2025年05月25日

犬の裁判   原題:LE PROCES DU CHIEN

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(C)BANDE A PART – ATELIER DE PRODUCTION – FRANCE 2 CINEMA – RTS RADIO TELEVISION SUISSE – SRG SSR – 2024

監督:レティシア・ドッシュ
出演:レティシア・ドッシュ、フランソワ・ダミアン、ジャン=パスカル・ザディ、アンヌ・ドルヴァル、コディ(犬)、マチュー・ドゥミ、アナベラ・モレイラ、ピエール・ドラドンシャン

スイスの小さな町。40歳になる弁護士アヴリルは、負け裁判ばかりで事務所から解雇寸前。次の事件では必ず勝利を勝ち取ろうと決意していた。そんな折、ある男から、かけがえのない伴侶の犬コスモスの弁護を依頼される。3度、人に噛みついた犬は安楽死させるという法律があって、コスモスは安楽死、飼い主には罰金1万フランを課せられるというのだ。またしても勝ち目がない弁護なのに、アヴリルはどうしても見過ごせず引き受けてしまう。「犬は“物”ではない」と主張するアヴリル。前代未聞の犬が被告となった「犬の裁判」が始まる・・・

主演・監督:レティシア・ドッシュ
1980年9月1日フランス、パリ生まれ。
2010年、フレデリック・メルムー監督“Complices”で長編映画デビュー。
2012年、短編映画“Vilaine fille, mauvais garcon”に出演し、フランス国内の映画祭で多くの賞を受賞。
2017年には、カンヌ国際映画祭カメラ・ドール受賞のレオノール・セライユ監督『若い女』で主人公を演じ、2018年のリュミエール賞最有望女優賞を受賞。
主な出演作に、ジュスティーヌ・トリエ監督『ソルフェリーノの戦い』(2012)、ギヨーム・セネズ監督『パパは奮闘中!』(2014)、マイウェン監督『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』(2014)、クリストフ・オノレ監督“Les Malheures de Sophie(原題)”(2015)、カトリーヌ・コルシニ監督『美しい季節』(2015)、アントニー・コルディエ監督『ギャスパール、結婚式へ行く』(2017)など。ダニエル・アービッド監督『シンプルな情熱』(2020)では主人公のエレーヌ役を好演。最近作は、ジュスト・フィリッポ監督『ACIDE/アシッド』(2024)、ティエリー・クリファ監督“Les Rois de la Piste”(2024)、アルノー&ジャン=マリー・ラリュー監督“Le Roman de Jim”(2024)など。(公式サイトより)

女優レティシア・ドッシュの初監督作品。彼女の馬を題材にした舞台「HATE」を見たスイス人プロデューサーのリオネル・バイエルから持ち込まれた企画。犬が被告となった実話を聞かされ、コメディで描きたいと直感。弁護士アヴリルを自身で演じています。
コミカルでありながら、人間と動物との関係や、40歳という女性という立場で感じている思いも描かれています。また、コスモスの飼い主ダリウシュが視覚障がい者という社会的弱者であったり、アヴリルの臨家に住む少年が虐待を受けているといったことも織り込まれています。
法廷には、ユダヤ、イスラーム、仏教、キリスト教の聖職者や、精神科医も臨席し、いかに公平かつ丁寧に裁判官が犬のことを裁こうとしているかが伺えます。人間さまの裁判にも同様であってほしいと思ってしまう顔ぶれ。でも、思わず笑ってしまいましたが。 
コスモスを演じたコティが、カンヌ国際映画祭で、パルム・ドッグ賞を受賞した名演技。
さて、裁判の行方は?  (咲)


第77回カンヌ国際映画祭パルム・ドッグ賞(最優秀犬賞)受賞
第77回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門正式出品作
2025横浜フランス映画祭出品作

2024年/スイス・フランス/フランス語/81分/1.85:1)
配給:オンリー・ハーツ
公式サイト:http://kodi.onlyhearts.co.jp/
★2025年5月30日(金)よりシネスイッチ銀座・UPLINK吉祥寺ほか全国順次公開



posted by sakiko at 01:30| Comment(0) | スイス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年10月03日

ロール・ザ・ドラム!(原題:Tambour battant)

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監督・脚本:フランソワ=クリストフ・マルザール
音楽:ニコラ・ラベウス
出演:ピエール・ミフスッド(アロイス)、パスカル・ドゥモロン(ピエール)、ザビーネ・ティモテオ(マリー=テレーズ)

1970年、スイス・ヴァレー州の小さな村、モンシュ。ワイン醸造家のアロイスは地元のブラスバンドの指揮者で、村で開かれる音楽祭のオーディション通過を目指して日々練習に励んでいる。しかし、アロイスの指導力を疑問視する楽団のメンバーが、村出身でプロの音楽家として活躍するピエールをこっそりパリから呼び寄せてしまう!伝統を重んじるアロイスと違い、才能ある女性や移民を次々と楽団のメンバーに加えるピエール。それぞれを指揮者に立てた2つの楽団が出来上がり、楽団の対立は村全体を巻き込んだ大騒動へと発展していく…。

みんなが知り合いの小さな村で、古くからの楽団が分裂し、二つのバンドができてしまいます。実際に起きたできごとを元にしているそうです。村を二分して暮らしに影響があったのでは、と心配になります。
映画では面白おかしく脚色されているのでしょう。指揮者の二人には青春時代からの因縁があって、何十年もたっているのに意地のはりあい。アロイスは頑固で保守的、伝統にこだわります。妻が外で活動したり、娘がワイン醸造に興味を持つのに苦い顔。ピエールはパリに出て音楽家として活躍していたところを、請われてUターン。才能ある女性や移民も楽団に加える新しいセンスの持ち主です。
ちょうど女性の参政権が問題になっている時期で、その活動も盛り込まれていました。中年夫婦の一波乱もあれば、娘と移民の青年との恋模様もあります。いろいろてんこ盛りですが、うまく90分にまとめられたコメディです。ところ変わっても人情は変わらず、美しい風景で目の保養もぜひどうぞ。(白)


2019年/スイス/カラー/90分
配給:カルチュアルライフ
(C) 2018 POINT PROD / RTS / TELECLUB
https://culturallife.co.jp/roll-the-drum/
★2024年10月4日(金)新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺、ストレンジャー、シネマート新宿ほか全国順次ロードショー!


posted by shiraishi at 21:13| Comment(0) | スイス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年01月07日

ニューヨーク・オールド・アパートメント(原題: THE SAINT OF the Impossible)

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監督:マーク・ウィルキンス
原作:アーノン・グランバーグ著「De heilige Antonio」
脚本:ラニ=レイン・フェルサム
撮影:ブラク・トゥラン
出演:アドリーノ・デキュラン(ポール)、マルセロ・デュラン(テイト)、マガリ・ソリエル(母ラファエラ)、サイモン・ケザー(エドワルド)、タラ・サラー(クリスティン)

ペルーからニューヨークにやって来た不法入国の家族。母親のラファエラはウェイトレスとして働き、女手一つで双子を育てている。ポールとテイトの兄弟も、配達のバイトで母を助けているが、語学学校にも通っていて家計は苦しい。経済的な問題だけでなく、不法滞在の3人は見つかれば強制送還されてしまう。夢見たアメリカでの生活だったが、ポールとテイトには自分たちが誰の目にも止まらない透明人間のように思えるのだった。
ある日学校にミステリアスな美女、クリスティンがやってくる。兄弟はたちまち一目ぼれ、何の希望もなかった毎日に光が差し込んできた。

不法移民の映画はいくつか観てきましたが、この作品ではペルーから。なんとそんなに遠くからアメリカを目指して?と驚きます。どんなに過酷な旅だったか、想像もできません。
兄弟が恋に落ちているころ、働きづめのラファエラは親しくなった男、エドワルドの甘言にのり、メキシコ料理のデリバリーを始めてしまいます。準備も何もめちゃくちゃで、うまく行くはずがないと素人目でもわかるほどです。お察しのとおり母子ともひどい目に遭いますが、絶望はしません。よりどころがあれば人間は強くなれると思えました。今辛い境遇にある移民の方々、戦火の中の子どもたち、希望をなくしている人々に思いをはせてください。(白)


語学学校で、先生が「戦争を経験した人は?」と尋ねる場面がありました。肌の色も様々な20名程の生徒の半数以上が手をあげました。ペルーの双子の兄弟も、クロアチアのクリスティンも、なぜ国を出てきたかは映画では語られませんが、より良い暮らしをしたいと願ってのこと。
日本に住むイランやトルコの人たちの中に、不法滞在でいつ捕まって強制送還されるかを気にしながら暮らしている方がいるのを身近に見てきました。住みたいところに住まわせてあげればいいのに・・・と思うのですが、国によって、それぞれ規制があって、思うようにはいかないのが残念です。国境のない世界を!と思います。
ポールとティトを演じたのは、ペルーの全国オーディションで選ばれた本当の双子の兄弟。大学でアドリアーノは医学、マルセロはシステム工学を専攻。LOS MORDOSというロックバンドで兄弟で活動中。本作が映画初出演。とてもピュアで、演技と思えない自然さ。母ラファエラが女性として生きようとしているのも、息子たちは応援しています。もっとも、メキシコのブリート屋の共同経営を持ちかけた男の胡散臭さはちゃんと見抜いています。母ラファエラも息子たちのことを思いながら、自分の人生を生きようとしていて素敵です。(咲)


『ニューヨーク・オールド・アパートメント』というタイトルから不法移民の話だとは思わなかった。観始めて、ペルーからニューヨークに来た人たちの話だと知った。この親子3人はどのような方法でニューヨークに来たのだろう。よりよい生活を求めての不法入国というけど、そんなにうまくいくとは思えない。それに、言語が違う国での生活というのはかなり不便だと思うけど、それでも、この親子3人やクリスティンだけでなく、苦難のはてにニューヨークにたどり着いた人たち、アメリカン・ドリームを夢見た人たちの思い、希望、未来を考えてしまった。母親は、周りの友人たちの協力でなんとか移民局に捕まらずに済んだところで映画は終わったけど、その後も心休まる間がない暮らしは続いていくのだろうと思うと、この家族が安心して暮らせる居場所をみつけられますようにと祈った。母親を演じたのは『悲しみのミルク』(09)に出演していたマガリ・ソリエル。この作品では彼女の役の設定にびっくりした(暁)。

2020年/スイス/カラー/ビスタ/98分/PG12
配給:百道浜ピクチャーズ
(C)2020 - Dschoint Ventschr Filmproduktion / SRF Schweizer Radio und Fernsehen / blue
https://m-pictures.net/noa/
★2024年1月12日(金)新宿シネマカリテほか全国公開

posted by shiraishi at 19:25| Comment(0) | スイス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年11月02日

パトリシア・ハイスミスに恋して  原題:Loving Highsmith

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(c)2022 Ensemble Film / Lichtblick Film

監督・脚本:エヴァ・ヴィティヤ 
ナレーション:グウェンドリン・クリスティー
出演:マリジェーン・ミーカー、モニーク・ビュフェ、タベア・ブルーメンシャイン、ジュディ・コーツ、コートニー・コーツ、ダン・コーツ
音楽:ノエル・アクショテ 
演奏:ビル・フリゼール、メアリー・ハルヴォーソン

パトリシア・ハイスミス Patricia Highsmith
1921年1月19日、アメリカ、テキサス州フォートワース生まれ、ニューヨーク育ち。バーナード・カレッジ在学中より短編小説の執筆を始める。1950年に発表した長編デビュー作『見知らぬ乗客』でエドガー賞処女長編賞を受賞。 同作は翌年にアルフレッド・ヒッチコックにより映画化される。1952年、クレア・モーガン名義で自らの体験を基にしたロマンス小説『The Price of Salt』(後に『キャロル』と改題)を刊行。その他の主な著書に『太陽がいっぱい』をはじめとする「トム・リプリー」シリーズ、『水の墓碑銘』、『殺意の迷宮』など。1962年よりヨーロッパに移住。 1995年、スイスのロカルノで再生不良性貧血と肺がんの併発により逝去。74歳没。

本作は、ハイスミスの生涯を、生誕100周年を経て発表された秘密の日記やノート、貴重な本人映像やインタビュー音声、タベア・ブルーメンシャインをはじめとする元恋人達や家族によるインタビュー、そしてヒッチコックやトッド・ヘインズ、ヴィム・ヴェンダースらによる映画化作品の抜粋映像を織り交ぜな、彼女の謎に包まれた人生と著作に新たな光を当てるドキュメンタリー。

パトリシア・ハイスミスの名前を、恥ずかしながら全く知らなかったのですが、欧米ではアガサ・クリスティーと並ぶ人気を誇る、サスペンス、ミステリー作家。 しかも、『見知らぬ乗客』『太陽がいっぱい』を始め、著作のほとんどが映画化されているのです。 それほどの功績を誇りながら、レズビアンであることから、家族や世間の目を気にしなければならなかった時代。実名でなく、クレア・モーガンという別名で、自身の体験を基にしたロマンス小説『The Price of Salt』(後に『キャロル』と改題)。 エヴァ・ヴィティヤ監督は、映画化されていない彼女の日記に恋して本作を紡ぎました。
母親が妊娠中に流産を望んで策を講じたことを聞かされていたパトリシアの、母親との確執。恋人と過ごすために、ロンドンやパリに家を建てたこと。女性限定の秘密のクラブで、人々を楽しませて人気だったこと・・・  「私の人生は過ちの歴史」と日記に書き残しているパトリシア・ハイスミスの、自由奔放とも思える人生の軌跡と苦悩を本作で知ることができました。(咲)


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(c)CourtesySwissLiteraryArchives

パトリシア・ハイスミス(1921-1995)は、アガサ・クリスティーと並ぶ人気を誇るサスペンス・ミステリー作家だそう。彼女の原作から『見知らぬ乗客』(1951年)や『太陽がいっぱい』(60年)、『アメリカの友人』(77年)、『キャロル』(2015年)など、映画史に残る名作の数々が生まれたというのに彼女の名前を知らなかった。子供の頃、推理小説が好きでたくさんの推理小説を読んでいたはずなのに。
このドキュメンタリーは、彼女の生誕100周年を経て発表された日記やノート、本人映像、インタビュー音声や、家族などの証言、そしてアルフレッド・ヒッチコックやトッド・ヘインズ、ヴィム・ベンダースらが映画化した作品の映像を織り交ぜながら、ハイスミスの謎に包まれた人生に新たな光を当てている。あの時代にレズビアンとして生き、自伝的小説『キャロル』の原作も生みだした。しかし、名の知れた彼女でも当時はカミングアウトは難しく、最初は別名で出したそう。この作品を観て1950,60年代にはすでに同性愛者のコミュニティ的なもの、女性たちが集まる店もあったんだと知った(暁)。


2022年/スイス、ドイツ/英語、ドイツ語、フランス語/88分/カラー・モノクロ/1.78:1/5.1ch  
字幕:大西公子 
後援:在日スイス大使館、ドイツ連邦共和国大使館
配給:ミモザフィルムズ
公式サイト:https://mimosafilms.com/highsmith/
★2023年11月3日(金・祝)より新宿シネマカリテ、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開/strong>
posted by sakiko at 10:05| Comment(0) | スイス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年09月10日

マルセル・マルソー 沈黙のアート  原題:L'art du Silence 英題:The Art of Silence

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監督:マウリッツィウス・スタークル・ドルクス

パントマイムの神様マルセル・マルソーの知られざる事実
ボロボロのシルクハットと赤いバラ、白塗りメイクで世界に知られる道化師“ビップ”(BIP)。言葉をひと言も発せず、身ぶりと表情だけですべてを表現するマルソーの舞台。
それは、第二次世界大戦中、レジスタンスに身を投じ、ユダヤ人孤児300人余をスイスに逃がしたことに端を発している。危険な状況下で声を発さないコミュニケーション方法は、戦後独自の芸術表現に昇華されたのだ。
ユダヤ人精肉店に生まれ、アウシュヴィッツで父を殺されたマルセル・マルソー。
マルセルと共にレジスタンスに参加した従弟、彼の遺志を継ぐ家族、ろうの世界的パントマイマー、クリストフ・シュタークルら、マルソーを知る人物が登場し、彼の魅力を語る。

マルセル・マルソーのことを知ったのは、2021年8月27日に日本公開された劇映画『沈黙のレジスタンス ユダヤ孤児を救った芸術家』を通じてのことでした。
フランスでもユダヤ人迫害が激化し、ユダヤ人であるマルセルはフランス風にマルソーと名乗り、ユダヤ人孤児を助けたのです。戦後は、世界各地でパントマイム・パフォーマンスを披露したマルセルですが、どんな思いでいたのでしょう・・・

マルセルの娘さんが語っていた中で印象に残ったことがあります。
「ペルシアのシャーに会いに行くというので、ペルシアの猫(フランス語で猫はChatシャ)かと思ったら、王様(シャー)だったという場面。パフレヴィー2世が映り、その後、王制反対の人たちの姿。マルセルは、反体制派の支援もしたとありました。調べてみたら、マルセルは、1978年にテヘランのthe Roudaki Hall(革命後The Vahdat Hallに名前を変えています)で公演していることがわかりました。、私が1978年5月に初めてイランを訪れた時に、そのルーダキーホールの近くで食事したことがあり、ちょっと縁を感じた次第です。(咲)


2022年/スイス=ドイツ/独語・英語・仏語/カラー&モノクロ/81分
日本版字幕:松岡葉子
後援:一般社団法人日本パントマイム協会
配給:パンドラ
公式サイト:http://www.pan-dora.co.jp/marceau/
★2023年9月16日(土)シアター・イメージフォーラムにて公開



posted by sakiko at 17:01| Comment(0) | スイス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする