2023年02月12日

いつかの君にもわかること(原題:Nowhere Special)

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監督・脚本:ウベルト・パゾリーニ
撮影:マリウス・パンドゥル
出演:ジェームズ・ノートン(ジョン)、ダニエル・ラモント(マイケル)、アイリーン・オヒギンズ(ショーナ)

33歳のジョンはシングルファーザー。窓拭き清掃員として働き、4歳の息子マイケルを育てている。ジョンには大きな気がかりがあった。不治の病のため余命はあとわずか。一人残されるマイケルを安心して託せる”新しい家族”をさがさなければならない。養子縁組の相談をして、何組もの候補を面会をするが、これと思う人に出会えない。ソーシャルワーカーのショーナは、そんなジョンとマイケルのために献身的に寄り添う。

忘れられない傑作『おみおくりの作法』(2013)のウベルト・パゾリーニ監督の最新作。『おみおくりの作法』は日本でも阿部サダヲ主演で『アイ・アム まきもと』としてリメイク、昨年9月に公開されています。パゾリーニ監督は原作&エグゼクティブプロデューサーとして名を連ねています。
今度の作品は、幼い息子マイケルと父親ジョンのストーリー。ジョンは残り少なくなる時間に追われながら新しい家族を探すものの、どの家族も”帯に短したすきに長し”で次第に焦ってきます。つい周りにあたってしまう自分も許せません。
映画初出演のダニエル・ラモント演じるこのマイケルくんが実に可愛くて、こちらまで「良い人に会えますように」と彼の幸せを願ってしまいます。父役のジェームズ・ノートンは撮影前から彼と過ごして、ほんとの親子のような信頼関係を築いたのだとか。
何組もの親候補の中から、あなたなら誰に託しますか? 私はジョンの選択と同じでした。(白)


【解禁】いつかの君にもわかること_オフショット_1.jpg
オフでも仲良しの2人


2020年/イタリア・ルーマニア・イギリス合作/カラー/95分
配給:キノフィルムズ
(C)2020 picomedia srl digital cube srl nowhere special limited rai cinema spa red wave films uk limited avanpost srl.
https://kinofilms.jp/movies/nowhere-special/
★2023年2月17日(金)YEBISU GARDEN CINEMA他にて公開
posted by shiraishi at 14:58| Comment(0) | イタリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月13日

モリコーネ 映画が恋した音楽家(原題:Ennio)

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監督・脚本:ジュゼッペ・トルナトーレ
出演:エンニオ・モリコーネ、クエンティン・タランティーノ、クリント・イーストウッド、ウォン・カーウァイ、オリバー・ストーン、ハンス・ジマー、ジョン・ウィリアムズ、ダリオ・アルジェント、テレンス・マリック、ブルース・スプリングスティーン、ベルナルド・ベルトルッチ、ジェイムズ・ヘットフィールド、クインシー・ジョーンズ など

2020年7月、映画音楽の巨匠として知られるエンニオ・モリコーネが91歳で亡くなった。『ニュー・シネマ・パラダイス』以来親交のあるジュゼッペ・トルナトーレ監督が5年の間密着取材、子供のころから晩年までの音楽とともにあった人生を振り返った。ドキュメンタリーには、モリコーネが手掛けた50本以上の映画作品が紹介され、70人以上の映画関係の著名な人々のインタビューがある。

映画好きなら知らない人はいないだろうエンニオ・モリコーネ氏、彼が手掛けた作品の印象的な導入部、サビの部分を耳にすると名シーンが目に浮かびます。次々と紹介される作品を観て、これもあれもそうだった、とあらためて驚きました。たとえ名前を知らなくても、音楽を聴けば「ああ、知っている」「聞いたことがあった」と思い出すはず。モリコーネ氏への想いを語る映画人たちも錚々たる方々、縁があったことを心から喜び、彼の業績や人柄を偲んでいます。
そんな偉大なマエストロが、映画音楽よりもクラッシック音楽を作りたいのだと葛藤した時期もあったと打ち明けています。映画音楽が評価され始めても満足せず、常に新しい挑戦をし続けていたことも、後に続く若い人たちに知ってほしいところです。(白)


● 本編登場作品の⼀部
『荒野の⽤⼼棒』(64)『⾰命前夜』(64)『⼣陽のガンマン』(65)『続・⼣陽のガンマン 地獄の決⽃』(66)『ウエスタン』(68)『死刑台のメロディ』(71)『1900年』(76)『天国の⽇々』(78)『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』(84)『ミッション』(86)『アンタッチャブル』(87)『ニュー・シネマ・パラダイス』(89)『Uターン』(97)『海の上のピアニスト』(98)『ヘイトフル・エイト』(15) など

2021年/イタリア/カラー/シネスコ/157分
配給:ギャガ
(C)2021 Piano b produzioni, gaga, potemkino, terras
https://gaga.ne.jp/ennio/
★2023年1月13日(金)全国順次ロードショー

posted by shiraishi at 18:37| Comment(0) | イタリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年12月25日

離ればなれになっても  原題:Gli anni più belli  英題:The Best Years

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(C)2020 Lotus Production s.r.l. - 3 Marys Entertainment


監督:ガブリエレ・ムッチーノ(『幸せのちから』)
音楽:二コラ・ピオヴァーニ(『ライフ・イズ・ビューティフル』)
出演:ピエルフランチェスコ・ファビーノ、ミカエラ・ラマツォッティ、キム・ロッシ・スチュアート、クラウディオ・サンタマリア

1982年ローマ。クラブで踊っていた16歳の青年ジュリオは、友人たちと外で起きている暴動を見に行く。リッカルドが警官にこん棒で殴られ負傷し、仲間たちが病院に運ぶ。一命を取りとめ、「イキノビ」のあだ名で呼ばれることになるリッカルド。
その夏、ジュリオと同級生のパウロは、リッカルドの両親に招かれて、海辺の別荘で過ごす。その年の大晦日、クラブでパウロは同級生のジェンマと恋に落ちる。お互い、父を知らない身の上。パウロに夢中になっている間に、ジェンマの母が亡くなる。ジェンマは、ナポリの伯母の家に引き取られ、パウロと会えなくなる。
1989年、パウロは教師、ジュリオは弁護士、リッカルドは映画評論家を志す芸術家と、社会への一歩を踏み出した3人の男たち。ある夜、別人のように変わってしまったジェンマと再会する・・・

冒頭、花火があがる中、中年の男性ジュリオが、16歳だった1982年を振り返るところから物語は始まります。ジュリオの隣には若い女性。家の中から中年の女性が「ジュリオ、スヴェーヴァ、中に」と声をかけます。この女性たちが誰だか明かされないうちに、一気に時は1982年に遡ります。
共産主義者のリッカルドの両親の海辺の別荘から、3人はオンボロ車を買って、バルセロナに行こうとします。1982年といえば、スペインで行われたFIFAワールドカップでイタリアが優勝した年でした。3人はサッカーを観に行こうとしたのですね。
1989年11月9日 ベルリンの壁崩壊、2001年9月11日アメリカ同時多発テロ事件と、時の流れを示す出来事と共に、年を重ねる4人。新年のカウントダウンと花火も、大事な要素として節目節目に登場します。出会いと別れ、仕事での成功や挫折、嬉しい再会・・・ 4人それぞれの人生に、どこかで自分を重ねることもありました。ジェンマは、宝石という意味。磨けば美しくなる宝石のように、人生が輝くものであればいいなと、しみじみ思いました。(咲)


2020年/イタリア/カラー/ビスタ/5.1chデジタル/135分
字幕翻訳:岡本太郎
後援:イタリア大使館、イタリア文化会館
提供:クラシコム
配給:ギャガ
公式サイト:https://gaga.ne.jp/thebestyears
★2022年12月30日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ他 全国順次公開




posted by sakiko at 00:15| Comment(0) | イタリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年09月09日

3つの鍵  原題:Tre piani

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(C)2021 Sacher Film Fandango Le Pacte

監督・脚本:ナンニ・モレッティ
原作:エシュコル・ネヴォ(「三階 あの日テルアビブのアパートで起きたこと」五月書房新社刊)
出演:マルゲリータ・ブイ、リッカルド・スカマルチョ、アルバ・ロルバケル、アドリアーノ・ジャンニーニ、エレナ・リエッティ、アレッサンドロ・スペルドゥーティ、アンナ・ボナイウート、パオロ・グラツィオージ、ステファノ・ディオニジ、トマーゾ・ラーニョ、ナンニ・モレッティ、デニーズ・タントゥッキ

ローマの閑静な高級住宅街。同じアパートで暮らす3家族の物語。
ある夜、アパート1階に車が衝突し女性が亡くなる。運転していたのは3階に住む裁判官のヴィットリオとドーラ夫婦の息子アンドレアだった。
同じ夜2階のモニカは陣痛が始まり、夫が長期出張中で、一人で病院に向かう。
1階のルーチョとサラの夫婦は、仕事場が事故で壊され、幼い娘を朝まで向かいの老夫婦に預ける。後日、ルーチョはジムに行くために、また、娘を向かいの老紳士レナードに預ける。レナードと娘が一時期行方不明になったと知り、ルーチョはレナードが娘に悪戯をしたのではと疑い始める。隣人夫婦の孫娘で大学生のシャルロットに探りを入れるが、そのことが思わぬ事態を引き起こす。
5年後、出所した3階の息子は家には戻らず、ドーラは夫に自分か息子かの選択を迫られる。2階の夫は変わらず出張続きで、義兄が起こした詐欺事件が世間を騒がせる。夫は頑なに兄を遠ざけるがモニカはその理由を知らない。ルーチョは疑念のせいで妻との間に溝ができ家を離れたが、いまだに疑惑を抱えたままだ。
10年後、住人たちは自らの選択の結果に苦しめながら現実と向き合っている・・・

同じ建物に暮らす3つの家族は、お互い顔は知っていても、干渉しないことをわきまえて暮らしていました。それが、3階の息子アンドレアが自動車事故を起こしたことをきっかけに、それぞれの暮らしが露わになっていきます。アンドレアの両親は裁判官で、もちろん、事故の後始末に奔走するのですが、アンドレアとしては裁判官なのだから、もっと自分に有利になるようにしてほしいと思っているのです。甘い!
事務所を壊されたことをきっかけに、娘を向かいの老いたレナードに預けたルーチョは、レナードが娘に悪戯をしたと疑います。そのことで接することになった孫娘の大学生シャルロットに逆に誘惑されてしまいます。ルーチョは妻と別居するまでになってしまうのですが、決してシャルロットを悪者にしません。彼女の一言が、ルーチョの人生を狂わせたともいえるのに・・・。群像劇である本作の登場人物の中で、リッカルド・スカマルチョが演じたルーチョのことが一番気になりました。
ナンニ・モレッティ監督は、事故を起こした息子と対峙する裁判官の父親役で出演しています。苦悩する様子が絶品です。
この映画の原作は、イスラエルの作家エシュコル・ネヴォの小説。テルアビブの同じ建物に暮らす3つの家族の物語がそれぞれ独立して書かれているのですが、映画では、それぞれの家族が絡み合う形で描かれています。舞台もテルアビブからローマに移されていますが、夫婦や親と子、隣人との関係、人生における選択など普遍的なことが描かれた物語。彼らのその後の人生はどうなるのだろう・・・と、さらに想像が膨らみました。(咲)


第74回カンヌ国際映画祭正式上映作品

2021年/イタリア・フランス/119分/ビスタサイズ
字幕:関口英子
配給:チャイルド・フィルム
後援:イタリア大使館 特別協力:イタリア文化会館
公式サイト:https://child-film.com/3keys/
★2022年9月16日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺他全国順次公開



posted by sakiko at 22:59| Comment(0) | イタリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年09月03日

靴ひものロンド  原題:Lacci  英題:The Ties

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(C)Photo Glanini Fiorito/Design Benjamin Seznec/TROIKA

監督・脚本・編集:ダニエーレ・ルケッティ(『ワン・モア・ライフ!』『ローマ法王になる日まで』
原作:ドメニコ・スタルノーネ「靴ひも」(関口英子訳、新潮クレスト・ブックス)
脚本:ドメニコ・スタルノーネ、フランチェスコ・ピッコロ
出演:アルバ・ロルヴァケル、ルイジ・ロ・カーショ、ラウラ・モランテ、シルヴィオ・オルランド

1980年初頭のナポリ。
アルドと妻ヴァンダは、娘アンナと息子サンドロと共に、集まりで皆が連なって踊るジェンカを楽しんで帰宅する。娘の髪を洗いながら、「嘘はよくない」と言い聞かせたアルド。妻に「別の女性と関係を持った。隠し事をしたくなかった」と打ち明ける。アルドはローマでラジオの朗読番組のホストを務めていて、相手は同僚の女性リディア。ナポリから通っていたが、妻に出ていってと言われ、ローマでリディアと暮らし始める。めくるめく楽しい日々だったが、あることがきっかけになって、アルドはまたヴァンダや子どもたちとナポリでやり直すことになる。
それから30年。40代になった子どもたちは独立し、アルドとヴァンダは二人で暮らしている。海辺で1週間過ごすため、飼い猫ラベスの世話を子どもたちに託して出かける。帰宅すると、家中が荒らされてモノが散乱し、猫のラベスが見当たらない・・・


冒頭に出てくるジェンカというフィンランド発祥の踊り。フィンランドで1960年代に作られた「レトカイェンッカ(Letkajenkka)」(列になって踊ろう)という歌が、日本では、「レット・キス」「レッツ・キス」として流行りました。前の人の肩に手を乗せて、皆が連なって踊るジェンカは、人と人との触れ合いや協力の大切さを感じさせてくれます。

そして、本作のタイトルになっている「靴ひも」。週末に久しぶりに会った子どもたちと行ったカフェで、娘アンナが弟の靴ひもの結び方がほかの人と違って、父親と同じだと指摘します。アルドが子どもたちに靴ひもを結んで見せるのですが、確かに普通じゃないです。サンドロは教えられた訳じゃないけれど、見よう見真似で父親と同じ結び方をしていたのですね。それは、靴ひもの結び方だけじゃなくて、生き方そのものにも言えて、子どもたちは親を見て育つのだと感じさせられました。浮気や別居と、いさかいの絶えない両親を見て育った二人がどんな大人になったのか・・・ 反面教師という場合もあるので、一概には言えませんが、何かしらの影響があるのは確かです。
老いたアルドが語る言葉にうん蓄がありました。
「人生で学んだのは、決して腹を立てないこと」
「夫婦を続けるには、あまり話さないこと。言葉を飲み込むのが肝心」
すぐに激情する妻と暮らす処世術ですが、これは私たちにも応用できそうです。

ダニエーレ・ルケッティ監督には、『ローマ法王になる日まで』が2017年に公開された折に、インタビューしましたが、「人生、何度でもやりなおすことができる!」という言葉が心に残っています。
『ワン・モア・ライフ!』も、まさに人生やり直しのチャンスを描いたものでした。
『靴ひものロンド』では、家中を荒らされたアルドとヴァンダは、その後、どんな人生を歩むのでしょう。アルドは、13歳の時に書いたものも大事に保存していて、家には本や紙が山積みです。それは私も同じで、何か(地震や火事??)を機に、思い切って捨て去って、新たな人生を歩めればいいなぁ~と思う次第です。(咲)


第77回ヴェネチア国際映画祭 オープニング作品

2020年/イタリア/イタリア語/100分/カラー/シネマスコープ
字幕:関口英子
配給:樂舎
後援:イタリア大使館、特別協力:イタリア文化会館
公式サイト:https://kutsuhimonorondo.jp/
★2022年9月9日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー



posted by sakiko at 21:09| Comment(0) | イタリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする