2023年08月13日
ウルリケ・オッティンガー ベルリン三部作 『アル中女の肖像』『フリーク・オルランド』『タブロイド紙が映したドリアン・グレイ』
ドイツの女性映画作家ウルリケ・オッティンガー。1942年6月6日、ドイツ南部、ボーデン湖畔の都市コンスタンツ生まれ。1962年から1969年初めまで、パリでアーティストとして活動。西ドイツに帰国し、1971年から1973年にかけて最初の映画『Laokoon und Söhne(ラオコーンと息子たち)』を監督。1973年、ベルリンに移る。1977年にZDFと共同制作した『Madame X - Eine absolute Herrscherin』が大きな反響を得る。続いて、「ベルリン三部作」と呼ばれる『アル中女の肖像』(1979)、『フリーク・オルランド』(1981)、『タブロイド紙が映したドリアン・グレイ』(1984)を発表。これらのフィクション作品は、荒廃した工業地帯など阻害された都市の風景の中で撮影された。
その後、オッティンガーの関心はアジアに向かう。モンゴルでは『Johanna d’Arc of Mongolia』(1989)、遊牧民の移動に同行した『Taiga』(1991-92)、日本では多和田葉子が制作に参加・出演した『Unter Schnee(雪に埋もれて)』(2011)など様々な国・地域で撮影を行っている。
フェミニズム映画やクィア映画の文脈で論じられるなど、従来の様々な規範を揺るがす先進性が再評価されているウルリケ・オッティンガー。これまで日本では紹介される機会が少なかったが、この度、「ベルリン三部作」が、製作から40年余りの時を超えて公開される。
配給:プンクテ
公式サイト:https://punkte00.com/ottinger-berlin/
★2023年8月19日(土)、渋谷ユーロスペースにて陶酔と攪乱のロードショー!
アル中女の肖像 原題:Bildnis einer Trinkerin 英題:Ticket of No Return
監督・脚本・撮影・美術・ナレーション:ウルリケ・オッティンガー
音楽:ペーア・ラーベン
衣装:タベア・ブルーメンシャイン
歌:ニナ・ハーゲン
出演:タベア・ブルーメンシャイン、ルッツェ、マグダレーナ・モンテツマ、ニナ・ハーゲン、クルト・ラープ、フォルカー・シュペングラー、エディ・コンスタンティーヌ、ヴォルフ・フォステル、マーティン・キッペンバーガー
1979年/西ドイツ/カラー/108分
真っ赤なコートと帽子に白いハイヒールの美女。ある冬の日、町を去ることを決め、ベルリン・テーゲル行きの片道チケットを購入する。過去を忘れようと、酒を飲みながら、ベルリンの街を観光する計画を立てる。ベルリンに降り立った彼女は、タクシーでホテルに向かう。途中、タクシーが接触してしまったホームレスとおぼしき女性を彼女は誘い、衣装も用意して一緒にお酒を飲みに繰り出す・・・
「彼女」を演じているのは、西ベルリンのアート、ファッションシーンのアイコン的存在だったタベア・ブルーメンシャイン。奇抜なファッションは彼女自身が選んだもの。言葉はほとんど発しないのに、その日その日の衣装の色が気持ちを表しているよう。
対照的なのが、同じフライトで到着した女性3人組。「社会問題」「正確な統計」「良識」という名の彼女たちは、同じような地味なチェック柄の服装で、会話の端々から、国際会議に参加した学者とわかります。「彼女」とホームレスの女性が飲んだくれている隣の席で、アルコール依存症について語るなど、随所に現れます。もう一人、「彼女」とよくすれ違い親しげに語りかける「小人」の男。なんとも不思議な存在。
まさに飲みながら街を歩くという物語で、壁のあった時代の西ベルリンの街が隅々まで見られて興味津々。壁の近くの廃れた場所にトルコ語の看板が出てきて、人手不足を補うために受け入れたトルコ人たちが、街の端っこで暮らしていたらしいことに思いが至りました。
それにしても、タベア・ブルーメンシャインのぶっ飛びぶりがとにかく凄くて、強烈に印象に残る一作。 (咲)
フリーク・オルランド 原題:Freak Orlando
監督・脚本・撮影・美術:ウルリケ・オッティンガー
音楽:ヴェルヘルム・D.ジーベル
衣装:ヨルゲ・ヤラ
出演:マグダレーナ・モンテツマ、デルフィーヌ・セリッグ、ジャッキー・レイナル、エディ・コンスタンティーヌ、フランカ・マニャーニ
1981年/西ドイツ/カラー/127分
ヴァージニア・ウルフの小説『オーランドー』を奇抜に翻案し、神話の時代から現代までが5つのエピソードで描かれる「小さな世界劇場」。ユニークな映像感覚の中に、ドイツロマン主義の伝統とブレヒトやアルトーなどの近現代演劇の文脈が息づく。
タブロイド紙が映したドリアン・グレイ 原題:Dorian Gray im Spiegel der Boulevardpresse
☆国内劇場初公開
監督・脚本・撮影・美術:ウルリケ・オッティンガー
音楽:ペーア・ラーベン、パトリシア・ユンガー
出演:ヴェルーシュカ・フォン・レーンドルフ、デルフィーヌ・セリッグ、タベア・ブルーメンシャイン、トーヨー・タナカ、イルム・ヘルマン、マグダレーナ・モンテツマ、バーバラ・ヴァレンティン
1984年/西ドイツ/カラー/151分
伝説的なスーパーモデル、ヴェルーシュカ主演。デルフィーヌ・セリッグ、タベア・ブルーメンシャインらが特異な存在感を持って脇を固める。国際的な巨大メディアグループのボスであるマブゼ博士の陰謀に巻き込まれたドリアン・グレイの物語を、独自の世界観で描く。
2023年08月06日
破壊の自然史 原題:The Natural History of Destruction
監督:セルゲイ・ロズニツァ
あらゆる人々を焼け焦がした大量破壊 第二次世界大戦末期、連合軍はイギリス空爆の報復として敵国ナチ・ ドイツへ「絨毯爆撃」を行った。連合軍の「戦略爆撃調査報告書」に よるとイギリス空軍だけで40万の爆撃機がドイツの131都市に100 万トンの爆弾を投下し、350 万軒の住居が破壊され、60 万人近くの 一般市民が犠牲となったとされる。技術革新と生産力の向上によって 増強された軍事力で罪のない一般市民を襲った人類史上最大規模の 大量破壊を描く。人間の想像を遥かに超えた圧倒的な破壊を前に想起 する⼼をへし折られた当時のドイツ⽂学者たちと、ナチ・ドイツの犯罪と敗戦国としての贖罪意 識によってこの空襲の罪と責任について戦後⻑い間公の場で議論することが出来なかった社会 について考察するドイツ⼈作家W.G.ゼーバルトの「空襲と⽂学」へのアンサー的作品。
セルゲイ・ロズニツァ コメント(『破壊の⾃然史』ディレクターズノートより抜粋)
戦争の映像や事実を知っていることと、なぜそのような事が起きたのかを理解することは 違います。そのことを理解するには時間がかかりますし、その出来事が起こった瞬間から ずいぶん時間が経ってから理解することもありますし、場合によってはまったく理解でき ないこともあります。 私たちはロシアによるウクライナへの侵略や残虐行為が続いている状況の中でこの映画を 観ることになります。しかし、私は、この映画を別の視点から捉えることができる時が来る と考えています。大量破壊兵器や地球規模の殺戮兵器の使用を可能にするこの文明をどう すれば良いのかという存在論的な問題に私たちはいつか直面するのです。他の人間を殺す ことが、政治的あるいは経済的目標を達成するための普遍的な手段であり続けているのは なぜなのか。私の映画は戦争の本質を描いていると信じています。
冒頭映し出されるのどかな田園風景。木陰でくつろぐ老人たちや、編み物をする女性。そして、都会では、カフェの外の席でおしゃべりを楽しむ人たち、教会のクリオン時計を見上げる人たち・・・ ナチスの旗があふれる町で普通の生活が営まれています。一転、不気味な音をたてて爆撃機が到来。破壊し尽される町。瓦礫となった町で、バケツリレーする人たち。消火にどれほどの効果があるのか・・・ 荷車に家財道具を乗せ避難する人たち。なけなしの荷物を持って裸足で歩いていく人も。
無差別攻撃が一瞬にして日常生活を壊し、多くの人を殺し、生き残った人々は路頭に迷う・・・ 本作で描き出されるのは、イギリスとドイツの空襲を受けた町。「ドイツに最後のとどめを!」「反撃を!」と叫ぶそれぞれの将軍。戦争に勝った国も、負けた国も、犠牲になるのは何の罪もない庶民。戦争の虚しさがずっしり。(咲)
セルゲイ・ロズニツァ監督の“アーカイヴァル・ドキュメンタリー”は、日本では2020年に『国葬』(2019)、『粛清裁判』(2018)、『アウステ ルリッツ』(2016)の3作品が初めて劇場公開され、これまで日本では専門家以外にはほとんど知られてなかったこの地域で起こったことを広めた。今回はロシアによるウクライナへの侵略が続いている中、<戦争/正義>というテーマで『破壊の自然史』と『キエフ裁判』の2作品が公開される。
『破壊の自然史』では、第2次世界大戦でのドイツというとユダヤ人へ虐殺を描いた作品が多い中、第2次世界大戦末期の連合軍によるドイツへの絨毯爆撃を記録したアーカイブ映像を使い、連合軍、イギリス軍による空爆を描く。この一連の空爆ではイギリス空軍だけで40万の爆撃機が131都市に100万tもの爆弾を投下し、60万人近くの一般市民が犠牲となったという。
最初の穏やかな市民生活が夜の爆撃のシーンへと変わり、その映像が続く。そして昼間の爆撃と崩れたたくさんのビルの映像。飛行船で撮影したのか、空から爆撃後の街を撮った映像も続く。そして市民の人たちのバケツリレーによるがれき処理光景?も出てくる。亡くなった方たちを探す家族の光景も映され、最後はどこかに向かう避難民の姿。延々と続く人々。たくさんの人が焼け出された映像に、ドイツでも日本と同じように爆撃被害があったと知った(暁)。
第75回カンヌ国際映画祭特別上映作品
2022年/ドイツ=オランダ=リトアニア製作/英語/105分/1.33 カラー・モノクロ/5.1ch
日本語字幕:渋谷哲也
配給:サニーフィルム
★2023年8月12日(土)よりシアター・イメージフォーラム、第七藝術劇場、京都シネマ 他全国順次公開
公開初日ティーチイン情報
8月12日(土)13:00からの『破壊の自然史』上映後
「戦争観を逆撫するロズニツァ」池田嘉郎(東京大学人文社会系教授)
2023年07月16日
ナチスに仕掛けたチェスゲーム 原題:Schachnovelle
監督:フィリップ・シュテルツェル(『ゲーテの恋~君に捧ぐ「若きウェルテルの悩み」~』)
原案:シュテファン・ツヴァイク(「チェスの話」)
出演:オリヴァー・マスッチ アルブレヒト・シュッへ ビルギット・ミニヒマイアー
ロッテルダム港を出発し、アメリカへと向かう豪華客船。ヨーゼフ・パルトークは久しぶりに再会した妻と船に乗り込む。目も虚ろですっかりやつれ果てたヨーゼフを、妻は「すべて元通りになるわ」と慰める。かつてウィーンで公証人を務めていたヨーゼフは、1938年、ヒトラー率いるドイツがオーストリアを併合した日にナチスに連行され、彼が管理する貴族の預金番号を教えろと迫られた。それを拒絶したため、ヨーゼフはホテルに監禁され、ようやく解放されたのだ。
船内ではチェスの大会が開かれ、世界王者が船の乗客全員と戦っていた。ヨーゼフは、負けが確定していた男にアドバイスし、引き分けまで持ち込む。その男は船のオーナーだった。ヨーゼフはオーナーから王者との一騎打ちを依頼され引き受けるが、実は、駒に触れるのは初めてだった。チェスに強いのには悲しい理由があった。監禁中、書物を所望するも叶わず、やっとの思いで手にしたのがチェスのルールブックだった。白熱の試合とともに衝撃の真実が明かされる・・・
原作はオーストリアの作家、シュテファン・ツヴァイクの「チェスの話」。ザルツブルクでユダヤ人実業家の裕福な家庭で育ったツヴァイクは、1933年にヒトラーがドイツの首相に就任し、オーストリアにも反ユダヤ主義が広まったことから、1934年イギリスへ亡命。その後、ブラジルとアメリカを転々とし、1942年にブラジルのペトロポリスで本作を書いた直後に妻と共に自殺しています。
ナチスがオーストリアに侵攻する直前のウィーンの街の様子を描いた場面が圧巻。
ヨーゼフと妻アンナの乗る車が、道路を埋め尽くしたドイツ支持者の市民たちに阻まれます。友人から危機が迫っていることを告げられても楽観視していたヨーゼフは、ようやく事態を案じて、妻を先に駅に逃がします。自身は事務所に戻って重要書類を焼却。その直後、ナチスに捕まってしまいます。
平穏に暮らしていると、それが何かの事情で崩されることは予期しないものです。今、世界では、外国勢力の侵攻や、国内の政変などで、これまでの暮らしをかき乱される人たちが後を絶ちません。住み慣れた地を離れなければならないのは、ほんとにつらいことです。本作を観ていて、そんなことに思いが至りました。
それにしても、チェスの手をルールブックをつぶさに読んで覚えるとは、すごい記憶力! (咲)
2021年/ドイツ/ドイツ語/112分/カラー/5.1ch/シネマスコープ
字幕翻訳:川岸史
配給:キノフィルムズ
公式サイト:https://royalgame-movie.jp/
★2023年7月21日(金)より、シネマート新宿ほか全国公開
2023年03月21日
デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム(原題:Moonage Daydream)
監督・脚本・編集・製作:ブレット・モーゲン
音楽:トニー・ヴィスコンティ
出演:デヴィッド・ボウイ
世界的ロックスター、デビッド・ボウイのドキュメンタリー。30年にわたり保管していた未公開映像と、「スターマン」「チェンジズ」など代表曲を含む40曲で構成されている。ライブ映像、インタビューに加え、全編にわたってボウイ本人によるナレーションが観客をボウイの人生と精神の旅路に案内する。デヴィッド・ボウイとは一体何者だったのか?
デビッド・ボウイ財団が唯一公式認定したドキュメンタリー映画。
特別にデヴィッド・ボウイ贔屓ではなかったけれど、あのビジュアルに目をひかれました。山本寛斎デザインの個性的な衣装が似合うのって、どういう人なんだろうと興味がありました。派手な舞台から降りればもの静かで、僧侶になりたかったというほど内省的な人だったというのに、なんとなく納得しました。京都が好きで、たびたび訪れてはそこでの暮らしを楽しんでいた映像も覚えています。俳優としての作品『地球に落ちて来た男』(1976/ニコラス・ローグ監督)『戦場のメリークリスマス』(1983/大島渚監督)も忘れられません。
本作は時系列に並べられた伝記映画ではありませんが、ボウイ本人の声を聴きながらブレット・モーゲン監督がカラー・グレーディングにこだわった映像とサウンドをこころゆくまで楽しめるはずです。(白)
2022年/ドイツ・アメリカ/カラー/シネスコ/134分
配給:パルコ ユニバーサル映画
(C)2022 STARMAN PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
https://dbmd.jp/
Twitter&Instagram:@DBMD_JP
★2023年3月24日(金)全国公開
2023年01月15日
ヒトラーのための虐殺会議 原題:Die Wannseekonferenz 英題:THE CONFERENCE
監督:マッティ・ゲショネック
出演:フィリップ・ホフマイヤー、ヨハネス・アルマイヤー、マキシミリアン・ブリュックナー
1942年1月20日正午、ベルリン。雪が残る冷えた日。
ヴァン湖(ヴァンゼー)の畔にある大邸宅にナチス親衛隊と各事務次官が、国家保安部代表のラインハルト・ハイドリヒに招かれ、ユダヤ人問題の最終的解決について会議が開かれた。「最終的解決」とは、ヨーロッパにいるすべてのユダヤ人を計画的に駆除する、つまり抹殺することを意味するコード名。ヴァンゼー会議の出席者の中で異を唱えた者は一人もおらず、これにより、現代国家が1つの民族の抹殺に乗り出すという前代未聞の政策が行われた。議事録には、移送、強制収容、強制労働、計画的殺害など様々な方策が詳述されており、単にユダヤ人を排除するだけではなく、移送と同時に強制労働者として利用する目的もあった。会議から1年以内にホロコーストは加速し、ユダヤ人の多くは絶滅収容所に到着すると同時に強制労働者に選別されることなく殺害されていった・・・
※2022年はヴァンゼー会議から80年
会議に出席した高官15名と秘書1名
ラインハルト・ハイドリヒ(国家保安本部長官/ベーメン・メーレン保護領総督代理/親衛隊大将)
オットー・ホフマン(親衛隊人種・植民本部/親衛隊中将)
ハインリヒ・ミュラー(国家保安本部ゲシュタポ局長/親衛隊中将)
ゲルハルト・クロップファー(党官房局長/親衛隊准将)
フリードリヒ・ヴィルヘルム・クリツィンガー(首相官房局長)
ヴィルヘルム・シュトゥッカート(内務省次官)
マルティン・ルター(外務省次官補)
エーリヒ・ノイマン(四か年計画庁次官)
ローラント・フライスラー(法務省次官)
ルドルフ・ランゲ(ラトヴィア全権区保安警察・保安部司令官/ オストラント全権区保安警察・保安司令部代理/親衛隊少佐)
カール・エバーハルト・シェーンガルト(ポーランド総督府保安警察・保安部司令官/親衛隊准将)
ヨーゼフ・ビューラー(ポーランド総督府次官)
ゲオルク・ライプブラント(東部占領地域省局長)
アルフレート・マイヤー(東部占領地域省次官・北ヴェストファーレン大管区指導者)
アドルフ・アイヒマン(国家保安本部ゲシュタポ局ユダヤ人課課長/親衛隊中佐)
インゲボルグ・ワーレマン(秘書)
本作は、アドルフ・アイヒマンによって記録された会議の一部のみが残されていた議事録に基づき、80年後の2022年にドイツで製作されたもの。
すでに欧州では1933年以来、ユダヤ人迫害が行われていて、「ラトビアからユダヤ人が一掃された」との報告に、皆が、グーの手(拳)で机を叩きます。ユダヤ人をマダガスカルに送る案は、制海権がイギリスにあって無理という発言も。移送先はもうない、さて、どうするというのがヴァンゼー会議でした。
「低劣な人種をすべて排除することが長期的目標」
「読み書きは小学生程度、計算は100までで充分」と、ドイツ民族以外を蔑視する言葉も。
「アーリア化が済んだ」は、没収したという意味。
「ローマ人は、ユダヤ人が面倒で離散させた。我々が尻ぬぐい。病原体を根絶しないと」
「欧州全域にいるユダヤ人は、1100万人。銃殺するには、1100万発の銃弾はもったいない」
「警告の臭気がついていない殺虫剤をつかえば一気に片付けられる」
こんな会話が交わされ、最終的に、東方のアウシュヴィッツ村に欧州全域のユダヤ人を移送して、定住させるのでなく、抹殺することが決定されたのです。
この会議には、アドルフ・ヒトラーは出席していません。いかに、当時のナチスドイツが、アーリア民族を代表するドイツ人こそ優秀で、他者は排除すべきという考えで統一されていたことがわかります。
記録した秘書の女性も同じ考えだったのでしょうか・・・ こんなことを記録することに苦悩はなかったのでしょうか・・・ (咲)
観終わって「これは人間が人間を片付けよう、抹殺しよう」という会議なのだとぞわぞわと寒くなってきました。顔色ひとつ変えず、胸も痛めることもなく話すこの人たちに、ユダヤ人はゴミやがらくたと同様なのでした。家に帰れば良き父親や夫であったでしょうに。これは記録に基づき、80年後に再現した映画です。
救われるのはドイツで作られた作品ということです。加害国でありながらきちんと事実を掘り起こして、伝えていくことから逃げていません。風化し忘れられていくことを止めるには、そうはしない、という人の意思が大事。それが繰り返さないことにつながると信じます。(白)
2022年/ドイツ/112分/ビスタ/5.1ch/G
字幕翻訳:吉川美奈子
配給:クロックワークス
公式サイト:https://klockworx-v.com/conference/
★2023年1月20日(金)より 新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、 YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開