2023年02月26日

丘の上の本屋さん  原題: II diritto alla felicità

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(C)2021 ASSOCIAZIONE CULTURALE IMAGO IMAGO FILM VIDEOPRODUZIONI

監督・脚本:クラウディオ・ロッシ・マッシミ
出演:レモ・ジローネ、コッラード・フォルトゥーナ、ディディー・ローレンツ・チュンブ、モーニ・オヴァディア

石畳の美しい丘の上にある小さな村。山々を見晴らす広場で小さな古書店を営むリベロ。隣のカフェで働くニコラは、毎朝、店開きを手伝いコーヒーを差し入れる。そんなニコラが思いを寄せたのは、女主人に頼まれてフォトコミックを探しに来た家政婦のキアラ。
移民労働者のボジャンが、いつものようにゴミ箱から拾った本を売りに来る。その中に、古い日記帳があった。そっと開いて読み始めると、1957年に若い家政婦の女性が書いた日記だった。
ある日、店先の本を眺めている少年にリベロは声をかける。ブルキナファソから来て6年になり、イタリア語の読み書きは出来るというエシエン。本を買うお金はないと立ち去ろうとするエシエンに、「読み終わったら返しにくればいい」と1冊選ぶように促すリベロ。「ミッキーマウス」のコミッ クを選んで嬉しそうに走り去るエシエン。翌日返しにきては、また借りて帰る日々。ついにある日、リベロは「マンガは卒業。次はこれを」と児童図書「ピノッキオの 冒険」を差し出す。翌日、早速返しに来たエシエンに感想を聞き、違う見方も出来ると語り合うリベロ。「イソッ プ物語」「星の王子さま」「白鯨」と読むべき本を手渡すリベロ。さらには、医者になりたいというエシアンにアフリカで人々を助けたシュヴァイツァー博士の伝記を薦める・・・

古書店のリベロ(自由)という名の初老の店主と、本が大好きな移民の少年エシアンとの本を通じての心温まる交流を軸に、店を訪れる様々な人間模様を描いた物語。
初版本にこだわる収集家、自分の著書を探しに来る教授、SM本を友達のために探しているという女性、発禁本を借りに来る神父・・・  リベロは、「発禁本の普及は本屋の務め」と語ります。神父も「何がよくて何が悪いかを国家が決めたがる。もちろん教会もだけど」と返します。発禁本のコーナーには、「デカメロン」「君主論」「種の期限」「ボヴァリー夫人」「怒りの葡萄」などが並んでいて、本屋にやってきた男との会話の中で「アルメニア人虐殺を公然と非難して国を追い出された詩人」と、トルコのナーズム・ヒクメットの詩集もあるのがわかりました。
「何を読んでもいいの?」と問うエシアンに、「食べ物と同じで、自分で読んでみないと好きか嫌いかわからない」とリベロは答えます。「読んではいけない」と言われた本には、逆に読むべきものがあるようにも思います。
小さい頃から、両親がたくさん本を買ってくれて、さらに図書館でも借りて読むほど本が大好きだったのに、いつの頃からか本が読み進めなくなりました。それでも、かつて読んだ本から学んだことはたくさんあるはず。今の子どもたちに、スマホやタブレットばかり見ないで、本もたくさん読んでほしいと願います。(咲)


私は漫画で早くから文字を覚えたと親から聞きました。本を読んでいるとおとなしく満足していたようです。それは今も変わりません。講談社の少女雑誌「なかよし」の表紙や愛読した漫画を思い出します。
映画では、アフリカ西部(ブルキナファソはこちら)からやってきたエシエンが最初に漫画を手にとり、リベロの好意でだんだんと文字の多い本を読めるようになります。なんといい人に巡り合ったのでしょう!「白鯨」を渡したのがずいぶん早くてびっくり。「マンガは卒業」とリベロが言いますが「日本の漫画は卒業できません」と内心で反駁(笑)。
リベロの古書店は、在庫数はそんなに多くありませんが、品揃えが変化に富んでいて、背表紙が全部読めたらといいなと思ってしまいました。丘の上からの景色は美しいし、お隣がカフェという立地もいい。行きたい街がもう一つ増えました。
原題の「II diritto alla felicità」とは「幸福への権利」という意味だそうです。それは最後にリベロがエシエンに贈った本につながります。(白)


イタリア・ユニセフ共同製作作品

2021年/イタリア/イタリア語/84分/カラー/2.35 : 1/5.1ch
配給:ミモザフィルムズ
公式サイト:http://mimosafilms.com/honya/
★2023年3月3日(金)より新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開



posted by sakiko at 19:33| Comment(0) | イタリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年02月12日

いつかの君にもわかること(原題:Nowhere Special)

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監督・脚本:ウベルト・パゾリーニ
撮影:マリウス・パンドゥル
出演:ジェームズ・ノートン(ジョン)、ダニエル・ラモント(マイケル)、アイリーン・オヒギンズ(ショーナ)

33歳のジョンはシングルファーザー。窓拭き清掃員として働き、4歳の息子マイケルを育てている。ジョンには大きな気がかりがあった。不治の病のため余命はあとわずか。一人残されるマイケルを安心して託せる”新しい家族”をさがさなければならない。養子縁組の相談をして、何組もの候補を面会をするが、これと思う人に出会えない。ソーシャルワーカーのショーナは、そんなジョンとマイケルのために献身的に寄り添う。

忘れられない傑作『おみおくりの作法』(2013)のウベルト・パゾリーニ監督の最新作。『おみおくりの作法』は日本でも阿部サダヲ主演で『アイ・アム まきもと』としてリメイク、昨年9月に公開されています。パゾリーニ監督は原作&エグゼクティブプロデューサーとして名を連ねています。
今度の作品は、幼い息子マイケルと父親ジョンのストーリー。ジョンは残り少なくなる時間に追われながら新しい家族を探すものの、どの家族も”帯に短したすきに長し”で次第に焦ってきます。つい周りにあたってしまう自分も許せません。
映画初出演のダニエル・ラモント演じるこのマイケルくんが実に可愛くて、こちらまで「良い人に会えますように」と彼の幸せを願ってしまいます。父役のジェームズ・ノートンは撮影前から彼と過ごして、ほんとの親子のような信頼関係を築いたのだとか。
何組もの親候補の中から、あなたなら誰に託しますか? 私はジョンの選択と同じでした。(白)


【解禁】いつかの君にもわかること_オフショット_1.jpg
オフでも仲良しの2人


2020年/イタリア・ルーマニア・イギリス合作/カラー/95分
配給:キノフィルムズ
(C)2020 picomedia srl digital cube srl nowhere special limited rai cinema spa red wave films uk limited avanpost srl.
https://kinofilms.jp/movies/nowhere-special/
★2023年2月17日(金)YEBISU GARDEN CINEMA他にて公開
posted by shiraishi at 14:58| Comment(0) | イタリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月13日

モリコーネ 映画が恋した音楽家(原題:Ennio)

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監督・脚本:ジュゼッペ・トルナトーレ
出演:エンニオ・モリコーネ、クエンティン・タランティーノ、クリント・イーストウッド、ウォン・カーウァイ、オリバー・ストーン、ハンス・ジマー、ジョン・ウィリアムズ、ダリオ・アルジェント、テレンス・マリック、ブルース・スプリングスティーン、ベルナルド・ベルトルッチ、ジェイムズ・ヘットフィールド、クインシー・ジョーンズ など

2020年7月、映画音楽の巨匠として知られるエンニオ・モリコーネが91歳で亡くなった。『ニュー・シネマ・パラダイス』以来親交のあるジュゼッペ・トルナトーレ監督が5年の間密着取材、子供のころから晩年までの音楽とともにあった人生を振り返った。ドキュメンタリーには、モリコーネが手掛けた50本以上の映画作品が紹介され、70人以上の映画関係の著名な人々のインタビューがある。

映画好きなら知らない人はいないだろうエンニオ・モリコーネ氏、彼が手掛けた作品の印象的な導入部、サビの部分を耳にすると名シーンが目に浮かびます。次々と紹介される作品を観て、これもあれもそうだった、とあらためて驚きました。たとえ名前を知らなくても、音楽を聴けば「ああ、知っている」「聞いたことがあった」と思い出すはず。モリコーネ氏への想いを語る映画人たちも錚々たる方々、縁があったことを心から喜び、彼の業績や人柄を偲んでいます。
そんな偉大なマエストロが、映画音楽よりもクラッシック音楽を作りたいのだと葛藤した時期もあったと打ち明けています。映画音楽が評価され始めても満足せず、常に新しい挑戦をし続けていたことも、後に続く若い人たちに知ってほしいところです。(白)


● 本編登場作品の⼀部
『荒野の⽤⼼棒』(64)『⾰命前夜』(64)『⼣陽のガンマン』(65)『続・⼣陽のガンマン 地獄の決⽃』(66)『ウエスタン』(68)『死刑台のメロディ』(71)『1900年』(76)『天国の⽇々』(78)『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』(84)『ミッション』(86)『アンタッチャブル』(87)『ニュー・シネマ・パラダイス』(89)『Uターン』(97)『海の上のピアニスト』(98)『ヘイトフル・エイト』(15) など

2021年/イタリア/カラー/シネスコ/157分
配給:ギャガ
(C)2021 Piano b produzioni, gaga, potemkino, terras
https://gaga.ne.jp/ennio/
★2023年1月13日(金)全国順次ロードショー

posted by shiraishi at 18:37| Comment(0) | イタリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年12月25日

離ればなれになっても  原題:Gli anni più belli  英題:The Best Years

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(C)2020 Lotus Production s.r.l. - 3 Marys Entertainment


監督:ガブリエレ・ムッチーノ(『幸せのちから』)
音楽:二コラ・ピオヴァーニ(『ライフ・イズ・ビューティフル』)
出演:ピエルフランチェスコ・ファビーノ、ミカエラ・ラマツォッティ、キム・ロッシ・スチュアート、クラウディオ・サンタマリア

1982年ローマ。クラブで踊っていた16歳の青年ジュリオは、友人たちと外で起きている暴動を見に行く。リッカルドが警官にこん棒で殴られ負傷し、仲間たちが病院に運ぶ。一命を取りとめ、「イキノビ」のあだ名で呼ばれることになるリッカルド。
その夏、ジュリオと同級生のパウロは、リッカルドの両親に招かれて、海辺の別荘で過ごす。その年の大晦日、クラブでパウロは同級生のジェンマと恋に落ちる。お互い、父を知らない身の上。パウロに夢中になっている間に、ジェンマの母が亡くなる。ジェンマは、ナポリの伯母の家に引き取られ、パウロと会えなくなる。
1989年、パウロは教師、ジュリオは弁護士、リッカルドは映画評論家を志す芸術家と、社会への一歩を踏み出した3人の男たち。ある夜、別人のように変わってしまったジェンマと再会する・・・

冒頭、花火があがる中、中年の男性ジュリオが、16歳だった1982年を振り返るところから物語は始まります。ジュリオの隣には若い女性。家の中から中年の女性が「ジュリオ、スヴェーヴァ、中に」と声をかけます。この女性たちが誰だか明かされないうちに、一気に時は1982年に遡ります。
共産主義者のリッカルドの両親の海辺の別荘から、3人はオンボロ車を買って、バルセロナに行こうとします。1982年といえば、スペインで行われたFIFAワールドカップでイタリアが優勝した年でした。3人はサッカーを観に行こうとしたのですね。
1989年11月9日 ベルリンの壁崩壊、2001年9月11日アメリカ同時多発テロ事件と、時の流れを示す出来事と共に、年を重ねる4人。新年のカウントダウンと花火も、大事な要素として節目節目に登場します。出会いと別れ、仕事での成功や挫折、嬉しい再会・・・ 4人それぞれの人生に、どこかで自分を重ねることもありました。ジェンマは、宝石という意味。磨けば美しくなる宝石のように、人生が輝くものであればいいなと、しみじみ思いました。(咲)


2020年/イタリア/カラー/ビスタ/5.1chデジタル/135分
字幕翻訳:岡本太郎
後援:イタリア大使館、イタリア文化会館
提供:クラシコム
配給:ギャガ
公式サイト:https://gaga.ne.jp/thebestyears
★2022年12月30日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ他 全国順次公開




posted by sakiko at 00:15| Comment(0) | イタリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年09月09日

3つの鍵  原題:Tre piani

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(C)2021 Sacher Film Fandango Le Pacte

監督・脚本:ナンニ・モレッティ
原作:エシュコル・ネヴォ(「三階 あの日テルアビブのアパートで起きたこと」五月書房新社刊)
出演:マルゲリータ・ブイ、リッカルド・スカマルチョ、アルバ・ロルバケル、アドリアーノ・ジャンニーニ、エレナ・リエッティ、アレッサンドロ・スペルドゥーティ、アンナ・ボナイウート、パオロ・グラツィオージ、ステファノ・ディオニジ、トマーゾ・ラーニョ、ナンニ・モレッティ、デニーズ・タントゥッキ

ローマの閑静な高級住宅街。同じアパートで暮らす3家族の物語。
ある夜、アパート1階に車が衝突し女性が亡くなる。運転していたのは3階に住む裁判官のヴィットリオとドーラ夫婦の息子アンドレアだった。
同じ夜2階のモニカは陣痛が始まり、夫が長期出張中で、一人で病院に向かう。
1階のルーチョとサラの夫婦は、仕事場が事故で壊され、幼い娘を朝まで向かいの老夫婦に預ける。後日、ルーチョはジムに行くために、また、娘を向かいの老紳士レナードに預ける。レナードと娘が一時期行方不明になったと知り、ルーチョはレナードが娘に悪戯をしたのではと疑い始める。隣人夫婦の孫娘で大学生のシャルロットに探りを入れるが、そのことが思わぬ事態を引き起こす。
5年後、出所した3階の息子は家には戻らず、ドーラは夫に自分か息子かの選択を迫られる。2階の夫は変わらず出張続きで、義兄が起こした詐欺事件が世間を騒がせる。夫は頑なに兄を遠ざけるがモニカはその理由を知らない。ルーチョは疑念のせいで妻との間に溝ができ家を離れたが、いまだに疑惑を抱えたままだ。
10年後、住人たちは自らの選択の結果に苦しめながら現実と向き合っている・・・

同じ建物に暮らす3つの家族は、お互い顔は知っていても、干渉しないことをわきまえて暮らしていました。それが、3階の息子アンドレアが自動車事故を起こしたことをきっかけに、それぞれの暮らしが露わになっていきます。アンドレアの両親は裁判官で、もちろん、事故の後始末に奔走するのですが、アンドレアとしては裁判官なのだから、もっと自分に有利になるようにしてほしいと思っているのです。甘い!
事務所を壊されたことをきっかけに、娘を向かいの老いたレナードに預けたルーチョは、レナードが娘に悪戯をしたと疑います。そのことで接することになった孫娘の大学生シャルロットに逆に誘惑されてしまいます。ルーチョは妻と別居するまでになってしまうのですが、決してシャルロットを悪者にしません。彼女の一言が、ルーチョの人生を狂わせたともいえるのに・・・。群像劇である本作の登場人物の中で、リッカルド・スカマルチョが演じたルーチョのことが一番気になりました。
ナンニ・モレッティ監督は、事故を起こした息子と対峙する裁判官の父親役で出演しています。苦悩する様子が絶品です。
この映画の原作は、イスラエルの作家エシュコル・ネヴォの小説。テルアビブの同じ建物に暮らす3つの家族の物語がそれぞれ独立して書かれているのですが、映画では、それぞれの家族が絡み合う形で描かれています。舞台もテルアビブからローマに移されていますが、夫婦や親と子、隣人との関係、人生における選択など普遍的なことが描かれた物語。彼らのその後の人生はどうなるのだろう・・・と、さらに想像が膨らみました。(咲)


第74回カンヌ国際映画祭正式上映作品

2021年/イタリア・フランス/119分/ビスタサイズ
字幕:関口英子
配給:チャイルド・フィルム
後援:イタリア大使館 特別協力:イタリア文化会館
公式サイト:https://child-film.com/3keys/
★2022年9月16日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺他全国順次公開



posted by sakiko at 22:59| Comment(0) | イタリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする