2020年08月02日

赤い闇 スターリンの冷たい大地で  原題:Mr.Jones

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監督:アグニェシュカ・ホランド
出演:ジェームズ・ノートン、ヴァネッサ・カービー、ピーター・サースガード

1933年、英国。ガレス・ジョーンズ(ジェームズ・ノートン)は、20代の若さながら首相の外交顧問を務めていたが、国家予算削減で解雇される。兼ねてよりジョーンズは、世界中に恐慌の嵐が吹く中、ソ連だけが経済的に繁栄していることに疑問を抱いていた。スターリンの資金源を明かしたいと、フリーランスの記者としてモスクワに赴く。ヒトラーに直接取材した経験のあるジョーンズは、スターリンにも直接取材したいと目論んでいた。モスクワ入りし、ニューヨーク・タイムズのモスクワ支局長ウォルター・デュランティ(ピーター・サースガード)にコンタクトを取る。彼の口から、かつてヒトラー取材の橋渡しをしてくれた友人の記者ポールが強盗に射殺されたと聞かされる。ニューヨーク・タイムズの女性記者エイダ(ヴァネッサ・カービー)は、ポールがスターリンの金脈であるウクライナに行こうとして撃たれたと言って、ポールの遺した訪問先メモをジョーンズに手渡す。真実を追究する!と決意し、ジョーンズは列車でウクライナのスターリノに向かう。そこは母がかつて英語の家庭教師として暮らしていた町でもあった・・・

シャンデリアが輝く華やかなモスクワのホテルから一転、モノクロで描かれる凍てつくウクライナの大地。静寂の中から子どもたちの悲しげな歌が聴こえてきます。
♪ 飢えと寒さが家の中を満たしている。隣人は正気を失い、ついに自分の子供を食べた・・・♪
肥沃なはずのウクライナ。穀物はすべて中央に送られ、1932年から1933年にかけて300万人以上が餓死したと推定され、今ではこれは「ホロドモール」(ウクライナ語で「飢饉による殺害」)と呼ばれています。
ジョーンズはこの実態を明かす記事を発表しますが、声明を撤回するよう命じられます。さらに、ニューヨーク・タイムズが、ジョーンズの発言は真実でないと報道します。
デュランティは、ソ連に関する一連の報道でピューリッツァー賞を1932年に受賞した人物で、ウクライナの穀物が金脈だと知りながら黙殺。結果、1933年11月の米ソ国交樹立の立役者となっています。
独裁国家ソ連が、嘘っぱちな誇大報道をする一方で、自由だと思われているイギリスやアメリカでも、政治的圧力で不都合な真実を抹殺していることを監督は見事に描いています。現在にも通じる、メディアの在り方に一石を投じた作品といえます。

監督は、これまでの作品でもリアリティを大事にされてきましたが、言語も、本作では英語、ロシア語、ウクライナ語、ウェールズ語とそれぞれの場面で使い分けています。
本作では、特にウェールズ語にこだわったことに興味を持ちました。ジョーンズはウェールズ出身という縁で、ロイド・ジョージ首相の外交顧問でした。また、19世紀にウクライナのスターリノに製鉄所を作ったのがウェールズ人で、ジョーンズの母親はそこで英語の家庭教師をしていたという縁もありました。
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監督にオンラインでインタビューした折に、監督の思うウェールズ人気質などについてもお話を伺いました。インタビューの詳細は、こちらで!(咲)


『ソハの地下水道』2012年公開の折のホランド監督インタビューは、こちらで!

この作品と前後して『はりぼて』を観ていました。昨年話題をさらった『新聞記者』、『i ー新聞記者ドキュメントー』と合わせて、記者やメディアのあり方を思いました。ジョーンズが言います。「記者は崇高な仕事だ。誰の肩を持つこともせず、真実のみを追いかける」いつの時代もそうあってと願っています。(白)


2019年/ポーランド・ウクライナ・イギリス/英語・ウクライナ語・ロシア語・ウェールズ語/118分/カラー/シネマスコープ/5.1ch
字幕翻訳:安本煕生/字幕監修:沼野充義
©FILM PRODUKCJA – PARKHURST – KINOROB – JONES BOY FILM – KRAKOW FESTIVAL OFFICE – STUDIO PRODUKCYJNE ORKA – KINO ŚWIAT – SILESIA FILM INSTITUTE IN KATOWICE
配給:ハピネット
公式サイト:http://www.akaiyami.com/
★2020年8月14日(金)より新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開


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2020年06月19日

オーバー・ザ・リミット 新体操の女王マムーンの軌跡(原題:Over the Limit) 

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監督:マルタ・プルス 
出演:マルガリータ・マムーン、イリーナ・ヴィネル、アミーナ・ザリポア、ヤナ・クドリャフツェワ

「あなたは人じゃない。アスリートなの!」リタ(=マルガリータ・マムーン)は、新体操王国ロシアの代表選手。オリンピックに向けて、鬼コーチたちからの強烈な指導を受け、日々の練習に励む。アリーナ・カバエワなど、数多くのオリンピック金メダリストを育て上げたイリーナ・ヴィネルの指導は、特に精神面において厳しい。リタは優雅にリングをキャッチし、ボールを肩で転がすが、コーチたちは更なる高みを求め、何度も何度も繰り返させる。わずかな自由時間には、彼氏と電話で話したり、家族と穏やかに過ごすが、すぐにまた激烈なトレーニングが始まる…。
本作はリタがリオ・オリンピックで金メダルを獲得するまでの道のりを追ったドキュメンタリー。美しく華やかな表舞台で栄光を勝ち取るため、 アスリートはその裏で何をしているのか。想像を絶する世界に迫る。

マルガリータ・マムーンは、バングラデシュ人の父とロシア人の母との間に生まれました。幼少期にはバングラデシュの選手として活動、その後ロシアの選手として活動するようになったと資料にあって、俄然、興味を持ちました。
リオデジャネイロオリンピックに出場中、お父様は癌で病床にあって、金メダルを取って帰国して、2日後にお父様は亡くなられました。
お父様とお母様の馴れ初めを知りたいなと思いました。

指導をするイリーナ・ヴィネルの個性は、マルガリータ・マムーン以上に強烈です。国の威信をかけて、なんとしてでもメダルを取らせるという厳しい指導。
ポーランド人であるマルタ・プルス監督が、ロシアの新体操選手を追ったドキュメンタリーを作ろうと思ったのは、彼女自身が5歳から11歳まで新体操をしていた素地も影響しています。ですが、なにより、映画に政治的な要素を取り入れたいという思いから、ロシアで政治とプロパガンダのために体操が重要であることに注目したのです。アスリートとして活躍した後、コーチを務めるイリーナ・ヴィネルが、ロシア一の富豪と結婚していることからも、体操界から現代ロシアを映し出せるのではと考えたそうです。(咲)


総監督のイリーナ・ヴィネルがリタに対して罵詈雑言を浴びせかけ、まるで暴君のように映し出されます。きっと同じ経験を彼女自身も経験したのでしょう。日本の昔の運動部あるあるな状況です。いえ、もしかしたら相変わらず、日本でもひっそり繰り広げられているかもしれません。
『新体操の女王マムーンの軌跡』というタイトルを考えれば、結果は自ずから見えてくるのですが、タイトルを忘れてしまうくらい強烈です。そしてイリーナが辛辣な物言いをするのはリタだけではありません。リタを直接的に指導するアミーナ・ザリポアにも浴びせかけます。中間管理職の辛さを思い出す人もいるのではないでしょうか。このアミーナもイリーナに見出されて、ロシアの選手として活躍していたのです。きっと選手時代にはリタと同じように言われていたのでしょう。
リタは結果を残しました。今は引退し、作品にも出てきた彼を結婚しています。また別の若い才能の持ち主がイリーナの暴言に耐えているのもしれません。パワハラでその才能が潰れてしまうことがないよう祈るばかりです。(堀)


2018年/ロシア語/74分/ポーランド、ドイツ、フィンランド/
配給:トレノバ、ノーム
©Telemark, 2018
公式サイト:https://otl-movie.com/
★2020年6月26日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿ピカデリー他全国順次ロードショー

posted by ほりきみき at 01:25| Comment(0) | ポーランド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年07月20日

隣の影(原題:Under the Tree) 

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監督・脚本:ハーフシュテイン・グンナル・シーグルズソン
撮影:モニカ・レンチェフスカ 
編集:クリスティアン・ロズムフィヨルド
音楽:ダニエル・ビヤルナソン 
出演:ステインソウル・フロアル・ステインソウルソン、エッダ・ビヨルグウ゛ィンズドッテル、シグルヅール・シーグルヨンソン、ラウル・ヨハナ・ヨンズドッテル

郊外の住宅地に居を構えるインガ(エッダ・ビヨルグヴィンズドッテル)とバルドウィン(シグルズール・シーグルヨンソン)夫婦に隣人のエイビョルグ(セルマ・ビヨルンズドッテル)とコンラウズ(ソウルステイン・バックマン)夫婦がクレームをつけてきた。インガたちの家の庭に生えている木が大きくなり過ぎ、エイビョルグたちの庭に影を落としているという。バルドウィンは、庭師を呼んで木の手入れをしようとしたが、妻インガは「あの木には触らせない」と反対。日光浴やサイクリングで自分磨きに余念がないエイビョルグに犬のフンを投げつける。翌日、バルドウィンが外出しようとすると、車の4つのタイヤすべてが何者かによってパンクさせられていた。インガは隣人夫婦の仕業だと言い放つ。こうして両家の対立はじわじわと深刻化していった。やがて、情緒不安定になったインガは隣人への怒りを募らせ、ある信じがたい行動に出る。それは新たな憎悪を呼び、取り返しのつかない災いを招き寄せた。

隣家とのトラブルは些細なことも不信感に繋がり、しこりになりやすい。庭木が落とす影をキッカケに2組の夫婦でいがみ合いがエスカレート。常軌を逸していく。ブラックなホームドラマを不気味な劇伴が煽り、驚愕のラストへ。背筋が凍りそうな物語だが日本で起こりうるのでは。(堀)

2017年/アイスランド・デンマーク・ポーランド・ドイツ/氷語/カラー/89分/DCP
配給:ブロードウェイ
2017🄫Netop Films. Profile Pictures. Madants
公式サイト:https://rinjin-movie.net-broadway.com
★2019年7月27日(土)よりユーロスペースほか全国順次ロードショー
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2019年06月23日

COLD WAR あの歌、2つの心  原題:Zimna wojna

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監督・脚本:パヴェウ・パヴリコフスキ((『イーダ』)
出演:ヨアンナ・クーリク、トマシュ・コット、アガタ・クレシャ、ボリス・シィツ、ジャンヌ・バリバール、セドリック・カーン 他

1949年、ポーランド。ピアニストのヴィクトルは、国立舞踊団立ち上げの為、才能ある少年少女発掘の命を受けて訪ねた先で、ズーラという少女に心を奪われる。父親殺しで執行猶予中と知り驚くが、才能を見込んで舞踊団に抜擢する。舞踊団の花として成長したズーラと激しい恋に落ちるヴィクトル。冷戦下で禁じられているジャズを捨てられないヴィクトルは、ズーラと共にパリへの亡命を決意する。約束の場所にズーラは現われず、一人でパリに赴く。その後、舞踊団のパリ公演でズーラと再会するヴィクトル。二人の運命は?

ポーランド、東ベルリン、パリ、ユーゴスラビアを舞台に、別れと再会を繰り返すヴィクトルとズーラの15年。まさに冷戦という時代に翻弄された二人の仲。それだけに二人の思いは激しく揺れ動く。民族音楽、クラシック、ジャズ等々、様々な音楽が映画を彩る。モノクロームの映像も哀愁を漂わせる。自由な時代だったなら、これほどまでに狂おしい気持ちになっただろうかとも、ふと思う。心に深く残る一作。(咲)

2018年/ポーランド・イギリス・フランス/ポーランド語・フランス語・ドイツ語・ロシア語 /モノクロ / スタンダード / 5.1ch / 88分 / DCP
配給:キノフィルムズ・木下グループ /
後援:駐日ポーランド共和国大使館、ポーランド広報文化センター、在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
© OPUS FILM Sp. z o.o. / Apocalypso Pictures Cold War Limited / MK Productions / ARTE France Cinéma / The British Film Institute / Channel Four Televison Corporation / Canal+ Poland / EC1 Łódź / Mazowiecki Instytut Kultury / Instytucja Filmowa Silesia Film / Kino Świat / Wojewódzki Dom Kultury w Rzeszowie
公式サイト:https://coldwar-movie.jp/
★2019年6月28日(金) ヒューマントラストシネマ有楽町 ヒューマントラストシネマ渋谷 他 全国ロードショー





posted by sakiko at 09:42| Comment(0) | ポーランド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年05月25日

メモリーズ・オブ・サマー  原題:Wspomnienie lata

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監督:アダム・グジンスキ
出演:マックス・ヤスチシェンプスキ,ウルシュラ・グラボフスカ,ロベルト・ビェンツキェビチ

1970年代末、ポーランドの田舎町。12歳のピョトレックは、夏休みを大好きな母ヴィシャと過ごしている。父は外国へ出稼ぎ中だ。やがて、母が昼間の仕事だけでなく、夜も毎日のようにおしゃれをして出かけるようになる。ピョトレックは置き去りにされて不満だ。昼間、暇を持て余して近くの湖に行き、年上の少年が率いる不良グループと親しくなる。一方、都会からやって来た少女マイカとも知り合い、ピョトレックは彼女に好意を抱くようになる。だが、マイカが不良少年と親しくしているのを目撃してしまう。相変わらず母が浮き浮きと出歩いている中、父が出稼ぎ先から帰ってくる・・・

12歳の夏の出来事。初恋、そして挫折、親との確執・・・ いろんなことがあって、少年は大人への一歩を踏み出します。
1970年代のポーランドという背景が、なんともノスタルジック。
虫の入った琥珀のお守りがいかにもポーランドらしいアイテムとして登場します。
人それぞれの大人への通過儀礼があるけれど、このピョトレックのケースは、ちょっと衝撃的? (咲)


美しい母、端正な顔立ちで、きちんと躾けられた息子。湖畔で戯れ、線路脇の道を電車と並び、自転車で駆け抜けるさまはまるで恋人同士のよう。幸せいっぱいのシーンだが、何となく不安感が拭い去れないのは、冒頭の衝撃的なシーンのせい。「この幸せは長く続かないはず」と物語に引き込まれてしまう。巧みな演出だ。
最初に変化を見せたのは母。夜の外出が増え、口紅が濃くなり、まとめ上げていた髪が解かれる。母が知らない誰かに女を見せるために出掛けていく姿を12歳の少年が受け入れるのは酷だ。時折、反抗的な態度を見せるようになる。そして、少年もかさぶたを剥がすような痛みを経験しながら、大人に近づいていく。
夏が終わり、秋を迎えたとき、少年は母から飛び立っていった。(堀)


アダム・グジンスキ監督インタビュー記事はこちらから。

2016年/ポーランド/83分/マグネタイズ/DCP
配給:マグネタイズ
公式サイト:http://memories-of-summer-movie.jp/
★2019年6月1日(土)より YEBISU GARDEN CINEMA / UPLINK吉祥寺ほか全国順次ロードショー
posted by sakiko at 19:41| Comment(0) | ポーランド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする