2022年02月06日

国境の夜想曲   原題:NOTTURNO

kokkyoo.jpg
(C)21 UNO FILM / STEMAL ENTERTAINMENT / LES FILMS D’ICI / ARTE FRANCE CINEMA / Notturno NATION FILMS GMBH / MIZZI STOCK ENTERTAINMENT GBR

監督・撮影・音響:ジャンフランコ・ロージ (『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』『海は燃えている~イタリア最南端の小さな島~』)

それでも、そこで暮らす人々・・・

夜明け、整列し掛け声を発しながら走る兵士たち。

荒涼とした地に建つキャラバンサライのような建物。スカーフ姿の女性たちが嘆く。ここに投獄され拷問を受け亡くなった息子たち。「神がお前のいない人生を生きることをお決めになった」と言いつつ、トルコ政府を恨む母親。

暗い中、バイクに乗る男。油田のやぐらに火が見える。
湿地帯。ボートで湖に漕ぎだす。遠くから銃声が聞こえる。

夕闇の町を見下ろす屋上にたたずむカップル。水煙草をふかす女性。遠くからアザーンが聴こえてくる。男は正装して、白い帽子を被り、太鼓を叩きながら歌い、古い町並みを行く。

荒野を装甲車が行く。
女性兵士たちが兵舎に入り、ストーブを囲む。
外では銃を構え荒野を見張る女性兵士。

精神病院。選ばれた患者たちが舞台で政治風刺劇の練習に勤しむ。(アラビア語)
軍事クーデター、アルカーイダ、ISIS・・・すべてを入れ込んだ台本。
スクリーンに映し出される映像。町をいく戦車。爆破されるモスク。博物館で叩き壊される古代の遺物・・・

夜明け前から家族のために、海で魚を釣り、草原で猟をする少年。時には猟師のガイドをして日銭も稼ぐ。父親はいない。幼い5人の兄弟たちと朝食を済ませると、少年はやっとソファで眠りにつく。

幼いヤズィーディー教の子どもたち。描いた絵の説明をする。ISISが家を爆発。拷問して人々を殺した・・・  子どもたちのおぞましい記憶。

オレンジ色の囚人服の男たち。
刑務所の中庭から、前の人の肩に手を乗せ、連なって中に入っていく。

大きな川。橋が途中で途切れている。筏のような“渡し”で車もミニバスも運ぶ。
水の溜まった道を行く車。

破壊し尽された町。娘からのVOICEメールを聴く母親。「500ドル送って」という娘。そばで男が監視しているようだ。シリアにいる。連絡が取れなくなっても心配しないでという娘。

再び、演劇。「尊厳のある国で暮らしたい」

冒頭、「オスマン帝国の没落と第二次世界大戦後、あらたな宗主国が国境線を引いた」と掲げられます。
かつては、メソポタミア文明の発祥した地。
民族や宗教の異なる人たちが、お互いに切磋琢磨して豊かな文化を育んできた地。
今は残念ながら紛争地域のイメージが植え付けられてしまったイラク、シリア、レバノン、クルディスタンの国境地帯。
監督が捉えるのは、その地で、自分の運命を受け入れ、懸命に生きる人たちの姿。
そこがどこで、なぜそのような境遇にあっているのかなど、一切の解説を廃した映像。
だからこそ、ちょっとしたヒントから、そこはどこと詮索してしまいますが、それは監督の意図するところではないでしょう。
あるがままを観て、感じて、想像を掻き立てて、そこで暮らす人たちの気持ちに寄りそうことができれば、それだけでいいのだと。

それでもヒントを得たい方は、公式サイト
『国境の夜想曲』を読み解くためのキーワードをどうぞ!
https://bitters.co.jp/yasokyoku/background.php

ジャンフランコ・ロージ監督は、1964年、エリトリア国アスマラ生まれ。エリトリア独立戦争中、13歳の時に家族と離れてイタリアへ避難。このご経歴が紛争地区で暮らす人々への静かな眼差しに繋がっているのだと感じました。 そして、私たちもまた、いつ歴史に翻弄されるかもしれないことを心しなければと感じさせてくれました。(咲)



受賞ノミネート
第77回ヴェネチア国際映画祭 ユニセフ賞/ヤング・シネマ賞
最優秀イタリア映画賞/ソッリーゾ・ディベルソ賞 最優秀イタリア映画賞 受賞
第33回東京国際映画祭 正式出品
山形国際ドキュメンタリー映画祭2021 コンペティション部門 正式出品


2020年/イタリア・フランス・ドイツ/アラビア語・クルド語/104分
配給:ビターズ・エンド
公式サイト:https://www.bitters.co.jp/yasokyoku/
★2022年2月11日(金・祝)Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー



posted by sakiko at 16:38| Comment(0) | イタリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年10月27日

ほんとうのピノッキオ( 原題:PINOCCHIO)

pinocchio.jpg

監督/共同脚本:マッテオ・ガローネ
原作:カルロ・コロディ
脚本:マッシモ・チョッケリーニ
プロデューサー:ジェレミー・トーマス
撮影:ニコライ・ブルーエル
美術:ディミトリー・カプアーニ
衣裳:マッシモ・カンティーニ
音楽:ダリオ・マリアネッリ
出演:ロベルト・ベニーニ(ジェペット)、フェデリコ・エラピ(ピノッキオ)、ロッコ・パパレオ(ネコ)、マッシモ・チョッケリーニ(共同脚本/キツネ)、マリーヌ・ヴァクト(妖精)、ジジ・プロイエッティ(人形劇一座の親方)

貧しい木工職人のジェペットは丸太を手に入れて、一心に人形を作り始めた。話しかけると人形は喋り出し、足ができると歩き始めた。息子ができたと大喜びのジェペットは、ピノッキオと名付けてベッドカバーで帽子と洋服も作ってやった。自分の上着を売って教科書を買い、学校へ送り出す。ところがピノッキオは教科書を売って人形劇の公演を観に行ってしまった。人形劇の一座と別れたピノッキオは親方からもらった金貨を持って、ジェペットの家への道を探していた。そこにペテン師のネコとキツネがやってきて、もっと金貨を増やそうとピノッキオにウソを吹き込む。危ないところを妖精に救われるのだが…。

マッテオ・ガローネ監督はイタリアの裏社会を描いたクライムストーリー『ゴモラ』(2008)がカンヌ映画祭コンペティション部門でグランプリ、一躍有名になりました。原作は1883年に出版された「ピノッキオの冒険」です。世界中で知られている童話ですが、私も含めてイメージはディズニーのアニメーションでしょう。1939年制作だそうです。そんなに前からだったの!
原作はけっこう風刺もきいたダークファンタジーで、映画は原作にかなり忠実です。貧しく空腹、服は着た切り雀のジェペットの描写から始まります。ユーモアと悲しみが同居しているロベルト・ベニーニが適役。ベニーニは2003年公開の『ピノッキオ』を監督・主演していますが、そちらは未見。子どもの愛らしさに及ばないんじゃないかなあ。
ピノッキオは好きなように遊びまわり、ジェペットを死ぬほど心配させます。生まれたばかりで世間知らずなのに、よくウソをつき、妖精の家で鼻がどんどんのびて大騒ぎになります。長時間の特殊メイクに耐えたピノッキオのフェデリコ・エラピはじめ、不思議な生き物を演じた俳優たちと特殊メイクのマーク・クーリエの仕事に拍手。抑えた色味の泰西名画のような背景、登場人物の造形や衣裳も素晴らしいです。
ガローネ監督は6歳のときに「ピノッキオ」のストーリーボードを書いたそうです。映画化しようと原作を読み直して、満を持して送り出されたこの作品はこれまで観たピノキオとは大きく違っています。舞台は貧しく、厳しく、理不尽な世間。無知な木の人形が信じてくれる人を何度も裏切り、「楽な道を選んでは失敗」を繰り返します。苦労して少しずつ成長していく普遍的な物語は、現実を生きる私たちと変わりません。ピノッキオが人間の少年になるまで、応援しつつご覧ください。(白)


2019年/イタリア/カラー/シネスコ/122分
配給:オフィシャルサイト
copyright 2019 cARCHIMEDE SRL - LE PACTE SAS
happinet-phantom.com/pinocchio/  
公式twitter:@Pinocchio_2021
★2021年11月5日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 18:19| Comment(0) | イタリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年08月29日

ミス・マルクス(原題:Miss Marx)

marx pos.jpg

監督・脚本:スザンナ・ニッキャレッリ
撮影:クリステル・フルニエ
衣装デザイン:マッシモ・カンティーニ・パリーニ
音楽:ガット・チリエージャ・コントロ・イル・グランデ・フレッド
   ダウンタウン・ボーイズ
出演:ロモーラ・ガライ(エリノア・マルクス)、パトリック・ケネディ(エドワード・エイヴリング)、フィリップ・グレーニング(カール・マルクス)、ジョン・ゴードン・シンクレア(フリードリヒ・エンゲルス)、フェリシティ・モンタギュー(ヘレーネ・デムート)、カリーナ・フェルナンデス(オリーヴ・シュライナー)、オリバー・クリス(フレディ)

1883年、イギリス。最愛の父カールを失ったエリノア・マルクスは、劇作家で社会主義者のエドワード・エイヴリングと出会い恋に落ちた。ところがエイヴリングは金銭感覚が普通でなく、浪費家で誰彼問わず借金をしては放置する。中でもエリノアを苦しめたのは、エイヴリングの女性関係だった。不実な男と知りながら、助けずにいられない。エリノアを心配し何かと話相手になっていた親友が国を出て、心のうちを話す相手がいなくなってしまった。父親から受け継いだ社会主義とフェミニズムを結びつけた草分けの一人として時代を先駆けながら、自分の信念と彼への愛情に引き裂かれていく。

カール・マルクスの伝説の3姉妹の末娘であり、女性や子供たち、労働者の権利向上のため生涯を捧げ、43歳の若さでこの世を去った女性活動家エリノアの、知られざる激動の半生を初めて映画化したのが本作。監督・脚本を手掛けたスザンナ・ニッキャレッリは、イタリア出身。前作『Nico, 1988』(17)でヴェネツィア国際映画祭オリゾンティ部門作品賞を受賞しています(未見)。
新しい思想、社会の改革を進めてきた聡明な女性が、なぜこんなに甲斐性のない浪費家でうそつきな浮気男を愛してしまったんでしょうか?「可哀想たぁ惚れたってことよ」という芝居の台詞が浮かんできます(寅さんだったかも)。しっかり者の女にはダメ男が寄ってくる、ということ?
支えようと頑張るあまり、いっぱいいっぱいになってしまったエリノア。誰かに愚痴をこぼして肩の荷を降ろすことができたならと思わずにいられません。ロックに合わせて激しく踊るエリノアの姿は、スザンナ・ニッキャレッリ監督からエリノアへのプレゼントでしょう。こんなにたぎる想いがありながら、十分に発揮できず。こんな風に自分を解放できたら違う結末になったはず。
エリノアという保護者を失ったエイヴリンはどうしたかと思えば、4ヶ月後に亡くなっています。それまでの浪費癖からくる大小の負債、多くの女性との不貞などで嫌われていたそうなので、それなりの最期であったようです。

2020年ヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門でFEDIC賞、ベストサウンドトラックSTARS賞の2冠に輝き、2021年ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞11部門ノミネート、3冠受賞を果たしました。公式サイトのTOPで印象的なサウンドトラックのさわりが聞けます。(白)


メイン (Photo by Emanuela Scarpa).jpg
Photo by Emanuela Scarpa


マルクスの末娘で、父譲りの政治活動家として労働者や女性の権利向上のために貢献し、「資本論」の英語版の刊行を手掛け、イプセンなどの戯曲を翻訳した演劇人としても知られたエリノア・マルクス。本作では、浪費家で女たらしのエイヴリングに翻弄された負の部分が強調されて、脆い面ばかりが印象に残ってしまいました。エイヴリングは既婚者でしたが、エリノアは「結婚は時代遅れの制度」と公言し、事実上の妻として同棲していました。(それ自体は、私は賛成!) ところが、それをいいことに、エイヴリングは妻とこっそり離婚し、若い女性と再婚! どこまで不実な男なのでしょう。
ところで、父カール・マルクスもまた不実な男だったことが明かされます。冒頭、父カールの埋葬式で、エリノアは父が17歳の時に出会った母イェニーと翌年結婚し、いかに仲睦まじかったかを熱く語ります。その後、父の盟友エンゲルスが亡くなる直前にエリノアに、エンゲルスとマルクス家の使用人ヘレーネとの間に生まれた息子フレディが、実はカール・マルクスとヘレーネの息子だと明かします。父の不実を知った時のエリノアは、どんな思いだったでしょう。ま、世の中、男も女もお互いに騙しあって生きているのだと考えると、スザンナ・ニッキャレッリ監督は、一人の女性の生涯を描きながら、現代にも通じる人間の本質を暴き出しているのだと感じます。(咲)


マルクスとエンゲルス、名前は知っていても、資本論などにどんなことが書かれているのかは知らない。それでも、労働者や搾取されている人たちを擁護する本や活動をしていた思想家ということくらいは知っている。でも、マルクスに3人の娘がいたことや、エンゲルスがマルクス家を援助していたということはこの作品で知った。また、マルクスの3女エリノア・マルクスのことも、彼女の活動のこともこの作品で知った。1970年代から婦人運動やウーマンリブなどの運動に興味を持ち、この運動で知り合った人もたくさんいて、今も励ましあいながら生きている私なのに、あの時代に男性に交じって労働運動、政治活動、女性の地位向上のために戦っていた彼女のことを、これまで全然知らなかったのはなぜだろう。そして、この作品を観ながら、あまり共感できないという思いもあった。せっかく、エリノア・マルクスのことを知らしめる作品なのに、彼女の思いや描き方になんか納得がいかなかった。事実をもとに語っているのだろうけど、正しいこと、目標としていることは良くても、なんだか違うなという思いがあった。それはきっと、上記で(咲)さんが書いていることにつながることかもしれない。いくらりっぱなことを言っている人でも、最低な夫を突き放さず擁護しているところが、私が彼女の生き方に共感できなかった原因かも。それにしても、せっかくエリノア・マルクスのことを知らしめる良い機会なのに残念(暁)

2020年/イタリア・ベルギー/カラー/ビスタ/107分/英語・ドイツ語
配給:ミモザフィルムズ
(c)2020 Vivo film/Tarantula  
https://missmarx-movie.com/
★2021年9月4日(土)よりシアター・イメージフォーラム、新宿シネマカリテほか全国順次公開

posted by shiraishi at 01:15| Comment(0) | イタリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年03月06日

ワン・モア・ライフ!  原題:Momenti di trascurabile felicità  英題:Ordinary Happiness

one more life.jpg

監督・脚本:ダニエーレ・ルケッティ(『ローマ法王になる日まで』)
出演:ピエールフランチェスコ・ディリベルト(ピフ)、トニー・エドゥアルト、レナート・カルペンティエーリ(『ナポリの隣人』)

イタリア、シチリア島のパレルモ。港で技師として働くパオロは、渋滞が大嫌い。仕事を終え、スクーターをぶっ飛ばして家路につく。交差点をいつものように右折が赤信号の数秒のうちにすり抜けようとしたが、一瞬の差でバンに撥ね飛ばされ即死してしまう。
天国の事務所は人でごった返していて、ようやく呼ばれたパオロは、「健康のためにジンジャー入りのスムージーも我慢して飲んでいたのに!」と役人に向かって駄々をこねる。「え? スムージー?」と、情報を追加し計算し直した役人から「寿命があと1時間半あった。2分オマケして92分」と言い渡される。役人に付き添われて、地上に戻ったパオロ。人生最後の92分、どうやって過ごす?

冒頭、パオロがガントリークレーンの上から眺めるパレルモの町の美しいこと! パレルモが低い山に抱かれた町なのを初めて知りました。シチリアは、9 ~11世紀にわたってアラブの支配下にあったところで、一度は行ってみたいと思っていたのですが、故郷・神戸にも似た地形だと知り、ますます訪れてみたくなりました。
その神戸の同級生で、交通事故に遭って瀕死の状態から生還、「三途の川を渡ったとこで、あんた、家族もおるし、まだやり残したことあるやろと言われて戻ってきた」という男性がいるのを思い出しました。
本作では、パオロが生きるチャンスをもう一度もらって、人生を悔い改め、それまでないがしろにしてきた妻や子と最後の時間を過ごそうとする姿がユーモアたっぷりに描かれています。
2017年、『ローマ法王になる日まで』公開の折に、ダニエーレ・ルケッティ監督にインタビュー。その中に、「人生、何度でもやりなおすことができる!」という言葉があって、本作にも通じる?とびっくり!
さて、余命がわかったら、私なら何をする? (咲)


ワンモア_メイン.jpg

天国の入り口は大混雑でした。受付係が操作しているパソコンは最新型とはいえず、データの不備や計算ミスもそのせいかも。自分勝手な信号無視は棚に上げて、パオロ(高松英郎さん似)が猛抗議の末もらった92分。リアルタイムで観客も体験します。短い。
合間に今更ながら後悔ばかりのパオロの人生も御開帳。なんていい加減な男なんだ、おまけに妙なところにこだわって細かい。そんな彼の欠点も含めて愛した妻のアガタに拍手。そういう人にはなぜかいい奥さんがついて、苦労させられるんだよね。しっかりした子どもたちが育ったのは母親のおかげです。
パオロはピフことピエールフランチェスコ・ディリベルトのあてがきだそうです。すっごく人気の俳優だそうです。天国の役人は渋くて素敵なレナート・カルペンティエーリ。間違いを認め、温情も併せ持ちます。お役人はこうでなくては。懲りないパオロに笑ったり呆れたりしながら、しんみり家族愛にも浸れる作品でした。(白)


2019年/イタリア/94分/シネスコ/5.1ch/イタリア語
日本語字幕:関口英子
後援:イタリア大使館、イタリア文化会館
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
(C)Copyright 2019 I.B.C. Movie
公式サイト:https://one-more-life.jp/
★2021年3月12日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開

posted by sakiko at 03:02| Comment(0) | イタリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年01月17日

天空の結婚式   原題:Puoi baciare lo sposo、英題: MY BIG GAY ITALIAN WEDDING

tenkuuno kekkonsiki.jpg

監督・脚本: アレッサンドロ・ジェノヴェージ
出演:ディエゴ・アバタントゥオーノ、モニカ・グェリトーレ、サルヴァトーレ・エスポジト、クリスティアーノ・カッカモ

ベルリン。役者のアントニオは、役者仲間のパオロと一緒に暮らすうちに「人生を共にするなら、この人!」と確信し、遂にプロポーズ。二人の決意は固いが、問題はお互いの親の理解を得ること。パオロはゲイをカミングアウトして以来、ナポリにいる母親と疎遠になっている。まずはアントニオの両親の承諾を得ようと、イタリアの天空の村チヴィタ・ディ・バニョレージョに行くことにする。二人の下宿先の大家の女性ベネデッタや、さらには新しい下宿人のイタリアの中年親爺ドナートまでもが一緒に行くと言い張り、珍道中となる。
アントニオの母アンナは驚きながらも、この村で結婚式を挙げることを条件に認めるが、村長を務める父ロベルトは頑なに拒否する・・・

父ロベルトはよその町の出身だけど、アンナと結婚して村に移り住み、1年前からは村長を務め、積極的に難民を受け入れています。「世界は今、同化に向かっている。どんな人種も受け入れる」と言いながら、我が子の同性婚は受け入れられないのです。
そんな父親に、認めないなら離婚するとまで脅かして、母アンナはウェディング・プランナー(イタリアで今最も人気を集める実在の“カリスマ”ウェディング・プランナー、エンツォ・ミッチョが本人役で登場!)を雇って、最高の結婚式にしようと奮闘します。
ローマの北約120キロに位置する崖の上にそびえる村チヴィタ・ディ・バニョレージョは、『天空の城ラピュタ』(86)のモデルとなったといわれ、映画『ホタルノヒカリ』(12)にも登場した「天空の村」。絶景の地で繰り広げられる抱腹絶倒の物語ですが、寛容とは何かを問い、人権を考えさせてくれる作品になっています。
それにしても、ディエゴ・アバタントゥオーノ演じるアントニオが、実にキュート! 元カノのカミッラならずとも、男に取られたくないっ!! と思ってしまいました。(咲)


*イタリアで、2016年に下院議会で同性カップルの結婚に準ずる権利を認める「シビル・ユニオン」法が可決されたことを受けて、ニューヨークのオフ・ブロードウェイでロングラン上演された大ヒット舞台「My Big Gay Italian Wedding」を、イタリアのコメディ映画界の重鎮アレッサンドロ・ジェノヴェージ監督が映画化。

LGBTのカミングアウトは、友人、社会、会社、学校、仲間などに伝えるのに勇気がいるが、どこの国でも親に伝えるのが一番大変。親にとっては一大事。なかなか理解してくれない親との葛藤が、このところ何本もの映画で描かれている。ここでは父親が絶対受け入れられないと拒否をする。でも母親は最後に受け入れ、さらにはイタリアらしく、ウェディング・プランナーまで雇ってこの絶景の地での結婚式を進める。それにしてもすばらしい景色。まずこのロケーションがあって、それに同性婚を持ってきたといっても過言ではないかも。
私自身は、家制度、結婚制度に疑問があって結婚したいと思ったことがないので、なんで世の中の人はこんなに結婚したがるの?とずっと思ってきたけど、最近は同性婚まで出てきてびっくり。一緒にいたければいれば一緒にいればいいのであって、わざわざ結婚までしたがるということにはちょっと疑問がある。やはり団塊の世代と今の若い世代には、そういう思いに落差があるのかもしれない。ま、結婚したい人はすればとしか言えないけど。
カミングアウトは中国でも深刻なようで、『出櫃(カミングアウト 中国 LGBT の叫び』というドキュメンタリー作品もK's Cinemaなどで1月23日に公開される。これは親にカミングアウトする男性と女性のLGBT二組を追った作品。イタリアより、もっと親との繋がり関係が強く、子供の思いを受け止めがたい親が描かれる。こちらもぜひ観てみてください(暁)。

『出櫃(カミングアウト 中国 LGBT の叫び』公式HP
http://www.pan-dora.co.jp/comingout/

LGBTに関する作品はここ数年ぐっと増え、世間の理解は広まってきました。当然、私も理解ある人間の1人だと自負していました。ところがそんな私自身が最近、身近な人がゲイであると知ってかなりの衝撃を受け、その人を見る目が変わってしまったのです。ゲイであってもなくてもその人はその人であることを頭では分かっているものの、理解と感情は別物でした。この作品で描かれている父親はまさにこの気持ちだったんですね。へぇ~と思って読んでいるあなたも他人事ではないかもしれませんよ!
本作はニューヨークのオフ・ブロードウェイでロングラン上演された大ヒット舞台「My Big Gay Italian Wedding」を原案とし、結婚の自由がテーマですが、美しい風景も大きな見どころ。本作の舞台となったイタリア、ラツィオ州に位置する分離集落「チヴィタ・ディ・バニョレージョ」はイタリア有数の観光地ですが、約300mの狭く急な長い橋を渡る以外アクセス方法はありません。周囲の崖が毎日少しずつ崩れてきているとのことなので、貴重な記録映像の意味もあるといえるでしょう。(堀)


2018年/イタリア/90分/カラー/シネマスコープ/5.1ch /G
配給:ミモザフィルムズ
後援:イタリア大使館、イタリア文化会館
提供:日本イタリア映画社
(C)Copyright 2017 Colorado Film Production C.F.P. Srl
公式サイト :http://tenkuwedding-movie.com/
★2021 年 1 月 22 日(金)より、YEBISU GARDEN CINEMA、新宿シネマカリテ他にて全国順次公開



posted by sakiko at 13:12| Comment(0) | イタリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする