2019年11月10日

盲目のメロディ インド式殺人狂騒曲   原題:Andhadhun

moumoku.jpg

監督:シュリラーム・ラガヴァン
出演:アーユシュマーン・クラーナー、タブー、ラーティカ・アープテ―、アニル・ダワン、マナフ・ヴィジ、ザキ―ル・フセイン

アーカーシュは、盲目のピアニスト。ひょんなことで恋に落ちたソフィの父の店でピアノを演奏させてもらっている。ある日、彼の演奏に惚れこんだ往年の大スター、プラモード(アニル・ダワン)から妻シミー(タブー)の誕生日祝いにサプライズでピアノを弾いてほしいと頼まれる。ところが、訪れた豪邸で、シミーとその浮気相手がプラモードを殺してしまったのを見てしまう。実は、盲目なのは嘘で、芸術のために盲目を装っていただけなのだ。その場は見えないフリをして切り抜けるが、通報しなくてはと警察に行くと、なんと警察署長(マナフ・ヴィジ)はプラモードを殺した浮気相手だった・・・

洒落た店でピアノを弾くアーカーシュ。そして訪ねたモダンな豪邸で繰り広げられる殺人の顛末。スタイリッシュなサスペンスかと思いきや、警察で出くわすのが、当の殺人犯の浮気相手! 思わず笑ってしまいます。この後、思わぬ展開に。
アーカーシュ役を演じたアーユシュマーン・クラーナーは、自らピアノ演奏もこなしていますが、コミカルな演技も絶妙。でも、笑ってばかりいられない、予測不能なおぞましいできごとに、クラクラさせられました。
ラガヴァン監督は、フランスの短編映画『L‘Accordeur(The Piano Tuner)』(2010年)から着想を得て、本作を製作したとのこと。また違ったタイプのインド映画の登場です。(咲)


盲目を偽わるピアニストが殺人事件に遭遇。犯人から命を狙われ、本当に視力を失う。恐ろしい企みが絡み、敵味方が二転三転。目まぐるしい展開が繰り広げられる。誰を信じればいいのか。人間不信に陥りそう。
最後に笑うのは誰か。主人公は見えているのか。最後の最後までわからない。しかし、伏線はきっちり回収される。脚本の細やかさに驚かされた。(堀)


2018年/インド/ヒンディー語/シネスコ/5,1ch/138分
配給:SPACEBOX 宣伝:シネブリッジ
公式サイト:http://m-melody.jp/
★2019年11月15日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー
posted by sakiko at 14:33| Comment(0) | インド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年10月12日

ガリーボーイ   原題:Gully Boy

gully boy.jpg

監督:ゾーヤー・アクタル
脚本:リーマー・カーグティー
製作:ファルハーン・アクタル
出演:ランヴィール・シン、アーリアー・バット、シッダーント・チャトゥルヴェーディー、カルキ・ケクラン、ヴィジャイ・ラーズ、ヴィジャイ・ヴァルマー

ムンバイ空港近くのダラヴィ地区のスラムに住むイスラーム教徒の青年ムラド(ランヴィール・シン)。両親は彼が貧困から抜け出せるよう頑張って大学に通わせている。13歳の頃から付き合っているガールフレンドのサフィナ(アーリアー・バット)は、同じイスラーム教徒だが、父親はスラムで開業している医師で裕福。サフィナも外科医を目指している。
gullyboy3.jpg
若い第二夫人を家に連れてきてひと悶着起こした父が、足を骨折し、ムラドは父の代わりに大邸宅のお抱え運転手を務めることになる。格差社会を目の当たりにして、鬱屈した気持ちになるムラド。そんな折、大学の構内でのコンサートで、MCシェール(シッダーント・チャトゥルヴェーディー)の歌に惹きつけられる。言葉とリズムで気持ちを自由に表現するラップに魅せられたムラドは、詩を書いてシェールに渡すが、「自分で歌え」と言われる。ムラドはガリーボーイ(路地裏の少年)と名乗り、シェールの助けを得てラッパーに成長していく。若い女性プロデューサーのスカイ(カルキ・ケクラン)によってスタジオでのレコーディングも果たす。アメリカのラッパーNAS(ナズ)のムンバイ公演の前座で歌うラッパーをバトルで選ぶことを知り、スターを夢見て優勝を目指す・・・

gullyboy1.jpg
もともとヒップホップ音楽が好きだったゾーヤー監督。NaezyとDivineの二人のラッパーと出会い、その歌と人生に惹かれ、物語を紡ぐことを決意。リーマーと共に徹底的なリサーチを経て作り上げた映画。
スラムで暮らす青年が、インドの階級社会の現実に鬱屈しながらも、ラップと出会い、自身の思いを語り、スターを目指す成長物語と思いきや、さすが、女性の監督と脚本家が作った物語。女性たちが自分の人生を切り開いていく姿をも見事に描いていて痛快。ラップが苦手な私も、たっぷり楽しめた。 ラップが、ヒンディー語やウルドゥ―語のムンバイ訛りで歌われているのも魅力。(咲)


DSCF0867 320.jpg
ゾーヤー・アクタル監督&リーマー・カーグティー(脚本)インタビュー

2018年/インド/154分/カラー/シネスコ/5.1ch
日本語字幕:藤井 美佳/字幕監修:いとうせいこう
配給:ツイン
公式サイト: http://gullyboy.jp/
★2019年10月18日(金) より新宿ピカデリーほか全国ロードショー




posted by sakiko at 21:23| Comment(0) | インド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年08月31日

ヒンディー・ミディアム(原題:Hindi Medium) 

hindi-medium.jpg

監督・脚本:サケート・チョードリー 
脚本:ジーナト・ラカーニー
出演:イルファーン・カーン、サバー・カマル ほか

デリーの下町で結婚衣装の店を営んでいるラージ・バトラ(イルファーン・カーン)は、妻のミータ(サバー・カマル)と娘のピアの3人暮らし。娘の将来のため、ラージとミータは娘を進学校に入れることを考えていた。そうした学校は面接で親の教育水準や居住地まで調べていることを知るが、ふたりの学歴は高くなく、2人は娘のために高級住宅地に引っ越して本格的に面接に臨むが、結果は全滅。落胆する2人に、ある進学校が低所得者層のために入学に優先枠を設けているという思わぬ話が舞い込む。追いつめられたラージたちは貧民街に引っ越して優先枠での入学を狙うのだったが・・・。

タイトルの“Hindi Medium”とは…
インドで“ヒンディー語で授業を行う公立学校”のことを指す。対して、英語で授業を行う私立の名門校は“English Medium”とされ、ラージとミータはピアを“English Medium”に入学させようと奮闘する。


インドのお受験事情も熾烈。娘をエリート校に入れたい妻のため夫は奔走。高級住宅地に引っ越してハイソな家庭と交流し、受験塾に同伴して模擬面接を受け、願書をもらうために夜明け前から並ぶ。この辺りは日本と同じ。その立場のときは必死だが、こうやって客観的に見せられると笑ってしまう。最後の手段は低所得者枠で出願するため家族で貧民街に引越し。さすがにこの制度は日本にはない。しかし、貧民街での生活で夫婦は人生において本当に大切なことに気付く。。教育とは何なのかを改めて考えさせられた。

ラージを演じるイルファーン・カーンは本作でインド国内の映画賞である国際インド映画アカデミー賞、スター・スクリーン・アワード、フィルムフェア賞で主演男優賞3冠を果たした。また、ラージの妻でなりふり構わない教育ママのミータを演じたのはサバー・カマル。パキスタンで最も活躍するトップ女優のひとりで本作がインド映画初出演。2017年にインドで公開されると年間興収トップ10入りの大ヒットを記録した。
(堀)


せっかく本作でインド映画に進出し人気を博したパキスタンのトップ女優サバー・カマルだが、残念ながらカシミールの緊張が解けるまでインド映画への出演はお預けになった。
インドとパキスタンの映画人の交流が盛んになってきて、嬉しい兆候と思っていたのに、2016年9月、インドの映画製作者団体が、両国関係が正常化するまでパキスタン人俳優、歌手や技術者を起用しないとの方針を表明したのだ。
2019年8月17日、 ヒンドゥー至上主義のモディ首相が、北部ジャム・カシミール州の自治権を剥奪。カシミール問題は、さらに混迷を深め、両国の映画人の交流はますます遠のいた。残念なことだ。

本作で、もう一人注目した女優がティロートマ・ショーム。
『あなたの名前を呼べたなら』 (2019年8月2日公開)で主役の家政婦を演じた彼女が、本作では、お受験コンサルタントとして出ていて、それがもう、テキパキと仕事をこなすキャリアウーマン。相談に来たラージとミータの夫妻に、「あなたたちの英語のレベルがそれじゃダメ」と鼻で笑い飛ばして痛快。
インドでは、英語の能力はほんとに重要。口喧嘩した時にも、最後には英語でまくしたて、どちらの英語が上かで勝負が決まると聞いたことがある。
本作のヒットを受け、続編『Angrezi Medium(英語で授業を行う学校)』が製作されているとのこと。監督は違うが、イルファーン・カーンが引き続き主演。日本でまた公開されるのを楽しみにしたい。(咲)



2017年/インド/132分/ヒンディー語/シネマスコープ/カラー/5.1ch/映倫G
配給:フィルムランド、カラーバード
公式サイト:http://hindi-medium.jp/
★2019年9月6日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー
posted by ほりきみき at 16:58| Comment(0) | インド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年08月04日

シークレット・スーパースター   原題:Secret Superstar

シークレット・スーパースター/ビジュアル.jpg

監督・脚本:アドヴェイト・チャンダン
出演:ザイラー・ワシーム(『ダンガル きっと、つよくなる』)、メヘル・ヴィジュ(『バジュランギおじさんと、小さな迷子』)/アーミル・カーン(『PK』『きっと、うまくいく』『ダンガル きっと、つよくなる』)ほか

インド、グジャラート州ヴァドーダラー。
保守的なムスリムの家庭で育った14歳のインスィア(ザーイラー・ワースィム)は、歌が大好きな女の子。ギターで弾き語りしながら、いつか世界に自分の歌を届けたい願っている。そんなインスィアに母のナジマー(メーヘル・ヴィジュ)は、金のアクセサリーを売ってパソコンを買ってあげて、YouTubeで流せばという。サウジアラビアに出張中のパパに見られたら怒られるとすくむインスィア。「ブルカを被れば大丈夫!」と母に励まされて「シークレット・スーパースター」の名前で投稿すると、たちまち評判に。有名人からもコメントが寄せられ、新聞にも写真入りで紹介される。
断食月になって、サウジアラビアに出張していたエンジニアの父ファルーク(ラージ・アルジュン)が帰ってくる。30点という試験の結果を見て、ギターの弦を切ってしまう父。パソコンも捨ててしまえといわれる。
そんな中、動画を見て有名な音楽プロデューサー、シャクティ・クマール(アーミル・カーン)からインスィアの歌をレコーディングしたいと連絡が届く・・・

シークレット・スーパースター/メイン.jpg


(C)AAMIR KHAN PRODUCTIONS PRIVATE LIMITED 2017


アドヴェイト・チャンダンの初監督作品。俳優、脚本、助監督など様々な仕事をしてきたが、アーミル・カーンの元マネージャーでもあり、アーミルが全面バックアップ。出演も快諾して、有能な音楽監督だけど、同時に3人と不倫して、奥さんから離婚を突きつけられているという、ちゃらい男を実に楽しそうに演じている。おそらくアーミルとは間逆のキャラ。
そして、アドヴェイト・チャンダン監督が、「母と母性に捧げる」と掲げているように、本作は保守的なインド社会の中で虐げられながらも闘う女性たちの物語。

インスィアは、友達の男の子チンタンの助けを借りて、学校を抜け出してムンバイのシャクティのスタジオに飛行機で往復。なんとか夢を叶えたいと頑張る一方、権威主義的な父から母を救いたいと、シャクティの奥さんに離婚調停で実績にある有能な弁護士を紹介してもらう。実に痛快。

少女インスィアを演じたザイラー・ワシームは、アーミルの娘役を演じた『ダンガル きっと、つよくなる』がデビュー作。
娘の夢を叶えてあげようと、自分が盾となる母親を演じているのは、『バジュランギおじさんと、小さな迷子』でも少女の母親役のメヘル・ヴィジュ。

そして、本作がムスリムの家庭を描いていることにも注目したい。顔を隠してYouTubeに投稿する時、イスラームの女性が髪の毛や身体を隠すヒジャーブの習慣を利用するための設定だけど、インドの映画でムスリムが主役になることはなかなかないので貴重。
ヒンドゥー至上主義のモディ首相の政権下であることを考えると、さらに興味深い。
グジャラート州のムスリムの状況がどんなものなのか知らないが、父親が「明日呼ばれている結婚式は進歩的な家だからブルカは被るな」と母親に命令する場面があって、ムスリムにも様々な考えがあることを思わせてくれる。

なお、最初に出て来るタイトルも、ヒンディー語とアラビア文字のウルドゥ―語が併記されている。ウルドゥー語は、ムガル王朝の時代、イスラームに改宗した人たちが、ヒンディー語をアラビア文字で書き、語彙にもアラビア語やペルシア語起源のものを取り入れた言葉。ヒンディー語とウルドゥー語は見た目は全く違うが、文法体系は同じ。
それにしても、グジャラート州のムスリムがウルドゥ―語を話しているのかどうか知りたいところ。 (咲)


歌手を夢見る主人公は顔を隠して動画サイトに歌をアップ。一躍、有名になるが、DVな父親は音楽や自由を認めない。良かれと思って手筈を整えた両親の離婚も母から否定される。いろいろと助けてくれる友人にイライラをぶつけ、母が父に隠れてこっそり買ってくれたパソコンを投げ捨ててしまう。不自由な境遇とはいえ、不満の吐き出し方が父親に似ているのはあえてか。演じていたのは『ダンガル きっと、強くなる』で映画デビューしたザイラー・ワシーム。そういえば、あの時は父親にレスリングを無理強いされていたっけ。主人公を助ける友人の彼女への恋心は一目瞭然。それを必死に隠して、彼女の歌手デビューのために奔走する。その純な思いはいじらしく、応援したくなった。
アーミル・カーンは動画サイトから少女を見つけたプロデューサー役。彼女の自由に一役買う。いい役どころのはずだが、俺様感たっぷりの女ったらし。こんな設定は初めてでは? ピタピタの衣装が妙にハマってた。インドの良心と言われる彼とは正反対だが、実はこれが本当の姿ではと思ってしまうくらい楽しそうに演じていた。(堀)


2017年/インド/ヒンディー語/シネマスコープ/5.1ch/150分/映倫G
配給:フィルムランド、カラーバード 
公式サイト:http://secret-superstar.com/
★2019年8月9日(金)8月9日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー




posted by sakiko at 14:56| Comment(0) | インド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年07月25日

あなたの名前を呼べたなら   原題:Sir

sir.jpg

監督:ロヘナ・ゲラ
出演:ティロートマ・ショーム、ヴィヴェーク・ゴーンバル、ギーターンジャリ・クルカルニー

インドの大都市ムンバイで住み込みの家政婦をしているラトナ。
高原の村に里帰りしていたラトナは、突然雇い主に呼び戻される。仕える建設会社の御曹司アシュヴィンの結婚式が婚約者の浮気で直前にキャンセルになったのだ。
傷心の旦那様アシュヴィンに気遣いながら世話をする日々。広いマンションだが、それほど家事に時間もかからないので、午後のひと時、仕立ての勉強をしに行きたいと旦那様にお願いする。それをきっかけに、アシュヴィンはラトナの夢がデザイナーになることだと知る。さらに、結婚して4か月後の19歳のときに夫に先立たれ、「未亡人になったら人生終わり」というラトナに、「誰でも夢を持っていい」と励ます。実はアシュヴィン自身、アメリカでライターとして働いていて、作家になるのが夢だったが、兄が急逝し、家業を継がなければならなくなったのだ。アシュヴィンはラトナの夢が叶うようにと、何かと配慮して優しくする・・・

まだまだカーストや階級が社会規範になっているインドで、身分の違いを越えて心を通わす二人、そしてデザイナーとして自立したいと願う女性の姿を、しっとり味わい深く描いた物語。
なにより、家政婦に人間らしく優しく接する旦那様アシュヴィンに心惹かれました。演じたヴィヴェーク・ゴーンバルは、アートハウス系の映画製作会社ズー・エンターテインメントの創設者で、同社が手掛けた『裁き』(チャイタニヤ・タームハネー監督)ではプロデューサーだけでなく熱血弁護士として出演もしています。
AnatanoNamae_sub7.jpg
(C)2017 Inkpot Films Private Limited,India
本作では、物静かで知的な旦那様なのですが、映画祭で賞を受けて喜びのスピーチをしている姿は、とても陽気な感じでちょっとイメージが違いました。演技者としての彼自身の力もありますが、ロヘナ・ゲラ監督の演出の賜物でしょう。

そして、ラトナを演じたティロートマ・ショームもデビュー作の『モンスーン・ウェディング』や、これから日本で公開される『ヒンディー・ミディアム』でのお受験コンサルタントとしてのテキパキした女性とは全く違う雰囲気。ラトナの出身地の言葉であるマラーティー語を学んで本作に臨んだそうです。
身分違いの恋は、まだまだインドでは受け入れられないこと。タブーに果敢に挑戦したロヘナ・ゲラ監督にエールをおくりたいです。(咲)


851_5237 sir 320.jpg
『あなたの名前を呼べたなら』ロヘナ・ゲラ監督インタビュー
©mitsuhiro YOSHIDA/color field

2018年/インド,フランス/インド、フランス/ヒンディー語、英語、マラーティー語/99分
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
公式サイト:http://anatanonamae-movie.com
★2019年8月2日(金) Bunkamuraル・シネマ他全国順次公開






posted by sakiko at 21:39| Comment(0) | インド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする