2023年02月19日
アラビアンナイト 三千年の願い 原題:Three Thousand Years of Longing
監督・脚本:ジョージ・ミラー
共同脚本:オーガスタ・ゴア
原作:A・S・バイアット「The Djinn in the Nightingale's Eye」
製作:ダグ・ミッチェル、ジョージ・ミラー
出演:イドリス・エルバ、ティルダ・スウィントン
物語論(ナラトロジー)の専門家、アリシア・ビニー博士は、学会での講演のためトルコのイスタンブールを訪れる。 バザールで青と白の螺旋模様の入った「ナイチンゲールの目」というガラスの小瓶を買い、ホテルの部屋で瓶を洗っていると、蓋が外れて、中から巨大な黒い魔人〈ジン〉が現れる。「解放してくれたお礼に3つの願いを叶えてあげよう」と言われる。そうすれば呪いが解けて自分も自由の身になれるというのだ。 だが物語の専門家アリシアは、その誘いに疑念を抱く。 願い事の物語はどれも危険でハッピーエンドがないことを知っていた。 魔人は彼女の考えを変えさせようと、 紀元前からの3000年に及ぶ自身の物語を語り始める。
最初は、旧約聖書にあるソロモン王とシバの女王の物語。全身全霊で女王に尽くしていた魔人は、魔術師でもあったソロモン王によって真鍮の瓶に幽閉され紅海に捨てられ、2500年もの間、漂い続けた。
16世紀中頃、真鍮の瓶は漁師に引き揚げられ、オスマン帝国のスレイマン大帝の愛妾グルタンの手に渡る。瓶の中から現れた魔人に、大帝の長男ムスタファ皇子の心をつかみたいと願い、愛し合うようになる。だが、スレイマンのお気に入りの側室ヒュッレムは自分の息子を王位に就かせたいと陰謀を企て、結果、ムスタファは大帝に殺されてしまう。グルテンも大帝の命で殺されてしまい、魔人は再び小瓶の中に幽閉される。
100年後、1620年、故アフメト1世の皇子で11歳にして皇位を継いだムラト4世の時代。亡きアフメト1世の妃キョセムはムラトの弟イブラヒムを皇位継承者として守るため、檻に入れ豊満な巨女たちをあてがう。ムラト4世が酒浸りで亡くなり、皇位についたイブラヒムのお気に入りの巨女“砂糖姫”が、グルテンが隠していた小瓶を発見。魔人は、何か願いをと懇願するが、姫の怒りを買って瓶ごとボスポラス海峡に沈められてしまう。
そして次なる魔人の運命は・・・・
「アラジンと魔法のランプ」のような物語を想像していたのですが、かなり違いました。魔人が語る身の上話に出てくるオスマン帝国の妃ヒュッレムやキョセムは、トルコのドラマ「オスマン帝国外伝」で馴染み深い女性たち。皇位の後継ぎを巡る陰謀が渦巻いていた時代でした。シバの女王から始まる壮大な歴史絵巻かと思いきや、いつしか、魔人とアリシアの大人の恋物語に。それが、イスタンブールのベラパレスホテルのアガサ・クリスティーの部屋で繰り広げられるという次第。そこで話は終わりませんので、結末をどうぞお楽しみに! (咲)
2022年/オーストラリア・アメリカ/英語・トルコ語/カラー/スコープサイズ/5.1ch/108分/PG12
字幕翻訳:松浦美奈
配給:キノフィルムズ
公式サイト:https://www.3wishes.jp/
★2023年2月23日(木・祝) TOHOシネマズ 日比谷ほか 全国ロードショー
ペーパーシティ 東京大空襲の記憶 原題:Paper City
監督:エイドリアン・フランシス
出演:清岡美知子、星野弘、築山実
東京を拠点にするオーストラリア人映画監督エイドリアン・フランシスが語り継ぐ東京大空襲
1945年3月10日午前0時過ぎ、アメリカ軍の爆撃機が東京を襲撃。木造の家屋が密集する下町を中心に東京の4分の1が焼失。日の出までに10万人以上の死者を出すという、史上最大の空襲だった。
エイドリアン・フランシス監督は、東京で暮らして数年経って初めて東京大空襲のことを知り、これほどの大惨事だったのに、痕跡がほとんどないことに驚く。広島の原爆ドームのような、東京大空襲を象徴するものは遺されていないし、公的な慰霊碑も建てられていないのだ。
生存者は生きているのだろうか。
東京大空襲を語り継ぎたくなかったのだろうか・・・
監督は、生き証人を探し出す。
浅草寺近くで生まれ育った清岡美知子さん。言問橋の下で冷たい水の中、木の棒にしがみついて助かる。数日後、姉と父の傷一つない遺体を見つける。戦後、戦争を経験していない世代の人々に空襲の恐ろしさを伝えるため活動している。
押上で生まれ育った星野弘さん。空襲の翌朝、死体で埋まった水路を目にする。憲兵隊に遺体を水の中から引きあげる作業を命じられる。元兵士には日本政府のサポートがあるのに、民間人は忘れ去られていると嘆く。
江東区森下で暮らしていた築山実さん。近くに軍の標的になるものはなかったので安全だと思い込んでいた。空襲で3人の兄弟をはじめ多くの知人を失う。亡くなった人の名前を記した巻物を作り保管してきたが、この先受け継いでもらえるのか心配している・・・
映画の冒頭、米軍機が爆弾投下に向かう映像が映されました。「東京を焼いちゃおう」と、まるでゲーム感覚。火の海になり、深夜の東京の町を彷徨った人たちの姿は、語ってくださった方たちの言葉から想像するしかありません。
私の知人に昭和3年生まれで、東京大空襲を墨田区の本所吾妻橋付近で経験した方がいました。「3月10日の東京大空襲って言われるけど、僕の感覚では3月9日の深夜」と、あの町を隅田川に向かって逃げまどった日のことをよく話してくださいました。その方も、10年程前に他界。エイドリアン・フランシス監督が、かろうじてご存命の方たちにご体験を聞き、こうして1本の映画に残してくださったことに感謝です。
私は戦後生まれですが、それでも戦争中や戦前について、子供の頃から両親をはじめ多くの方から聞く機会がありました。今の若い人たちは、日本がアメリカと戦争をし、負けた故に今の日本社会の様々な仕組みがあることを認識していない方が多いのではないでしょうか。憲法しかり、教育制度しかり。
戦争で失ったものは多くの人命をはじめたくさんあります。本作のタイトルになっている「ペーパーシティ」。木と紙で出来た伝統的な日本家屋の美しい家並みの多くが、米軍の空襲で焼かれてしまったことも忘れてはなりません。空襲を免れた京都をはじめ、日本各地に点在する伝統的街並みが郷愁をそそる観光地にもなっていますが、かつての日本は、どこの町にも瓦屋根の美しい家並みがあったことに思いがいたります。戦後、焼け跡の町を復興するときに、なぜ美しい町並みを復元しなかったところが多いのでしょう・・・
そして、今、戦争の時代を経験していない人たちが政治の中心にいて、日本がまた戦争に加担しかねない状況に進んでいるのではと危惧します。空襲で家族を失うという無念な思いを抱えて生きてきた人たちの言葉に、政治を担う人たちこそ耳を傾けてほしいものです。(咲)
東京ドキュメンタリー映画祭2022 観客賞受賞
2021年/オーストラリア/80分
配給:フェザーフィルムス
公式サイト:https://papercityfilm.com/
★2023年2月25日よりシアター・イメージフォーラムにて公開
2022年12月11日
チーム・ジンバブエのソムリエたち 原題:Blind Ambition
2022年12月16日(金)~よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー! その他の劇場情報
監督・製作:ワーウィック・ロス、ロバート・コー
製作総指揮:ロス・グラント、ニール・ハーベイ、エイドリアン・マッケンジー、キャメロン・オライリー、マデリーン・ロス、ポール・ウィーガンド、ジョージ・ハミルトン、イザベル・スチュアート
脚本:ワーウィック・ロス、ロバート・コー、ポール・マーフィ、マデリーン・ロス
撮影:スコット・ムンロ、マーティン・マクグラス
編集:ポール・マーフィ
音楽:ヘレナ・チャイカ
出演:ジョゼフ、ティナシェ、パードン、マールヴィン
ワインのない国からやってきた難民たちが、世界最高峰のブラインドテイスティング大会に挑む
“ワイン真空地帯”のジンバブエ共和国から南アフリカに難民として逃れ、ソムリエとなり「世界ブラインドワインテイスティング選手権」に挑戦する姿を追った。南アフリカのレストランで働くジンバブエから来た彼らは、ソムリエになった。この大会に挑戦する南アフリカチームの4人を選ぶ大会で、上位にジンバブエ出身のジョゼフ、ティナシェ、パードン、マールヴィンの4人が入り、南アフリカの選抜者は、ジンバブエチームを作った。
“チーム・ジンバブエ”を迎え撃つのは、“神の舌を持つ”23カ国の一流ソムリエたち。先進国の白人が多数を占める世界に、故郷ジンバブエの威信をかけて乗り込んだ4人は、クラウドファンディングの支援を受けてワインの聖地フランスのブルゴーニュにたどり着いたものの、限られた経費で雇ったコーチは久し振りの晴れ舞台で大暴走。“チーム・ジンバブエ”の波乱に満ちたスリリングなワインバトルの結末はいかに!?
公式HPより
私たちは、彼らの旅路と原動力をもっと知りたくなりました。そして、それは難民の暮らしや、彼らが新たな社会で直面する問題、そして生まれた国から追い出された人々にとって「家(ホーム)」とは何かということに光を当てる物語を作るチャンスでもあったのです。彼らのストーリーは、文化や人種の壁を取り除き、橋渡しをするための、より深い探求に繋がるのだと強く感じました。
彼らが南アフリカで認められ成功することが出来たのは、自分自身と家族のために、より良い暮らしを実現しようという、非常に強いポジティブ思考の賜物。そして、彼らのジンバブエへの強い愛にも心動かされました。選手権出場を通して、母国ジンバブエの未知なる可能性を世界に示すことが出来たし、そしてこのスポットライトで、抑圧的な政権の下で生きてきたジンバブエの若者たちに勇気を与えたい、と彼らは強く願っていました。この映画は単なる大会への挑戦だけでなく、希望と変革の物語なのです。難民の暮らしや、新たな社会で直面する様々な問題。生まれた国から追い出された人々にとって「家(ホーム)」とは何かということに光を当てるチャンスに巡り合った。
『世界一美しいボルドーの秘密』の監督ワーウィック・ロスと製作総指揮ロバート・コーが共同監督を務め、チーム・ジンバブエのワイナリーツアーの様子や選手権の舞台裏に密着。トライベッカ映画祭とシドニー映画祭で観客賞を受賞。
トップソムリエが火花を散らす選手権会場にカメラが潜入し、大会への挑戦を描く。
ジンバブエは、ワインの生産も消費もほとんどない国。残忍なロバート・ムガベの政権から逃れるまで、ワインを味わったこともなかった4人は、ケープタウンの4大レストランのヘッドソムリエになった。
4人の明るいキャラクターは、ドキュメンタリーなのに笑いあり涙ありでエンターティメント色、大。彼らのジンバブエへの強い愛も描かれ、選手権出場を通して、母国ジンバブエの抑圧的な政権の下で生きている若者たちに勇気を与えられたらと彼らは願う。貧困、難民など、今日的な問いを投げ掛ける社会派作品でもある。
今年は11月、12月に日本、フランス、レバノン、そしてこの南アフリカとジンバブエ、フランスを舞台にしたドキュメンタリーと、5本ものワイン映画が公開されている。ワインに人生をかけている人々の姿が描かれ、伝統の継承や、新しいことへの挑戦のすばらしさを描きつつ、気候変動、戦争、貧困の問題をも観る人に問いかける。ワインを通じて世界のワイン文化を楽しみ、考えてみませんか(暁)。
ジンバブエと聞いて思い浮かんだのは、かつて南ローデシアと呼ばれていたアフリカ大陸南部の国であることと、大きなヴィクトリアの滝があることくらいでした。 『チーム・ジンバブエのソムリエたち』というタイトルを見て、え?ソムリエ?と、ぐっと興味を惹かれました。ジンバブエとソムリエがあまりにもかけ離れたものに感じたからです。
冒頭、「クムシャ」という言葉が、ショナ語で“ルーツ”や“故郷”という意味だけど、単なる場所じゃない、祖先の魂が宿んでいる心のよりどころと出てきました。ショナ語という言語があることを初めて知りました。ジンバブエ共和国の公用語の一つで、国の70%以上を占めるショナ族の言葉とのこと。
チーム・ジンバブエの4人のソムリエは、それぞれが大変な思いをして南アフリカに逃れてきた難民。ジョゼフは密入国業者にお金を払ったものの貨物列車に詰め込まれ蒸し焼き状態に。死を覚悟しましたが運よく南アフリカに。1995年以降、300万人以上のジンバブエの人たちが難民として出国しているそうです。国境で警官に撃たれたり、ワニに食われて命を落とす危険もあるのに! そういえばムガベ大統領という独裁者がいたという程度の記憶でしたので、本作を通じて、ジンバブエの独立後の状況の一端を知ることができました。
ワインを知らなかった4人が、南アフリカでソムリエとなり、旅費をクラウドファンディングで集めて、ワインテイスティング選手権に挑む姿に、夢を持てば叶うと勇気づけられました。そして何より、4人の故国ジンバブエへの愛と誇りに感銘を受けました。(咲)
『チーム・ジンバブエのソムリエたち』公式HP
日本語字幕:横井和子
2021年製作/ビスタ/5.1ch/96分
オーストラリア/英語・ショナ語・仏語
後援:ジンバブエ共和国大使館、一般社団法人日本ソムリエ協会
提供:ニューセレクト 配給:アルバトロス・フィルム
*参照 シネマジャーナルHP スタッフ日記
「11月、12月にワイン映画が5本も公開!」
http://cinemajournal.seesaa.net/article/494033795.html
今年、5本ものワイン映画を観て、ワインに興味を持ち、さっそく12月初めに3、4か所のワイナリーやワイン関係施設を訪ねてみました。そのレポートをまたスタッフ日記にも書きたいと思います。
監督・製作:ワーウィック・ロス、ロバート・コー
製作総指揮:ロス・グラント、ニール・ハーベイ、エイドリアン・マッケンジー、キャメロン・オライリー、マデリーン・ロス、ポール・ウィーガンド、ジョージ・ハミルトン、イザベル・スチュアート
脚本:ワーウィック・ロス、ロバート・コー、ポール・マーフィ、マデリーン・ロス
撮影:スコット・ムンロ、マーティン・マクグラス
編集:ポール・マーフィ
音楽:ヘレナ・チャイカ
出演:ジョゼフ、ティナシェ、パードン、マールヴィン
ワインのない国からやってきた難民たちが、世界最高峰のブラインドテイスティング大会に挑む
“ワイン真空地帯”のジンバブエ共和国から南アフリカに難民として逃れ、ソムリエとなり「世界ブラインドワインテイスティング選手権」に挑戦する姿を追った。南アフリカのレストランで働くジンバブエから来た彼らは、ソムリエになった。この大会に挑戦する南アフリカチームの4人を選ぶ大会で、上位にジンバブエ出身のジョゼフ、ティナシェ、パードン、マールヴィンの4人が入り、南アフリカの選抜者は、ジンバブエチームを作った。
“チーム・ジンバブエ”を迎え撃つのは、“神の舌を持つ”23カ国の一流ソムリエたち。先進国の白人が多数を占める世界に、故郷ジンバブエの威信をかけて乗り込んだ4人は、クラウドファンディングの支援を受けてワインの聖地フランスのブルゴーニュにたどり着いたものの、限られた経費で雇ったコーチは久し振りの晴れ舞台で大暴走。“チーム・ジンバブエ”の波乱に満ちたスリリングなワインバトルの結末はいかに!?
公式HPより
私たちは、彼らの旅路と原動力をもっと知りたくなりました。そして、それは難民の暮らしや、彼らが新たな社会で直面する問題、そして生まれた国から追い出された人々にとって「家(ホーム)」とは何かということに光を当てる物語を作るチャンスでもあったのです。彼らのストーリーは、文化や人種の壁を取り除き、橋渡しをするための、より深い探求に繋がるのだと強く感じました。
彼らが南アフリカで認められ成功することが出来たのは、自分自身と家族のために、より良い暮らしを実現しようという、非常に強いポジティブ思考の賜物。そして、彼らのジンバブエへの強い愛にも心動かされました。選手権出場を通して、母国ジンバブエの未知なる可能性を世界に示すことが出来たし、そしてこのスポットライトで、抑圧的な政権の下で生きてきたジンバブエの若者たちに勇気を与えたい、と彼らは強く願っていました。この映画は単なる大会への挑戦だけでなく、希望と変革の物語なのです。難民の暮らしや、新たな社会で直面する様々な問題。生まれた国から追い出された人々にとって「家(ホーム)」とは何かということに光を当てるチャンスに巡り合った。
『世界一美しいボルドーの秘密』の監督ワーウィック・ロスと製作総指揮ロバート・コーが共同監督を務め、チーム・ジンバブエのワイナリーツアーの様子や選手権の舞台裏に密着。トライベッカ映画祭とシドニー映画祭で観客賞を受賞。
トップソムリエが火花を散らす選手権会場にカメラが潜入し、大会への挑戦を描く。
ジンバブエは、ワインの生産も消費もほとんどない国。残忍なロバート・ムガベの政権から逃れるまで、ワインを味わったこともなかった4人は、ケープタウンの4大レストランのヘッドソムリエになった。
4人の明るいキャラクターは、ドキュメンタリーなのに笑いあり涙ありでエンターティメント色、大。彼らのジンバブエへの強い愛も描かれ、選手権出場を通して、母国ジンバブエの抑圧的な政権の下で生きている若者たちに勇気を与えられたらと彼らは願う。貧困、難民など、今日的な問いを投げ掛ける社会派作品でもある。
今年は11月、12月に日本、フランス、レバノン、そしてこの南アフリカとジンバブエ、フランスを舞台にしたドキュメンタリーと、5本ものワイン映画が公開されている。ワインに人生をかけている人々の姿が描かれ、伝統の継承や、新しいことへの挑戦のすばらしさを描きつつ、気候変動、戦争、貧困の問題をも観る人に問いかける。ワインを通じて世界のワイン文化を楽しみ、考えてみませんか(暁)。
ジンバブエと聞いて思い浮かんだのは、かつて南ローデシアと呼ばれていたアフリカ大陸南部の国であることと、大きなヴィクトリアの滝があることくらいでした。 『チーム・ジンバブエのソムリエたち』というタイトルを見て、え?ソムリエ?と、ぐっと興味を惹かれました。ジンバブエとソムリエがあまりにもかけ離れたものに感じたからです。
冒頭、「クムシャ」という言葉が、ショナ語で“ルーツ”や“故郷”という意味だけど、単なる場所じゃない、祖先の魂が宿んでいる心のよりどころと出てきました。ショナ語という言語があることを初めて知りました。ジンバブエ共和国の公用語の一つで、国の70%以上を占めるショナ族の言葉とのこと。
チーム・ジンバブエの4人のソムリエは、それぞれが大変な思いをして南アフリカに逃れてきた難民。ジョゼフは密入国業者にお金を払ったものの貨物列車に詰め込まれ蒸し焼き状態に。死を覚悟しましたが運よく南アフリカに。1995年以降、300万人以上のジンバブエの人たちが難民として出国しているそうです。国境で警官に撃たれたり、ワニに食われて命を落とす危険もあるのに! そういえばムガベ大統領という独裁者がいたという程度の記憶でしたので、本作を通じて、ジンバブエの独立後の状況の一端を知ることができました。
ワインを知らなかった4人が、南アフリカでソムリエとなり、旅費をクラウドファンディングで集めて、ワインテイスティング選手権に挑む姿に、夢を持てば叶うと勇気づけられました。そして何より、4人の故国ジンバブエへの愛と誇りに感銘を受けました。(咲)
『チーム・ジンバブエのソムリエたち』公式HP
日本語字幕:横井和子
2021年製作/ビスタ/5.1ch/96分
オーストラリア/英語・ショナ語・仏語
後援:ジンバブエ共和国大使館、一般社団法人日本ソムリエ協会
提供:ニューセレクト 配給:アルバトロス・フィルム
*参照 シネマジャーナルHP スタッフ日記
「11月、12月にワイン映画が5本も公開!」
http://cinemajournal.seesaa.net/article/494033795.html
今年、5本ものワイン映画を観て、ワインに興味を持ち、さっそく12月初めに3、4か所のワイナリーやワイン関係施設を訪ねてみました。そのレポートをまたスタッフ日記にも書きたいと思います。
2022年09月17日
渇きと偽り 原題:The Dry
監督:ロバート・コノリー
原作:「渇きと偽り」(ジェイン・ハーパー/青木創 訳)ハヤカワ文庫刊
出演:エリック・バナ(『ミュンヘン』『NY心霊捜査官』)、ジュネヴィーヴ・オーライリー、キーア・オドネル、ジョン・ポルソン
メルボルンの連邦警察官として働くアーロン・フォーク。旧友ルークが家族を惨殺した後、自殺したらしいとの報を受け、葬儀に参列するため、20年ぶりに故郷キエワラに帰る。住民のほとんどが葬儀に集まりルークの死を悼んでいたが、アーロンとの再会を喜んでくれたのは高校時代の恋人で今はシングルマザーのグレッチェンだけだった。
悲しみに暮れるルークの両親から事件の真相を明かしてほしいと懇願され、アーロンは最初に現場に駆け付けた地元の若い警官グレッグ・レイコ―と共に事件の捜査をする。協力的なのは、最近町に引っ越してきたばかりの小学校の校長スコット・ホイットラムくらいだった。実は、アーロンは17歳の夏、同級生の少女エリーが変死し、その犯人ではないかと疑われ、父と共に町を去ったのだった。当時、アーロンとグレッチェン、ルークとエリーの4人で青春を謳歌していて、今回のルークの事件は20年前のエリー変死事件と繋がっているのではないかと疑い始める・・・
冒頭、映し出される乾いた広大な大地に圧倒されます。舞台となったキエワラは、1年近く雨が降っていないというビクトリア州の架空の町。気候温暖化で、オーストラリアではこのような干ばつで苦しむ町は多数あるとのこと。
現在と過去が交錯し、徐々に明かされていく真相にぞくぞくしました。過酷な地で極限状態におかれ、人の心も乾いてしまったように感じました。
世界的大ヒットとなった原作「渇きと偽り」は、ジェイン・ハーパーのデビュー作。1980年生まれでジャーナリストとして活動する合間に作家になりたいという夢を叶えるため、こつこつと書き上げたもの。ジェイン・ハーパーは、ルークの葬儀の場面にカメオ出演しているとのことです。(咲)
2020年/オーストラリア/英語/117分/カラー/シネマスコープ/5.1ch/G
配給:イオンエンターテイメント
公式サイト:http://kawakitoitsuwari.jp/
★2022年9月23日(金)より、新宿シネマカリテほか全国公開
2022年03月19日
ニトラム/NITRAM (原題:NITRAM)
監督:ジャスティン・カーゼル
出演:ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、ジュディ・デイヴィス、エッシー・デイヴィス、ショーン・キーナンほか
90年代半ばのオーストラリア、タスマニア島。かつて囚人の流刑地で、観光しか主な産業がない閉塞したコミュニティに母(ジュディ・デイヴィス)と父(アンソニー・ラパリア)と暮らす20代半ばの青年ニトラム(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)。メンタルヘルスの問題を抱え、母親から半ば強制的に抗うつ剤の薬を飲まされていた。
子供の頃から好きだった花火遊びをやめられない彼は、近所からは厄介者扱いされ、同級生からは本名を逆さ読みした蔑称“NITRAM”と呼ばれバカにされている。父がコテージを買ったら牛を飼いたい、ジェイミーのようにサーフィンがやりたい、などさまざまな願望を持っているが、親はコテージを買うことができず、母親はサーフボードを買ってくれない。なにひとつ思い通りいかず、何をしてもうまくいかない日々。
サーフボードを買う資金を貯めるため、芝刈りの訪問営業を始めた彼は、ある日、ヘレン(エッシー・デイヴィス)という女性と運命的に出会い、恋に落ちる。しかし悲劇的な事件をきっかけに、彼の精神は大きく狂い出す……。
1996年4月28日(日)にオーストラリア・タスマニア島のポート・アーサー流刑場跡で起きた無差別銃乱射事件を題材にした作品である。この事件では35人が亡くなり、15人が負傷。銃規制の必要性を全世界に問いかける先駆けとなった。
犯人は当時27歳だったマーティン・ブラインアント。本作は彼の視点で進んでいく。幼いころから危険なことを危険だと認知できず、しかもそれをやりたいという気持ちが抑えられない。そんな彼の気持ちを親ですら理解できず、彼の心は孤独感で覆われてしまう。
しかし、この作品は彼を擁護しているわけではない。やってはいけないことをやってしまった彼の責任は重い。そのうえで暴走しがちな彼を止める手段、親としての責任を必死に果たそうとする父母を支える手立てはなかったのかと社会の在り方を問うている。(堀)
無差別銃乱射事件を題材にした作品ということで、観なくてもいいかなとパスしようと思ったのですが、映画に対する感覚が似ている映画通の知り合いから「この作品は観ておいたほうがいいですよ」と言われ、彼女が言うのならと観てみた。
「銃規制の必要性を全世界に問いかける先駆けになった事件」と映画紹介には書かれているが、この1996年に起きたオーストラリア・タスマニア島での乱射事件のニュースを聞いた覚えがない。日本では大きくは報道されなかったのだろうか。ま、銃撃事件というのが多く、それらの記憶のかなたになってしまったのかもしれないが。
それにしても、こういう銃撃事件はこのオーストラリアの事件より以前からあったような気がしてネットで調べてみた。確かに1966年の「テキサスタワー銃乱射事件」というのはあったけど、その後の事件の記録などは、ネット上にはあまり載っていないのかもしれない。そして、この1996年の事件。その後、世界では銃乱射事件が何度も起こっているように思う。あるいは報道されるようになったというべきか。
そして「ニトラム」という青年が銃乱射事件を起こすまでを描いたこの作品。「ポートアーサー事件はなぜ起こったのか?」というテーマらしいが、あまり説明がなく、観ている間、この青年の行動にイライラした。もう大人なのに大人でない。10代の青年ならともかく、20代の大人なのに仕事にもついていない。芝刈りの仕事をして金を稼ぐというのなら高校生くらいじゃないかと思うんだけど、オーストラリアではそういうこともあるのか。あるいは仕事につけなくて、そういう風にしてバイトをしているのか。20代にもなって親がかり? そしてヘレンとの出会い。私的には恋ではなく、パトロン的な人、スポンサー的な人という感じがした。出会ってすぐ高級車を買ってくれたりと、お金がある人なのでしょうが、彼女自身が孤独を癒してくれる存在として、家出してきた彼の保護者になったということなのかな。
そして、「ニトラム」という人はなんだかわけわからない人物だと思った。20代半ばになっても保護者の庇護のもとにいるし、ヘレンの遺産で暮らしには苦労していない。暮らしは豊かだけど、地域社会の中で孤立していき、それが頂点に達した時、銃撃事件を起こしてしまったのだろうか。
それにしても、危険や迷惑ということに対する一般常識というのがわからない人なのか? 花火の件も、近所が迷惑と言っているのに、毎日続けるとか。親もそれを止められない。母親は医師に相談して抗うつ剤を飲ませていたけど、暴走は止められない。だいたい、こういう行動をするような人を薬で抑制するというは違うのではないだろうかと私は思う。彼自身が自分で、認識できるようにするにはどうしたらよかったのだろうか。結局、それができず、「ニトラム」は地域社会で孤立していったのだろう。アスペルガー症候群の人は自分の行動をうまく制御することができなくて、思いついたことをすぐに行動に移してしまったりするらしいが、そういう病気だったのだろうか。
彼の精神の彷徨の日々を描いた作品なのだろうけど、観ている間じゅう気分は重かった(暁)。
2021年 / オーストラリア / 英語 / 1.55:1 / 112分 /日本語字幕:金関いな
配給:セテラ・インターナショナル
© 2021 Good Thing Productions Company Pty Ltd, Filmfest Limited
公式サイト:http://www.cetera.co.jp/nitram/
★2022年3月25日(金)新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、ヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク吉祥寺ほか全国公開