2025年05月10日

Queer/クィア(原題:Queer)

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監督:ルカ・グァダニーノ
脚本:ジャスティン・カリツケス
原作:ウィリアム・シュワード・バロウズ
撮影:サヨムプー・ムックディプローム
音楽:トレント・レズナー&アッティカス・ロス
出演:ダニエル・クレイグ(ウィリアム・リー)、ドリュー・スターキー(ユージーン・アラートン)、ジェイソン・シュワルツマン(ジョー・ギドリー)、レスリー・マンヴィル(コッター博士)

1950年代のメキシコシティ。アメリカ人駐在員のウィリアム・リーは暑苦しく退屈な日々を薬や酒でしのいでいた。バーで美しい青年に一目で恋していた。彼、ユージーン・アラートンは大学生のようだが、自分のことは多くを語らずミステリアスなまま。ウィリアムはみっともないと思いつつ、ユージンを心から欲していた。気まぐれのように応えるユージーンを南米への旅へと誘う。

君の名前で僕を呼んで』(2017)のルカ・グァダニーノ監督最新作。『君の~』は、17歳の男の子エリオと大学院生オリヴァーの恋を描いて、みずみずしく切ないストーリーでしたが、今度は中年男性が大学生に恋するストーリー。6代目ジェームズ・ボンドとして5作品にわたって(『007 カジノ・ロワイヤル』(06)から)『007』シリーズに出演したダニエル・クレイグが、まったく別の顔を見せています。哀愁漂うくたびれた中年とはびっくり。ボンドが(違う)恋焦がれる美青年をドリュー・スターキー。300人のオーディションから選ばれています。Netflixの人気ドラマ「アウターバンクス」シリーズで人気を博したそうですが、未見。
暑く乾いて、砂塵舞うメキシコからじっとりと蒸し暑い南米のジャングルへと、背景が変わります。2人の関係がどう移っていくのかは劇場で。奇才バロウズをもっと知りたい方は、ドキュメンタリー『バロウズ』も5月9日公開です。(白)

「クィア(Queer)」とは (HPより)
規範的とされる性のあり方以外を包括的に表す言葉。自身の性のあり方について特定の枠に属さない、分からない、決めていない等の「クエスチョニング(Questioning)」と同様、LGBTQの「Q」にあたる。元々は「奇妙な」といった意味の侮蔑的な言葉で、原作「Queer」が発売された1980年代当時も、同性愛者等を侮蔑的に表現する言葉として用いられていた。しかし、現在では性的マイノリティの当事者がこの言葉を取り戻し、「ふつう」や「あたりまえ」など規範的とされる性のあり方に当てはまらないジェンダーやセクシュアリティを包括的に表す言葉として使われている。
参考:LGBT法連合会『LGBTQ 報道ガイドライン - 多様な性のあり方の視点から 第2版』

2024年/イタリア・アメリカ合作/カラー/137分/R15+
配給:ギャガ
(C)2024 The Apartment S.r.l., FremantleMedia North America, Inc., Frenesy Film Company S.r.l.
https://gaga.ne.jp/queer/
★2025年5月9日(金)全国ロードショー
posted by shiraishi at 09:56| Comment(0) | イタリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年03月09日

ドマーニ! 愛のことづて   原題:C'è ancora domani

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©2023 WILDSIDE S.r.l - VISION DISTRIBUTION S.p.A

監督:パオラ・コルテッレージ
出演:パオラ・コルテッレージ、ヴァレリオ・マスタンドレア、ジョルジョ・コランジェリ、ヴィニーチオ・マルキオーニ

戦後で荒廃したローマで逞しく生きる市民たちと権利を渇望する女性たち

1946年5月、戦後まもないローマ。デリア(パオラ・コルテッレージ)は家族と一緒に半地下の家で暮らしている。夫イヴァーノはことあるごとにデリアに手を上げ、意地悪な義父オットリーノは寝たきりで介護しなければならない。夫の暴力に悩みながらも家事をこなし、いくつもの仕事を掛け持ちして家計を助けている。多忙で過酷な生活ではあるが、市場で青果店を営む友人のマリーザや、デリアに好意を寄せる自動車工のニーノと過ごす時間が唯一の心休まるとき。母の生き方に不満を感じている長女マルチェッラは裕福な家の息子ジュリオからプロポーズされ、彼の家族を貧しい我が家に招いて昼食会を開くことになる。そんなデリアのもとに1通の謎めいた手紙が届き、彼女は「まだ明日がある」と新たな旅立ちを決意する・・・

『ジョルダーニ家の人々』 (10)や『これが私の人生設計』 (14)などシリアスドラマから大衆的なコメディまで幅広いジャンルの映画に出演し、イタリアの国民的コメディエンヌ兼女優として活躍するパオラ・コルテッレージが、本作でついに映画監督デビュー。 愛する娘の将来と夫の暴力に悩む主婦・デリアをパオラ・コルテッレージ自身が演じています。

夫イヴァーノが朝起きるなり妻デリアを殴る姿に、まずびっくり。美しい長女のマルチェッラは、中学に行きたかったのに、「専門学校で手に職つけさせた」と父親。裕福な家の息子ジュリオからプロポーズされ、幸せいっぱいだったのですが、結婚したら働くのを許さないという本音を聞いて、ちょっとがっかりします。戦後間もない1946年といえば、日本も同じような家父長的な社会でしたね。
そして、敗戦したイタリアには、米軍が進駐しているのも日本と同じ。黒人兵の家族の写真をデリアが拾ってあげたお礼にチョコレートを2枚貰います。(私の母も、戦後、神戸の居留地近くで働いていて、お使いに行った先のアメリカ人からチョコレートを2枚貰ったと言っていたのを思い出しました)
デリアは、帰り道に自動車工のニーノのところに寄って、二人でチョコレートを食べます。「一瞬の隙にヤツに君を奪われた」とニノは語っていて、今もデリアに気がありそう。そんなニノも、もうすぐ町を離れると言います。そんな時に届いた1通の手紙・・・  いつもツギハギのブラウスを着ているデリアが、新しいブラウスを縫って、手紙と一緒にバッグにしまいます。そして、日曜日・・・  
このあと、驚きのラスト!
もう、ほんとに驚きました。 ぜひ劇場で確かめてください。
男性優位の社会の中で、女性たちが自分の権利を求めようとする姿をユーモアも交えて見事に描いた1作です。(咲)


2023年/イタリア/118分
日本語字幕:岡本太郎
特別協力:イタリア文化会館
配給:スモモ
公式サイト:https://www.sumomo-inc.com/domani/
★2025年3月14日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国順次公開



posted by sakiko at 00:36| Comment(0) | イタリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年11月07日

イル・ポスティーノ 4Kデジタル・リマスター版  原題:Il postino

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(C)R.T.I. S.p.A.–Rome, Italy, Licensed by Variety Distribution S.r.l–Rome, Italy, All Rights reserved.

監督:マイケル・ラドフォード
音楽:ルイス・エンリケス・バカロフ
原作:アントニオ・スカルメタ
出演:マッシモ・トロイージ、フィリップ・ノワレ、マリア・グラツィア・クチノッタ

イタリア、ナポリの沖合いに浮かぶ小さな緑溢れる島。貧しい漁師の父親と二人暮らしのマリオ(マッシモ・トロイージ)。漁師が好きじゃないマリオに、父は何か仕事を見つけろという。そんなある日、「郵便配達人募集。要自転車」の貼紙を見つけて応募し採用される。チリから亡命してきて島のはずれに滞在することになった高名な詩人パブロ・ネルーダ(フィリップ・ノワレ)に手紙を届ける専任の配達人の仕事だ。サインが欲しくて、彼の詩集を購入し、読んでみる。毎日、郵便物を届けて話すうちに、次第に詩人と心を通わせるようになる。自分も詩人になれたらと話すと、海に向かって歩いていくといいといわれる。そんなある日、マリオは港のバーで働くベアトリーチェ(マリア・グラツィア・クチノッタ)に一目惚れする。恋をしたと話すと、詩人は「ベアトリーチェに会いに行こう!」と、彼の恋を応援してくれる。パブロを立会人に二人の結婚式が行われている最中、チリ当局の逮捕命令が取り消されたとの手紙が届き、パブロは国に帰ることになる・・・

パブロ・ネルーダ
チリを代表する国民的な詩人であり、外交官、政治家。2024年はネルーダ生誕120周年にあたる。
ネルーダは、16歳でパブロ・ネルーダというペンネームで詩を書き始め、24年官能的な愛の詩集「二十の愛の詩とひとつの絶望の歌」を出版。
20代から外交官としてアジア各地を遍歴し、34年スペインに赴任、スペイン内戦を目の当たりにし共産主義に接近。45年にチリ共産党に入党するが、48年に議員資格をはく奪され、国外逃亡を余儀なくされる。このころのイタリア亡命時代を題材に『イル・ポスティーノ』が作られている。50年には詩集「大いなる歌」を刊行。
52年、逮捕令が解けてチリに帰国。70年には共産党から大統領候補に推されるが辞退し、チリは世界で初めて民主的な選挙によって社会主義政権が誕生。駐仏大使中の71年にノーベル文学賞を受賞するが、病気のため大使を辞任し72年にチリに帰国。
しかし翌73年9月11日、ピノチェト将軍率いる国軍クーデターが起こり、兵士らに家を破壊される。その12日後、危篤状態に陥り死亡。
死因は長い間病死とされてきたが、軍部による毒殺だったという疑惑があり、2013 年チリ司法当局は死因確認のため、遺体を掘り起こし調査したが、遺体から毒物は検出されなかったと発表した。(公式サイトより抜粋)

製作から30年、ロングラン大ヒットした名作が、ネルーダ生誕120周年記念で、4Kデジタル・リマスター版が公開されることになりました。
日本初公開は、1996年5月18日。当時観て、味わい深い作品に感動したものですが、その時には、詩人の故国チリの政情については疎くて、詩人が遠く離れたイタリアの島で暮らさなければならなかった事情のことなど何も考えなかったような気がします。
『チリの闘い』『光のノスタルジア』『真珠のボタン』などで、チリの辿った悲しい歴史を知った今、『イル・ポスティーノ』は違った意味で胸に迫りました。詩人の影響を受けたマリオは、イタリア共産党の集会に赴きます。それがまた「運命」を生むのです。
マリオを演じたマッシモ・トロイージが心臓病のためクランクアップ12時間後に41歳という若さでこの世を去ったことも、この度の公開を機に知りました。映画の余韻がいつまでも心に沁みます。(咲)


第68回アカデミー賞® 作曲賞(ドラマ)受賞!

1994年/イタリア・フランス/109分
配給:セテラ・インターナショナル
公式サイト:https://www.ilpostino4k.jp/
★2024年11月8日(金)より角川シネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMA3週間限定公開




posted by sakiko at 21:19| Comment(0) | イタリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年08月04日

夜の外側 イタリアを震撼させた55日間   原題:Esterno note 英題:Exterior, Night

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(C)2022 The Apartment - Kavac Film - Arte France. All Rights Reserved.

監督・原案・脚本:マルコ・ベロッキオ
原案:ジョヴァンニ・ビアンコーニ、ニコラ・ルズアルディ
原案・脚本:ステファノ・ビセス
脚本:ルドヴィカ・ランポルディ、ダヴィデ・セリーノ
出演:ファブリツィオ・ジフーニ、マルゲリータ・ブイ、トニ・セルヴィッロ、ファウスト・ルッソ・アレジ、ダニエーラ・マッラ

赤い旅団によるアルド・モーロ元首相誘拐事件を6つの視点で描いた55日間

相次ぐテロリズムにより、イタリアが社会的、政治的混乱にあった「鉛の時代」。
1978年3月のある朝、戦後30年間にわたってイタリアの政権を握ってきたキリスト教民主党の党首で、元首相のアルド・モーロが、極左武装グループ「赤い旅団」に襲撃、誘拐される。
世界が注目し、イタリア中が恐怖に包まれたその日から、55日間の事件の真相を、アルド・モーロ自身、救出の陣頭指揮を執った内務大臣フランチェスコ・コッシーガ、モーロと旧知の仲である教皇パウロ6世、赤い旅団のメンバーであるアドリアーナ・ファランダ、そして妻であるエレオノーラ・モーロの視点から描く。

『夜よ、こんにちは』(03)で同事件を「赤い旅団」側から描いたマルコ・ベロッキオ監督が、「すでに語られた物語には戻らない」という自身のルールを破り、外側〈政府、法王、神父、警察、教授、妻、子供たち…、様々な立場で事件に関与した人々〉の視点を交えて、6エピソードで描いた一大巨編。

赤い旅団の視点で描いた『夜よ、こんにちは』では、ほとんどの場面が監禁された室内でした。 外側から描いた本作では、様々な場所で、様々な人たちが、アルド・モーロ元首相救出に動いたことが描かれます。前編(Ⅰ~Ⅲ)と後編(Ⅳ~Ⅵ)、各170分、休憩を挟みましたが、息を殺して一気に見入りました。
事件が結末を迎えるまでの55日間、イタリア全土がニュースを見守ったのを同じような思いで映画に入り込みました。当時の家族のお気持ちを思うとやるせないです。(咲)


2022年/イタリア/イタリア語・英語/340分(前編:170分/後編:170分/カラー/1.85:1/5.1ch  
字幕翻訳:岡本太郎
配給:ザジフィルムズ
公式サイト:https://www.zaziefilms.com/yorusoto/
★2024年8月9日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国順次ロードショー


posted by sakiko at 18:50| Comment(0) | イタリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年07月21日

幸せのイタリアーノ  原題:Corro da te

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(C)2020 WILDSIDE-VISION DISTRIBUTION

監督:リッカルド・ミラー二 
出演:ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ、ミリアム・レオーネ、ピエトロ・セルモンティ、ヴァネッサ・スカレーラ、ピラール・フォリアティ、アンドレア・ペンナッキ、カルロ・デ・ルッジエーリ、ジュリオ・バーゼ、ピエラ・デッリ・エスポスティ(友情出演)、ミケーレ・プラチド(特別出演)

よこしまな“恋”は“嘘”のはじまり…

成功したスポーツシューズメーカーの経営者ジャンニは、独身で女たらしの49歳。ある日、亡き母のアパートで母の車椅子に座っていると、若く美しいアレッシアが引越しの挨拶にやってくる。彼を車椅子が必要な人だと勘違いした彼女から、実家での食事に招かれる。いそいそと出かけていくと、事故で車椅子が必要になった姉キアラを紹介される。アレッシアにはめられたと思いつつ、美しいヴァイオリニストのキアラと一夜を共にできるか仲間と賭けをする。健常者であることを隠して、車椅子でデートするジャンニ。やがて、障がいを受け入れ前向きに生きる彼女に本当に恋をしてしまう…。

「魅力的な女性をみたら、とにかく声をかける」がイタリア男性のイメージ。本作の主人公ジャンニは、まさにそんな男。ひょんなことから車椅子が必要な人と勘違いされてしまったジャンニが、今さら違うとも言えず、車椅子生活を装う姿が笑いを誘います。障がい者に対して、憐みの気持ちを持っていた彼が、障がいを持つ人も心は健常者と同じと気づく姿に、私も学ばされました。
フランス映画『パリ 嘘つきな恋』(18)のリメイクの本作。イタリアの風情もたっぷり描かれています。ジャンニのランニングコースに、ローマ南部のデヴェレ川沿いやサンタンジェロ城。キアラがヴァイオリンのソリストとしてオーケストラと共演するのは、トリノの古いオペラハウスの一つレッジョ劇場。
奇跡を求めてフランスのルルドに行く場面は、コロナ禍で本場での撮影は叶わず、トリノに作ったセットで撮ったとのこと。
原題のCorro da teは、「あなたのもとに駆けつける」という愛する人が自分を必要としていたら誰もが口にする言葉なのだとか。(咲)


★イタリア映画祭2023上映作品
★ナストロ・ダルジェント賞(イタリア映画記者組合賞)コメディ女優賞受賞

2022年/イタリア/イタリア語/113分/カラー/1:2.35/5.1ch
字幕:関口英子
配給:オンリー・ハーツ
後援:イタリア大使館/イタリア文化会館
公式サイト:http://cdt.onlyhearts.co.jp/
★2024年7月26日(金)よりシネスイッチ銀座他にて全国順次公開




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