2024年11月24日
JAWAN ジャワーン 原題: JAWAN.
監督:アトリー
出演:シャー・ルク・カーン(『PATHAAN/パターン』)、ナヤンターラ(『ダルバール 復讐人』)、ディーピカー・パードゥコーン(『PATHAAN/パターン』)、ヴィジャイ・セードゥパティ(『マスター 先生が来る!』)
国境のチベット系の人たちが暮らす村。川に流れてきた瀕死の男(シャー・ルク・カーン)を助けた母と少年。手厚く介護し、数か月後、目覚めるが男は記憶を失っていた。「あなたが誰か、僕が大人になったら必ず調べる」と約束する少年。そんな折、村を隣国の兵士が襲う。
30年後。ムンバイ。朝6時半。メトロに次々に乗り込む人たち。お腹の大きな女性もいる。
突然、顔を包帯でぐるぐる巻きにした謎の男(シャー・ルク・カーン)と、6人の女性たちが乗客を人質に取り、ハイジャックする。メトロに乗っていた武器商人カリの娘に、父親に4千憶ルピーの身代金を出すようにと迫る。入金したその金は、すぐに全国の借金を抱えた農民たち70万人に送金された。
ナルマダ隊長が率いるテロ対策部隊が駅で犯人逮捕をしようと待ち構えるが、謎の男と6人の女性たちは混乱に乗じて逃げてしまう。彼らが向かったのは、女子刑務所だった。
包帯だらけの男は実はこの刑務所の所長アーザード。そして、6人の女性たちは受刑者。
農民を救った彼らは悪なのか正義なのか? そして、真の目的は?
しばらく作品に恵まれなかったシャー・ルク・カーンですが、『PATHAAN パターン』で久しぶりにカッコいい姿を見せてくれました。本作は、さらにパワーアップ! しかも、二役です。シャールクファンには、もう、たまりません。
冒頭に出てくる記憶を失った男は、実は、メトロジャックした包帯だらけの男の父親でした。父親は息子が生まれたことも知らず、息子もまた、父親のことを知りませんでした。その出生の謎が次第に明かされていく面白さ。
一緒にメトロジャックした6人の女性受刑者たちにも、それぞれの物語があって、もう、詰込み過ぎ!
アーザードは養母から、さかんにお見合いを勧められるのですが、ある時、見合いの場にやってきたのは、本人ではなく、その娘。「父親がほしくて見定めにきたの」と言う可愛い少女に、アーザードも結婚を決めます。なんと、母親は、テロ対策部隊のナルマダ隊長!
え? それって、どうなるの? と、わくわくさせられます。
物語には、借金苦で自殺する農民が多いというインドの実態や、1984年のボーパール化学工場事故の悲劇の二の舞にしないようにと、化学工場の弊害に立ち向かう姿も盛り込んでいます。
とにもかくにも、シャー・ルク・カーンの魅力をたっぷり味わえます。女性たちも、それぞれが素敵です。
なお、タイトルの「JAWAN」は、「若い」という意味かなと思っていたら、ここでは「兵士」の意味のようです。(咲)
2023年/インド/ヒンディー語/171分/シネスコ/5.1ch
字幕翻訳:藤井美佳
配給:ツイン
公式サイト:https://jawan-movie.com/
★2024年11月29日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー
2024年10月27日
カッティ 刃物と水道管 原題:Kaththi
監督・脚本:A・R・ムルガダース(『サルカール 1票の革命』『ダルバール 復讐人』)
撮影:ジョージ・C・ウィリアムズ
音楽:アニルド(『マスター 先生が来る!』『ダルバール 復讐人』)
編集:A・シュリーカル・プラサード(『PS1黄金の河』『PS2大いなる船出』)
製作会社:ライカ・プロダクションズ
出演:ヴィジャイ(『マスター 先生が来る!』)、サマンタ(『ランガスタラム』)、ニール・ニティン・ムケーシュ(『プレーム兄貴、王になる』)
コルカタの刑務所に収監されているタミル人の“カッティ(刃物)”ことカディル。彼には、建物や都市の平面図(劇中でブループリントと称される)から、その立体的な構造を透視できる特殊能力がある。ある夜、脱獄囚を捕まえるため、警察からその能力を見込まれ、協力要請を受ける。刑務所の外に出られたのを機に、ちゃっかり自分も脱獄。ひとまずチェンナイに逃げて、そこからバンコクへ高跳びしようとしたところで、空港で出会った美女アンキタに一目惚れ。出国を止め、街路を歩いていた時、突然銃撃事件が起きる。カディルが撃たれた男のもとに駆け寄ると、その男は自分と瓜二つ! 救急車で運ばれる彼の所持品を咄嗟に自分のものと入れ替える。身代わりになったのはジーヴァという男。カディルをジーヴァと思い込んだ役人が、表彰セレモニーの会場に連れていく。そこでカディルは、ジーヴァが老人ホームを運営していることを知る。アンキタの祖父もここの入所者だった。そんな時、カディルをジーヴァと思い込んだ刺客に命を狙われる。その刺客を送り込んだのは、世界的に有名な清涼飲料会社の社長シラーグだった。カディルはジーヴァが地方の農民たちの問題解決に奔走していることを知り、ジーヴァに成り代わって、農民たちの先頭に立って多国籍企業のトップと対決する・・・
“大将”の愛称で親しまれる、インド・タミル語映画界の寵児ヴィジャイが、詐欺師で泥棒のカディルと、農民たちの為に闘う正義派ジーヴァの二役を務めた2014年の作品。
『マスター 先生が来る!』公開後、日本でもファンが増え、日本公開が待望されていた映画が、ようやく公開となりました。
大規模な清涼飲料会社が、農民たちが必要とする水を独占しようとしていて、ジーヴァがそのために闘っていること知って、成り代わったカディルは、老人たちを率いて、水道パイプラインの中に居座るという作戦にでます。常に水が流れているわけでないインドだからこそ、できる座り込み。老人たちが命がけでパイプラインの中に入っていく姿は涙を誘います。
アクション娯楽大作の中に、しっかり社会的メッセージも込めた作品。詐欺師カディルが、社会活動家ジーヴァのことを知って、改心していくさまを、ヴィジャイが見事に演じきっています。さて、美女アンキタへの一目惚れの行方は? ぜひ劇場で! (咲)
2014年/インド/タミル語/163分
配給:SPACEBOX 宣伝:フルモテルモ
公式サイト:https://spaceboxjapan.jp/kaththi/
★2024年11月1日(金)より新宿ピカデリー他全国順次公開
2024年10月03日
花嫁はどこへ? 原題:Laapataa Ladies
監督・プロデューサー:キラン・ラオ
プロデューサー:アーミル・カーン、ジョーティー・デーシュパーンデー
音楽:ラーム・サンパト
出演:ニターンシー・ゴーエル、プラディバー・ランター、スパルシュ・シュリーワースタウ、ラヴィ・キシャン、チャヤ・カダム
赤いベールを被った2人の花嫁。
花婿の家へ向かう満員列車の中で取り違えられた!?
勘違いが紡ぐ、インドの女性たちの自立を描いた物語
2001年、とあるインドの村。プールとジャヤ、結婚式を終えた2人の花嫁は同じ満員列車に乗って花婿の家に向かっていた。だが、たまたま同じ赤いベールで顔が隠れていたことから、プールの夫のディーパクがかん違いしてジャヤを連れ帰ってしまう。置き去りにされたプールは内気で従順、何事もディーパクに頼りきりで彼の家の住所も電話番号もわからない。そんな彼女をみて、屋台の女主人が手を差し伸べる。一方、聡明で強情なジャヤはディーパクの家族に、なぜか夫と自分の名前を偽って告げる。果たして、2人の予想外の人生のゆくえは──?
満員列車には、プールとジャヤのほかにも、赤いベールを被った花嫁が数人。結婚式シーズンなのですね。同じような赤いベールだから間違えてしまうのもさもありなん。
ディーパクが、僕の可愛い花嫁はどこへ?とうろたえるそばで、間違えて連れて来られたジャヤは、これ幸いと自分の夫を探そうともしません。家族に仕組まれた結婚式に臨んだものの、ジャヤには大学に行きたいという夢があったのです。一方、まだ少女のようなプールは、夫の連絡先もわからなくて途方にくれてしまいます。そんな彼女の夫をなんとか探してあげようという人たちが温かく見守ります。何かしなければとプールは、屋台のマンジュおばさんのもとでお菓子作り。これが美味しくて評判に。自分にもできることがあると自信を持つのも素敵です。
インドでは、カーストなどを配慮して結婚相手を親が決めることがまだまだ主流。それを背景に、社会の抱える問題や、女性の自立を描いた物語。
インドの国民的大スター、アーミル・カーン プロデュース!と大きく掲げられていますが、実は監督・プロデューサーを務めたキラン・ラオは、アーミル・カーンの元奥さま!
別れても関係は良好のようです。
公式サイトによれば、「『ラガーン』の撮影現場で出会ったアーミル・カーンと2005年に結婚。2021年に夫婦関係を解消したが、アーミルは本作の製作を務める他、共同設立した水の安全と持続可能で採算性のある農業を目指すNGO「パーニー(水)・ファウンデーション」でも共に活動を続けている」とのこと。
キラン・ラオは、1973年ハイデラバード生まれ、コルカタ育ち。監督の父方の祖父は王族出身で、外交官を経て出版社を経営されていました。伝統あるカソリック系の女子校ロレート・ハウスで学び、19歳のときに家族でムンバイに移住。同地のソフィア女子大学を卒業。その後デリーのジャミア・ミリア・イスラミア大学で修士号を取得した才女です。
数々の映画の製作現場の経験を経て、2010年『ムンバイ・ダイアリーズ』で監督デビュー。アーミル・カーンが主演です。
『花嫁はどこへ?』には、アーミル・カーンは出ていないし、目立ったスターは出ていないのに、心にぐっと響く物語♪ こんなインド映画を待ってました! (咲)
観た後幸せな気持ちで帰宅できます。世の中の不条理や無力感を宿題のように受け取る映画もあります。それも必要だけれど、自分の調子次第で辛いときもあります。そんなときにはぜひこの映画を。とても愛らしいプールを演じたニターンシー・ゴーエルは2007年生まれ。実際に若い17歳。裏がありそうなジャヤを演じたプラディバー・ランターは2000年生まれ。ミス・ムンバイに選出されたこともある美女です。二人ともこれが映画デビューですが、しっかりと役になじんでいてぴったりの配役でした。
新婚さんと家族が乗りあった電車の中で、結婚祝いや結納品をあけすけに言い合っているのに「へええ~」。多い人は鼻高々です。日本はずいぶん変わったと思いますが、親はそれなりに大変です。
「人は見た目が9割」とかいう本がありましたが、残りの1割は想像もつかないもの。この映画に出てくる人たちも、状況が変わるにつれ隠された部分が出てきます。特に一人迷子になってしまったプールが出会う人たちはみな見た目と違って、力になってくれる人ばかりでした。応援を受けて変わっていく彼女に、あのままお嫁入りするよりずっと良かったねと言ってやりたくなります。ジャヤももちろん抱えているものがあり、取り違えられたことで新しい道が開けます。ネタバレじゃなくて、これくらいわかったところで面白さが減ったりしません。安心して映画館へお出かけてください。(白)
2024年/インド/ヒンディー語/124分
字幕:福永詩乃
配給:松竹
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/lostladies/
★2024年10月4日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネリーブル池袋ほか全国公開
2024年09月07日
ジガルタンダ・ダブルX 原題:Jigarthanda Double X
監督・脚本:カールティク・スッバラージ
音楽:サントーシュ・ナーラーヤナン
キャスト:
アリアス・シーザー、またの名をアリヤン:ラーガヴァー・ローレンス
キルバカラン、またの名をキルバイ、レイ・ダース:S・J・スーリヤー
マラヤラシ:ニミシャ・サジャヤン (『グレート・インディアン・キッチン』)
ラトナ警視:ナヴィーン・チャンドラ
ドゥライ・パーンディ:サティヤン
クリント・イーストウッドとサタジット・レイが南インドの森で出会う
1970 年代前半のマドラス(現在のチェンナイ)。警察官採用試験に受かったキルバイは、血を見ると 気を失うこともある小心者。着任を間近にしたある日、不可解な殺人事件に居合わせ、殺人の罪で牢に 繋がれてしまう。彼は、政界に強いコネクションを持つ悪徳警視ラトナに脅されて、無罪放免・復職と引 き換えにマドゥライ地方のギャングの親分シーザーを暗殺することを命じられる。ラトナは、西ガーツ山脈のコ ンバイの森に派遣された特別警察の指揮官で、冷酷非道な男。その兄のジェヤコディは、タミル語映画界のトップスターにして、次期州首相の候補と噂されている。一方シーザーは、「ジガルタンダ極悪連合」という 組織のトップで、地元出身の野心的な有力政治家カールメーガムの手足となって象牙の違法取引から殺人まで、あらゆる非合法活動を行っている。 シーザーに近づくために、キルバイはサタジット・レイ門下の映像作家と身分を偽り、シーザーを主演にした映画の監督の公募に名乗りを上げる。クリント・イーストウッドの西部劇が大好きなシーザーは、キルバイを抜擢しレイ先生と呼ぶようになる。そこから2人の運命は思いもよらない方向に転がり始め、西ガーツ山脈 を舞台にした森と巨象のウエスタンの幕が上がる・・・
さすが、タミル語映画、濃いです。
森で象が殺され、民も容赦なく殺されます。
武器を持った警官たちが民ではなく、支配者の味方。これでは安心して暮らせません。
キルバイは、ヒーロー映画を撮るという名目で、その実態を撮るのです。
映画が正義を証明してくれる。
武器で森と民を征する支配者を弾糾する。
出来上がった映画が、大きな象牙が掲げられた映画館で上映されます。 さて、それはどんな映画?
「戦争に勝者はいない」という言葉も、ずっしり心に響きます。
冒頭に、クリント・イーストウッド、ラジニカーント、マニラトラムの名前が掲げられた映画愛に溢れた巨編です。(咲)
2023 年/インド/タミル語/PG12/172 分
字幕:矢内美貴 加藤豊/協力:ラージャー・サラヴァナン
配給:SPACEBOX
宣伝:フルモテルモ
公式サイト:https://spaceboxjapan.jp/jdx/
★2024年9月13日(金)より 新宿ピカデリーほかにて全国ロードショー
2024年06月29日
SAALAR/サラール 原題:Salaar
監督・脚本;プラシャーント・ニール(『K.G.F』シリーズ)
出演:プラバース(『バーフバリ』シリーズ)、プリトヴィラージ・スクマーラン、シュルティ・ハーサン、ジャガパティ・バーブ
1985年、先祖代々盗賊を生業にする部族によって建てられた国カンサール。王ラージャ・マンナルの第二夫人の息子ヴァラダは、第一夫人の息子ルドラに名誉と権力の象徴である鼻輪を奪われてしまう。ヴァラダの親友デーヴァは、ヴァラダのために闘技場の試合に挑み、みごと鼻輪を取り戻す。
その後、国内で部族間の争いが発生し、デーヴァの母親が窮地に陥る。駆けつけたヴァラダは自分の持つ領地の中の一番大きい地を敵に与え、デーヴァの母親を救う。デーヴァは母親とカンサールを去ることになるが、デーヴァは別れ際に、ヴァラダに「名前を呼べば、必ず駆けつける」と言い残す。
2017年、デーヴァは母と北東インド、アッサム州で暮らしている。アメリカの実業家クリシュナカーントの娘アディヤが母の遺灰をガンジス河に流すためインドに帰って来る。父の宿敵の一団に襲われそうになったのを助けられ、アッサムにたどり着き、デーヴァの母のもとで教師として働くようになる。一方、カンサール王国は内乱状態に陥っていた。王子ヴァラダは自分を奉じようとする臣下のために立ち上がることを決意する。そして、デーヴァと長年の時を経て再会する・・・
デーヴァがカンサール王国を去る時に、ヴァラダに「名前を呼べば、必ず駆けつける」と告げたとき、ペルシア帝国で、王が呼べば必ず戻ると約束した将軍(サラール)がいたことに因んで、デーヴァに「サラール」のあだ名を付けたのがタイトルの由来。
インドが独立したあとも、地図に載らないまま都市国家として存続しているカンサール王国が本作の舞台。マンナール族、シャウリヤーンガ族、ガニヤール族という3つの部族が実効支配しています。抗争が続く中で、デーヴァがヴァラダの前に現れるのは本作の最後。実は、本作の原題は『Salaar: Part 1 – Ceasefire』。デーヴァの活躍は、Part2で描かれるということのようです。乞うご期待! (咲)
2023年/インド/テルグ語/174分/シネスコ/5.1ch
字幕:藤井美佳、字幕監修:山田桂子
配給:ツイン
公式サイト:https://salaar-movie.com/
★2024年月7月5日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー