2021年07月17日

復讐者たち  原題:Plan A

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監督・脚本:ドロン・パズ、ヨアヴ・パズ
出演:アウグスト・ディール、シルヴィア・フークス、マイケル・アローニ、イーシャイ・ゴーラン

1945年、第二次世界大戦での敗戦直後のドイツ。ナチス・ドイツによるユダヤ人絶滅政策ホロコーストを生き延びたユダヤ人男性マックス。離ればなれになった妻子の行方を捜すために難民キャンプに向かう途中、英国軍の指揮下にあるユダヤ旅団の兵士ミハイルと知り合う。難民キャンプで、妻子がナチスによって殺されたことを知ったマックスは、ナチスの残党への復讐を行っているユダヤ旅団に加わる。そんなある日、森の中で戦争の終結を知らないユダヤ人のパルチザンの一味ナカムと出会う。マックスは、恩人ミハイルより、過激分子ナカムの動向を監視する任務を与えられる。ナカムの隠れ家に潜入したマックスは、彼らが準備を進める“プランA”という復讐計画の全容を突き止める。それは水道水に毒物を混入し、ドイツの市民600万人を殺害するという恐ろしい計画だった・・・

本作の監督を務めたのは、イスラエル出身のドロン・パズとヨアヴ・パズの若い兄弟。
多くの民間人を巻き込む極悪な復讐計画に実際に関わった人たちへのインタビューを重ねて、本作を紡ぎました。ホロコーストで家族すべてを亡くし、生きる望みを失った人たちが、復讐することを生きる目的にしてしまったという切実だけれど残念な状況。けれども、憎悪は憎悪を生むだけ。そのことに気づけば、自ずと行動は変わってくるはずなのですが、今の世界をみると、そうでもないのを憂います。
ホロコーストでひどい目にあったからと、ユダヤ人がパレスチナ人を追い出したというのもまた、許されることではありません。 平和共存の世界はいつ実現するのでしょう・・・ (咲



2020年/ドイツ、イスラエル/英語/110分/シネスコ/5.1ch
日本語字幕:吉川美奈子
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
公式サイト:http://fukushu0723.com/
★2021年7月23日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、シネクイントほか全国公開

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2021年05月16日

ベルリン・アレクサンダープラッツ  原題:Berlin Alexanderplatz 

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監督:ブルハン・クルバニ  
脚本:マーティン・ベーンケ、ブルハン・クルバニ  
原作:アルフレート・デーブリーン著「ベルリン・アレクサンダー広場」(1920年)
出演:ウェルケット・ブンゲ、イェラ・ハーゼ、アルブレヒト・シュッヘ、アナベル・マンデン、ヨアヒム・クロルほか

西アフリカ・ギニアビサウ出身のフランシス(ウェルケット・ブンゲ)は、国を逃れ、難民として海を渡り、命からがらドイツにたどり着く。地底で不法に重労働に就くフランシスは、やがて麻薬売人のラインホルト(アルブレヒト・シュッヘ)のもとで働くようになる。ラインホルトのボスのプムスからは、ゴリラ呼ばわりされる。ラインホルトから荷積みの手伝いを頼まれるが、宝石店強盗だった。拒んだことから、車から突き落とされ、片腕を失う。以前クラブで知り合ったナイジェリア女性のエヴァがドイツ女性ミーツェにフランシスを看るように手配してくれて、やがてフランシスとミーツェは恋仲になり、子どもを宿す。エヴァのクラブでの仮装パーティの夜、身重のミーツェは連れていけないとフランシスは一人で出かける。ミーツェはキティの名で、アントレという男と連絡を取り合っていたが、フランシスの留守に初めてアントレと会う。アントレは実はラインホルトの別名だった。そして、その夜、悲劇が起こる・・・

「善人になりたい」と願うフランシスですが、不法滞在のドイツで、どんどん悪の世界に巻き込まれていきます。最初に働いていた地下の作業場で、同僚が負傷し救急車を呼んだことから、不法就労がばれて働けなくなります。ちなみに、この時に負傷した同僚がマスードという男性で、恐らくクルバニ監督の故国であるアフガニスタンからの難民だと思います。
働き場所を無くし、不法移民を食い物にするラインホルトの甘い誘いに乗ってしまうフランシス。最初は、売人がたむろする公園でビサウ料理のマンカラを売っていたのですが、だんだん悪の世界に引きずり込まれます。それでもなお、善人になりたいともがくフランシス・・・

原作は、1920年代に出版されたアルフレート・デーブリーンによる現代ドイツ文学の金字塔「ベルリン・アレクサンダー広場」。アフガニスタン人難民の息子として、1980年にドイツで生まれたブルハン・クルバニ監督は、独自の解釈で映画化。原作の主人公は、下層労働者でしたが、それをアフリカからの難民に設定。時代も現代にして、貧困・人種・難民の問題を盛り込んだ深みのある作品に仕上げています。(咲)


スタイリッシュで斬新なオープニングは見る者の不安を煽るが、気になって目が離せなくなる。恋人の命を救えなかったことを悔やみ、いい人間になろうと誓う男が犯罪社会へと滑り落ちていく。原作のフランツは第一次大戦を経験し、映画のフランシスは難民としてドイツに辿りついた。時代と設定を変えているが、共通して言えることはどちらもPTSDに苦しんでいるところ。善でありたいと思いつつ、ラインホルトに魅力を感じてしまい、囚われてしまう。何度も立ち止まる機会はあったはずだ。いや、彼は彼なりに踏ん張って、自分の正義を貫こうとしたのだが、どこかで何かを間違えて、いちばん大事なものを喪ってしまった。そんなフランシスはスクリーンの向こう側の人間ではない。立場や状況は違うけれど、私たちもフランシス的な部分を持っているのではないだろうか。3時間という長尺にもかかわらず、ラストに希望を感じて心地よい余韻が残る。(堀)

<ブルハン・クルバニ監督 コメント>
原作の「ベルリン・アレクサンダー広場」を読んで僕は育ちました。ベルリンに引っ越したとき、近くの公園には金持ちも黒人もいて、ただ麻薬のコミュニティは黒人の難民がほとんどでした。格差を目の当たりにし、僕は彼らに焦点を当てた物語を作りたいと考え、頭の中で難民の物語とフランツ・ビーバーコップ(「ベルリン・アレクサンダー広場」の主人公)の物語が重なりました。自慢のチームと役者たちが作った、旅をするような映画です。本作はドイツ人社会と難民の話で、そこには闇が存在する。しかし結末には希望の見える話になっています。楽しんでください。

2020年/ドイツ・オランダ/ドイツ語・英語/183分  
配給:STAR CHANNEL MOVIES  
公式サイト:https://star-ch.jp/starchannel-movies/detail_048.php
★2021年5月20日(木)よりMIRAIL(ミレール)、Amazon Prime Video、U-NEXTにてオンライン上映

☆「ドイツ映画祭 HORIZONTE 2021」上映作品
(5月開催予定が11月に延期されました)
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2021年05月09日

グンダーマン 優しき裏切り者の歌   原題:GUNDERMANN

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監督:アンドレアス・ドレーゼン
脚本:ライラ・シュティーラー 音楽:イェンス・クヴァント
出演:アレクサンダー・シェーア、アンナ・ウンターベルガー

失われた国、最大のスキャンダルとなった秘密警察 (シュタージ) ――
“東ドイツのボブ・ディラン”と呼ばれ、スパイだった男の真実の物語

ゲアハルト・グンダーマンは、ベルリンの壁が崩壊し、東ドイツが消滅した後もシンガー・ソングライターとして、カリスマ的な人気を博していた。しかし、彼は人には言えない過去を抱えていた。昼間は炭鉱でパワーショベルを運転、仕事が終わると仲間と共にステージに上がり、自作の歌で人々に感動を与えていた。しかし、東西統一後、シュタージに協力した人々の多くが、その事実をひた隠し、公になることを恐れていた。かつて、バンド仲間や友人たちの行動を報告していた過去が脳裏を過る。そして、友人の妻となった幼なじみコニーへの諦めきれない想い。優しかった父との確執と再会。そんなある時、かつてシュタージに協力した著名人たちが次々と告発されるのをテレビ報道で知る。彼は友人たちを訪ね、過去の自分とシュタージとの関わりを告白する・・・

シュタージに指示されるまま、友人たちを監視していたことがずっと心の重荷になっていたグンダーマン。勇気を振り絞って友人に告白したところ、「俺もお前を監視していた」と告げられます。体制に逆らえなかったからと割り切って過ごす人の多い中、グンダーマン、あまりにお人よしすぎて、ちょっといらつきます。
東ドイツがお互いを監視する社会だったことが、当時、どれくらい明らかだったのでしょう。東西ドイツが統一して、自由社会で暮らせるようになっても、過去を引きずって生きる人たちが多くいることに思いが至りました。過去は忘れるのが処世術!?(咲)

東西冷戦の時代、ドイツは東西に分断されていた。そして東ドイツの秘密警察は、国民同士を監視するようなことをしていた。これはグンダーマン という人物を介する形で、そういうことを告発する映画なのだろうか? 国家というのは、社会主義国家だろうと、民主主義国家だろうとも、そういう風に人を監視している。私も1969年頃の日本でそういう経験をした人たちのことを知っている。あの頃、学生運動や反戦運動をしている人たちを監視している人たちがいて、デモの最中に「あのイヤホーンをしている人たちには気をつけたほうがいい」なんて言葉も聞いたことがある。今もそういうことがあるのかもしれない。
炭鉱で働きながら歌を作り、歌っていたグンダーマン。日々の暮らし、仕事のことなど歌っていた。巨大なパワーショベルを運転し、炭鉱の鉱脈がある場所を削っていたのが印象的だった。そして彼の仲間で、高齢の女性もそれを運転していて、実際もそういうことがあるのかなと驚いた。
「ベルリンの壁崩壊後の東ドイツにおいて最も重要で最も有名な実在のシンガー・ソングライター、ゲアハルト・グンダーマン」と紹介され、“東ドイツのボブ・ディラン”とHPに書いてあったけど、その言い方は違うような気がする。「ボブ・ディラン」とは反体制のシンボル的な存在の歌手。もしそうなら、監視の対象ということはあるだろうけど、秘密警察が彼をスパイとして利用というのはちょっとおかしいという感じもするので(暁)。


*ドイツで最も権威のあるドイツ映画賞(2019)で作品賞、監督賞含む 6 部門で最優秀賞を獲得。

2018年/HD/シネマスコープ/5.1ch/128分/ドイツ
字幕・資料監修:山根恵子
提供:太秦/マクザム/シンカ
後援:ゲーテ・インスティトゥート大阪・京都 
配給・宣伝:太秦   
© 2018 Pandora Film Produktion GmbH, Kineo Filmproduktion, Pandora Film GmbH & Co. Filmproduktions- und Vertriebs KG, Rundfunk Berlin Brandenburg
公式サイト:https://gundermann.jp/
★2021年5月15日(土)より渋谷ユーロスペース他全国順次公開



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2021年03月21日

水を抱く女   原題:Undine

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監督・脚本:クリスティアン・ペッツォルト(『東ベルリンから来た女』)
出演:パウラ・ベーア、フランツ・ロゴフスキ、マリアム・ザリー、ヤコブ・マッチェンツ

ギリシャ神話に登場する水の精 ウンディーヌ。
人間との結婚によってのみ不滅の魂を得ることができる女性の形をした水の精霊。
愛する男が裏切ったとき、その男は命を奪われ、ウンディーヌは水に還らなければならない・・・

クリスティアン・ペッツォルトが、ギリシャ神話のモチーフを現代に置き換えて、大胆に描いた物語。

ベルリン、風の強い日の朝。ウンディーヌは、職場近くの中庭のカフェで、恋人ヨハネスから他の女性に心移りしたと別れを告げられる。「また休憩時間に戻ってくるから、愛してると言って」とその場を去る。ウンディーヌは、ベルリンの都市開発を研究する歴史家。博士号も取り、博物館で見学者にベルリンの街の成り立ちを解説している。
休憩時間になり急いでカフェに戻るが、ヨハネスはもういない。悲嘆にくれるウンディーヌ。後ろにあった水槽が突然割れる。先ほど博物館で解説を聞いていた潜水作業員のクリストフが彼女を助ける。運命的な出会いだった・・・

バッハの調べにのせて綴られるミステリアスな愛の物語。その行方も気になりましたが、もっと惹かれたのが、ベルリンの街の成り立ちのこと。ウンディーヌが博物館でベルリンの街の大きな模型を前に、「“ベルリン”は、スラブ語で“沼”や“沼の乾いた場所を意味します。沼地に建てられた人工的な都市です・・・」と解説する場面があります。 思えば、ベルリンの博物館の集まる場所は「博物館島」。川の中州にあるのですが、そもそも沼地だったのかと、もっともっと街の成り立ちを知りたくなりました。
公式サイトの監督インタビューの中に、下記のような言葉があって、ベルリンの街の成り立ちが、この物語を生み出した大きな原動力だったと知りました。


この映画を企画している頃、ベルリン市立博物館に展示されている素晴らしいベルリンの模型を見ました。ベルリンは辺り一帯を排水処理して整地し、沼地に建てられた都市です。そして、神話を持たない人工的で近代的な都市です。かつての貿易都市のように神話を輸入しました。同時に、ベルリンはそれ自身の歴史をどんどん消し去っている都市でもあります。ベルリンの特徴的な要素であった「壁」は、非常に短い期間で取り壊されました。フンボルトフォーラム(「ベルリン王宮」の外観を復元した新しい複合文化施設)もまた過去の略奪なのです。これらの破壊された過去、神話の残骸はウンディーネの物語の一部だと思います。
(公式サイトより引用)


また、本作でもう一つ注目したのが、モニカ役で出演しているマリアム・ザリー。1983年、イラン、テヘランの刑務所生まれ。両親が反体制派で、2歳の時にドイツに亡命。自らの生い立ちやイランの政治について描いた監督作品『Born in Evin』(2019年)が、ドイツ映画賞最優秀ドキュメンタリー賞を受賞。ぜひ観てみたいです。(咲)


第70回ベルリン国際映画祭 銀熊賞(最優秀女優賞)国際映画批評家連盟(FIPRESCI)賞 W受賞

2020年/ドイツ・フランス/ドイツ語/90分/アメリカンビスタ/5.1ch
日本語字幕:吉川美奈子
配給:彩プロ
(c)SCHRAMM FILM / LES FILMS DU LOSANGE / ZDF / ARTE / ARTE France Cinéma 2020
公式サイト:https://undine.ayapro.ne.jp/
★2021年3月26日(金)より、新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開



posted by sakiko at 15:29| Comment(0) | ドイツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年02月27日

DAU.ナターシャ(原題:DAU.Natasha)

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監督・脚本:イリヤ・フルジャノスキー、エカテリーナ・エルテリ
撮影:ユルゲン・ユルゲス
出演:ナターリヤ・ベレジナヤ(ナターシャ)、オリガ・シカバルニャ(オーリャ)、ラジーミル・アジッポ(MGB/KGB調査官、研究所長)、リュック・ビジェ(生化学研究所の科学者)

1952年。ソヴィエト連邦の秘密研究所内のカフェは、秘密実験について話す科学者たちで賑わっている。40代のナターシャと若いオーリャがウェイトレスとして働いている。閉店後二人は片付けをしながらシャンパンを飲んで愛について語りあう。ナターシャは以前恋した既婚男性に未練がある。オーリャはまだ恋愛経験がない。オーリャが自宅で開いたパーティで、ナターシャはフランス人の科学者と親密になる。言葉も通じず、監視下にあるのも知らずに幸せに浸っていた。ソヴィエト国家保安委員会のウラジーミル・アジッポはナターシャを連行し、外国人と寝たことを責めたてる。きつい尋問を受け続けたナターシャは打ちのめされていく。

元は物理学者レフ・ランダウの伝記映画としてスタートしたのが、膨大な予算をかけた例のないプロジェクトに発展。ソビエト連邦時代の記憶を呼び起こすため、当時の社会を完全に再現し40ヶ月に渡って映画撮影を行っています。オーディション人数延べ39万2千人。主要キャスト400人、エキストラ1万人。衣装4万着。欧州市場最大の12000平米のセットで、主要キャストはそこで2年間生活したそうです。ストーリーラインがあって、撮影の前に監督や共演者との話合いもなされたけれども、そのときの感情は本物でその流れの即興演技も生まれているのだとか。施設のいたるところで撮影が行われ、35ミリフィルムで700時間のフッテージから何本もの作品が完成し、これからも増えていくそうです。スタッフもいつ映りこんでもいいように、そのシーンに合った衣裳を着て現場にいたそうです。
ナターシャを始め、キャストの99%はプロの俳優ではなく、実際の彼らを元に1950年代に沿わせて人物を作りました。科学者やKGBも実生活でもそうだということです。
映画を観る際、そういった背景を知らずに作品そのものを観ます。モノクロの映像が美しいですが、秘密研究所で行われているのは非常に不穏な実験であり、どこにでもKGBの監視の目が光っています。この人工的な空間の中で、ナターシャとオーリャが働くカフェだけが温かい空気を醸し出して、二人の喧嘩でさえ血の通った人間らしさを感じます。ナターシャが束の間味わったロマンスや、生きていくために発揮する強さは劇場を出た後も残るでしょう。これが例を見ない撮り方で制作されたということに驚くのはその後。(白)


2020年・第70回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(芸術貢献賞)を受賞。
2019年/ドイツ、ウクライナ、イギリス、ロシア合作/カラー/ロシア語/ビスタ/139分
配給:トランスフォーマー
(C)PHENOMEN FILMS
http://www.transformer.co.jp/m/dau/
★2021年2月27日(土)シアターイメージフォーラム、アップリンク吉祥寺ほか全国公開
posted by shiraishi at 17:32| Comment(0) | ドイツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする