2023年09月10日

燃え上がる女性記者たち 原題:Writing With Fire

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(C)BLACK TICKET FILMS. ALL RIGHTS RESERVED


監督、編集、製作:リントゥ・トーマス&スシュミト・ゴーシュ

山形国際ドキュメンタリー映画祭2021年のアジア千波万波部門で、『燃え上がる記者たち』のタイトルで上映され、市民賞を受賞した作品。

2002年にウッタル・プラデーシュ州チトラクート地区にて、カースト外の不可触民である「ダリト」の女性たちによって週刊の地方新聞として創刊された「カバル・ラハリヤ」(ニュースの波)。
2016年、独自のビデオチャンネルを立ち上げ、デジタル配信へと移行する。
主要メディアが扱わない事件も取り上げ、スマホを駆使して取材に奮闘する女性記者たちの姿を追う。



女性ばかりで取材して作っているなんて、シネジャと共通するところがあるわぁと親近感を持って見ていました。が、大きく違うのは「いのちがけ」なところ。特に誰もしなかったことに踏み出した「初めの一歩」にはどんなに勇気をふりしぼったことか。国も違えば社会背景も違うので比べられませんが、志の高さに感嘆、あの熱意に共感します。彼女たちを応援したくなりました。
丁寧に取材し、発信していくことで少しずつ社会が変わり、あとに続く若い人が現れます。キラキラした目で「先輩たちのようになりたい」という後輩たち。若くないけれど、私もそうなりたい。(白)


山形国際ドキュメンタリー映画祭2021年 『燃え上がる記者たち』(インド)Q&A
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/500697660.html

2021年/インド/ドキュメンタリー/ヒンディー語/DCP/93分
日本語字幕:福永 詩乃
配給:きろくびと
公式サイト:https://writingwithfire.jp/
★2023年9月16日(土)より渋谷ユーロ・スペースほか全国順次公開.




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2023年08月27日

PATHAAN/パターン  原題:Pathaan 

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監督・脚本:シッダールト・アーナンド(『バンバン!』『WAR ウォー!!』)
出演:シャー・ルク・カーン(『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』)、ディーピカー・パードゥコーン(『トリプルX:再起動』)、ジョン・エイブラハム(『ディシューム』)

2019年8月、パキスタンの将軍カーディルはインド政府がジャンムー・カシミール州の自治権を剥奪したことを知り、インドへの攻撃を計画。元インド諜報機関RAW所属の最強のエージェントのジムと手を組みテロ攻撃を企てる。
2020年、インド諜報機関所属のパターンは、ジムが計画するテロ攻撃を阻止するためにJOCRというRAWの内部組織を立ち上げる。
2022年、パターンはついにジムがデリー上空を飛行中の航空機に生物兵器を仕掛けたことを知る。残された時間はわずか6分。この絶体絶命の状況で、インド最高のエージェント、パターンは母国を救うことが出来るのか!?

シャー・ルク・カーン待望の4年ぶりの主演作! 
第一報をシャー・ルクの熱烈ファンの友人Mさんから聞いたのは昨年10月末のことでした。1965年11月2日生まれのシャー・ルクが57歳の誕生日を迎える直前のことでした。内容を知って、もはやロマンチックヒーローじゃなくて、アクションのスーパースターに転身か?と話題にしたものです。
そして、今年の1月末、インドで公開されると、記録破りの大ヒットとMさんから続報。
男性だけじゃなくて女性たちも何十人も集団で映画館に足を運んでお祭り騒ぎする動画を送ってくれました。シャー・ルク・カーンがインドの人たちに愛されている!と、嬉しくなったものです。(私も、『ラジュー出世する』(1992年、監督:アジズ・ミルザー)が、1997年に日本で公開された時に観て以来の大ファン♪)

インドでの公開当時のことは、こちらに書いています。
シャー・ルク・カーン復活作『Pathaan』  インドで大ヒット公開中! (咲)

早く日本語字幕付きで観たい!と待ちわびて、わくわくしながらオンライン試写を拝見。なのですが、最初に観た時には、アクションに次ぐアクションが目まぐるしく展開し、スケールの大きな映画がどちらかというと苦手な私は、ちょっと引いてしまったのです。
シャー・ルク・カーンも、それなりに年を重ね、渋いけれど、昔の甘さはないなぁ~と思ってしまったのですが、ちゃんと物語の筋を飲み込もうと、もう一度観てみました。
話の展開がわかってくると、やっぱり面白い!  シャー・ルクも渋いだけじゃなくて、ディーピカー演じるパキスタンの女医ルビナ・モフシとの絡みでは、そこはかとない色気も醸し出しているじゃないですか。

パキスタンのラホールに始まり、アフリカ某所、デリー、ドバイ、スペインのマヨルカ島、アフガニスタン、モスクワ、パリ、シベリアのバイカル湖等々、舞台も魅力たっぷり。(実際のロケ地は??)
見どころはたくさんありますが、ゲスト出演のサルマーン・カーン登場シーンは中でも必見! 崖っぷちを走る列車の上で敵と対決していた二人が、鉄橋が爆破されて、落ちて行く列車の屋根を駆けて這い上がるという凄技。サルマーン・カーンが助っ人「タイガー」として登場するのは、1時間14分あたりから6分程。最後の最後、2時間18分頃にも、もう一度登場して、ベテラン二人ならではの会話でクスッと笑わせてくれます。歳を重ね、さらに深みのある演技で私たちを楽しませてくれそうです。

さて、「パターン」は、諜報機関RAWでのコードネームですが、映画の中でパターンと呼ばれるようになったエピソードが出てきます。2002年、初任務で米軍と共にアフガニスタンに行った折、爆弾テロから子どもたちを救おうとして倒れ、意識不明になった彼を1か月にわたって見守っていたのが、パシュトゥーン(パターン)の家族。目が覚めて、「あなたもパシュトゥーン」と、それ以来、犠牲祭を共に祝うようになったのです。実際、シャー・ルク・カーンの父はパシュトゥーン。*パターンはイギリス人たちがパシュトゥーンのことを呼んだ名前です。

そして、敵ジムを演じたジョン・エイブラハムの母親はグジャラート州出身のパールシー (ゾロアスター教徒)で、イランに21人ものいとこがいるのだそうです。悪役でしたが、気になる存在です。 (咲)


2023年/インド/ヒンディー語/146分
字幕:藤井美佳
配給:ツイン
公式サイト:https://pathaan-movie.com/
★2023年9月1日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー
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2023年07月08日

ランガスタラム   英題:Rangasthalam

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©Mythri Movie Makers

監督・脚本:スクマール
撮影:R.ラトナヴェール (『ロボット』) 
音楽:デーヴィ・シュリー・プラサード(『ミルチ』) 
編集:ナヴィーン・ヌーリ
製作会社:マイトリ・ムーヴィー・メイカース
出演:ラーム・チャラン(『RRR』)、サマンタ(『マッキー』)、プラカーシュ・ラージ(『ザ・デュオ』)ほか

1980年代、インド南東部アーンドラ・プラデーシュ州中部、ゴーダーヴァリ川沿岸の田園地帯、ランガスタラム村。チッティ・バーブは、エンジンポンプで田畑に水を送り込む自称「サウンド・エンジニア」。難聴だけど、さほど気にせず楽しく暮らしている。ある日、気のいいチッティは、村人に頼まれ草むらで毒蛇を追っているときに、若い娘ラーマラクシュミが水浴びしているのに遭遇し、一目惚れする。
一方、村は高カーストの地主ブーパティが、「プレジデント(村長)」として君臨し、農民の共同組合銀行を私物化し高利貸しで私腹を肥やしている。
チッティの兄クマール・バーブが出稼ぎ先のドバイから帰省し、村人への不当な取り立てのからくりの解明に取り込む。そんな中、ラーマラクシュミが借金のためにプレジデントの手下に侮辱されるのを目の当たりにしたチッティは、思わず手下を殴ってしまい、逮捕される。兄クマールは、プレジデントが牛耳る村の有様に心を痛め、州会議員ダクシナ・ムールティの力添えで、村長選挙に立候補して村の生活を改善していこうと思い立つが…。

『RRR』で警官ラーマを演じたラーム・チャランが、本作では、ルンギー(一枚布の腰巻)姿で、田舎者の気のいい兄ちゃん。難聴で聞こえなかったことも聞こえた振りをして、あとから助手のマハーシュに確認して笑わせてくれます。恋も難聴のためにちぐはぐな対応になってしまうのですが、とにかく実直な男なのです。
それに対して、ジャガパティ・バーブ演じる村に君臨するプレジデントの凄みは、半端ないです。いかにも高カーストらしい気品も見せてくれます。
チッティが恋するラーマラクシュミは、母を亡くし、のんだくれの父に代わって気丈に働く農家の娘。演じたサマンタは、『マッキー』では都会的な美女でした。

冒頭、自転車で行くチッティの坂道の先の方で、車がダンプトラックに跳ね飛ばされ、乗っていた「先生」が外に放り出されて病院に運ばれます。「死なないで」と必死に見守るチッティ。 この「先生」は誰なのか?  ぜひ最後まで物語を見守ってください。(咲)


2018年/インド/テルグ語/174分
字幕:加藤 豊  
配給:SPACEBOX
公式サイト:https://spaceboxjapan.jp/rangasthalam/
★2023年7月14日(金)より新宿ピカデリー  ヒューマントラストシネマ渋谷 シネ・リーブル池袋 ほか 全国公開




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2023年01月29日

バンバン!  原題:BANGBANG!

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©️Fox STAR Studios

監督:シッダールト・アーナンド(『WAR ウォー!!』)
出演:リティク・ローシャン(『スーパー30 アーナンド先生の教室』)、カトリーナ・カイフ(『チェイス!』)、ダニー・デンゾンパ、パワン・マルホートラ

ロンドン。国際手配されていたテロリストのオマル・ザファル(ダニー・デンゾンパ)が拘束される。犯罪人引渡条約が締結されない限り、インドに移送されることはないと強気のオマル。そんな折、ロンドン塔に展示されているインド至宝のダイヤモンド“コーヒヌール”が何者かに盗まれる。オマルがいつかインド人の手で取り戻したいと狙っていたダイヤだ。監視カメラには、世界的に知られる大泥棒のラージヴィール(リティク・ローシャン)が映っていた。
インド北部の町シムラー。銀行で受付係をしているハルリーン(カトリーナ・カイフ)は、勤続30年の女性が独身で退職する姿をみて、自分の将来が不安になり、婚活サイトのブラインドデートに申し込む。指定のレストランにやってきた相手のヴィッキー(リティク・ローシャン)は長身のイケメン。話もはずんで、一緒に歌いながらダンスもして、ハルリーンはすっかり彼の虜になる。だが、その後ひと騒動があって、実は自分はヴィッキーではなく、ロンドンでコーヒヌールを盗んだことから追われているラージヴィールだと明かされる。ハルリーンに忠告を残し、彼女を睡眠薬で眠らせて去ってしまう。
翌日、銀行にいたハルリーンは、ゾラワール捜査官(パワン・マルホートラ)と名乗る男に連行され車に乗せられる。ラージヴィールの忠告を思い出し、なんとか車から脱出すると、そこにラージヴィールが現れる。コーヒヌールを携え、二人の逃避行が始まる・・・

ロンドンからインドに舞台を移した物語は、その後、チェコのプラハ、ギリシャのサントリーニ島とミコノス島、タイのプーケットとシミラン諸島、そしてアラブ首長国連邦のアブダビへと駆け巡ります。アクションにロマンス、ボリウッド映画お約束の歌と踊りも満載ですが、実は、トム・クルーズ&キャメロン・ディアスのコンビで大ヒットした『ナイト&デイ』の正式インド版リメイク。私は『ナイト&デイ』を観ていないので、リメイクと気にせず楽しみました。逆にこれから『ナイト&デイ』を観て、もとの映画がどんなものだったのかを確認したいと思います。

本作で一番印象に残ったのが、ハルリーンのお祖母ちゃん。ハルリーンは、10歳までカナダで育ったのですが、両親が交通事故で亡くなり、インドの祖父母に引き取られ、祖父が亡くなってからは祖母と二人暮らし。お祖母ちゃんは、昔、すごくモテたと語り、お祖父ちゃんが大好きでした。ハルリーンが恋した様子を見て、「胸の宝石箱からコーヒヌールが盗まれたね」と言います。
公式サイトで「コヒヌール」と表記されているダイヤモンドは、コーヒヌールの方が発音に近いと思いますが、「光(ヌール)の山(コー)」の意を持つ世界最大といわれるダイヤモンド。所有の変遷については諸説ありますが、150年程前に、インドを支配した大英帝国のヴィクトリア女王のものになり、現在はロンドン塔で展示されています。
冒頭、ロンドンの場面で、「コーヒヌールを返せ!」のデモが警察の監視カメラに映るのがちらっと出てきます。このところ、植民地時代に宗主国に持っていかれた文化遺産の返還を求める動きが多いことに思いが至ります。

チャーミングなハルリーンを演じているカトリーナ・カイフは、父親がカシミールにルーツを持ち、母親がイングランド人というハーフ。『タイガー 伝説のスパイ』(原題:Ek Tha Tiger  2012年 監督・脚本:カビール・カーン)では、サルマーン・カーン演じるインドのスパイが恋する女性ゾヤですが、実はパキスタンのスパイという役どころ。
『命ある限り』(原題:Jab Tak Hai Jaan 2012年 監督:ヤシュ・チョプラ)では、シャー・ルク・カーンとの悲恋の恋を演じています。
『チェイス!』では、サーカス団員として、アーミル・カーンの相手役。

リティク・ローシャンは、本作ではイケメンぶりを全開していますが、『スーパー30 アーナンド先生の教室』では、実直なアーナンド先生を体現。こんなイケメンだったの~?と、見直してしまいました。

本作では、世界各地の景色はもちろん美しいのですが、何より、山肌に家が立ち並ぶシムラーの風情が素敵です。インド北部ヒマラヤの山麓にあるシムラーは、イギリス統治時代、1865年にインド帝国の夏の首都に定められた町。冬の場面では、雪に覆われ一面の銀世界です。
ラージヴィールが、「いつか、家に帰りたい」と言っているのですが、デヘラドゥ-ンの彼の実家の表札には、「Ghar」と書いてあります。ヒンディー語やウルドゥー語で、gharは家の意味。表札にそう書く??
その家を訪ねたハルリーンは、お母さまから「長男は軍に召された」と聞かされます。実は、映画の冒頭、ロンドンでの場面で、オマル・ザファルをインドに護送しようと訪ねてきたヴィレン(ジミー・シェールギル)が母親からの電話に応じている場面があって、「マザコンのヴィレン」と呼ばれながら、オマルの手下に殺されたのです。出番の少なかった彼にもちゃんと意味があったこととして、ネタバレお許しを!

2014年に製作された本作は、今になってやっと一般公開されるのですが、もしかしたら、シャー・ルク・カーン復活作といわれるシッダールト・アーナンド監督の『Pathaan』を日本で公開する前哨戦?と、密かに思っています。(咲)


★『Pathaan』については、こちらをどうぞ!
シャー・ルク・カーン復活作『Pathaan』  インドで大ヒット公開中! (咲)



2014年/インド/ヒンディー語/シネスコ/156分
配給:SPACEBOX
宣伝:シネブリッジ
公式サイト:https://spaceboxjapan.jp/bangbang
★2023年2月10日(金)より新宿ピカデリーほか全国順次ロードショー



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2022年11月13日

マスター 先生が来る!  原題:Master

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©️B4U Motion Pictures, ©️Seven Screen Studio, ©️X.B. Film Creators

監督:ローケーシュ・カナガラージ(『囚人ディリ』)
音楽:アニルド・ラヴィチャンダル
出演:ヴィジャイ、ヴィジャイ・セードゥパティ、マーラヴィカ・モーハナン、アルジュン・ダース/ ナーサル(特別出演)

JD(ヴィジャイ)は、タミルナードゥ州の州都チェンナイにある名門大学で心理学(人格形成学)を教える名物教授。アルコール依存症気味で大学の運営本部や教授会からは何かと批判されているが、ユニークな教授法や自由な発想で学生たちには大人気。彼が実施を強く主張した学生会長選挙で暴動が起きてしまい、責任をとって休職し、700キロ離れた地方の少年院に90日の期間限定で赴く。
その少年院は、ギャングのバワーニ(ヴィジャイ・セードゥパティ)の影の支配のもと、少年たちが薬物漬けにされて犯罪行為を無理強いされていた。明日少年院を出所というときに殺人の罪を着せられそうになった2人の兄弟が、新任教師のJDに少年院の実態を訴え助けを求めようとするが、バワーニに知られて殺されてしまう。これにショックを受けたJDは、アルコールを断ち、バワーニの支配を終わらせ少年たちを更生させようと立ち上がる・・・

本作は、“大将”という愛称で親しまれ、インド:タミル語映画界の寵児となったヴィジャイの2年ぶり、64作目となるアクション大作。
超人的なカリスマ性と身体能力を誇り、満を持して登場すると無数の敵をなぎ倒す。キレキレのダンスや歌唱を劇中に何度もこなし、ヒロインも周りの人々も夢中にさせる漢っぷりを振りまく伊達男の主人公。様式美ともいえるお約束で観客を熱狂させてきたインドの娯楽アクション映画界。その中で、『ムトゥ 踊るマハラジャ』『ロボット』等で日本でも知られるラジニカーントの次を担うスーパースターとして、いま最も頂点を極めているのが、本作の主演ヴィジャイ。いきなり顔を出さず、まず足元やシルエットが映され、散々に観客を焦らしての初登場シーン。決め台詞を口にして悠然と歩み去るシーンで多用される仰角のスローモーション。本作はそんなお約束をしっかり押さえながらも、完全無欠のヒーローに対抗しうる強烈な悪役、バワーニに、スター映画とは距離を置く演技派として“タミル民の宝”の愛称で人気を集めるヴィジャイ・セードゥパティを配した対極的なWスターキャストとなっている。


本作では、二人のヴィジャイが互角の主役。オープニング、「大将(Thalapathy)ヴィジャイ」に続いて、「タミル民の宝(Makkal Selvan)ヴィジャイ・セードゥパティ」の名前が掲げられます。オープニング・クレジットで主役と悪役がこれだけ対等に扱われるのは、タミル語映画では実は珍しいことなのだそうです。ヒーローが最終的に勝利するのは大衆映画の決まり事ですが、その枠組みの中で悪役を最大限に力強く造形することに心を砕いたと、ローケーシュ監督は語っています。
その証拠に冒頭で語られるのは、バワーニの物語。17歳の時に両親を3人組のギャングに殺された上に、少年院に送られ、そこで散々辛酸を舐めさせられます。自分を痛めつけた者たちを見返そうと、トラック運送業という表向きの商売の裏で、密造酒の流通や麻薬取り引き、政治家の資金洗浄などを行い、ギャングの元締めにのし上がったのです。純真な少年が、敵や裏切り者を容赦なく殺す冷酷な男になった背景がしっかり描かれています。

JDが着任した少年院は、少年たちが皆、悪事に手を染めさせられていて、管理人たちもグル。指導すべき教師が居つかないのです。
意気揚々と着任し、「♪人生は短い、幸せでいよう♪」「♪教育は必要、やる気が必要♪」と歌いながら踊って鼓舞するのですが、勉強などする気のない少年たち。部屋も荒れ放題です。
JDを見込んで、少年院の教師として送り込むよう仕組んだのは、大学の新任講師の女性チャールー(マーラヴィカ・モーハナン)でした。チャールーは以前、NGOのメンバーとして少年院を調査し実態を聞かされていて、JDが改善してくれることを期待していたのでした。着任初日、いつものように酒浸りで、殺人の罪を着せられそうになっている兄弟の訴えが届かなかったのです。

少年院では、18歳を過ぎても出所しないでいる者たちが、バワーニの指令で動いているのですが、少年たちはバワーニの存在を知りません。少年院を仕切っているのは、ダースという青年。演じているアルジュン・ダースは、タミル映画の俳優には珍しく細身。顔立ちはヴィジャイたちと同様に濃いのですが、眼光鋭く、声が低音なのも魅力で、注目株ではないでしょうか。
JDを見込んだ女性教師チャールー役のマーラヴィカ・モーハナンも、知的でチャーミング。男たちの激しい抗争が続く中、清涼剤になっています。(咲)


★インディアンムービーウィーク2021 パート2で上映された人気作品

2021年/インド/タミル語/179分/ PG12(暴力シーンあり)
字幕:大西美保/監修:小尾 淳/協力:安宅直子
配給:SPACEBOX
宣伝:シネブリッジ
公式サイト: https://spaceboxjapan.jp/master
★2022年11月18日(金)新宿ピカデリーほか全国公開



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