2025年11月08日

ぼくらの居場所

1107公開_映画『ぼくらの居場所』メインビジュアル.jpg

監督・プロデューサー:シャシャ・ナカイ
監督・撮影・編集:リッチ・ウィリアムソン
原作・脚本:キャサリン・フェルナンデス
音楽:ロブ・ティーハン
出演:リアム・ディアス(ビン)、エッセンス・フォックス(シルヴィー)、アンナ・クレア・ベイデル(ローラ)、フェリックス・ジェダイ・イングラム・アイザック(ジョニー)アリーヤ・カナヒ(ヒナ先生)

多様な文化を持つ人々が多く暮らす、カナダ・トロント東部に位置するスカボロー。そこに暮らす3人の子供たち。精神疾患を抱えた父親の暴力から逃げ、母とスカボローにやって来たフィリピン人のビン。家族4人でシェルターに暮らす先住民の血を引くシルヴィー。そしてネグレクトされたうえ、両親に翻弄され続けるローラ。そんな彼らが安心して過ごせる場所は、ソーシャルワーカーのヒナが責任者を務める教育センターだった。厳しい環境下で生きながらも、ささやかなきずなを育んでいく3人...。

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ヒナ先生の善意から生まれたセンターには、さまざまな人が集まってきます。単に食べ物がほしい人もいれば、子どもが安心していられる場所があることに心から感謝している親も。子どもたちは学校と違って、負い目や差別を感じずにすむこの場所が大切です。それでも外の問題とは無縁ではいられません。親に頼れず、無力で儚げなローラが一番気にかかりました。貧しくとも母親に愛されているビンが力いっぱい歌うシーンに、母でもないのに泣きそうになります。
作った感が少しもないこの作品は、ドキュメンタリーを発表してきた二人のもとに、原作者が脚本を送ったことから始まりました。メインとなる3人の子どもたちを長い時間をかけて探し出し、その子の親たちが次に決まりました。パンデミックのせいで完成が遅れ、その間に子どもたちが大きくなってしまうと、心配したそうです。間があったことで、冷静にいるいらないの決断ができたのだとか。子どもと大人の俳優どうしから生まれる空気が、ストーリーを進めていきます。世界中にいる厳しい環境にある子どもたちが、それを乗り越えて幸せな人生を送れますように。(白)


2025年/カナダ/カラー/138分
配給:カルチュアル・ライフ
© 2021 2647287 Ontario Inc. for Compy Films Inc.
https://culturallife.co.jp/bokuranoibasho/
★2025年11月7日(金)新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺
★11月8日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国ロードショー


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2025年08月24日

ユニバーサル・ランゲージ   原題:UNIVERSAL LANGUAGE

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© 2024 METAFILMS

監督・脚本:マシュー・ランキン
脚本:ピローズ・ネマティ、イラ・フィルザバディ
撮影:イザベル・スタチチェンコ
音楽:パブロ・ビジェガス、アーミン・フィルザバディ
出演:ロジーナ・エスマエイリ、サバ・ヴェヘディウセフィ、ピローズ・ネマティ、マシュー・ランキン

舞台はペルシャ語とフランス語が公用語になった、“もしも”のカナダ・ウィニペグの町。
フランス語の授業に遅刻してきたオミード。「七面鳥にメガネを奪われた為」という父親の手紙を見せるも、先生は黒板の字が読めるようになるまで授業を受けさせないと、理不尽なことをいう。同級生のネギンとその姉ナズゴルはそんな彼に同情し、メガネを探して町を彷徨っているうちに、凍った水たまりの中にあるお札を見つける。このお金でメガネを買ってあげようと思いつく。氷の中からお金を取り出すために、金物屋に斧を借りにいくが、もう店じまいだし、図書館じゃないんだから貸せないとつれない。
そこに、町の奇妙な場所を観光スポットとして案内するツアーガイドのマスードや、仕事に嫌気が差して都会からウィニペグに久しぶりに帰ってきたマシューを巻き込み、大変なことに・・・。はたしてネギンとナズゴルは、無事、オミードにメガネを買ってあげることはできるのか?

町はペルシャ語の看板で溢れ、会話もほとんどがペルシャ語。フランス語の時には、字幕に< >が付くのですが、merci も、<ありがとう>と、フランス語扱い。確かに、フランス語ですが、イラン人はよく普通にメルスィーを使うので、<>はなくてもいいのではと思います。
ペルシャ語だけでなく、映画のそこかしこにイランらしさを感じました。
家には、紅茶用のサモワールがあって、紅茶を飲むとき、角砂糖を口に含んで飲むのもイラン流。
教会の前の広場で、串を刺して茹でたラブー(赤カブ)を売っていて、これもまさに冬のイランの風物詩。
七面鳥が安らかに眠れるよう、毎晩、詩を読んであげるとか、ナズゴルが習っている楽器がサントゥール。
他人の家を訪ねた時に、「自分の家と思って」というのも常套句。
1979年のイラン革命後、世界の各地に多くのイラン人が移住して、カナダにも大勢のイラン人が暮らしているので、ペルシャ語が公用語の町とまではいかなくても、ペルシャ語が共通語のコミュニティはありそうです。
ネギンとナズゴルが、氷の中のお札を取り出そうとするエピソードは、パナヒ監督の『白い風船』の中で、溝に落ちたお札を取り出そうと奔走する少女を思い出しました。
映画全体から感じたのは、人と人が思いやる姿。 それこそイラン人の心。
ちなみに、映画の最初の方に、イラン映画なら、「神のために」と書かれているところに、「友情のために」と書かれています。(咲)



2024年・第77回カンヌ国際映画祭 監督週間観客賞

2024年/カナダ/ペルシャ語・フランス語/89分/5.1ch/ヨーロピアンビスタ
字幕翻訳:髙橋彩
配給:クロックワークス
公式サイト:https://klockworx.com/movies/universallanguage/
★2025年8月29日(金)シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか公開




posted by sakiko at 04:48| Comment(0) | カナダ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年12月25日

I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ(原題:I Like Movies)

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監督・脚本:チャンドラー・レヴァック
撮影:リコ・モラン
美術:クラウディア・ダロルソ
編集:シモーン・スミス
音楽:マレー・ライトバーン
出演:アイザイア・レティネン(ローレンス・クウェラー)、ロミーナ・ドゥーゴ(アラナ)、クリスタ・ブリッジス(テリ)、パーシー・ハインズ・ホワイト(マット・マカーチャック)

2003年。カナダの田舎町で暮らすローレンスは、映画が生きがいの高校生。社交性がなく周囲の人々とうまく付き合えず問題をおこしがちだ。彼はニューヨーク大学に入学して、トッド・ソロンズから映画を学ぶことを夢見ている。たった一人の友達マットと毎日つるみながらも、これは仮の姿、ここから出てニューヨークで全く違う新しい自分になりたいと思っている。母子家庭の彼は高額な学費を自分でも働いて貯めようと、地元のビデオ店「Sequels」でアルバイトを始めた。
かつて女優を目指していた店長のアラナや同僚などさまざまな人と出会い、これまでと違う世界が拡がった。しかし、ローレンスは自分の将来を不安に思うあまり、身近な人を傷つけてしまう。

青春あるある、しかしイタイ、わが身を振り返ってしまう共感度高い作品。ローレンスは映画おたくで、かなりクセの強い作品が好み。お客に薦めたのがトッド・ソロンズ作品。私は『トッド・ソロンズの子犬物語』一本しか観ていませんが、人が描かないことをあえて描き、後味の良くない作品もあり、好みが分かれるところです。一般受けしないけれどローレンスのようなマニアには受けるのでしょう。
ローレンスは好きなことにはとことんハマりますが、自分のことでいっぱいで人の気持ちおかまいなしなところがあります。余計なことを言ったり、しちゃったりのトラブルメーカーです。あっ、なんだか自分を観ているような…。バイト先で大人にもまれて少しずつ成長するローレンスを見守りたくなりました。
バンクーバー映画批評家協会賞で最優秀カナダ映画賞など4部門を受賞(白)


2022年/カナダ/カラー/99分
配給:イーニッド・フィルム
(C)2022 VHS Forever Inc.All Rights Reserved.
https://enidfilms.jp/ilikemovies
★2024年12月27 日(金)より全国ロードショー

posted by shiraishi at 22:58| Comment(0) | カナダ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年06月03日

プリンス ビューティフル・ストレンジ(原題:Mr Nelson on the North Side)

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監督:ダニエル・ドール エリック・ウィーガンド
ナレーション:キース・デビッド
出演:プリンス、チャカ・カーン、チャックⅮ、ビリー・ギボンズ

1958年ミネソタ州のミネアポリス。プリンスはジャズピアニストの父とジャズシンガーの母の間に生まれた。アメリカ中西部の中でも黒人差別が激しい地域で、くすぶっている青少年たちのために、ミネアポリスに初めてブラック・コミュニティができた。「ザ・ウェイ」と命名され、若者たちが集える場所となった。スポーツができるほか、楽器もそろっている。子どもも音楽に触れ、演奏を学ぶことができた。
プリンスもその一人で、楽器を自在に弾きこなす基盤をここで身につけ音楽の才能が開花する。1978年にデビュー。以来、派手な衣裳やパフォーマンスで舞台に上がる恐怖を乗り越えて、独自の音楽性を持つミュージシャンとなった。頂点を極めながら、2016年ペイズリースタジオで急逝する。彼を惜しむ友人たち、関係者、ファンからのメッセージの花束のようなドキュメンタリー。

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自伝的映画のタイトルにもなった「パープル・レイン」発表から40年。音楽に目覚めた少年時代、バンドを結成、メジャーからのオファーが殺到してデビューし、アルバムがヒット、シャイな少年は確実にスターとなっていきました。いつも故郷のミネアポリスへの愛と恩返しを忘れなかったプリンスの足跡が辿られます。彼に魅了された人々から、当時の思い出がたっぷり披露されます。紫の貴公子プリンスへの愛の花束のような作品です。そんなに才能あふれる人だったのか、と今さらながら知りました。代表曲しかわからなかったので、アルバムをちゃんと聞いてみようと思います。(白)

プリンスの名前しか知らない私が観て、さて、この映画を楽しめるかしら・・・と思いながら拝見。映画の前半では、プリンスが育った、というより、プリンスを生んだミネアポリスという町について、歴史的背景を丁寧に紐解いていきます。1940年代以降、南部から北の工業地域にアフリカ系黒人が大移住。その数、500万人以上。北ミネアポリスも、そうした黒人たちが住む町でしたが、生活費を稼ぐのにも苦労する地域でした。人種差別の激しかった1960年代に育ったことがプリンスに影響を与えたことも。「肌の色でなく、作品の質で判断してもらう」というプリンスの思いが胸に沁みます。プリンスが亡くなってから、彼が医療施設や教会への寄付を何十年も続けてきたことが判明したそうです。地域を変える為に何が出来るかを常に考えていたプリンス。見た目の派手な印象とは違うプリンスのことを知ることのできる秀作です。(咲)

2021年/カナダ/カラー/68分
配給:アルバトロス・フィルム
(C)PRINCE TRIBUTE PRODUCTIONS INC.
https://prince-movie.com/
★2024年6月7日(金)新宿シネマカリテほか全国公開

posted by shiraishi at 20:57| Comment(0) | カナダ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年03月14日

ピアノ 2 Pianos 4 Hands(原題: Pianos 4 Hands)

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監督:テッド・ダイクストラ、リチャード・グリーンブラッド
出演:テッド・ダイクストラ、リチャード・グリーンブラッド

強引な親に風変わりな教師、何時間にもおよぶ反復練習、舞台恐怖症、ライバルや試験の重圧、そして偉大なピアニストになるという夢――ピアノ漬けの日々を送るなか、テッドとリチャードは“ピアノオタク”になっていく。
成長するにつれ、2人は“とても上手”と“偉大”との差を痛感し、コンサートに引っ張りだこのスターにはなれないのではないかと、身の程を思い知らされることに。とはいえ、2人がこの界隈で1、2を争うピアニストかもしれないこと自体、祝福する価値あり!『ピアノ』(原題:2 Pianos 4 Hands)は、ピアノのレッスンに付き物のユーモラスなあれこれや、いずれ来る夢を手放す瞬間の喪失感を描く。

ニューヨークのオフ・ブロードウェイでも大絶賛!
全世界200都市200万人が熱狂した、音楽ドラマ・エンターテイメント!
舞台には2台のピアノ、テッドとリチャードの二人だけ。
子供の頃から現在までのピアノ人生を軽妙なやりとりとピアノ演奏で語ります。ピアノに全く縁のない人も、息がぴったりな二人のお喋りと自由自在な演奏に引き込まれるはずです。あははと笑ったり、目を丸くしているうちに時間が過ぎて行きました。
予告編はこちらです。
(白)


2013年/カナダ/カラー/シネスコ/114分
配給:松竹
(C)BroadwayHD/松竹
(C)2 Pianos 4 Hands
https://broadwaycinema.jp//2P4H
★2024年3月22日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 21:33| Comment(0) | カナダ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする