロリア)、ソニア・リーゼン(ベア)、アリレザ・バイラム(ジャン)
フロリアは州立病院に勤める看護師。プロ意識が高く、技術も申し分ない。しかし今日の遅番のシフトで同僚が一人休み、二人で手分けして仕事をすることになった。26人の患者の病室を回ってバイタルチェック、看護学生の指導もしなければならない。不安や孤独を抱える患者の要望にも誠実にこたえたいフロリアだったが、時間も人手も足りない。ひっきりなしにかかってくる電話や緊急のナースコールへの対処を迫られ、次第に苦境に陥っていく。混乱の中、普段はすることのないミスや患者への応対をしてしまった。
目の回るような忙しさ、とつい簡単に言いがちですが、このフロリアほどの苦境に立たされたことはありません。医師や看護師の不足は命にかかわることなのに、外の人間は実態を知りません。自分が入院して初めて、心弱くなり、不安になり医師や看護師さんの存在の大きさに気づきます。患者や家族は不安のあまり苦情を一番身近な看護師にぶつけたくなりますが、それほどたよりにしているのです。看護師さんの笑顔や言葉がどんなに嬉しいことか。その陰にはこんなご苦労があることを知るのは大事。日本の映画やドラマも天才医師ばかりでなく、看護師やほかの職種の方々にもスポットを。
フロリアを演じるのは『セプテンバー5』『ありふれた教室』のレオニー・ベネシュ。撮影にあたってきちんと看護師の仕事を学び、手順や動きを身体に覚えさせたようです。本物の看護師さんのようでした。
彼女のあまりの忙しさに、せめて外部からの電話の受付は別の人がやって、と思いましたが、スイスではこれが普通なのでしょうか?1時間半あまりフロリアと共に過ごすと背中をそっと撫でてやりたくなります。お疲れ様。(白)
フロリアの息つく暇もない一日。患者をCT室に移動中にも、忘れ物の問い合わせや、もう点滴の時間と迫る患者。一人一人、対応する内容が違うから、私にはとても覚えきれなくて、いくつも間違ってしまいそうです。トルコやブルキナファソの患者さんもいて、意思の疎通もなかなか大変。一日の仕事が終わって、ロッカールームに移動するエレベーターの中で、やっと食べ物を口にするフロリア。ほんとにお疲れ様。
私自身、かつて40日間入院した時に、看護師さんには、ほんとうにお世話になりました。激務なのに、皆、笑顔で対応してくださって、病を抱えて不安な中、とても癒されました。
スイスでは、2030年までに看護師3万人不足、全世界では、1300万人不足の予想と映画の最後に出てきました。こんなに大変な仕事であることを見せつけられたら、不足と言われても、なかなか看護師を志望する人はいないのでは? (咲)
看護師の1日を描いたこの映画。あまりの目まぐるしさに、観ている方も目がまわりそう。次から次といろいろなことがのしかかる。それも、命に係わることが多い。よく間違いもなく薬を調合したり、患者に施したりできると感心した。
私は心臓手術で2回長期に入院したけど、大きな病院でやはり看護師さんが目まぐるしく走るように移動して仕事をこなしているのを見たことがある。その姿を見て、そう簡単にナースコールは押せないなと思ったけど、それでも自分でできないことは呼ぶしかなく、「今、大丈夫かな?」と思いながらナースコールしていた。でも、同じ病室でしょっちゅうナースコールを押す人がいて、私もたまりかねて「そんなにしょっちゅうナースコールしても、すぐには来られないですよ」と言ったことがある。この映画でも、急ぎでないナースコールに振り回されるシーンが出てきた。
携帯電話に出るシーンも多かったけど、患者さんの家族から直接電話がかかってくるシーンが出てきて、このあたりは日本とは違うなと思った。日本では患者家族から看護師さんの仕事で使う携帯にかかってくることはないのでは?と思った。私が入院していた病院だけなのかもしれないけど。
それにしてもこんなに目まぐるしい看護師さんの仕事、日本だけではなく世界的なのかとびっくりもし納得もした。そしてありがたいと思った(暁)。
2025年/スイス、ドイツ/カラー/92分
配給:スターキャットアルバトロス・フィルム
(C)2025 Zodiac Pictures Ltd / MMC Zodiac GmbH
https://nursecall-movie.com/
★2025年3月6日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館
2026年01月18日
役者になったスパイ 原題:Moskau Einfach! 英題:One-way to Moscow
監督:ミヒャ・レビンスキー(『まともな男』)
出演:フィリップ・グラバー、ミリアム・シュタイン、マイク・ミュラー、ミヒャエル・マールテンス
1989年、ソ連の共産主義に対する恐れが蔓延する冷戦下のスイス。警察官であるヴィクトール・シュエラーは、反体制派の情報収集と監視のため、デモ活動を展開していたシャウシュピールハウス劇場への潜入捜査を命じられる。役者として、シェイクスピア『十二夜』の稽古をするうちに、監視対象であるはずの主演女優オディール・ヨーラと恋に落ちてしまう。劇団員とも交流を深め、やがて自らの任務に疑問を抱くようになる…。従うべきは任務なのか、心なのか ─ 。
スイスといえば中立国家。そんなスイスで、警察が市民を監視していたという事実が発覚。ソ連崩壊直前の時期ですが、左翼的なものは何もかもソ連からの脅威だと考えられていたのだそうです。ミヒャ・レビンスキー監督はまだ10代でしたが、学校の課題でシベリア鉄道について情報収集するためソ連大使館に電話をしたというだけで、フィッシュと呼ばれるカードに個人情報として記録されていたとのこと。この監視体制のせいで仕事を失った人も。 スイスの人たちにとって、今も苦い記憶を、監督はロマンチックコメディに仕立て上げました。こんな馬鹿馬鹿しい監視体制は二度とごめんだという思いを感じました。
劇団に潜入した警官のヴィクトールが、芝居として警官役を演じる場面があって、取り押さえの場面が上手い!と、皆に感心されます。そりゃそうですね。本物の警官として慣れた仕事!(咲)
2020年/スイス/102分/カラー/スイスドイツ語・ドイツ語/フラット/5.1ch/G
日本語字幕:常磐彩、字幕監修:小山千早
後援:在日スイス大使館
配給・宣伝:カルチュアルライフ
公式サイト:https://culturallife.co.jp/yakushaspy/
★2026年1月23日(金)恵比寿ガーデンシネマ、シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺、新宿武蔵野館 ほか全国順次公開
2025年05月25日
犬の裁判 原題:LE PROCES DU CHIEN
(C)BANDE A PART – ATELIER DE PRODUCTION – FRANCE 2 CINEMA – RTS RADIO TELEVISION SUISSE – SRG SSR – 2024
監督:レティシア・ドッシュ
出演:レティシア・ドッシュ、フランソワ・ダミアン、ジャン=パスカル・ザディ、アンヌ・ドルヴァル、コディ(犬)、マチュー・ドゥミ、アナベラ・モレイラ、ピエール・ドラドンシャン
スイスの小さな町。40歳になる弁護士アヴリルは、負け裁判ばかりで事務所から解雇寸前。次の事件では必ず勝利を勝ち取ろうと決意していた。そんな折、ある男から、かけがえのない伴侶の犬コスモスの弁護を依頼される。3度、人に噛みついた犬は安楽死させるという法律があって、コスモスは安楽死、飼い主には罰金1万フランを課せられるというのだ。またしても勝ち目がない弁護なのに、アヴリルはどうしても見過ごせず引き受けてしまう。「犬は“物”ではない」と主張するアヴリル。前代未聞の犬が被告となった「犬の裁判」が始まる・・・
主演・監督:レティシア・ドッシュ
1980年9月1日フランス、パリ生まれ。
2010年、フレデリック・メルムー監督“Complices”で長編映画デビュー。
2012年、短編映画“Vilaine fille, mauvais garcon”に出演し、フランス国内の映画祭で多くの賞を受賞。
2017年には、カンヌ国際映画祭カメラ・ドール受賞のレオノール・セライユ監督『若い女』で主人公を演じ、2018年のリュミエール賞最有望女優賞を受賞。
主な出演作に、ジュスティーヌ・トリエ監督『ソルフェリーノの戦い』(2012)、ギヨーム・セネズ監督『パパは奮闘中!』(2014)、マイウェン監督『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』(2014)、クリストフ・オノレ監督“Les Malheures de Sophie(原題)”(2015)、カトリーヌ・コルシニ監督『美しい季節』(2015)、アントニー・コルディエ監督『ギャスパール、結婚式へ行く』(2017)など。ダニエル・アービッド監督『シンプルな情熱』(2020)では主人公のエレーヌ役を好演。最近作は、ジュスト・フィリッポ監督『ACIDE/アシッド』(2024)、ティエリー・クリファ監督“Les Rois de la Piste”(2024)、アルノー&ジャン=マリー・ラリュー監督“Le Roman de Jim”(2024)など。(公式サイトより)
女優レティシア・ドッシュの初監督作品。彼女の馬を題材にした舞台「HATE」を見たスイス人プロデューサーのリオネル・バイエルから持ち込まれた企画。犬が被告となった実話を聞かされ、コメディで描きたいと直感。弁護士アヴリルを自身で演じています。
コミカルでありながら、人間と動物との関係や、40歳という女性という立場で感じている思いも描かれています。また、コスモスの飼い主ダリウシュが視覚障がい者という社会的弱者であったり、アヴリルの臨家に住む少年が虐待を受けているといったことも織り込まれています。
法廷には、ユダヤ、イスラーム、仏教、キリスト教の聖職者や、精神科医も臨席し、いかに公平かつ丁寧に裁判官が犬のことを裁こうとしているかが伺えます。人間さまの裁判にも同様であってほしいと思ってしまう顔ぶれ。でも、思わず笑ってしまいましたが。
コスモスを演じたコティが、カンヌ国際映画祭で、パルム・ドッグ賞を受賞した名演技。
さて、裁判の行方は? (咲)
第77回カンヌ国際映画祭パルム・ドッグ賞(最優秀犬賞)受賞
第77回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門正式出品作
2025横浜フランス映画祭出品作
2024年/スイス・フランス/フランス語/81分/1.85:1)
配給:オンリー・ハーツ
公式サイト:http://kodi.onlyhearts.co.jp/
★2025年5月30日(金)よりシネスイッチ銀座・UPLINK吉祥寺ほか全国順次公開
2024年10月03日
ロール・ザ・ドラム!(原題:Tambour battant)
監督・脚本:フランソワ=クリストフ・マルザール
音楽:ニコラ・ラベウス
出演:ピエール・ミフスッド(アロイス)、パスカル・ドゥモロン(ピエール)、ザビーネ・ティモテオ(マリー=テレーズ)
1970年、スイス・ヴァレー州の小さな村、モンシュ。ワイン醸造家のアロイスは地元のブラスバンドの指揮者で、村で開かれる音楽祭のオーディション通過を目指して日々練習に励んでいる。しかし、アロイスの指導力を疑問視する楽団のメンバーが、村出身でプロの音楽家として活躍するピエールをこっそりパリから呼び寄せてしまう!伝統を重んじるアロイスと違い、才能ある女性や移民を次々と楽団のメンバーに加えるピエール。それぞれを指揮者に立てた2つの楽団が出来上がり、楽団の対立は村全体を巻き込んだ大騒動へと発展していく…。
みんなが知り合いの小さな村で、古くからの楽団が分裂し、二つのバンドができてしまいます。実際に起きたできごとを元にしているそうです。村を二分して暮らしに影響があったのでは、と心配になります。
映画では面白おかしく脚色されているのでしょう。指揮者の二人には青春時代からの因縁があって、何十年もたっているのに意地のはりあい。アロイスは頑固で保守的、伝統にこだわります。妻が外で活動したり、娘がワイン醸造に興味を持つのに苦い顔。ピエールはパリに出て音楽家として活躍していたところを、請われてUターン。才能ある女性や移民も楽団に加える新しいセンスの持ち主です。
ちょうど女性の参政権が問題になっている時期で、その活動も盛り込まれていました。中年夫婦の一波乱もあれば、娘と移民の青年との恋模様もあります。いろいろてんこ盛りですが、うまく90分にまとめられたコメディです。ところ変わっても人情は変わらず、美しい風景で目の保養もぜひどうぞ。(白)
2019年/スイス/カラー/90分
配給:カルチュアルライフ
(C) 2018 POINT PROD / RTS / TELECLUB
https://culturallife.co.jp/roll-the-drum/
★2024年10月4日(金)新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺、ストレンジャー、シネマート新宿ほか全国順次ロードショー!
2024年01月07日
ニューヨーク・オールド・アパートメント(原題: THE SAINT OF the Impossible)
監督:マーク・ウィルキンス
原作:アーノン・グランバーグ著「De heilige Antonio」
脚本:ラニ=レイン・フェルサム
撮影:ブラク・トゥラン
出演:アドリーノ・デキュラン(ポール)、マルセロ・デュラン(テイト)、マガリ・ソリエル(母ラファエラ)、サイモン・ケザー(エドワルド)、タラ・サラー(クリスティン)
ペルーからニューヨークにやって来た不法入国の家族。母親のラファエラはウェイトレスとして働き、女手一つで双子を育てている。ポールとテイトの兄弟も、配達のバイトで母を助けているが、語学学校にも通っていて家計は苦しい。経済的な問題だけでなく、不法滞在の3人は見つかれば強制送還されてしまう。夢見たアメリカでの生活だったが、ポールとテイトには自分たちが誰の目にも止まらない透明人間のように思えるのだった。
ある日学校にミステリアスな美女、クリスティンがやってくる。兄弟はたちまち一目ぼれ、何の希望もなかった毎日に光が差し込んできた。
不法移民の映画はいくつか観てきましたが、この作品ではペルーから。なんとそんなに遠くからアメリカを目指して?と驚きます。どんなに過酷な旅だったか、想像もできません。
兄弟が恋に落ちているころ、働きづめのラファエラは親しくなった男、エドワルドの甘言にのり、メキシコ料理のデリバリーを始めてしまいます。準備も何もめちゃくちゃで、うまく行くはずがないと素人目でもわかるほどです。お察しのとおり母子ともひどい目に遭いますが、絶望はしません。よりどころがあれば人間は強くなれると思えました。今辛い境遇にある移民の方々、戦火の中の子どもたち、希望をなくしている人々に思いをはせてください。(白)
語学学校で、先生が「戦争を経験した人は?」と尋ねる場面がありました。肌の色も様々な20名程の生徒の半数以上が手をあげました。ペルーの双子の兄弟も、クロアチアのクリスティンも、なぜ国を出てきたかは映画では語られませんが、より良い暮らしをしたいと願ってのこと。
日本に住むイランやトルコの人たちの中に、不法滞在でいつ捕まって強制送還されるかを気にしながら暮らしている方がいるのを身近に見てきました。住みたいところに住まわせてあげればいいのに・・・と思うのですが、国によって、それぞれ規制があって、思うようにはいかないのが残念です。国境のない世界を!と思います。
ポールとティトを演じたのは、ペルーの全国オーディションで選ばれた本当の双子の兄弟。大学でアドリアーノは医学、マルセロはシステム工学を専攻。LOS MORDOSというロックバンドで兄弟で活動中。本作が映画初出演。とてもピュアで、演技と思えない自然さ。母ラファエラが女性として生きようとしているのも、息子たちは応援しています。もっとも、メキシコのブリート屋の共同経営を持ちかけた男の胡散臭さはちゃんと見抜いています。母ラファエラも息子たちのことを思いながら、自分の人生を生きようとしていて素敵です。(咲)
『ニューヨーク・オールド・アパートメント』というタイトルから不法移民の話だとは思わなかった。観始めて、ペルーからニューヨークに来た人たちの話だと知った。この親子3人はどのような方法でニューヨークに来たのだろう。よりよい生活を求めての不法入国というけど、そんなにうまくいくとは思えない。それに、言語が違う国での生活というのはかなり不便だと思うけど、それでも、この親子3人やクリスティンだけでなく、苦難のはてにニューヨークにたどり着いた人たち、アメリカン・ドリームを夢見た人たちの思い、希望、未来を考えてしまった。母親は、周りの友人たちの協力でなんとか移民局に捕まらずに済んだところで映画は終わったけど、その後も心休まる間がない暮らしは続いていくのだろうと思うと、この家族が安心して暮らせる居場所をみつけられますようにと祈った。母親を演じたのは『悲しみのミルク』(09)に出演していたマガリ・ソリエル。この作品では彼女の役の設定にびっくりした(暁)。
2020年/スイス/カラー/ビスタ/98分/PG12
配給:百道浜ピクチャーズ
(C)2020 - Dschoint Ventschr Filmproduktion / SRF Schweizer Radio und Fernsehen / blue
https://m-pictures.net/noa/
★2024年1月12日(金)新宿シネマカリテほか全国公開


