2025年09月27日

ピアノフォルテ(英題:Pianoforte)

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監督:ヤクブ・ピョンテク
出演:アレクサンダー・ガジェヴ、レオノーラ・アルメリーニ、エヴァ・ゲヴォルギヤン、ラオ・ハオ、ミシェル・カンドッティ、マルチン・ヴィエチョレク 他

2021年、第18回ショパン国際ピアノコンクール。5年に1度開かれてきた大会は、コロナ禍のため1年延期となった。この大舞台に臨む6人の出場者にスポットをあて、彼らの情熱を余すところなく映し出す。
審査は1次から本選まで全4回、21日間にわたって行われる。ポーランド、ロシア、中国、イタリアなど国籍も育ってきた環境も異なる6人の出場者たち。とてつもない緊張に負けてしまう者もいれば、そのプレッシャーを楽しみ、力に変える者もいる。優しい先生と二人三脚で栄光を目指す者もいれば、威圧的な指導者に押しつぶされそうになる者もいる。だが、幼いころからここで演奏することを夢見てきた強い思いは同じ。栄冠をつかむのは誰なのか。そのとき彼らは何を思うのか。
本作はポーランド映画としてはじめて国際エミー賞の芸術番組部門最優秀賞を受賞した。

全く音楽の素養がないので、こういうドキュメンタリーを観るとあの指の動き、長い楽曲を譜面も見ずに弾きこなすのに圧倒されるばかりです。演奏を楽しむばかりでなく、子供の頃からずっとこういうコンクールに出場し、より良い結果を出すことを目標に精進してきたのでしょう。自分が上達したと思っても、気が抜けません。ライバルたちもまたさらに上を目指しています。優劣や順序など意に介さない人生もあれば、しのぎを削ることを励みに頑張る人生もあります。
6人の若きピアニストたちの姿には、一心に何かに向かう神々しさまで感じられました。幸あれ。(白)

ショパン国際ピアノコンクールとは──
フリデリク・ショパン研究所がポーランドのワルシャワで開催する、世界最古の国際ピアノコンクール。
1927年に第一回が行われ、第二次大戦中に中断するも、その後は5年に1度開催される。課題曲はすべてショパン作品で占められる。
スタニスラフ・ブーニン、マルタ・アルゲリッチら多くの名だたるピアニストを輩出し、出場を果たすだけで名誉なこと、入賞すればその後の成功が約束される随一のコンクールとあって、世界中の若きピアニストたちが頂点を目指す憧れのステージ。

2023年/ポーランド/カラー/89分
配給:コピアポアフィルム
(C)Pianoforte
https://pianoforte-movie.jp/
★2025年9月26日(金)全国ロードショー
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2024年06月12日

フィリップ(原題:Filip)

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監督:ミハウ・クフィェチンスキ
原作:レオポルド・ティルマンド
脚本:ミハウ・クフィェチンスキ, ミハル・マテキエヴィチ
撮影:ミハウ・ソボチンスキ
美術:タジーナ・ソバンスカ、マルセル・スラヴィンスキ
音楽:ロボット・コック
出演:エリック・クルム・ジュニア(フィリップ)、カロリーネ・ハルティヒ(リザ)、ヴィクトール・ムーテレ(ピエール)、ゾーイ・シュトラウプ(ブランカ)、サンドラ・ドルジマルスカ(マレーナ)、ロベルト・ヴィエツキーヴィッチ(スタシェク)、ジョゼフ・アルタムーラ(フランチェスコ)

 1941年、ポーランド系ユダヤ人のフィリップはワルシャワのゲットーで暮らしている。恋人サラにプロポーズしたばかり。両親たちが見守る中、舞台でサラとダンスを披露していると突然入って来たナチスが無差別に銃撃。サラと家族や親戚を目の前で殺されてしまう。
2年後。生き残ったフィリップは、フランス人と偽ってフランクフルトの高級ホテルのレストランでウェイターとして働いている。戦場に夫を送り出したナチス上流階級の女性たちを次々と誘惑することが、フィリップの復讐だった。そんな中、ドイツ人のリザと出会う。

原作の小説は、ポーランド人作家レオポルド・ティルマンドが自らの実体験を基に1961年に発表したもの。ポスターのフィリップは傷だらけで、人相が悪いですが、これはナチスに暴行された後の顔だから。ウエイターとして働くフィリップは、独り寝をかこつナチスの上流奥様がたがその気になってしまうスマートさです。ばれることがないのは、ドイツ人女性が他国の男を交わると、純潔を汚した罪で頭を丸刈りにされるから。フィリップはそれを承知で誘惑しては捨てるの繰り返し。
そんな彼に「いい加減にしろ」と言ってくれる親友のピエールは、ナチスに公開処刑されてしまいます。フィリップが恋するリザは愛されて育った聡明な女性ですが、こんな情勢では…と観ていて胸が痛みます。ナチスの傲慢、残虐な仕業を責めたくなる半面、戦時中の日本もどこの国も簡単に人間性をなくしてしまうのだといまさらながら思いました。(白)


2022/ポーランド/ポーランド語、ドイツ語、フランス語、イディッシュ語/1:2/124分/
字幕翻訳:岡田壮平
配給:彩プロ
©TELEWIZJA POLSKA S.A. AKSON STUDIO SP. Z.O.O. 2022
https://filip.ayapro.ne.jp/
★2024年6月21日(金)より新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国公開
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2024年04月28日

人間の境界(原題:Zielona Granica)

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監督:アグニエシュカ・ホランド
脚本:マチェイ・ピスク、Gabriela Łazarkiewicz-Sieczko、アグニエシュカ・ホランド
撮影:トマシュ・ナウミュク
音楽:フレデリック・ヴェルシュヴァル
出演:マヤ・オスタシェフスカ(ユリア)、ベヒ・ジャナティ・アタイ(レイラ)、ジャラル・アルタウィル(バシール)、モハマド・アル・ラシ(祖父)、ダリア・ナウス(アミーナ)、トマシュ・ヴウォソク(ヤン)

2021年、幼い子供を含む6人のシリア人家族が、ベラルーシ行きの飛行機に乗り込んだ。祖国から脱出し、ヨーロッパへの亡命を目指す彼らは、ベラルーシ当局の用意するルートでポーランド国境を安全に通過できるという案内を信じ、空港から協力者の車で国境へと向かう。しかし彼らを待ち受けていたものは、高額な金銭の要求と武装した国境警備隊だった…

英語題は「Green Border」。海に囲まれた日本ではピンとこないので、県境を想像しますが、陸続きの隣国との国境は川にそった自然な国境もあれば、定規で線引きしたような人為的な国境もあります。森の中の国境は鉄条網が張られ、ベラルーシ側では無理やり広げて難民を押し込み、ポーランド側は追い立てて戻します。自由になれると思ったのもつかの間、両国の人間兵器として非人道的に扱われます。祖父と孫を含む6人家族が強いられる過酷な日々は観るにたえないほどでした。実際に難民であったり、活動家の経験のある俳優たちを起用しているからか、ドキュメンタリーかと思うほどリアルなシーンが続きました。モノクロであるのがさらに拍車をかけます。
シリア人難民をモノ扱いする国境警察の要人、現場で働く若い警察官、その家族、と視点を変えての心情もつまびらかにしています。抗えない命令に心を病む人、救っても救っても救いきれず落ち込みながらも、また手を差し伸べに向かう活動家たち。
アグニエシュカ・ホランド監督のこれまでの映画も「真実よりも真実?」と言いたくなる痛切なものでしたが、この作品も例にもれません。監督が身の危険を感じるほど強硬だったというポーランド政府の姿勢。映画人が一丸となって監督の味方をしたというのを心強く思いました。
どんなに歴史を学んでも、人間は同じように欲に駆られ、獣になり(獣に悪いわ)、同じことを繰り返します。それでも、心が痛むうちは希望もあると思いたいです。(白)


「船じゃないから楽。溺れ死ぬ心配もない」というシリア人の家族。ベラルーシに向かうシリア人一家も、隣の席のアフガニスタン女性レイラも、飛行機に乗れる多少の余裕のある人たち。それでも、祖国を離れなければいけないのは余程の理由があってのこと。誰しも命の危険をおかしてまで、逃げたくはないはずです。
シリアの一家は、スウェーデンに既にいる親せきが、道中の手配をしてくれていてスマホは命綱。それなのに子供たちがゲームをして電池切れになってしまい、充電もままならない状態で、ハラハラさせられます。
人権活動家が必死になって難民を助けようとする一方で、ポーランドの国境警察が無慈悲に難民を追い返します。中には、難民を見つけても見逃す警察もいるのですが。
アグニエシュカ・ホランド監督が、本作を撮り終えたあとに、ロシアのウクライナ侵攻が勃発。ポーランドがウクライナの人たちを毎日何十万人単位で受け入れていることに、2021 年の秋、アフガニスタン、シリア、イラク、イエメン、コンゴなどからの難民受け入れを拒否し、ベラルーシに押し返したこととのダブルスタンダードを嘆いています。まさに、肌の色の違いによる差別だと。
英国政府が不法滞在者をルワンダに送ることを決定したというニュースにも驚きました。平穏な暮らしを求めて、命がけで国を逃れてきた人への血も涙もない仕打ち・・・
願わくは、難民にならない平和な世界になってほしいですが、現実は厳しい。せめて、そういう人たちを受け入れてほしいと思うのですが、そんなに難しいことなのでしょうか・・・ (咲)



★2023年ヴェネチア映画祭コンペティション部門審査員特別賞
ロッテルダム国際映画祭観客賞ほか受賞多数

2023年/ポーランド、フランス、チェコ、ベルギー合作/カラー/152分
配給:トランスフォーマー
(C)2023 Metro Lato Sp. z o.o., Blick Productions SAS, Marlene Film Production s.r.o., Beluga Tree SA, Canal+ Polska S.A., dFlights Sp. z o.o., Ceska televize, Mazovia Institute of Culture
https://transformer.co.jp/m/ningennokyoukai/
★2024年5月3日(金・祝)TOHOシネマズ シャンテ ほか全国ロードショー

posted by shiraishi at 15:35| Comment(0) | ポーランド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年07月17日

アウシュビッツのチャンピオン   原題:Mistrz  英題:The Champion of Auschwitz

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(C)Iron Films sp. z o.o,TVP S.A,Cavatina GW sp.z o.o, Hardkop sp.z o.o,Moovi sp.z o.o


監督・脚本:マチェイ・バルチェフスキ
撮影:ヴィトルド・プウォチェンニク
音楽:バルトシュ・ハイデツキ
出演:ピョートル・グウォヴァツキ、グジェゴシュ・マウェツキ、マルチン・ボサック、ピョートル・ヴィトコフスキ、ヤン・シドウォフスキ

1940年6月、第2次世界大戦最中のドイツ占領下のポーランド。アウシュヴィッツ強制収容所に最初の囚人たちが移送されてきた。その中に、戦前のワルシャワで“テディ”の愛称で親しまれたボクシングチャンピオン、タデウシュ・ピトロシュコスキがいた。左腕に囚人番号「77番」の入れ墨を刻まれ、十分な寝床や食事を与えられることなく過酷な労働に従事させられた。ある日、一人のカポ(囚人の中の統率者)が、ボクシングチャンピオンだったテディを、司令官たちの娯楽としてリングに立たせることを思いつく。ここでのボクシングはスポーツではない。テディは、退屈しのぎの気晴らしとして対戦相手をさせられたのだ。必死に闘い、戦利品として手に入れた食糧や薬を囚人仲間たちに惜しげもなく分け与え、無敵のテディは、次第に囚人たちの希望の星となっていった・・・

タデウシュ・ピトロシュコスキは、1917年ワルシャワ生まれ。愛国主義とカトリックの教えが重要な役割を果たすポーランド家庭で育っています。なぜ、彼がいち早く強制収容所に送られたのかと思ったら、ポーランドに侵攻したナチス・ドイツは、愛国主義の温床になるとしてスポーツ組織を禁じ、「愛国心」の強い危険分子とみなしたアスリートを強制収容所に送ったと知りました。ユダヤ人だけでなく、ロマや障がい者が強制収容所に送られたことは知っていましたが、こうした愛国心が強いとみなされた人たちが政治犯として収容されたことを、本作を通じてあらためて知りました。
1940年6月に、最初に強制収容所に入れられたのは、こうしたアスリートを含め、ポーランドの愛国心の強い「政治犯」700人。当時、ポーランド軍の宿営地だったアウシュヴィッツを強制収容所にする改築工事に従事させたのです。ナチスはポーランド人を“下等人間”として、労働を強いたのですが、さらに“人間以下”と見なしたユダヤ人の抹殺計画が決定されたのは1942年です。

テディは、強制収容所のナチ親衛隊たちの退屈しのぎの慰めだったとはいえ、ボクシングをし続けることで生き延びました。連行されてきたプロレスやフットボールなどのアスリートたちも、対戦相手をさせられたとのことです。
ところで、アメリカ映画『ナチス、偽りの楽園 -ハリウッドに行かなかった天才-』(2003年、マルコム・クラーク監督)では、テレージエンシュタット収容所で、音楽、映画、演劇など芸術の才能のあるユダヤ人たちが集められ、戦況が悪化する中でも文化活動が続けられていたことが描かれていました。
本作でも、収容所に到着した列車を音楽隊が迎える姿が映し出されていました。ナチスが悪だくみをカモフラージュするかのよう! 
本作は、過酷な強制収容所を生き抜いた実在の人物を描いたものですが、生き抜けなかった多くの人たちに思いを馳せ、世の中から戦争がなくなることを祈るばかりです。(咲)


2020年/ポーランド/91分/カラー/5.1ch
日本語字幕:渡邉一治
配給:アンプラグド
公式サイト:https://unpfilm.com/COA/
★2022年7月22日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開



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2021年01月10日

聖なる犯罪者   原題: Boże Ciało 英題: Corpus Christi

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監督:ヤン・コマサ
出演:バルトシュ・ビィエレニア、エリーザ・リチェムブル、アレクサンドラ・コニェチュナ、トマシュ・ジィェンテク

20歳のダニエルは殺人を犯し少年院で更生を受けている。熱心なカトリック教徒の彼は、厳格なマシュ神父に信頼されミサのまとめ役を任されていた。神父になりたいと夢見るが、前科者は神学校に入れないといわれる。仮出所が認められ、田舎町の製材所で働くことになる。地元の教会で知り合った少女マルタに、自分は司祭だと嘘をついてしまう。マルタからヴォイチェフ神父を紹介されたダニエルは、神父が不在の間、教会を任せたいと依頼される。
ダニエルは村に若者6人の献花台があることが気になっていた。マルタの兄も含め6人が乗っていた車が、飲酒運転をしていた車とぶつかりその運転手も含め7人が亡くなったという。運転をしていたスワヴェクは司祭から埋葬も拒否されたと聞き、ダニエルがスワヴェクの妻に会いにいくと、彼は4年間断酒していたと聞かされる。事故の真相を明かそうとしている矢先、少年院で一緒だったピンチェルが告解室にやってくる・・・

この映画を観て、真っ先に思い出したのが、イラン映画の傑作『ザ・リザード』(2004年、キャマール・タブリーズィー監督)。囚人が刑務所付のイスラーム僧の袈裟を失敬して脱獄し、人々に崇められてしまう物語。これはコメディー仕立てでしたが、「制服」を信じてしまう人々の心理は同じ。実は、「ポーランドでは偽司祭の話は毎年起こるぐらい珍しくない」とプレス資料にありました。
ダニエルは、告解に来た人への答えに困るとスマホで告解の手引きを検索し、ミサも独自のスタイルで説教をして、「神父様」と慕われます。格好から、自分自身、神父になりきり善人になったような陶酔した気持ち。子役時代から舞台で活躍していたバルトシュ・ビィエレニアが罪人なのに聖人にも見える得体の知れない人物を体現していて圧倒されました。(咲)


ダニエルは偽司祭だが、彼がミサを行うようになってから村の人たちは変わっていく。村で1年前に7人もの命を奪う凄惨な事故が起こり、被害者家族も加害者家族も心に深い傷を負っていることを知り、奔走するダニエルの姿に嘘はない。しかし、ダニエルの過去を知る少年が現れたことをきっかけにダニエルの嘘が明らかになっていく。
実際に起きたことに着想を得た作品という。モデルになった少年がどうなったのかはわからない。“犯罪歴があると神学校に入れない”といわれても以前の自分だったら何の違和感もなかっただろう。しかし、本作を見てから「なぜダメなのか。人生をやり直すチャンスを奪っていいのか」という疑問が残るようになった。(堀)


2019年/ポーランド=フランス合作/ポーランド語/115分/R18/5.1chデジタル/スコープサイズ
字幕翻訳:小山美穂 字幕監修:水谷江里 
後援:ポーランド広報文化センター 
配給:ハーク
© 2019 Aurum Film Bodzak Hickinbotham SPJ.- WFSWalter Film Studio Sp.z o.o.- Wojewódzki Dom Kultury W Rzeszowie - ITI Neovision S.A.- Les Contes Modernes
公式サイト:http://hark3.com/seinaru-hanzaisha/
★2021年1月15日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開


posted by sakiko at 12:30| Comment(0) | ポーランド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする