2022年02月20日
金の糸 原題:OKROS DZAPI 英語題: GOLDEN THREAD
監督・脚本:ラナ・ゴゴベリゼ
撮影:ゴガ・デヴダリアニ
音楽:ギヤ・カンチェリ
出演:ナナ・ジョルジャゼ、グランダ・ガブニア、ズラ・キプシゼ
トビリシ旧市街の古い家。石畳の道を見下ろす部屋。
“失われた時を求めて・・・”
作家のエレネはパソコンに向かい、人生を振り返る。
今日は彼女の79歳の誕生日。だが、一緒に暮らしている娘夫婦は忘れている。それどころか、娘ナトから姑のミランダにアルツハイマーの症状が出始め、一人住まいは心配なので、この家に連れてくると告げられる。
エレネはミランダが来るなら自分が彼女に家に移ると言い張る。ソ連時代に政府高官だったミランダには苦い思い出があるのだ。
そんな折、60年前の恋人アルチルから誕生日を祝う電話がかかってくる。かつてのように野の花を届けたいと。石畳の通りで朝までタンゴを踊った若き日を思い出す二人。
「妻を亡くし、君しか話し相手がいない」と、その日以来、折に触れて電話してくるアルチル。
一方、引っ越してきたミランダとの暮らしは、エレネの心をかき乱す。
テレビ出演したアルチルを見て、「昔、私に思いを寄せていた青年」というから、エレネはさらに面白くない。
自分と同じ名前の曾孫のエレネに、「金継ぎ」アート作品を壁に飾りながら、陶磁器の破損部分を金色に仕上げる日本の伝統的な修復技法を説明し、自分の過去の確執も修復したいと語る・・・
大粛清もあったソ連時代を経て、独立したジョージア。エレネはソ連政府の高官だったミランダから著書の出版禁止を言い渡され、その後、書けないでいたことをミランダにぶちまけます。小さな人形を作りながら、曾孫に、「私のお母さんが流刑中に作っていたのよ」と語るエレネ。
本作を91歳で紡いだラナ・ゴゴベリゼ監督。母ヌツァ・ゴゴベリゼは1934年に『ウジュムリ』を製作したジョージア最初の女性監督。父レヴァンは1937年の大粛清で処刑され、母も10年もの間、流刑されています。残されたラナは孤児院を経て、おばに引き取られ、成長後、強制収容所から帰還した母と再会。そんな過去も本作に反映されています。
トビリシの趣のある旧市街の家で、ゆるやかに語られる本作。2019年に亡くなった世界的作曲家ギヤ・カンチェリによる音楽が、静かに奏でられ、過去へのさまざまな思いにいざなわれました。
ジョージア映画祭2022で、ラナ・ゴゴベリゼ監督の『インタビュアー』(1978年)が上映され、観ることができました。妻であり母でありながら新聞記者として、様々な女性たちに取材するソフィコ。夫には家を留守にすることの多い仕事を辞めないからと浮気され、上司からは、出張のないポジションを提示されます。女性が本領を発揮できない家父長社会でもがく姿が鮮やかに描かれていました。
エレネを演じたナナ・ ジョルジャゼは、『インタビュアー』でインタビューを受ける女性の一人を演じていました。女優だけでなく、衣装や美術などで様々な映画に関わり、1979年に『ソポトへの旅(Mogzauroba Sopotshi)』で監督デビューもしているジョージアを代表する女性監督の一人。心に葛藤を抱えたエレネを素敵に演じています。(咲)
☆ラナ・ゴゴベリゼ監督メッセージ☆
公開を前に、93歳のラナ・ゴゴベリゼ監督より、今年で閉館となる岩波ホールと観客に向けたメッセージが届きました。
岩波ホールにはたくさんの思い出があります。80年代に私の映画『インタビュアー』を上映してくださったこと、その後『転回』が東京国際映画祭に選ばれて来日した際(その時の審査委員長はグレゴリー・ペックでした!)、温かく歓迎してくださったこと、私はその時、監督賞をいただいたのですが、当時、岩波ホールの総支配人だった髙野悦子さんが、私以上に喜んで、二人で抱き合って喜んだことが今でも思い出されます。映画への情熱が身体中から溢れ出ているような、忘れられない女性でした。歳をとると、かつての知人たちが次々にいなくなっていくものです。けれど、何歳になっても新しい出会いはあります。『金の糸』が日本で、若い世代の方たちとも出会えることを楽しみにしています。
◆ラナ・ゴゴベリゼ監督オンライン舞台挨拶
日時:2/26(土)13:00の回&15:30の回上映後
会場:岩波ホール
◆『金の糸』上映後トーク
スケジュール:※すべて13:00の回上映後
3/3(木)加藤登紀子さん(歌手)
3/10(木)はらだたけひでさん(画家・ジョージア映画祭主宰)①
3/17(木)ティムラズ・レジャバさん(駐日ジョージア大使)
3/24(木)はらだたけひでさん②
3/31(木)はらだたけひでさん③
4/7(木)五月女颯さん(ジョージア文学・批評理論研究)
4/14(木)廣瀬陽子さん(慶応大学教授・コーカサス地域研究)
2019年/ジョージア=フランス/91分
字幕:児島康宏
配給:ムヴィオラ
©️ 3003 film production, 2019
公式サイト:http://moviola.jp/kinnoito/
★2022年2月26日(土)より東京・岩波ホールほか全国順次公開
2019年08月18日
聖なる泉の少女 原題:NAMME
監督・脚本:ザザ・ハルヴァシ
撮影:ギオルギ・シュヴェリゼ
出演:マリスカ・ディアサミゼ、アレコ・アバシゼ、エドナル・ボルクヴァゼ、ラマズ・ボルクヴァゼ、ロイン・スルマニゼ
山あいの村。聖なる泉のまわりに人々が集まっている。意識を失った青年を水で清める若い女性。先祖代々、泉を守ってきた一家。3人の息子は、それぞれジョージア正教の神父、イスラームの聖職者、無神論の科学者となり、老いた父は娘ツィナメ(愛称ナーメ)に一家の使命を託そうとしているのだ。器の中でずっと一匹で生き続けている魚。「もはや我が家の魚でなく村の皆のもの。我々が守らなければ」という父。
だが、ナーメは村を訪れた青年に恋をし、ほかの娘のように自由に生きたいと憧れる・・・
舞台はジョージアの南西部、トルコとの国境を接するアチャラ地方の山深い村。
映画のもとになったのは、この地に口承で伝わってきた物語。監督も祖母から聞かされたという。
「大昔、泉の水で人々の心や体の傷を癒していた娘がいました。いつしか彼女は他の人々のように暮らしたいと願い、自らの力を厭うようになりました。そして、ある日、力の源だった魚を解き放ち、彼女は他の人々と同じ生活に帰っていきました」
ナーメを演じた細面のマリスカ・ディアサミゼが、神秘的な風情で、まさに聖なる少女。最後に残った娘に跡を継がせようという父の悲痛な思いは理解できるが、3人の兄が好きな道を歩んでいるのに、娘にとっては納得がいかないだろう。
キリスト教のジョージア正教が大多数を占める国だが、この地域ではイスラーム教徒も多い。教会の鐘の音と、モスクからの祈りを呼びかける声が響き合う土地柄。
そんなのどかな地に、水力発電所が建設されることになり、不協和音のごとく機械的な音が響いてくる。伝統は途絶え、自然が破壊される、まさに世界の各地で起こっていることを象徴している。だが、そんな異質な場面も吹き飛ぶほど、静寂で味わい深い余韻。(咲)
東京国際映画祭 2017年 コンペティション部門で『泉の少女ナーメ』のタイトルで上映された。
2017年/ジョージア・リトアニア/ジョージア語/91分/カラー
配給:パンドラ
後援:在日ジョージア大使館
公式サイト:http://namme-film.com/
★2019年8月24日(土)岩波ホールにてロードショー、全国順次公開