2023年09月17日

PIGGY ピギー(原題:CERDITA)

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監督・脚本:カルロタ・ペレダ
出演:ラウラ・ガラン
カルメン・マチ
リチャード・ホームズ
ピラール・カストロ

スペインの田舎町。肉屋の娘で ティーンエイジャーのサラは、豊満な体型からクラスメイトに「Piggy(子ブタ)」と呼ばれ執拗にイジメられていた。幼馴染までそちらに組みしていて、家族にも言えない。一人で閉じこもっていたが、あまりに暑いのでこっそりプールへ出かけていく。見知らぬ男がプールから出てきて、そこへいじめグループが通りかかった。さんざん囃し立てからかったうえ、サラの着替えと携帯の入ったリュックを持ち去ってしまった。
家までビキニ姿で帰らねばならず、人目を避けて脇道に入ったサラはイジメクループが男に拉致されるのを目撃する。

スペイン発のリベンジホラー。元は短編作品だったのが、映画祭などで好評を博し長編に作り直したもの。主演のラウラ・ガランは舞台俳優で、ティーンではありませんが、コンプレックスで閉じこもるボッチ女子高生を演じて、ゴヤ賞で最優秀新人女優賞を受賞しました。
ところ変わってもイジメのやり方は万国共通のようです。本人は毎日傷つけられ、恐怖で縮こまるしかないのに、イジメる方は笑っていて「ただの遊び、ふざけただけ」と言うだけ。家族に打ち明ける勇気もなかなか出ません。長編になったことでリベンジが叶うや否や?(白)


2022年/スペイン/カラー/シネスコ/99分
配給:シノニム、エクストリーム
https://piggy-movie.com/
★2023年9月22日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 13:17| Comment(0) | スペイン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年03月11日

コンペティション  原題:Competencia oficial

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(C)2021 Mediaproduccion S.L.U, Prom TV S.A.U.

監督:ガストン・ドゥプラット、マリアノ・コーン
出演:ペネロペ・クルス、アントニオ・バンデラス、オスカル・マルティネス

製薬業界のトップで大富豪のウンベルト(ホセ・ルイス・ゴメス)は80歳の誕生日を迎え、社会貢献として後世に残るような映画を作ろうと思いつく。大枚はたいてベストセラー小説の映画化権を得て、監督に映画賞を多数受賞している女性監督(ペネロペ・クルス)を起用するが、開口一番、「原作通りには映画化しない」と言われる。兄弟の確執を描いた物語で、兄役に世界的スターのフェリックス(アントニオ・バンデラス)、弟役に老練な舞台俳優イバン(オスカル・マルティネス)を起用。さっそく台詞の読み合わせを始めるが、個性的すぎる3人はしょっちゅうぶつかってしまう。果たして、映画は無事完成するのか・・・

ペネロペ・クルスが変わり者の天才女性監督という役どころを楽しそうに演じて、はじけっぷりに笑わせられます。台本の読み合わせが始まるなり、「ブエノス ノーチェス(こんばんは)」の抑揚がそうじゃないと何度も言わせたり、「うまく泣くより真実味を出して」など、ペネロペが女優としてこれまでに接した監督を投影した場面もあるのではないでしょうか。
リハも進み、イバンが「アカデミー賞も見えてきた」というのに対し、フェリックスは「ばかげた賞。白人中心のエンタメ業界に色を添えるラテン人になれと?」と返します。そう語るのが、ハリウッドを始め国際的に活躍しカンヌ国際映画祭で主演男優賞を受賞したスペイン人俳優のアントニオ・バンデラスというのが皮肉です。老練な舞台俳優イバンを演じたオスカル・マルティネスは、『笑う故郷』でベネチア国際映画祭最優秀男優賞を受賞したアルゼンチンの大御所俳優。本作の中では、「スペインに20年もいるのに、まだアルゼンチン訛り」と指摘されるところがあって、彼のスペイン語はアルゼンチン訛りなのだと。(私には違いはわかりません・・・)
映画製作の現場もいろいろあると思いますが、案外、こんな感じかも。ハプニングがあれこれ起こるのも含めて!
それにしても、金儲けばかりで尊敬されてないと感じている大富豪が、映画製作で社会貢献という発想。 どんな映画が出来上がったのやらですが、ここで描かれてたような製作過程では、さてはてです。(咲)



2021年/スペイン・アルゼンチン/スペイン語/114分/カラー/スコープ/5.1ch/
字幕翻訳:稲田嵯裕里
配給:ショウゲート
公式サイト:https://competition-movie.jp/index.html
★2023年3月17日(金)にヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国公開



posted by sakiko at 21:28| Comment(0) | スペイン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年11月01日

パラレル・マザーズ    原題:MADRES PARALELAS

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(C)Remotamente Films AIE & El Deseo DASLU

監督・脚本:ペドロ・アルモドバル(『ペイン・アンド・グローリー』『ボルベール〈帰郷〉』)
出演:ペネロペ・クルス、ミレナ・スミット、イスラエル・エレハルデ、アイタナ・サンチェス=ギヨン、ロッシ・デ・パルマ、フリエタ・セラーノ

2016年、マドリード。フォトグラファーのジャニス(ぺネロペ・クルス)は、法人類学者アルトゥロ(イスラエル・エレハルデ)のポートレート撮影を引き受けた。ジャニスの曽祖父は、スペイン内戦時にフランコ政権に連行され殺されたが、遺骨が見つかっていない。ジャニスは、「歴史記憶を回復する会」のメンバーでもあるアルトゥロに、曽祖父たち行方不明の同郷の人たちの遺骨の発掘を依頼したいという思惑があった。アルトゥロは快く引き受ける。会った時から惹かれ合った二人は、たちまち恋に落ちる。だが、アルトゥロには病弱の妻がいた。
時が経ち、ジャニスは出産を控えて病院にいた。同室の17歳のアナ(ミレナ・スミット)と同じ日に女の子を出産する。共にシングルマザーとなった二人は、連絡先を交換する。
その後、アルトゥロがセシリアと名付けた我が子に会いたいとやってくる。一目見て、自分の子と思えないと言われ、ジャニスはDNA鑑定をする。驚くべきことに、自分が生物的母親である確率は、100%ないと出る。同じ日に生まれたアナの娘と取り間違えられたに違いないと推察する・・・

病院で取り違えられ、血の繋がっていない子を育てていたという話は現実にもあるし、映画にもしばしば取り上げられてきました。本作では、ジャニスが真実を知った時の苦悩、アナと再会し、さらに悩まされる様が丁寧に描かれていました。
それよりも、私の心に響いたのは、内戦時代に行方不明になった人たちの遺骨を、孫や曾孫の世代が探し出そうとしていることでした。劇中、内戦を経験したお年寄りたちが語る言葉は本物。祖母や曽祖母の、いつまでも晴らせない思いを、なんとか叶えてあげたいという若い世代。フランコ政権時代の悲劇を忘れてはいけないという、監督も含めスペインの人たちの思いをずっしり感じた一作でした。(咲)


第78回ヴェネチア国際映画祭 最優秀女優賞受賞(ペネロペ・クルス)

☆ペドロ・アルモドバル監督初の英語劇 『ヒューマン・ボイス』 同時公開


2021年/スペイン・フランス/スペイン語/123分/カラー/5.1ch/ドルビーデジタル/アメリカンビスタ/R15+
字幕翻訳:松浦美奈
配給キノフィルムズ
公式サイト:https://pm-movie.jp/
★2022年11月3日(木・祝)ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ、新宿シネマカリテ他全国公開
posted by sakiko at 02:11| Comment(0) | スペイン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ヒューマン・ボイス   原題:THE HUMAN VOICE

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© El Deseo D.A.

監督・脚本:ペドロ・アルモドバル
原作:ジャン・コクトー「人間の声」
出演:ティルダ・スウィントン アグスティン・アルモドバル ダッシュ(犬)

1人の女が元恋人のスーツケースの横で、ただ時が過ぎるのを待っている。スーツケースを取りに来るはずの恋人は、結局姿を現さない。そばには、主人に捨てられたことをまだ知らない犬がいる。3日間待ち続けた女は、その間にたった1度外出し、斧と缶入りガソリンを買ってくる。女は無力感に苛まれ、絶望を味わい、理性を失う。様々な感情を体験したところで、やっと元恋人からの電話がかかってくるが……

ジャン・コクトーの戯曲「人間の声」をアルモドバルが自由に翻案した、英語での一人芝居。
捨てられた女性と犬の、なんとも不思議な時間でした。(咲)


『パラレル・マザーズ』と同時公開になる30分の短編

2020年/スペイン/英語/30分/カラー/5.1ch/ドルビーデジタル/アメリカンビスタ
字幕翻訳:松浦美奈
配給・宣伝:キノフィルムズ 提供:木下グループ
公式サイト:https://pm-movie.jp/
★2022年11月3日(木・祝)ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ、新宿シネマカリテ他全国公開



posted by sakiko at 02:07| Comment(0) | スペイン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年01月23日

プラットフォーム(原題:El Hoyo/英題:The Platform)

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監督:ガルダー・ガステル=ウルティア
出演:イバン・マサゲ(ゴレン)、『パンズ・ラビリンス』『ミリオネア・ドッグ』「わが家へようこそ」、アントニア・サン・フアン

ゴレンは禁煙するために「穴」と呼ばれる「VSC/垂直自主管理センター」に入った。携帯品は一つだけ、6ヶ月の間に読み終わるように「ドン・キホーテ」の本を持ち込んだ。ガスで眠らされて目覚めると老人が自分を見つめていた。ベッドと洗面、トイレのほか何もない部屋で、床と天井に大きな四角い穴が開いている。詳しいことを知らされなかったゴレンに、老人は決まりごとをいくつか教えてくれた。老人は長い間ここにいて、下層の悲惨さを知りつくしている。自分たちがいる48階は良い階だと言うが、ゴレンは食べ散らかされた残り物を口にできない。
ルール1:一ヶ月ごとに階層が入れ替わる
ルール2:何か一つだけ建物内に持ち込める
ルール3:食事が摂れるのはプラットフォームが自分の階層にある間だけ

1日1度、上の階の残り物が載ったプラットフォームが下りてくる。最下層まで行くと凄いスピードで上がって戻る。食べて生き残ることしかすることがない。知るにつけ、とんでもない場所だとわかるが、途中で出ることはできないしくみだった。

縦構造になった階級社会を描く SF サスペンス・スリラー。よくこんなことを思いつくね、と呆れると同時に感心してしまいました。ガルダー・ガステル=ウルティアの長編初監督作品です。
ホテルの厨房かと見まがうところで、責任者らしい男性が厳しくチェックし、味や見た目はもとより髪の毛1本も見逃しません。それでも0階のプラットフォームに美しく盛られた食事がどうなるのかは、作り手の知るところではなく、知ろうとさえ思わないのかもしれません。
考えてみればわずかな食糧を奪い合っているのは、現実世界でも同じです。現実では階層が産まれながらに決まったり、努力次第で変えられることがあります。「穴」ではどこにいようと、1ヶ月経てば必ず移動するというところが異なります。
「奪い合えば足りず、分け合えば余る」という言葉がありますが、全員に行き渡るだけの食糧があっても下層まで届きません。たとえ下層で苦労しても、上層に移ればこのときとばかり幸運を貪り、分け合うことなど考えません。人間のイヤな部分がこれでもかとばかりにさらされます。そうしないと生き残れないので、ヘタレな私なら早々に脱落です。
豊かな国ではあり余り、廃棄される食品があっても、食べられない人には回っていかないドキュメンタリーを思い出しました。(白)


受賞歴
2019 トロント国際映画祭(ミッドナイトマッドネス部門):観客賞受賞
2019 シッチェス・カタロニア国際映画祭:最優秀作品賞、視覚効果賞、新進監督賞、観客賞受賞
2020 ゴヤ賞:特殊効果賞受賞

階級社会をデフォルメして描いている作品で、窓がなくて暗く汚い部屋、上から下りてくる残飯などが全体的にダークな印象を与えています。時折、目を覆いたくなるシーンも。この作品はホラーなのか、サスペンスなのか。情報が少ないゆえ主人公の先行きが気になって、なぜか目が離せません。
不条理な状況に立ち向かおうとする人も出てきますが、うまくいきません。彼らはヒーローではなく、むしろ人間としての矮小さが際立って感じられてしまいます。彼らに共感するか、どうかで見ている人の社会性が問われているような気がします。(堀)


2019年/スペイン/カラー/シネスコ/94分/R15+
配給:クロックワークス
(C)BASQUE FILMS, MR MIYAGI FILMS, PLATAFORMA LA PELICULA AIE
http://klockworx-v.com/platform/
★2021年1月29日(金)劇場公開
posted by shiraishi at 23:59| Comment(0) | スペイン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする