2023年12月10日

枯れ葉  原題:KUOLLEET LEHDET  英語題:FALLEN LEAVES

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監督・脚本:アキ・カウリスマキ
撮影:ティモ・サルミネン
出演:アルマ・ポウスティ(『TOVE/トーベ』)、ユッシ・ヴァタネン(『アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場』)、ヤンネ・フーティアイネン、ヌップ・コイヴ

ヘルシンキの街の片隅で孤独を抱えながら生きる女と男。
アンサは理不尽な理由で仕事を失い、ホラッパは酒に溺れながらもどうにか工事現場で働いている。ある夜、二人はカラオケバーで出会い、惹かれ合う。男から、電話したいと言われ、紙に電話番号を書いて渡すも、お互いの名前は名乗らないまま。ホラッパは電話番号を書いた紙をなくしてしまう。そんなこととは知らず、電話を待つアンサ・・・

アキ・カウリスマキ監督自ら、労働者3部作(『パラダイスの夕暮れ』『真夜中の虹』『マッチ工場の少女』)に連なる“第4作目”と位置付ける作品。
仕事にも愛にも恵まれない中年の二人が、寄り添って生きたいと願う気持ちが切ないです。そんな二人が一緒に観に行く映画が、ジム・ジャームッシュ監督の『デッド・ドント・ダイ』。デートにふさわしいかどうか別にして、アキ・カウリスマキ監督のジム・ジャームッシュへの思いを感じます。
映画の中で、ロシアによるウクライナ侵攻のニュースがしばしば流れ、ロシアと国境を接しているフィンランドにとって、決して他人事ではないこととして人々は受け止めているのではと思います。
公式サイトに掲載されている監督メッセージが、いかにもアキ・カウリスマキらしいです。
「取るに足らないバイオレンス映画を作っては自分の評価を怪しくしてきた私ですが、無意味でバカげた犯罪である戦争の全てに嫌気がさして、ついに人類に未来をもたらすかもしれないテーマ、すなわち愛を求める心、連帯、希望、そして他人や自然といった全ての生きるものと死んだものへの敬意、そんなことを物語として描くことにしました。それこそが語るに足るものだという前提で」(一部引用)

これまでのアキ・カウリスマキ監督作品同様、ちょっとした仕草や、会話の間の取り方にも、そこはかとない可笑しみを感じます。
2017年、『希望のかなた』のプロモーション中に監督引退宣言をされたアキ・カウリスマキですが、そんな宣言は忘れたかのように復帰したのも彼らしくて嬉しいです。 最後に流れる「枯れ葉」の懐かしいメロディーにグッときました。(咲)


◎受賞歴
第76回カンヌ国際映画祭審査員賞
2023年国際批評家連盟賞年間グランプリ
第59回シカゴ国際映画祭最優秀監督賞
第40回ミュンヘン映画祭バイエルン2&SZ観客賞
第20回シネフェスト・ミシュコルツ国際映画祭Zukor Adolf賞(グランプリ)

2023年/フィンランド・ドイツ/81分/1.85:1/ドルビー・デジタル5.1ch/DCP/フィンランド語
配給:ユーロスペース 提供:ユーロスペース、キングレコード
公式サイト:https://kareha-movie.com/
★2023年12月15日(金)よりユーロスペースほか全国ロードショー




posted by sakiko at 03:03| Comment(0) | フィンランド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年10月15日

アアルト(原題:AALTO)

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監督:ヴィルピ・スータリ(Virpi Suutari)
制作:2020年 配給:ドマ 宣伝:VALERIA
後援:フィンランド大使館、フィンランドセンター、公益社団法人日本建築家協会 協力:アルテック、イッタラ

アルヴァ・アアルト(1898-1976年)はフィンランドを代表する建築家・デザイナー。今年は生誕125周年にあたる。今も残る優れたデザインの家具や名建築の数々を送り出した。
ヴィルピ・スータリ監督は子どものころアアルトが設計した図書館で過ごし、彼の建築やデザインの虜になったという。監督は、仕事のパートナーであり、最初の妻であったアイノに注目する。アイノがアアルトとやりとりした手紙から見えてくる二人の歴史、友人や関係者たちのコメントを集めてドキュメンタリーを制作した。

アアルトの名前は、この作品で初めて知りました。出回っている安価な商品ももとのデザインはこの方のものだったか~!
そして妻のアイノも優れたデザイナーであったと知りました。妻と母の役割とデザイナーの仕事とさぞ忙しかったはずなのに、有能な方だったんですね。最も有名なのが水の波紋からインスパイアされたという”ボルゲブリック・グラス”シリーズ。これは見たことがありました!正しい名前や製作者を知らない、特別に凝ったものでなくシンプルで使い勝手のよさそうな家具や日用品。目に留まったデザインの多くがフィンランドで生まれたものでした。
フィンランドのイッタラという小さな村のガラス工場から、機能的で美しく、誰もが入手して生活の中で使える製品が次々と送り出されました。アアルト夫妻、カイ・フランクのデザインによるものです。映画の中には仕事場だけでなく、アアルトがデザインした住宅も紹介されています。居心地の良さそうな明るい空間です。
惜しくもアイノは病を得て50代半ばで亡くなってしまいます。アアルトは入社してきたエリッサと再婚し、エリッサもアイノと同じようにアアルトを支え続けました。素晴らしい業績の陰には聡明な伴侶がいたわけです。こちらももっと注目して。(白)


2020年/フィンランド/カラー/103分
配給:ドマ 
宣伝:VALERIAC
(C)Aalto Family (C)FI 2020-Euphoria Film  
https://aaltofilm.com/
★2023年10月13日(金)より全国ロードショー
posted by shiraishi at 13:31| Comment(0) | フィンランド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年04月02日

ガール・ピクチャー(原題:Tytot tytot tytot)

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監督:アッリ・ハーパサロ
脚本:イロナ・アハティ、ダニエラ・ハクリネン
出演:アーム・ミロノフ(ミンミ)、エレオノーラ・カウハネン(ロンコ)、リンネア・レイノ(エマ)

ミンミとロンコは同じ学校に通う親友、放課後はスムージーやさんで一緒にアルバイトをしている。なんでもうちあけられる2人は、今日もおしゃべりに花を咲かせている。男性と一緒にいても何も感じないロンコは、自分がほかの人と違うのではと悩んでいる。理想の相手を探してパーティに参加した2人は、フィギュアスケーターのエマと出会った。

アッリ・ハーパサロ監督と2人の脚本家イロナ・アハティ、ダニエラ・ハクリネンは自分たちの少女時代を振り返りながら、この3人の少女たちに訪れる3度の金曜日をストーリーにしました。感受性の強い年頃の3人があれこれ悩み、失敗もしながらちょっとずつ前進します。”Tytot tytot tytot”=”girl.girl,girl"女の子をしかりつけるときに使う言葉。監督はこれをいい意味で使いたかったそうです。応援のエールかな。行け行け女の子!(白)

窓の外に湖が見える部屋、限定版のムーミン・マグ(使い方がユニーク!)など、フィンランドらしいアイテムが出てくる中で描かれる17~18歳の日常生活。その年頃の少女たちの恋や将来への悩みは世界共通でしょう。なんでも打ち明けることのできるミンミとロンコの仲を羨ましく思いました。
フィギュアスケーターのエマは、世界選手権参加を目指していて、プレッシャーに押しつぶされそうです。友達の誕生日パーティに行けないというエマに「息抜きも必要よ」と言うママ、素敵です。エマはスムージーやさんでロンコと知り合うことで、ちょっと羽目を外すことを覚えます。無駄な時間を過ごすことも、心の余裕に繋がるのですね。何より、心の通じ合える友と過ごす時間は大切!
それにしても、スムージーの名前が面白いです。「ライムの情熱」や「緑は最高」は想像がつくとして、「呼吸」「あなたは完璧」って、どんな味? (咲)


2022年・第38回サンダンス映画祭ワールドシネマドラマ部門で観客賞を受賞

2022年/フィンランド/カラー/シネスコ/100分
日本語字幕:松永昌子
配給:アンプラグド
(C)2022 Citizen Jane Productions, all rights reserved
https://unpfilm.com/girlpicture/
★2023年4月7日(金)新宿シネマカリテ、YRBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー




posted by shiraishi at 19:36| Comment(0) | フィンランド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年02月25日

マイヤ・イソラ 旅から生まれるデザイン (原題:Maija Isola Master of Colour and Form)

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監督・脚本・撮影:レーナ・キルペライネン
出演:マイヤ・イソラ、クリスティーナ・イソラ、エンマ・イソラ

フィンランド南部リーヒマキ、アロランミ。1927年、マイヤは農家の3人娘の末っ子として生まれた。13歳から家を出て一人暮らしとなり、厳しい戦時下を生き抜いた。45年、17歳年上の商業芸術家ゲオルグ・レアンデリン(ヨック)と結婚し、翌年19歳で娘クリスティーナを出産。ヨックとは共に暮らすこともなく離婚し、シングルマザーとなる。母に娘を預け、マイヤはヘルシンキの芸術大学へ進学。娘に手紙を送り続ける。
壺をデザインしたファブリックを大学のコンテストに出品すると、マリメッコの前身であるプリンテックス社を立ち上げたアルミ・ラティアの目に止まる。(マリメッコの創業は1951年)一つ所に長くとどまらず、旅するように自由に生きて多くのデザインと絵を残したマイヤ・イソラのドキュメンタリー。

マイヤ・イソラを知らなくても、マリメッコのアイコン、Unikko ウニッコ(ポピー)の赤い花は知っているでしょう。3度結婚して3度離婚した恋多き女性でもあった彼女は、38年間でマリメッコに500以上のデザインを提供しています。
強い印象を残す多彩なデザイン、アーカイブ写真と映像、家族に送った手紙や残された日記、娘のクリスティーナの証言などから、マイヤの創作や人生にせまります。
ところどころに挿入されるアニメーションと軽やかな音楽は、デザインの成り立ちも想像できる楽しさ。次々と登場する大胆なデザインのファブリックを見ていると、小さく凝り固まっていた心がほどけていくような気分になります。(白)


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レーナ・キルペライネン監督(写真上)は、アーカイブ資料や家族写真、娘の証言などを丁寧に紡いで、世界中を旅しながら、自由な心で仕事を続けたマイヤ・イソラの人生を描き出しています。監督は、「マイヤ・イソラがデザインしたカーテンが子供の頃から家にあって、マイヤ・イソラのファブリックは、私の人生の一部」と語っていて、それが本作製作の動機の一つでした。私も、マリメッコの花柄が大好きで、よく表参道のお店を覗いたものです。新しい家に引っ越した時に、ちょっと値段は高かったのですが思い切ってマリメッコでカーテンを新調しました。そんな次第で、ウニッコ(ポピー)のデザインを生み出したマイヤ・イソラに興味津々。自由を求めて、よく旅に出たマイヤですが、思いもかけず北アフリカと深い繋がりがあって、イスラーム文化圏に興味のある私にとって、マイヤ・イソラは一層身近に感じる人物になりました。
二人目の画家だった夫と一緒に、スペインからモロッコへ。アラブ人やベルベル人の文化に親しんでいます。1959年に3度目の結婚をしますが、1970年に離婚。その後、年下のエジプト人で舞台俳優のアハメドと恋に落ち、恋が作品にも影響。マルセイユからアルジェリアに船で渡り、楽園のようなところと気に入り長期滞在。気象学者のモハメドと出会います。「アラブの生活はシンプル。物事を難しく考えない人には打ってつけ」と手紙にしたためています。在留許可更新のため、3か月毎にパリに戻り、その間にマリメッコの仕事もこなし、絵の道具を買い込んで帰るという暮らし。モハメドとは破局し、その後、大学講師となったアハメドと再会しアメリカへ・・・と、 マイヤ・イソラの行動範囲はさらに広がりますが、最後は、フィンランドに戻り余生をおくっています。多くのファブリックデザインや絵を描きながら、3度の結婚、そしてアルジェリアやエジプトの男性と年齢差を越えた恋をしたマイヤ・イソラの人生、素敵すぎます。(咲)


2021年/フィンランド・ドイツ合作/カラー、モノクロ/ビスタ/100分
配給:シンカ、kinologue
後援:フィンランド大使館
(C)2021 Greenlit Productions and New Docs
https://maija-isola.kinologue.com/
★2023年3月3日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 14:51| Comment(0) | フィンランド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年02月05日

コンパートメントNo.6  原題:Hytti nro 6 英題:Compartment Number 6

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(c)2021 - AAMU FILM COMPANY, ACHTUNG PANDA!, AMRION PRODUCTION, CTB FILM PRODUCTION

監督・脚本:ユホ・クオスマネン(『オリ・マキの人生で最も幸せな日』

原作:ロサ・リクソム フィンランディア文学賞受賞「Compartment No.6」
出演:セイディ・ハーラ、ユーリー・ボリソフ、ディナーラ・ドルカーロワ(『動くな、死ね、甦れ!』)、ユリア・アウグ

1990年代後半のモスクワ。フィンランドから留学中の学生ラウラ。彼女は、北の果の地にある古代のペトログリフ(岩面彫刻)を恋人と一緒に観に行く計画を立てるがドタキャンされる。一人でムルマンスク行き寝台列車6号コンパートメントに乗り込むと、向かいの寝台のすでに酔っ払ったロシア青年リョーハが話しかけてくる。ラウラがフィンランド人だと知ると、ロシア自慢された上、「この列車で売春しているのか?」と言われる。耐え切れず、サンクトペテルブルクで引き返すことも考えるが、結局、旅を続ける。粗野な同乗者リョーハとの関係は改善されるのか? そして、ラウラはペトログリフを無事観ることができるのか・・・

『オリ・マキの人生で最も幸せな日』で、ボクサーが大事な世界タイトルマッチの日に婚約指輪を買いにいってしまった話を、ほっこりと描いたユホ・クオスマネン監督の作品。
ロサ・リクソムの小説「Compartment No.6」を作家本人の承諾を得て、自由に翻案した物語。
寝台列車で同じコンパートメントで長旅をすることになった青年と、最悪な出会いだったけれど恋に発展するなどという柔な話でないことは、ラウラの回想場面で、ドタキャンした恋人が、イリーナという女性の教授だったことからも想像がつきます。それでも、ラウラが憧れる教養あるインテリとは正反対の労働者階級のリョーハと、次第に微妙に心を通わせていく過程が見て取れて、さて、その先どうなる?と思わせてくれました。
寝台列車での長旅。若い頃にはシベリア鉄道の旅に憧れたものですが、何日も列車で過ごすのは大変。しかも、同乗者が気に食わない相手だとしたら、途中で逃げ出したくても逃げられない! 
かつて、ソ連時代にモスクワに駐在していた方が、寝台列車を予約すると、名前がロシア語的には女性に思われてしまって、いつも女性と同じコンパートメントになってしまうと嘆いていらしたのを思い出しました。日本では、男女別にするなどということはしないのですが、ソ連では一応男女別を配慮していたのだと思いました。
若い頃、旅をしていて対面式の席の列車では、よく同乗した知らない方とお話したのを思い出しました。新幹線や特急列車では、隣の席の方とお話することも少なくなってしまいました。
本作では、寝台列車の食堂車も出てきて、旅心を誘われます。
北極圏にある古代のペトログリフ(岩面彫刻)にも興味津々。地球には、深い歴史があることを思いました。
列車で乗り合わせた最初の頃に、フィンランド語で「愛してる」は何と言うかと聞かれたラウラは、リョーハの態度が不愉快だったので、汚い言葉を愛してるだと教えてしまいます。これがその後どう使われるかも見どころです。(咲)


アカデミー賞(R)国際長編映画賞フィンランド代表選出
ゴールデングローブ賞ノミネート
フィンランド・アカデミー賞(ユッシ賞)7冠ほか世界中の映画賞を席巻!

2021年/フィンランド=ロシア=エストニア=ドイツ/ロシア語・フィンランド語/107分/カラー/シネスコサイズ
後援:フィンランド大使館
配給:アット エンタテインメント
公式サイト:https://comp6film.com/
★2023年2月10日(金)、新宿シネマカリテほか全国順次公開




posted by sakiko at 19:49| Comment(0) | フィンランド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする