2023年08月26日
私たちの声 原題:Tell It Like a Woman
非営利映画製作会社【We Do It Together(WDIT)】の企画により、世界の映画業界で活躍する女性監督と女優が集結し製作された、7つのショートストーリー。
We Do It Together(WDIT)とは?
「女性に関する、女性による、みんなのために作られた(about women, by women, created for everyone)」メディア・コンテンツや映画の製作を通して、社会の中でジェンダーの平等を作るという目的を持つ、非営利の映画製作会社。2015年に、監督・プロデューサーであるキアラ・ティレシによって設立され、2016年に国連でスタートを切る。WDITが掲げる目標は、業界内で男女共に働き、メディアや映画で描かれる女性の在り方を変えていくこと。かつて男社会だった業界で難しい立場にある女性たちをサポートするためのプロジェクトを企画、発信している。
1.『ペプシとキム』 原題:Pepcy & Kim
監督:タラジ・P・ヘンソン
出演:ジェニファー・ハドソン
薬物使用で逮捕されたキムは、幼い娘に会いたい一心で、薬物中毒を克服するためのリハビリを受ける。リハビリに取り組むうちに、キムの壮絶な過去とその過程で生まれた”ペプシ”という、もう一人の人格が露わになっていく。
Time for Change Foundationを立ち上げたKim Carterさんの実話をもとにした物語。最後に、現在のキムさんが登場。
2、『無限の思いやり』 原題:Elbows Deep
監督:キャサリン・ハードウィック(『サーティーン あの頃欲しかった愛のこと』)
出演:マーシャ・ゲイ・ハーデン、カーラ・デルヴィーニュ
コロナ禍でロックダウンされたロサンゼルスで、休業に追い込まれたホテルの客室を路上生活者のシェルターにして感染拡大を防ぐ<プロジェクト・ルームキー>が発足。プロジェクトの担当医スーザンは、皆から疎まれている若い女性ホームレス、ヴァルの世話を頼まれる。食べ散らかしたごみを片付け、何枚も重ね着している衣服を脱がしていく。
最後に医師スーザン本人の姿が映し出される。
3.『帰郷』 原題:Lagonegro
監督:ルシア・プエンソ
出演:エヴァ・ロンゴリア
ロンドンで建築家として活躍するアナは、妹が亡くなりイタリアの美しい島に帰郷する。問題を抱えていた家族と疎遠だったアナは、帰郷して初めて妹に幼い娘レナがいることを知る。唯一の血縁であるアナがレナを引き取るべきだと言われる。自分は島を出て、子どもも作らなかったのにと理不尽な思いが募る・・・
4.『私の一週間』 英題:A Week In My Life
監督:呉 美保(『きみはいい子』)
出演:杏
シングルマザーのユキは、アヤとトワの2人を育てるために、毎日休みなく働く。
朝食を作り、洗濯をし、掃除機をかけ、アヤを小学校へ送り出した後にトワを保育園へ送り届け、経営するお弁当屋に。夕方、子どもたちを迎え、習い事に連れて行く。夕食が終わると、子どもたちをお風呂に入れ寝かしつけ、新しいお弁当のメニューを考え、日が変わった頃に眠りにつく・・・
5.『声なきサイン』 原題:Unspoken
監督:マリア・ソーレ・トニャッツィ『はじまりは5つ星ホテルから』
出演:マルゲリータ・ブイ
獣医として忙しい毎日を送るダイアナ。ある夜勤の日、娘と映画を見る約束を忘れて落ち込んでいたダイアナのもとに、若い夫婦が足を怪我した犬を連れてくる。応急処置を施すが、ダイアナは怯えるような目で何かを訴えようとしている妻の姿に気づく。夫から暴力を受けていることがわかり、ダイアナは妻を保護する。
6.『シェアライド』 原題:Sharing A Ride
監督:リーナ・ヤーダヴ
出演:ジャクリーン・フェルナンデス
インドのムンバイで形成外科医として成功を収めている女性ディヴィヤ。ある雨の夜、男を振り切って乗ったオートリキシャは珍しく女性の運転手。この先で予約の客を乗せると言われ、相乗りを了承する。派手な服を着たトランスジェンダーの女性を連れた男が乗ってくる。しばらくして、トランスジェンダーの女性に差別的な視線を向けタクシーを下りてしまう。翌日の昼間、その⼥性が通りの真ん中で婦人警官として交通整理をしている姿を見る・・・
7.『アリア』 原題:.ARIA
監督:ルチア・ブルゲローニ、シルヴィア・カロッビオ
