2025年03月02日
Playground/校庭 原題: Un Monde 英題:Playground
監督・脚本:ローラ・ワンデル(長編デビュー)
出演:マヤ・ヴァンダービーク、ガンター・デュレ、カリム・ルクルー(『またヴィンセントは襲われる』(24))、 ローラ・ファーリンデン(『ハッピーエンド』(18))
7歳の少女ノラ。小学校に入学する日、友だちがひとりもいないノラにとって、3つ年上の兄アベルが頼りだ。兄に抱きついて泣きじゃくるノラは、父にうながされてようやく学校に入る。昼休み、兄のもとに行くが、邪険にされる。ようやく同じクラスの女の子たちと仲良くなるが、ある日、兄が大柄なガキ大将にいじめられているのを見てショックを受ける。大好きな兄を助けたいと思うが、アベルは「誰にも言うな」「関わるな」という。それでも兄が心配なノラは父に告げる・・・。
校庭でくったくなく遊んでいる子どもたち・・・と思いきや、裏では陰湿ないじめが起こっているのは、どこの国でもあることなのでしょう。
お誕生日会に、全員を呼ぶといいながら、仲間外れにするということもありがち。
さらに、ノラの場合は、父親が学校に送り迎えしていることを、同級生たちに、「お父さんは失業者。働かないで家でお金を待ってる人」とまで言われてしまいます。
「サッカーをやる人は差別主義。自分のことしか考えない」とか、子どもたちは、大人たちが話している言葉から自然に偏見を身に着けてしまうものなのか・・・と、ちょっと悲しくなりました。
学校には、アイシャやスレイマンなどイスラーム系の名前の子どももいて、ベルギーにも移民が多いことを感じさせてくれました。学校は、どんな民族や宗教の子どもたちとも共生することを学ぶ場であってほしいと願います。(咲)
ローラ・ワンデル(監督・脚本)
1984 年ベルギー生まれ。ベルギーの視聴覚芸術院(IAD)で映画製作を学ぶ。在学中に短編映像『Murs (原題)』 (07) を制作。その後、初の短編映画 『O négati (原題)』(10)を製作した後、2014年に監督した短編映画『Les corps étrangers (原題)』ではカンヌ国際映画祭の短編コンペティション部門に選出された。本作で初の長編映画デビューを飾り、第74回 カンヌ国際映画祭ある視点部門に出品され、国際批評家連盟賞受賞。また、第94回アカデミー賞国際長編映画賞ショートリストにまで選出され、世界中の映画祭を席巻しセンセーショナルなデビューを飾った。最新作である『In Adam‘s Interest』(25年撮影開始予定)では、ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ製作のもと、レア・ドリュッケール(『CLOSE クロース』(23))、アナマリア・ヴァルトロメイ(『あのこと』(22))をキャストに迎え、小児科病棟で働く看護師と、ある母子が直面する困難を描くドラマ作品を手がける。(公式サイトより)
2021年/ベルギー/フランス語/72分/ビスタ/5.1ch
日本語字幕:岩辺いずみ
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
後援:駐日ベルギー大使館
公式サイト:https://playground-movie.com/
★2025年3月7日(金) 新宿シネマカリテ、シネスイッチ銀座ほか全国公開.
2024年01月24日
Here 原題:Here
脚本・監督:バス・ドゥヴォス
撮影監督:グリム・ヴァンデケルクホフ
音楽:ブレヒト・アミール
キャスト
シュテファン(主人公のルーマニア人移民労働者):シュテファン・ゴタ
シュシュ(主人公の植物学者):リヨ・ゴン
セドリック(レストランのマネージャー):セドリック・ルヴエゾ
ミハイ(整備工場のボス):テオドール・コルバン
サーディア(共有庭園の婦人):サーディア・ベンタイブ
アンカ(シュテファンの姉):アリーナ・コンスタンティン
シュファン(シュシュの叔母):シュファン・ワン
ブリュッセルに住む建設労働者のシュテファン。4週間の夏季休業を言い渡され、アパートを引き払い故郷のルーマニアに帰国するか悩んでいる。姉や友人たちにお別れの贈り物として冷蔵庫の残り物で作ったスープを配ってまわる。出発の準備が整ったシュテファンは、ある日、森を散歩中に以前レストランで出会った女性のシュシュと再会。そこで初めて彼女が苔類の研究者であること知る̶。森を歩きながら、シュシュは多様な苔のこと教えてくれる。これまで知らなった世界。シュテファンは静かにシュシュの話に惹かれていく・・・
苔にそんなにたくさん種類があるんだ~と、私もシュテファンと一緒に驚きました。
雇用主の都合で、長期休暇やクビになってしまう、立場の弱い移民労働者の悲哀を思いました。
苔の研究をしているシュシュは、中国系ベルギー人という設定。演じたリヨ・ゴンは、ブリュッセルの著名な国立映画・演劇学校INSAS(The Institut national supérieur des arts du spectacle et des techniques de diffusion)で映画編集の学士号を取得。ふだんは映画の編集者としていて活躍していて、『Here』で初めて長編映画の主演を務めています。公開にあわせて来日されます。地道な研究者を演じたリヨ・ゴンさんに、ぜひ会いに劇場にいらしてください。(咲)
★公開記念トークイベント開催!
登壇者:バス・ドゥヴォス監督、『Here』主演 リヨ・ゴンさん
①2月2日(金)『Here』18:55の回
上映後トーク・Q&A/終了後におふたりによるサイン会実施
②2月3日(土)『Here』18:55の回
上映後トーク・Q&A/終了後におふたりによるサイン会実施
③2月6日(火)『Here』18:55の回
上映後トーク・Q&A
※2月6日(火)はサイン会の開催はありません。
第73回ベルリン国際映画祭エンカウンターズ部門最優秀作品賞 & 国際映画批評家連盟賞 (FIPRESCI賞)
2023年/ベルギー/オランダ語・フランス語・ルーマニア語・中国語/83分/DCP(16mm撮影)/スタンダード
日本語字幕:手束紀子
配給:サニーフィルム
公式サイト:https://www.sunny-film.com/here
★2024年2月2日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国ロードショー
ゴースト・トロピック 原題:Ghost Tropic
脚本・監督:バス・ドゥヴォス
撮影監督:グリム・ヴァンデケルクホフ
音楽:ブレヒト・アミール
キャスト:
主人公の掃除婦・ハディージャ:サーディア・ベンタイブ
コンビニの女性店員:マイケ・ネーヴィレ
警備員:シュテファン・ゴタ *『Here』で主人公のシュテファンを演じている
救急隊員:セドリック・ルヴエゾ
近隣の男性:ウィリー・トマ
娘:ノーラ・ダリ
ブリュッセルで掃除婦として働くハディージャ。一日の仕事を終え、最終電車で家路につくが、寝過ごして終点まで行ってしまう。娘に電話するも連絡がつかない。バスもなく、もう歩いて帰るしかない。途中のショッピングモールで、警備員に頼み込んで中に入れてもらいATMでお金をおろそうとするが残高がほとんどない。ひたすら歩いていく途中で、倒れこんでいるホームレスの男性を見かけ、通報して保護してもらう。閉店間際のコンビニで紅茶を飲む。店員の女性が車で送ってくれることになる・・・
寒い冬のブリュッセルの一夜の物語。
スカーフをきちっり被って髪の毛を隠しているハディージャは、北アフリカのどこかの国から移民してきた敬虔なムスリマ。倒れているホームレスを見過ごすことができません。彼が可愛がっていたと思われる犬も一緒の保護してほしいと頼むのですが、断られ、このままでは凍死してしまうと心配します。
かつて家政婦をしていた家の台所で料理をしている青年を見かけ、不法侵入者だとわかりつつ、警察が咎めようとするのを止めます。
移民してきたベルギーで、つらい思いもしてきたと思うのに、弱者に気遣いできるのは、イスラームのいたわりの精神がハディージャに根付いているからだと思います。
多様な人たちが暮らすベルギー。ハディージャの職場では、休憩時間に肌の色の違う人たちが談笑している光景が出てきます。ハディージャが帰り道に出会う人々も多種多様。バス・ドゥヴォス監督が日々みている人たちの姿が、この映画にも反映されていることを感じました。(咲)
第72回カンヌ国際映画祭監督週間正式出品
2019年/ベルギー/フランス語/84分/DCP(16mm撮影)/スタンダード
日本語字幕:手束紀子
配給:サニーフィルム
公式サイト:https://www.sunny-film.com/ghosttropic
★2024年2月2日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国ロードショー
ベルギーのバス・ドゥヴォス監督 最新2作品『ゴースト・トロピック』『Here』日本公開!
©︎ Quetzalcoatl
©︎ Quetzalcoatl, 10.80 films, Minds Meet production
カンヌ、ベルリンで連続受賞した現代のヨーロッパ映画シーンで最も重要な若手作家の一人ベルギーの映画監督バス・ドゥヴォス。ブリュッセルの移民社会を背景に描いた最新2作品が同時に日本公開されます。
◆第72回カンヌ国際映画祭監督週間正式出品
『ゴースト・トロピック』
終電で寝過ごした掃除婦ハディージャ。移民ムスリマの寒い冬のブリュッセルの一夜の物語。
http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/502159836.html
◆第73回ベルリン国際映画祭エンカウンターズ部門最優秀作品賞&国際映画批評家連盟賞(FIPRESCI賞) ダブル受賞
『Here』
ルーマニア出身の建設労働者シュテファンは、中国系ベルギー女性で植物学者のシュシュと出会い、多様な苔の世界を知る。
http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/502160092.html
配給:サニーフィルム
公式サイト:https://www.sunny-film.com/basdevos
★2024年2月2日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国ロードショー
バス・ドゥヴォス(Bas Devos)監督
1983年生まれ。ベルギー・ズーアーセル出身。
長編第1作『Violet』が2014年ベルリン国際映画祭ジェネレーション部門で審査員大賞を受賞。続く長編第2作『Hellhole』も2019年の同映画祭パノラマ部門に選出されると、カンヌ国際映画祭監督週間では長編3作目『ゴースト・トロピック』が正式出品となる。最新作『Here』は2023年のベルリン国際映画祭エンカウンターズ部門の最優秀作品賞と国際映画批評家連盟賞(FIPRESCI賞)の2冠に輝く。
*多様な国 ベルギー*
「ブリュッセルは異なる国から移住してきた多くの人々でひしめきあい、それぞれがここをホームとして暮らそうとしている。ブリュッセルをさらに特異な都市にしているのは言語であり、ここではそれぞれが異なる言語を母語としているため、会話の始めにお互いの母語を確認する事が多々ある。そのような街で私たちは何を頼りに他者と繋がれば良いのか常に考えている」
※2019年のカンヌ国際映画祭監督週間に『ゴースト・トロピック』を出品した際、映画祭のオフィシャルインタビューから引用。
ベルギーは、1830年にネーデルラント連邦王国から独立し王国となったが、宗教観の違いなどもあり連邦制度となり、全国の中央政府と、ブリュッセル首都圏、フランダース、ワロンの3つの地域政府に別れ、各地域で異なる言語を公用語としてきた。
バス・ドゥヴォス監督はフランダース出身で、母語はオランダ語系のフラマン語で、映画もフランダースのファンドから助成されているが、映画はブリュッセルを舞台にしていて、主にフランス語が使用されている。(ブリュッセル首都圏はフランス語とドイツ語、ワロン地域はフランス語が公用語とされる)
小国でありながら各地域で公用語が異なる上に、ベルギーは1920年代から諸外国から移民を積極的に受け入れてきた歴史がある。初期の移民は主に鉄鋼業や鉱業の人材として東ヨーロッパから連れてこられた。その後、1950年頃、日本の高度成長期と同時期に、ベルギーもまた戦後の復興と経済成長期が重なり、労働力を必要として、スペイン、トルコ、モロッコという国々から多くの移民を受け入れた。
1990年代になると、移民の増加に世界情勢も影響し始めた。1989年のベルリンの壁崩壊後、東側諸国がEUに加盟し、より良い暮らしを求めた多くの人々がベルギーを目指した。
『Here』のシュテファンはルーマニア人である。90年代か ら2000年代は、中東地域の内戦や国際紛争も多発し、アフガニスタン、イラク、シリアからの難民もEUの本拠地であるブリュッセルに押し寄せた。今では、ベルギーの総人口の12%以上が外国籍で、移民背景を持つベルギー国籍の20%を足すと、30%以上が異なる文化背景を持った人々となる。
(プレス資料より引用)
2023年11月26日
ポッド・ジェネレーション(原題:The Pod Generation)
監督・脚本:ソフィー・バーセス
撮影:アンドリー・パレーク
編集:ロン・パテイン
音楽:エフゲニー・ガルペリン&サーシャ・ガルペリン
出演:エミリア・クラーク(レイチェル)、キウェテル・イジョフォー(アルヴィー)、ロザリー・クレイグ(リンダ)
近未来のニューヨーク。AI(人口知能)が発達し、日常生活が劇的に変わっている時代。レイチェルはハイテク企業に勤務、有能な彼女は出産のために最新テクノロジーを使うことを考える。希望者が多いために早めに《ポッド妊娠》を予約した。受精卵を卵型のポッドで育て、女性に妊娠出産の負担がないようにできる装置だ。植物学者で何事も自然のままを好む夫アルヴィーには言えないままだったが。
そしてある日「空き」ができたと連絡が入る。レイチェルはアルヴィーにやっと打ち明けるが、案の定大反対される。しかしセラピーを一緒に受けたり、ポッドの大企業ペガサス社に出かけたりするうち、折れてくれた。受精の瞬間をスクリーンで観た二人は、ポッドで育つわが子に心奪われていく。
主演のエミリア・クラークが制作にもあたっています。女性が担ってきた妊娠・出産を身体から離して実行できる世界、そう遠くないのかもしれません。人間とAI、自然と人工、生命が生まれることなど、いろいろ考える種の多い作品でした、
レイチェルが働く会社では、個人個人がデスクに向かい、足元は動くベルト(お散歩マシーン)です。デスクには目玉型のアシスタントとコンピュータ、レイチェルは画面を見つめてキーボードを操作しています。帰りには自然を満喫できるスペース(なぜか螺旋階段を上る)に立ち寄って人工の自然の中でリラックスします。ほんとの自然は限られた場所に残されているだけのようです。
効率を重んじる世界で、夫アルヴィーは非効率でも本物の自然を体感することを、学生に伝えようと心を砕きます。ポッド妊娠に反対していた彼が、胎児のシルエットを見てから俄然育児に熱心になるのが、ほほえましいです。二人がポッドで育成中にあちこち持って歩くので、「落としたら大変、もっと安全におけるところはないの」とまさに老婆心を起こしました。
*AIのカウンセラーが大きな目玉なので、いくら周りが花々で飾られていようが、向き合うのは遠慮したいです。信頼できそうな風貌の人間型がいいのに、なぜAIが目玉型なのか監督に聞いてみたいものです。アシスタントの形で「ゲゲゲの鬼太郎」ファン?と思っちゃいました。(白)
2022年/ルギー・フランス・イギリス合作/カラー/シネスコ/110分
配給:パルコ
(C)2023 YZE – SCOPE PICTURES – POD GENERATION
https://pod-generation.jp/
★2023年12月1日(金)ロードショー