2020年08月08日

海の上のピアニスト(原題:The Legend of 1900)

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監督・脚本:ジュゼッペ・トルナトーレ
撮影:ラホス・コルタイ
音楽:エンニオ・モリコーネ
出演:ティム・ロス(ナインティーン・ハンドレッド)、プルイット・テイラー・ビンス(マックス)、メラニー・ティエリー(少女)

ニューヨークに到着した豪華客船の中で、生後間もない赤ん坊が見つかった。船の中で生まれたが連れていけず、ピアノの上に置き去りにしたらしい。男の子は世紀の変わり目となる1900年に因んでナインティーン・ハンドレッドと名付けられ、船で働くものたちに可愛がられて育った。戸籍も持たず、船の中が彼の世界の全てだった。いつしか船内のダンスホールでピアノ演奏を覚え、誰にもまねのできない即興曲を次々と作り出して人気を博していく。ピアニストとしてデビューを勧められても頑として断るナインティーン・ハンドレッドは、乗客の美しい少女に心を奪われる。下船した彼女の後を追って、人生で初めて船を下りようとするのだったが…。

ジュゼッペ・トルナトーレ監督といえば名作『ニュー・シネマ・パラダイス』(1989)。日本公開されたときの熱狂ぶりが今も伝えられています。その監督の初英語作品。バンドの一員だったマックスがとっておきの話として語ります。舞台となる豪華客船の下層にはアメリカへ移民しようとする人々、上層階には船旅を楽しむ富裕な人々、その生活はくっきりと分けられています。
毎晩ダンスパーティで喝采を送られる孤児の天才ピアニストに、当時30代半ばのティム・ロス。表情豊かで輝いています。ピアノ演奏も特訓の結果。窓の向こうに現れるメラニー・ティエリーは、ふんわりとした輪郭で、「少女」というほか名前もつけられていません。これが人生を変える決心をするほどの出逢いになるというのが、ロマンチックの極みです。
霧の中から現れる自由の女神像に「アメリカ!」と叫んで、未来への期待いっぱいで降りていった人々のその後は、いくつもの映画が続きを紡いでいます。華やかなダンスホール、人々がひしめき合っている船内、希望の地であったはずが経済恐慌で荒れた街、さび付いてしまった客船…。人々のドラマのほか美術と撮影にも目を奪われます。この何十年の物語を、シネマスコープの画面が生きる劇場でご覧ください。
印象的な音楽を数多く送り出したエンニオ・モリコーネは2020年7月6日、91歳で逝去しました。トルナトーレ監督の劇映画全作で音楽を手がけています。合掌。(白)


今回公開されるイタリア完全版は170分! 1999年に日本で劇場公開された短いインターナショナルバージョン(121分)を観ていないので、比較出来ないのが残念です。
楽器屋にトランペットを売りにきたマックス・トゥーニー(プルイット・テイラー・ビンス)。二束三文にしかならないトランペットさえ売らなければならないマックスが、最後に一曲と吹いた曲を聴いて、楽器屋の老店主が1枚のレコードをかけるところから、物語は始まります。トランペットを売っても、宝物のような思い出があるからいいというマックスの語った驚くべきピアニストの物語。

大西洋を巡る豪華客船ヴァージニアン号。船上で生まれたピアニストの名前の由来となった1900年には、優雅に旅する金持ちと、故国を離れ新天地を求める貧しい移民たちを乗せていました。世界恐慌の時代も耐え抜き、第二次世界大戦の時には病院船としての役目を果たし、いよいよ爆破されるまでが描かれます。ピアニストの人生と共に描かれる船の運命。
私の母方の祖父が、昭和10年(1935年)頃まで大阪商船の船長として外国航路を回っていて、ブラジルに移民する方たちを乗せていったこともあるので、船の中の様子に興味津々でした。
シャンデリアが輝き、ダンスも出来る広いホールのある上の方の階にはお金持ち。広々とした個室で、ゆったりと船旅を楽しんでいます。一方、下の方の3等客室には、3段ベッドがずらり。
食糧貯蔵庫に迷い込んだ時には、まだ原型が想像できる骨の付いた肉がいっぱいぶらさがっていました。航海中、大勢の人の胃袋を満たすには、どれほどの食材が必要でしょう。そして船底では、汗にまみれながらタービンに石炭をくべる人たち。社会のヒエラルキーの縮図のような船。いろんな人の人生を運んでいたことに思いを馳せました。
楽器屋の老店主も、決して裕福じゃないのに、小金にも困った音楽家たちが愛用した楽器を買い取っている様子が見て取れて、ほろりとさせられました。(咲)


1998年/イタリア/カラー/シネスコ/121分、170分
配給:シンカ
(C)1998 MEDUSA
http://synca.jp/uminoue/
★2020年8月21日(金)デジタル修復版 ロードショー
イタリア完全版(170分)は9月4日(金)からの公開になります。
posted by shiraishi at 20:30| Comment(0) | イタリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年07月19日

プラド美術館 驚異のコレクション  原題:Il Museo del Prado - La corte delle meraviglie

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監督・脚本:ヴァレリア・パリシ
ナビゲーター:ジェレミー・アイアンズ

スペインの首都マドリードにあるプラド美術館。
ここには、ベラスケス、ゴヤ、グレコの三大巨匠をはじめ、15世紀から19世紀にかけて歴代のスペイン王室が独自の審美眼で買い集めた美術品が収められている。
プラドが王立の絵画館として開かれたのは、1819年11月19日。昨年200周年を迎えた。創設したのは、対ナポレオン独立戦争後に復位したフェルナンド7世。絶対専制的な王政を行った中で、唯一の文化的な善政。19歳でポルトガルから嫁いだ王妃イザベル・デ・ブラガンサが懸命に独裁的な王を説得して実現させたという。だが、イザベルは開館を見ることなく1818年12月に21歳でこの世を去っている。
開館当初スペイン画派のみ3室311点だったが、今や、建物は増大し、展示作品約1700点。収蔵作品は3万5千点を超えるとされる。
名優ジェレミー・アイアンズがナビゲーターとなり、ミゲル・ファロミール館長はじめ学芸員たちが収蔵品について解説し、美術館の魅力の全貌を明かしていく。
監督のヴァレリア・パリシは、イタリア女性。本作が初長編ドキュメンタリー。

プラド美術館に収められているのは、レコンキスタ(イスラーム王朝からの国土回復)を果たしたイサベル女王が初めての1点を購入した時から、1868年に女王イサベル2世の治世が終わるまでに、王室が蒐集した作品が中心。
イサベルとフェルナンドのカトリック両王に始まる15世紀以降のスペイン近世・近現代史を、収蔵品を通じて学ぶことのできるドキュメンタリーになっています。
1936年に始まったスペイン内戦、その後のフランコ政権の時代には、美術館の収蔵品は国内外の安全な場所に疎開させています。価値ある所蔵品を守ろうとした人たちのことにも思いを馳せました。

イスラーム勢力がスペインに渡った711年から、スペイン最後のイスラーム王朝であるグラナダ王国の王が去った1492年に至る800年近いイスラーム時代の文化や美術品は、一切出てこないので、「国土回復」したカトリック王朝としては全く興味がなかったということなのかなと、ちょっと寂しい思いもしました。(咲)



2019年/イタリア・スペイン/92分/G
配給:東京テアトル、シンカ
公式サイト:http://www.prado-museum.com/
★2020年7月24日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー


posted by sakiko at 19:27| Comment(0) | イタリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年01月06日

盗まれたカラヴァッジョ(原題:Una storia senza nome)

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監督:ロベルト・アンドー
脚本:ロベルト・アンドーほか
撮影:マウリツィオ・カルページ
音楽:マルコ・ベッタ
出演:ミカエラ・ラマッツォッティ(ヴァレリア)、アレッサンドロ・ガスマン(アレッサンドロ)、レナート・カルペンティエリ(ラック)、ラウラ・モランテ(アマリア)、イエジー・スコリモフスキ(クンツェ)

ヴァレリアは映画プロデューサーの秘書をつとめながら、人気脚本家アレッサンドロのゴーストライターもしている。すっかりヴァレリアに頼り切りのアレッサンドロを憎みきれず、かといってネタ切れで筆は進まず悩み中。そんなときにリックという男性から「未解決のカラヴァッジョの名画盗難事件はマフィアの仕業」と知らされる。リックにヴァレリアは心当たりがなかったが、こちらの情報はなぜかよく知られていた。
リックから聞いたストーリーをアレッサンドロ作のプロットと偽って提出すると、その面白さに興奮したプロデューサーは引退していた伝説の巨匠監督まで引っ張り出し、映画化の話が進んでいく。
ところが、恋人と旅行を楽しんでいたアレッサンドロがマフィアに誘拐されてしまった。

ロベルト・アンドー監督の作品中、日本で上映されたのは『そして、デブノーの森へ』(04)、『ローマに消えた男』(13)『修道士は沈黙する』(16)。どれもサスペンス、ミステリー風味ですね。
1969年にパレルモのサン・ロレンツォ礼拝堂から盗まれた名画はその後も発見されていません。この未解決事件をもとに脚色された本作が解決への糸口になるとすごいのですが、50年進展がないとはね。教会のために描かれた絵を盗むなんて、神様はぜひ真犯人にお仕置きを。
ラック役のレナート・カルペンティエリとヴァレリア役のミカエラ・ラマッツォッティの2人は『ナポリの隣人』(17)で実子よりも深い絆を結ぶ隣人を演じて深い印象を残していました。母アマリア役は『息子の部屋』(01)のラウラ・モランテ。アレッサンドロ・ガスマンとは『神様の思し召し』(15)で共演しています。うーむ、名優ぞろいです。50年前の未解決事件を下敷きに、映画界の裏側や男女の愛憎、家族の事情まで盛り込んで破綻なくエンタメに仕上げる脚本・監督の勝利。(白)


2018年/イタリア・フランス合作/カラー/シネスコ/110分
配給:サンリス
(C)2018 Bibi Film - Agat Film & Cie
https://senlis.co.jp/caravaggio/
★2020年1月17日(金)YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開ロードショー
posted by shiraishi at 17:00| Comment(0) | イタリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年10月06日

トスカーナの幸せレシピ  原題:Quanto Basta

劇場公開情報
YEBISU GARDEN CINEMA 10/11(金) 〜
東京 新宿武蔵野館 10/12(土) 〜
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©2018 VERDEORO NOTORIOUS PICTURES TC FILMES GULLANE ENTRETENIMENTO

監督・脚本:フランチェスコ・ファラスキ 
脚本:フィリッポ・ボローニャ、ウーゴ・キーティ
製作:ファビアノ・グラーネ ダニエレ・マッツォッカ
製作総指揮:アンドレア・ボレッラ
撮影:ステファーノ・ファリベーネ
編集:パトリツィオ・マローネ
音楽:パオロ・ビバルディ
字幕:吉田裕子
出演:ヴィニーチョ・マルキオーニ、ルイジ・フェデーレ、ヴァレリア・ソラリーノ

元一流シェフとアスペルガー症候群青年の友情を描く

 卓越した腕を持ち、開業したレストランも成功させた元三ツ星レストランのシェフ・アルトゥーロと、「絶対味覚」を持ち、料理の才能を秘めたアスペルガー症候群の青年グイドが、料理を通し築いていく友情や絆が描かれる。イタリアを舞台にしたハートウォーミングドラマ。
アルトゥーロは共同経営者に店の権利を奪われたことで暴力事件を起こし刑務所へ。順風満帆だった人生から転落。〝グルメ界の神〟になりそこねた不器用で怒りっぽい性格の中年男。
地位も名誉も信頼も失い、社会奉仕活動を命じられ、自立支援施設「サン・ドナート園」でアスペルガー症候群の若者たちに料理を教えることになった。 荒っぽい性格の料理人は、無邪気な生徒たちと初日からギクシャク。しかし、施設で働くアンナの後押しもありなんとか続けていた。そんな生徒のなかに、食材やスパイスを完璧に言い当てられる〝神の舌を持つ天才〟グイドがいた。
祖父母に育てられているグイドは、料理人として自立できれば、家族も安心するだろうと考え「若手料理人コンテスト」へ出場することにした。グイドの祖父母のオンボロ自動車をアルトゥーロが運転し、コンテスト会場トスカーナまでの奇妙な二人旅。3日間に渡るコンテストでグイドは決勝まで進むことができた。しかし、アルトゥーロに料理人としての将来をかけた仕事が急に舞い込み、決勝戦ではグイドのもとを離れることになってしまった。果たしてグイドは優勝できるのか。想像力と創造性溢れるイタリア料理の魅力が描かれる
アルトゥーロを演じるのは、凄惨な自爆テロから生還した男の実話『イラクの煙』(10)で「ヴェネチア国際映画祭イタリア映画記者賞」やイタリアのアカデミー賞「ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞」ほか多くの主演男優賞に輝いたヴィニーチョ・マルキオーニ。口にした料理の材料と調味料をすべて言い当てることができる「絶対味覚」の持ち主グイドを熱演したのは若手注目株ルイジ・フェデーレ。純朴なキャラクターの喜怒哀楽を巧みに表現し、本作で「国立イタリア映画記者連盟賞」を受賞。この二人を見守る女性心理学者アンナは、イタリアでスマッシュヒットを記録しシリーズ化された『いつだってやめられる10人の怒れる教授たち』のヴァレリア・ソラリーノ。それぞれ、人間味あふれるナチュラルな演技が芳醇なスパイスとなって、観客の心を感動で満たしていく。

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©2018 VERDEORO NOTORIOUS PICTURES TC FILMES GULLANE ENTRETENIMENTO

公式HP
2018/イタリア語/イタリア/92分/5.1chデジタル/カラー
配給:ハーク  

最初はほとんど説明もなく、すぐ自立支援施設が舞台になってしまったので、この主人公シェフ、アルトゥーロの、それまでの仕事ぶりがよくわからなかったけど、怒りっぽい男というのはよくわかった。いやいやながら「サン・ドナート園」でアスペルガー症候群の若者たちに料理を教えていたけど、なりゆきでトスカーナで行われる料理にコンテスト行くはめになってしまい、思いっきりめんどくさそうな様子だったけど、徐々に考えが変わり、自分のステップアップの仕事をほおり投げて、生徒たちとレストランを開くという最後の展開は、けっこう感動ものだった(暁)。




posted by akemi at 09:29| Comment(0) | イタリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年08月18日

ドッグマン  原題:Dogman

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監督:マッテオ・ガローネ (『ゴモラ』)
出演:マルチェロ・フォンテ、エドアルド・ペッシェ、アダモ・ディオジーニ

海沿いのすさんだ町。犬好きのマルチェロは「ドッグマン」という犬のトリミングサロンを営んでいる。離婚し、娘は妻が引き取ったが、時折一緒に海に潜って親子水入らずの時を過ごすのが楽しみだ。温厚なマルチェロは町の仲間たちとサッカーや食事をして打ち解けている。一方で、小心者で人のいいマルチェロは、皆が嫌う暴力的なシモーネの頼みを断ることができず、盗みの見張りをさせられたり、麻薬を買いに行かされたりしている。
ある日、シモーネから「ドッグマン」の壁に穴をあけて隣の店に盗みに入ることを提案される。隣の店主とも親しくしているマルチェロは「町の人たちが大事。やめろ」と進言するが、とうとう拒みきれず実行する。翌日、警察に連行されたマルチェロは、シモーネの指示だと証言すれば執行猶予にしてやるといわれるが、なぜか拒否してしまう。単独犯として刑務所で1年の服役を追え、町に戻ったマルチェロは仲間から裏切り者として冷たくあしらわれる。シモーネに分け前をよこせと詰め寄るが、逆に痛めつけられてしまう。娘も寄り付かなくなり、希望を失ったマルチェロは驚くべき行動に出る・・・

どんな獰猛な犬も、マルチェロの手にかかればおとなしくなる。そんな力を持った心優しい彼は、無理な頼みを断りきれずに利用されてしまう。娘と一緒に、いつか紅海で潜りたいという夢を叶えてあげたくなった。
人のいい小心者を体現したマルチェロ・フォンテ。複雑な思いがにじみ出たような笑顔が忘れられない。(咲)


2018年度カンヌ国際映画祭主演男優賞他、多数受賞

2018年/イタリア・フランス/イタリア語/カラー/シネマスコープ/5.1ch/103分/PG12
配給:キノフィルムズ
公式サイト:http://dogman-movie.jp/
★2019年8月23日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開






posted by sakiko at 09:00| Comment(0) | イタリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする