2023年04月02日
ガール・ピクチャー(原題:Tytot tytot tytot)
監督:アッリ・ハーパサロ
脚本:イロナ・アハティ、ダニエラ・ハクリネン
出演:アーム・ミロノフ(ミンミ)、エレオノーラ・カウハネン(ロンコ)、リンネア・レイノ(エマ)
ミンミとロンコは同じ学校に通う親友、放課後はスムージーやさんで一緒にアルバイトをしている。なんでもうちあけられる2人は、今日もおしゃべりに花を咲かせている。男性と一緒にいても何も感じないロンコは、自分がほかの人と違うのではと悩んでいる。理想の相手を探してパーティに参加した2人は、フィギュアスケーターのエマと出会った。
アッリ・ハーパサロ監督と2人の脚本家イロナ・アハティ、ダニエラ・ハクリネンは自分たちの少女時代を振り返りながら、この3人の少女たちに訪れる3度の金曜日をストーリーにしました。感受性の強い年頃の3人があれこれ悩み、失敗もしながらちょっとずつ前進します。”Tytot tytot tytot”=”girl.girl,girl"女の子をしかりつけるときに使う言葉。監督はこれをいい意味で使いたかったそうです。応援のエールかな。行け行け女の子!(白)
窓の外に湖が見える部屋、限定版のムーミン・マグ(使い方がユニーク!)など、フィンランドらしいアイテムが出てくる中で描かれる17~18歳の日常生活。その年頃の少女たちの恋や将来への悩みは世界共通でしょう。なんでも打ち明けることのできるミンミとロンコの仲を羨ましく思いました。
フィギュアスケーターのエマは、世界選手権参加を目指していて、プレッシャーに押しつぶされそうです。友達の誕生日パーティに行けないというエマに「息抜きも必要よ」と言うママ、素敵です。エマはスムージーやさんでロンコと知り合うことで、ちょっと羽目を外すことを覚えます。無駄な時間を過ごすことも、心の余裕に繋がるのですね。何より、心の通じ合える友と過ごす時間は大切!
それにしても、スムージーの名前が面白いです。「ライムの情熱」や「緑は最高」は想像がつくとして、「呼吸」「あなたは完璧」って、どんな味? (咲)
2022年・第38回サンダンス映画祭ワールドシネマドラマ部門で観客賞を受賞
2022年/フィンランド/カラー/シネスコ/100分
日本語字幕:松永昌子
配給:アンプラグド
(C)2022 Citizen Jane Productions, all rights reserved
https://unpfilm.com/girlpicture/
★2023年4月7日(金)新宿シネマカリテ、YRBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー
2023年02月25日
マイヤ・イソラ 旅から生まれるデザイン (原題:Maija Isola Master of Colour and Form)
監督・脚本・撮影:レーナ・キルペライネン
出演:マイヤ・イソラ、クリスティーナ・イソラ、エンマ・イソラ
フィンランド南部リーヒマキ、アロランミ。1927年、マイヤは農家の3人娘の末っ子として生まれた。13歳から家を出て一人暮らしとなり、厳しい戦時下を生き抜いた。45年、17歳年上の商業芸術家ゲオルグ・レアンデリン(ヨック)と結婚し、翌年19歳で娘クリスティーナを出産。ヨックとは共に暮らすこともなく離婚し、シングルマザーとなる。母に娘を預け、マイヤはヘルシンキの芸術大学へ進学。娘に手紙を送り続ける。
壺をデザインしたファブリックを大学のコンテストに出品すると、マリメッコの前身であるプリンテックス社を立ち上げたアルミ・ラティアの目に止まる。(マリメッコの創業は1951年)一つ所に長くとどまらず、旅するように自由に生きて多くのデザインと絵を残したマイヤ・イソラのドキュメンタリー。
マイヤ・イソラを知らなくても、マリメッコのアイコン、Unikko ウニッコ(ポピー)の赤い花は知っているでしょう。3度結婚して3度離婚した恋多き女性でもあった彼女は、38年間でマリメッコに500以上のデザインを提供しています。
強い印象を残す多彩なデザイン、アーカイブ写真と映像、家族に送った手紙や残された日記、娘のクリスティーナの証言などから、マイヤの創作や人生にせまります。
ところどころに挿入されるアニメーションと軽やかな音楽は、デザインの成り立ちも想像できる楽しさ。次々と登場する大胆なデザインのファブリックを見ていると、小さく凝り固まっていた心がほどけていくような気分になります。(白)

レーナ・キルペライネン監督(写真上)は、アーカイブ資料や家族写真、娘の証言などを丁寧に紡いで、世界中を旅しながら、自由な心で仕事を続けたマイヤ・イソラの人生を描き出しています。監督は、「マイヤ・イソラがデザインしたカーテンが子供の頃から家にあって、マイヤ・イソラのファブリックは、私の人生の一部」と語っていて、それが本作製作の動機の一つでした。私も、マリメッコの花柄が大好きで、よく表参道のお店を覗いたものです。新しい家に引っ越した時に、ちょっと値段は高かったのですが思い切ってマリメッコでカーテンを新調しました。そんな次第で、ウニッコ(ポピー)のデザインを生み出したマイヤ・イソラに興味津々。自由を求めて、よく旅に出たマイヤですが、思いもかけず北アフリカと深い繋がりがあって、イスラーム文化圏に興味のある私にとって、マイヤ・イソラは一層身近に感じる人物になりました。
二人目の画家だった夫と一緒に、スペインからモロッコへ。アラブ人やベルベル人の文化に親しんでいます。1959年に3度目の結婚をしますが、1970年に離婚。その後、年下のエジプト人で舞台俳優のアハメドと恋に落ち、恋が作品にも影響。マルセイユからアルジェリアに船で渡り、楽園のようなところと気に入り長期滞在。気象学者のモハメドと出会います。「アラブの生活はシンプル。物事を難しく考えない人には打ってつけ」と手紙にしたためています。在留許可更新のため、3か月毎にパリに戻り、その間にマリメッコの仕事もこなし、絵の道具を買い込んで帰るという暮らし。モハメドとは破局し、その後、大学講師となったアハメドと再会しアメリカへ・・・と、 マイヤ・イソラの行動範囲はさらに広がりますが、最後は、フィンランドに戻り余生をおくっています。多くのファブリックデザインや絵を描きながら、3度の結婚、そしてアルジェリアやエジプトの男性と年齢差を越えた恋をしたマイヤ・イソラの人生、素敵すぎます。(咲)
2021年/フィンランド・ドイツ合作/カラー、モノクロ/ビスタ/100分
配給:シンカ、kinologue
後援:フィンランド大使館
(C)2021 Greenlit Productions and New Docs
https://maija-isola.kinologue.com/
★2023年3月3日(金)ロードショー
2023年02月05日
コンパートメントNo.6 原題:Hytti nro 6 英題:Compartment Number 6
監督・脚本:ユホ・クオスマネン(『オリ・マキの人生で最も幸せな日』)
原作:ロサ・リクソム フィンランディア文学賞受賞「Compartment No.6」
出演:セイディ・ハーラ、ユーリー・ボリソフ、ディナーラ・ドルカーロワ(『動くな、死ね、甦れ!』)、ユリア・アウグ
1990年代後半のモスクワ。フィンランドから留学中の学生ラウラ。彼女は、北の果の地にある古代のペトログリフ(岩面彫刻)を恋人と一緒に観に行く計画を立てるがドタキャンされる。一人でムルマンスク行き寝台列車6号コンパートメントに乗り込むと、向かいの寝台のすでに酔っ払ったロシア青年リョーハが話しかけてくる。ラウラがフィンランド人だと知ると、ロシア自慢された上、「この列車で売春しているのか?」と言われる。耐え切れず、サンクトペテルブルクで引き返すことも考えるが、結局、旅を続ける。粗野な同乗者リョーハとの関係は改善されるのか? そして、ラウラはペトログリフを無事観ることができるのか・・・
『オリ・マキの人生で最も幸せな日』で、ボクサーが大事な世界タイトルマッチの日に婚約指輪を買いにいってしまった話を、ほっこりと描いたユホ・クオスマネン監督の作品。
ロサ・リクソムの小説「Compartment No.6」を作家本人の承諾を得て、自由に翻案した物語。
寝台列車で同じコンパートメントで長旅をすることになった青年と、最悪な出会いだったけれど恋に発展するなどという柔な話でないことは、ラウラの回想場面で、ドタキャンした恋人が、イリーナという女性の教授だったことからも想像がつきます。それでも、ラウラが憧れる教養あるインテリとは正反対の労働者階級のリョーハと、次第に微妙に心を通わせていく過程が見て取れて、さて、その先どうなる?と思わせてくれました。
寝台列車での長旅。若い頃にはシベリア鉄道の旅に憧れたものですが、何日も列車で過ごすのは大変。しかも、同乗者が気に食わない相手だとしたら、途中で逃げ出したくても逃げられない!
かつて、ソ連時代にモスクワに駐在していた方が、寝台列車を予約すると、名前がロシア語的には女性に思われてしまって、いつも女性と同じコンパートメントになってしまうと嘆いていらしたのを思い出しました。日本では、男女別にするなどということはしないのですが、ソ連では一応男女別を配慮していたのだと思いました。
若い頃、旅をしていて対面式の席の列車では、よく同乗した知らない方とお話したのを思い出しました。新幹線や特急列車では、隣の席の方とお話することも少なくなってしまいました。
本作では、寝台列車の食堂車も出てきて、旅心を誘われます。
北極圏にある古代のペトログリフ(岩面彫刻)にも興味津々。地球には、深い歴史があることを思いました。
列車で乗り合わせた最初の頃に、フィンランド語で「愛してる」は何と言うかと聞かれたラウラは、リョーハの態度が不愉快だったので、汚い言葉を愛してるだと教えてしまいます。これがその後どう使われるかも見どころです。(咲)
アカデミー賞(R)国際長編映画賞フィンランド代表選出
ゴールデングローブ賞ノミネート
フィンランド・アカデミー賞(ユッシ賞)7冠ほか世界中の映画賞を席巻!
2021年/フィンランド=ロシア=エストニア=ドイツ/ロシア語・フィンランド語/107分/カラー/シネスコサイズ
後援:フィンランド大使館
配給:アット エンタテインメント
公式サイト:https://comp6film.com/
★2023年2月10日(金)、新宿シネマカリテほか全国順次公開
2022年07月08日
魂のまなざし(原題:HELENE)
監督:アンティ・ヨキネン
出演:ラウラ・ビルン ヨハンネス・ホロパイネン クリスタ・コソネン エーロ・アホ ピルッコ・サイシオ ヤルッコ・ラフティ
1915年、ヘレン・シャルフベック(ラウラ・ビルン)は、いわば忘れられた画家であり、フィンランドの田舎で高齢の母と一緒に暮らしていた。最後の個展から何年もたっていたが、ヘレンは、栄光のためではなく内から湧き出す情熱のためだけに描き続けていた。そこへ画商のヨースタ・ステンマン(ヤルッコ・ラフティ)が訪ねてきて、小さなあばら家にあふれていた159枚の絵を発見した。その圧倒的な才能に驚嘆した彼は、首都ヘルシンキでの大規模な個展開催を決意する。しかし、ヘレンにとって真の転機は、ヨースタが、エイナル・ロイター(ヨハンネス・ホロパイネン)を彼女に紹介した時に訪れた。森林保護官でアマチュア画家でもあった青年エイナルは、ヘレンと作品の熱狂的な崇拝者というだけにとどまらず、彼女にとってかけがえのない友人そして愛の対象となる。
主人公の女性画家ヘレン・シャルフベックはモダニズムを代表する芸術家の一人として近年世界的に評価されているフィンランドの国民的画家とのこと。本作で初めて名前を知り、作品を見たが、時期によって作風が違う。そのときそのときの心の移ろいが作品に現れているのだろう。
本作はヘレンが53歳から61歳までの中年期8年間を描く。ヘレンは19歳年下の男性エイナル・ロイターと知り合い、胸をときめかせる。エイナルを演じたヨハンネス・ホロパイネンが男女の愛ではなく、あくまでも人間としての敬意であることをうまい塩梅で表現しているので、勘違いしているヘレンが痛々しい。とはいえ、ヘレンを演じたラウラ・ビルンが表情に初々しさをにじませるので、放っておけない気持ちにもなる。
現代なら男女の年齢差が19歳あっても乗り越えられるかもしれない。しかし、当時のように男性優位の時代では、妻はあくまでも自分の下にいる存在。自分よりも優れた女性と結婚する発想は男性にはなかったのだろう。結婚生活は年下の女性と送りつつ、精神的満足はヘレンとの関係で充足させる。彼にとって何の疑問もない選択だったに違いない。(堀)
冒頭、男性に取材を受けるヘレン・シャルフベック。「なぜ戦争や貧困を描くのか? 女流画家にふさわしくない」と言われ、「着想は自らの内と外の両方から生まれるもの。女流のレッテルを貼られたくない。一人の画家」ときっぱり答えるヘレン。けれども、女であるだけで差別された時代。母親でさえ、食卓でお肉は男性が先にとヘレンに諭します。159枚の絵が売れて大金が入ると、兄は「女の物は男の物」と当然のごとく要求するのですが、ヘレンは拒否します。決して、慣例に屈しない女性だったようです。そんな彼女も、19歳年下のエイナルには心を開き、仲睦まじく湖に向かって座り、絵を描く姿が微笑ましいです。エイナルが可愛らしい婚約者を連れてきて打ちのめされるのですが、友情は失いたくないというエイナルの言葉に、ほんのり芽生えた恋心を封印。83歳で亡くなるまで、エイナルと交わした手紙は、1100通! 生涯独身だったヘレンですが、わかりあえる人と出会えて、それはそれで幸せだったのではないかと想像します。(咲)
2020年/フィンランド・エストニア/122分/字幕:林かんな
配給:オンリー・ハーツ 後援:フィンランド大使館 応援:求龍堂
©Finland Cinematic
公式サイト:http://helene.onlyhearts.co.jp/
★2022年7月15日(金)Bunkamuraル・シネマ他にて順次公開
2022年04月15日
ハッチング―孵化―(原題:Pahanhautoja/英題:HATCHING)
監督:ハンナ・ベルイホルム
出演:シーリ・ソラリンナ ソフィア・ヘイッキラ ヤニ・ヴォラネン レイノ・ノルディン
北欧フィンランド。
12歳の少女ティンヤ(シーリ・ソラリンナ)は、完璧で幸せな自身の家族の動画を世界へ発信することに夢中な母親(ソフィア・ヘイッキラ)を喜ばすために全てを我慢し自分を抑え、新体操の大会優勝を目指す日々を送っていた。
ある夜、ティンヤは森で奇妙な卵を見つける。家族に秘密にしながら、その卵を自分のベッドで温めるティンヤ。やがて卵は大きくなりはじめ、遂には孵化する。卵から生まれた‘それ’は、幸福な家族の仮面を剥ぎ取っていく・・・。
子どもには幸せになってほしい。母親なら誰しもが思うこと。自分に諦めざるを得なかったことがあれば、子どもにはそんな思いをさせたくありません。しかし、それと自分の夢を託すのは大分違う…。
この物語に登場するのは北欧フィンランドに暮らす裕福な一家。前途有望なフィギュアスケート選手としてのキャリアを事故で断念した母親の夢を押し付けられている娘が主人公です。美人でスタイルばっちりな母は富と成功を手に入れた建築家と結婚。抜群のインテリアセンスで整えた家の中で営まれる、幸せで完璧な生活をアップするYouTuberとしてチャンネル登録者数を増やすことに余念がありません。娘とは何でも話せる親友のような関係で、秘密の恋心も隠さずに共有します。
これって母親側から見ればとても幸せな状況に見えますが、果たして娘にとっても幸せなのでしょうか。
母にとって体操選手として大会を目指す娘は希望や幸せの象徴。自分の思いを押し付けるだけで、娘の辛い思いに気づく余裕がありません。娘は辛くても隠すしかない。どんどん大きくなっていくカラスの卵は娘が持つことを許されない”負の感情”の代替なのです。それが限界点に達したときに卵は孵化して外に出て、とんでもないことを引き起こしていく。
娘のいる母親にとって、本作はけっして他人事ではありません。「映画の母娘と共通する部分はない?」という恐怖が半端ないホラー作品です。(堀)
配給:ギャガ
2022年/フィンランド/カラー/ビスタ/5.1chデジタル/91分/PG12
© 2021 Silva Mysterium, Hobab, Film i Väst
公式サイト:https://gaga.ne.jp/hatching/
★2022年4月15日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほか全国にて順次公開