黒くて小さな生物・アリアは狭く暗い部屋の中で毎日女性としての振る舞いを学んでいる。当たり前のように女性として行動するアリアだが、ある日、突然部屋の壁に穴が空き、そこから差し込む暖かな光によって、アリアは自我に目覚めていく・・・
薬物依存、ホームレス、子どもを作らなかった女性、シングルマザー、DVに苦しむ女性、トランスジェンダー、自我に目覚める女性と、テーマは世界の女性たちが抱えている普遍的な問題ばかり。
一番印象に残ったのは、インドのムンバイを舞台にした『シェアライド』。 女医のディヴィヤは男をモノともせず堂々とし、オートリキシャの女性運転手も「SNSでいいね!が何万もついてるのよ」とカッコいい。男性として生を受けたトランスジェンダーも、夜は男の相手をし、昼間は警官。なんという生き様でしょう! (咲)
主題歌「Applause」は、第95回アカデミー賞歌曲賞にノミネート。
アメリカ音楽界のヒットメーカーで、2001年にソングライターの殿堂入りを果たしたダイアン・ウォーレンが作詞・作曲を務め、歌手/女優としてマルチに活躍するソフィア・カーソンが歌唱を担当している。
2022 年/イタリア、インド、アメリカ、日本/英語、イタリア語、日本語、ヒンディー語/112 分/カラー
配給:ショーゲート
公式サイト:http://watashitachinokoe.jp/
★2023年9月1日(金)、新宿ピカデリーほか 全国ロードショー
2023年06月18日
遺灰は語る 原題:Leonora addio
監督・脚本:パオロ・タヴィアーニ
出演:ファブリツィオ・フェッラカーネ、マッテオ・ピッティルーティ、ロベルト・エルリツカ(声)
1936年、ノーベル文学賞受賞作家のピランデッロが亡くなり、「遺灰は故郷シチリアに」と遺言を残すが、時の独裁者ムッソリーニは、その遺灰を自分の名誉に利用しようとローマに留め置いた。戦後、ようやく遺灰は故郷シチリアに帰ることになり、シチリアのアグリジェント市から特使がやって来る。遺灰をギリシア式の壺に移し、木箱に入れしっかり保護する。米軍の飛行機に乗せようとするが、遺灰との同乗は不吉だと拒否され、列車で運ぶことにする・・・
ギリシアの壺に入れられた遺灰が巡る運命はモノクロで描かれ、エピローグの短編「釘」の部分はカラー。味わい深く、ほのかなユーモアもある1作。
これまで兄ヴィットリオとともに〈タヴィアーニ兄弟〉として、『父/パードレ・パドローネ』(1977年)『カオス・シチリア物語』(1984年)など数々の名作を製作。2018年4月、兄ヴィットリオが88歳で死去。本作が、現在91歳の弟パオロが一人で発表した初めての作品。実は、『カオス・シチリア物語』を撮った折、最後に「ピランデッロの灰」のエピソードを入れたかったけれど予算が足りず諦めたとのこと。冒頭に「ヴィットリオに捧ぐ」と掲げられています。
モノクロームで遺灰の旅がしっとりと描かれたあとに、鮮やかなカラーで描かれる短編「釘」は、事情を知らなかったので、ちょっと唐突な感じがしました。ピランデッロが死の20日前に書いた小説をもとに脚色したもの。シチリアからニューヨークのブルックリンに移民した少年が、ある日拾った釘で少女を殺してしまいます。警察の取り調べに「それが定めだから」としか言わない少年。一生、少女のことを忘れないという少年。映画は、少女のお墓の前に佇む白髪の男の姿で終わります。ピランデッロは、どんな思いでこの物語を綴ったのでしょうか・・・ そして、パオロ・タヴィアーニ監督の作家への思いは? (咲)
パオロ・タヴィアーニ Paolo Taviani
2023年5月2日、イタリア映画祭のオープニング作品として『遺灰は語る』が上映され、上映後にオンラインでパオロ・タヴィアーニ監督のトークが予定されていて、楽しみに会場に駆け付けたのですが、風邪を引かれ体調がすぐれないとのことで直前に中止になりました。
公式サイトの監督インタビューを、ぜひお読みください。
https://moviola.jp/ihai/#director_wrapper
◆公開初日にパオロ・タヴィアーニ監督オンラインQ&Aが行われます。
日時:6月23日(金)18:30の回上映後
会場:新宿武蔵野館
座席のオンライン予約
https://www1.musashino-ticket.jp/shinjuku/schedule/index.php
2022年/イタリア/90分/モノクロ&カラー/PG12
字幕:磯尚太郎、字幕監修:関口英子
配給:ムヴィオラ
後援:イタリア大使館 特別協力:イタリア文化会館
公式サイト:https://moviola.jp/ihai/
★2023年6月23日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
2023年05月05日
フリークスアウト(原題:Freaks Out)
監督:ガブリエーレ・マイネッティ
脚本:二コラ・グアッリャノーネ、ガブリエーレ・マイネッティ
撮影:ミケーレ・ダッタナージオ
音楽:ミケーレ・ブラガ、ガブリエーレ・マイネッティ
出演:クラウディオ・サンタマリア
第二次世界大戦下のイタリア。ユダヤ人の団長イスラエルが率いるたった5人の小さなサーカス団「メッツァ・ピオッタ(100リラ硬貨の半分、の意)」の仲間たち、光と電気を操る少女マティルデ、アルビノの虫使いチェンチオ、多毛症の怪力男フルヴィオ、磁石人間の道化師マリオらは、その特殊な能力のせいで普通に暮らすことができず、まるで家族のように肩を寄せ合って暮らしてきた。
イタリアにもナチス・ドイツの影響が強まり、イスラエル団長はみんなをアメリカへ脱出させようとしたが突然姿を消してしまう。マティルデは団長を探し出そうと奔走し、フルヴィオら3人は仕事を求めてベルリン・サーカス団の門を叩く。ナチス・ドイツの思惑が絡んでいるとも知らず・・・
『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』(2015)で長編デビューしたガブリエーレ・マイネッティ監督。今回は『ファンタスティック・フォー』(2015)を思い出させる超能力・異能者が活躍する物語です。予算があったら、先にこちらを作りたかったのではと想像してしまいました。
特殊な能力を持って生まれたがゆえに排除され、蔑まれてきた者たちの家庭であったサーカス団は、戦火に追われて解散。バラバラになった彼らは受け入れてくれるところを探しますが、兵器として使おうと画策するナチスに狙われます。
先にあげた『ファンタスティック・フォー』でもなんでも戦争に役立てようとするのね、とため息が出ました。が、そうは簡単に問屋は卸しません(この言い回し古いかしら)。4人が自分の能力をフルに使って難局を脱する様に注目。ベルリン・サーカス団のフランツ団長が優秀な兄に劣等感を持つあまり、狂気に走ってしまったのも一面痛ましいです。だからって許したりしませんが。(白)
2021年/イタリア・ベルギー/カラー/シネスコ/141分
配給:クロックワークス
(C)2020 Goon Films S.r.l. - Lucky Red S.r.l. - Gapbusters S.A.
https://klockworx-v.com/freaksout/
★2023年5月12日(金)ロードショー
2023年04月30日
帰れない山 原題:Le Otto Montagne

© 2022 WILDSIDE S.R.L. – RUFUS BV – MENUETTO BV –PYRAMIDE PRODUCTIONS SAS – VISION DISTRIBUTION S.P.A.
監督・脚本:フェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン(『ビューティフル・ボーイ』)&シャルロッテ・ファンデルメールシュ
原作:「帰れない山」著:パオロ・コニェッティ 翻訳:関口英子(新潮クレスト・ブックス)
撮影:ルーベン・インペンス(『TITANE/チタン』)
出演:ルカ・マリネッリ(『マーティン・エデン』)、アレッサンドロ・ボルギ(『ザ・プレイス 運命の交差点』)、フィリッポ・ティーミ(『愛の勝利を ムッソリーニを愛した女』)、エレナ・リエッティ(『3つの鍵』)
1984年、北イタリア、モンテ・ローザ山麓のグラーノ村。もうすぐ12歳になる少年ピエトロは、ひと夏を両親がこの村で借りた家で過ごした。トリノの工場でエンジニアをしている父ジョヴァンニが来た折に、3010mの山に初めて一緒に登る。村に住むたったひとりの子どもであるブルーノと出会う。同い年とわかり、すっかり仲良くなり一緒に野山を駆け巡る。翌年、ブルーノも誘って父と氷河に行く。夏を村で過ごすことが数年続き、父がブルーノを支援してトリノで学校に行かせようと提案したところ、出稼ぎに行っていたブルーノの父が彼も出稼ぎに連れていってしまう。思春期を迎え、何かと父に反抗するピエトロ。夏に父から山登りに誘われても行かなくなる。せめて大学は卒業しろという父の言葉も聞かず、親とは疎遠になる。小説家になることを夢見ながらレストランで働く31歳のピエトロのもとに、父が急逝したとの知らせが届く。ピエトロは15年ぶりに村を訪れブルーノと再会する。父が山に家を建ててほしいとブルーノに頼んでいたことを聞かされる。ピエトロが村に行かなくなった後も、父はブルーノと一緒によく山に登っていたことも知る・・・
ピエトロは自分が遠ざけていた父と、ブルーノが親しくしていたと知り、取り返しのつかないことをしてしまったことに気づきます。時間を取り戻そうとするかのように、父の願った山の家をブルーノと二人で完成させます。ブルーノが酪農家として村に腰を据えて仕事をしていることにも刺激を受け、ピエトロは自分の道を探すべくネパールに旅立ちます。
ネパールで、ブルーノは「8つの山」の話を聞かされます。世界の中心には最も高い山、須弥山(スメール山、しゅみせん)があって、その周りは海と8つの山に囲まれていて、8つの山すべてに登った者と、須弥山に登った者、どちらがより多くのことを学んだかという古代インドの世界観。村に帰って、ブルーノにその話をすると、ブルーノは自分は須弥山に登った者だといいます。ピエトロは、いつまでも周りを彷徨うタイプかもしれません。
モンテ・ローザ山もヒマラヤも、どちらも心が洗われるような素晴らしい景観。ピエトロの父ジョヴァンニのように山に心の安寧を感じる人が多いのもわかるような気がします。(眺めるのは好きですが、登るのは苦手な私!)
監督のフェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲンとシャルロッテ・ファンデルメールシュは、共にベルギー生まれのご夫婦。原作に惚れ込み、映画化するのにあたり、まず、イタリア語を学ぶことから始めたそうです。
描かれているテーマは、両親とのこと、生い立ちの違う人と友情をはぐくむこと、血の繋がっていない人と親子のような関係を築くこと、さらに過疎が進む村での問題など、普遍的なもの。観る人、それぞれの経験から、共感する場面も違ってくることと思います。
いろいろなことを考えさせてくれましたが、自分のやりたいことを見つけて、一日一日を大切に過ごしたいと思わせてくれた映画でした。(咲)
都会から来た少年ピエトロと牛飼いのブルーノの物語。二人の友情や、父と子の関係を素晴らしいモンテローザの山々の景色の中で描く。
この山々に惹かれ、その山里に家を借りたお父さんの気持ちわかります。私も北アルプス後立山連峰の眺めに惹かれ、1980年代に大町市と白馬村で北アルプスの山々を眺めながら、延べ5年、働きながら暮らしました。鹿島槍という山の写真を撮るという大義名分で行ったのですが、おかげで山の上での写真展を開くことができました。そして、今年4月に引っ越ししたのですが、片付けをしていたら、その頃撮った写真が山ほど出てきました。自分で焼いた白黒プリントですが、素晴らしい景色の数々に、この頃はこういうところに行っていろいろな写真が撮れたんだなと、我ながらよくやったという気持ちになりました。心臓手術をして、もう山には登れなくなってしまった私ですが、この映画の主人公たちの山での生活を観て、熱心に山に通っていたころの自分を思いだし、自分の可能性ということを考えました。
「自分がやりたいと思ったことは、体力が必要なことなら、体力があるうちにやっておく」。若い頃のように動けなくなってしまった今、この映画を観て、主人公たちのように、いろいろ挑戦していた頃の自分を思い出しました。
この作品は、チャレンジすることの素晴らしさ、友情など、いろいろなことを考えさせてくれました。35年以上たった今も、大町や白馬で出会った人たちとの交流は続いています。ずっと山小屋の支配人として働いていた友人からの年賀状に「定年退職しました」と書いてあり、月日を感じました。この映画でも二人の友情の長い月日が描かれていました。そして何かがきっかけで、思わず人生が変わっていくことも描かれていました(暁)。
第75回カンヌ国際映画祭 審査員賞受賞
第67回バリャドリッド国際映画祭 最優秀撮影賞、ブロゴス・デ・オロ賞受賞
2022年/イタリア・ベルギー・フランス/イタリア語/147分/1.33:1
日本語字幕:関口英子
配給:セテラ・インターナショナル
公式サイトhttp://www.cetera.co.jp/theeightmountains/
★2023 年5月5日(金)新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座、シネ・リーブル池袋ほか全国公開
2023年02月26日
丘の上の本屋さん 原題: II diritto alla felicità
監督・脚本:クラウディオ・ロッシ・マッシミ
出演:レモ・ジローネ、コッラード・フォルトゥーナ、ディディー・ローレンツ・チュンブ、モーニ・オヴァディア
石畳の美しい丘の上にある小さな村。山々を見晴らす広場で小さな古書店を営むリベロ。隣のカフェで働くニコラは、毎朝、店開きを手伝いコーヒーを差し入れる。そんなニコラが思いを寄せたのは、女主人に頼まれてフォトコミックを探しに来た家政婦のキアラ。
移民労働者のボジャンが、いつものようにゴミ箱から拾った本を売りに来る。その中に、古い日記帳があった。そっと開いて読み始めると、1957年に若い家政婦の女性が書いた日記だった。
ある日、店先の本を眺めている少年にリベロは声をかける。ブルキナファソから来て6年になり、イタリア語の読み書きは出来るというエシエン。本を買うお金はないと立ち去ろうとするエシエンに、「読み終わったら返しにくればいい」と1冊選ぶように促すリベロ。「ミッキーマウス」のコミッ クを選んで嬉しそうに走り去るエシエン。翌日返しにきては、また借りて帰る日々。ついにある日、リベロは「マンガは卒業。次はこれを」と児童図書「ピノッキオの 冒険」を差し出す。翌日、早速返しに来たエシエンに感想を聞き、違う見方も出来ると語り合うリベロ。「イソッ プ物語」「星の王子さま」「白鯨」と読むべき本を手渡すリベロ。さらには、医者になりたいというエシアンにアフリカで人々を助けたシュヴァイツァー博士の伝記を薦める・・・
古書店のリベロ(自由)という名の初老の店主と、本が大好きな移民の少年エシアンとの本を通じての心温まる交流を軸に、店を訪れる様々な人間模様を描いた物語。
初版本にこだわる収集家、自分の著書を探しに来る教授、SM本を友達のために探しているという女性、発禁本を借りに来る神父・・・ リベロは、「発禁本の普及は本屋の務め」と語ります。神父も「何がよくて何が悪いかを国家が決めたがる。もちろん教会もだけど」と返します。発禁本のコーナーには、「デカメロン」「君主論」「種の期限」「ボヴァリー夫人」「怒りの葡萄」などが並んでいて、本屋にやってきた男との会話の中で「アルメニア人虐殺を公然と非難して国を追い出された詩人」と、トルコのナーズム・ヒクメットの詩集もあるのがわかりました。
「何を読んでもいいの?」と問うエシアンに、「食べ物と同じで、自分で読んでみないと好きか嫌いかわからない」とリベロは答えます。「読んではいけない」と言われた本には、逆に読むべきものがあるようにも思います。
小さい頃から、両親がたくさん本を買ってくれて、さらに図書館でも借りて読むほど本が大好きだったのに、いつの頃からか本が読み進めなくなりました。それでも、かつて読んだ本から学んだことはたくさんあるはず。今の子どもたちに、スマホやタブレットばかり見ないで、本もたくさん読んでほしいと願います。(咲)
私は漫画で早くから文字を覚えたと親から聞きました。本を読んでいるとおとなしく満足していたようです。それは今も変わりません。講談社の少女雑誌「なかよし」の表紙や愛読した漫画を思い出します。
映画では、アフリカ西部(ブルキナファソはこちら)からやってきたエシエンが最初に漫画を手にとり、リベロの好意でだんだんと文字の多い本を読めるようになります。なんといい人に巡り合ったのでしょう!「白鯨」を渡したのがずいぶん早くてびっくり。「マンガは卒業」とリベロが言いますが「日本の漫画は卒業できません」と内心で反駁(笑)。
リベロの古書店は、在庫数はそんなに多くありませんが、品揃えが変化に富んでいて、背表紙が全部読めたらといいなと思ってしまいました。丘の上からの景色は美しいし、お隣がカフェという立地もいい。行きたい街がもう一つ増えました。
原題の「II diritto alla felicità」とは「幸福への権利」という意味だそうです。それは最後にリベロがエシエンに贈った本につながります。(白)
イタリア・ユニセフ共同製作作品
2021年/イタリア/イタリア語/84分/カラー/2.35 : 1/5.1ch
配給:ミモザフィルムズ
公式サイト:http://mimosafilms.com/honya/
★2023年3月3日(金)より新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開