2019年04月07日
アレッポ 最後の男たち 原題:LAST MEN IN ALEPPO
監督: フェラス・ファヤード 共同監督:スティン・ヨハネセン
2016年、シリア北部、歴史ある町アレッポ。
「アサドのせいで空ばかり見上げている」と嘆く自衛団「ホワイト・ヘルメット」の男たち。爆撃機が行く方向を見定め、急行する。一人でも多くの人を救おうと。
2011年の民衆による平和的デモを、シリア政府は軍事的手段で応酬。もう5年も続き、各地で町は瓦礫と化し、アレッポも例外でない。
爆撃を免れた公園ですべり台やブランコを楽しむ大勢の親子たち。
退避命令が出る。ドローンで偵察し、一般市民も無差別に攻撃してくるのだ。
ここで人が暮らすのは無理、トルコかどこかに逃げようと思うが、逃げ場のない人たちを救おうと、アレッポで自衛団の一員として日々空を見上げる男たち。彼ら自身、死と隣り合わせの毎日だ。
親にはトルコで仕事をしていると嘘をついている者もいる。
「権力の横暴を同胞のはずのアラブ諸国は黙殺している」と嘆く男性。
絶望的な姿を映画は見せつける・・・
私がシリアを訪れたのは、昭和63年9月。旅行中に昭和天皇が病に倒れられたので、元号で時期をはっきりと記憶している旅だ。アレッポ城の上から眺めた町は、旧市街にもびっしりと衛星テレビのパラボラアンテナが林立していて、実はちょっと興ざめだった。(思えば、それだけ豊かということなのだけど!)
でも、スーク(市場)は中世さながらの雰囲気で、わくわくする空間だった。ツアーで45分しか時間を取ってくれなくて、この市場のためだけにも、ぜひまたゆっくり訪れたいと思った町。その市場も、木っ端微塵に破壊されてしまった。
各国が介入しても解決せず、救いようのない内戦と思っていたら、実は大国の思惑が背景にあるらしい。
『アレッポ最後の男たち』を試写で観たと、友人に伝えたら、こんな情報をいただいた。
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アレッポのスークのことを書かれた黒田美代子先生の著書「商人たちの共和国」…ご本人が亡くなられた後絶版されていたのを、新装復刊された中にご主人の黒田壽郎先生が書かれております。
“支援国イスラエル擁護のためのアラブ勢力の徹底的破壊こそが米国の戦略の根幹であり、イラクの撹乱のすぐ後で新たにターゲットとされたのが、まさにシリアに他ならない。現在のシリアにおける騒乱は内戦ではなく外圧によって惹起されたものなのである…”と。まさしくおっしゃる通りです。黒田美代子先生がご存命でしたら、今のアレッポをシリアを見たら、絶句、言葉を失ってしまうでしょうね。
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映画の中で、足をひきずった猫ちゃんが出てきたことも、この友人(猫好き!)に伝えたところ、「アレッポで沢山のお猫さんの世話をされている方のことがテレビで流れたらことがあります。沢山の人がアレッポを離れてトルコの方に逃げて行った。が、飼っていたお猫さん残して…。みんなが帰ってくるまで、お猫さんの面倒を何とか見続けたい…と」
さて、私のシリアの旅に戻る。
旅の最後にツアーバスの運転手さんのご自宅を皆で訪ねた。一行20名ほどが全員集える大広間のある家だった。5~6人のお子さんのいる大家族。シリアでは、平均的な家族構成のようだった。急な客を温かくもてなしてくれたご一家。今はどうしていることか。
安住の地を求めて国を出た人も、シリアを離れられない人々も、どちらも故国を思う気持ちは同じだろう。シリアの人々が、心穏やかに暮らせる日の来ることを祈るばかりだ。(咲)
【トークイベント】
4月13日(土)11:00~上映後 太田 昌興さん / (株)アレッポの石鹸 共同代表取締役
4月13日(土)15:45~上映後 春日 芳晃さん / 朝日新聞国際報道部次長
4月14日(日)13:20~上映後 安田 純平さん / ジャーナリスト
第90回アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門ノミネート作品
2017年サンダンス映画祭ワールド・シネマ ドキュメンタリー・
コンペティション部門グランプリ他 世界中で23の映画賞受賞した作品
2017年/デンマーク・シリア/104分/ドキュメンタリー
制作:アレッポ・メディア・センター、ラーム・フィルム
制作協力:DR TV、SWR/ARTE、SVT、RTS、NRK、YLE
配給:ユナイテッドピープル
公式サイト:http://unitedpeople.jp/aleppo/
★2019年4月13日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー
2019年03月10日
セメントの記憶 英題:Taste of Cement
監督・脚本:ジアード・クルスーム
撮影監督:タラール・クーリ
音楽:アンツガー・フレーリッヒ
かつて中東のパリといわれたレバノンの首都ベイルート。
海辺に建設中の新しいビル。隣りには廃墟になったビル。1975年から15年続いた内戦が1990年に終わり、町が再建されてきた。
一人のシリアから来ている若い労働者。初めて海を知ったのは、ベイルートからの出稼ぎから帰ってきた父のお土産の絵。白い砂浜、青い海、そして2本のヤシの木。今は自分がその海を目の前にしている。が、シリアの労働者たちが海を楽しむことはない。建設中の高層ビルの地下は大きな宿泊所になっていて、夜7時以降、シリア人は外出禁止だ。
地下と繋がったエレベーターを行き来するだけの日々だ・・・
レバノンの再建を支えてきたシリア人労働者は、100万人にものぼるという。そして、そのシリアは今、内戦で町が破壊され続けている。人々の心の傷はあまりに深く、破壊し尽された町の再建に手がつけられるのはいつのことになるのだろうと暗澹たる思いだ。
映画の最後、ミキサー車の中で、再建された美しいベイルートの町がぐるぐる回る。
再建を下支えしているシリアの人たちの思いもぐるぐる回る。(咲)
◆【ジアード・クルスーム監督来日イベント】
3.21(木・祝)にクルスーム監督の前作『The Immortal Sergeant/不死身の軍曹』の上映&トークイベントが筑波大学東京キャンパスで開催されます。
★初日舞台挨拶★
渋谷ユーロスペースにて 3月23日(土)12:30~ 及び 14:30~の回上映後、ジアード・クルスーム監督舞台挨拶。
1回目終了後、1階のカフェ Cafe9 テラススペースで監督との交流会が開かれます。1ドリンクオーダー。
2018年/ドイツ・レバノン・シリア・カタール・アラブ首長国連邦/アラビア語/88分
日本語字幕:吉川美奈子
配給:サニーフィルム
★2019年3月23日(土)より東京・ユーロスペースほか全国で公開