2020年01月12日
オリ・マキの人生で最も幸せな日 原題:Hymyileva mies(微笑む男) 英題:The happiest day in the life of OLLI MAKI
監督・脚本:ユホ・クオスマネン
撮影:J・P・パッシ
編集:ユッシ・ラウタニエミ
音楽:ラウラ・アイロ
出演:ヤルコ・ラハティ(『アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場』、オーナ・アイロラ、エーロ・ミロノフ(『ボーダー 二つの世界』)
1962年、夏。田舎町のパン屋の息子オリ・マキは、プロボクサーとしてヘルシンキで行われる世界タイトル戦でアメリカ人チャンピオンと戦うことになる。国中の期待を背負って、トレーニングに励み、減量に集中する日々だ。そんなある日、友人の結婚式に参加するため故郷に帰る。車に乗り切れなくて、女友達のライヤと自転車で会場に向かい、一緒に時を過ごすうち、オリ・マキはライヤに恋をしてしまう。ヘルシンキにライヤを伴って帰ると、マネージャーは呆れながらも子ども部屋を二人の為に提供してくれる。対戦を前に、スポンサーとの会食や、記録映画の撮影などに追われ、オリ・マキは煩わしくて仕方ない。いよいよ対戦相手が到着し記者会見が開かれるが、その場でも闘志を見せず冷めた受け答えをしてしまう。
ライヤが故郷に帰ってしまい、オリ・マキはトレーニングを脱け出し彼女に会いにいき、なんとか結婚の約束を取り付ける。ようやく安心して対戦の日を迎える・・・
国中が注目するチャンピオン戦なのに、オリ・マキの頭の中には恋するライヤのことしかない様子が、なんとも微笑ましく描かれています。16ミリフィルムで撮影されたモノクロ映像が郷愁をそそります。ボクシング映画と思っていたら、みごとにはぐらかされました。
ユホ・クオスマネン監督は本作で長編デビュー。この物語を描こうと思ったのは、2011年にオリ・マキとライヤに会った折、あの対戦の日に婚約指輪を買いにいったことをオリ・マキが嬉しそうに話してくれたことが頭から離れなかったからだそうです。
フィンランド語タイトルのHymyileva miesは、「微笑む男」という意味。実は、フィンランドでは、異常者とまではいわないまでも、微笑む男というのは稀有な存在。オリ・マキはボクサーなのに強い男というより、温厚な人物だったこともタイトルに込められています。英題からとって邦題にもなっている「人生で最も幸せな日」には、人生で大事なことは?と考えさせられます。
川べりをオリ・マキとライヤが手を繋いで歩くラストシーンですれ違う老夫婦は、本物のオリ・マキとライヤ。そうと知ったのは観終わったあとでした。どうぞお見逃しなく! (咲)
第69回カンヌ国際映画祭ある視点部門グランプリ受賞
2016年/フィンランド・ドイツ・スウェーデン/92分/PG12
配給:ブロードウェイ
公式サイト:https://olli-maki.net-broadway.com/
★2020年1月17日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開
2019年12月27日
ヘヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!(原題:Hevi reissu / Heavy Trip)
監督:ユーソ・ラーティオ、ユッカ・ヴィドゥグレン
脚本:ユーソ・ラーティオ、ユッカ・ヴィドゥグレン、アレクシ・プラネン、ヤリ・ランタラ
主演:ヨハンネス・ホロパイネン、ミンカ・クーストネン、ヴィッレ・ティーホネン、マックス・オヴァスカ、マッティ・シュルヤ、ルーン・タムティ 他
フィンランドの田舎町で退屈な日々を送るトゥロは仲間3人とヘヴィ・メタルバンドを組み、ボーカルを担当している。ライブはしない単なるコピーバンドだが、本人たちは満足していた。ある日、ひょんなことからノルウェーの巨大メタルフェス出演のチャンスを掴み、バンド名も“インペイルド・レクタム"(直訳すると直腸陥没)に決定する。せっかくつかんだチャンスだったが、地元ライブで緊張したトゥロが大嘔吐する前代未聞の惨劇を起こしてしまい解散する。さらに仲間でハイウェイを走行中、トナカイを避けたドラマーが事故死してしまう。トゥロは盗んだバンに亡き友の棺桶を乗せ、精神病院から新ドラマーを誘拐し、バンドを再結成して一路ノルウェーに向かう。フィンランド、ノルウェー両国の警察に追われながらも、亡き友、仲間、そして自分のために夢のフェスを目指す。
この作品の主人公たちはご近所で “ダメダメなやつら”扱いされているけれど、ちゃんと仕事をし、社会人として果たすべきことをして生きている。バンドとして分不相応のことを望むのではなく、仲間と演奏できればそれで十分に楽しい。決して人が嫌がることはしない。
若者がバンドやラップでビッグになることを夢見る映画は多いけれど、大抵の作品は社会人として果たすべき責任を放棄していることが多く、共感ができない。それに比べて、この作品の主人公たちはなんてきちんとしているのだろう。見始めてすぐに彼らを応援したくなった。
ちょっと要領が悪いから、いろいろトラブルが起こり、笑いも生まれる。それもこの作品の魅力の1つ。彼らが無事、夢のフェスに参加できるよう、ぜひ一緒に応援してください。(堀)
今40代の息子が高校生のときに、バンドにはまっていました。スプレーで髪を立てたり、顔にペイントしたり。やたらにやかましい音楽はメタル系だったのだと思います。なんと言っているのかわからない(笑)。この作品でもそんな懐かしい日々を思い出しました。
コピーバンドでも名前くらい真っ先につけそうな気がするし、コピーばかりでなくオリジナルももっと早く作りたくなるのでは、と気の短いおばさんは思うのですが、そのへんの欲が全然ありません。それがあれよあれよというまにフェスに行くことになってしまい、その珍道中がおかしいです。ゆるいのか過激なのか判然としませんが、どっちも「あり」で、なんだかおもしろかった作品。(白)
フィンランドのバンドというと、思い出すのが、アキ・カウリスマキ監督の『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』(1989)に出て来た奇抜な頭をしたバンド。彼らも相当可笑しかったけど、本作の「インペイルド・レクタム(直腸陥没)」もかなり狂ってます。そも、名前から変!
フィンランドには、人口10万人あたり53.2のメタルバンドが存在するそうで、総人口が約550万人なので、約3,000のメタルバンドがあるという次第。
私はメタルは苦手なのですが、この映画はとにかく笑えました! 呆れました! ヘヴィメタ苦手という方も、ぜひご覧ください。(咲)
2018年/フィンランド+ノルウェー/フィンランド語、ノルウェー語、英語/92分/カラー/シネマスコープ(2.35 : 1)/5.1ch/DCP/R15+
配給:SPACE SHOWER FILMS
© Making Movies, Filmcamp, Umedia, Mutant Koala Pictures 2018
公式サイト:http://heavy-trip-movie.com/
★2019年12月27日(金)よりシネマート新宿&心斎橋ほかにてロードショー!
2019年07月10日
アイアン・スカイ 第三帝国の逆襲 原題:Iron Sky: The Coming Race
監督: ティモ・ヴオレンソラ
出演: ララ・ロッシ、ウラジミル・ブラコフ、キット・デイル、トム・グリーン、ユリア・ディーツェ、ウド・キア
前作『アイアン・スカイ』(2012年公開)では、ナチスが月の裏側に秘密基地を建設し、人類を侵略。人類は月面ナチスとの戦いに勝利したが、核戦争で自滅。地球は荒廃してしまった。
それから30年、人々はナチスの月面基地で生き延びていたがエネルギーが枯渇し、滅亡の危機を迎える。人々が苦しむ姿に機関士のオビは心を痛めていた。
そんなある日、宇宙船が地球から飛来してくる。そこにはロシア人の乗組員のほか、死んだはずの月面ナチス総統ウォルフガング・コーツフライシュも密かに同乗していた。何の企みかウォルフガングはオビに人類を救う手段を打ち明ける。
地球の深部に未開のエネルギー源があり、それを集約する聖杯を持ち帰れば、人類を救えるというのだ。オビは仲間たちと共に前人未到の<ロスト・ワールド>へと旅立つ・・・
ヒトラーをはじめとして、ビン・ラーディン、チンギス・ハーン、ローマ法王、サッチャー、スティーブ・ジョブズなどなど、歴史上の偉人・有名人がぞくぞく出てきて、恐竜ティラノサウルスと一緒に大暴れするという、まさに前代未聞の映像が展開!
悪ふざけもここまできたらお見事! (咲)
2019年/フィンランド・ドイツ・ベルギー/英語・ドイツ語/カラー/デジタル/93分
配給:ツイン
公式サイト:http://ironsky-gyakushu.jp/
★2019年7月12日(金)、TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
2019年06月16日
アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場(原題:Unknown Soldier (英語) Tuntematon Sotilas (フィンランド語))
監督・脚本:アク・ロウヒミエス
撮影:ミカ・オラスマー
出演:エーロ・アホ、ヨハンネス・ホロパイネン、ジュシ・ヴァタネン、アク・ヒルヴィニエミ、ハンネス・スオミほか
継続戦争に参加した一機関銃中隊に配属された熟練兵ロッカ(エーロ・アホ)は家族と農業を営んでいたが、冬戦争でその土地がソ連に奪われたため、領土を取り戻し元の畑を耕したいと願っている。カリルオト(ヨハンネス・ホロパイネン)は婚約者をヘルシンキに残して最前線で戦い、途中でヘルシンキに戻って式を挙げ、すぐに戦場へとんぼ返りする。ヒエタネン(アク・ヒルヴィニエミ)は戦場でも純粋な心を失わず、コスケラ(ジュシ・ヴァタネン)は最後まで中隊を指揮する。この4名の兵士を軸に進んでいく。
フィンランドは1939年からソ連と戦った「冬戦争」が翌年に終結。その代償としてカレリア地方を含む広大な国土をソ連に占領された。国土回復を掲げ、1941年にドイツと手を組み、再びソ連との戦争を開始。これを「継続戦争」と呼ぶ。本作は継続戦争に従軍したヴァイノ・リンナが書いた古典小説「無名戦士」を原作としている。
登場するのは、司令官が主人公の戦争映画だったら兵士Aや兵士Bとクレジットされるような兵士たち。しかし、彼らにも名前があり、国には待っている人がいる。司令官のコマではないのだ。彼ら1人1人のドラマを描くことで、戦争が兵士だけでなく、彼らの家族にも落とす影を浮かび上がらせた。
ところで、作品を見ていて驚いたのだが、戦争の途中で兵士に休暇があるのだ。ロッカやカリルオトは休暇を使って、家に帰っていた。戦場が地続きだからできることなのだろうか。(堀)
どんな戦争も無名の兵士たちが支えてきた。戦争映画を観ると、将棋やチェスの盤面が浮かぶ。歩兵は常に前面にたたされ反抗は許されず、後方で命令だけ出している上官がバカだと志も命も無駄になる。全体と先を読む能力があるとなしでは大違い。ちゃんとした上官ならば幸運、気まぐれや自分の保身のための命令にはロッカでなくとも反発したくなり、こんな戦いに夫や息子や孫を送り出したくないと痛切に思う。というより戦争を始めないでくれー!国土を削られ、農地も家も手放していく姿に現代の難民の姿が重なる。
ソ連と西側に挟まったフィンランドにこんな戦争の歴史があったことは、見るまで知らずにいた。この辛苦を乗り越えての今だと思うと感慨深い。フィンランドは教育水準、暮らしや福祉の手厚さ、女性の活躍などなど、日本ができないでいることを実現させている。ムーミンやカウリスマキやマリメッコで楽しませ、この映画のように心にささる作品も送り出してくれる。投じた製作費はフィンランド映画史上最大、観客動員数も過去最高。戦争を体験した人が少なくなっていく中、ぜひ観てほしい作品。(白)
フリー・アナウンサーでミリタリー・マニアの安東弘樹を招いての公開直前イベントレポートはこちらから。
公開直前イベント取材についての日記はこちらから。
2017 年/フィンランド/フィンランド語/カラー/132 分/PG-12
配給:彩プロ
© ELOKUVAOSAKEYHTIÖSUOMI 2017
公式サイト:http://unknown-soldier.ayapro.ne.jp/
2019年6月22日(土)より新宿武蔵野館にて全国順次ロードショー