2025年04月06日

ゲッベルス ヒトラーをプロデュースした男 原題:Führer und Verführer  英題:Goebbels and the Führer

goebbels.jpg
© 2023 Zeitsprung Pictures GmbH

監督・脚本:ヨアヒム・A・ラング
撮影:クラウス・フックスイェーガー
出演:ロベルト・シュタットローバー、フリッツ・カール、フランツィスカ・ワイズ

なぜ多くのドイツ人が犯罪的な 政権に従って戦争と大量殺戮に走ったのか

1945年4月、ソ連軍がベルリンに迫る中、写真や資料を暖炉の火で燃やすゲッベルス。「 私は民衆の扇動方法を公表してこなかった」「 私が総統を伝説にした」と豪語する。
4月30日、ヒトラーの自殺を見届け、遺言で新首相に任命されるも、翌5月1日、ゲッベルス夫妻は6人の子供たちとともに 自殺した。

1933年のヒトラー首相就任から1945年にヒトラーが亡くなるまでの間、プロパガンダを主導する宣伝大臣として、国民を扇動してきたヨーゼフ・ゲッベルス。
本作は、ゲッベルスが、いかにユダヤ人の一掃と侵略戦争へと突き進むヒトラーの先鋒を担ぐようになったかを、加害者からの目線で時系列で追った物語。

1938年、戦争を更に拡大しようとするヒトラーに、平和的な併合を主張するゲッ ベルス。ライバルたちは、宣伝大臣は宣伝より女に夢中だとヒトラーに告げ口する。ヒトラーの信頼を失ったゲッベルスは、愛人との関係も断ち切られ、自身の地位を回復させるため、ヒトラーが望む反ユダヤ映画を製作し、大衆を扇動する演説や戦勝パレードを次々と企画する・・・。

絶大的な権力を握った人物が、その取り巻きによって、さらに権力を行使していく様を見せつけてくれました。彼らの行ったようなフェイクニュースやプロパガンダが、今も繰り返されて世界にはびこっていることを憂います。それでも、ヒトラーやゲッベルスの末路が自死という悲劇であったように、握った権力は永遠ではないことを、世の独裁者は思い知ってほしいと思います。本作が反面教師になることを願ってやみません。でも、肝心の権力者が本作を観てくれるでしょうか・・・ (咲)

2024年/128分/ドイツ・スロバキア/ドイツ語
日本語字幕:廣川芙由美
配給:アットエンタテインメント
公式サイト:https://www.goebbelsmovie.com/
★2025年4月11日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開


posted by sakiko at 19:52| Comment(0) | ドイツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年02月09日

セプテンバー5   原題:SEPTEMBER 5

september5.jpg
©2024 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

監督・脚本:ティム・フェールバウム(『HELL』、『プロジェクト:ユリシーズ』)
出演:ジョン・マガロ(『パスト ライブス/再会』)、ピーター・サースガード(『ニュースの天才』)、ベン・チャップリン、レオニー・ベネシュ(『ありふれた教室』)、ほか

全世界が初めて目にしたテロ事件生中継
報道のあり方を、今だからこそ考えてみたい


1972年のミュンヘン夏季オリンピック。会期半ばの9月5日、パレスチナ武装組織「黒い九月」が、イスラエル選手団宿舎を襲撃し二人を殺害したあと、9名を人質に立てこもる。アメリカのABCスポーツ番組チー ムは、突如人質事件を中継することになる・・・

ほぼ、放送室内が舞台の本作。司会者ジム・マッケイが語る当時のオリジナル映像と、今回撮影したシーンを融合させた映像は、1972年の雰囲気そのもの。当時使われていたものにこだわって、様々なものを集めた製作チームの努力の賜物です。

ミュンヘンオリンピック開催中に起きたテロ事件については、当時、テレビで知って、大きなショックを受けたものです。それでも、その時には、私はまだイスラエルとパレスチナの関係を深く考えていなかったように思います。50年以上の時を経て、本作が出来たと知って、イスラエルとパレスチナの関係が、さらに混迷を深めている中で、どんな立ち位置で描いたのかが、まず気になりました。映画を拝見して、時系列で事件を追い、両国の関係についての政治的なメッセージは込めず、報道はどうあるべきかを描いたものだと感じました。
テロ犯が立てこもった部屋には、テレビがあり、彼らが見ることへの配慮をする取材班。
人質が解放されたらしいとの報が入ったときに、他社に先駆けて報道することよりも、確実な情報であるかに重きを置くべきとの場面がありました。今や報道機関だけでなく、個人が自由に情報を発信できる時代。フェイクニュースに惑わされる人たちも多々いる今だからこそ、本作が作られた意義は大きいと思いました。
男性ばかりの報道チームの中で、ドイツ語の通訳だけが女性。人質事件が起きて、彼女の役割はさらに増します。冷静沈着に、ドイツ語の情報を的確に通訳して伝える姿を体現したドイツの女優レオニー・ベネシュ、とても素敵です。(咲)


2024年/ドイツ・アメリカ合作/英語・ドイツ語/95分/G
配給:東和ピクチャーズ
公式サイト:https://september5movie.jp/
★2025年2月14日(金)公開




posted by sakiko at 01:24| Comment(0) | ドイツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年02月02日

ステラ ヒトラーにユダヤ人同胞を売った女   原題:Stella. Ein Leben  英題:Stella. A Life.

Stella.jpg
(C)2023 LETTERBOX FILMPRODUKTION / SevenPictures Film / Real Film Berlin / Amalia Film / DOR FILM / Lago Film / Gretchenfilm / DCM / Contrast Film / blue Entertainment


監督:キリアン・リートホーフ(『ぼくは君たちを憎まないことにした』
脚本:キリアン・リートホーフ、 マルク・ブルーバウム、ヤン・ブラーレン
出演:パウラ・ベーア(『水を抱く女』)、 ヤニス・ニーヴーナー(『コリーニ事件』

1940年8月、ベルリン。18歳のステラ・ゴルトシュラーク(パウラ・ベーア)は、アメリカに渡りジャズシンガーになることを夢見ていた。ユダヤ人の両親が、つてを頼って、なんとかアメリカのビザを手に入れようとしていたが、ドイツでは多くのユダヤ人がビザを待っていて、叶わぬ夢だった・・・。
ナチスはパリも陥落させた。
3年後、工場で強制労働を強いられているステラ。ユダヤ人に偽造パスポートを販売するロルフと出会い、恋に落ちると、同胞や家族が隠れて生活する中、ロルフの手伝いをしながら街中を歩き、自由を謳歌するステラ。
ある日、ついにゲシュタポに逮捕される。拷問を受けたステラは、アウシュヴィッツへの移送を免れるため、ベルリンに隠れているユダヤ人逮捕に協力することを余儀なくされる。
生き残るために同胞を裏切ったステラは、終戦後、裏切ったユダヤ人仲間から裁判をかけられる・・・。

ステラは、金髪で青い目というアーリア人にも見える風貌のユダヤ女性。黄色い星をはずして、夜の町に遊びにいっても、ユダヤ人だとは見破られません。 勝気で、ともすれば嫌な女性にみえる描かれ方ですが、アウシュヴィッツ行きを逃れるための自己防衛として、密告者という選択ができるなら、誰しもその誘惑にかられるのではないでしょうか。 ステラはアウシュヴィッツ行きこそ逃れましたが、戦後、同胞を裏切ったことへの思いは彼女を苦しめ、幸せな人生を送っていないようです。 
2025年1月27日、アウシュヴィッツ強制収容所解放から、80年を迎えました。 記念式典で、生き延びた方たちが、憎しみを持たないことが平和につながることを強調されていました。 あれほどまでに過酷な思いをされた方たちの言葉は貴重です。人種や宗教の違いなどで、差別し、それが戦争にも至ることが、今も世界からなくならないのが悲しいです。(咲)

2023年/121分/ドイツ・オーストリア・スイス・イギリス/ドイツ語・英語/PG12
日本語字幕:吉川美奈子 
配給:クロックワークス
公式サイト:https://klockworx.com/movies/stella/
★, 2025年2月7日. (金)より 新宿武蔵野館ほか全国公開




posted by sakiko at 20:47| Comment(0) | ドイツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年07月08日

ある一生(原題:Ein ganzes Leben)

aru1syou.jpg

監督:ハンス・シュタインビッヒラー
脚本:ウルリッヒ・リマー
原作:ローベルト・ゼーターラー「ある一生」(新潮クレスト・ブックス)
撮影:アルミン・フランゼン
出演:シュテファン・ゴルスキー(青年期)/アウグスト・ツィルナー(老年期)/イヴァン・グスタフィク(少年期)(アンドレアス・エッガー)、アンドレアス・ルスト(クランツシュトッカー)、マリアンヌ・ゼーゲブレヒト(アーンル)、ユリア・フランツ・リヒター(マリー)

1900年頃のオーストリア・アルプス。孤児の少年アンドレアス・エッガーは、渓谷で農場を営む遠い親戚クランツシュトッカーに引き取られた。酷薄な農場主にとっては、アンドレアスはこき使える働き手に過ぎず、ほかの子供たちと一緒に食卓につくことも許さなかった。少しのミスで、アンドレアスは厳しい折檻を受けるのが常。声を上げず泣きもしないのが、ますますクランツシュトッカーを怒らせた。アンドレアスを支えたのは、老婆のアーンルの存在だった。
青年となったアンドレアスは、アーンルが亡くなるとすぐに農場を出て日雇い労働者として働いた。渓谷には観光客を運び、電気をもたらすロープウェイが建設されることになった。作業員となったアンドレアスはマリーと出会い、ぎこちない付き合いの末結婚する。渓谷を見渡せる山小屋で始まった結婚生活は、幸せに満ちていたが途中で断ち切られてしまう。

苦労の絶えなかったアンドレアス・エッガーを3人の俳優が演じ、それぞれに印象的です。子どものころに木の枝で折檻されて、足の骨が折れる場面がありました。子どもを骨折するほど叩くって、同じ目に遭わせたくなります(こらこら)。そのため骨が変形してアンドレアスは足を引きずるようになりました。それでも力仕事のできる逞しい青年に成長し、一人で暮らしています。
子どものころの暮らしのせいか、口数が少なく朴訥なアンドレアスの人生に光がさしたのはマリーと出会ってから。短い間でも良かったねぇ、と言いたくなります。兵隊に志願しても足が悪いからと却下されたのに、戦争も後半になると兵隊が足りなくなり召集令状がきます。冬山でロシア兵の捕虜となってしまい、シベリアの収容所に送られ、終戦後何年もたってから解放されます。アルプスに戻って山々を見渡したアンドレアスの脳裏を懐かしい日々がよぎって行きます。美辞麗句を排した原作と同じく、無口なアンドレアスの心情の説明はなくとも彼の眼に映る風景が雄弁です。
子どものころの彼を庇ってくれたアーンリお婆さんを演じたのは、『バクダッド・カフェ』(1989年日本公開)のころはふくよかだったマリアンヌ・ゼーゲブレヒト(1945年生)でした。
ローベルト・ゼーターラーのこの小説は、貧しく、困難な日々であっても生きることをあきらめなかった無名な男の一生を淡々と描いて、多くの人々の共感を呼びました。世界40カ国以上で翻訳され160万部以上発行、ブッカー賞最終候補にもなりました。
同じ著者の映画化作品に2020年に公開された『17歳のウィーン フロイト教授人生レッスン』。こちらの原作は「キオスク」(東宣出版/酒寄進一 訳)。「ある一生」と一緒に図書館から借りて、読み始めてすぐ映画を思い出しました。(白)


2023年/ドイツ=オーストリア映画/カラー/ドイツ語/115分/シネスコサイズ
https://www.awholelife-movie.com/
配給:アットエンタテインメント
(C)2023 EPO Film Wien/ TOBIS Filmproduktion Munchen
https://awholelife-movie.com/
後援:ゲーテ・インスティトゥート東京
★2024年7月12日(金)新宿武蔵野館ほか全国順次公開

posted by shiraishi at 09:16| Comment(0) | ドイツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年06月16日

アンゼルム “傷ついた世界”の芸術家  原題:Anselm

anzelm.jpg
(C)2023, Road Movies, All rights reserved.

監督:ヴィム・ヴェンダース(『PERFECT DAYS』)
出演:アンゼルム・キーファー、ダニエル・キーファー、アントン・ヴェンダース

戦後ドイツを代表する芸術家、アンゼルム・キーファー。本作は、ドイツの暗黒の歴史を主題とした作品群で知られるアンゼルム・キーファーの生涯と、その現在を追ったドキュメンタリー。
アンゼルム・キーファーは、ナチスや戦争、神話などのテーマを、絵画、彫刻、建築など多彩な表現で壮大な世界を創造。ヴェンダース監督と同じ1945年生まれ。初期の作品の中には、戦後ナチスの暗い歴史に目を背けようとする世論に反し、ナチス式の敬礼を揶揄する作品を作るなど“タブー”に挑戦する作家として美術界の反発を生みながらも注目を浴びる存在となった。1992年からは、南フランスに拠点を移し、わらや生地を用いて、歴史、哲学、詩、聖書の世界を創作している。彼の作品に一貫しているのは戦後ドイツ、そして死に向き合ってきたことであり、“傷ついたもの”への鎮魂を捧げ続けている。
制作期間には2年の歳月を費やし、3D&6Kで撮影。従来の3D映画のような飛び出すような仕掛けではなく、絵画や建築を、立体的で目の前に存在するかのような奥行きのある映像を再現し、ドキュメンタリー作品において新しい可能性を追求した。
本作は『PERFECT DAYS』が出品された第76回カンヌ国際映画祭で、ヴィム・ヴェンダース監督作品として2作同時にプレミア上映された。

広大で天井も高いアトリエに並ぶ様々な作品の間を自転車で行くアンゼルム。作品の制作現場は、まるで工事現場のよう! 大型建設機械も駆使しての制作。観ただけではわからない作品の背景が丁寧に語られます。絵を埋め尽くす神話の英雄、ジークリフト、ヘルマン、パルツィファル・・・ ナチスが崇拝した血塗られたレジェンド。ベネチアビエンナーレに出品された時、批評家たちはアンゼルムをファシストだと非難。ドイツの過去の癒えぬ傷を描いたアンゼルムですが、非難されたことに反論もしません。
アンゼルムが父の軍服を着てナチス式の敬礼をする姿を映し出した作品も、ネオナチか?と言われても、自分が1930年代にいたら、どんな人間かわからないと思い、何も言いません。この作品を制作した1968~69年当時、ドイツで第二次世界大戦の反省は皆無で、学校でもファシズムや第三帝国についてもほとんど教えられなかったことから、忘れていることへの抗議の意味を込めたものなのです。
戦後ドイツの最も重要な詩人パウル・ツェランへの思いを込めた作品の前では、ツェラン自身が詩を朗読する声が披露されました。ツェランはユダヤ人で、両親をウクライナで殺されています。その後、ドイツで、ホロコーストで犠牲になったユダヤ人の子孫でありながら、ドイツ語で詩を書かざるをえなかった苦悩が絵から浮かび上がってきます。
「先入観を捨てて、この衝撃的なビジュアルをただ楽しんでもらいたい」とヴェンダース監督。最初から最後まで圧倒され、アンゼルム・キーファーが胸に秘めた思いを静かに感じることができました。(咲)


2023/ドイツ/93分/1.50:1/ドイツ語・英語/カラー・B&W/5.1ch
字幕:吉川美奈子
配給:アンプラグド
公式サイト:https://unpfilm.com/anselm/
★2024年6月21日(金) TOHOシネマズ日比谷ほか全国順次公開




posted by sakiko at 13:40| Comment(0) | ドイツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする