9/23(金・祝)よりヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショー 劇場情報
監督・脚本・製作:ポール・サルツマン
ナレーション:モーガン・フリーマン
製作総指揮:デヴィッド・リンチ
出演:デヴィッド・リンチ、パティ・ボイド、ジェニー・ボイド、マーク・ルイソン、ルイス・ラファム、ローレンス・ローゼンタール、リッキ・クック、ハリプラサード・チョウラシア、デヴィアニ・サルツマン、ポール・サルツマン
1968年、23歳のカナダの青年ポール・サルツマンは、失恋の傷を癒すため、北インドのガンジス川のほとりのリシケシュにある超越瞑想の創始者マハリシ・マヘーシュ・ヨーギーのアシュラム(僧院)の門を叩く。そこで思いがけず出逢ったのは「ザ・ビートルズ」。ジョン、ポール、ジョージ、リンゴの4人とパートナーたち。ビーチ・ボーイズのマイク・ラヴやドノヴァン、俳優のミア・ファローと妹もいた。彼らもヨーギーから超越瞑想を学ぶため長期滞在していた。サルツマン青年がアシュラムの門前に着いた時は、ビートルズたちが滞在しているため入れず、門前で8日間待った。その甲斐あって中に入ることができ、「ザ・ビートルズ」の人々とも会話することができ、彼らの信頼を得た。サルツマンもそこで瞑想を学びながら、「ビートルズ」と過ごした奇跡のような8日間を多くの写真に残した。これは、その写真を通して、彼がここで「ビートルズ」とともに過ごした8日間を描いたドキュメンタリーだけど、後に映像作家になったポール・サルツマンは、50年後、その地を再度訪ね、思い出を検証する作品を作った。そして、ここで作られたビートルズの最高傑作と言われる「ホワイト・アルバム」誕生の秘話にまつわる話が語られる。とても貴重な記録であるとともに、ビートルズのスーパースターでない普通の青年ぽい姿も映し出す。
ポール・サルツマン監督はインドのアシュラムに行く前に、ビートルズの出身地リバプールにある博物館「ビートルズ・ストーリー」を訪ね、このアシュラムで、自分が撮ったビートルズの写真を眺めたり、ビートルズの関係者にインタビューも行い、当時のことに思いをはせる。
イギリスの歴史家であり、ビートルズ研究の世界的権威マーク・ルイソン氏と同行し、アシュラムに向かったポール・サルツマン監督だが、「ホワイト・アルバム」の曲数について議論したり、この映画の製作総指揮者であり、超越瞑想の推奨財団の創設者でもあるデヴィッド・リンチ監督にも取材。さらにジョージ・ハリスンが作った「サムシング」「フォー・ユー・ブルー」にインスピレーションを与えたといわれる、ハリスンの元妻・パティ・ボイドや、インドの瞑想の旅に参加した妹のジェニー・ボイドにも話を聞き、驚くことに「コンティニューイング・ストーリー・オブ・バンガロウ・ビル」のモデルになった、虎を撃ち殺した男(リッキ・クック)にも話を聞いている。彼はその後動物カメラマンになったあと、今は自然保護活動をしていると語っていた。
ナレーションはモーガン・フリーマンが担当している。
ビートルズが1968年頃、インドに瞑想体験をしに行ったということは知ってはいたが、長い人は2カ月近く滞在したとは思ってもみなかった。
若き日の監督は、偶然「ビートルズ」に遭遇したとは言え、よく彼らに近づき会話や交流ができるようになったなと思った。彼らとお近づきになって写真をたくさん撮ったけど、その写真を倉庫?にしまって「忘れていた」と語っていたけど、そんなことありなのかな。しかもビートルズのファンでレコードもたくさん持っているのに。長く眠っていた写真の価値を見出したのは16歳になった彼の娘さんと語っていたけど、撮ったあと、何も使わず、そんなに長くしまっていたのだろうか。もともとカメラマンのようだから、彼が撮った写真は、素晴らしいシャッターチャンスを捉えていると思った。貴重なビートルズの記録。ビートルズがインドに行ってからインドブームになり、インド詣でをする人は日本でも増えたし、シタールという楽器も知られるようになった。そしてヨガもブームになった。
後にサルツマンは、「ビートルスが僧院で過ごした数週間は穏やかに過ごし、彼らにとっては創造のオアシスとなった。瞑想、ベジタリアン食、ヒマラヤ山麓の美しさ。ガンジス河のゆったりした流れ。追いかけてくるファンも、マスコミも、急がされるスケジュールもない。この自由の中で彼らが作った音楽は、それまでの輝かしいキャリアのどの時期よりも素晴らしいものだった」と記述している。
あのアシュラムは、今は“ビートルズ・アシュラム”として一般公開されている。ビートルズファンにとっても、それほどでない人にとっても50年も前のビートルズの貴重な写真と、曲作りのエピソードと、開放感いっぱいのビートルズの姿を観ることができる作品。
上記集合写真をサルツマンが撮った時のエピソードが面白い。ここにたくさんの人が集まってきたので自分のカメラ(ペンタックス)を向けたら、ビートルズのメンバーが自分のカメラでも撮ってほしいとカメラを3台渡されたけど、全部ニコンだったという。サルツマンは4台のカメラをぶらさげそれぞれのカメラで撮ったと語っていた。安いカメラと高いカメラと表現していたけど(笑)、全部日本製のカメラ。あの当時(1968年頃)日本製のカメラの性能は世界で高く評価されていた。私も68年当時使っていたのはペンタックス。働くようになってから買ったのはニコンだった。ニコンでも安いカメラだったけど、それ以来40年近くニコンを買いかえ使っていた。この写真はリバプールにある博物館「ビートルズ・ストーリー」にも展示され、その前でそのエピソードを語っていたが、等身大に拡大された大きな写真だった(暁)。
ビートルズが活躍していた1960年代から1970年代にかけては、私の小学生から高校生の時代。ラジオから流れて来る様々な曲の中でも、ビートルズの曲は私にとって心地よく、新しい曲が出るのをいつも楽しみにしていました。今のようにネットで即座に情報が入る時代ではなかったのに、ビートルズがインドに行ったことも、ちゃんとリアルタイムで知りました。私の生まれ育った神戸には、インド人も多く暮らしていて、小さい時から馴染みがあったので、好きなビートルズがインドに行ったことにとても興味を持った覚えがあります。でも、具体的なことを聞いたことも、調べたことも実はなかったことに本作を観て気が付きました。
リシケシュのアシュラムのヨーギーは、著名なビートルズの一行を、それなりに意識して受け入れたと思うのですが、ここで過ごすビートルズは、実に自然体で、リラックスしていたことが見てとれました。
偶然ビートルズに出会った若き日のポール・サルツマン監督が、ごく自然にビートルズ一行の会話の輪に入れたのも、彼に下心がなかったことや、追いかけて来るファンから解放されていたことも大きいのでしょう。
ポール・サルツマン監督は、23歳の時に、インドのことを何も知らないのに、インドにいけという声が聞こえて、違う自分を探す旅に出たのだそうです。(旅費を工面した経緯は、ぜひ映画でご覧ください)
インドに来て、恋人から最初に受け取った手紙に「ヘンリーと暮らし始めた」とあって、傷心を癒すためにリシケシュのアシュラムに向かったのです。打ち解けて話せるようになったジョン・レノンに話したら、「失恋は次の恋の始まり」と慰めてくれたとのこと。実は、ジョンもその頃、オノ・ヨーコと出会っていたのだとか。
50年の時を経て知る、インドでのビートルズの素の姿。『ホワイト・アルバム』に収められている「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ」の歌詞をしたためた紙を足で押さえながらポール・マッカートニーが弾き語りするのも楽しいです。(咲)
公式サイト http://mimosafilms.com/beatles/
2020年/カナダ/英語/79分/カラー/1.78:1/5.1ch
配給:ミモザフィルムズ
2022年04月23日
フェルナンド・ボテロ 豊満な人生(原題:Botero)
監督:ドン・ミラー
撮影:ジョー・タッカー、ヨハン・レグレー
出演:フェルナンド・ボテロ
フェルナンド・ボテロは1932年4月19日コロンビアのメデジン生まれ、満90歳になった今も絵筆をとる現役のアーティスト。独特な画風は世界中から愛され、芸術家の頂点にいる。コロンビアからヨーロッパに渡って絵画を学び、ルネサンスに傾倒したボテロ。彼がいかにしてここまでたどり着いたのか、あの画風はいつから身についたのか。ボテロ本人、家族、歴史家やキュレーターたちの証言と映像を組み合わせて、素顔と作品の本質にせまるドキュメンタリー。
一度見たら忘れない個性的な画風、名前を知らなくても彼の絵画や彫刻は、きっと目にふれたことがあるはず。そしてくっきり残って忘れられません。人や動物、静物でさえも穴をあけて空気を吹き込んだように、ぷくぷくと膨らんでいます。そのためユーモラスで官能的、包容力と温かさも感じます。後に彫刻を学んで、やはり大きく重量感のある人や動物を制作しました。
実生活では2度結婚し、再婚した妻との間に生まれた息子を交通事故で亡くしました。可愛い盛りに亡くし、悲嘆の中描き続けたその子の絵がたくさん紹介されています。最初の妻との息子・娘が今父親を助けているのにホッとしました。
彼の作品のほとんどは多幸感にあふれていますが、一方コロンビアで起こったテロ、イラクで米軍が捕虜に対して行った虐待(飛行機の中で読んだ雑誌で写真を目にしてスケッチを残した)を描いた作品もあります。ボテロの筆致で描かれた大きな絵は、深く記憶に残るでしょう。
ボテロは超有名な芸術家となってもおごらず、探求心を消しません。しかも正義に燃える心があって、お金儲けに走らない(ように見えます)。美術館に自分の作品だけでなく、有名画家のコレクション、さらに買い足した作品まで寄付しています。映画では犯罪都市として描かれる印象のコロンビアですが、ボテロの作品はそこかしこにあり、美術館も充実しているようです。いいなぁ~。
コロンビアは遠いけれど、渋谷Bunkamuraでボテロの映画と展覧会が同時に鑑賞できます。(白)
思い切りふっくら膨らんで、ほっこりさせてくれるボテロの絵画や彫刻。
本作は、そこに込められた思いを紐解いてくれました。
4歳の時に父が亡くなったことを語るボテロ。彼の生まれ育ったコロンビア第二の都市メデジン。1940年代、司祭たちが町を支配していて、信仰心がなかった両親にはつらい環境だったようです。父亡き後、母は裁縫で生計をたて、ボテロは厳しく育てられました。
叔父の勧めで闘牛士を養成する学校に通うも、闘牛の絵を描くことに夢中になり、売店に6枚の絵を委託。初めての売上2ペソは、喜び勇んで自宅に帰る途中で落としてしまいました。海辺で警察が自由党の庶民を棒にぶら下げて運ぶ様を描いた絵が7000ドルで売れてスペインへ。ベラスケスやゴヤの作品から学び、イタリアのピエロ・デラ・フランチェスカに惹かれ、バイクでフィレンツェへ。ルネサンスに出会い、このころからはっきりと「ふくよかさ」を意識。お金が尽きてコロンビアに戻り、恋に落ち結婚。メキシコに移住。そして離婚。世界一の画家を目指してニューヨークへ。所持金わずか200ドル。1960年代のことです。若い女性キュレーターに見いだされ、ニューヨーク近代美術館(MoMA)に出展。再婚し、息子も生まれ、パリに移住するも、交通事故でまだ幼い息子を亡くし、結局、離婚。描き続けた愛息の絵からは愛おしさが溢れ出ています。
名を成すようになったボテロは、誘拐や殺人の蔓延する故郷メデジンの汚名を返上したいと多くの作品を寄贈。ところが、1995年、メデジンのサン・アントニオ広場でボテロの鳩の銅像に仕掛けられた爆弾でテロが発生。破損した鳩は撤去される予定でしたが、ボテロ自身が同じものを隣に展示することを条件に今も残されています。破壊された鳩も、イラクのアブグレイブ刑務所の惨い捕虜虐待を美しく描いた何十枚の絵も、人々の記憶にいつまでも残るようにとの思い。ゲルニカをピカソが残したように。
90歳の今も、モナコの海の見えるアトリエで絵を描き、夏の1か月はイタリアのトスカーナ州ピエトラサンタの家で子どもや孫たちと一緒に過ごすボテロ。つらい思いもした人生の最終章が穏やかで幸せに満ちている様子に、ほっこり♪ (咲)
2018年/カナダ/カラー/ビスタ/82分
配給:アルバトロス・フィルム
(C)2018 by Botero the Legacy Inc. All Rights Reserved
https://botero-movie.com/
★2022年4月29日(金・祝)よりBunkamuraル・シネマほかにて全国順次ロードショー
◆同日より7月3日(日)までBunkamuraザ・ミュージアムにて展覧会「ボテロ展 ふくよかな魔法」開催
https://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/22_botero/
国内では26年ぶりとなる待望の大規模展、≪モナ・リザの横顔≫世界初公開!
2021年11月11日
フォーリング 50年間の想い出(原題:Falling)
監督/製作/脚本/作曲:ヴィゴ・モーテンセン
出演:ランス・ヘンリクセン(75歳時のウィリス)、ヴィゴ・モーテンセン(50歳時のジョン)、スヴェリル・グドナソン(23~43歳時のウィリス)、ローラ・リニー(サラ)
認知症を抱える父との再会をきっかけに辿る50年間の記憶
言葉にできなかった想いを確かめ合う親子の物語
言葉にできなかった想いを確かめ合う親子の物語
パイロットのジョンは高齢になった父の新しい住居を探すため、久しぶりに再会した。父の怒りっぽい性格はそのまま、認知症を患って口汚く相手を罵るのに閉口する。ジョンがゲイであることを受け入れず、パートナーのエリックには冷たいが、養女のモニカとだけは交流する。記憶も混濁していて、飛行機の中で死んだ妻の名を呼んで騒ぎ出す。心配して来てくれた妹家族とも打ち解けない。ジョンは悪口三昧の父に長く耐えてきたがついに心のうちを吐き出してしまう。繊細な息子は不器用な父との間の深い溝を埋められるのか?
ヴィゴ・モーテンセンの父との思い出が反映されている作品。昔の思い出と現在が代わる代わる現れます。ジョンの鬱屈の理由が少しずつわかってきます。まだ若かった両親の楽しい日々は短く、離婚して兄妹は母と家を出てしまいました。母が亡くなった後、戻った家での継母と父との生活。父の記憶の中では母と継母が入り混じっています。
認知症の本人も、記憶が零れ落ちていくのが不安でなりません。できないことが日々増え、遠く見えていた死に近づいていきます。きっと心の中では、恐れや情けなさや怒り、悲しみが渦巻いているはず。
若き日の父をビヨン・ボルグを演じたスヴェル・グドナソン、老父をベテランのランス・ヘンリクセン。ヴィゴ・モーテンセン、主演であり監督であり、脚本と音楽も手掛けています。なんと多才な人なんでしょう。こちらにヴィゴ・モーテンセンから日本の観客に向けてのメッセージと予告編があります。(白)
2020年/カナダ・イギリス合作/カラー/シネスコ/112分英語・スペイン語
配給:キノシネマ
(c)2020 Falling Films Inc. and Achille Productions (Falling) Limited・ SCORE
(c)2020 PERCEVAL PRESS AND PERCEVAL PRESS INC. ・ A CANADA - UNITED KINGDOM CO-PRODUCTION
https://movie.kinocinema.jp/works/falling
★2021年11月12日(金)キノシネマ他、全国順次公開
2021年05月16日
やすらぎの森 原題:Il Pleuvait des Oiseaux 英題:And the Birds Rained Down
5月21日(金)、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
劇場情報 https://theaterlist.jp/?dir=yasuragi
監督・脚本:ルイーズ・アルシャンボー
原作:ジョスリーヌ・ソシエ
撮影:マチュー・ラベルディエール
編集:リチャード・コモー
出演
ジェルトルード/マリー・デネージュ役:アンドレ・ラシャペル
チャーリー:ジルベール・シコット
トム:レミー・ジラール
テッド・ボイチョク:ケネス・ウェルシュ
ラフ(ラファエル):エブ・ランドリー
スティーヴ:エリック・ロビドゥー
ジュヌヴィエーヴ:ルイーズ・ポルタル
ケベックの森から届いた人生賛歌!
カナダ・ケベック州の人里離れた深いにある湖のほとりにたたずむ小屋で、3人の高齢の男性たちが愛犬たちと一緒に暮らしていた。歩んできた人生、それぞれの理由で社会に背を向け、人里を離れ森の中で暮らしを満喫していた。そんな彼ら世捨て人たちの前に、思いがけなく女性来訪者が現れる。その80歳の女性ジェルトルードは、少女時代に父の誤解により、不当な措置によって精神科療養所に入れられ、60年以上も外界と隔絶した生活を強いられていた。甥っ子の判断で療養所には戻さず、世捨て人たちの仲間に。彼らも最初は戸惑ったけど、だんだんに受け入れられていった。ジェルトルードはマリー・デネージュという名前で新たな人生を踏み出し、森の中の生活に慣れ、澄みきった空気の中で活力を取り戻していった。そして、それまで得られなかった「愛」を得ていくのだが、そんな温かな森の生活を揺るがす緊急事態が巻き起こり、彼らは重大な決断を迫られていく。
森での新しい出逢いと湖畔での穏やかな共同生活。80代の男女を主人公に、人生の晩年をいかに生きるかを深い森の中、詩情豊かに描く。愛と再生の物語。
『やすらぎの森』というタイトルを見て、ニヤっとした人はきっと、倉本聰脚本の「やすらぎの郷(さと)」「やすらぎの刻(とき)~道」を見ていた人でしょう。そういう私も、ここ数年、このTVドラマを毎回見ていた(録画したものだけど)。「やすらぎの郷」というのは、TV業界で活躍した人たち(俳優や脚本家、裏方の人たち)だけが入居できる老人ホームのような場所。それぞれ、この『やすらぎの森』にも出てくるコテージのような一軒家で暮らしているので、「シニア村」ともいうべき感じだった。石坂浩二、浅丘ルリ子、有馬稲子、加賀まりこ、草刈民代、五月みどり、常盤貴子、名高達男、野際陽子、藤竜也、風吹ジュン、松岡茉優、ミッキー・カーチス、八千草薫、山本圭など (※役者名50音順)そうそうたる俳優たちが出演していた。「死との向き合い」「愛情」「絆」「友情」「日本がたどってきた道・歴史」など多彩なものを盛り込み、「社会に対する批判と提言」が盛り込まれているように感じた。
これはまさに、『やすらぎの森』にも通じるもので、大いに共鳴できるものだった。詳しくは出てこなかったけど、ここに出てきた男たちも社会からドロップアウトし森の中で暮らすようになったのだろうし、ジェルトルードにいたっては、社会に出ることもなく精神科療養所に入れられ、社会とのつながりもたたれていた。
小学校の頃「ロビンソンクルーソー漂流記」を読んで、無人島や森の中で生活をすることに憧れた。そして成長してからは、東京ではなく田舎で暮らしたいと、30代後半に信州白馬で5年くらい働いていたことがある。その経験は大変だったけど幸せな体験だった。
森の生活の解放感を感受するのは若者たちだけでなく、老人たちにもあっていい。電気もガスも水道もない生活は不便だけど、解放感はなにものにもかえがたい(暁)。
毎日おうち時間を過ごして「どこかへ行きたい」と思っている方、カナダの森を見るのはいかがでしょう。森で暮らすお年寄りの静かな映画です。いろんな体験や思いを胸に齢を重ねてきた人たちが、自然の中で最後の時間を過ごしています。カナダの名優と言われるベテラン俳優たちが演じ、ジェルトルード役のアンドレ・ラシャペルはこれが遺作となりました(2019年11月88歳で逝去)。
森の生活に加わったジェルトルードは、名前をマリーと変えて新しい人生を始めます。マリーが取り戻した人生には友人も愛する人もいます。シニアのラブシーンは映画の中でもあまり描かれません。美しくて幸せなひとときがそこにありました。
劇中で「時は来る♪時は来る♪」と歌われます。こうしている間にも一日一日過ぎていき、人は老いていきます。明日目覚めないかもしれません。1970年生まれのルイーズ・アルシャンボー監督は良い原作と名優を得て、美しい自然と時間を切り取りました。(白)
『やすらぎの森』公式HP
原作:「Il Pleuvait des Oiseaux」ジョスリーヌ・ソシエ著
2019/カナダ/フランス語/スコープサイズ/カラー/5.1ch/126分/映倫:G
日本語字幕:手束紀子
後援:カナダ大使館、ケベック州政府在日事務所
配給・宣伝:エスパース・サロウ
公式サイト https://yasuragi.espace-sarou.com/index.html
劇場情報 https://theaterlist.jp/?dir=yasuragi
監督・脚本:ルイーズ・アルシャンボー
原作:ジョスリーヌ・ソシエ
撮影:マチュー・ラベルディエール
編集:リチャード・コモー
出演
ジェルトルード/マリー・デネージュ役:アンドレ・ラシャペル
チャーリー:ジルベール・シコット
トム:レミー・ジラール
テッド・ボイチョク:ケネス・ウェルシュ
ラフ(ラファエル):エブ・ランドリー
スティーヴ:エリック・ロビドゥー
ジュヌヴィエーヴ:ルイーズ・ポルタル
ケベックの森から届いた人生賛歌!
カナダ・ケベック州の人里離れた深いにある湖のほとりにたたずむ小屋で、3人の高齢の男性たちが愛犬たちと一緒に暮らしていた。歩んできた人生、それぞれの理由で社会に背を向け、人里を離れ森の中で暮らしを満喫していた。そんな彼ら世捨て人たちの前に、思いがけなく女性来訪者が現れる。その80歳の女性ジェルトルードは、少女時代に父の誤解により、不当な措置によって精神科療養所に入れられ、60年以上も外界と隔絶した生活を強いられていた。甥っ子の判断で療養所には戻さず、世捨て人たちの仲間に。彼らも最初は戸惑ったけど、だんだんに受け入れられていった。ジェルトルードはマリー・デネージュという名前で新たな人生を踏み出し、森の中の生活に慣れ、澄みきった空気の中で活力を取り戻していった。そして、それまで得られなかった「愛」を得ていくのだが、そんな温かな森の生活を揺るがす緊急事態が巻き起こり、彼らは重大な決断を迫られていく。
森での新しい出逢いと湖畔での穏やかな共同生活。80代の男女を主人公に、人生の晩年をいかに生きるかを深い森の中、詩情豊かに描く。愛と再生の物語。
『やすらぎの森』というタイトルを見て、ニヤっとした人はきっと、倉本聰脚本の「やすらぎの郷(さと)」「やすらぎの刻(とき)~道」を見ていた人でしょう。そういう私も、ここ数年、このTVドラマを毎回見ていた(録画したものだけど)。「やすらぎの郷」というのは、TV業界で活躍した人たち(俳優や脚本家、裏方の人たち)だけが入居できる老人ホームのような場所。それぞれ、この『やすらぎの森』にも出てくるコテージのような一軒家で暮らしているので、「シニア村」ともいうべき感じだった。石坂浩二、浅丘ルリ子、有馬稲子、加賀まりこ、草刈民代、五月みどり、常盤貴子、名高達男、野際陽子、藤竜也、風吹ジュン、松岡茉優、ミッキー・カーチス、八千草薫、山本圭など (※役者名50音順)そうそうたる俳優たちが出演していた。「死との向き合い」「愛情」「絆」「友情」「日本がたどってきた道・歴史」など多彩なものを盛り込み、「社会に対する批判と提言」が盛り込まれているように感じた。
これはまさに、『やすらぎの森』にも通じるもので、大いに共鳴できるものだった。詳しくは出てこなかったけど、ここに出てきた男たちも社会からドロップアウトし森の中で暮らすようになったのだろうし、ジェルトルードにいたっては、社会に出ることもなく精神科療養所に入れられ、社会とのつながりもたたれていた。
小学校の頃「ロビンソンクルーソー漂流記」を読んで、無人島や森の中で生活をすることに憧れた。そして成長してからは、東京ではなく田舎で暮らしたいと、30代後半に信州白馬で5年くらい働いていたことがある。その経験は大変だったけど幸せな体験だった。
森の生活の解放感を感受するのは若者たちだけでなく、老人たちにもあっていい。電気もガスも水道もない生活は不便だけど、解放感はなにものにもかえがたい(暁)。
毎日おうち時間を過ごして「どこかへ行きたい」と思っている方、カナダの森を見るのはいかがでしょう。森で暮らすお年寄りの静かな映画です。いろんな体験や思いを胸に齢を重ねてきた人たちが、自然の中で最後の時間を過ごしています。カナダの名優と言われるベテラン俳優たちが演じ、ジェルトルード役のアンドレ・ラシャペルはこれが遺作となりました(2019年11月88歳で逝去)。
森の生活に加わったジェルトルードは、名前をマリーと変えて新しい人生を始めます。マリーが取り戻した人生には友人も愛する人もいます。シニアのラブシーンは映画の中でもあまり描かれません。美しくて幸せなひとときがそこにありました。
劇中で「時は来る♪時は来る♪」と歌われます。こうしている間にも一日一日過ぎていき、人は老いていきます。明日目覚めないかもしれません。1970年生まれのルイーズ・アルシャンボー監督は良い原作と名優を得て、美しい自然と時間を切り取りました。(白)
『やすらぎの森』公式HP
原作:「Il Pleuvait des Oiseaux」ジョスリーヌ・ソシエ著
2019/カナダ/フランス語/スコープサイズ/カラー/5.1ch/126分/映倫:G
日本語字幕:手束紀子
後援:カナダ大使館、ケベック州政府在日事務所
配給・宣伝:エスパース・サロウ
公式サイト https://yasuragi.espace-sarou.com/index.html
2021年02月21日
ステージ・マザー(原題:Stage Mother)
監督:トム・フィッツジェラルド
脚本:ブラッド・ヘンニク
出演:ジャッキー・ウィーバー(メイベリン)、ルーシー・リュー(シエナ)、エイドリアン・グレニアー(ネイサン)、マイア・テイラー(チェリー)
サンフランシスコのカストロ・ストリート。ゲイバーの”パンドラ・ボックス”のショータイムで、ドラァグクイーンのリッキーが倒れて息を引き取った。薬物の過剰摂取だった。突然の訃報は、テキサスの田舎で夫と二人暮らしのメイベリンに届いた。一人息子のリッキーはゲイをカミングアウトして受け入れられず、家を出ていったきり疎遠のままだった。メイベリンは夫の反対に耳を貸さず、サンフランシスコの葬儀に参列する。
リッキーのパートナーのネイサンに門前払いにあうが、リッキーの親友のシエナがネイサンとの間を取り持ってくれた。ネイサンはバーの共同経営者だったが、リッキーが急死したためメイベリンが経営権を相続することになっていたと知る。しかもバーは借金で破綻寸前だった。思いがけずゲイバーを引き継ぐことになったメイベリンは、テキサスで聖歌隊にいたことを強みにステージの改変に着手する。
この目力の強いメイベリン役のジャッキー・ウィーバーは『アニマル・キングダム』(2012)のママでした。最近では『チア・アップ!』(2019)にも出演。どこででも行動力のあるパワフルな女性を演じています。
本作では息子と和解しないまま先立たれてしまった悔恨を胸に、息子の遺したバーの立て直しに頑張ります。バーで働くドラァグクイーンたちにもそれぞれの事情があり、メイベリンはリッキーと重ねて彼らを理解し支えます。俺様な夫の期待通りにつき従う人生でなく、自分で道を選びとるメイベリンが輝いていく過程を見てください。いつでもやり直すのに遅すぎることはありません。
売れっ子のチェリー役のマイア・テイラーは、本人もトランスジェンダー。スマホで撮影された『タンジェリン』(2015)がデビュー作でした。クイーンたちの歌とダンスも楽しい、元気がもらえる映画。(白)
いろいろな生き方があっていいとわかっていても、それが我が子となると、なかなか受け入れられないもの。私の友人にも、長女が長男になってしまった人がいて、最初は戸惑っていたけれど、今では「息子がね・・・」としっかり受け入れています。メイベリンは息子が生きている間に認められなかったことを悔いますが、父親は亡くなってもなお頑として認めません。すんなり受け入れば楽になるのにと思ってしまいますが、当事者の思いは複雑ですね。
本作は、メイベリンの挑戦にも元気づけられますが。サンフランシスコの風情がとても素敵で、いつかカストロ・ストリートにも行ってみたくなりました。(咲)
2020年/カナダ/カラー/93分
配給:REGENTS
(C)2019 Stage Mother, LLC All Rights Reserved.
https://stage-mother.jp/
★2021年2月26日(金)TOHOシネマズシャンテほか全国公開